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第6章 力を求めて -再臨ニケ編-

閑話 変わりゆく人々!②

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 前回までのあらすじ

 アニマールのちゅんちゃん、再び登場!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

□□□□ ~ある先輩兵士のすゝめ~ □□□□

 その後、ちゅんちゃんは接客できそうにない状態だと判断されて、店の奥に連れられていってしまった。
 事のあらましはがしてくれたようだ。

 そうそう。当然、支配人にかなりきつく注意されたことは言うまでもないだろう。
 それでも、俺が店から追い出されずに済んだのは、偏に常連であるB先輩のおかげだ。

「......と言うか、B先輩。ここの常連だったんですね」
「まぁな。俺が数ヵ月前、女神の村を調査に行っていたことは知っているだろ?」
「えぇ、もちろんです」
「そこでな、俺はアテナ教に入信することにしたんだよ」
「えぇ!? マ、マジですか!?」
「マジマジ。それで、ここに通うようになったんだ」
「?」
 
 B先輩の言っている意味がよく分からない。
 アテナ教に入信することが、どうして獣人バーに通うことに繋がるのだろうか。

 いや。そもそもの話、なぜアテナ教に入信しようと思ったのか......。

「それはお前、獣人がかわいいからだよ」
「ますます意味が分からないんですが?」
「俺はな、女神の村を訪れて価値観を大きく変えたよ。あの村で奇跡を見たんだ」
「奇跡を......?」

 女神の村とは元は奴隷の村と命名されていた開拓村のことだ。
 元の名の通り、住人のほとんどが奴隷であって、ひたすら国土拡張という名の開拓を日々させられていたらしい。

 そんな奴隷の村は、ある一人の少女が訪れたことを切っ掛けに劇的な変化を遂げることになる。

 その少女の名は『アテナ』。

 竜殺し様と同じ異世界からの勇者様だとか、はたまた竜殺し様の彼女説や子供説、奴隷説など、様々な憶測が飛び交っているミステリアスな絶世の美少女のことである。

 俺も遠くから見たことはあるが、驚く程かわいかったことだけは記憶にある。

「アテナ教の総本山と言われているのが女神の村だけどな。実際に女神様(=アテナ)がどうしてそこまで崇め奉られているのか、女神様として何をしたのかまではあまり知られてはいないだろ?」

 B先輩の言う通り、アテナ教は謎に包まれている部分が非常に多い。

 実際に分かっていることとしては、

 ①アテナ教の総本山は女神の村であること。
 ②アテナという少女が女神として崇め奉られていること。
 ③信徒は爆発的な勢いで増えており、もはや国でさえも無視できない勢力であること。

 ぐらいなもので、とにかく信仰心がヤバい集団であるという認識しかない。

 だから、女神として崇め奉られているアテナという少女が、どんなことをしたのかはあまり知られてはいない。どうしてそこまで崇拝されているのかは謎に包まれているのだ。

 しかし、B先輩はそれを奇跡の所業だと言った。
 では、その奇跡の所業とは一体何なのだろうか?

「なんでもな、女神様は村の住人の命を救ったらしいぞ?」
「はぁ......それぐらいならよくある話じゃないですか。まぁ、立派だとは思いますが」
「そうか? 疲弊し、死に行くしかない住人の命を全て救ったらしい。その数5000」
「ご、5000!?」
「具体的には、飲むに堪えない塩辛い水の摂取により弱りきっていた住人の体調回復と、その原因となっていた水質の改善」

 しかも、それらを全て善意で行ったというから驚きだ。
 更に、驚きの事実が語られていく。

「何十年と掛かりそうな開拓予定地をわずかの滞在期間で成し遂げたのもそうだ」
「えぇ!? で、ですが、それは竜殺し様のお力もあってでは?」
「そうかもしれないな。ただ、それを指示していたのが女神様らしい」
「で、では、全てはアテナとかいう少女の考えのもとに実行されたと?」
「そうらしい。そして、疲弊した人々の心を癒したのもまた女神様だと言う」

 なるほど。それは確かに偉業だ。
 しかも、その偉業を竜殺し様の功績として譲ったとかいうから開いた口が塞がらない。

(はぁ......すごい人もいたもんだなぁ)

 まさに聖人。女神の名を冠するに相応しい少女だと思う。
 村人達がアテナとかいう少女を女神として崇め奉る気持ちも分からなくはない。

「それとな、これは内緒で頼みたいんだが......」

 だが、B先輩の話にはまだ続きがあるようだ。
 俺の耳に顔を近付け、ひそひそと囁き出した。

「ここだけの話、女神様は住人の奴隷契約内容を変更しているんだ」
「なッ!? 奴隷契約の変更!?」
「バッカ! 声が大きい!!」
「す、すいません......。し、しかし、それはさすがに無理なのでは?」
「事実だ」

 B先輩はハッキリとそう言い切った。

(すごいな......いや、待てよ?)

