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第6章 力を求めて -再臨ニケ編-
特別編 異世界と愉快な住人達!②
しおりを挟む前回の異世界編のあらすじ
現地勇者は女の子の女の子による女の子の為の勇者だった。
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□□□□ ~受ける影響の大きさ~ □□□□
───たゆゆんっ。
───たゆゆんっ。
「お姉さんのおっぱいきーもちー! あーははははは( ´∀` )」
そう言いながら、元女神の美人なお姉さんの豊満なおっぱいを枕代わりに頭を預けるようにして、すっかりと寛いでしまっているアテナ。
そのせいか、一式うん十万円もしそうな最新式テントにも劣らない程の元女神の美人なお姉さんの見事な乳テントが、まるでアテナの頭を優しく包み込むかのようにその姿を大きく沈ませている。
「.....(ごくっ)」
う、うむ。とても柔らかそうだ。
正直、俺もそこにダイブしたい。.....と言うか、アテナは今すぐその場所を譲れ!
───たゆんっ。
───たゆんっ。
「ありがと? でもね、アテナちゃんのも立派だよ?」
一方、アテナの豊満なおっぱいの形?大きさ?を確かめるかのようにぐいっと掬い上げ、お互いの健闘を称え合う元女神の美人なお姉さん
そのおかげか、超一流家具店の王塚製カーテンにも劣らない程のアテナの見事な乳カーテンが、まるで「私は・・・ここにいる・・・おっぱぁぁぁぁぁい!」とでも言いたげに、その存在感を激しく主張している。
「.....(ちらっ)」
こ、これはこれでたまりませんな。
いつもアテナのおっぱいを、見て、触って、揉んで、洗ってはいるが、その神々しさは飽きることがない。
(.....ふぅ~。いつ見ても、おっぱいは最高だぜ!)
そんな感じで、アテナと元女神の美人なお姉さんのおっぱい劇場を楽しんでいる俺の元に、甲斐甲斐しく紅茶のお代わりを淹れてくれる一人の女性の姿が.....。
「舞日様も胸がお好きなんですか?」
「ぶふっ!?」
こちらの女性は現地勇者の専属メイドさんだ。
まるでたんぽぽが花開いたかのような芯が強くて、でも人間としての柔らかさを兼ね揃えたとてもチャーミングな笑顔が特徴的な女性である。
そして、俺はアテナと元女神の美人なお姉さんとのやり取りを見て少しばかり鼻の下を伸ばし過ぎたようだ。専属メイドさんの素敵な笑顔が妙に心に突き刺さる。
いや、別に専属メイドさんからは嫌悪感や怒気は感じられないんだけどさ?
どちらかと言うと、「やれやれ。男性はみんな胸がお好きなんですね」みたいな印象のほうを強く受ける。
しかし、しかしだ。
(な、なんだろう? この不思議な感じは。この笑顔の前だと、どうしてもシャキ! としないといけなくなるというかしたくなるというか.....)
妙に違和感を感じるこの胸騒ぎ。
この笑顔がなんだと言うのか.....。はたまた、専属メイドさんは関係ない?
(でも、誰かの笑顔にそっくりなんだよなぁ。妙に落ち着くというか、幸せな気分になれるというか.....)
俺が疑問に思っている笑顔の正体に気付くのは、もう少し後のことだ。
そう、この専属メイドさんの笑顔が見れなくなって、何か大切なものを失ったような気分になって、しばらくした後のことなのである。さて、誰なのかは考えてみて欲しい。
「ふんっ! 所詮、乳など脂肪の塊に過ぎぬではないか!」
「お言葉ですが、ヘリオドール様。それは違うかと思います」
「なんじゃ? 異論があるなら言うてみよ。言うておくが、女の魅力などという下らぬ言い訳は聞きとうないからの? 女としての魅力ならば乳以外にもあるしの」
「主人に尽くす者として、楽しんで頂ける選択肢の一つにはなりえると思いますが?」
「な、なんと.....。そ、そうなのか!? 主よ!?」
「そこで俺に話を振るんじゃねぇ!」
いや、確かに豊かなほうが楽しめる選択肢の幅は広いかもしれないけどさ?
それでも、寂しいほうには寂しいほうの良さというのものもあるんだよ? えっと.....。日本文化でいうところのワビサビってやつ?
と言うか、そんなことよりも、こちらの世界にも奴隷は存在する。そして、隷属の首輪も。
ただ、パルテールとは異なり、こちらでは獣人差別みたいなものは全くないらしい。パルテールもこういう部分は見習って欲しいものである。いや、そもそも奴隷制度からして.....。
つまり、俺が何を言いたいかというと、この専属メイドさんは隷属の首輪をしているドールのことを奴隷だときちんと理解しているということだ。
そう理解した上で、ドールのことを一人の人として、一人のお客様として扱ってくれているのである。うん。奴隷に偏見がないとか素晴らしいね!
