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第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-

第239歩目 お風呂万能説!

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 前回までのあらすじ

 歩の想いとかいいからさー、私をおこしてよー(´・ω・`)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「「「ごめんなさーい」」」

 魔動駆輪内に黄色い声が響き渡る。


 今朝、俺はいつも通りに起きた。
 そして、リビングのテーブルの上に積まれている魔核の山を見て、げんなり。

 そんな時に、サクラより山賊から話があると言われた。
 俺は「なんの話だ?」と不思議に思いつつも、監獄の前に来てみたらこれだった。

「「「本当にごめんなさい、でしたー」」」
「おぉ」

 俺の姿を見つけるなり、監獄の檻の中で謝罪をする山賊達。
 更には、日本人もびっくりするほどのきれいな土下座の姿も見せている。

 そのは、まるでよく訓練された正規の軍隊のようだ。

(......分かってくれたのか? 俺の気持ちがようやく伝わったのか?)

 今、俺の目の前で謝罪の意を示しているのは女山賊だ。
 男山賊のほうは......まぁ、うん。言わずもがなといったところか。

「「「ご迷惑お掛けしましたー」」」
「......」

 何度も何度も一心不乱に謝罪をし続ける女山賊達。

 俺はエスパーでもなければ心理学者でもなんでもない。
 だから、今こうしている女山賊達の真意や本心までは全く分からない。

 しかし、女山賊達の「謝りたい」、「謝罪したい」という思いは、気持ちだけはひしひしと伝わってくる。

───キィィ。

「ま、ますたぁ!? 危ないですよぉ!」
「大丈夫だから」

 サクラが引き止めようとするも、俺はそれを振り切って檻の中へと入る。

 武器にあたるものは何も所有してはいない。
 とは言え、さすがに裸一貫という訳ではないが......。

(仮に何かあったとしても、俺には体術スキルがあるしね)


 さて、ここで檻の中にまで入った理由を説明しようと思う。
 と言うのも、話を聞くだけならば、別に檻の外でも事足りるからだ。

 俺がわざわざ檻の中にまで入った理由───。

 それは女山賊達の謝罪を真摯な気持ちで受け止める為だ。
 竜殺しや彼女らを捕らえた者という上の立場からではなく、一人の人間として。

 これは営業時代に培った技術......というか、心構えでもある。

 勝って驕らずではないが、上の立場であろうと決して驕らず。
 重要なことは相手と同じ目線で、同じ土俵に上がって、とことん腹を割って話す。

 そこには、お互いの熱くまっさらな思いと気持ちがぶつかり合うだけで、肩書きやプライド、威厳なんて異質で無粋なものは存在し得ないし、必要でもなんでもない。

 俺はそう思っている。
 だから、それを実行したに過ぎない。

「ちょっ!? な、なんか丸腰で入ってきちゃったよ!?」
「なんで入ってきたの!? 危ないとか思わないわけ!?」
「何をするつもりか知らないけど......いやー、男らしいわー」
「ねー! さすが私達を捕らえただけのことはあるよねー!」

 しかし、そんな事情を知らない女山賊達は、俺が裸一貫丸腰(......なように見えている)で檻の中にまで入ってくるという、前代未聞で摩訶不思議な行動を見てざわめき出した。

(えっと、驚いている人と感心してる人が半々といったところか?......まずまずかな)

 この様子から見て、まずは成功と判断してもいいだろう。
 お互い、腹を割って話す前段階としては。

(さてと、まずは───)

 俺は女山賊達の好奇な目に晒される中、彼女らと対面する位置にて腰を下ろした。

───ざわざわざわ。
───ざわざわざわ。

「......」

 ただ、座っただけで声は掛けない。
 まだざわついているようなので、彼女らが静かになるのを大人しく待つ。

「「「ね、ねぇ。どうしたらいいの?」」」
「「「寝ている、とかではないんだよね?」」」

「......」

 そんな俺の姿を見て、女山賊達は困惑している。

(本当は俺から声を掛けてあげたほうが、彼女らも気が楽なんだろうなぁ)

 別に威厳を振りかざしている訳でも、意地悪をしている訳でもなんでもない。
 それでも、「こちら側には余裕があるんだ!」という姿を見せておくことは重要だ。

 相手の意表を突くばかりでは侮られる。
 ドシンと真っ正面から堂々と構える、構えられる姿よゆうも見せておかなくては。


 沈黙は金なり。
 対話のスタートラインは『お互いの尊敬と静寂』にこそあるのだから。


 ※※※※※


 その後も、俺と女山賊達の『お互いの尊敬と静寂』の高め合いは続いている。
 かと言って、いつまでもこうしている訳にはいかない。

 外面そとづらはドシンと余裕がありそうに構えつつ、内心は「さて、どうしたもんかな?」と困り果てていたら、遂に待望のその時が訪れることに───。

───パンパン。

「あんたら、静かにおしッ!」

 ある一人の女山賊が手を叩き、他の女山賊達を見事に黙らせた。

(おぉ! 見事な手腕だなぁ!)

