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第6章 力を求めて -再臨ニケ編-

第199歩目 はじめてのマイホーム!彼女ニケ⑥

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8/11 タイトルを変更しました。

(変更前)はじめてのマイホーム!彼女ニケ⑯ → (変更後)はじめてのマイホーム!彼女ニケ⑥

なお、本文の変更はございません。

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前回までのあらすじ

空間魔法で広げちゃうよー☆

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かなり長くなっています。
世界編!も含めると3~4万字ほどですかね?

あまりにも大変だったので、昨日にUPできませんでした。
楽しみに待っていた方、大変申し訳ありません。

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5/14 世界観の世界編!に一部追記をしました。
   追記箇所は、『魔法と魔術と錬金術』・『スキルの隠しパラメーター』・【魔動駆輪】・【サクラ號】となります。

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□□□□ ~ヘカテーのお願い~ □□□□

 ヘカテー様が施工を開始して1時間。
 遂に俺の.....。いや、みんなの魔動駆輪マイホームが完成した。

「ヘカテー様、お疲れ様です。それにしても、1時間で完成させるとは.....さすがというか凄いですね」
「ありがとー☆ 図案イメージさえしっかりしてればー、そー難しいことじゃないからねー!」
「そ、そうですか.....」

 さ、さすがは魔女の異名を持っているだけのことはあるな.....。

 事実、当初は魔動駆輪マイホームをものの数分で創り上げてしまったのだから驚きである。
 ただ、そこから1時間追加で掛かってしまったのは、ひとえに自重しないわがまま姫どもの追加注文と細かい微調整によるものだ。

 しかも、その段階にまで至ってしまうと、微調整が苦手なニケさんや(元から何もできない)俺達では、当然のことながら何も手伝えることはなかった。
 つまり、ヘカテー様ただお一人に任せっぱなしにせざるを得なかったのである。

「もぐもぐもぐー!.....(ごくんっ)。あーははははは( ´∀` )」
「姉さま、食べながらしゃべるでない。何度も言うておろう?」
「あー! ア.....。ア.....。.....。お姉ちゃん! それは我のものなのだ! 勝手に食べないので欲しいのだ!」
「ささっ。歩様。お茶をどうぞ」

「.....」

 いや、手伝えないだけならまだ良かった。本当は良くないけど.....。
 俺達はヘカテー様お一人が忙しそうに頑張ってくれている中、手伝わないどころか、お茶をしながら待つという最低な高みの見物をしていたのだ。

「へーちゃーん! 私ねー、サウナもほしー! 追加でよろしくねー(o゜ω゜o)」
「わかったー! まっかせなさーい☆」

「.....」

 それに加えて、横から「あれして!」「これして!」と口を挟む始末。

 ヘカテー様の苦労が偲ばれた。
 ただ、ヘカテー様自身は頼られて嬉しかったのか、キラキラと眩しい笑顔を見せてはいたが.....。

(本当にすいません!.....で、いいのかな?)

 何はともあれ、こうしてみんなの魔動駆輪マイホームが完成したのである。
 ただ、施工時間よりも、買い物の時間のほうが長かったことには乾いた笑いしか出ない。HAHAHA。

「ね、ねー。私、頑張ったー?」

 何やら躊躇いがちにそう尋ねてくるヘカテー様。
 そう言えば、頑張ったごほうびにお願いを聞いてあげる約束をしていたのだった。

「いかがですか? 歩様」

 当然、ヘカテー様が尋ねた先にいたのはニケさんだ。

(いやいやいや! だから、おかしいだろ! 俺がヘカテー様のお願いを聞く立場なのに、なぜニケさんに聞くの!?)

 しかし、その疑問はすぐさま解決することになる。
 俺が「え、えぇ。そうですね。ヘカテー様は頑張りました」と伝えると、ヘカテー様から意外なお願いをされることになった。ニケさんが.....。HAHAHA。

「じゃ、じゃー、人間君のことをー.....な、名前で呼んでもいいー?」
「.....」

 ニケさんのにっこりお姉さんスマイルが固まる。
 それの影響か、春もうららなとは決して言い難い陽気だが、それでも過ごしやすかった周りの温度が一気に、それはもうグンッと一気に冷えたような気がした。

「ああぁぁぁあああぁぁ! 私のお菓子がー(´;ω;`)」
「ハァ.....。痴話喧嘩は他所でやって欲しいのだがのぅ」
「のだぁぁあああ! わ、我のおやつがカッチカチなのだぁぁあああ!」

「.....」

 う、うるさいですね.....。

 それにしても、ヘカテー様のお願いとはそれだったのか。
 確かに、この内容では俺にお願いするよりもニケさんにお願いするほうが妥当なところだ。

 それに、俺にお願いしないのは、改めてお願いするまでもないと思ったからだろう。当然だ。断らないしな。
 なら、この場合は、明確な不快感を示すニケさんをターゲットに絞るのは的確な判断だと思う。

「.....よく聞こえなかったので、もう一度お願いします」
「人間君のことを名前で呼びたいのー!」

 今度は毅然とした態度で、そうハッキリとお願いするヘカテー様。
 ヘカテー様は勇気があるなぁ.....。目の前の般若様ニケさんが怖くはないのだろうか。

 そう思っていたのだが.....。

「.....また戯れ言ですか? いい加減にして頂かないと閉じ込めますよ?」
「お願い聞いてくれるって約束したよー? それにねー! 下界ここならそう簡単には負けないもーん!」

「.....」

 俺の目の前で火花を散らして睨み合うニケさんもとい般若とヘカテー様もといたぬき。
 今、ヘカテー様の背後には「ぽんぽこ!」と、おたぬき様の姿がハッキリと見える。

(お、おぅ.....。たぬきや。たぬきが見える.....)