「いや? 元は偏見があったみたいなんだよ」
「あっ。そうなんですか?」
「でも、ちょっとした事情でどうしても奴隷が必要になったから、考え方を改めさせたんだ」
「なるほど。分かります。奴隷とかなんかかわいそうですもんね」
「それもあるけれど.....奴隷であっても女の子は女の子。だから、奴隷というだけで女の子が虐げられるのはおかしいしさ」
「HAHAHA.....」
現地勇者は相変わらずだった。
しかし、結果良ければ全て良しなのかもしれない。
現地勇者の屋敷にはそれはもう多くの(女の子の)奴隷達が居るが、みんな生き生きとしていて少しも悲壮感が感じられない。現地勇者もそうだが、きっとこの屋敷の住人全てが奴隷を奴隷としてではなく、一人の人間として扱っているのだろう。
それはいい。それはいいのだが.....。
「えっと.....。ずっと気になっていたんですが、それは隷属の首輪ですよね?」
「ん? これ?」
俺がずっと気になっていたのは、現地勇者の首に嵌められている一つの首輪だ。
始めはオシャレアイテムであるチョーカーかと思っていたのだが、どう見ても.....うん。やっぱり、どう贔屓目に見ても隷属の首輪にしか見えない。.....え? 現地勇者って、誰かの奴隷なの!?
「これは【愛隷の首輪】と言って、隷属の首輪とはちょっと違うかな?」
「【愛隷の首輪】? 聞いたこともないですが?」
「俺の嫁の一人が作ってくれたこの世に二つとないマジックアイテムなんだよ。その子は嫉妬深い子でさ。他の嫁とは仲良くしたいけど、俺を自分のものにしたいとも悩んでいたんだ。その結果、お揃いの隷属の首輪をしようと思い立ったみたいなんだよ」
ちなみに、その子は今この場には居ないので紹介は割愛させて頂く。
ただ、その子と現地勇者は『お互いにお互いは自分のものである』という一種の自己満足を得るためだけに、一生外すことのできない【愛隷の首輪】なるものを嵌めたらしい。
現地勇者も大概だが、現地勇者の嫁達も結構な想いでもって現地勇者を愛しているらしい。
「ほぅ。それはなかなか良いマジックアイテムなのじゃ。.....のぅ? 主」
「まさか、欲しいとか言い出すんじゃないだろうな?」
「妾と主の主従関係をより強固なものとするには良い考えとは思わぬか?」
「でもなぁ。一生外せないというのはどうにも.....」
「何も「同じ物にせよ」とは言うてはおらぬ。そう見えるだけでも良いのじゃ」
「あ~。お揃いだったらいいのか。だったら.....」
ここはドールが喜びそうな装備品のほうが良いかもしれない。
それも、せっかく渡すなら俺が作ってあげたほうが喜びそうでもある。現地勇者の嫁さん達みたいに。
(.....となると、決まったな)
ここで、ようやく決まることとなった。
何がって? ヘパイストス様に頂く力についてだ。
それと言うのも、次回、再び運良くヘパイストス様に神様ガチャが当たった時には好きなものを頂ける約束になっている。だから、ずっと何を頂くかを考えていた。
例えば、ナイトさんが持っていた武器と話せる力『刀鳴』もいいなぁとか思ったり、いっそのこと『鍛冶』の力を頂いて自分で武器のメンテナンスをしちゃう?とか思ったり。
基本的には決定打に欠けていたので決めきれずにいたのだが、ここにきてようやく何を頂くか決めることができた。
恐らくだが、ヘパイストス様もヘスティア様同様『付き人のレベルアップ』は望めないだろう。
だったら、ここはいつもお世話になっているドールの為に、ドールが何か喜びそうなものを自作できる力を頂くのも一興かと、そう思った次第である。
「あ、主.....。ふ、ふんっ! 主はたまにこういうところがあるから侮れぬのじゃ!」
「たまに、は余計だけどな?」
「ねぇーねぇー。私にも作ってくれるー(。´・ω・)? 」
「ん? 別にいいけど。アテナがお菓子以外で物をねだるとか珍しいな? 何か欲しいものでもあるのか?」
「そりゃー、指輪でしょー! ヘスティアお姉ちゃんやアルテミスお姉ちゃんに自慢するんだー! 「歩から婚約指輪をもらったー!」ってねー( ´∀` )」
「黙れ」
───ドン!
