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第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-

第283歩目 ニケ(を)3分(で)クッキング!

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 ふーん。攻めるじゃん(・ω・´*)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 俺とニケさんの密事は終わらない。他がどうと終わらせてはならない。
 男なら危険を顧みず、R-18と分っていても行動しなければならない時がある。
 削除対象にされるかもしれないと分っていても戦わなければならない時があるのだ。

 ということで、ニケさんから「想いを伝えられるのは言葉だけではありませんよね?」と、ベッドに押し倒された俺は困惑の最中にあった。

 まさか、あのニケさんがここまでド直球なアプローチをかけてくるとは思わなかった。

 イメージ的には積極性の塊であるアルテミス様やラズリさん辺りがしてきそうなもので、おしとやかなニケさんなら、願いを口にした後は俺に全てを委ねるタイプだと思っていただけに余計に。

(だが、これはこれで悪くはないな)

 俺はいちゃラブ系が大好きだ。
 好きな人に精一杯尽くしたいし、尽くされたい。そんな甘々な展開に興奮する。
 故にいちゃラブ系であれば、上に『逆レ』が付いたとしても余裕で許容できるのだ。

 そもそも、男が主導しなければならないという価値観はもう古い。
 今は男女平等の時代だ。お姉さんに主導されたっていいじゃないか。
 だって、俺は童貞なんだもの。


 閑話休題。俺の性癖はともかく
 

 馬乗りになっているニケさんの黒髪がハラリと垂れてきた。
 掬い上げるように手に取ると、シャンプーの香りが鼻腔を擽る。
 しっとりさらさらな黒髪は触っていてとても気持ち良い。いつまでも触れていたい気分だ。

 しかし、残念ながらそれは、俺の手からするりと溢れていってしまった。
 その様は流れる水のよう、清流のごとく瑞々しさだ。

(ふッ。認めざるを得ないものだな……自分自身の、洗髪技術の高さというものを)

 ニケさんの髪を───いや、女性陣の髪を洗っているのは俺だ。
 髪は女性の命と言われるだけあって、それはもう毎日丁寧に時間を掛けて洗髪している。
 故に、ニケさんのしっとりさらさらな黒髪は俺の自慢でもある。まぁ、ニケさんに限った話じゃないけどさ?

 それはさておき、今の俺は端から見れば、まるで囚人。
 鉄格子ならぬ『髪』格子の中に放り込まれた罪人そのものだ。
 蜘蛛の糸に絡め取られた憐れな被食者、猛獣の前に差し出された震える小鹿に他ならない。

 いや、実際に罪人なのは間違いないだろう。
 なんたって、ニケさんを泣かせてしまったのだから。それだけで万死に値する。

(ふぅ......許してもらえたとは言え、犯した罪は消えない、か)

 俺は己の罪深さを素直に受け入れ、末期の水とばかりにもう一度ニケさんの黒髪を掬い上げてくんかくんかと一嗅ぎした後、スッと目を閉じ、成り行きに任せることにした。

 さすがの俺でも、この後の展開は読めている。
 大罪を犯したのだ。きっと、ニケさんより神罰が下されるに違いない。
 せめて「痛くしないでね?」と伝えたいところだが、そんな甘えは許されないだろう。

 さぁ! いつでもどうぞ! 
(童貞を捧げる)心の準備は既に出来ていますから!


 ■■■■■


 何も見えないというのは想像力を掻き立てられる。
 どんな神罰が下されるんだろう、と考えるだけでわくわくが止まらない。
 ニケさんの荒い吐息が顔に触れる度、絶妙な心地好さで変な声が出そうになる。
 まるで身体全ての感覚が研ぎ澄まされていっているような気分だ

(ん?)

 しかし、俺が潔く罪を受け入れると決心してからしばらくしても何も起こらない。
 ニケさんが俺に覆い被さっているのは確かなのだが、何かが起こる気配すらない。

(......どうした?)

