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第6章 力を求めて -再臨ニケ編-

特別編 異世界と愉快な住人達!③

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前回までの異世界編のあらすじ

人生経験豊富な異世界住人達!

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ブクマ・評価・感想ありがとうございます。
やる気に繋がりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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□□□□ ~理不尽と理不尽~ □□□□

『理不尽』という言葉を知っているだろうか?
『理不尽』とは【道理をつくさないこと】や【 筋道の通らないこと】、【 道理に合わないこと】などといった意味である。

 そして、この『理不尽』という言葉は、よく物事や社会に対して使われたりするものではあるが、それは何も物事や社会に限ったことではない。人にも、人間にも使われたりすることがあるのだ。
 つまり、往々にして『理不尽な存在』というものはどの世界にも居たりするものなのである。

 そして、それはいま俺の目の前にも居たりする訳であって.....。

「こ、これは驚きました。.....あなた、ただの魔族ではないですね?」
「お、お前は何者だ? 神ごときが、なぜ我にダメージを与えられる?」

 お互い、心底驚いた表情で対峙するニケさんとサキュバスのお姉さん。

「いや~。俺からしたら、二人とも十分おかしいと思うんだけどなぁ.....」
「舞日さん! そんな悠長な事を言っていないで、手伝ってくれ!」

 一方、結界の維持にてんてこ舞いな現地勇者を尻目に、俺は理不尽ニケさん理不尽サキュバスなお姉さんの激しい戦闘を見て、そう思わざるを得なかった。


 時は少し前まで遡る。


□□□□ ~サキュバスのお姉さんは神嫌い!?~ □□□□

 さて、異世界住人の紹介はあらかた終わったと言いたいところではあるが、実はもう一人残っていたりする。
 と言うよりも、この人の紹介なくば『なぜ俺達が異次元世界でも苦なく会話をできているのか』の説明が全くできない。そう、とても重要人物ではあるのだが.....。

「.....」
「.....」

 その最後の一人は、只今ニケさんと絶賛歪み合い中だ。
 あの怒ると非常に怖いニケさんと正面切って堂々と歪み合い中なのである。

 その人は畏縮したり、怯えたりしている様子などは全くない。
 痩せ我慢しているとかそういうこともなく対等に.....いいや、これはむしろ睥睨していると言っても過言ではないかもしれない。あの『勝利の女神』であるニケさんを前にしてだ。

 この、ニケさんを前にして威風堂々としている人は当然のことながら現地勇者の嫁の一人である。

 年は21歳で、淫夢サキュバス種の魔族だ。
 頭に羊の角のようなものが2本生えており、コウモリのような羽を有している典型的な淫夢種である。

 服はさすが淫夢種というだけあって布地の面積が少なく、正直目のやりどころに困る。
 イメージ的には、某格闘ゲームのモ○ガンみたいなものだと思ってもらいたい。

 背の丈はニケさんとほぼ一緒で、白髪のロングハーフアップ。
 片目が髪に隠れ、これがまたニケさんと一緒で燃え盛るきれいな灼眼の瞳とも相まって、どこか厨二心をくすぐられる容姿をしている。

 ちなみに、目鼻立ちがとても整っていて、恐ろしく美人でもある。
 正直、普通な俺が、このサキュバスのお姉さんを正面からまじまじと見つめるなんて、そんな恐ろしい真似は到底できそうにない。見つめただけで、精どころか魂を吸い取られてしまいそうだ。

(これが、世に伝わる『魔の魅力』というやつか?)

 例えるのなら、きれいの極致に到達した人間と言えるのかもしれない。
 そうだな。元女神の美人なお姉さんを『善の美の極致』とするのなら、このサキュバスのお姉さんは『悪の美の極致』と言っても過言ではないだろう。

 しかも、ニケさんと同じでつり目型をしているので、その姿からは自信に満ち溢れているようにさえ見える。
 いや、確実に自信満々なのだろう。デキるお姉さんの貫禄がぷんぷんと漂っている。

 ここでも敢えて例えるのなら、ニケさんに勝るとも劣らずなお姉さんの雰囲気とでも言えるのかもしれない。
 そうだな。専属メイドさんが『甘々な優しいニケさん』だとするのなら、このサキュバスのお姉さんは『怖いぐらいのキャリアウーマンなニケさん』だと言っても過言ではない。

 正直、このサキュバスのお姉さんはニケさんと通じるものがあまりも多すぎて、それだけでも
 ただ、唯一の欠点はもの凄く美人過ぎることだろうか? 非常にもったいない!

