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第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
第231歩目 狂飆のハロウィン!
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必要なのは『情報』と『個武』だよー(`・ω・´)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うーん」
「どーしたのー(。´・ω・)?」
俺は今、ある物を握り締めながら非常に悩んでいる。
魔物の大軍を相手に、アテナ曰く【マテパ】を撃ち込むことは決定した。
ある物も用意したことだし、いつでも【マテパ】を撃ち込むことができる。
問題は【マテパ】を撃ち込んだ後をどうするか、だ。
まず間違いなく、俺はその場でぶっ倒れることだろう。
「んー? それの何が問題なのー(。´・ω・)?」
「誰に介抱を頼もうか悩んでいるんだよ」
候補としては第一にアテナ。
第二は俺のフォロー役として側に待機している『紅蓮の蒼き戦斧』のメンバーとなる。
正直、どちらも一長一短あって決め手に欠けている。
「私がしてあげるよー( ´∀` )」
「だから悩んでいるんだよなぁ」
「なんでー!? Σ(・ω・*ノ)ノ」
俺が悩んでいるのは、アテナが介抱してくれるかどうかについてではない。
いくらへっぽこ駄女神であろうと、介抱ぐらいはしてくれるだろう。
では、何に悩んでいるかというと───。
「じゃあ聞くが、どうやって介抱するつもりだ?」
「ちゅーしてあげるー(〃ω〃)」
「......」
だから悩んでいる。
介抱してくれるのは助かるが、ちゅーだけは勘弁してほしい。
そもそも、アテナとちゅーすること自体がナンセンスだ。
それに、最も大きい理由としては───。
ニケさんのことだから、今も神界から成り行きを見守っているに違いないだろう。
だとしたら、これ以上余計な心配を掛けたくない。これに尽きる。
以前、アテナに俺のファーストキスを取られてしまったと嘆いていたニケさんだけに......。
「カクタスさーん、すいません」
「ぶー。私がやってあげるのにー(´-ε -`)」
「やらんでいいわッ!」
結局、多少の不安を抱きつつも、『紅蓮の蒼き戦斧』のリーダーであるカクタスさんにぶっ倒れた後の俺の介抱を頼むことにした。
事情を話して、残り3個の内の1個である魔力回復薬をカクタスさんに渡す。
「分かりました。竜殺し様、ご武運を」
「まぁ、見ててください」
これで全ての準備が整った。
後は魔物の大軍を相手に【マテパ】をぶっ放すだけの簡単なお仕事のみだ。
※※※※※
大森林より続々と出でる魔物の大軍。
3方向より開始された容赦なき侵攻だが、城壁の上からなら手に取るように分かる。
「......」
「......」
「......(ごくッ)」
そんな容赦なき侵攻を開始している魔物の大軍を前に、城壁の上で悠然と待ち構える俺を静かに見上げ、そして固唾を呑んで見守る冒険者達。
5万の大軍という報告を聞いても、城壁を前に陣取っている冒険者達の士気は決して衰えてなどいない。
そればかりか、内にある闘士を静かに滾らせ、逸る気持ちを懸命に抑えているようにさえ見える。
(この辺りは俺よりも戦い慣れしているといった感じか。さすがだなぁ)
経験の差をまざまざと見せられた俺は、感心しながらも魔物の侵攻を静かに待つ。
静寂が辺りを支配し、誰かが息を呑む音だけがどこからともかく聞こえてくる。
実は【マテパ】もとい、魔法を撃ち込むタイミングは決まっている。
「全軍出てくるまで待つんだよー(・ω・´*)」
「お、おぅ。それはそうと、ちゃんと全軍出てくるんだろうな?」
「絶対出てくるねー( ´∀` )」
全く緊張感のない軍師、曰く。
最近、敵側に指揮官がついたこと。
今回に限って、いつもよりも魔物の数が多く投入されていること。
そして、3方向より同時侵攻というのが、敵の本気度を表しているらしい。
「多分ねー、今まで(の侵攻)は練兵でもしてたんじゃないのー(。´・ω・)?」
「魔物のくせに練兵!?」
だが、アテナの予想はあながち間違ってはいないのかもしれない。
今まではAランクの冒険者で対応できていたものが、魔物側に指揮官がついて以降はSランクの冒険者ですら手を焼く有り様だとモートマ伯爵は言っていた。
これが指揮官の能力だけではなく、練兵による結果だとしたら......。
魔物は無秩序で力任せに襲ってくるからこそ御し易い存在なのだ。
それが、統制され質も向上したとなると......これは由々しき事態である。
「だからー、今回で全軍叩くんだよー! 後顧の憂いを絶っておくのー(`・ω・´)」
「そう......だな。いつまでも、ここに留まってはいられないしな」
「だねー! フロッグ饅頭また食べるんだー(*´μ`*)」
「まだ食べるのかよ......」
なんだか気が抜けて、張り詰めていた緊張の糸が切れてしまった。
だが、ちょうどいい塩梅に落ち着くことはできた。
(この魔法で全てを終わらせるッ!)
