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第4幕 The Phantom Thief
4-6 行き着く先は
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「何だ?」
会場から出て来る男女を訝しげに見るホワード。
エドワードはジェームズ、夏目と合流すべく会場内を探し歩いていた。
ところが、会場のあちこちから先程と同じく人々の怒声が響き、決して穏やかと言えるような状況ではなかった。
「大変だ、これじゃ収拾がつかない」
エドワードは心の中で酷く動揺していた。
「僕の判断は正しかったのだろうか。けれど、これ以上騒ぎが大きくなれば……」
と、考え事をしていたところで、
「エドワード」
ジェームズの声が聞こえた。
「兄さん、夏目」
エドワードが血相を欠いた様子で慌てて向かうと、ジェームズと夏目も足早に彼の元へ歩いた。
「場内が妙なことになっている」
ジェームズの言葉に、エドワードは首肯した。
「兄さん、実は……」
エドワードはジェームズに耳打ちをした。
ジェームズは瞠目した。
「確かなんだな」
こちらをまっすぐに見つめるジェームズ。エドワードは目を伏せ、考える仕草を見せたが、やがて頷いた。
「お前の勘を信じよう。私はソールズベリー侯の元へ行く。お前は夏目と一緒にヤードのホワードへ。私個人としては気に食わないが、今回はヤードにも動いてもらう」
夏目は双方の表情をうかがっていた。二人の会話が終了したのを確認すると、彼はエドワードの目を見た。
夏目の視線を感じ取ったエドワードは頷いた。
「僕と一緒に警察へ向かってほしい」
「承知しました」
エドワードと夏目は会場の外へ向かった。
「外に出たら、すぐ辻馬車を拾おう」
扉を開くなり、目の前に立ちはだかる男。お世辞にも人相が良いとは言えないあの男が腕を組み立っていた。
「何だ、お前らか」
「ホワード警部! なぜ、ここへ」
「お前らだけに任せるのはどうも癪でな。信用していないわけではないが、前回のこともあるんでな。気になって様子を見に来た」
エドワードの表情が曇る。
「さっき、一組の男女が会場を後にした。舞踏会はまだ続いているんだろう? 中が騒がしいようだが」
「先程会場を出たのは、伯爵家のノエル卿とご令嬢のミランダさんです。ノエル卿を含め、何人かの貴族が、ある悪戯の被害にあっているようです」
「悪戯だと? 中で何があった」
「失われたはずのレッド・ダイヤモンドが会場内でばら撒かれていました。ノエル卿の場合、何者かがポケットにレッド・ダイヤモンドを忍ばせ、ひょんなことからポケットの外に飛び出した。それが、人々の目に留まったようです」
ようやく事情を知った夏目は仰天の表情を浮かべ、ホワードは声を大きく荒げる。
「だったら、なぜ会場の外に出した? 事情聴取の対象だろう!」
「お、落ち着いてください!」
周囲にいた衛兵や執事たちの視線は一斉にホワードの方へ向いた。
「私は実物を見ていないので何とも言えませんが、ダイヤは本物なのでしょうか? 悪戯だとしたら、ガラスの可能性もある」
夏目の問いに対し、エドワードは頷いた。
「ダイヤモンドとガラスは、息を吹きかければすぐに見分けがつくよ。ダイヤモンドは息を吹きかけるとすぐに透明に戻る。でも、ガラスだとそういうわけにはいかない。ただ、あの場で本物だということが知れ渡れば、会場内は大パニックに陥りかねない。それこそ、犯人の思う壺だ。僕の思う人物が、今回の事件に絡んでいるのだとしたらね」
「『僕の思う人物』だと? おい、分かるように話せ」
エドワードは首を横に振った。
「生憎、まだ証拠が乏しい状態です。それに、ここでは人目に付きます。中の騒ぎは、じきに収まるはずです。兄さんがソールズベリー侯爵に掛け合ってくれています」
「そうか。だったら、アンタの推測で構わない。後で署で聞かせてくれねぇか?」
エドワードは首肯した。
それからほどなくして、再び会場の扉が開く。
「こちらは何とか収束しそうだ」