 と、そこである疑問が浮ぶ。
 なぜそんなことをB先輩が知っているのだろう、と。

 村の住人が語ったという線は限りなく低いと思う。
 その事実が本当かどうかはさておき、仮にそうであるならば、もっと噂が広まっていてもおかしくはないはずだ。

 ということは、村の住人はそれに関しては口を閉ざしている可能性が高いと判断すべきだろう。

「それはお前、実際に見たからだよ」
「実際に見た、とは?」
「あぁ、言ってなかったか? 俺の嫁さんは女神の村の住人なんだよ」
「はぁ!?......え? でも、奴隷の主人は領主様───」

 と言い掛けたところで、あることが思い起こされた。

 それはつい数ヵ月前の出来事。
 女神の村の領主が突然入れ替えになったのだ。
 原因はさる高貴なお方からの村の惨状に対する訴状だと聞いている。

 そして、その時に新しい領主へと奴隷が引き継がれたとかなんとか......。

「ちょうど俺が調査任務で滞在していた時でな。その時に新しい領主様に掛け合って、直接嫁さんを買い取ったという訳だ」
「はえ~。さすがは一等兵士ですね」
「まぁ、新しい領主様も「奴隷じゅうにんの数を減らせるなら」と喜んでいたよ。開拓の終わった村に5000人は明らかに多いしな」
「新しい土地に移動させるにも費用がかかりますしね」
「そういうことだ。だから、女神様の奴隷契約の件を知ることができた」

 俄には信じがたいが、もしかしたら、もしかして......?

「誰にも言うなよ」
「......」

 マジか......。これはとんでもないことだ。
 いまだかつて、そんな力が存在するとは聞いたことがない。

 そのアテナとかいう少女が奴隷商人ならいざ知らず、そうではないらしい。
 それに、奴隷商人を連れていたということでもないらしい。

 とすると、そのアテナとかいう少女はもしかして......。

「あぁ。恐らく、女神様は勇者様なんだろうな。じゃないと、話の辻褄が合わない」
「で、ですよね。だから奇跡を見たと......」
「それもそうだが、面白いと思わないか?」
「と言いますと?」

 B先輩は人差し指を立てて、若干興奮気味に語る。
 それはさながら、目を輝かせて冒険譚を聞く子供のように。

「神々の中にアテナ様がいらっしゃるだろ? そして、勇者様の名前もまたアテナ様」
「あっ......」

「これはまさに奇跡だ! 女神の村の住人なんかは、勇者アテナ様を女神アテナ様の生まれ変わりだと言っている者までいるぐらいなんだぞ!」

 そして、B先輩は興奮気味に言い放った。「だから、俺はアテナ教に入信した」と。
 更に、B先輩は続けざまにこうも言った。

「お前も入信しないか?」
「......え?」
「女神様は神の遣いである勇者様であり、女神アテナ様の再来とも言われている人物だ。これはとても尊い宗教だぞ? 入信して損はないと思う」
「......ちょっと考えさせてもらってもいいですか?」
「あぁ、ぜひ検討してみてくれ」


 アテナ教か。B先輩のすゝめだし、悪い話でもない。
 さて、どうしたもんかな......。

 
□□□□ ~意識を改めろ~ □□□□

 入信のことはさておき、俺は非常に困っていた。
 幾分獣人に対する感情は和らいだものの、どうしても心の底から楽しむことができない。

『獣人はどこまでいっても魔王の手下でしかない』

 この意識が俺を悩ませる。
 この意識が俺を苦しませる。

「お兄さん、ただいま~」
 
 でも、店の奥から戻ってきたちゅんちゃんはとてもかわいらしい。

「お兄さん、さっきはごめんね~」
「いやいや。俺の方こそ、なんかごめんね?」
「ううん~。お兄さんは何も悪くはないよ~。ね~、またぎゅってしてもらっていい~?」
「えっと......いいの?」
「お願い~」

 またとんでもないことにでもなったらB先輩に迷惑を掛けてしまうので嫌なんだが......。

 ただ、ちゅんちゃんなりの接客テクニックだとは思うが、ちゅんちゃんからのお願いは可能な限り叶えてあげたい気持ちはある。

(俺って、こんなにちょろかったんだな。......ええい! ままよ!!)