 どうやら俺の勘違いだったようだ。

 ヘカテー様には勇気があったのではない。
 般若に対抗できるだけのたぬきを飼っていたのである。

「.....考えを改める気はないのですね?」
「ないよー! 私は人間君のことを名前で呼びたいのー!」
「.....」
「むむむー!」

「.....」

 剣呑な空気が辺りを支配する。
 このままでは『神界最強の女神 vs 冥界最強の女神』という、興業収入が幾らになるかも想像できない程の映画たたかいが始まってしまう。

 しかし、俺自身には止める手段は何もない。
 先程、二人に制止の声を掛けてみたら、「うるさいッ!」と言われてしまったのだから.....。もはや慣れたことなので気にはしていない。そう、慣れたものさ。HAHAHA。

 そんな困った状況に救いの手を差し伸ばしてくれたのは当然こいつだった。

「私のお菓子かえせーヽ(`Д´#)ノ」

 そう、みんなご存知の駄女神ことアテナだ。
 ただ、救いの手の理由が俺ではなくお菓子な点はイラッとさせられるが、結果良ければ全て良しとしよう。.....いや、やはり後で叱っておこう。一応、あのくそ駄女神は俺の相棒なんだしな。

「し、しかし、アテナ様。ヘカテー様がわがままばかりを.....」
「だってー! ニケ姉が嘘をついたんだもーん! アーちゃんも何か言って.....」
「うるさーいヽ(`Д´#)ノ」

 おおぅ.....。

 前にも言ったが、正論やめんどくさいことへの返しとして問答無用で黙らせるやり方は一つの正解でもある。話がこじれたり、ややこしくなったりしないからだ。.....まぁ、相手の心証は下がるけど。

 そういう意味では、全てに愛される存在であり、心証が下がりようがないアテナにとって問答無用で黙らせるやり方は、これ以上ないベストな選択肢になりうる。

 更に、わがまま大王アテナ横暴わがままは続く。

「私のお菓子をダメにした二人なんてきらーい! もう帰れーヽ(`Д´#)ノ」
「「!!」」

 さすがにこれは効いたのか、顔を青ざめるニケさんとヘカテー様。
 俺の予想で申し訳ないが、恐らくニケさんは「もう帰れーヽ(`Д´#)ノ」の部分に、ヘカテー様は「きらーい!」の部分に反応したのだと思われる。

 一度に二度おいしい。
 いや、一度に二人を戦々恐々とさせるアテナのその腕前に、仮に狙ったのだとしたらもはや脱帽だ。多分、偶然だと思うが.....。所詮、アテナだしね。

 結果.....。

「い、いいでしょう。ここはアテナ様に免じて許すとしましょう」
「とうぜーん! そーいう約束なんだからねー! 嘘つきはねー、泥棒さんの始まりなんだよー!」

 は、晴れやかな?.....うん。晴れやかな笑顔で仲直りの握手を交わすニケさんとヘカテー様。
 何やら、交わした握手のほうから「グググッ!」と力強い音がするようだが、きっと気のせいだろう。だって、ニケさんとヘカテー様の笑顔は、それはもう素晴らしい般若顔とたぬき顔なのだから.....。

 とりあえず、ニケさんから許可をもらえたヘカテー様が嬉しそうにとことこと俺の元へとやってきた。そして、一言。

! 改めてよろしくねー!」


 テレテレテッテッテ~。
 俺は『人間君』から『歩君』へとレベルアップした。


□□□□ ~公開!魔動駆輪マイホーム(サブタイトル詐欺)~ □□□□

「ウチくるー?( ´∀` )」
「いくいくー☆」

 いま、俺の目の前では寸劇が行われている。
 もう今やTVではお目にかけることのできない懐かしい寸劇を、だ。

「アテナちゃんとー」
「ヘカテーちゃんとー」
「ニ、ニケ.....ちゃんのー.....(ぼそっ)」

「ぶふっ」

 更に言うのなら、笑い死に.....ごほんっ。萌え死にさせられる寸前でもある。

「こらー! ニケー! ちゃんとやりなさーいヽ(`Д´#)ノ」
「し、しかしですね? そ、その、恥ずかしいと言いますかやりたくないと言いますか.....」
「じゃー、ばいばーい(´・ω・`)」
「や、やらせて頂きます! 喜んでやらせて頂きます!!」

 ・・・。

『食べ物の恨みは恐ろしい』とはよく言ったものだ。
 先程の『令和般若たぬき合戦ぽんぽこ』事件は、ニケさんとヘカテー様の(表面上)仲直りという結末で解決したのだが、お菓子をダメにされたアテナの怒りは収まってはいなかった。

「ぜんぜんた足りなーい! 足りても足りないのー! 二人とも帰れーヽ(`Д´#)ノ」

 それも、お菓子を再度与えても怒りを静めないという暴君ぶり.....。

「お菓子でもダメですか。困りましたね。.....ヘリオドール、何か妙案はないですか?」
「あることはあるのだがのぅ.....」
「本当ですか? では、それを実行します。教えなさい」
「う、うむ。.....本当に良いのじゃな?」

 結局、困り果てたニケさんが頼りにしたのは、アテナの最愛の妹であるドールだった。
 最愛の妹であるドールのとりなしで、アテナのご機嫌を取ろうと考えたのだろう。実に効率厨なニケさんにふさわしい対処法だ。

 そして、先程の寸劇へと繋がるのである。

「じゃー、もう一度いくよー!」
「はーい☆」
「か、畏まりました」

 では、ドールが考えた『対姉さま用撃退案』は何かと言うと.....。

「ウチくるー?( ´∀` )」

 アテナがくるっと振り向き様に人差し指を顎に当て、パチンッ!とウインクを一つ。
 あざとさ全開だが、それでもかわいい。やはりアテナは何をさせてもかわいいものだ。

 ちなみに、このポーズはドールの考えたオリジナルポーズである。
 本家は普通にタイトルコールだったのだが、それはドールさんに「地味じゃのぅ.....」と却下されてしまった。

「いくいくー☆」

 続いて、ヘカテー様が握り拳を両脇で構えつつ、小さく上下に振る。
 アテナに容姿が酷似しているせいか、ヘカテー様も実にかわいらしい。それプラス、ヘカテー様はちんまいので、ほっこりともさせられる。

 ご存知の通り、ヘカテー様がしているポーズはお馴染みの「いくいく~」ポーズである。
 それでも、ドールさんからは「かわいくないのぅ.....」と酷評されてしまったが、少しぐらいは本家のリスペクトをしないと怒られるというか、本家も立つ瀬がないだろう。

 そういう訳で、ドールさんには我慢してもらう他はない。

「アテナちゃんとー」
「ヘカテーちゃんとー」
「ニ、ニケちゃんのー」

 ノリノリなアテナとヘカテー様、それに恥ずかしさで顔を真っ赤にしているニケさんが声を揃える。
 いや、声だけではなく、ポーズも『Y』の形で見事に揃っている。背後にレインボーな光が見えそうな勢いだ。

 そして.....。

「「「はじめてのお宅訪問~☆」」」

 最後には決め台詞を言って、この長かったような短い収録すんげきは終了である。

「ぶはッ!」

 思わず吹き出してしまった。
 おもしろ.....ごほんっ。三人ともあまりにもかわいすぎる。一生の記録にしたい。と言うか、絶対にする!