 俺はうっすらと目を開け、半目状態で今の状況を確認してみた。
 すると、そこには顔を歪にしかめ、唇をギュッと噛み締めているニケさんの姿が───。

(あぁ......なるほど。勢いで押し倒してみたはいいものの、急に恥ずかしくなっちゃったパターンか)

 それはわなわなと震え、まるで羞恥心に堪えるかの如く顔を真っ赤に染め上げている姿からもなんとなく予想できる。これも愛の力というやつだろうか。

 それに、やはりニケさんはニケさんだった。
 俺の思っていた通り、おしとやかで慎ましやかなお姉さんだったようだ。

 まぁ、俺を押し倒してしまったのは、気持ちが昂った故の暴走だったのだろう。
 基本的には冷静沈着なニケさんだが、そういう傾向がちょいちょいあるからな。

 とは言え、「積極的なニケさんも見てみたかったな」と少し残念に思いつつ、俺はニケさんの頬を撫でるように手を添え、優しく語りかけた。

「ニケさん、無理しなくてもいいんですよ?」
「あ、歩様......」
「ニケさんだけが頑張る必要はないんです。俺も一緒ですから、ね?」
「も、申し訳ありません、歩様。ここまで勢いでしてしまっておきながら、この後どうすれば良いのか分からず......予習してきたのにお恥ずかしい限りです」
「......ん?」
「どうされました?」

 恥ずかしいからじゃなかったんかーい! 
 いや、勘違いしていた俺が恥ずかしいわッ!

 ともかく、ニケさんの下界に関する知識の大部分は雑誌の受け売りだ。
 俺は女性誌を読んだことがないので、それがどういうものかはよく分からない。

 ただ、「最近の女性誌は男性誌と遜色ない程に過激な内容が多い」と、会社の同期である有楽山うらやまさんに教えてもらったことがあるので、ニケさんも大いに触発されているに違いない。

 そこから考えると、女性誌に書かれている内容は男性主導型が多いのだろう。
 だから、何をするのかは知っていても、どう始めたら良いのかがわからないのだと思う。
 完璧なマニュアル人間であるニケさんがよく陥りやすい罠だ。

 とりあえず、この後どうすれば良いのか分からないのなら、俺が主導する他はない。

「本当に良いのですね?」
「......はい。歩様のお好きなように」

 全く恥ずかしくない訳ではないようだ。
 俺の問いに、どこか伏し目がちに答えるニケさん。その反応そそるね!

「ニケさん......」
「歩様......」

 ニケさんの了承を取り付けた俺は早速ニケさんの着物を脱がそうと手を掛ける───ような野蛮なことはせず、ニケさんの緊張をほだすべく、引いては逸る気持ちを抑えるべく、軽く唇を重ね合わせた。

『キスから始まり、キスで終わる』

 これこそが、いちゃラブにおける最低限のルールだと俺は思う。
 面倒臭い奴だと思われようが、それだけは決して譲ることのできない最低ラインだ。

 お互いに愛を確認しあったところで、いよいよ料理に入る。

 素材を(───ここではリンゴにしておこう)手に、早々に皮を剥いていく。
 最高級の素材だ。滅多に手に入らない食材である。
 故に慎重に慎重を期して、割れ物を扱うが如く丁寧に剥いていく。

 すると、そこに表れたのは白磁の色をした美しい果肉。

「おぉ!」

 思わず、感嘆の声を漏らしてしまった。

 見慣れたものではあるが、シチュエーションが変わるだけで見映えが全く異なる。
 薄暗い部屋の中でぼんやりと輝くそれは、より一層俺の食欲を増幅させた。

「綺麗ですよ、ニケさん」
「ふふ。お気に召して頂いて何よりです」

 気に入ったどころの話ではない。
 肌はすべすべしていて、黒髪同様いつまでも触れていたい心地好さだ。

 それにしても、この感触、この滑らかさに、この美しさ。ニケさんによる自分磨きの成果もあるだろうが、何よりもここ最近のお風呂効果が功を奏したに違いない。きっとそうだ。うん、間違いないはず。そう考えると、思わずにんまり。

 自画自賛はほどほどに、俺はニケさんと再び軽くキスを交わして料理に戻る。

 剥き剥き、剥き剥き、剥き剥き、剥き剥き。
 まるで玉葱の皮を剥いていく要領で。

 剥き剥き、剥き剥き、剥き剥き、剥き剥き。
 まるでキャベツの葉を一枚一枚剥いていく手際で。

「......」
「......」

 お互いの吐息は混じり合うも、視線が交差することはない。
 俺は一心不乱に料理を行い、ニケさんは恥ずかしさで目を伏せているからだ。

 剥き剥き、剥き剥き、剥き剥き、剥き剥き。
 剥き剥き、剥き剥き、剥き剥き、剥き剥き。

 しばらくして、無事素材を傷付けることもなく皮剥きは終了した。

「ふ、ふくつしい......」
「......あ、歩様、そんなにまじまじと見られると恥ずかしいです」

 そう言って、中身だけはしっかりと隠す辺りはさすが至高の素材。
 そう簡単には屈しない、己は高貴なる素材であるという高い矜持が垣間見える。

(ふへへへへへ。りょ、料理はまだまだこれからなんだなぁ)