───ギュッ!!

「......ふへへ~。お兄さん、好き~」
「えぇ!?」

 俺の心がドキリッと跳ねる。

(いくら接客とは言え、ちょっと過剰な反応じゃないか?)
 
 ただ、B先輩の言う通り、俺とちゅんちゃんはかなり相性が良いのだろう。
 普通に抱き締めてあげるだけで、ちゅんちゃんの表情と瞳が蕩けきってしまっている。

 正直、ここまで相性の良い女性なんて産まれてこのかた初めてだ。

 でも、だからこそ、非常に悩ましい。
 これが人間やドワーフだったならば、将来を見据えた告白も辞さない覚悟だったのだが......。

(なんでちゅんちゃんは獣人なんだよ......)

 そんな悩む俺に対して、ちゅんちゃんは全身を預けるようにしなだれ掛かってきた。
 それはもはやキャバ嬢というよりかはまるで恋人のように。

 この恋人のようないちゃラヴ感......堪りません!

(......これもちゅんちゃんなりの接客テクニックなんだろうか?)

 さすがNO.1キャバ嬢と言わざるを得ない実力の持ち主だ。

(......ん? なんだ?)

 すると、俺のお腹らへんに妙な違和感を感じる。
 何かがもぞもぞと動いていて、少しくすぐったい感じだ。

 早々にその正体を確認してみると・・・。

(......羽?)

 ちゅんちゃんの背中の羽がパタパタパタとゆるやかに動いている。
 ちゅんちゃんは雀人の獣人だし、羽が動くのは当然なのだろうが......。

(なんで今?)

 なんてことを不思議に思っていたら、その様子を見ていたB先輩がこっそりと耳打ちしてきた。

「良かったな。脈ありだぞ」
「ど、どういうことですか!?」
「俺が獣人をかわいいと言った理由を教えてやろう」
「......(ごくッ)」

 曰く、獣人とは感情の起伏によって、耳や尻尾、羽や翼が無意識に動くものらしい。
 当然、意識的に動かせるものだが、今回に限っては無意識的に動いているのだろう、と。

「と言うことは、つまり......」
「そういうことだ。ちゅんちゃんは喜んでいるってことだな。それはAでも分かるだろ?」

「ふへへ~。お兄さん~」

 この蕩けきった表情を見れば誰だって分かる。
 ちゅんちゃんが心の底から喜んでくれていることぐらいは。

(よっしゃあッ!)

 心の中でガッツポーズ。

 同時に喜びの感情が沸いてきた。
 ちゅんちゃんがキャバ嬢として接客テクニックで接していた訳ではなかったという事実に。

(でもなぁ......)
 
 だからこそ、本当に残念でならない。
 ちゅんちゃんが獣人だという事実が俺を憂鬱にさせる。

「なんだ? 嬉しくないのか?」
「嬉しいですよ。嬉しいですが、ちゅんちゃんは獣人ですし......」
「やれやれ。まだそんなことを言っているのか。あのな、獣人の何が悪いんだ?」
「え?......いや、だって、獣人は魔王の手下ですよ?」
「それは200年前の話だろ? ちゅんちゃんには関係ない話だ」
「!?」

 それは衝撃的な内容だった。
 俺の考え方が一般的だからこそ、B先輩が何を言っているのか分からなかった。

 しかし、続く言葉に自然と耳を傾けてしまうような不思議な魅力があったことだけは確かだ。

「第一、獣人差別は不敬じゃないか?」
「......不敬?」
「お前も知っているだろ? この地に住まわれている『ときの勇者』様のことを」

『刻の勇者』様とは、現在Cランクダンジョンを営まれている『時尾  了』様のことだ。
 王の信頼厚き勇者様で、王都に住まう者ならば知らぬ者などいない超有名人でもある。
 
「そんなの当然じゃないですか」
「だったら、『刻の勇者』様の奥方様が獣人であることも知っているよな?」
「知ってはいますが......あのお方は獣人の中でも特別じゃないですか」

 名を『ゼオライト』様といったかな?

