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第6章 力を求めて -再臨ニケ編-

特別編 異世界と愉快な住人達!⑤

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前回までの異世界編のあらすじ

元大魔王のお姉さんは元大魔王の技を使う!

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□□□□ ~神魔対決・決着~ □□□□

───ドン!
───ドン!
───ドン!

 現地勇者の解説中も、ニケさんと元魔王のお姉さんによる激しい戦闘(但し、見えない!)はずっと続いていた。
 その間、相変わらずニケさんが圧倒的に優勢だったようなのだが、それでも少しずつ戦闘に変化が見られるようにはなってきた。

「.....」
「はぁ.....。はぁ.....。がっはッ! はぁ.....。はぁ.....」

 肩で荒々しい息をしている元魔王のお姉さんに比べて、そよ風に誘われているかのように涼しい顔をして、全く呼吸が乱れている様子が微塵も見えないニケさん。
 この辺りからでも、二人の実力差がいかにあるのかを思い知らされる。

 しかし、だからと言って、ニケさんが余裕かというとそうでもなく.....。

「.....ごふっ」
「「!?」」

 元魔王のお姉さんが吐いている血の量に比べれば大したものとは言えないが、それでも先程よりも明らかに多くの血を口から流しているニケさんの姿がハッキリと見て取れる。

 つまり、元魔王のお姉さんと拳を合わせれば合わせるほどに、受けているダメージ量が増えていっていることになる。反射されているダメージ量が増加していっているということだ。

 ちなみに、元魔王のお姉さんがいまだにニケさんと戦闘を繰り広げていられるのには秘密がある。
 それは魔族の特性らしいのだが、所謂自然治癒オートヒーリング機能があるからだ。

 そうそう。自然治癒オートヒーリング機能がある魔物と言えばトロールが有名だが、魔族の自然治癒オートヒーリングは遥かにそれを上回る。
 それも強者であればあるほど自然治癒オートヒーリング効果が高くなるとのこと。

「だから、あいつを倒すには『一瞬で意識を刈り取る』か『一瞬で殺すか』しないと永遠に決着は着かない」
「.....ちょっと強すぎませんか? 【天地魔鏡の構え】に【物理・魔法・スキル無効】、その上で自然治癒オートヒーリング機能とか.....」
「それが大魔王という存在だからなぁ」
「それはそうなんでしょうけど.....」

 それでもあまりにも強すぎる。正直、辟易する。
 それに、俺達の世界に居ると言われている魔王がいかほどのものかは分からないが、もしこの元魔王のお姉さんみたいな強さだったとしたら、それこそ手も足もでない。

(うん。俺、正統勇者にはなるけど、真の意味での勇者になるのはや~めた!)

 この時、改めて魔王討伐は絶対にしないと心に誓った。
 しかし、降りかかってきた火の粉は払わないといけないので、その心積もりだけはしておこう。

 それと言うのも、現地勇者が言うには、魔族というものは大概どの世界でもこの自然治癒オートヒーリング機能が備わっているものらしい。
 仮に、俺もパルテールで魔族と戦うようなことがあったとしたら、その時には注意しようと思う。とは言え、正直、そんな機会が一生巡って来ないことを祈るのみだが。

「と言っても、あいつはここ数千年の魔王の歴史の中でも別格みたいだけどさ」
「それが先程言っていた真骨頂というやつですか?」
「その通り」

 そう、現地勇者が言っていた真骨頂とは、何も自然治癒オートヒーリングのことではない。
 あれは単なる魔族としての特性に過ぎず、元魔王のお姉さんの真骨頂はこれからということになる。

 そして、それこそが、あの『勝利の女神』であるニケさんにダメージを与えられている原因ともなっている。

「説明するよりも見てもらったほうが早いな。舞日さん、ドールちゃん、手を出して」
「こうですか?」
「手を? 別に構わぬが」

 現地勇者に言われた通りに手を差し出す俺とドール。
 それをしっかりと握り返してくる現地勇者。

「.....あっ。ドールちゃんだけは口でも大歓迎だけどね? 舞日さんは手だけでいい」
「はぁ.....?」
「なぜ妾だけ? と言うか、異世界の勇者様は何をするつもりなのじゃ?」
「.....ご主人様?」
「ひぃ!.....も、戻ってきたのか。.....や、やっぱり、ドールちゃんも手でいいかな」

「「?」」

 何がなんやら訳が分からないが、どうやら現地勇者が何かを企んでいたらしい。
 しかし、その企みは屋敷から戻ってきた専属メイドさんに咎められて失敗したようだ。

「.....皆さんに、今のこと報告しますからね?」
「ちょっ!? やめてください! お願いします!!」
「ふむ。主とニケ様の痴話喧嘩を見ている気分じゃな」
「うるせえなッ! これよりかはマシな.....はず」

 専属メイドさんが激怒しているところからも、現地勇者の企みはロクでも無いことだったに違いない。
 ハァ.....。現地勇者は本当に油断も隙もない奴だ。.....と言うか、本当にドールに何をしようとしていたんだ?