俺の持つ数ある魔法の中でも、撃ち込む魔法は既に決まっている。
出し惜しみは一切しない!
最初から全力全開で一気に蹴りをつける!!
あわよくば、「敵の指揮官も一掃できたらいいなぁ」との微かな期待も込めて......。
そして、遂に───。
「軍列が途切れたねー(o゜ω゜o)」
「アテナの言った通りか」
「歩ー! どどーんといっちゃえーo(≧∇≦)o」
「みんな吹っ飛べやぁぁあああ! ヴィントハリケーン!!」
俺は某魔法少女の飼い猫の口癖みたいに「時は来た!」とばかりにカッと目を見開き、開戦の狼煙となる【マテパ】こと【レベル4の極大魔法】を魔物の大軍に向かって解き放った。
すると、魔物の大軍のど真ん中に姿を現した巨大な竜巻。
───ゴォォオオオ!
───ガリガリガリ!
まるで死に行く魔物の断末魔のような、耳をつんざくけたたましい轟音。
まるで巨大なスプーンでもって大地を抉り取っていくかのような凄まじい威力。
まさに極大魔法の名に相応しい荒ぶる狂飆だ。
「す、すげぇ。あれがレベル4の魔法の威力か......」
「さ、さすがは竜殺し様だな......」
「ま、まさに奇跡......これは奇跡だ! 神が与えし奇跡の力だ!!」
その荒ぶる狂飆の光景を見て、驚き声を失う者や歓声をあげる冒険者達。
どうやら、ここにもまた一つ荒ぶる狂飆が誕生してしまったようだ。
───ゴォォオオオ!
───ガリガリガリ!
そして、その荒ぶる狂飆は、今まさに魔物の大軍を地獄へと誘う死風へと姿を変えていく。
「み、見ろよ! 赤い雨だぜ!」
「な、なんというか不気味な光景だな......」
「ま、まぁ、元が魔物の死体じゃなぁ......」
巨大な竜巻に吸い寄せられ、取り込まれては切り刻まれていく魔物の大軍。
バラバラに切り刻まれた魔物の死骸は、やがて竜巻の中から上空へと噴出され、最後はまるでポイ捨てされるかのように地面へと叩きつけられていく。
その光景は誰が叫んだか、まるで天より降り注ぐ赤い雨のようである。
ここに、魔物の大軍は一気にその姿を消すこととなった。
「「「「「竜殺し! 竜殺し! 竜殺し! 竜殺し! 竜殺し!」」」」」
「「「「「バンザイ! バンザイ! バンザイ! バンザイ!」」」」」
「「「「「おおおおお! 俺達の勝利だぁぁあああ! おおおおお!」」」」」
「......」
勝利に沸き上がる冒険者達。
一方、身の丈に合わない極大魔法を放って意識が混濁としている俺。
そのまま、俺は暗い混沌とした世界に意識を奪われた。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「うぅ......ハッ!」
どれぐらいの間、意識を失っていたのだろう。
意識を失う前の記憶は曖昧で、体にも若干の気怠さを感じる。
それでも、介抱のおかげか、魔力欠損による疲労はすっかりと回復しているようだ。
───ぷに。
ただ、なんだか柔らかい感触に包まれて気持ちよく目覚めたような......って、んん!?
「んむ!?」
「んー(人´3`)」
恐ろしくかわいい顔が眼の前に!!