 あのお方は確かに獣人ではあるけれど、元正統勇者にして、元十傑のお一人でもある。
 そこらへんの獣人と一緒くたにはできないし、してはならないと思う。例外中の例外だ。

「そうか。なら、同じく王都にいらっしゃる『歌の勇者』様に獣人の奴隷がいることは知っているか?」
「えぇ、まぁ。何度か見掛けたこともありますし」
「そうそう。同じく王都に滞在されている『鉄壁の勇者』様の奥方様の中にも獣人がいるな」
「B先輩......? 何を言いたいんですか?」
「それと、今話題になっている『竜殺し』様にも獣人の奴隷がいる」
「......」

 いや、本当にB先輩は何を言いたいのだろうか。
 どれもこれも割りと知られていることであり、それを説明されても今更感がすごい。

「これは噂でしかないのだが、どうやら異世界の勇者様達は獣人がお好きらしい」
「えぇ!?」

「噂は噂でしかないが、『火の無い所に煙は立たぬ』ともいうだろ? 俺達が知っている勇者様全員が獣人を連れているということは、あながち噂ではないのかもしれないぞ?」

 確かに、4人中4人とも獣人を所持しているという事実を偶然の産物として片付けてもいいものだろうか。

 なぜ勇者様達が獣人を好まれているのかについてはB先輩も分からないらしい。
 それでも、この事実は事実として存在しているのは確かではある。

「それにな、アテナ教の女神様はいたく獣人を好まれているんだよ」
「どういうことですか?」
「アテナ教の教えは三章しかないんだが......」
「たったの三章!?」
「驚くよな。俺も最初は驚いた。そして、その中の一章にこうある。『汝、獣人を愛でよ』と」
「!!」

 ちなみに、アテナ教典三章とは以下となる。

 一つ。汝、女神を愛でよ。
 一つ。汝、獣人を愛でよ。
 一つ。汝、風呂を愛でよ。

「竜殺し様が連れている幼女達の中に、いつも帽子を被っている娘がいるだろ? 実はあの娘も獣人なんじゃないかと言われている」

「えぇ!?」

「でな、女神様はその娘を妹にされているらしい。まぁ、これは本当かどうか分からないが、ただ相当な溺愛ぶりだったと、女神の村の連中が言っていたぞ?」

「獣人を妹ぉお!?」

 勇者アテナ様もとなると、5人中5人の勇者様が獣人を好まれていることになる。
 それはつまり『異世界の勇者様は獣人を好まれている』ことへの信憑性が増したことに繋がる。

 断定はできないけれど、否定もできない。
 いや、むしろ、有り寄りの有りといったところか。

 そして、B先輩は最後にこう締め括った。

「勇者様達が獣人を差別していないのに、俺達は獣人を差別している。......これはおかしいとは思わないか? 要は勇者様達の考えを俺達が否定していることになるんだぞ? いいや、勇者様達は神様の遣いである以上、俺達は神様すらも否定していることになるかもしれないな」

「!!!」
「分かったか? だから俺は不敬だと言ったんだ」

 あまりにも衝撃的な内容だった。
 まさに青天の霹靂。まさに目から鱗。

 俺の中のもやもやが少しずつ晴れていくのが分かる。
 
「......俺達は間違っていたんですね?」
「そういうことだ」
「じゃあ、俺も......獣人を愛でていいんですね?」
「むしろ愛でろ。それが神様の遣いである勇者様達が俺達に贈られたメッセージでもある」

 俺は一つ一つ確認していく。
 それは『獣人は魔王の手下でしかない』という考えの昔の自分に決別すべく。

「じゃあ、B先輩がここを戦場だと言ったのは......」

「今後、獣人の奴隷は爆発的に人気が出るだろうな。もしかしたら、一家に一獣人なんてこともあり得るかもしれない」

 あり得る。十分にあり得る。
 獣人の奴隷は他の種族に比べて費用が安いからこそ、余計にそう思う。

 ということは、ここに来ている客の目的は......。

「まさか.......獣人の傾向を下調べしにきていると?」

「今までは獣人と一括りにしていたが、彼女達もまた一人の人間だからな。そういう意味では、ここは獣人を知るにはもってこいの場所だろ?」

 確かに、獣人を知る為には獣人と直接触れ合う必要がある。

 そして、ここは獣人が働くキャバクラ店。
 楽しくお話して、気分良く酒を飲みながら観察できるとなれば、まさに戦場ともなろう。

「それに獣人娘は本当にいいぞ」
「ど、どういうことですか!?」
「奴隷の獣人達は自分の運命をある程度は悟っているんだよ。ここの娘達のように生き生きとはしていない」
「それは......そうでしょうね。基本的には嫌われている種族ですし」
「だからな、少し優しくしてあげるだけでも恐ろしく依存してくるぞ」

 依存......だと!?
 そこのところKWSKくわしく!!