───カシャ!

「ちょっ!? 歩様!?」
「まぁまぁ。記念ですから。.....ぶはっ!」
「歩様ーーーーー!」

 絶叫にも近い叫び声で抗議してくるニケさんを華麗にスルーしつつ、俺は写し出された写真を見てみる。
 そこには、俺考案(考えていない)の決めポーズをするアテナとヘカテー様、それにニケさんの姿が.....ぶはっ!

 まず、俺から見て右側に写っているのはヘカテー様だ。
 ヘカテー様は少し膝を曲げた状態でかがみ、両手で両目を塞ぐポーズをしている。ヘカテー様は紫色の深淵な瞳が少し怖いので、そのポーズはナイスチョイスだと言えよう。

 次に、俺から見て左側に写っているのはニケさんだ。
 ニケさんもヘカテー様同様少し膝を曲げた状態でかがみ、両手で両耳を塞ぐポーズをしている。ニケさんは熱くなると周りの意見に耳を貸さない傾向があるので、これもナイスチョイスだと言えるだろう。

 そして、最後は真ん中に写っているアテナだ。
 アテナはヤンキー座りに近い体勢でかがみ、そのまま両手で口を塞ぐポーズをしている。と言うか、お前が口を塞ぐポーズとか悪い冗談かよ!?

「ワイ○マンー(`・ω・´) 」

 はい。アテナ、アウトー!

 そうそう、ドールが考えた『対姉さま用撃退案』というのは、つまり『アテナが食い付きそうな何かをする』ことだった。
 そして、俺が提案したのがアテナも好きな踊りという訳だ。

 ちなみに、俺の提案を聞いた時のニケさんの表情は、それはもう絶望一色だったことは言うまでもないだろう。
 一方、アテナとヘカテー様、それにドールなんかは、まるで面白い遊びでも見つけたかのように燦々と目を輝かせていた。と言うか、なんでドールまで!?お前は関係ないだろ!

「歩様! その恥ずかしい写真を今すぐ!.....いいえ、写真だけではなく記憶ごと、今すぐ消去してください!」
「記憶ごと!?.....ダ、ダメですよ。それは認められません。これは俺の宝物ですからね」
「歩様ぁぁあああ! お願いしますぅぅううう! お願いしますぅぅううう!」

 恥ずかしさのあまり、「消してください! 今すぐ消してください!」と、俺の胸をポカポカと叩いてくるニケさん。
 こんな羞恥心に悶えているニケさんの姿もまた乙なものだ。ぐへへ。.....そうだ。この姿も撮っておこう!

───カシャり。

「いやぁぁあああぁぁぁあああああ! やめてくださぁぁぁああぁぁあああああい!」


 こうして、俺にまた一つ『ニケさんとの新しいコレクション思い出』が増えることとなった。


□□□□ ~公開!魔動駆輪マイホーム(サブタイトル詐欺!?)~ □□□□

 アテナの機嫌も直ったことだし、いよいよ魔動駆輪マイホームを紹介していこうと思う。
 さすがに、これ以上引っ張ると文句の一つでも飛んできそうな気がするしな。

 それにしても、焦らしていくスタイルは、このお話の根本的なスタイルなはずなのだが.....。ふぅ。やれやれ。

 では、軽く魔動駆輪マイホームの外観を説明していこう。

 まず、魔動駆輪の外観は購入時のままである。
 赤と白のレトロな【ハイカラ號】デザインで、ここだけは一切手を加えないように懇願した。それはもう、みんながドン引く程に情けなく懇願した。

 それと言うのも、「ねぇーねぇー! かわいくピンク色にしちゃおーYO(〃ω〃)」とか、アテナが言い出したからだ。

 正直、俺は耳を疑ったね。
 そして、アテナの頭の中も疑ったものさ。

 だが、次の瞬間、「いいねー! まっかせなさーい☆」とか、ヘカテー様がノリノリで答えた刹那、俺は目にも止まらぬ早さでドールさんとモリオンさんに土下座をしていた。

 分かるだろう?
 急いで、この頭のおかしい二人の姉を止めないと、俺の魔動駆輪が、俺の思い出が穢されてしまうからだ。

 そんな訳で、ドールさんとモリオンさんの協力のもと、俺はなんとか事なきを得ることに成功した。
 ドールからは「主人の威厳もくそもあったものじゃないのぅ.....」などと呆れられてしまったが、俺には、男の子には譲れない戦いがそこにはあるので仕方がない。

(威厳やプライドなんかよりも拘りに生きる男、それが俺だ!)


 話を戻そう。

 外観は赤と白のレトロな【ハイカラ號】デザイン。
 全長は5mのままだ。魔動駆輪の大きさ自体は全く弄ってはいない。と言うか、ヘカテー様が空間魔法を使えるので、リノベーションをするとは言っても魔動駆輪の大きさ自体を弄る必要性は全くない。
 また、出入り口は全部で4つ程あるが、これは後程説明する。

 ・・・。

 では、次に魔動駆輪の内部を案内しよう。

 まずは1Fからだ。



 俺達が出入りする正規の出入り口は一つである。
 その出入り口の横に小部屋を設け、もう一つの出入り口としている。これは俺達が出入りする場所ではなくて、来客用の出入り口である。

 それと言うのも、ヘカテー様渾身のリノベーションの結果、人様には到底見せられない魔動駆輪となってしまったからだ。
 故に、来るかどうかは別として、万が一を考え、魔動駆輪の内部を見せない対策として小部屋を出入り口の横に設けたのである。

 だからと言って、侮るなかれ。
 この小部屋、何気に一番費用の掛かった豪勢な小部屋もとい応接室なのである。

 まず、広さは当然のことながら、空間魔法を使って十分に広げている。
 一目見ただけでは、この応接室だけで魔動駆輪の全てだと思ってしまうぐらいの広さはある。大体、20畳以上は余裕であると思う。
 それに加えて、よく分からない絵画やら壺なんかの高そうな調度品の数々。「それは必要なものなのか?」とも思ったのだが、ドール曰く必要なものらしい。