 と、その時、突然俺とドールの体が赤い深紅の光に包まれ始めた。

「うぉ!? な、なんだ!?」
「あ、主!? これはどういうことじゃ!?」

 原因は当然現地勇者である。
 専属メイドさんに怒られてしょげてしまっている現地勇者から、繋いだ手を通して力が伝わってくる。

 そして、体に力が浸透していくこの感じ.....。

 俺が半神状態になった時のあの感覚に非常に似ている。
 ニケさんの神気?だったかを体に流し込まれていた、あの時の感覚に。

 ただ、ニケさんの時と比べて、気持ちがいい力とは決して言えない。
 相手が現地勇者だからとかそういう気持ち的なものではなく、純粋に流し込まれている力そのものに原因があるのだと思われる。

 ニケさんの時は、それはもうまっさらで澄み渡ったきれいな力だった気がする。
 例えるのなら、果汁100%のジュースみたいなもの。

 しかし、現地勇者のそれは、なんというかこう己の欲望を刺激されそうな抗い難い禍々しい力である印象を受ける。
 例えるのなら、果汁30%のジュースだろうか。.....と言うか、ハッキリ言って、勇者が扱っていい力ではないような気がする。

(.....あっ。そうか。現地勇者の師匠は元魔王のお姉さんだったか? だからか.....)

 そう言えば、現地勇者の力の源は月及び闇の力を利用していると言っていた気がする。
 それならば、どこか禍々しい力なのも納得である。それに師匠が元大魔王というのも頷ける。

 ちなみに、現地勇者の対となる力である太陽及び光の力を利用する勇者も存在するらしい。
 しかし、その人もまた現地勇者の嫁の一人であることを追記しておく。ただ、この場には居ないので説明は割愛させて頂こう。

 それよりも、現地勇者が俺とドールに何をしているのかが非常に気になる。
 ただ、力が体に浸透していく関係上、別に俺達にとっても不利益になることをしているようではないみたいだが.....。

「さっき言っただろ。見たほうが早いって。だから、見れるようにしているよ」
「見れるように?」
「ご安心ください、舞日様。ご主人様は【スキルコピー】及び【スキル譲渡】もできるのです」
「なん.....だと!?」

 現地勇者はどんだけ優秀な勇者なんだよ!?
 俺が知っているだけでも【転移】・【異空間創造】・【アイテム創造】とあったのに、他にも【スキルコピー】に【スキル譲渡】もあるとか非常識チート過ぎるだろ!?

「お、俺なんて、『歩くだけでレベルアップ』しかないのに.....」
「安心せい。例え、主が劣ったものでも、妾はいつまでも主の側に居るのじゃ」
「こんな惨めな勇者おれでも、それでも少女ドールは俺の側に居てくれるというのか.....」

 勇者おれに向けられた少女ドールの笑顔がとても眩しい。まるで女神ならぬ仙狐さん。
 そんな少女ドールの優しさが、いじけてしまった勇者おれの心に沁み渡るよう───いや、待てよ?

「.....俺はあくまで付き人であって、勇者ではないけどな?」
「知らぬ。ほれ、バカなことを言っておらぬで、異世界の勇者様の説明を聞かぬか」

 とりあえず、ドールが尻尾をもふもふして欲しそうにふりふりと振っていた(=手柄を立てたと判断した際に、ご褒美を催促する仕草)ので、尻尾をもふりながら現地勇者の説明を聞いていく。

 まず、俺とドールにコピー&譲渡したスキルは、全てを見通すことができるという【真の神眼】というものらしい。俺の【鑑定】スキルの遥か上位版といったものだ。まぁ、神の眼だしね。しかも、真ときてる。

「俺はこれを【真の神眼ジャジメンズ・アイ】と呼んでいる」
「うわぁ~。.....厨二丸出しですね」
「厨二だのぅ.....」
「.....」
「大丈夫ですよ、ご主人様。私はそんなご主人様も大好きです」
「あ、ありがとう。.....こほんっ。一応、こちらの世界でしか使えないと思うから注意してくれ」
「「えぇ~。そんな~」」

 まぁ、魔力の質が違うとニケさんも言っていたことだし、その通りなのだろう。

(でも、『全てを見通す目』か.....)