 ただ、黄金ばりに輝く果肉の全体像を見て、改めて「なるほどな」と思う。
 アダムとイヴが食した黄金の果実が「実はリンゴだったのではないか」と言われる理由を。
 様々な国や民族に伝承される民話や説話の果実であったり、不老不死の果実だと言われる理由を。

 単に美しいという訳ではない。
 聖なる果実に相応しく、言葉には言い表せないほどの神秘性すら窺える。

 まぁ、それでも敢えて表現するとしたら───。

(こんなん勃起不可避ですわー!!)

 ......こほん、失礼。料理人魂を強く揺さぶられる。
 俺をこの聖なる果実の料理人として選んでくれたことに大いなる感謝を捧げたい。

「大丈夫です。俺に全てお任せください」
「......はい」

 果実全体を露にされて幾分緊張気味のニケさんに再度キスを施す。
 鮮度は重要なファクターだ。逐一、厳しいチェックを要する必要がある。
 あまりにも凝り固まられてしまうと、果実本来の旨味が逃げてしまう恐れがあるからな。

「では、続けます」

 俺は包丁を果肉の中央に当てた。
 ここから一気に両断するつもりだ。

 せっかくの最高級果実である。そのまま丸かじりなど......そういうのも悪くはないと思うが、今回はお互いに初めての料理だ。それはまた別の機会としよう。

「......」

 しかし、ニケさんからは僅かに抵抗を感じた。

 とはいえ、両断出来ないほどではない。
 恐らく、恥ずかしさからくる無意識故の抵抗だろう。

 ただ、恥ずかしかろうが何だろうが、果実をいただく為には必要な処置だ。
 ニケさんには悪いが、我慢できな───いや、ここは一気にいかせてもらおう。

(煩悩は叩き斬らねば理性は保てない......煩・即・斬!)

 俺は半ば強引といった形で包丁を押し込んだ。
 僅かな抵抗を物ともしない力強さでググッと一気に奥へ。

 すると、果実はパカッと半分に割れて、覆い隠されていた中身が露となった。

「おぉ!!」

 たゆんと揺れる聖なる桃肉に、再び感嘆の声が漏れてしまった。
 それと同時に、俺の視線は果実の中央───即ち、色素の濃い部分へと注がれる。

 リンゴという果実は中央に向かえば向かうほどに色素がより濃くなる。
 実際、この聖なる果実もまた外側は白磁色で、中央は別の色合いが濃くなっている。

(お、落ち着けよ、俺。失敗は許されないんだぞ? 逸るな!)

 自然と鼻息が荒くなる。見慣れているつもりだったが、やはりシチュエーションが変わるだけで見映えが大きく異なる。そこから目が離せそうにない。いや、離したくなどない。

 しかし、逸る気持ちを懸命に抑えている俺に更なる追い撃ちがかかる。

「い、いや......」
「なッ!?」

 ニケさんの今にも消え入りそうな声にドクンッと心が大きく跳ねた。

 可愛いなんてもんじゃない。
 嗜虐心が芽生える。裏料理人として覚醒してしまいそうだ。

(嫌よ嫌よも好きの内ってか!? もうたまらんッ!)
 
 俺は貪るように、ニケさんとのキスを繰り返した。
 それでも暴走せずに済んだのは俺が童貞だったからだろう。
 チキンでヘタレな根性が、理性のタガを外させないよう一役買って出たに違いない。

 しかし、いくら童貞だろうと我慢には限界がある。

「ニケさん、その......触ってもいいですか?」
「......」

 無言のまま、こくりと頷いたニケさん。
 俺はそれを確認した後、料理人の顔で『触診』を開始した。

 曰く、一流の料理人ともなれば見ただけで触れただけで、その素材の良し悪しを判断できるという。

 俺はまだ童貞三流の料理人だが、一流の料理人となるべく日々研鑽に励む必要がある。
 それ故に、今回の料理は欠かすことのできない大いなる修業の場とさせてもらうつもりだ。
 なんたって、この俺でも一目見ただけで最高の素材と判断できる代物が目の前にあるのだから。