「主は竜殺しであり、建前上は勇者様でもあるのじゃぞ? それに見合った品位というものが必要なのじゃ。また、品位を示すことで、これからも様々な利点が生まれるはずなのじゃ」
「なかなか素晴らしい考えです。歩様。ここはヘリオドールの意見を容れましょう」

 そんなものかね?
 なんか成金くさくて、あまり好かないんだよなぁ.....。

 人生の成功者。.....いや、成金の多くが、金を持つと「お前! 興味なんてないだろ!」と、ツッコミを入れたくなるような絵画やらを集め出すのはもはや定番である。
 中には「金持ちが金を使うのは義務」とか「金持ちが金を使うのは経済が回るから良い」とか言う人もいるが、個人的には「金持ち、特に成金こそ自重すべきでは?」と思ってしまうのは、俺が庶民だからだろうか。

 故に、「調度品なんて、一つ1000ルクアの物でもいいのでは?」と、ついつい思ってしまう。
 それに、恐らくだが、来客も調度品なんていちいち見てはいないと思う。

「主は何も分かってはおらぬのぅ。貴族のバカどもはそういうところもしっかりと見るものなのじゃ」
「そうなのか.....。まぁ、貴族なんて招待しないし、繋がりもないから大丈夫だろ」

 とは言え、ドールとニケさんが結託した以上、俺に断る手段はないので、豪勢な調度品であつらった息苦しい小部屋おうせつしつとなってしまった。
 実に、内装資金の8割は調度品代に消えたという徹底した拘りぶりである。

 さて、入り口を入っていくと最初に目に飛び込んでくるのが、超広々としたリビングだ。
 いや、リビングと言うには少々.....かなりの大きさで、例えるのなら、お城のエントランスホールと言ったほうが正しいのかもしれない。

「ドラゴンになってもいいのだ?」
「いいんじゃないか? 余裕過ぎる広さだもんな」

 ざっと見た感じ、モリオンがドラゴンになっても快適仕様となっている。
 ヘカテー様曰く、「おっけー! ドラゴンモーちゃん3人前だよー☆」らしい。さすがに広すぎないか?.....と言うか、3人前!?

 更に、そこには王塚家具で購入した逆『C』型の巨大なレザーソファーがででーんと置かれている。人数にしてみれば、20人ぐらいはゆったりと座れるものかもしれない。
 デザインは外観を譲らなかった代わりにアテナに一任した結果、かわいらしいピンク色というか桜色のものとなった。
 また、それに合わせるかのように、巨大な赤色の丸テーブルもソファーの真ん中に置かれている。

「これはやばいのぅ.....。座っておるのに、体が沈むようなのじゃ」
「さすがは『一生ものは.....』」
「さすが『一生ものは大塚家具』だねー( ´∀` )」

 それ、まだ引っ張るの!?
 と言うか、大塚じゃなくて王塚さんだから!

 ・・・。

 続いて、ソファーから奥を覗くと、ニケさんの希望したマジックキッチンが姿を表す。
 広さは、そこで団体格闘技が行えるぐらいのものだと思って頂きたい。とは言え、リビングよりかは当然狭い。

「どこぞの一流ホテルの厨房さながらですね」
「ふふっ。この広さなら、歩様と一緒に料理もできますね」
「任せてください! TKGたまごかけごはんだけなら自信ありますよ!」
「なんですか、それ?」

 TKGたまごかけごはんを知らないのかぁ。
 ふっ。雑誌もまだまだだな。

 マジックキッチンの最大の特徴は、魔力を利用することによりフライパンなどの調理器具が一切必要ないことだ。どういうことかと言うと、魔力がイメージした通りの擬似的な調理器具の姿を模倣するのである。
 これにより、食器その他調理器具の一切が不要となるので、置場所に困らないどころか誰でも簡単に料理できる上に、使用後は魔力が霧散するだけなので洗う手間いらずともなっている。

「後片付けがいらないのは便利ですね」
「料理の何がめんどくさいかと言いますと、後片付けが大変なことなんですよね」
「分かります。めんどくさがって、結局既製品で済ますようになっちゃうんですよね」
「ご安心ください。本日以降、このニケが歩様の食事面をしっかりと管理サポートさせて頂きます」

 お世話になりまーす!

 ・・・。

 さて、マジックキッチンの正面に目を向けると、アテナの夢と希望、そしてわがままの限りが詰まったもう一つの水回り場が顔を覗かせる。当然、風呂場とトイレのことだ。

 広さはとにかく広い。リビングと同等。.....いや、むしろ、それを越えている可能性すら有り得る。
 言うまでもないと思うが、風呂場とトイレは別々となっていて、これまたアテナの強い要望であるウォシュレット付きの水洗トイレを二部屋完備している。

「とうぜーん! 朝のお決まりの「お父さーん! 早くしてー!」とかー、シャレにならないよねー! あーははははは( ´∀` )」
「限定的過ぎるだろ.....。それに、アテナ達は大きいのをしないんだろ? なら、ウォシュレットはいらなくないか?」
「しないよー(`・ω・´) シャキーン!!」

 だったら、いらないだろ!
 あれ?小でも使うのか?と言うか、これはセクハラか?

 サウナはサウナだから説明はいらないだろう。
 広さは一般?のサウナよりも3~4倍ぐらい大きい。
 最大の特徴は、危険だと判断されたら強制的に安全地帯に強制転移されるところぐらいか。

 そして、水回り場最後を締め括るのは、アテナが待望した温泉である『魔天温泉』だ。
 広さはモリオンがドラゴンになっても悠々と入れるようになっており、『広さ良し・浸かって良し・飲んで良し・美容に良し・衛生に良し』と、もはやお風呂の頂点に君臨するかの如く、わがままの粋を集めた贅沢仕様となっている。

「ふわぁー! ひろーい! 迷子になっちゃいそうだねー! ヘーちゃんがー(o゜ω゜o)」
「迷子になるのはお前だろ! もし迷子になっても探してやらないからな?」
「だいじょーぶ! 迷子も安心、転移機能付きだよー☆」
「じゃー、安心だねー! あーははははは( ´∀` )」
「「安心だねー!」じゃねえんだよ。迷子になるな!」

 それにしても、ヘカテー様が優秀過ぎる件。
 正解にはヘカテー様というよりかは、ここの管理システムなのだが.....。まぁ、ヘカテー様が創り上げたものだし、間違いではないだろう。