 正直、現地勇者が厨二心をくすぐられてしまう気持ちも分かる気がする。
 と言うか、こっちの世界にも似たようなものがあったらいいなぁ、なんて思ったり。

「そうそう。仕様はこちらのになっているから舞日さん達のとは少し違うと思うけど、そこは勘弁してくれ。と言っても、そこまで違うとは思わないけどさ」

「そうですか。分かりました。ありがとうございます」
「じゃあ、早速それであいつを───」

 そう現地勇者が言い掛けたところで、絶叫とも取れる横槍が入った。

「おおおぉぉおおぉぉぉおおお! 主! 主! 見てみよ! 凄いのじゃ!」
「「.....」」

 当然横槍の主はドールで、絶叫の原因はすぐさま理解できた。
 それと言うのも、ドールの視線の先には現地勇者が居て、なおかつ絶叫ともなれば、早速【真の神眼ジャジメンズ・アイ】を使ったのだろう。

 気持ちは分かる。俺だって気にはなっていたからね。でもさぁ.....。

「なんじゃ?」
「「なんじゃ?」じゃねえよ。鑑定みる前に相手に許可を貰え」

 一応、個人情報を覗くことになるのだから当然だろう。
 それに、ここは無用なトラブルの元となる行動は控えるべきだ。そもそも、俺は女性相手には必ずそうしているぞ?

「.....すいません。ドールが勝手に見てしまって」
「いや、別にいいけどよ。舞日さんも良かったら見てくれていいから」
「舞日様。私のも良かったらどうぞ」
「そうですか? なら遠慮なく───」
「舞日さん、俺はともかくこっちはちょっと待って欲しい」

 そう言って、専属メイドさんに何やら魔法を掛けている現地勇者。
 よく分からないが、現地勇者は見てもいいとのことなので早速見てみる。【真の神眼ジャジメンズ・アイ】!

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『現地勇者』 レベル:9999★ 危険度:極小

 種族:人間族
 年齢:18
 性別:♂

 職業:勇者/魔法剣士
 称号:女神に愛されし勇者/唐揚げ勇者/餃子勇者
    天ぷら勇者/蟹道楽勇者/魔神殺し/神殺し勇者

 体力:8,999,999
 魔力:9,999,999★
 筋力:7,999,999
 耐久:8,999,999
 敏捷:7,999,999

 装備:(右)神剣『ふぉるきな』 (左)『魔剣フォルキナ』
    愛隷の首輪
    マジカルセーター
    神愛の指輪

 技能:なんかいっぱい

 加護:『記憶創造メモリークリエイト』 Lv.9999★ 9999/9999
    『月天ムーンライト』   Lv.9999★ 9999/9999 
    『狂愛エターナルラヴ』   Lv.9999★ 9999/9999

(※見やすくする為、『歩くだけでレベルアップ』のステータスに合わせた表示にしています。
 更に便宜上、レベルは9999、ステータスは999万にて、こちらもカンストとさせて頂きます)
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(な、なんだ? このステータスは.....)

 うん。もうなんと言うか、ドールが驚いた理由がよく分かった。
 とにかく、ステータスがぶっ飛んでいる。こんなの勝てる訳がないし、半神状態でもビビる訳だ。

 ちなみに【真の神眼ジャジメンズ・アイ】のおかげで、半神である俺のステータスも見ることが可能となった。

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『アユム・マイニチ』

 種族:人間族(半神状態)
 年齢:26
 性別:♂

 体力:1,999,999
 魔力:1,000,000
 筋力:1,999,999
 耐久:1,999,999
 敏捷:2,999,999
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 現状、俺はまだ発展途上中とはいえ、現地勇者との力量差は一目瞭然だろう。
 いや、現地勇者とだけならまだいいが.....。

 現地勇者の許可が下りたので、専属メイドさんも見てみる。【真の神眼ジャジメンズ・アイ】!

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『専属メイドさん』 レベル:9999★ 危険度:極小

 種族:人間族
 年齢:18
 性別:♀

 職業:メイド/双剣使い
 称号:専属メイド/神殺しメイド

 体力:6,999,999
 魔力:5,999,999
 筋力:3,999,999
 耐久:4,999,999
 敏捷:9,999,999★

 装備:(右)愛双『たんぽぽ改』(左)愛双『かすみ改』
    エリクシルの愛飾り
    闘うメイドさん服
    オラクロアのエンゲージリング

 技能:なんかいっぱい

 加護:『狂愛エターナルラヴ』 Lv.9999★ 9999/9999

 体型:(B)ー・(W)ー ・(H)ー
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(うわっ…。半神おれのステータス、低すぎ…?)