「あ、あの者は凄いのぅ。無関係な妾ですら、ニケ様の威圧が怖いというのに.....」
「お、お姉様、怖いですの。凄く怒っていますの。怒りの波動を感じますの」

 ドールとお姫様の、二人の獣人の反応を見れば、それはよく分かる。
 二人とも、ぶわっ!と全身の毛を逆立てて、まるでハリネズミ状態となっている。所謂、厳戒態勢に入っているということだ。

 これでは二人の貴重なもふもふが台無しである。
 ここは俺と現地勇者の出番だろう。いや、お姫様さえ良ければ、俺がもふもふしてあげても.....。

「いくら異世界の勇者様のお言葉とは言えど、お断りですの」
「お? 俺から奪おうとするとは.....舞日さんも油断ならないな」
「いい加減にせんか! このバカ主! 妾がおるであろう!」

「.....」

 まさかの全否定で意気消沈する俺。
 軽い冗談、もといちょっとした希望を述べただけだったのだが.....。

(そうですか。あぁ、そうですか.....)

 いや、元々無理だとは思っていた。
 しかし、しかしだ。お姫様の、狼の毛並みというやつにも非常に興味があったのだから、別に希望を言ってみることぐらいは大目に見てほしい。あれだ、あれ。言ってみたとかいうやつだ。

 とりあえず、ドールをもふもふしながら、俺もまた恐怖に駆られていると現地勇者達に悟られないよう懸命に恐怖心を抑えることにする。
 それと言うのも、ニケさんと同等とまではいかないまでも、このサキュバスのお姉さんが発している圧というかオーラが非常に怖いのだ。多分、戦ったら確実に殺されているだろう。

 そして、その考えは間違っていなかったようで.....。

「え!? あの人、元魔王なんですか!?」
「そうだよ。魔王も魔王で、大魔王。それも神殺しの一族なんだ」
「大魔王で神殺しの一族!?」
「しかも、若き日の俺の師匠ね」
「師匠!?」

 道理で半神状態である俺が恐れおののく訳だ。
 多分、半神としての本能が、あの神殺しの一族である元魔王のお姉さんを警戒、もとい恐れているのかもしれない。
 しかも、半神状態でも敵いそうにないと踏んでいる現地勇者の師匠だと言うのだから尚更だ。

 なんでも、こちらの世界の魔族は神と頂点の座を争う程にめちゃんこ強い存在らしい。
 特に淫夢種である元魔王のお姉さんの一族は別格で、子供を産む際に淫夢種であるならば父親を、夢魔インキュバス種であるならば母親の精ならぬ生を贄とする一族なんだとか。

 そして、そうすることで親から子へ、その力及び技などをどんどん遺伝させていくのだという。
 つまり、産まれた瞬間には既に超エリートなお子様になっているということだ。

(なるほど。そういうことか.....。これでようやく分かった。元魔王のお姉さんが、なぜニケさんに対してずっと反抗的な態度を取っているのかを.....)

 元より元魔王のお姉さんの一族は神々と争う程なのだから、当然神々とは不仲なのだろう。
 だとしたら、女神であるニケさんとは歪み合う程の犬猿の仲だとしても仕方がないのかもしれない。それが、例え異次元世界の女神であったとしても.....。

「それだけではないんだよ」
「え? どういうことですか?」

「これは召喚ものならお決まりというか、元からそういう約束だったから仕方がないんだけどさ。あいつには魔族だからとか一族の宿命だからとかうんぬん以前に、ちゃんとした怒る理由があるんだよ」

 そう言って、現地勇者は気まずそうな顔をしながら詳しい経緯を話してくれた。

 まず、これはお姫様の時にも説明したが、現地勇者は過去に2度の勇者経験を果たしている。
 つまりは過去に2度勇者召喚をされているという訳だ。

 そして、2度目の召喚時に出会ったのがお姫様だと説明したが、では最初の召喚時に出会ったのは誰かというと.....それが、この元魔王のお姉さんだったという訳だ。

 当然、元魔王のお姉さんは魔王というだけあって、最初は敵対関係だったらしい。
 しかし、詳しい説明は省くが、色々とあって二人は心を通わせるようになり、それはいつしか師匠と弟子という間柄から恋人という関係にまで至るようになったのだとか。