 そして、彼女はその場に居る大勢の女山賊達よりも少し前に歩み出てくると、そのまま俺と正面から向かい合う位置にて、ドカッと無遠慮かつ無作法に座った。

 それが、まるで山賊流───「これが私達のやり方なんだ」とでも謂わんばかりに。

(俺の前に出てきたってことは......)

 恐らく、大勢居る女山賊達の代表と見るべきだろう。
 他の女山賊達からも、彼女は信頼......というか、一目置かれているようにも見える。

(と言うか、あれ? この女山賊には覚えがあるぞ?)

 そう、彼女の第一印象は大地とともに生きる女性。
 そんな土臭さというか、土の香りを確かに感じさせられる。

 もしかしたら、全体的に茶色いのが、そう思わせる原因かもしれない。

 女性にしては大柄なほうだろう。170cm以上は確実にある。
 ただ、健康的な小麦色の肌とグラマーな肢体はとても魅力的だ。

 髪を雑に後ろで一つに結んでいることからも、相当アグレッシブな印象を受ける。
 見た目通り(......と言うのは失礼なのだろうが)、まるで「外見なんかは気にしていない」とでも謂わんばかりだ。

 そして、なによりも目立つのが左目の傷。
 某緑髪の剣士を思わせるような縦に入った切り傷だ。

「あたいは『インカローズ』という者さ。そうだね......一応、ここに居るこいつらをまとめているよ」

 そう名乗った女山賊───もとい、インカローズが俺をジッと見つめる。

 その姿、まさに威風堂々。今は捕虜の身とは言えど、「決して媚びへつらうような真似はしない」という強い信念を感じる。

 それに、身に纏う雰囲気が鋭利な刃物のように鋭い。
 少し怖いが、半面電気が走ったように盛った犬のように背筋がゾクゾクときて興奮を覚えてしまうしまうのは何故なのか。

(......ごくりッ。このインカローズとかいう女性、他の女山賊達とは段違いだな)

 少しばかり、気を呑まれそうになった。
 さすがは、とある山賊団の元首領だ。

 そう、お尋ね者の山賊団『虎猫の義賊団』の元首領なだけのことはある。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『虎猫の義賊団』

 弱き者を助け、悪しき者達からしか盗みを働かない正真正銘の義賊団。
 世界や時代さえ違えば、一躍ヒーローになれた心優しき(?)集団。
 ただ悲しいかな、この世界はなによりもお金の価値が高い。
 故に、金銀財宝を盗むという行為は最も卑劣で嫌悪される最低の行為となる。
 それは、なにも国家や領主などの権力者からだけではなく、民衆からも......。
 それでも義賊団は弱き者の味方であり続ける。助ける手を止めることはない。
 だから、義賊であろうと犯罪者。冒険者側からも討伐対象となってしまう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あんたの名前を聞いてもいいかい?」
「俺はアユ───いや、竜殺しだ。名前ぐらいは聞いたことがあるだろ?」
「「「ッ!!」」」
「あ、あんたが、あの有名な『竜殺し』かい。いや、どうりで、と言うべきかね」

 女山賊達からは息を呑む音が聞こえてきた。
 虎猫の義賊団元首領のインカローズもさすがに驚いているようだ。

(......ふぅ。どうやら、『竜殺し』こちらで正解だったようだな)

 もう一度言うが、俺は権威を振りかざす気は毛頭ない。
 ただ、「この場合は最も知られている名前を出すべきだ」と判断したに過ぎない。

「竜殺し、まずはあたいらの謝罪を聞いて欲しい。───あんたら、いいかい? せーの!」
「「「竜殺し、ごめんなさーい」」」

 インカローズの合図とともに、再び土下座付きの謝罪をする女山賊達。
 この際、誰もが敬う『竜殺し』を呼び捨てなのは別に良いとしよう。

(そもそも、彼女らは山賊だし?)

