魔王を倒した勇者

大和煮の甘辛炒め

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一章 予兆編

十三話 カルテット騎士団団長イザベラ・バルジャック

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すっかり日の落ちたオーディナリー。

『スタイル・ワン』ではあの魔人の対処についての話し合いが行われていた。

「一連の動乱と関係があるのでしょうか」

ギルドマスターが首をかしげる。

「あのデュラハンは魔王軍の残党だ。恐らくさっきの魔人とは無関係だ」

アスフェンが首を振る。

「そもそも魔王軍の残党がどうしてここ周辺に遠征しているんでしょう。まだアスフェンさんもブリエッタさんも健在ですし……」

包帯でグルグル巻きにされたケラスターゼがアスフェンに尋ねる。

「あの魔人のこと、何か知らないの?」

「俺がこの前倒したクーティとか言う魔人の同士らしい。他は知らん」

「うーん、どうしましょう。自警団でどうこうできる相手ではないし……」

受付が考え込む。

「そういやブリエッタは?」

「あー、あの人は今カルテット王国に向かってます」

「カルテット?なんだってそんなとこに」

カルテットはオーディナリーから程近いところにある小さな王国だ。

「何でも臨時講師らしいですよ」

「この街を守る戦力が一気に減ったぞ」

「大丈夫です。ボルギリッド騎士団とカルテット騎士団に応援を要請しています」

ギルドマスターが胸を張る。

「実績無いくせにコネだけはいっちょまえなんですよ、このおじさん」

受付が呆れたように言う。

「コネも実力のうちだろ。後おじさん言うな」

ギルドマスターが受付をひっぱたく。

「その応援に応えて馳せ参じたぞ」

凛とした声が響く。

全身を鎧に包んだ騎士達がスタイル・ワンに入ってくる。

「久しぶりだな、ギルドマスター、受付ちゃん」

「はい!会いたかったですよー!」

受付が先頭の騎士に飛び付く。

「ふふ、まるで子供だな。おや、ケラスターゼ、ずいぶんひどくやられたようだな」

騎士がケラスターゼの頭を撫でる。

「イザベラさん、お久しぶりです」

ケラスターゼがペコッと頭を下げる。

「ふふ、前に会ったときより可愛くなったみたいだな」

「……!からかわないでください」

ケラスターゼが顔を赤らめる。

「それで」

騎士が兜をとってアスフェンを見る。

艶やかな黒髪と端正な顔だちの女性が露になる。

「挨拶も無しかい、ヴェスレイ」

「……えと、誰だっけ」

「おま、はぁ。カルテット騎士団団長イザベラ・バルジャックだ。思い出したか?」

「……思い出した」

「全く、そんな冗談言うなんてね」

イザベラが呆れたように笑う。

「ボルギリッドのおっさんのとこの騎士団は?」

「死んだよ」

全員に緊張が走る。

「し、死んだ……?」

「使用人から聞いたよ、漏れなく死んだけど」

「皆殺しなんて……」

アリスが拳を握りしめる。

「一体誰が!」

イザベラが首を竦める。

「我々がボルギリッド邸に到着したときには全員死んでいた。その場にあるのは死体の山だけだ」

「使用人はなんと?」

ギルドマスターが尋ねる。

「白、青としか言わなかった」

ケラスターゼが何かに気づいた。

「あのヨアンとか言う魔人の特徴と同じ……!」

アスフェンも頷く。

「そいつで確定だな」

「何だ、お前ら知ってるのか」

イザベラが尋ねる。

「知ってるもなにも、この傷はそいつにつけられたんですよ」

ケラスターゼがぼやく。

「それで、その魔人はどこに行ったんだ?まさか倒したとか言わないよな」

「逃げられたさ、いまボルギリッド邸にいるんじゃないか?」

「あのおっさんの家が魔人のアジトになってるのか。因果応報と言うかなんと言うか」

「今すぐ行ったほうがいいな」

アリスが剣を取る。

「まて、まだケラスターゼの怪我が完治していない。人数が少ないと危険だ」

イザベラが制止する。

「この街には冒険者はたくさんいるわ、それに……」

「有象無象は連れていけないぞ」

「な、」

「相手は魔人よ、そこいらの魔獣じゃ無いの」

「……」

「時間がないのも事実だがな」

アスフェンが立ち上がる。

「あいつはまた来ると言った。今度はこんなもんじゃすまないかもしれない」

アスフェンがケラスターゼを示す。

「……わかった。カルテット騎士団とアスフェン、それに……」

「アリス・サイファーよ」

「アリスがボルギリッド邸にいると推測される魔人を討伐する」

「私も行きます!」

レグルスが勢い良く立ち上がる。

「……命の保証はないぞ」

「わかってます。それでも行きたい」

「好きにしろ、行くぞお前たち!」

イザベラが騎士達を連れて出ていく。

「準備ができたら声をかけろ。殺しに行くぞ」

「おう」

アスフェンが頷く。


⭐⭐⭐

「ムフフ、あの人たち来るのかなー、楽しみだなぁ~!」

ヨアンが死体を弄びながら楽しそうに笑う。


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