 だが、運命とは皮肉なもので.....。

「勇者の役目を果たしたということで、俺は強制的に日本に帰還させられたんだ」
「あ~。なるほど。勇者召喚はそういうものですしね.....」

 ただ、俺は切に思う。
 無事に帰還させてもらえただけもマシじゃね?、と。

 こういう異世界召喚もののラノベや小説、アニメなどではよくある話なのだが、召喚したら召喚しっ放しなままにしているくそ神やくそ王族があまりにも多過ぎる。
 更に酷い話になると、己らの勝手な都合で召喚しておいて骨の髄まで利用した挙げ句、果ては召喚勇者を殺してしまうという胸糞展開まであり得るのだから始末に負えない。

 だから、「無事に帰還させてもらえただけもマシじゃね?」と言いたいところなのだが、この場合はそういう訳にもいかないだろう。
 なんたって現地勇者と元魔王のお姉さんは、それはもう仲睦まじく暮らしていたとのことだから。

 故に、そんなところを強制的に別れさせられでもしたら、誰だって怒るとは思う。
 当然、現地勇者を元魔王のお姉さんと強制的に別れさせたというか日本へ強制的に帰還させたのは、その世界を管理していた神となる。

「しかも、この話には続きがあってさ」
「まだあるんですか!?」
「あいつはさ、俺が2度目に勇者召喚された世界にまで来てくれたんだよ」

 説明するまでもないと思うが、現地勇者は今までで合計3回の勇者召喚をされている。
 そして、いずれも別の世界、異世界へと召喚されているのだ。初めは元魔王のお姉さんの世界、次にお姫様が居た世界、そして現在居るイリアスへと。

 つまり、この話の流れからすると.....。

「ご明察。再び世界を救った俺は、またしても強制的に日本へと帰還させられた」
「お、おぅ.....。それはまたなんとも言えないですね.....」

「一応、神とはそういう約束だったとはいえ、あいつからしたらそれこそ冗談じゃなかったんだと思う」
「えっと。理由を説明しなかったんですか? そういう約束なんだと」

「当然したさ。そうしたら、「その神を殺せば問題ない」と返されたけどね。一応言っておくけど、神との約束は契約といったものではなくて命令だから」
「.....」

 どこの世界の神様もそうそう違いはないようだ。
 いつも傲慢で自分勝手。まぁ、だからこそ神様なんだろうけど.....。HAHAHA。

 ただ現地勇者の言う通り、元魔王のお姉さんからしてみればいい迷惑でしかない。
 だって、恋人である現地勇者とは1度ならず2度も、しかも追い掛けていった世界でまで強制的に別れさせられなどしたら、それはもう神と争う宿命うんぬんを抜きにしても神嫌いになるのは当然のことだ。

 しかし、その想いは現地勇者も一緒だったらしい。

「俺の願いも、いつしかあいつら (=元魔王のお姉さんとお姫様)とともに過ごすことになっていた」
「まぁ、恋人ですしね。気持ちはよく分かります」

「だから、もう一度勇者召喚されることがあるのなら、その時は神に抗おうと、今度こそは神を殺してでも俺はあいつらとともにいようと決意したんだ」
「う、う~ん。その気持ちは理解できなくはないですが.....。しかし、神殺しともなると.....」

 俺としては神様が居なくなった後の世界のことが心配でならない。
『世界のバランスというか調和を誰が保つのか?』とか。そもそも、『神様が居ない世界は成り立つのか?』などなど。

 しかし、そのことを現地勇者に尋ねてみるつもりは一切ない。

 だって、答えは既に分かりきっているからだ。
 きっと、現地勇者ならこう言うのだろう。「女の子は神よりも、世界よりも尊い」と。

「その通り。舞日さんも分かってきたじゃないか」
「これでも、それなりに理解力のある社会人だと思っていますから。ですが───」

 これだけは聞いておきたい。
 その殺すべき相手が神だったら、どうするのかと.....。

「当然、殺すよ? 女の子は女の子でも、俺の女とそうじゃない女には越えられない壁があるからね」
「な、なるほど.....」

「でも、勘違いしないで欲しい。魅力的な女の子なら叩き潰した上で当然クドく。クドいた上で拒絶をするのなら、その時は殺すまでさ」
「で、でも、叩き潰しはするんですね」

「それは当然。舞日さん。こういう弱肉強食の世界において、命には、生きるには生きる権利が必要になってくるんだよ」
「生きる権利.....ですか?」

「単純だよ。自分よりも強い存在には逆らわないこと。それが生きる権利。生きていく上での絶対条件」
「.....」

 そして、生きる権利を放棄した人は死んでしまっても当然。
 例えどんな理由があろうとも、それを放棄した上で死んでしまった人は単なる犬死に他ならないし、自業自得でしかないと現地勇者は続けていく。

