魔王を倒した勇者

大和煮の甘辛炒め

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一章 予兆編

九話 勇者との決闘

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辺りが静寂に包まれる。

「あら、聴こえなかったかしら?私は勇者アリス・サイファー、この世に平和をもたらす者よ」

誰も反応しない。

ケラスターゼとレグルスが食いつきそうなものだが、二人も不必要な面倒ごとは嫌いなのである。アスフェンとフュートレックは言うまでもない。

「あれー、こういうのってだいたい『キャー勇者様~!』ってチヤホヤされるもんじゃないの?」

アリスが頬を赤らめる。

「ちょっと張り切りすぎたかな……?」

アスフェンがフュートレックに笑い駆ける。

「世代交代出来てるじゃん」

「冗談じゃ無いわよ」

フュートレックがかなり大きな声で無慈悲に言い放つ。

「この世界の勇者はまだあなただし」

「あ、やめろ」

アスフェンが制するが遅かった。

「んー?そこのおっさんが勇者?お姉さん冗談はいけないよ」

アリスがヘラヘラ笑いながら近付いてくる。

「あ?」

フュートレックがアリスを睨み付ける。

一触即発である。

アリスの目が青く輝く。

「ステータスオープン」

アリスはフムフムと頷く。

『こいつ、なにをやってるんだ?』

アスフェンが混乱する。

フュートレックも同様だ。

「ククク、お姉さんジョブは?」

「……ウィザード」

「その魔力量で?マジシャンじゃなくて?」

フュートレックの額に青筋が浮かぶ。

「私より魔力少ないのにウィザードとか、あり得ないんだけど~!」

アリスがフュートレックをつつく。

「……っ」

フュートレックは無視を決め込んだようだ。

「あれ、怒っちゃった?不甲斐ないね、自分の弱さが」

場の空気は最悪である。

「アイツ、どこかで……」

ケラスターゼが首をかしげる。

「え、あんなのと知り合いなんですか?」

レグルスが驚く。

「あー思い出した。アイツ、アンデラートに入り浸ってたA級冒険者だ。なんでも自分は転生の際に神様から最強のスキルをもらったとか……」

「最強なんて自分で言うもんじゃないでしょ……」

レグルスが呆れる。

一方のアリスはアスフェンを標的にしたようだ。

「このおっさんが勇者ってんなら、私と決闘しましょ?」

「……決闘?お前のような岩の裏に這いつくばっているゴミ虫と俺がか?」

「ゴ、ゴミ虫だと?ふん、私は寛大なんだ、許してやる」

「さっさとやっちゃいなよ、一秒もかからないでしょ?」

フュートレックがアスフェンを急かす。

「やだよ、お前が行けよ」

アスフェンがフュートレックを押す。

「なんで私?こんな奴に魔法使いたくないわよ」

「私もおっさんがいいな」

「「お前は黙ってろ!」」

アスフェンとフュートレックがアリスを睨み付ける。

「おっさん、表出ろよ。淡い幻想打ち砕いてやるからよ」

「……やれやれ、さっさと終わらせよう」



⭐⭐⭐

アスフェンとアリスが対峙する。

「ルールは簡単、相手を屈服させる。ただそれだけ」

アリスが剣を抜く。

アスフェンは素手だ。

『剣すら抜かない……舐められたものね』

アリスがアスフェンを睨む。

レグルスが叫ぶ。

「それでは試合始め!」

アリスが先に仕掛けた。

「はああ!」

刃がアスフェンに迫る。

『遅い、余裕だな』

アスフェンが刃を避けようとした。

そのとき、刃が不自然に加速した。

アスフェンが斬られる。

『なんだ今の……加速した?』

アスフェンが距離をとる。

「フフフ、油断したでしょ?」

アリスがそう言って血に濡れた刃を舐める。

「汚ねぇっ!」

アスフェンが思わず叫ぶ。

「油断するな!」

アリスが加速して距離を一気に縮める。

「敗けを認めなさい!」

アリスが剣を振り下ろす。

「……お前阿呆か」

アスフェンは軽くステップを踏んで身体の中心線をずらした。

「一度使った技は通用せんぞ、魔族には」

アスフェンが拳を突き出す。

アリスの顔が拳に突っ込んでいく。

「うぐあっ!」

アリスがぶっ飛ぶ。

「その剣、なまくらじゃあねぇか」

アスフェンがアリスの握っている剣を指差す。

「毎日の手入れを欠かさずにやらないから最初の一撃で仕留めれなかったんだ」

アリスがアスフェンを睨む。

『なまくら?ふざけるな、オベリスクの一流研ぎ師が研いだ剣だぞ?』

アリスが立ち上がる。

「ゴタゴタうるせぇよ」

アリスが剣をアスフェンに向ける。

剣に魔力が集まる。

「この街ごとお前を消し飛ばしてやらぁ!!」

空気が震える。

「喰らえ!咆哮流星爆砲!」

絶大な威力の魔砲が放たれる瞬間、アスフェンが一気に距離を詰め、アリスの剣をへし折った。

魔力が発散されていく。

「くそっ!あと少しで……!」

目の前にアスフェンの拳が迫る。

その拳はあまりの速さに無数に見える程だ。

「ごめ……」

アスフェンの音をも置き去りにする連打がアリスを、彼女のプライドをボコボコにする。

「お前は俺の街に手を出そうとした。その報いは受けてもらうぜ」

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