「特別優しくしてあげる必要はない。普通の人間として、一人の女性として扱うだけでいい。それだけで、もうA無しでは生きられない程に依存してくる」

「!!」

 尚もB先輩の怒濤の攻撃は続いていく。

「想像してみろ。Aに絶対服従ではあるけれど、操り人形ではない娘のことを」
「......いい! いいですね!!」

「想像してみろ。浮気だなんだとは無縁な上に、Aだけに愛情を捧げる娘のことを」
「......くはッ! 素晴らしい!!」

「想像してみろ。仮にAが浮気をしても、依存している以上、決してAから離れようとしない娘のことを」
「おぉ! 獣人、最高かよ!?」

「......言っておくが、種族によっては怒ったり、悲しんだりはするからな? 愛されているが故に、その姿を見ると心が痛むもんだ」
「......B先輩、そういう経験があるんですね?」

 とにかく、(奴隷の)獣人娘は男にとって都合の良い女と言えばそうなのだろう。

 だが、それの何が悪いと言うのか。

 男は幾つになってもわがままな生き物である。
 都合の良い女が作れるというのなら、ぜひそれにあやかりたい。

(しかし、これって、まるでお嫁さんにしたいランキング1位を毎回独走しているドワーフ娘の特徴にとても類似しているような......)

 いや、呑み比べに勝利する必要があるドワーフ娘よりも条件が無いぶん良いのでは?

「そこに気付いたか。......その通りだ。疑似的なドワーフ娘を手に入れるようなものだな」
「おぉ!」
「しかもな、ドワーフ娘よりも獣人娘のほうが情熱的でスタイルも良い(ニチャァ)」
「......(ごくッ)」

 B先輩のいやらしい笑みに、俺は思わず唾を飲み込んだ。

 主人に依存してくるというぐらいだ。
 B先輩のいう情熱的というのは余程のことなのだろう。

 それに獣人は種族の特性故か、スタイルの良い娘が多いのもこれまた事実。
 魔王の手下などというバカげた考えさえなければ、人気があってもおかしくはない種族だ。

「どうだ? 獣人という種族は魅力的じゃないか?」
「はい! 俺はB先輩のおかげで生まれ変わりました!」
「そうか。それは良かった。全ては女神様のお導きによるところだ。Aも入信するかはともかく、女神様には感謝しておけよ?」

 確かに......。アテナ教は素晴らしいッ!

 もはや俺の中に『獣人は魔王の手下でしかない』という考えはこれっぽっちもない。
 むしろ『獣人はとても魅力的な種族である』という考えが大勢を占めているぐらいだ。

 そして、改めて思う。

 俺を真理獣人LOVEへと導いてくれたB先輩への感謝を。
 B先輩を真理獣人LOVEへと導いてくれたアテナという少女の偉大さを。

───ギュッ!!

 俺は膝の上で抱っこされているちゅんちゃんを改めて抱き締めた。

「お兄さん、どうしたの~?」

 ちゅんちゃんに言わなくてはいけないことがある。
 今、この場で言わないといけないような気がする。

「ちゅんちゃん。今後もお店に来るよ」
「ほんと~? ありがと~」
「その時は、君を......君だけを指名しても良いかな?」
「!!」

 ちゅんちゃんの驚いた様子を見て目を細めながら、俺はちゅんちゃんとの抱擁を楽しんだ。

(よし! 俺の肚は決まったッ!)

 この時、俺はとあることを決心していた。
 ちゅんちゃんとの運命的な出逢いが俺を突き動かしていた。

 ただ、それが行動に移されるのは数ヶ月後も後のことである───。


(ちゅんちゃん、待っててね! 今いくよッ!!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

 次回、閑話『ちょっとしたご褒美』!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 サブキャラである『ちゅん』が幸せになるお話でした。
 メインキャラである主人公とは結ばれない運命だけに、幸せになって欲しいものです。

 主人公に関わった好意的な人物は幸せになる権利があるのですから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 今日のひとこま

 ~獣人にも色々ある~

「そういえば、B先輩の奥さんはどんな方なんですか?」
「俺のは猫の獣人だ。......A、猫の獣人はいいぞ」
「......(ごくッ)。き、気になります」
「猫の獣人の特徴を話す前にだな。獣人は大きく分けると大体が3種族に分類される」