 つまり、敵対している女の子を叩き潰すのは、どちらが世界における強者であるかを示す為。
 そして、その上でクドくのは一種の余命勧告に他ならないのだという。そこで、敵対している女の子に生きる権利を与えるのだとか。

 そういう訳なので、拒絶した場合は生きることを放棄したと見なして殺すらしい。
 そして、それは単なる犬死にであって、自業自得でもあるようだ。だって、死にたくなければ(強者に)従えばいいのだから。

「え、えっと.....。そこにはその人の気持ちとか、思いとかは含まれないんですか?」

「逆に舞日さんに聞きたいけど、それって、命よりも重いの? 命があった上で成り立つものだと思うけど?」
「それはそうかもしれないですけど.....。でも、軽視していいものでもないですよね?」

「戦国武将でもないんだからさ。義理や人情、意地を張って無駄に命を落とした結果、嘆き悲しむ人がいることを忘れてしまうのは無責任過ぎない?」
「うっ.....」

「まずはどんなに無様でもいいから生き延びること。それが最優先。もしそれが嫌だというのなら、それが悔しいというのなら、誰よりも強くなればいいだけだよ。俺は今までそうしてきた。第一、こんな単純な解決策があるのに、それをしないで生きる権利だけを主張するのは甘えだと思う」
「.....」

 俺は完全に打ちのめされてしまった。
 特に『俺は今までそうしてきた』という部分には、現地勇者の自信と実績が大いに溢れていた。

 別に現地勇者の思想全てを完全肯定するつもりはない。
 だからと言って、否定できるだけの自信も根拠もまるでない。

 これに反論を言えるのは、現地勇者と同じぐらいの経験及び実績を残してきた者のみだ。
 それでも敢えて反論でもしようものなら、それは単なる逆張りガイジに他ならないだろう。

「別に舞日さんを責めている訳じゃないんだ。とにかく、あいつには怒る理由がちゃんとあると言いたかっただけなんだよ」
「な、なるほど」
「まぁ、正直言うと、まだあるんだけどさ」
「まだあるんかい!? と言うか、どんだけ原因あるんですか!?」
「多分、こっちが本命だと思うんだよなぁ.....」

 そう言って、現地勇者は遠い目をしながらぽつりぽつりと語り出した。
 そして、現地勇者のその姿を見た瞬間、俺は「あっ。これ、現地勇者も関わりあるな」と思った辺りは、人としてレベルアップしているな、と嬉しく思ってしまった。

 では、聞きましょう。その原因とやらを.....。

「実はさ、俺を強制的に帰還させていた神というのが、さっき紹介した人なんだよ」
「え!? さっき紹介した人って.....まさか!?」

 説明するまでもないと思うが、元女神の美人なお姉さんのことである。
 と言うか、俺は現地勇者に強く言いたい。「そんな因縁浅からぬ二人を嫁にするとか、お前は頭大丈夫か?」と。

 しかも、しかもだ。

 元魔王のお姉さんが、元より快く思っていない神。
 それも、直接の原因となっている元女神の美人なお姉さんを嫁になどしたら、それはそれで元魔王のお姉さんも面白くはないだろうし、より拗らせるような気がする。

(.....結局、全ては現地勇者のせいなのでは?)

 しかし、現地勇者の話はまだ続いていく。

「好きだから仕方がない。.....そう、好き過ぎたんだよなぁ」
「好き過ぎた? どういうことですか?」
「実はさ───」

 そこから語られた内容は唖然とするものだった。
 簡単に言うと、元魔王のお姉さんは元女神の美人なお姉さんに現地勇者を寝取られたという訳だ。

 どういうことかと言うと.....。

 現地勇者と元魔王のお姉さんが恋人関係にあったことは先述した通りだ。
 更に、元魔王のお姉さんが現地勇者にゾッコンだったことは、わざわざ異世界にまで現地勇者を追っ掛けてきた件からも容易に想像できるとは思う。

 そして、それは現地勇者も同じだったらしい。
 現地勇者もまた元魔王のお姉さんを特別に愛していたようだ。

 それはそうだろう。

 初めての勇者召喚の時から今回で3度目。
 その傍らには、常にこの元魔王のお姉さんが寄り添っていたのだから。

 ともに勇者として多くの旅をし、ともに戦い、ともに多くの時間を過ごしてきたのだ。
 それはまさに、現地勇者の全てを知っていると言っても過言ではない女性なのである。

 つまり、元魔王のお姉さんは現地勇者の最愛の人だった。
 そう、元女神の美人なお姉さんとは別の神様による3度目の勇者召喚で、元女神の美人なお姉さんとたまたま偶然に神界で再会するまでは.....。