 早速、外側の聖なる桃肉を下から掬い上げるように持ち上げる。

「......んッ!」
 
 すぐさまピクリッと反応したところを見ると、鮮度は十分と見るべきだろう。
 重量に関してはずっしりというほどではないが、しっかりと感じられるほどにはある。

(あぁ、この手に吸い付くようなもちもち感......気持ちえぇ)

 ニケさんは自らを貧相な身体と評価しているようだが、そんなことはない。
 少なくとも、俺を喜ばせるには十分なほどの魅力を兼ね揃えている。

 さて、外側の触診が終わったとなると、次は中央の部分へと移る必要がある。
 
 色素の濃い部分や先端は料理人の腕が試される最も重要な場所だ。
 この聖なる果実を活かすも殺すも全ては料理人である俺の腕次第となる。

 まずは色素が濃くなっている部分を人差し指で優しくなぞってみる。
 くるくるくると、小さな円形を描くように。

 すると───。

「......んぅ!」

 先程の時よりも明らかに反応が大きい。
 さすがは最も重要な部分だと言われるだけの場所、気が引き締まる思いだ。

(ええんか? ええんか? ここがええんか?)

 それからしばらくは触診を続けた。
 それと言うのも、ニケさんはこの触診をよほどお気に召したようだ。

「はぁ......はぁ......はぁ......歩様ぁ、もっとぉ..................」

 吐息は荒々しく、目がとろんと蕩けている辺りはとても艶かしい。

 俺としても、ニケさんが喜んでくれるのは凄く嬉しい。
 だから、乳り───いや、色素なぞりをしばらくは続けていった。

 だが、焦らし過ぎた結果だろう。

「あ、歩様、その......」

 ニケさんはもじもじと伏し目がちながらも、とても切なそうな表情で俺を見つめてきた。
 恥ずかしくてこの先は言えないけれども察して欲しい、そんな眼差しとともに。

「お任せください」

 俺はそんなニケさんの可愛い要求に応えるべく、軽くキスを交わした。

 何か行動を起こす際には事前にキス。
 細かいことかもしれないが、この気遣いこそがいちゃラブものの基本だと思う。

「んぅ......歩様ぁ、好き」
「......」

 そう、今から俺はある行動を起こす。

 俺とのキスで蕩けた表情を見せているニケさん。
 ぐでんぐでんになって、だらしがない一面を見せているニケさんもまた可愛いものだ。

 俺はその一瞬の隙をつき、色素が最も濃くコリコリと固くなっている先端部分にそれぞれ手を掛け───。

「!?」
「せーの!」

 旨味を一気に搾り出すかのようにギューッときつくつねり上げた。

「んんんんんぅーーーーー!?」

 すると、某バウアーのように見事な曲線を描いたニケさん。
 ビクンビクンと、まるで跳ね返るかのように仰け反っている姿はまさに黄金のシャチホコ

 そして、ニケさんはそのまま───。

「どうでした? 気持ち良かったですか?」
「あ......あ......あ......」

 白々しく声を掛けてみるが、当然ニケさんからの返事はない。

「......(ニチャア)」

 その光景に、俺はある種の興奮を覚えた。
 また、搾った影響でプシャーと果汁が勢いよく溢れ出す様は、俺を大満足させた。

「おーい、ニケさーん?」
「......」
「返事がないな。まるで犯してくださいと言っているようだ」

 本来、相手が失神しているようなら、このまま終了するのがマナーだろう。

 しかし、今の俺は一流の料理人へと覚醒しつつある。
 ニケさんへの気遣いよりも、溢れ出す知的好奇心への欲求が勝っている。

 その結果───。

「据え膳食わぬは男の恥とも言うもんな。これは料理......そう、あくまで料理の一環だ!」

 途中で投げ出すのは料理人の名折れ。
 触診まで行ったのならば、最重要任務である『食診』まで行うべきだ。
 それでこそ一流の職人───特級厨師だって、俺の婆ちゃんが言ってた。まぁ、俺の祖母は普通の人だけどさ?
 
