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第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-

第269歩目 ピンクの小符、コーラッ符!

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 前回までのあらすじ

 ニケは私がいないとー、ほんとーにダメだよねー┐(´ー`)┌

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 朝、いつものように目覚めると、俺の体に異変が起きていた。

「い、いたたたたた!?」

 全身がまるで筋肉痛にでもなったかのように体が軋んでいる。
 身体中のあちらこちらが、まるでこむら返りにでもあったかのように痺れているのだ。

「ハァ......ハァ......ハァ......。な、なんだこれは?」

 こんなこと、中学時代にモテたくて無理して筋トレに励んで以来のことだ。
 まぁ、その努力が実ることはなかったんだけどさ? 結構頑張ったのにな、俺。
 ともあれ、今となっては良い思い出さ。HAHAHA。うぅ、目から汗が......。

 ただ、この痛みは───色々な意味で、あの時とは比較にならないほどの激痛だと言ってもいいだろう。

「んぅ......歩、うるさーい......(^-ω-^)」

 当然、大声でのたうち回っていれば同室者が起きないはずがない。
 いや、俺に無理矢理起こされたと言っても過言ではないだろう。
 なんたって、アテナは最高の抱き枕だからな。運命を共にしたという訳だ。

「......主? 朝っぱらからうるさいのじゃ」
「......すぅ......すぅ......すぅ」
「バカトカゲ! 起きんか!」
「ふぎゃ!?」

 続いて、ドールと(ドールに叩き起こされた)モリオンが目を覚ましていく。

 三人とも、まだどこか寝惚け眼なのかぼんやりとしている。
 口を開けばぎゃーぎゃーとうるさい連中だが、寝ている時と寝起きだけは天使のよう。
 い、いたたたたた......痛みのせいで、この状況を愛おしめないのが非常に悔やまれる。

「それで一体何事なのじゃ?」
「お、俺にもよく分からないんだ。起きたら全身が異常に痛くてさ......」
「それは奇っ怪な。というか、主はどこを向いて話しておるのじゃ?」
「す、すまん。だが、勘弁してくれ。少し動くだけでも痛いんだ」

 俺は申し訳なく思いながらも背中越しから返事を返した。
 無理すれば振り向けなくもないが、痛くて痛くてこのままジッとしていたい。

 それに、今日はニケさんとのデートを控えている。
 ついでと言ってはなんだが、アルテミス様の出迎えもある。
 だから、それまでに治るのかどうかは分からないが、なるだけ安静を心掛けたい。

 だが───。

「((Φ∀Φ))」
「ア......ア......お姉ちゃん、どうしたのだ?」
「姉さまときたら......ほどほどにせよ」
「お、お前まさか!?」

 そんな状況の俺を、やつが見逃すはずなどなかった。

「背中越しのチャーンスΨ(`▽´)Ψ」
「いってぇぇぇえええええええええええええええ!」

 言わずと知れた駄女神ことアテナだ。

「Fu! Fu! Fu! ヽ(o・`3・o)ノ」
「や、やめろ! このくそ駄女神!」

 まるで鬼の首でも取ったかのように、俺の背中をツンツンと攻め続けるアテナ。
 気分は国民的アイドル、三人組ユニット結成だと言わんばかりにノリノリである。

「お姉ちゃん、楽しそうなのだ。我も一緒にしたいのだ......」
「やっちゃえー、やっちゃえー! あーははははは( ´∀` )」

 そればかりか、俺が動けないことをいいことに純真無垢なモリオンすら扇動する始末。

「Fu! Fu! Fu! ヽ(o・`3・o)ノ」
「Fu! Fu! Fu! なのだー!」
「い、いたたたたたたたたたた!」

 ツンツン、ツンツンと縦横無尽に襲いくる魔の手。
 容赦は不要とばかりに無慈悲に繰り広げられる犯行の数々。

「Fu! Fu! Fu! Fu! Fu! Fu! ヽ(o・`3・o)ノ」
「Fu! Fu! Fu! Fu! Fu! Fu! なのだー!」

 本人らは至って遊び感覚なのだろう。
 事実、俺が痛がれば痛がるほどその様が面白いのか、ツンツンは一層激しくなっていく。

 そこには女神とお姫様の面影など全くない。
 あるのは、ただただ犯行を面白おかしく行う犯罪者こどもの姿だけだ。

「さ、さっきから痛いって言ってんだろ! やめろ!!」

 こうなってしまうと、御仏と心を通わせた仏の歩さんもさすがに我慢の限界だった。
 仏の顔も三度までというが、三度も我慢できるほど悟りを開けてはいなかった。

 だから───。

「ハァ......ハァ......ハァ......。お、お前らがそうくるなら朝飯抜きな!」
「えー!? Σ(・ω・*ノ)ノ」
「ア、アユム! それだけは嫌なのだ!」
「ダメだ! ご飯抜き!!」
「はぁ......。やれやれなのじゃ」