全く.....。このくそ駄女神は何を言い出すのやら。
アテナとの結婚はあくまで検討中なだけであって、誰が検討している段階で婚約指輪などを渡すものか。と言うか、渡すのなら、俺はニケさんにこそ渡すべきだと思う。
そう思っていたのだが、どうやらアテナは違ったようで.....。
「それ知ってるー! 『黙れドン太郎』だよねー! ぜなぁー! ぜなぁー! あーははははは( ´∀` )」
「黙れドン太郎って、お前な.....。本当は物理さんで.....って、やかましいわッ!」
はい、アテナアウトー!
まだ頂いてもいない力で夢を馳せるのはあまりにも早計。絵に描いた餅に他ならない。
この話はここまでにして、中断していた異世界住人の紹介を引き続きしていこうと思う。
□□□□ ~専属奴隷と専属メイドさん~ □□□□
「そう言えば、専属のメイドなんでしたっけ?」
「はい。そうですよ。王都にて宮仕えしていた頃から、ずっとやらせて頂いております」
こう語るのは、今この場にいる全ての者のお世話を甲斐甲斐しくしている専属メイドさんだ。
ありがたいことに、俺達がこちらの世界に滞在している間は全ての面倒を見てくれることになっている。
年は18歳で、いかにもなメイド服を着用している。
なんでも、このメイド服は現地勇者のお手製なんだとか。と言うか、裁縫もできるとか、現地勇者は万能過ぎないか?
背の丈はニケさんよりも少し高めで、きれいに揃えた茶髪のボブカットは髪色こそ異なるが、どこかラズリさんを連想させるものがある。
しかし、ラズリさんと明確に異なるのは、むっちりとしたボディと大きめなおっぱいである。
見た目こそ凄い美人という程ではないが、どちらかというと美人と言えるもので、俺的には異世界住人の中では緊張をせずに話せる唯一の存在とでも言っていいかもしれない。
ちなみに、説明するまでもないと思うが、この専属メイドさんもまた現地勇者の嫁の一人である。
「え? 元々は王宮に仕えるメイドだったんですか?」
「そうですよ。そこで副メイド長を務めておりました」
「なるほど。だから、そつが無いというか動きが洗練されているんですね」
この専属メイドさんは、メイド喫茶にいるようななんちゃってメイドさんではない。あっ。いや、メイド喫茶とか行ったことはないんだけどさ?
とにかく、本物の職業メイドさんなのである。だから全ての動作に品性と真心が溢れ出ていて、お世話される喜びというやつをハッキリと感じさせてくれるのだ。
しかも、この専属メイドさんはとても優秀な人らしく、王宮のほうでは次期メイド長も確定していたらしい。
そうそう。こちらの世界のメイドという職業は一種の花形職なようだ。
多くの女性が憧れる職業であり、特に王宮や帝宮にメイドとして仕えることは最大の誉れであり、全ての女性の目標でもあるらしい。
つまり、全ての女性の憧れでもある王宮仕えのメイドであり、そこの副メイド長及び次期メイド長確定ということだけでも、この専属メイドさんがいかに優秀な人なのかが分かってもらえたと思う。
なんでも、とあることが切っ掛けでどじッ子属性を発現させてしまったようなのだが、持ち前の優秀さでそのどじッ子属性を抑えているのだとか。どじッ子属性持ちの完璧メイドさんとか、もう訳が分からん。
そんな優秀な専属メイドさんなのだが、この人もまた、先程『現地勇者も大概だが、現地勇者の嫁達も結構な想いでもって現地勇者を愛しているらしい』と紹介した内の一人だったりする。
それと言うのも、全ての地位を投げ捨ててまで現地勇者に同行しているらしい。
信じられるか? 上級国民(予定)だった人が、当時はまだ無名な現地勇者の側に居たいが為だけに、安定を約束されていた将来を全て投げ捨てたというのだから驚きである。
「それほどの方ですから。地位や友人、家族を捨ててもいいだけの魅力とお仕えする価値があるのです」
「うむ! よくぞ言うた! 同じ主人に仕える者として、お主の心意気は称賛に値するものなのじゃ!」
「.....」
愛されてるなぁ.....、現地勇者は。
まぁ、これだけでも、専属メイドさんのメイド道?が凄いものなのはなんとなくだが分かるような気がする。
実際、この専属メイドさんはメイドの給金で幼い妹やお世話になっていた養父母を養っていたようなのだが、現地勇者への愛を貫く為に本当にそれらを投げ捨ててはいる。
つまり、家族愛や恩よりも現地勇者への愛のほうが勝るということなのだろう。
ちなみに、この専属メイドさんの名誉の為に説明しておくと.....。
専属メイドさんの幼い妹や養父母は、現在専属メイドさんからの仕送りが無くとも筒がなく生活できているらしい。
その背景には現地勇者が一枚も二枚も噛んでいるとかなんとか。現地勇者が多くの女性達にここまで愛されている理由は、きっとこういうところなのかもしれない。う~む。参考になるなぁ。
「お誉めに与り光栄です。ですが、ヘリオドール様も並々ならぬご意志をお持ちですよね?」
「どういうことじゃ?」
「私には分かります。ヘリオドール様が舞日様に尽くすのは何も忠義の心だけではないですよね? 私と同じで、一人の女として好きな───」
「お、おおおおお主は何を言っておるのじゃ!? わ、妾は別に.....(ちらっ)」
「.....? なんだよ?」
「ハァ.....。このバカ主!」
───ぎゅむ。
なにやら、呆れたような怒ったような様子で俺の腹をつねるドール。
い、痛いんですけど!.....と言うか、なんで俺はドールに怒られているんだ!?