 ・・・。

 1Fの主だった場所の説明はこんなところだろうか。
 その他を簡単に説明していくと、魔力を使用することにて無限の収納を行える『魔限食物庫』・『魔限素材庫』・『魔限道具庫』や、同様に全ての動力の元となる魔力の貯蓄庫である『無限魔力庫』などがある。

 また、俺が希望した男女別の監獄もある。
 作った理由はお察しだろう。

「「お察しだろう」ではない。賊どもなど殺せば良かろう。主は甘すぎるのじゃ」
「そう言われてもなぁ.....。あれは慣れるものじゃないぞ?」

『一度、人を殺せば踏ん切りがつく』・『覚悟さえ決めればどうってことはない』
『一度、人を殺せば慣れるものである』・『大切なものの為ならば、人を殺すことも厭わない』

 よく小説やラノベ、アニメなどで耳にする、目にするワードの数々だが、人は、日本人はそんな簡単に割りきれるものではない。また、割りきってしまえる程、単純な話でもない。
 そんなことができるのは、初めから人を人として見ていない人間だけである。

 俺は、人を一人殺す度に、人が一人死ぬ度に、いつも苦悩にまみれている。
 申し訳なさと罪悪感で心が押し潰されそうになっている。心で悲鳴を上げている。

「だから、何度も言うておろう? 妾に任せよ、とな」
「絶対にダメ!」

 そんなことは天地がひっくり返っても認められない。
 でも、俺が殺さなければ、そのお鉢はアテナ達に回ってしまう。

 だから、俺が殺しているだけだ。

 本当なら、殺人なんてしたくはない。
 できる程の強靭で冷徹な心を、俺は持ち合わせてはいない。

 でも、俺が殺さなければいけなかった。そう、今までは.....。

 この世界の賊退治については『DEAD OR ALIVE』。
 つまり、生死を問わないのが基本なのである。

 だが、賊を町まで連行することを考慮に入れると、あまりにも割りに合わないので、その場で殺してしまうのが一般的であり、常識でもあった。
 賊を乗せるスペースが無かったり、歩かせるにしても常に見張る必要があったり、食料や排泄はいせつ問題、そして最大の原因である体臭問題などなど。

 だから、俺も殺した。臭いのは嫌いだしな!

 でも、もしもだ。
 もしも、それら全てを解決できる策があったらとしたら.....。

 そんな訳で、ヘカテー様にお願いして男女別の監獄を作ってもらうことにした。
 確かにドールの言う通り、俺は甘いのだろう。でも、嫌な思いをしてまで殺人を行いたくはない。俺が殺人を行うのは、本当にそれしかないと判断した時のみ、それこそ苦渋の決断でする時だけで十分だ。

「分かったのじゃ。主はヘタレ。そう言いたいのであろう?」
「誰もそんなことは言っていないんだけど!?」
「謙遜するでない。それにしても、風呂まで作る必要はなかろう?」
「だって、あいつら臭いじゃん? 臭いのは嫌だしさ.....」

 俺はクリ○ンでもなければ、超絶凄い主人公でもなんでもない。
 臭いものは臭いのである。そして、賊は臭い。これは一つの真理とも言える。

(だから、体を洗え! 風呂に入って、心身を清めろ!)

 きっと、賊どもが暴れてしまうのは臭いのが、不潔なのが原因だと思われる。

 昔の人がこう言っていた。『衣食足りて礼節を知る』と。
 それ即ち、こうとも言える。『清潔足りて心身極まる』とも.....。

「誰かは知らぬが、不遜であろう!?」

 そう?そうかな?
 でも、臭いのは嫌なんです!


□□□□ ~サクラ~ □□□□

 あらかた1Fの説明が終わったので、2Fへと向かおうとすると待ったが掛かった。

「ますたぁ、私の紹介はしてくれないんですかぁ?」

 このどこか子供っぽく、猫なで声を出している存在は『サクラ』こと魔力炉だ。
 魔動駆輪の全ての管理をしているAIで、ニケさんの神護『勝利』によって芽生えた自我である。ただ、ニケさんによって生み出された影響か物凄く優秀なのだが、どうにも子供っぽい。

 それと言うのも訳があって.....。

「こいつは『サクラ』。みんな、よろしくな! 以上。じゃあ、2Fに行くか」
「ふぇぇえええん。創造主ままぁ主人ますたぁがいじめるぅ!」
「歩君は意地悪だねー。サーちゃんとも仲良くしてあげてよー!」

 よく分からないが、なぜかヘカテー様がサクラの創造主こと『ままぁ』になってしまったのである。それと言うのも、サクラを支配したのがヘカテー様だからとか.....。
 その為、サクラはどこかヘカテー様に似てしまい、精神上は子供っぽくなってしまった。

「子は親に似るとも言いますしね。それでしょう」
「いやいやいや! いきなり似すぎでしょう! それに、普通は自我を芽生えさせたニケさんを親と見なすのでは!?」
「所詮、自我は自我ですから。だから、自我であっても機械であることに変わりはありません。ですが、支配をすることで、自我が命を持つのです。つまり、自我であっても一つの生命体になるということですね」
「は、はぁ.....?」

 うむ。さっぱり分からん。
 ただ、一つだけ分かったことは、サクラは生きている。魔動駆輪の中で確かに息づいているということだ。.....うん。そういうことにしておこう。

 しかし、これで本当に超優秀なのだから驚かされる。
 サクラとして稼働後、リノベーションしまくった魔動駆輪全てのシステムを瞬時に手中に収めたその手腕は見事の一言だった。

「ますたぁ! きれいな名前をもらった分、頑張るねぇ!」
「お、おぅ.....」

 サクラの純粋な気持ちが、俺の薄汚れてしまった心にグサグサと突き刺さる。
 い、いや。気に入ってくれて嬉しいよ。HAHAHA。.....うぅ。も、もうちょっと真剣に考えてあげればよかったかも.....。

「『サクラ』とは歩様の世界の『桜』のことですよね? 私はきれいな名前だと思いますが?」
「妾は『桜』とやらを見たことはないが、植物の名なのであろう? 響きも良いと思うがのぅ」

「.....」

 サクラだけではなく、ニケさんやドールの純粋なまでの気持ちが、更に俺を追い詰める。
 ニケさんの言う通り、ここは『桜』で『サクラ』と押し通しても良さそうなものだが、なぜかそれでは罪悪感に苛まれる。サクラだけではなく、ニケさんやドールにまで嘘を付いているようで.....。

「違うんですか?」
「ち、違います.....」
「なら、どういうことかさっさと吐かぬか。サクラには黙っておいてやるのじゃ」
「私は例えどんな内容であれ、サクラは感謝すべきだと思います。歩様に名前を付けて頂ける栄誉に与れたのですから」

 ドールさん、マジ天使!
 ニケさんは相変わらずですね?でも、女神!