(強制的に)触れ合う、ぷるぷるな唇とカサカサな唇。
(強制的に)混じり合う、求め激しく動く舌と驚き戸惑い動く舌。
(強制的に)交換される、甘いシロップのような唾液と無味だと信じたい唾液。
「......ぷはッ!? お、おま!?」
「にへへー! ごちそーさまー(*´∀`*)」
「ごちそーさまー(*´∀`*)じゃねぇよ! なにしてくれちゃってんの!?」
頬を桃色に淡く染め上げ、ペロリと妖しく唇を舐めたアテナはひどくご満悦な様子。
というか、このくそ駄女神、あろうことか俺にキスしていやがった!
しかも、彼女であるニケさんとすらまだしていない、濃厚なディープキスを!!
「なにってー、ちゅーだけどー(。´・ω・)?」
「ふ、ふざけんなッ! なんでキスしてんだよ!!」
「介抱してたに決まってんじゃーん( ´∀` )」
「カクタスさん!?」
「......」
俺の訴え、問い詰めるような眼差しに、そっぽを向くカクタスさん。
恐れていた事態が───。
いや、危惧していたことが起こってしまった。
戦略級魔法【マテパ】発動前、アテナは俺を介抱する気満々でいた。
だから、こうなることを予想して、カクタスさんに介抱を頼んだ訳なのだが......。
「竜殺し様、申し訳ありません。アテナちゃんがどうしても自分でやるというものですから......」
「とーぜーん! 歩は私のこと大好きだからねー! 頑張ってくれたごほーびだよー(〃ω〃)」
「......」
やはり、いつもの「おねがーい( ´∀` )」を使っていたらしい。
アテナの「おねがーい( ´∀` )」は世界級魔法に等しい。
一度お願いされれば、俺以外の人ではまず断ることはできないだろう。特に男は。
(このくそ駄女神がッ! カクタスさんに介抱を頼んだ意味がないだろ!! それとニケさん、本当にすいません。一度ならず二度までもキスされてしまうとは......)
俺は心の中で謝罪しつつも、アテナへの怒りを治めることにした。
今はそんなことをしている場合ではない。やるべきことは他にある。
「(魔物は)ど、どうなった!?」
「魔物は全滅、ううんー、消滅したねー(o゜ω゜o)」
「消滅はしてないよね!?」
ざっと見渡した限り、魔物の大軍を蹴散らすことには成功したようだ。
たが、その犠牲はあまりにも大きかった。
「う、うわー。これは......」
「盛大にやったねー(o゜ω゜o)」
そこには狂飆によって抉られ、巨大な爪痕を残した荒れた大地。
先ほどまでは鬱蒼と繁っていた森林が、今は自然破壊もなんのそのと悲惨な状況に。
そして、大地一面には、魔物の死骸が無惨な姿を晒して死屍累々と横たわっていた。
「うぷッ!!」
「歩!? Σ(・ω・*ノ)ノ」
想像以上だ。
まさに地獄絵図と言ってもいい。
それに、これだけの死骸の数ともなると、その死臭だけで吐き気を催しそうになる。
(こ、これを俺がやったんだよな......?)
防衛という仕方がない目的の為とはいえ、あまりにも衝撃的な光景だった。
これが俺の初めての大戦だ。
思い出したくない、二度と経験したくもない大戦。
後に、勇者がもたらした奇跡の勝利とも謳われるこの大戦は『狂飆のハロウィン』と、そう語り継がれていくことになる。
これは後世において人類史の転換点と評されている。
軍事史の転換点であり、歴史の転換点とも見做されている。
『数』と『個武』に対する、『戦い』の優劣を決定づけた事件であり、『個武』こそが勝敗を決する力だと、明らかにした出来事。
「grillett○いってみよーo(≧∇≦)o」
「やかましいわッ!」
俺という人間の、栄光と苦難の歴史の、真の始まりの日である。
「もう、さっさと帰りたい......」
「それ、フラグだねー(・ω・´*)」
「し、しまった!」
時、既に遅し。
アテナの言葉を切っ掛けに、ムッシュさんから一つのメッセージが届く。
〈〈敵の指揮官らしき魔物を発見! 竜殺しは至急向かわれたし!!〉〉
「げげ!? レベル4の魔法を喰らってなお生き残ったのかよ!?」
「他の魔物を盾にしたとかー(。´・ω・)?」
「あー、ボス猿もそうしてたもんなー......しゃーない、いくか」
「はーい( ´∀` )」
この戦いも、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。
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