「え、えっと.....?」
「簡単に言うと、俺の一番があいつじゃなくなったということだな」

「.....」

 俺はあまりにも下らなさすぎる内容に開いた口が塞がらなかった。

 一応、現地勇者の気持ちの変遷理由を教えてもらったが、理解はできる。
 仮に俺が現地勇者と同じ立場だったとしても、恐らくは現地勇者と同じ結果になっただろう。それぐらいの内容である。それぐらいの内容なのだが.....。

(結局、全て現地勇者のせいじゃねえか!)

 恐らくだが、元魔王のお姉さんが神々と関係を改善することは不可能に近いと思う。
 だって、現地勇者の一番さいあいを寝取られたばかりか、お互いが15歳おとなになるまではと約束し、楽しみにしていた現地勇者の童貞までもが元女神の美人なお姉さんに寝取られてしまったのだから.....。

 これで、元魔王のお姉さんが神々に対して良い感情を持っているはずなどない。
 だから、初対面時に、は牙を剥いていたのだと思われる。

 ちなみに、同じ女神であるアテナはどうだったかというと.....。

「あいつは俺と強者以外には全く関心を示さないんだよ」
「でしょうねー.....。そんな気がします」

 この元魔王のお姉さんにマジックキャンディを貰った時のことが思い出される。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「.....」
「.....? これはなんですか?」
「.....」
「答えなさい。歩様が困っているのが分からないのですか?」

 元魔王のお姉さんに差し出されたのは緑色のキャンディだった。
 ただ元魔王のお姉さんは、現地勇者に言われたため仕方がなく出してやった、というオーラがハッキリと感じ取れる程の仏頂面をしていたことだけは今でも鮮明に覚えている。

「○□●▽☆」
「神に対してなんたる不敬。たかが魔族ごときが、己が分を弁えなさい!」
「えっと.....?」
「●◆◎▼★」
「歩様。それはマジックアイテムだそうです。なんでも言語を理解するものだとか」

 へ~。便利なものもあるんだな。
 と思っていたら、既存のマジックアイテムなどではなく、この元魔王のお姉さんが創ったオリジナルのものらしい。

「では、ありがたく.....」
「.....」

───ポイッ。

「え?」
「これはどういうことですか! 答えなさい!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 なんとなく予想がついている方もいるかもしれないが、俺達は元魔王のお姉さんから手渡されたのではない。投げ捨てられたものを拾ったのだ。
 当然、それを見たニケさんが怒り心頭になったことは言うまでもないだろう。

 つまり、この元魔王のお姉さんからしてみれば、ドールは元より半神状態である俺ですらも関心に値しない雑魚だということになる。HAHAHA。

 そして、これ以降ニケさんと元魔王のお姉さんの対立は深まっていくこととなる。

 ちなみに、マジックキャンディは水洗いをして頂いた。3秒ルール。3秒ルール。
 そもそも、異世界言語が全く分からない俺やドールにはどうしても必要なものだったから、そこは文句を言っても仕方がない。

 そうそう。智慧の女神ぱぅわ~で食べる必要性が全くないアテナにも大満足なめろん味だった。
 まぁ、アテナはただ単にマジックキャンディを食べてみたかっただけみたいだが.....。と言うか、この駄女神は女神としてのプライドというものが無いのだろうか?

 ・・・

 その後、ニケさんと元魔王のお姉さんの一触即発な状態は続くも、交流会は何事もなく和やかに進んでいった。
 しかし、俺がちょっとお手洗いを拝借している間にそれは起こってしまう。

 それと言うのも、お手洗いの前まで駆け寄ってきたドールと現地勇者の様子がどこかおかしい。

「主! 厠などに行っとる場合か! 大変なのじゃ!」
「どうした?」
「ニケ様が憤慨されておるのじゃ!」
「舞日さん、すまない。俺がちょっと目を離した隙に、うちの奴が女神さんを挑発してしまったみたいでさ」
「!!」

 それを聞いただけでも、俺の全身に嫌な汗が流れ始めた。
 先程までずっと一触即発な状態のままで均衡が保たれていたのは、ひとえに俺又は現地勇者というニケさん及び元魔王のお姉さんにとっては絶対的な重石があればこそだった。

 それが俺はお手洗いに、現地勇者はちょっと目を放しただけだというのに、こうもあっさりと均衡が崩れてしまうとは.....。俺には───する時間もないのかよ!