「舞日様はまだまだですね。ヘリオドール様の苦労が偲ばれます」
「だから、なんで俺が責められているの!?」
「己の足りない頭で、しかと考えるが良い! それまでもふもふは禁止なのじゃ!」
「えぇ.....」
とにもかくにも、俺はドールのご機嫌を損ねてしまったらしい。
結局、俺の膝上からはもふもふが遠ざかり、専属メイドさんの膝上へと移動してしまった。あ~。俺のもふもふが.....。
「あそこのバカな主は放っておいて、互いの主人について語り合おうではないか」
「つまり、自分の主人の魅力について語り合いたいということですか?」
「そういうことじゃな。己の主人を知らずして、何が主人に仕える者か! 主人に仕える者としては、己の主人の全てを知っていることは最低条件であろう? お主もそう思わぬか?」
「その通りです。そして、これは負けられませんね! 主人の魅力勝負とあっては、いくらヘリオドール様が大切なお客様といえど、私としては勝ちを譲るつもりは一切ございません」
「甘い。甘いのぅ。我が主はそれはもう素晴らしき主人なのじゃ! 異世界の勇者様には負けぬ!!」
「私のご主人様だって負けませんよ? それこそ、舞日様に勝るとも劣らずな素晴らしい方です!!」
突如始まった主人談義で、大いに白熱しているドールと専属メイドさん。
いま現在、二人の誇大主張とも取れるものが一つの嵐となって吹き荒れている。
そればかりか.....。
「さすがはヘリオドール。全くその通りです」
「そ~そ~。そ~いうところが~、カッコイイんだよね~」
この時に限ってはずっと歪み合っていたニケさんと現地勇者一行の一人も、なぜか嬉々として二人の主人談義に加わる始末。
「「.....」」
四人の主人談義があまりにも大絶賛の嵐過ぎて、悶え死にそうになっている俺と現地勇者。
誉めてくれるのは素直に嬉しいのだが、こうなんというか、ちょっと恥ずかしい。
それに、ニケさんと現地勇者一行の一人なんて、先程までは和やかに話せていたのに、いつの間にかいかに自分の彼氏が相手の彼氏よりも優れているのかの彼氏自慢をし出して再び歪み合っているし.....。
「.....大変ですね?」
「.....舞日さんのほうこそ」
とにかく、歪み合っているニケさんと現地勇者一行の一人はともかく、ドールと専属メイドさんの主人談義は一向に尽きることなく続いていた。
それはもう『重箱の隅をつつく』と表現してもいい程に、どうでもいいことから小さなことまで誉めちぎりまくるのだから堪ったものではない。
「妾はの! 主との間に子を設ける約束をしておるのじゃ! どうじゃ? 主人の子を孕む。これこそが究極の忠義であり、奉公であろう?」
「だ、誰も、そんな約束なんてしていないんだが!?」
「仰る通りです。私も2番目に子作りして頂ける約束を交わしております。ヘリオドール様。お互い、愛しき主人の為に、その身を粉にして精進しましょう!」
「ちょっ!? おまっ!? ここでそれを言うか!?」
この二人、どんだけお互いの主人のことが大好きなんだよ!?