 こうして、アテナとモリオンには仏罰が下ることとなった。
 仏様は信心深い信徒には優しいが、愚かな犯徒には厳しいものだ。

 ちなみに朝食抜きとなったモリオンだが、きゅーきゅーと腹を空かせた妹を見かねたドールからこっそりとおかずを貰っていたことはアテナには内緒だ。

「コンちゃん!?Σ(・ω・*ノ)ノ」
「内緒だって言ってんだろ!」


 ■■■■■


 朝食後、リビングにて───。

「成長痛?」
「だねー(・ω・´*)」

 やはり思った通り。昨日の今日で、この原因不明の激痛だ。
 絶対神界に行ったことが原因だろうと思って、アテナに尋ねてみたら案の定だった。

 それにしても、成長痛などというものは聞き慣れない言葉だ。

「ふむ。主の急激な強化がそれじゃな」
「急激な強化? 付き人とウォーキングのランクアップが原因だとでもいうのか?」
「え......(´・ω・`)」
「主よ、それは本気で言うておるのか?」
「......」

 アテナとドールから向けられる白い目が非常に痛い。
 まるで出来の悪い子を見ているような......。
 いや、どこか憐れみの感情も含まれているような気さえ感じる。

「のだ?」

 対して、話を全く理解していないモリオンは小首を傾げるばかり。
 そのつぶらな瞳のなんと天使なことか。ぜひ、このまま純真無垢に育って欲しい。

 それはともかく───。

 いくらなんでも原因となっているものの見当は既についている。
 ついてはいるのだが、認められなかった。いや、認めたくはなかった。

(それじゃ、ポセイドン夫妻の好意が台無しになってしまうのでは?)

 ポセイドン夫妻も決して悪気があってされた訳ではない。
 むしろ、俺とアテナの婚約祝いだと、心から祝福してくださった結果なのだ。
 まぁ、その結果が成長痛という激痛込みなのはあまりにも予想外だったが......HAHAHA。

「何事もだいしょーはつきものだからねー(o゜ω゜o)」
「アテナ?」
「歩は特別といっても所詮は人間だからねー。不自然な成長は体がいじょーをきたすに決まってんじゃーん! とーぜんでしょーΣヾ(´∀`*」
「うぐッ!?」

 二の句が継げない。アテナの言うこと、どれもが至極もっともだからだ。
 喜びのあまり、そういうことにまで考えが至らなかった俺の愚かさが全て悪い。

 ただ、仮にそこまで考えが及んでいたとしても、「じゃあ、お断りします」とは到底言えなかっただろう。そこは辛いところだ。

「何はともあれ、強化されたのは事実。嬉しい悲鳴には違いあるまい」
「そんなあっさりと流すな。本当に辛いんだぞ?」
「ふんッ! 肉体的苦痛がなんだと言うのじゃ? ものの数ではないわ! それよりも、辛い痛いばかり言うておらんで、回復魔法をさっさと掛けたらどうじゃ?」
「お、おぅ......」

 うーん、厳しいッ! 

 ドールさんはどこまでいってもリアリスト。
 厳しい上に優しさを一切感じさせないところがとても素敵こわいです。
 まだまだ現役の金玉がヒュッと縮み上がる思いだ。

「ヒール!」

 俺は言われるがまま、早速ヒールを掛けてみるも痛みが収まる気配は全くなし。
 それどころか、ヒールを掛ける為に動いた影響で、体がギシギシと悲鳴を上げた。

「いたたたたた!?」
「ふむ。予想通りじゃな。主、ご苦労」
「お、おま!?」

 ドールさんの無慈悲な宣告に恐怖。

 あの、俺の体を使っての実験とか止めてもらえませんかね!?
 少しは思い遣って! 主人に忠実だというなら、もう少し思い遣って!!

「成長痛は状態異常じゃないしねー(・ω・´*)」
「そういうことは早く言って!?」
「すこーし考えればわかるでしょー! 歩はバカだねー! あーははははは( ´∀` )」

 とはいえ、俺も「こうなるだろうな」とは薄々感じてはいた。

 回復魔法はあくまで毒や麻痺、ケガなどの状態異常を治す魔法だ。
 主に風邪などの病気を併せて治せるほどの万能な魔法では決してない。

 そういう観点からすれば、成長痛はどちらかというと病気寄りだとは思っていた。
 事実、その通りの結果となったので痛いことは痛いがショックは少ない。辛いけどさ?

 ちなみに、状態異常と病気の線引きは非常に曖昧な点が多い。
 ただ『回復魔法で治れば状態異常、治らなければ病気』というのが一つの基準となる。
 こういういい加減なところは、「いかにもアテナが管理する世界だな」と思わされる。

(しかし、これは困ったな......)

 ニケさん達を迎えに行く時間までにはまだ少しの猶予がある。
 だからと言って、それまでに成長痛が治まる保証はどこにもない。
 いや、むしろ、治まらない可能性のほうが高いかもしれない。

(最悪、迎えはアテナ達だけで行かせるか?......いや、それはダメだ)

 心配でしかない。騒動を起こしかねない。
 そうなると、せっかくのデートが台無しだ。
 下手したら、アルテミス様のご機嫌も損ねてしまう恐れが......。

「ここは......緊急事態宣言でも発令するか?」
「やーだよー! 私は遊びにいくからねー( ´∀` )」
「控えろって言われているだろ!」
「主と姉さまは何の話をしておるのじゃ?」

 ドールさん、わざわざ突っ込みありがとう!