 俺も敬称には慣れていないから、別にこれで構わない。
 それになによりも、山賊に敬られるというのも変な話だ。

 と言うか、そんな些細なことよりも気になることがある。

「それはもう分かったから。それよりも、どうして謝罪する気になった?」

 正直、山賊達が反省すること自体、あまり期待してはいなかった。
 特に、毎日のように殺し合いをしている男山賊達の惨状を見ているだけに......。

 ただ、男山賊と女山賊とでは何かが違う。
 それだけは明確に感じていて、結果も出ていたので、非常に気になっていた。

 今、その謎が、答えが、解き明かされようとしている───?

「うーん? 悪いと思ったからだけど? なー、あんたらもそうだろ?」
「「「そうでーす! マイ・首領マム!」」」

「解き明かされないのかよ!?」

 もはや、ツッコミを入れずにはいられない。
 さすがに、そこは解き明かされようよ......これだから山賊はさぁ。

「じゃ、じゃあ、質問を変えるな? どうして悪いと思うようになった?」
「そりゃ、あんた。恩を感じたからに決まっているだろ?」
「恩?......いやいや、恩を感じるようなことは何もしていないけど?」
「カーッ! デキる男ってのは一味違うねー! なー、あんたらもそう思うだろ?」
「「「思いまーす! マイ・首領マム!!」」」

「え......。この人達、本当に何を言っているの?」

 インカローズ始め、女山賊達が何を言っているのか全く理解できない。
 勝手に持ち上げられるほど、気持ちの悪いものはない。

 と言うことで、その恩とやらを詳しく聞いていくことにする。

「まずは食べもんだよ、食べもん。毎日きっちりと出してくれているだろ? しかも、うまいときたもんだ!」
「それ、恩を感じることか? 捕らえた者の最低限の責任だと思うけど?」
「カーッ! デキる男ってのは一味違うねー! なー、あんたらも───」
「いや、それはもういいから」

 別に、この世界は食糧難で悩んでいるという訳ではない。
 奴隷でなければ、食糧などは金さえあれば幾らでも手に入る。

 ましてや、民衆の味方である義賊ともなれば───。

(......あぁ、そうか。この世界では義賊も民衆の敵だったな)

 なるほど。
 悲しい事実だが、妙に納得してしまった。

「それにさ。服だよ、服。こんな清潔で、きれいな服を着れるなんていつ以来か」
「それ、町で普通に売られている安物の服だぞ?」

 元より、魔限監獄を創ってもらった意図は『捕縛した山賊の投獄』だ。

 だから、それを見越して大量の服を事前に用意してはおいた。
 町で、一着数百ルクアで購入できる一番安い服を。

 ちなみに、山賊達が着ていたボロボロで萎びれた服は早々に処分した。
 処分した理由、新しい服を用意した理由は察してもらえると思う。

 当然、「臭いのはダメ! 絶対!!」以上。

「いいんだよ。別に安かろうが。あたいらが元々着ていたものに比べたら十分さ」
「まぁ、そう言われればそうだけど......」
「こういう何気ないことが、あたいら正道を踏み外した人間にとっては嬉しいものなのさ」
「ふーん。そういうものなのか」

 人が、人を、人として扱うことの重要さを改めて感じた。
 とは言え、当たり前のこと過ぎて、いまいちピンとこないが......。

 ハッキリと分かるのは......そうだな、匂いぐらいだろうか。臭くはない!

「あと、一番恩を感じたのは───」
「まだあるのか」
「風呂だよ、風呂!」
「ほほぅ!」

 この時、俺の瞳が妖しく光ったのを気付けた者は誰もいなかった。
 そして、ますます『あの説』が濃厚になってきたのを肌で感じる。

「普通なら一生入れないレベルの風呂を、それこそ貴族共でさえなかなかお目に掛かれないようなものを、あたいら山賊にまで使わせてくれる......。これで恩を感じないような輩は義賊失格さ! なー、あんたらもそう思うだろッ!」

「「「お風呂最高でーす! マイ・首領マム!!」」」

「『お風呂万能説』、きたぁぁぁあああああ!」

 思わず、アテナのお株を奪う「ヽ( ´∀` )ノ」←こんな表情になってしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『お風呂万能説』

 お風呂とは体の汚れを落とすだけのものではない。
 古来より、病気や怪我を癒す為にも入られてきた経歴を持つ。
 それは、心の汚れを落とし、心のケアを務め、心の有り様を見定めるもの。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 また、『部屋の乱れは心の乱れ』という言葉もある。
 つまり、こうとも言い換えることができる。

 体の汚れは心の汚れ、とも。

 そんな汚れを、女山賊達の心の汚れすらも、風呂は全て流してしまったという訳だ。
 当然のことながら、物理的な臭ささもろとも。

(やっぱり、風呂は最高にして最ッ強!)