そして、俺は思った。『奴隷道とはメイド道に似たりと心得たり』と。
この日を境に、俺の(ドール曰く)専属奴隷であるドールと現地勇者の専属メイドさんは急速に仲良くなっていった。
それ故に、ドールのマスタベ───ごほん。お漏らしの件は専属メイドさんの手によって、現地勇者以外には知られないよう配慮されたのである。
□□□□ ~竜姫と狼姫~ □□□□
さて、ドールと専属メイドさんの主人談義はまだまだ続きそうなので、別の異世界住人を紹介しよう。まぁ、聞いていても、恥ずかしいだけだしさ。
「ようこそ、異世界の勇者様。歓迎しますの」
「こ、これはご丁寧にどうも」
「アユム。こいつは何をしているのだ?」
モリオンが不思議に思うのは仕方がない。
いま俺の目の前にいるのは誰がどう見てもお姫様だ。
しかも、そのお姫様はドレスの裾の端をちょこんと摘まんで優雅にカーテシーを決めている。さすがお姫様というべきか、その仕草の美しさに目を奪われる。
そうそう。このお姫様は人間族ではない。
獣人であり、種族的には狼人族といったところだ。
年は14歳で見た目はとても幼く見えるが、気品溢れるその姿にいっぱしのレディーであることが窺える。
少なくとも、まるで子供にしか見えない『うちのお姫様』とは雲泥の差である。これこそが本物のお姫様だと言っても過言ではないだろう。
背の丈はアテナとほぼ一緒で、青髪のこれまたアテナとほぼ一緒のツインテール。
特徴的なのは翡翠と碧眼のオッドアイ、それとかわらしいピンク色のプリンセスドレスを着用しているところだろうか。
ちなみに、もう説明するまでもないと思うが、このお姫様もまた現地勇者の嫁の一人である。
「まぁ、嬉しいですの! これでも私、もう大人なんですの!」
「どういう意味なのだ? 我だって、もう大人なのだ!」
「うん。さすがにモリオンは大人じゃないかな? 年は別にして」
どういうことかというと、そういうことらしい。
つまり、本当の意味での大人。簡潔に言うと、大人の階段を既に上っているということだ。14歳で。
しかも、相手は当然のことながら現地勇者である。.....さすがに引くわー。
「ちょっと待ってくれ、舞日さん!」
「.....聞きましょう。少女淫行のその訳を」
「この世界では15歳で大人なんだ! だから、問題ないんだよ!」
それはこちらの世界でもそうだ。だからと言って、さすがに14歳はないと思う。いくら18歳の現地勇者とは4つしか年が離れていないとはいえ.....。
なんというか、そこは踏み越えちゃいけないラインというか「踏みとどまれよ!」と強く言いたい。
「拒否して女の子に泣かれるぐらいなら抱いたほうが良い」
「またそれですか!? あんた、本当にブレないな!?」
「これでも待ったほうだけどね? 初めてお願いされた時なんて10歳にも満たなかったことを考えればさ」
「えぇ.....」
なんなんだろう?
ドールもそうなのだが、異世界の女の子ってちょっと積極的というかパワフル過ぎないか?
それに、この話をドールが聞いていなくて本当に助かった。
あのエロ狐のことだ。きっと現地勇者の考え方に触発されることは間違いない。
とりあえず、このお姫様は満足しているらしいので、現地勇者の少女淫行の件は見なかったことにしよう。本人達がそれで納得しているのなら、他人がとやかくいう問題でもないしね。
うん。年の問題ではなく、本人達が幸せかどうかだよな。.....いや、俺も現地勇者の影響を受け始めたか?
「本当は妹も紹介したかったんですの。でも、今は居ないんですの。残念ですの」
「妹なのだ? 我のことなのだ?」
「あなたじゃないですの。でも、どういうことですの?」
「我は妹なのだ! お姉ちゃんいっぱいなのだ! だから、我は妹なのだ!」
お姫様は何とも言えない表情をしているが、俺はほっこりしてしまった。
モリオンのこういうおバカなところは本当に癒される。
それに、お姫様の妹ではないけれど、モリオンは嘘を付いてはいないしな。
「笛がとっても得意なんですの!」
「そうなんですか。会ってみたかったです」
エルフに笛か.....。これまたベタだが、そこがいい!