 ということで、お待ちかねの食診を始めよう。

「......(ごくりッ)」

 緊張で息を呑む。

 触診に関してはアテナを始めとして、お風呂で様々な女の子に行ってきた。
 だから、それなりに自信はあったし、多少なりとも手慣れている自覚はある。

 しかし、『食診』に関してはほぼ経験がないと言ってもいい。
 それに近いのは、アルテミス様の汗をぺろりと舐めた時ぐらいだろうか。
 それすらも数えるほどにしか経験がなく、とても『食診』と言えるようなものではない。

「はぁ......はぁ......はぁ......」

 故に、初めての『食診』に緊張する。
 動悸が激しくなり、気のせいか軽い痙攣状態に陥っている気分だ。

 しかし、ここで逃げる訳にはいかない。

「......吸わないとダメだ......吸わないとダメだ......吸わないとダメだ」

 一流の職人と呼ばれている人々は、すべからくこの試練を乗り越えているのだ。
 乗り越えた先に見えるものが、感じるものが、味わえるものがあるという。

 つまり俺も一流の職人たらんとするならば、この試練は乗り越えなければ、打ち勝たなければならない登竜門。今更、気後れなどしている場合ではないのだ。

「俺、食診を終えたら童貞捨てるんだ」

 気合い十分、現実と向き合う。

 激しい料理バトルの影響で、秘密の小部屋がムシムシしている。
 俺もニケさんもじんわりと汗を掻き、聖なる桃肉もテカテカと光っている。それがまた興奮を煽る。

 いまだニケさんが目を覚ます気配はない。アへ顔晒してご満悦な様子。
 それに睡眠姦ならぬ失神姦というのだろうか、この特殊な状況が殊更興奮を誘う。

「......(ごくりッ)」

 ギシリッとベッドの軋む音。
 それは「YOU、いっちゃいなYO!」との合図のようにも聞こえる。

(童貞の神様! 俺に力を!!)

 遂に覚悟を決めた俺は───。

「いただきます」

 失神しているニケさんを前にして食前の挨拶をしていた。

 挨拶を終え、俺はニケさんの聖なる桃肉を掬い上げた。
 主が失神していても、鮮度が落ちることはないらしい。いまだ瑞々しいままだ。

 一方、色素が最も濃い先端部分は主同様微かに痙攣している。
 そればかりか、まるで「搾ってください」と主張するかの如くそそり立っている。

(うーん。先端ここからでも果汁を搾れそうな勢いだな)

 あまり凝り固まってしまうのも果実本来の旨味を逃がしてしまう。
 ここはやはり『食診』で解きほぐす必要性があるだろう。

(ふぅ......料理を始めるとするか)

 キリッとお澄まし、料理人の顔となった俺。
 いよいよ料理すべく先端部分に軽く『食診』を施した。

「......ッ!」

 失神していてもビクンッと仰け反るニケさんの反応は、俺に勇気を与えてくれる。
 料理人としての覚悟を、男としてのプライドを強く後押ししてくれているようだ。

(やはりニケさんは最高の彼女だ! 失神していても俺を支えてくれている!)

 その後、俺は少しの落ち度も見逃さないよう先端部分にしつこく食診を行った。
 むわっと香る汗の臭いと、ほのかに感じるミルクの匂いは格別だ。

(ふーむ。ここまで特に異常なし)

 それを確認できた俺は、第二段階である『口に含んでの食診』を試みようとしたその時───。

「ま、ますたぁ、お楽しみのところごめんなさぁい! 緊急事態ですぅ!」

 またしても、良いところでのサクラの横槍。......お前、いい加減にせえよ!?

「またかよ!? 今度はなんだ!?」
「アテナちゃんとぉ、モリオンちゃんがぁ、いい加減お腹空いたってぇ怒ってますぅ!」
「!!」

 そうだった。ニケさんは朝食の支度が終わったことを伝えに来たんだった。
 それなのに、いつまでもニケさんといちゃコラしていたら、アテナ達が痺れを切らすのは当然だ。

 また、アルテミス様も既に下に降りられていることだろうし、尚更だろう。

「早くしないとぉ、秘密の小部屋ここに突撃してくる雰囲気ですぅ! アルテミス様がぁ、ここの存在をわざとらしく仄めかしてますよぉ!」
「ちょっ!? アルテミス様!?」

 それは確かに緊急事態だ。

 というか、アルテミス様は何してくれちゃってんの!?
 あの女神様ヒト、絶対にこの状況を楽しんでるだろ!?

「ニ、ニケさん! 早く起きてください! 緊急事態ですよ!」
「..................ふふふふふ......歩様ぁ、もっとぉ!」
「もっとじゃなくて! 早く起きて!!」

 こうして、俺の料理人修業はあえなく失敗に終わったのだった。とほほ......。
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