 事実、専属メイドさんにすらも全く敵わない状態となっている。
 と言うよりも、神殺しの一族とか紹介されたのは元魔王のお姉さんだけだったのに、現地勇者も専属メイドさんもしれっと神殺しの称号があるところが非常に怖い。

 ちなみに、ニケさんのステータスも見ることはできたが、オールカンストなので改めて紹介する必要はないと判断した。その点はご理解頂きたい。

「のぅ! のぅ! 主よ! 妾も鍛えれば、異世界の勇者様達みたいに強くなれるかのぅ!?」
「.....え? どうだろう? なれるんですかね?」

 現地勇者はともかく、普通の人間?である専属メイドさんがぶっ飛んだステータスをしているだけに目を輝かすドール。

 正直、無理な話だとは思うが、実際はどうなんだろう。
 と言うか、半神である俺がこのステータスなんだし、無理なよう気が.....。

「こっちの世界に残るなら鍛えてあげるけど?」
「それは断る」
「だから、ドールを勧誘するのは止めてくださいよ.....」

 正直、うんざりだ。
 ドールはうちの大切な参謀役なのだから本当に勘弁して欲しい。

 とりあえず、しつこい現地勇者は再び嫉妬の炎に身を焦がしている専属メイドさんに任せることにして、俺は本題となる元魔王のお姉さんを【真の神眼ジャジメンズ・アイ】してみた。
 そもそも、これをしてみないことには元魔王のお姉さんの真骨頂とやらが分からないし、なぜニケさんが【ダメージ反射】を防げないのかの理由を探ることすらもできないからだ。

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『元魔王のお姉さん』 レベル:9999★ 危険度:超大

 種族:魔族(淫夢種)
 年齢:21
 性別:♀

 職業:元魔王/魔幻師
 称号:魔王/大魔王/魔神殺し/神殺し魔王

 体力:9,999,999★
 魔力:9,999,999★
 筋力:9,599,999
 耐久:9,999,999★
 敏捷:9,699,999

 装備:なし
    敬愛のブレスレット
    サキュバスドレス
    オラクロアのエンゲージリング

 技能:なんかいっぱい

 加護:『即興魔法リアライズ・マジック』 Lv.9999★ 9999/9999

 体型:(B)110・(W)52 ・(H)98
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(さ、さすがは現地勇者の師匠というか.....。ほぼほぼフルカンストじゃねえか!)

 いや、それでも凄いのはニケさんなのだろう。
 こんなぶっ飛んだステータスの相手にすらも圧倒的優位を保てているのだから。.....となると、もしかしたら本気ですらないのかも?

「舞日さん、確認できた?」
「あっ。はい。.....なんというか、皆さん凄いんですね」
「主の言う通りなのじゃ。妾達とは次元が違うというか、強さの質そのものが違うように見えるのじゃ」
「なるほど。それは言い得て妙だな」

 もしかしたら、これは魔力だけではなくて強さの質も.....いいや、何もかもが根本的に違うのかもしれない。
 そもそも、次元が異なるのだから、あらゆるものもまた異なる可能性を考慮に入れるべきだった。だって、このイリアスという異次元世界においては俺達のほうが異物なのだから。

 故に、異次元世界の住人である現地勇者達がぶっ飛んだ強さなのはある意味当然のことなのかもしれない。
 そして、そんなぶっ飛んだ世界の住人を相手にしても圧倒的優位に立ち回れるニケさんは、ニケさんの『勝利』の力は、本当に世の理から外れた力なのだろう。

「そうだのぅ。さしずめ、異次元世界そのものに勝利したというところかの?」
「だろうなぁ.....。まぁ、異次元世界そのものに勝利したって、なんだ? という感じだが」

 でも、だからこそ余計に分からない。
 そんな異次元世界そのものに勝利できてしまう力を有するニケさんが、なぜ元魔王のお姉さんの【ダメージ反射】スキルごときに完全勝利できないのかを.....。

 それを探るべく【真の神眼ジャジメンズ・アイ】をしてみたのだが、原因がさっぱり分からん。

「ただ見ただけじゃ分からないだろうね」
「どういうことですか?」
「あいつの加護に『即興魔法リアライズ・マジック』というのがあるだろ?」
「確かにありますね」

 正直、この『即興魔法リアライズ・マジック』なるものの存在は気になってはいた。
 文字面からすると魔法を即興で創り上げるものだと思われるが、『創造』とは何か違うのだろうか。いや、そもそも、何でも創り上げることができる『創造』の下位互換にしか思えてならない。