ちなみに、お姫様の妹というのはアテナやモリオン達と同じ義理の妹のことである。
銀髪ダークエルフのちびっこで、お姫様よりもしっかりものの年上らしい。
と言うか、年上なのにお姫様の妹とかもう訳分から.....なくもないな。ドールとモリオンも実際そうだし。
「明日紹介しますの! でも、手を出したら怒りますの!」
「そ、それは怖い.....」
「アユムをいじめるのは許さないのだ! いじめは良くないのだ! 悪い子なのだ!」
「大丈夫ですの。殺しはしませんの。半殺しで止めますの」
「それならいいのだ」
「うぉい!? モリオンさん!? 半殺しはいいのかよ!?」
モリオンもこのお姫様も冗談じゃないみたいだから反応に困る。
それと言うのも、お姫様の紹介で漏れていたことがあるのだが、このお姫様は拳帝なのだ。
魏に禅譲させられた後漢の献帝なのではなく、拳の、体術の帝王なのである。
だから、ただの小さなお姫様と侮っていると痛い目を見る。しかも、このお姫様の世界では最強の存在とのことで、その実力は折り紙付きでもある。
では、お姫様の世界とはどういうことかと言うと.....。
現地勇者が過去に2回の勇者経験をしていることは以前にも説明したと思う。
その2回目の召喚時に現地勇者と出会ったのがこのお姫様で、ここイリアスとは同次元ではあるけれど別世界の住人ということになる。
つまり、このお姫様もまた現地勇者の側に居たいが為だけに、地位や家族その他諸々を全て投げ捨てた上で、ここイリアスに異世界転移してきたということだ。
「覚悟の上ですの。会いたくて来ちゃったんですの!」
「そんな「来ちゃった♪」みたいな軽いノリで言われても.....。と言うか、よく異世界転移なんてできましたね? 結構簡単だったりするんですか?」
「お姉様に頼みましたの! お姉様は天才ですの! だから、大丈夫ですの!」
「二.....。ニ.....。お、お姉ちゃんとにらめっこしてる奴なのだ?」
「モリオンはまだ名前を覚えていないのか.....。と言うか、お姉様って、あの人のことかよ。マジか.....」
お姫様の指差す方向をみて、思わず溜め息が出てしまった。
そのお姉様とやらは、現在女神であるニケさんと絶賛歪み合っているその人なのである。もう一度言うが、女神であるニケさんと歪み合うレベルの人なのだから、相当な天才及び強者なのは間違いないだろう。
(.....ごくっ。ま、まぁ? 別の意味では最強だよな?)
こればっかりは『勝利の女神』であるニケさんですらも敵わない。
アテナどころか、元女神の美人なお姉さんですらも一敗地にまみれることだろう。
ともかく、そのお姉様とやらの紹介は後にするとしよう。
とりあえず、このお姫様は先程拳帝であると紹介したが、実は元から強かった訳ではないらしい。
当然では?と思ったそこのあなた、ちょっと待って欲しい。と言うのも、このお姫様は元はただの心優しき第三王女様で、戦いの『た』の字も知らない単なる小娘だったとか.....。
「拳仙様にいっぱい鍛えてもらったんですの!」
「よ、よく家族が反対しませんでしたね? 普通は心配すると思うのですが.....」
「内緒でお城を飛び出しましたの! 置いていかれるのが悲しかったんですの!」
「分かるのだ。お城の中はつまらないのだ。だから、お外に遊びに行きたいのだ!」
「.....それはちょっと違うぞ、モリオン?」
当然、俺だって、このお姫様が鍛えた上で強くなったと思っていた。
そして、それは確かにその通りだ。その通りなのである。鍛えた上で強くなったのだ。
でも、ちょっと待ってほしい。
当時のお姫様は8歳又は9歳だったという。
しかも、戦いの『た』の字も知らない単なる小娘でもあった。それで、現地勇者の側に居たいが為に城を抜け出して付いていくとか正気の沙汰とは思えない。行動力がありすぎる。
しかも、しかもだ!
このお姫様を現地勇者が守りながら旅をしていたというのなら、まだ理解はできる。
しかし、このお姫様はあろうことか、現地勇者にも秘密にしながら後を付いていったらしい。そして、どうやったかは知らないが、瀕死の重体になるその時までひたすら一人で全てをこなしていたんだとか。
「お慰めできるのは私だけですの。だから、諦めませんでしたの!」
「本当、あの時はビビったよ。でも、だからこそ、俺の側にいる権利と価値がある。な?」
「ですの!」
「す、凄すぎる.....」
先程の専属メイドさんもそうだったが、このお姫様もまた自分の人生の全てを懸けてまで現地勇者を想っている。
『現地勇者も大概だが、現地勇者の嫁達も結構な想いでもって現地勇者を愛しているらしい』をものの見事に体現している内の一人だ。
「ハァ.....」
なんか自分の視野の狭さを痛感した瞬間だった。
そして、俺は現地勇者に対して、何も言えないことを痛感させられた瞬間でもあった。
傲慢うんぬん然り.....。
ハーレム化うんぬん然り.....。
少女淫行うんぬん然り.....。
これらは本当に悪いことなのだろうか?
いいや。地球式の、日本式の考え方だったのなら、まず間違いなく事案になる。
でも、ここは異世界で、俺は現在異世界で暮らしている。
それは現地勇者も同じだ。次元と世界が異なるだけで、それ以上でもそれ以下でもなんでもない。
そんな地球とは、日本とは全く異なる世界で、自分を慕っている女の子が人生の全てを投げ捨ててまで寄り添ってくれるという。寄り添いたいのだという。
(これは.....傲慢になるのは当然では?)