 そう言えば、『衣食足りて礼節を知る』という言葉がある。
『人は、物質的に不自由がなくなって、初めて礼儀に心を向ける余裕ができてくる』という意味だ。

 この言葉、まさにそういうことなのではないだろうか。
 図らずも、俺はその全てを山賊達に提供していたことになる、という訳だ。

 安物ではあるが清潔な『衣』。
 簡素ではあるがうまい『食』。
 一応、監獄ではあるが『住』。

 そこに『健康』及び『娯楽』、『美容』などの要素てんこ盛りのお風呂。

 これで、礼儀に心を向ける余裕が出てこない者が居るだろうか。
 これで、恩を感じない不届きな義賊が居るだろうか。
「いや、居ない!」ということを、インカローズ及び女山賊達は言いたいようだ。

「うぅ......。ありがとう! 本当にありがとう!」
「それ、あたいらの言葉なんだけど!?」

 インカローズ達が驚く中、俺はほろりと涙をこぼしてしまった。
 ようやく気持ちが伝わったことに、満足がいく結果が出たことに、感動せずにはいられなかった。

(俺の考えは......。俺の行動は......。無駄ではなかった!)

 例え世界が異なろうとも想いは通じる。
 お風呂さえあれば想いを通すことができる。

 それが、今ここに証明されたことになる。

「分かった。みんなの謝罪を受け入れよう」
「ありがとう、竜殺し。これであたいの肩の荷も下りた気がするよ。ほら、あんたらも礼を言いなッ!」
「「「竜殺し、本当にありがとう!」」」
「いやいや。こちらこそありがとう」

 うん。気持ちが通じ合うって素晴らしいね。
 いくら相手が山賊とは言え、感謝されると嬉しいし、少しは情が沸いてくる。

「(ゲルゴナまでの)短い間だけど、これまで通りしっかりと面倒は見るから安心してくれ」
「あー、そのことなんだけどさ......」
「ん?」

 とても不思議で信じられないような光景が、いま目の前にある。

 あの(......いや。あの、と言ったら失礼か?)、遠慮なくなんでもズケズケと言いそうなインカローズが、今はもじもじとした様子で、何かを言いにくそうな姿を見せている。

 きっと無意識だろう。
 右手で地面に『の』の字を書いている姿など、思わずキュンときてしまった。

(意外とかわいいところもあるじゃないか、インカローズさんよぉ!)

 乙女なインカローズをずっと見ていたい気持ちはある。
 しかし、朝は何かと忙しいので、そういう訳にもいかない。

 俺は惜しむ気持ちを振り切って、雑念を払うかの如く自ら声を掛けることに───。

「どうした?」
「あのさ、ここからが話の本題なんだよ」
「え? 話って、謝罪のことじゃなかったのか?」
「それもそう。だけど、本当に話したい内容はここからなのさ」

(謝罪以外に、何を......?)


 インカローズ始め、女山賊達が本当に話したいこととはなんなのか。
 この後、再び悩まされることになろうとは、この時の俺は知る由もなかった。
 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

 今日のひとこま

 ~続・お風呂万能説~

「だからー、温泉創って正解だったでしょー(。´・ω・)?」
「そうだな。それについては同意せざるを得ない」
「でしょー! お風呂の可能性は無限大だからねー( ´∀` )」
「無限大ときたか......例えば?」

「争い事や悩み事とかはねー、ぜーんぶ解決できちゃうんだよー(o゜ω゜o)」
「それはさすがに言い過ぎでは?」
「そんなことないよー? 夫婦喧嘩してる人達もー、お風呂に放り込めばよゆーよゆーヽ(o・`3・o)ノ」
「いやいや。それは無理があり......過ぎでもないな?」

 喧嘩で一番良くないことは顔を合わせないことだと聞いたことがある。
 そういう意味では、アテナの言っていることもあながち間違いではないかも?

「地球もねー、会議とかバカなことしてないでー、みーんなお風呂に放り込めば世界平和なんて簡単なんだよねー(・ω・´*)」
「ファ!? マジで!?」
「お風呂の可能性は無限大だからねー( ´∀` )」
「凄いな、お風呂。......あれ? でも、風呂嫌いの場合はどうなるんだ?」

「そんな人いないでしょー、歩はさー┐(´ー`)┌」
「いや、居るだろ。俺は好きだけどさ」
「え......。それ生物なのー?r(・ω・`;)」
「人ですらなくなるのかよ!?」
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