「3種族ですか?」
「犬人系・猫人系・蜥蜴人系の3種族で、この3種族が獣人の大半を占めているんだ」
「へ~。何か理由があるんですか?」
「犬人系・猫人系の種族は他の種族に比べて子供をポンポンと多く産むな」

「多くの子が産まれれば、それだけ占める割合も増えますもんね」
「蜥蜴人系に至っては水辺に棲息していることが多いから安定供給が見込める」
「なるほど。供給源が確かなのは重要ですよね」
「その上で、この3種族について簡単に説明しよう」

「よろしくお願いします」
「まず犬人系。この種族はとにかく甘えてくる。心さえ掴めば四六時中ご主人様大好き状態だ。彼女や嫁といちゃラヴな人生を......なんて奴にはおすすめの種族だな」
「さ、最高じゃないですか!」
「但し、嫉妬深い。浮気なんてしてみろ? いつまでもネチネチネチネチと根に持たれるぞ。個人にもよるが、キャバクラもアウトだろうな。当然、付き合いであってもだ」

「......ひェ。つ、付き合いであっても、ですか?」
「一途には一途で返す。それぐらいの覚悟が必要だ、犬人系の種族にはな」
「......おおぅ。情が深いってのも考えものですね。それで、猫人系はどうなんです?」
「猫人系は気まぐれだ。向こうから甘えてくるまで付きまとったりするのは厳禁だな。ウザがられる。自分の時間を持ちたい、付き合いで色々いく奴にはおすすめの種族かもな」

「向こうから甘えてくるまで、ですか。頻度的にはどうなんです?」
「多くはない。個人にもよるが、一日に一回ってところだな」
「それは......なんというか寂しいですね」
「だが嫉妬はしない。ご自由にどうぞって感じだ。そして、猫人系最大の特徴なんだが......」

「な、なんですか?」
「甘えてきた時の破壊力がバツグンだ。普段素っ気ない分、凄まじいものがあるぞ。この時ばかりは常にご主人様LOVEな犬人系をすら凌駕する」
「そ、そんなにですか!?」
「そうだな。犬人系が常に100%LOVE状態なら、猫人系は普段は50%ってところだな。だが、甘えてくる時だけは150%となる。これが本当に素晴らしい」

「いい! いいですね! 猫人族!!」
「まぁ、その分、普段は本当に素っ気ないんだけどな? 基本的には向こうから甘えてくるタイミングに合わせないといけないというのも意外と辛いものがある」
「な、なるほど。それは辛いかも......。蜥蜴人族はどうなんですか?」

「あれはな、高潔だ。忠義深くて真面目なんだが、とにかく全てにおいて固い」
「固い?」
「冗談を冗談で受け取らないというか、くそ真面目過ぎるといったところだな。彼女や嫁というよりかは仕事相手なら最適だ」
「なるほど。だから軍隊に重用されている、と。......スタイルの良い種族なのに勿体ないですね」

「だがな? 蜥蜴人系は一部の間では大人気なんだぞ?」
「どういう意味ですか?」
「想像してみろ。高潔な姫騎士を自分色に染め上げ、征服していくところを。苦悶の表情から、ご主人様LOVEへと完堕していく様を(ニチャァ)」
「......(ごくッ)」

「一度堕ちた姫騎士蜥蜴人系は常に200%LOVE状態だ。四六時中ご主人様のことしか見ていないし、ご主人様のことしか考えていない。そうだな、年がら年中メス状態ってところか?」
「おぉ......。蜥蜴人系が大人気な理由が分かりました」
「但し、そこまでもっていくのに時間が掛かる。それがネックだな」
「なるほど。どの種族にも一長一短ありなんですね。勉強になりました」

「他にも種族によって様々あるようだが......。なにぶん数がそこまで多くはないからなぁ」
「そうだ! B先輩! ちゅんちゃんは!? ちゅんちゃんはどうなんですか!?」
「雀人族は希少種。さすがに俺も知らないな。......なんだ? 本気で狙うつもりか?」
「え、えぇ。あんなに相性の良い女性は初めてですから、諦めたくないというか......」

「NO.1嬢を引き抜くか......」
「や、やっぱり難しいですかね?」
「そりゃあ、並大抵のことではないだろうな。だが、俺にできることがあったら言ってくれ。協力しよう」
「ありがとうございます!」


 どんな困難が待ち受けていようと、俺はちゅんちゃんを諦めない。
 とりあえずは告白して、ちゅんちゃんの気持ちを確かめないとな!
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