「とんでもない。これこそが、あいつの真骨頂たる所以だよ」
「と言いますと?」
「そうだな。まずは───」

 そこから、この『即興魔法リアライズ・マジック』なるものの説明が始まることとなった。

 まず、人が何かを欲した時は、その欲しいものを始めに思い浮かべることだろう。
 そして、それを手にするにはどうしたらいいのかを考え、必要な物を準備し、行動した結果欲しいものが手に入る。多少の違いはあっても、大体こんな流れとなるのは誰しもが分かっていることだ。

 つまり、『欲望 → 思考 → 準備 → 行動 → 結果』の一連の流れがあって、始めて欲しいものが手に入るということである。

 しかし、元魔王のお姉さんの『即興魔法リアライズ・マジック』はそれとは大いに異なる。
 なんでも、途中の過程を全て無視した上で魔法及びスキルを創り上げてしまうものらしい。

 つまり、『即興魔法リアライズ・マジック』ならば『欲望 → 結果』の流れだけで、望んだものがすぐさま手に入ってしまうのだ。

「でも、それだと『創造』と一緒ですよね?」
「舞日さん、『創造』というものは万能じゃないんだよ。基本的には、その世界において可能なものをイメージすることで生み出す力のことを総称して『創造』というんだ」

「それは当然ですよね。.....え? ま、まさか!?」
「もう分かったかな? あいつは『即興魔法リアライズ・マジック』で、この世界にはない力である『勝利』の力にも対抗できるだけのスキルを創り上げたんだよ。戦闘中にね。それが『創造』と『即興魔法リアライズ・マジック』の大きな違い」

「はぁぁあああ!?」

 いやいやいや。ちょっと待って欲しい。
 仮に、その『即興魔法リアライズ・マジック』が『創造』と同じ、もの凄い力なのは別にいいとしよう。

 しかし、どうやって、この世界にはない力に対抗できるだけの力を生み出したというのか。
 そもそも、この世界にはない力なのだから、分析とかその他諸々の事情を含めても対抗スキルを生み出すこと自体が不可能なのではないだろうか。

「そこがあいつの天才たる所以なんだよ」
「と言いますと?」

「欲しいから創った。望んだから創れた。どうやって創ったかは不明。でも、望めばいつでも創れる。それがあいつの『即興魔法リアライズ・マジック』。以上」
「はい?」

「あれ? 聞こえていなかった? もう一度言うよ。欲しいから創った。望んだから創れた。どうやって創ったかは不明。でも、望めばいつでも創れる。それがあいつの『即興魔法リアライズ・マジック』。以上」
「.....いえ、聞こえていなかった訳じゃないですから」

 この現地勇者は何を言っているのだろうか。
 俺が知りたいのは『どうやって創ったのか』の一点に尽きる。それを、まるで駄々をこねている子供の願望わがままのようなことを言われても困る。

「だから、それだよ」
「え?」

「あいつの『即興魔法リアライズ・マジック』はまさにそれなんだよ。過程とか世の理とかは関係ないんだ。あいつが望むもの全てを、何の制限に縛られることなく即興ぐげん化する魔法なんだよ」
「.....」

「要は理屈じゃない。天才なんだってこと。真の天才とは大いなる馬鹿わがままってことだよ」

 開いた口が塞がらない。.....いや、考えてみれば当然か。
勝利りふじん』という力に対抗する為には、こちらも『即興魔法りふじん』という力をもって対抗するより他はないのだから。

 そして、それは世の理を、世界の理を、そして神の理をも無視した大いなる『わがまま』でもある。

「つまりはどういうことなのじゃ?」

「こういうことだ。現在、元魔王のお姉さんはニケさんの『勝利』の力を上回る程の【ダメージ反射】スキルを展開させている。それをどうやって創り上げたかは不明。また、それがどうやってニケさんの『勝利』の力を上回ったのかも不明。ただ、それを望んだから、それができただけということだ」

「な、なんじゃそれは.....。全く説明にもなっておらぬではないか」

「だけど、ニケさんの『勝利』も『絶対に負けない力』という性質がある以上、元魔王のお姉さんの【ダメージ反射】スキルに勝利しているのは間違いない。ただ、それは『完全勝利』という形ではなくて『引き分け』という形になっている。だから、ニケさんよりも元魔王のお姉さんのほうがダメージを負っているということになる」

 分かりづらいという人の為に簡単に説明しよう。

 元々は、『勝利』>越えられない壁>【ダメージ反射】だったものが、即興魔法リアライズ・マジック』の強化によって、『勝利』≦【ダメージ反射】となった。
 しかし、『勝利』の神護効果によって、『勝利』≦【ダメージ反射】だったものが『勝利』≧【ダメージ反射】となる。