 そして、俺は観念して『サクラ』の由来を話すことにした。

 切っ掛けは凄く単純だ。
 この魔動駆輪が【ハイカラ號】をモデルにしているのは明白なので、それを参考にしている。

「どういうことですか?」
「【ハイカラ號】というのは大正という時代を模しているものなんです。だから『ハイカラ=大正』とも言えます」
「ふむ。だから、何だと言うのじゃ?」
「そして、ハイカラと言えばハイカラさんを想像してしまうんだ、俺は」
「ハイカラさん.....ですか?」
「ハイカラさんとは、大正時代の女学生が召していた服装のことを指します。ニケさんの召している着物に近いものですが、ちょっと違うんです。あっちは袴なんです」

 着物と袴の正解な違いは分からない。知りたい方はぜひググって欲しい。
 でも、違う。違うと大声で叫びたい。着物よりもハイカラさんのほうがなんか身軽な感じがする。

「そうですか。女学生ですか。歩様はそちらのほうがお好きなのですか?」
「.....え? ニケさんは着物が一番ですね。次点でスーツかと。もしスーツを着るのなら、眼鏡と黒または茶系のストッキングは必須ですよ?」
「.....え? 予想だにしない答えが返ってきて驚いてしまいました」

 いやいやいや。
 和服美人なニケさんも最高ですが、キャリアウーマンなニケさんも捨て難いです。

 どうやら俺の欲望しゅみをぶつけたことで、ニケさんの嫉妬の感情を抑えることに成功したようだ。
 更に、きょとんとしているニケさんには追撃として、「今度一緒にスーツを見に行きましょう! きっとニケさんにお似合いですよ!」と提案しておいた。

「はい! 必ず! 歩様の望まれるニケになりたいと思います!」

 俺との買い物デートに夢を馳せ、幸せモードに浸っているニケさんはこれでもう十分なはずだ。
 恐らくだが、元からサクラにはあまり興味はなかったのだろう。と言うか、俺にしか関心を示さないニケさんはこれで通常通りなはずである。

「それで? その女学生がなんだというのじゃ? 主の話は要領を得なくて分からぬのじゃ」
「あのな? 『大正=ハイカラ=女学生』ときたら、次は華撃団とくるものなんだよ」
「はぁ? なぜそこで歌劇団が出てくるのじゃ?」
「違う。違う。歌劇団じゃない。華撃団だ。花組だ」
「華撃団? 花組?」

 ドールが分からないのも無理はない。
 当然だ。俺だって、内容は正直よく分からない。知名度は結構あると思うのだが、内容よりもテーマソングというか曲の方が知っているぐらいの認識である。あっ!ファンの方のシュバババは不要なんでッ!

 いまだ困惑しているドールに、俺は一気に叩き込む。

「華撃団と言ったら、サクラ〇戦やろがいッ!」
「!?」

 何事も勢いは大事だ。
 既にニケさんが戦線離脱した以上、サクラの命名はなぁなぁで済ませてしまうのが得策である。嘘は付いていないしな!

 とにかく、日本の、俺の世界の文化だと強調しておけば、ゲームから適当に命名した最低な主人であるという誤解を生まずに済むことだろう。

「な、なるほど。主の世界の文化なのじゃな」
「そういうことだ。と言うか、文化から安易に付け過ぎかな? どう思う?」
「先程も言うたが、響きは良いし、これで良いのではないか?」
「そうですよぉ。ますたぁ、ありがとうございますぅ」

 とりあえず、ドールとサクラも納得してくれたようだし、これでいいだろう。

 そして、俺から言えることはただ一つ。
 とにかく、サクラは優秀なAIだということだ。

 そもそも、サクラに任せておけば、常に魔動駆輪は快適、完璧な状態に保たれるのだから。

「はぁい。私、がんばっちゃいますよぉ」


 頑張ってくれ、サクラ!
 大丈夫。サクラを黒之〇会とは戦わせないからさ!


□□□□ ~部屋くる~!?いくいく~!~ □□□□

 1Fの説明はあらかた終わったので、場所を2Fに移そう。
 2Fは主に個人部屋が中心となっており、所謂プライベート空間とも言えるような場所である。



 まず、1Fと同じ水洗トイレを両端に設置している。
 これは緊急措置の為、やむなく設置している。特にアテナ!

 それと言うのも、あのくそ駄女神はめんどくさがってギリギリまで我慢する傾向があるので、1Fのトイレまで待てない恐れがある。冗談だと思うだろう?結構本気なんだぜ?
 故に、緊急措置の為、やむなく設置しているのである。ハァ.....。

 では、簡単にだが、各個人の部屋を紹介していこう。
 こういうのは端から行くのが通例かな。

 最初に紹介するのは、一番右上端の部屋であるドールの部屋だ。
 ドール曰く、「符の実験や研究をしたいのじゃ!」とのことで、敢えて一番端の部屋を選んだらしい。

 広さはおよそ小部屋の半分といったところである。
 部屋の中は予想通りというか意外というか、ぬいぐるみやらかわいい小物で溢れる少女のようなかわいらしい内装となっている。あっ。いや、ドールは少女なんだけどさ。

「広さはこんなもんでいいのか? 実験や研究をするんだろ? もっと広くしてもらうか?」
「妾は奴隷だった故か、あまり広いと落ち着かぬのじゃ。それに、ここは研究室であって、妾の居場所ではない」
「どういうことだ?」
「妾の居場所は主の側。だから、部屋は利用するが、妾のあるべき場所ではないのじゃ」

 ドールは相変わらず忠誠バカなようだ。
 それに、せっかく自室を持てたと言うのに、符に関する時以外はアテナの様子を見ていてくれるらしい。いや、本当に助かる。.....ん?