 とりあえず、ドールと現地勇者を伴って急いで交流会場へと戻ると.....。

「「.....」」

 そこには気を失って倒れているモリオンとお姫様の姿があった。
 しかも、二人とも明らかに誰かに何かをされた形跡がハッキリと残っている。その何かについては、二人の名誉の為にも黙秘させて頂きたい。

 では、問題は誰がやったかに尽きるのだが.....。

「邪魔者は潰しました。.....さて、死ぬ覚悟はいいですか?」
「貴様! 我の妹をよくも!!」
わたしに不敬を働く者に味方する者もまた同罪です。あなたの妹とやらが愚かなだけですよ」
「殺すッ! 異世界の神だろうと殺すッ!」

「.....」

 着物の袖でそっと口元を覆い隠し、まるで「ホホホ」とでも笑いそうな仕草で嘲笑するニケさん。
 一方、わなわなと体を震わせ、その美しい顔が「醜悪になんかなるの!?」と思わずツッコミたくなる程の美しい顔で怒り心頭になっている元魔王のお姉さん。

 両者は既に戦闘態勢に入ってしまっている。

「これは.....止められると思うか?」
「無理ではないかの? 良くてトカゲと同じ顛末であろうの」
「だよなぁ.....」

 念のため、現地勇者に尋ねてみるも顔を横に振るばかり。
 どうやら、事ここに至っては止める手段はなさそうだ。だったら、ここは静観する他はないだろう。

 だとしたら、俺にできることはただ一つ。

「こうなった原因は?」
「主のせいじゃな」
「なんで!?」
「主があの者の乳ばかり見ておるからじゃ。それに、ニケ様が憤慨されたのじゃ。「歩様を惑わすハレンチ魔族!」とな」
「.....ぐうの音も出ません」

 しかし、ちょっと待って欲しい。これには訳がある。
 それと言うのも、元魔王のお姉さんはえちえちなサキュバスな上に、アテナや元女神の美人なお姉さんを遥かに凌ぐ巨乳。.....いや、爆乳? いやいや、超乳の持ち主だからだ。

 だったら.....。

「見ちゃうだろ!? 見ちゃうよな!?」
「わ、妾に言われてもの.....」

「分かる。分かるよ、舞日さん。その気持ち。むしろ、見ないのは女の子に失礼さえある!」
「ですよね! おっぱいは女性の神秘! むしろ、女性はおっぱいを注目されることに誇りを持つべきです!」

「全くその通り。女の子は見られることで美しくなるんだから、もっと見られるべきだ。それを恥ずかしい? 気持ち悪い? セクハラ? ハァ.....。やれやれ。俺は女の子達に強く言いたい。それこそがセクハラだ! と。モラハラだ! と。ロジハラだ! と。パワハラだ! と。男差別だ! と。男卑女尊だ! と!!」

───ガシッ!

「さすがですね!」
「舞日さんこそ!」

 がっしりと固い握手を交わす俺と現地勇者。
 いまここに勇者付き人勇者女の子バカの熱き友情が生まれることとなった。

 男の友情に言葉はいらない。拳もいらない。必要なのはエロだけ。
 そう、おっぱいさえあれば、男は出会ったその瞬間に長年の親友にもなれるのだ。

「後、お尻や太ももなんかもいいよなッ!」
「分かります!」
「「でへへへへ.....」」

「ぐぬぬ! これだから男どもは!!」

 おっと。怒るなよ、ドール。
 俺はドールのその絶壁なおっぱいもかわいいと思うぞ?


 こうして、(元から一触即発状態で憤慨している)ニケさんと元魔王のお姉さん、そして(俺と現地勇者の露骨な性癖で憤慨している)ドールの3人が怒り狂っている中、交流会はいよいよ最終局面を迎えようとしていた───。


「そう言えば、元魔王のお姉さんはニケさんをどう挑発したんだ?」
「確か.....「貴様に女としての魅力が無いから、いまだに生娘なのだろう? 我を見習え、未通女おぼこ神」だったかの?」

「.....」

 ちょっと、そういう煽りは止めてくれよ。
 それ、俺にも波及してきそうな問題じゃん.....。


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後書き

次回、異世界編『ごめんなさい!異世界さん 終話』!
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