むしろ、傲慢なぐらいでないと、それぐらい自分というものをしっかりと持っていないと、いざという時に女の子を守れないのではないかと思う。
(これは.....ハーレム化になるのは当然では?)
むしろ、人生の全てを投げ捨ててまで寄り添いたいという女の子を、己の狭い倫理観で切り捨てることができるだろうか。
いや、そんなことをすれば双方にとってマイナスしか残らない気がする。
(これは.....少女淫行してしまうのも当然では?)
むしろ、人生の全てを投げ捨ててまで寄り添いたいという女の子のお願いを、己のつまらない倫理観で台無しにしてしまってもいいのだろうか。女の子側だって、勇気を出してお願いした結果だろうし。
だったら、現地勇者のようにある程度待ってからなら、他人に批判される謂れはないはずだ。
「ハァ.....」
結局のところ、現地勇者の行動は全て覚悟の上で、その上で女の子達にとって最善の行動をしていることになる。
そんな遥かに大人な現地勇者に、俺のハリボテのような大人の価値観でもって説教を垂れるなど、もはやお笑い草でしかない。笑止千万。言語道断なのである。
「ハァ.....。俺はなんて小さい男なんだ.....」
「アユム? どうしたのだ? 溜め息いっぱいなのだ」
───ぽふっ。ぽんぽん
「.....いや。なんでもない。モリオン、あの子と仲良くできそうか?」
「できるのだ! 嫌な感じはしないのだ!」
「そうか。なら、色々と教わってくるといい。多分、モリオンにとっても学ぶべきことが多いはずだからさ」
「.....? よく分からないけど、遊んでくるのだ!」
頭をぽんぽんされたモリオンは、のだー!とかわいく万歳して嬉しそうに微笑んだ。かわいい。
こういう時、モリオンのような裏表のない子の笑顔はとても癒される。
とは言え、本当はこういう役目は奴の出番なのだが.....。
「.....すーすー。.....すーすー。.....(^-ω-^)」
「.....」
元女神の美人なお姉さんのおっぱい枕で気持ち良さそうに眠るアテナ。
本当に、このくそ駄女神は自由過ぎる。
異次元世界でもわがままの限りを尽くすとか、ある意味大物感すらある。
「ふふっ。アテナちゃん、寝ちゃったよ?」
「では、今すぐ屋敷内にベッドを用意しますので、そちらをご利用ください」
「なんかすいません。うちの駄女神が.....。お手数かけます」
「本当に姉さまは相変わらずだのぅ。遠慮というものを知らぬ」
「では、行ってくるね? みんなは楽しんでて?」
こうして、元女神の美人なお姉さんに背負われて屋敷内へと運ばれていくアテナ。
当然、最初は俺が運ぶと断ったのだが、元女神の美人なお姉さんがどうしてもというので、ここは甘えることにした。
そして、それが間違いだったと気付くのは、しばらくしてのことだった。
「主! 厠などに行っとる場合か! 大変なのじゃ!」
「どうした?」
「ニケ様が───」
「舞日さん、すまない。ちょっと目を離した隙に、うちの奴が───」
なにやら暗雲立ち込める展開となっているようだが、それは次のお話である。
・・・。
一方、暗雲とは別にほのぼのしていて、思わずにやけ顔になってしまう場所もある。
「先程の女神様との戦いは素晴らしかったですの! えっと.....? お名前はなんですの?」
「我はモリオンなのだ!」
「そうですの。モリオンですの。でしたら、モリオン。私と遊びますの!」
「望むところなのだ! 我は負けないのだ!」
こうして、モリオンとお姫様の壮絶な戦闘が繰り広げられることになった。
戦場はご存知の通り、現地勇者が創ったとされる亜空間だ。
───ガンガンガン。
そこで、目を塞ぎたくなるような打撃と打撃の応酬。
───ドガンッ。
更には、耳を塞ぎたくなるような衝撃音と衝撃音のオンパレード。
そして.....。
「モリオン。なかなかやりますの!」
「お前もなのだ! でも、我は負けないのだ!」
「えぇ.....」
口から血を流し、至るところがアザだらけになりつつも、目だけがらんらんと輝き、互いにニッと微笑み合うお姫様とお姫様。
お姫様とお姫様の真剣勝負とか、あまりにもシュール過ぎる。
それに殴り合っているのに、笑い合っているのもなんか怖い。えっと.....ヤンキー漫画かなんかかな?
そして、遂に決着の時が迫る。
「モリオン。行きますの! 幻奥義華蝶閃鈴ですの!!」
「なんかカッコイイのだ! 我も行くのだ! えっと、えっと.....。なんか凄いパンチなのだ!!」
───ドガァァアアアァァァアアン!