「もしかして.....ドールがアテナと一緒に居たいだけなのでは?」
「し、知らぬ!」

 そして、相変わらず素直じゃないようである。
 まぁ、かわいいモリオンを目の前でヘカテー様に取られてしまったのだから、アテナだけでも確保しておきたいのだろう。さすがに、アテナがドールを見限ることはないだろうから、無用な心配だとは思うが.....。

 とりあえず、ドールの部屋はみんなの部屋よりも防音と頑丈さをメインに据えてもらっている。

 ・・・。

 次に紹介するのは、ドールの部屋の隣であるアテナの部屋だ。
 アテナ曰く、「コンちゃんの隣がいいー( ´∀` )」とのことで、そこに落ち着いた。

 広さはほとんどない。いいとこ6畳あるかないかぐらいだ。
 それに部屋の中もなんにもない。と言うか、空き部屋と言われてもおかしくない程殺風景である。

「なんだこれ? 部屋.....なのか?」
「んー? だってー、ここ使わないもーん」
「はぁ? だったら、なんでドールの隣がいいとか言ったんだ?」
「お姉ちゃんだからでしょー(`・ω・´) シャキーン!!」

(`・ω・´) シャキーン!!じゃねえんだよ!
 偉そうに言うことか、それ?

 なんでも、アテナは魔天温泉にいるか、リビングにいるかのどちらからしい。
 故に、部屋自体は元々いらないのだとか。でも、ドールの隣はお姉ちゃんとしての矜持で譲れないんだと.....。うむ。さっぱり分からん。

「と言うか、夜どうするんだよ? ベッドもないと寝れないだろ?」

「んー(。´・ω・)?」
「え?」
「ぬ?」
「のだ?」
「えー?」

 あれ? 俺、また何かやっちゃいました?的な.....。

 俺の言葉に、皆一様に不思議な表情を浮かべているのが非常に怖い。
 いや、なんとなくこの後の展開が分かるような気がするので、聞きたくないというのが本音である。だって、ドールの部屋にも様々な家具がある中、なぜかベッドだけがなかったのだから.....。

 そして、アテナの口から真実が語られる。

「歩といっしょに寝るからいいじゃなーい! 歩は私の枕でしょー( ´∀` )」
「誰が枕だ!」

「当然ですね。歩様と一緒でないと、歩様のかわいい寝顔を見れませんし」
「主に何かあったらいけないからの。寝る時とはいえ、片時も離れることなどできぬ」
「みんなと一緒がいいのだ! だから、アユムも一緒なのだ!」
「一人はやだなー。私は歩君と一緒がいいー☆」

 ですよねー。 
 だから、皆さんのお部屋にはベッドがないんですもんねー。

 とりあえず、今後も俺は美女&美少女に囲まれて寝ることになるらしい。

 ・・・。

 続いて紹介するのは、ドールの部屋の正面であるモリオンの部屋だ。
 モリオン曰く、「お姉ちゃんがいっぱいのところがいいのだ!」とのことで、なぜか端を選んでいた。

 広さはとにかくだだっ広い。いや、広いとかいう広さではない。
 それと言うのも、魔動駆輪中、一番の広さを誇っているのがモリオンの部屋なのである。

 いやいや。部屋というのも何かおかしい気がする。
 強いて例えるのならジャングル。そう、ジャングルと言ったほうがしっくりとくる内容だ。

「モーちゃん、10人前だよー! しかもねー、モデルはアル姉の部屋なんだー☆」
「アルテミス様の?」
「アルテミス様のお部屋は一部神獣の為に解放されておりますからね。ヘカテー様はそう仰りたいのでしょう」

 そう言えば、そんなことを聞いたような.....。

 しかも、ご丁寧にモリオン用の動物おやつも用意してくれたらしい。
 これもサクラによる24時間フルサポートで、魔力を媒体にした無限増殖動物なんだとか。但し、それらはある一定数の数が指定されている。当然、指定したのは俺だ。食べ過ぎはダメ絶対!

「三食昼寝付きの楽園なのだ!」
「なんだかニートっぽいな.....」

 ちなみに、モリオンの部屋はモリオンとニケさん、ヘカテー様のお遊戯場ともなっている。
 どんなお遊戯内容かは戦闘狂バトルジャンキーどもに聞いて欲しい。HAHAHA。お、俺は絶対に参加しないからなッ!

 ・・・。

 そんな型破りな部屋であるモリオンの部屋に続いて紹介するのは、モリオンの部屋の隣であるヘカテー様の部屋だ。
 ヘカテー様曰く、「どこでもいいよー!」とのことで、モリオンが「お姉ちゃんは我の隣なのだ!」と誘ったことが発端で、この配置となった。

 広さはドールの部屋と同じぐらいである。それはいい。それはいいのだが.....。
 その、なんというか、独特な部屋だ。ドールのようにあれこれと家具?家具なのかな?が所狭しと並べられているのだが、どれもこれもちょっと怖い。

「あ、あの.....。これは?」
「えへへー! かわいいでしょー☆」
「かわいくないよー。ヘーちゃんはあいかわらずだねー(´・ω・`)」
「お、おまっ!? そんなハッキリと!?」

 確かにかわいいとは無縁なものだが、そこは察して言葉を濁して欲しい。
 当のヘカテー様が「えー? かわいいよー?」と気にしていないだけ、まだマシではあるが.....。

 俺は一つのぬいぐるみを手に取る。
 恐らくだが、うさぎのぬいぐるみなのだろう。

 いや、申し訳ない。
 俺がうさぎのぬいぐるみだと断定できないのには理由がある

「.....」

 そのぬいぐるみは継ぎ接ぎだらけで、おまけに片方の目が取れ掛けている。
 口からは泡に見立てているのか綿が飛び出ていて、手というか前足?には血?らしき赤い模様が見える。
 当然と言っちゃ悪いが、尻尾は抉られたかのように切り取られていて、まともな部分は後ろ足だけだ。いや、右足が前後逆.....なのか、これ?

「えっと.....。これは傷んだぬいぐるみですか?」
「ちがうよー? これはねー、冥界うさちゃんキリングver.なんだー! かわいいでしょー☆」
「ノ、ノーコメントで.....」

 所謂『キモかわいい』というやつなのだろう。日本でもウサビッチだったか?一時期流行ったしな。
 とは言え、ヘカテー様の趣味を否定する訳ではないのだが、理解するには時間が掛かる。あまり触れないでおこう。

(ん? 部屋の中で黒い何かがふよふよと浮いているような.....?)

 いや、俺は何も見なかったことにしよう!