やれやれといった表情で告げるジェームズに対し、エドワードは安堵の表情を浮かべる。
「ありがとうございます、兄さん」
「しかし、どうやって?」
疑問を呈する夏目。
ジェームズは会場に入るよう夏目に促した。ホワードもエドワードとともに端から様子をうかがう。
会場の中央では、ソールズベリーが緊張した表情を浮かべていた。
「こちらの手違いで予定よりも早く始めてしまった。ここにいる多くは、レッド・ダイヤモンドが盗難されたことは知っているだろう。一日も早く奪還できることを、私を含め皆が心から願っているはずだ。そこで、今夜は宝探しゲームを開催する」
会場内からはどよめきの声が上がるが、ソールズベリーは構わず説明を続けた。
「レッド・ダイヤモンドに見立てた赤いガラスを参加者の何人かに渡してある。諸君にはガラスを持った参加者を探し当ててもらいたい」
これを聞いた人々からは、
「宝探しゲームだったら、最初から言えばいいのに」
「良いじゃない、楽しそうで」
「渡された記憶はないが……」
などの声が上がる。
「ガラスは本人の意図せず入っている場合もある。まずは身辺を探すことからすすめる。見つけた者は、私の前にあるテーブルの上に置いていくように。褒美として、こちらのワインを持ち帰ってもらう」
ソールズベリーは、以前販売中止となった王室のワインボトルを高々と掲げた。
会場内からは拍手が沸き起こり、人々の関心はワインへと移る。
一部始終を見届けたエドワードたちは、ジェームズを会場に残し、扉の外に出た。
だが、その直後、
「警部、大変です!」
若い警察官たちがホワードの前に進み出た。
「どうした? 舞踏会はまだ終わっていないぞ」
「ケリーさんが……」
警官のひとりが声を詰まらせた。
他の警官が代わって説明をする。
「ケリー巡査が調査中の穴に落ち、意識が戻りません」
ホワードの顔色が変わる。
「……あの、バカ――」
「穴は枝分かれしている上にいくつか爆発の痕跡があり、捜査が難航していましたが、うちひとつがイースト・エンドに繋がっていることが分かりました」
「――イースト・エンド?」
エドワードは顎に手を添え、思案を始めた。
会場から出て来る男女を訝しげに見るホワード。
エドワードはジェームズ、夏目と合流すべく会場内を探し歩いていた。
ところが、会場のあちこちから先程と同じく人々の怒声が響き、決して穏やかと言えるような状況ではなかった。
「大変だ、これじゃ収拾がつかない」
エドワードは心の中で酷く動揺していた。
「僕の判断は正しかったのだろうか。けれど、これ以上騒ぎが大きくなれば……」
と、考え事をしていたところで、
「エドワード」
ジェームズの声が聞こえた。
「兄さん、夏目」
エドワードが血相を欠いた様子で慌てて向かうと、ジェームズと夏目も足早に彼の元へ歩いた。
「場内が妙なことになっている」
ジェームズの言葉に、エドワードは首肯した。
「兄さん、実は……」
エドワードはジェームズに耳打ちをした。
ジェームズは瞠目した。
「確かなんだな」
こちらをまっすぐに見つめるジェームズ。エドワードは目を伏せ、考える仕草を見せたが、やがて頷いた。
「お前の勘を信じよう。私はソールズベリー侯の元へ行く。お前は夏目と一緒にヤードのホワードへ。私個人としては気に食わないが、今回はヤードにも動いてもらう」
夏目は双方の表情をうかがっていた。二人の会話が終了したのを確認すると、彼はエドワードの目を見た。
夏目の視線を感じ取ったエドワードは頷いた。
「僕と一緒に警察へ向かってほしい」
「承知しました」
エドワードと夏目は会場の外へ向かった。
「外に出たら、すぐ辻馬車を拾おう」
扉を開くなり、目の前に立ちはだかる男。お世辞にも人相が良いとは言えないあの男が腕を組み立っていた。
「何だ、お前らか」
「ホワード警部! なぜ、ここへ」
「お前らだけに任せるのはどうも癪でな。信用していないわけではないが、前回のこともあるんでな。気になって様子を見に来た」
エドワードの表情が曇る。