 この結果、本来なら【ダメージ反射】で10のダメージを丸々ニケさんに反射できるはずだったところを、【ダメージ反射】が勝利された影響で元魔王のお姉さんは己の能力の限界である8のダメージをその身に受けざるを得なくなり、残りの過剰分である2のダメージは『引き分け』の効果でニケさんに反射しているということになる。

 しかし、ここで一つの疑問が残る。
 それは徐々に変化している戦況と大いに関係がある。

「ややこしい戦いじゃのぅ。しかしの、主。そうなると気になることがある」

 どうやら、ドールもそのことに気が付いたようだ。

「なぜ、ニケ様の吐血の量が徐々に増えていっておるのじゃ? 一応、スキルには勝利できておるのであろう?」
「それは俺も気にはなっていた。.....もしかして、これも『即興魔法リアライズ・マジック』で?」

「ご明察。あいつの本当に怖いところは『即興魔法リアライズ・マジック』だけじゃなくて、『即興魔法リアライズ・マジック』を駆使したタフネス性にあるんだ」
「確か.....あの元魔王のお姉さんを倒す方法は『一瞬で意識を刈り取る』か『一瞬で殺す』かのみでしたっけ?」

「その通り。そして、意識がある内は『即興魔法リアライズ・マジック』でどんどん防御性能を高めていくんだ。仮に、先程5の力で殴られたとしたら、次の瞬間には5の力による攻撃は全て無効となるように」

 おいおいおい。どんだけチートなお姉さんだよ.....。
 そして、なるほど。防御性能をどんどん高めていけば、自身の請け負うダメージ量は自然と減る。それ即ち、ニケさんに返っていくダメージ量が増えていくという寸法か。

「のぅ。そうなると、いずれはニケ様が敗れてしまうのではないか?」
「いや、それはないだろうな」
「どういうことじゃ?」

「ニケさんの神護『勝利』は『絶対に負けない力』だからな。いくら元魔王のお姉さんが【ダメージ反射】スキルを強化していこうとも、結局はニケさんの『勝利』の力が働いて、『引き分け』の力とされるはずだ」

 詰まるところ、この戦闘は何があってもニケさんが負けることはないということだ。
 うん。伊達に『勝利』を司っている女神様ではないということだな。さすがはニケさん!

「となると、この結果が分かりきった不毛な戦いの落とし所はどうなるのじゃ?」
「う~ん。元魔王のお姉さんがごめんなさいを───」
「無理じゃな」
「無理だな」

「.....」

 いや、俺としても無理かな?とは思っているけどさ。
 選択肢の一つとしてだな.....。まぁ、いいか。

「殺せば良いのではないか? どうせニケ様のことじゃ。死にも勝利できるであろう?」
「死にも勝利って、なんだよ.....。と言うか、殺すのはさすがに.....(ちらっ)」
「それはさすがに困る。あいつは俺の嫁だしな。.....一応、蘇生魔法はあるけどさ」
「え!? 蘇生魔法もあるんですか!?」

 マジかよ.....。もはや何でもありだな、現地勇者。

 一応、現地勇者のスキルは全て拝見させてもらったが、ハッキリ言って厨二ネームスキルがほとんどで何が何やら分からなかった。
 多分、多才な現地勇者のことだ。スキル名も自由にいじれるのだろう。

「じゃあ、万が一、ニケさんが元魔王のお姉さんを殺してしまっても.....(ちらっ)」
「あいつが死ぬ姿を、俺は見たくない」
「ですよねー」

 俺としても現地勇者と同じ気持ちだ。
 例え、蘇生できると分かっていても、ニケさんの.....いいや、ニケさんに限らず、ドールやモリオンの死ぬ姿を見たくはない。後、次いでにアテナも。

(うん。さすがに殺害はなし! とは言え、全てはニケさん次第なんだよなぁ.....)

 そう思っていたら、現地勇者から意外な言葉が飛び出してきた。

「と言うよりも、舞日さんのところの女神さんには感謝しているよ」
「え?」

「あいつを殺そうと思えばいつでも殺せるみたいだしさ」
「そうなんですか!?」

「だろうね。明らかに手加減をしている。ただ、それをあいつも分かっているようだから、それでますます腹を立てているんだよ」
「そ、そうですか.....」

 最悪な悪循環である。
 なぜ、ニケさんがあんなにも不敬を働いた元魔王のお姉さんを殺そうとしていないのかは分からないが、それでもナイス判断だ。さすがはニケさん!