 そして、良い子のみんなは行政の指示にはしっかりと従おうな!
 歩きのお兄さんとの約束だぞ?

 と、注意換気を促したところで本題に戻ろう。


「本当に仕方がない主だのぅ」
「ドール?」

 俺が途方に暮れていると、ドールが自分の懐を何やらまさぐり始めた。
 そして、そこから取り出されたのは一枚の紙。

 それを───。

「これでも貼っておれ」
「いってぇぇええええええええ!」
「これしきのこと。主はいちいち大袈裟なのじゃ」

 背中をバシンと叩かれた痛みが体を襲う。
 涙ものだ。ドールさんの非情さに泣けてくる。

「お、お前な! 本当に痛いんだから止めてくれ......って、おぉ!?」

 なんというか、とても心地好い。
 全身の痛みをじんわりと和らげるような温かさが体を包み込んでくる。
 凝り固まった体を、まるでマッサージチェアでほぐされているようなそんな感じ。

「うあー。気持ちえー。ドール、これは?」
「『サロンパ符』。凝りや痛みを和らげる鎮痛符じゃ」
「サロンパ符!? なに、そのサロンパス擬きは!?」
「よくぞ聞いてくれた。護符の研究過程で偶然出来た代物なのじゃ」
「誰も『サロンパ符』の説明を尋ねてはいないんだけど!?」

 しかし、これはとても助かる。効能は抜群だと言ってもいいだろう。
 プチプチを一つ一つ潰していくように、じんわりと痛みが和らいでいく。

(それにしても、いつの間にこんなものを?)

 元々、ドールは好奇心が旺盛というか、研究肌なところがあったのだろう。
 食事と寝る時以外は基本的に自室に引き籠っていることがとても多い。
 まぁ、そもそもの原因はカルディア王国中に充満している酒気によるものなのだが。

 それでも、時折研究に夢中になり過ぎて寝食を忘れる傾向がある。
 あまりにも根を詰めすぎて、せっかくのもっふもふがバッサバサになるほどだ。

(とりあえず、好きなこと、やりたいことを自由にやれるようになったのは大いに結構なんだけど)

 ただ、アテナはドールが構ってくれない不満で大きな胸を、モリオンはドールと一緒に遊べない不満でぺったんこな胸を痛めていることを、ドールはよくよくしっかりと反省してほしい。

「妾も大変重用しておる」
「重用してないで、少しは反省しろよ!?」
「断る!」
「断んな!」

 こいつ、ダメな子だ。好きな事や目標に向かって、猫まっしぐらなのだろう。
 いや、ドールは狐だし、狐まっしぐらか? 仮に、ドールがそうなったらと思うと......。

(あのリアリストなドールが......ちょっとかわいいかも。うぷぷぷぷぷ)

 その姿を想像するだけでも笑いが込み上げてくる。
 あまりの愛らしさに、多数の企業からCM依頼が殺到してきそうだ。

 と、冗談はさておき、どうやら事態は笑ってもいられないようだった。

「他にもの、騎士団の女子おなご共に非常に人気のある『コーラッ符』に、解熱剤の『バ符リン』、トカゲの為には『ア符ロン』なんかも作成済みなのじゃ」
「お前は一体何を目指しているんだよ!? というか、反省しろって!」

 色々と酷いドールさんでした。
 ただ、サロンパ符のおかげで成長痛は無事治まることとなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

 今日のひとこま

 ~偶然の産物なのじゃ!(意味深)~

「なに、ドールは医者でも目指すのか?」
「言うたであろう? 『サロンパ符』などは偶然の産物であると」
「それは聞いたが、ドールは頭も良いしな」
「む? それほどでもあるのじゃ」

「認めた、だと!?」
「くふふ。もっと誉めてくれても良いのじゃぞ?」
「はいはい。賢い賢い。それで他にも何かあるのか?」
「そうだのぅ。主の為には胃腸薬である『キャ符ジン』なんかも用意済みじゃ。今夜あたりから必要であろう?」

「相変わらずネーミングは酷いが、ありがとう!」
「後は『眠眠打符』なんかもあるの。これは子作り用じゃな」
「それは違うよね!?」
「ふむ? 間違えた。『符ンケル』がそうじゃな。『眠眠打符』は寝ずの研究に役立てておる」

「寝ろよ!? というか、色々と酷いな!?」
「どれも偶然できた産物なのじゃ。大袈裟に騒ぐでない」
「本当に偶然できた産物なのか? 怪しすぎるぞ?」
「本当は(主が襲ってくれるよう)媚薬を作るつもりだったのだがのぅ。どれもこれも失敗作なのじゃ。故に失敗した過程で出来たのだから偶然であろう?」

 確かに、それならば偶然の産物だ。
 というか、媚薬を作るつもりだったって、なに!?
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