「です.....の.....」
「の.....だ.....」
ともにクリーンヒットで倒れる両者。
その表情からは「出しきった。我が生涯に一片の悔いなし」とでも言いたげだ。だから、ヤンキー漫画かなんかかな?
(まぁ、こういう交流会もありっちゃありだよな)
・・・。
では、最後の紹介となるのだが.....。
「名乗りなさい。歩様が困っているでしょう」
「ふんッ。神ごときの指図など、我が従う謂れはない」
「.....本当に一度死にますか?」
「.....我に楯突いたことを後悔させてやる」
「.....」
う~ん。紹介したくないなぁ。
とりあえず、ニケさんと歪み合うのだけは止めてもらいたいところではある。
俺はそう思いながら、ニケさんと歪み合っているサキュバスなお姉さんを見て、大きい溜め息を一つ吐くのだった───。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
次回、異世界編『ごめんなさい!異世界さん③』!
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今日のひとこま
~王女レッスン~
「モリオンも王女で間違いないですの?」
「そうなのだ! 我はお姫様なのだ!」
「だったら、モリオンも私のように素敵な王女にならないとダメですの! じゃないと、好きな殿方に振り向いてもらえないですの。嫌われてしまいますの」
「そ、そうなのだ!? アユム! そうなのだ!?」
「え? いや、別に嫌いにはならないけど.....。でも、せっかくだから教えてもらえ」
「分かったのだ! お前、我に教えろなのだ!」
「お前ではないですの。私は今から先生ですの。だから、先生と言うんですの。それに、教えろもダメですの」
「ご、ごめんなさい、なのだ。先生! 教えてください、なのだ!」
いい! 凄くいい!
このほのぼのとした感じこそ、俺が求めていた異世界生活だ!
「最初は挨拶ですの。淑女としてのたしなみですの。.....こう、ですの」
「こう、なのだ?」
「下を向いたらダメですの。もう一度ですの」
「分かったのだ! 先生! お願いします、なのだ!」
「その調子ですの。なかなか素直ですの」
「アユム! どうなのだ!?」
「かわいい。かわいい。どこかのお姫様みたいだぞ?」
「おー! やったのだー! 我はお姫様なのだー!」
「何言っているんですの。モリオンは元からお姫様ですの」
「そうだったのだ。我はお姫様だったのだ。.....アユム、嘘ついたのだ?」
「なんでそうなった!? ちゃんと誉めたよね!?」
「そうだったのだ。我は誉められたのだ。やったのだー! 我はお姫様なのだー!」
「なんかループしてますの。いいから続きをしますの」
「分かったのだ。次は何をすればいいのだ?」
「やはり淑女たるもの、殿方を癒せなくてはいけませんの」
「いや.....す? どうするのだ?」
「古来より、殿方を癒すには膝枕と相場が決まっているんですの! それ以上の関係も───」
「あっ。その先はモリオンにはまだ早いので無しの方向でお願いします」
「そうですの? 仕方がないですの。では早速、膝枕をしてみるんですの」
「ひざまくらって、なんなんのだ?」
「こういうことですの。.....いかがですの? 気持ちいいですの?」
「うむ。最高だ。いつもありがとな?」
「いいえですの。喜んで頂いて嬉しいですの」
「.....(ほほぅ。幼女の膝枕か。これはこれでなかなかいいな)」
「分かったのだ! アユム! さぁ、寝るのだ!」
「し、仕方がないな。これも教育の一環───おい、ドール。何をしている?」
「別に主がする必要はなかろう? 妾がやるのじゃ」
「おまっ!? ふざけんな! ここは俺の出番だろうがッ!」
「いくら主であろうと、トカゲの初めての膝枕は譲れぬ。ここは姉たる妾の出番じゃ」
「あれは何を争っているんですの?」
「いいか? 男には譲れない戦いがあるんだよ。それも膝枕とあっちゃ、それこそ戦争だ。俺はドールちゃんを応援する」
「ちょっ!? そこは俺じゃないんですか!?」
「何が悲しくて男なんて応援しないといけないのか.....。俺は常に女の子の味方だ」
「よく分からないですの。でも、私もドールさんを応援しますの」
「くふふ。これで3対1じゃの。主よ、素直に負けを認めよ。それもまた男の潔さの一つなのじゃ」
「嫌だね! 俺は絶対にモリオンに膝枕をしてもらう! 情けなかろうが、土下座しようが、絶対にしてもらう! 男のプライドよりも欲望を優先する!」
こうして、6つの冷たい視線に晒されながら、俺はモリオンに膝枕をしてもらうことになった。
と言うか、欲望に忠実なのは悪いことじゃないって、アルテミス様も仰っていたしな!
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