 そう、ナイス判断と言いたいところではあるのだが、それがどうも元魔王のお姉さんはお気に召さないらしい。

「だったら、気を失わせれば良いだけであろう? 殺すことが容易いのなら、気絶なんぞものの数にも入るまい」
「俺もそう思うんだけどさ。何か様子がおかしいんだよな」
「どういうことですか?」

「いやさ、舞日さんのところの女神さんが非常に困った表情をしているんだよ。あれほどの実力者なら、あいつのステータスも見えているはずだ。だったら、気を失う程度の調攻撃で済むはずなんだけどなぁ」

 現地勇者曰く、ニケさんは戦闘が始まった当初からそのような素振りを見せてはいたらしい。
 何度も何度も試行錯誤するかのように調整を加えつつ攻撃を繰り返しては、元魔王のお姉さんと対峙していたんだとか。

「それだけ、元魔王のお姉さんが凄いということではないんですか?」

「それはそうなんだろうけど.....。俺の見立てでは、舞日さんのところの女神さんとあいつとの実力差は明白だ。そうだな。大人と赤ん坊ぐらいの差がある。だから、おかしいって言ったんだ。第一、そこまでの実力差があって苦労するもんかね」

 そこまでの開きがあるのか.....。
 そして、現地勇者の言葉が正しいとするなら確かにおかしい。あのできるお姉さんのニケさんにしては非常に珍しいと思う。もしかしたら、意外とダメージを喰らっているとか!?

「いや、それはないな。と言うか、ダメージはほとんど受けていないようだ」
「ですね。都度、全快になっているようですし」

 ニケさんに回復してる素振りは一切見られない。
 でも、俺にはニケさんの体力が回復している原因がなんとなくだが分かるような気がする。恐らく、ダメージにも勝利しているからだろう。ダメージに勝利とは.....(略) HAHAHA。

 そんなことよりも、俺は現地勇者の次の言葉のほうが気になった。

「う~ん。言っちゃ悪いが、舞日さんとこの女神さんは調整が下手なのかもな」
「え?」

「戦闘のセンスがピカイチなのは間違いない。経験も豊富なのはよく分かる。恐らく、相手をという目的においては、まず間違いなく最強の部類だろうね。少なくとも、俺はどんなジャンルにおいても、あの女神さんに勝てる存在を知らない」

「あ、ありがとうございます!」

 あれ? ニケさんが誉められたというのに、俺もなんかちょっと嬉しいぞ。
 元魔王のお姉さんを誉められて、我が事のように喜んでいた現地勇者の気持ちが少し分かった気がする。

「だからこそ、手加減の仕方の粗さが目立つ。もしかして.....」
「なんですか?」
「あの女神さんって、マニュアル人間とか?」
「!!」

 今の言葉で全てのピースがきれいに組合わさった。
 なるほど。そういうことか。これはある意味仕方がないのかもしれない。

 どういうことかと言うと.....。

 元々、ニケさんは神界の住人である。
 そして、そこで神々の敵となるものと戦い、これを全て撃破してきたらしい。

 そう、誰も死ぬことのできない神界で.....。

 つまり、今までは手加減なんてしなくてもいい環境で、全力で戦ってきたに違いない。
 そもそも、100%の力を出したところで、神界においては誰も死ぬことはないのだから。

 だが、現在居るのは下界で、ここでは生物の死は当たり前のことなのである。
 そうなると、ニケさんとしては当然手加減をせねばならなくなるのだろうが、何分手心を加えた戦闘の経験不足は否めない。かと言って、(なんでそうしているのか理由は分からないが)殺すこともできない。

 きっと、必要以上に安全マージンを取った上で手加減をしているのだろう。
 そんな調子で、人類最強とも言える元魔王のお姉さんの、チートもりもりな元魔王のお姉さんの意識を刈り取ろうというのは、さすがのニケさんでも至難の技らしい。

「.....詰んどるのぅ」
「.....確かに詰んでるな。なんとかできませんか?」
「無理を言わないでくれ。あの中に飛び込んでいくなんて、それこそ自殺行為だ」
「ですよね.....。だったら、ニケさんが絶妙な手加減を覚えるまでは待つしかないのか.....」
「何日掛かるかは分からないけれど、滞在中は賓客としてもてなすよ」
「何日!?」

 冗談じゃない。この世界の時間軸がどうなっているのかは知らないが、それでもニケさんの滞在期間は限られている。こんな無駄なことで、その貴重な時間を浪費するなんて考えられない。

 ここは───!