「さっき、一組の男女が会場を後にした。舞踏会はまだ続いているんだろう? 中が騒がしいようだが」
「先程会場を出たのは、伯爵家のノエル卿とご令嬢のミランダさんです。ノエル卿を含め、何人かの貴族が、ある悪戯の被害にあっているようです」
「悪戯だと? 中で何があった」
「失われたはずのレッド・ダイヤモンドが会場内でばら撒かれていました。ノエル卿の場合、何者かがポケットにレッド・ダイヤモンドを忍ばせ、ひょんなことからポケットの外に飛び出した。それが、人々の目に留まったようです」
ようやく事情を知った夏目は仰天の表情を浮かべ、ホワードは声を大きく荒げる。
「だったら、なぜ会場の外に出した? 事情聴取の対象だろう!」
「お、落ち着いてください!」
周囲にいた衛兵や執事たちの視線は一斉にホワードの方へ向いた。
「私は実物を見ていないので何とも言えませんが、ダイヤは本物なのでしょうか? 悪戯だとしたら、ガラスの可能性もある」
夏目の問いに対し、エドワードは頷いた。
「ダイヤモンドとガラスは、息を吹きかければすぐに見分けがつくよ。ダイヤモンドは息を吹きかけるとすぐに透明に戻る。でも、ガラスだとそういうわけにはいかない。ただ、あの場で本物だということが知れ渡れば、会場内は大パニックに陥りかねない。それこそ、犯人の思う壺だ。僕の思う人物が、今回の事件に絡んでいるのだとしたらね」
「『僕の思う人物』だと? おい、分かるように話せ」
エドワードは首を横に振った。
「生憎、まだ証拠が乏しい状態です。それに、ここでは人目に付きます。中の騒ぎは、じきに収まるはずです。兄さんがソールズベリー侯爵に掛け合ってくれています」
「そうか。だったら、アンタの推測で構わない。後で署で聞かせてくれねぇか?」
エドワードは首肯した。
それからほどなくして、再び会場の扉が開く。
「こちらは何とか収束しそうだ」
やれやれといった表情で告げるジェームズに対し、エドワードは安堵の表情を浮かべる。
「ありがとうございます、兄さん」
「しかし、どうやって?」
疑問を呈する夏目。
ジェームズは会場に入るよう夏目に促した。ホワードもエドワードとともに端から様子をうかがう。
会場の中央では、ソールズベリーが緊張した表情を浮かべていた。
「こちらの手違いで予定よりも早く始めてしまった。ここにいる多くは、レッド・ダイヤモンドが盗難されたことは知っているだろう。一日も早く奪還できることを、私を含め皆が心から願っているはずだ。そこで、今夜は宝探しゲームを開催する」
会場内からはどよめきの声が上がるが、ソールズベリーは構わず説明を続けた。
「レッド・ダイヤモンドに見立てた赤いガラスを参加者の何人かに渡してある。諸君にはガラスを持った参加者を探し当ててもらいたい」
これを聞いた人々からは、
「宝探しゲームだったら、最初から言えばいいのに」
「良いじゃない、楽しそうで」
「渡された記憶はないが……」
などの声が上がる。
「ガラスは本人の意図せず入っている場合もある。まずは身辺を探すことからすすめる。見つけた者は、私の前にあるテーブルの上に置いていくように。褒美として、こちらのワインを持ち帰ってもらう」
ソールズベリーは、以前販売中止となった王室のワインボトルを高々と掲げた。
会場内からは拍手が沸き起こり、人々の関心はワインへと移る。
一部始終を見届けたエドワードたちは、ジェームズを会場に残し、扉の外に出た。
だが、その直後、
「警部、大変です!」
若い警察官たちがホワードの前に進み出た。
「どうした? 舞踏会はまだ終わっていないぞ」
「ケリーさんが……」
警官のひとりが声を詰まらせた。
他の警官が代わって説明をする。
「ケリー巡査が調査中の穴に落ち、意識が戻りません」
ホワードの顔色が変わる。
「……あの、バカ――」
「穴は枝分かれしている上にいくつか爆発の痕跡があり、捜査が難航していましたが、うちひとつがイースト・エンドに繋がっていることが分かりました」
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