「おい、アテナ! お前の出番だ! ニケさんを宥めてこい!」
「姉さまなら寝ておる。先程、見送ったであろう?」

「あのくそ駄女神がッ!!」

 こういう時にこそ、アテナの鶴の一声の出番だというのに、肝心な時には居やしない。
 俺が困っているんだから助けてくれよ! お前、メインヒロインだろ!?

「主。妾が姉さまを叩き起こしてこようかの?」
「.....そうだな。それがいいか。すまん。頼む」

「それはかわいそうです。舞日様。精一杯おもてなししますので、しばらく逗留されてはいかがでしょうか?」
「お気持ちはありがたいのですが、こちらにも事情がありまして.....」

「そう.....ですか。残念です」
「うっ.....」

 なんだろう。この専属メイドさんの沈んだ表情を見ると、とても申し訳ない気分になる。
 心の奥底から、「お前、それは───として、さすがにないだろう」と警鐘を鳴らしてくるのだ。

(なんなんだよ!? なんなんだよ!? なんなんだよ!? この専属メイドさんがなんなんだよ!?)


 俺が心の中で葛藤している間にも、ドールがアテナを起こしに屋敷へと向かおうとしていた。

 とりあえず、アテナさえ起きてきさえすれば、ニケさんを止める手段は幾らでもある。
 最悪、最強の盾であるアテナを爆心地に投げ入れたり、はたまたアテナを人身御供にして説得に向かわせることも.....。くくくっ。

 と、そんな時、現地勇者から待ったがかかる。

「俺に任せて欲しい。考えがある」


 ・・・。


 こうして、現地勇者の策で、無事ニケさんと元魔王のお姉さんの抗争は止まることとなった。


 異世界住人達との交流は非常に得るものが多かった。
 特に、現地勇者のものの考え方は大いに刺激させられるものばかりだった。

 でも、全てを肯定するつもりは一切ない。
 それでも、全てを否定できる程愚かしいものでもない。

 だったら、俺は俺なりに取り込んでいけるものを取り込んで、どんどん利用させて貰うとしよう。
 まず、目下の目標は『ラズリさんとの関係をどうするか』、これにきちんと答えを出さないといけないよな。

 でも、その前に、これだけはどうしても言っておきたい。


 ・・・。


 異世界さん、ごめんなさい!
 うちのニケさんが大変ご迷惑をお掛けしました!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

次回、異世界編『ごめんなさい!異世界さん⑥』!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 異世界住人たちのステータスに関しては、全て便宜上の上でのカンスト表示とさせて頂いております。実際は更に上だと思ってください。
 なお、こうしている理由は女神を除くと作中最強キャラであるサダルメリクを基準としているからです。

 以下、サダルメリクとアルレシャの登場時のステータスです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『サダルメリク』(SS) レベル:15680 危険度:必敗

種族:竜族(黒炎竜)
年齢:享年2900
性別:♂

職業:竜闘士ドラゴンモンク
称号:百戦百勝将軍/竜将四天王首席

 (通常)     (狂乱)     (反転)
体力:80,000  体力:320,000  体力:1,280,000
魔力:78,000  魔力:312,000  魔力:1,248,000
筋力:85,000  筋力:340,000  筋力:1,360,000
耐久:99,000  耐久:396,000  耐久:1,548,000
敏捷:90,000  敏捷:360,000  敏捷:1,440,000

装備:

技能:ステータス

Lv.1:浄化魔法

Lv.2:

Lv.3:初級闇魔法/中級火魔法/中級風魔法

Lv.4:索敵/感知/隠密/統率/鼓舞/反転/狂乱/咆哮
   物理耐性/魔法耐性/状態異常耐性/斬撃耐性
   呪術耐性/黒炎ブレス/黒氷ブレス/格闘術/人望

加護:『逆境』 Lv.??? ???/???
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『アルレシャ』(SS) レベル:8800 危険度:超大

種族:竜族(飛水竜)
年齢:享年2880
性別:♀

職業:竜術士ドラゴンウィザード
称号:従士

 (通常)   (廻天)
体力:35,000  体力:350
魔力:40,000  魔力:400
筋力:22,000  筋力:220
耐久:33,000  耐久:330
敏捷:48,000  敏捷:480

装備:

技能:ステータス

Lv.1:浄化魔法

Lv.2:中級火魔法/中級水魔法/中級風魔法/中級土魔法
   中級闇魔法/廻天魔法

Lv.3:索敵/感知/隠密/統率/鼓舞/支援/物理耐性
   魔法耐性/状態異常耐性/斬撃耐性/呪術耐性
   治癒魔法/初級火魔法/初級水魔法/初級風魔法
   初級土魔法/初級闇魔法/人望

加護:『廻天』 Lv.??? ???/???
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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