 ・・・。

 そして、ヘカテー様の隣。.....いや、俺の部屋の隣を確保したのがニケさんである。
 ニケさん曰く、「コネクティングルームにしましょう!」とのことで、ほぼ強制的に俺の部屋の隣となった。
 当初は「部屋などいりません。と言うよりも、歩様と一緒の部屋がいいです!」とか言っていたのだが、コネクティングルームで勘弁してもらった。俺だって、たまには一人になりたい時はある。

 広さは6畳程。ニケさんの要望ではない。俺の要望だ。
 そして、ニケさんの部屋を一言で表すのなら『和室』。懐かしいとさえ思える障子や座布団、押入れ、い草の香りが漂う畳などなど。どこか実家を思い出すようで、とても落ち着く空間である。

「すいません。俺のわがままを聞いてもらって」
「いえいえ。歩様が望まれたのですから、私に異論があるはずなどありません」
「でも、ニケさんも自分で色々と弄ってみたかったのでは?」
「何もないことこそ、一番効率的ではないでしょうか? 必要ならば用意すればいいだけのことですし」

 ニケさんもドール同様相変わらず過ぎる。
 それにしても、ニケさんは無趣味というか、俺に関すること以外どうでもいいというか.....。

(それもどうなんだろう? ただ、料理には関心を示したようだし、いずれ他にも何か興味を持ったりするのかもしれないな)

「歩様。これはなんでしょうか?」
「茶道の道具一式です。一応、この部屋は茶室をイメージしていますからね」
「.....なるほど。分かりました。その茶道とやらを見事会得してみせますね!」
「.....え? いや、別に.....」

 しかし、ニケさんは何やら使命感に燃えているようで、目を輝かせてしまっている。
 もしかして.....。俺が勧めれば、何でもニケさんの趣味になったりするのだろうか。ニケさん、ちょろかわいすぎない!?

 そんなどこかちょろかわいいニケさんを連れて、俺は最後の紹介となる俺の部屋へと向かうことにした。


□□□□ ~秘密の小部屋~ □□□□

───グイッ!

「あ、歩様!?」

 俺はニケさんの細くしなやかな腰に手を回し、こちらへと、そう俺の体に密着させるかのように強く引き寄せた。狙った獲物は逃がさない。そう不退転の意思を込めて、力強く。

 お互いの目と目が絡み合う。
 お互いの息と息とが交錯し合う。

 そして、お互いの心と心が重なり合う.....。

「キス、してもいいですよね?」
「あぅ.....///」

 俺の突然の申し出に、まるでボッ!と音を立てそうな勢いで顔を真っ赤にさせるニケさん。
 いや、ニケさんが顔を赤らめた原因は突然の申し出だけではないだろう。

 いま俺は積極的にニケさんにキスを求めている。
 かつてない程に男らしく、彼氏らしくキスを求めている。

 そんな俺の男の部分に触れてしまったことが、ニケさんを一人の女へと変貌させたに違いない。ふっ。俺も罪な男だぜ!.....なんちって!

 あわあわしているニケさんを更に抱き寄せる。

「え、えっと.....」
「ニケさん。好きです」
「!!」

 ニケさんのきれいな灼眼の瞳がとろんッと蕩ける。
 その瞳の奥にハートマークが見えるのは、きっと気のせいではないだろう。メス顔キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!

「ニケさん.....」
「歩様.....」

 そして、ニケさんの既に蕩けたきれいな灼眼の瞳に俺しか映っていないことを確認した俺はそのまま.....。

「「ん.....」」

 小鳥がついばむようなささやかなキスではなく、舌を入れない程度で激しく貪るようなキスを交わした。

 ・・・

 なぜ俺がここまで積極的になっているかというと、俺とニケさんは現在秘密の小部屋なる場所に潜伏中である。
 そして、このアイデアは時尾夫婦の秘密の寝室を元にしている。

 元々、俺が魔動駆輪を求めた理由の一つは『誰の目も憚ることなくキスできる場所』を探すことだ。
 それは俺の部屋でも可能なのだろうが、いつアテナ達が俺の部屋を訪れるか分からないという不安はどうしても拭えない。

 そこで、思い出したのが時尾夫婦の秘密の寝室であり、そのアイデアをもとに、こっそりとヘカテー様にお願いをして秘密の小部屋を創ってもらったのである。
 当然、この秘密の小部屋の存在は俺とヘカテー様、そして、今この場にいるニケさん他知る由はない。

 そういう意味では、この秘密の小部屋は『誰の目も憚ることなくキスできる場所』の条件を満たす最適な場所だと言っても過言ではないだろう。

 ニケさんの唇からそっと離れる。

「歩様.....」

 まだ物欲しそうな視線を投げ掛けてくるニケさん。
 その魅惑な表情が、心ここに在らずな表情が、俺の理性を逆撫でしてくる。「YOU! やっちゃいなYO!」と囁いてくる。

(よし! 行くかッ! 俺の恋愛経験値の粋をいま見せてやる!!)

 覚悟を決めた俺はニケさんの瞳を優しく、しかし強くしっかりと見つめつつ、確実に、それでもゆっくりと目的地へと誘っていく。
 そして、腰に回した手を今一度強く俺の方に、しかし今度はニケさんの上体を優しく倒すかのように引き寄せる。

───ぽふっ。

「あ.....」

 ベッドの上に倒れ込んだニケさんが驚きの小さな声を上げた。
 いまいち状況が掴めていないといった声色だ。

 いま俺の目の前には、まるでベッドに埋もれるかのようにベッドに押し倒されたニケさんの姿がある。
 一方、俺はそんなニケさんの上に覆いかぶさるかのように位置している。端から見れば、俺がニケさんを押し倒しているかのように見えるだろう。

「歩様.....。か、覚悟はできております!」
「え!?」

 どういう意味!?

 始めは驚いた表情をしていたニケさんだが、次第にその表情は喜びの色に染まっていく。
 しばらくすると、全身が茹で上ったかのように真っ赤となり、おまけにぷるぷると体を小刻みに震わし始めた。
 そして、最終的にはベッドの上で「どうぞ! お召し上がりください!」とでも言わんばかりに、マグロ状態となってしまったのである。

(こ、これは.....)

 確実に勘違いさせてしまったようだ。
 俺はあくまでキスをするつもりでいたのだが、どうやらニケさんはえっちぃことをするものだと思ってしまったらしい。
 いや、俺だってニケさんとえっちぃことはしてみたい。それは凄くしたい。

(でもなぁ.....。まだ早くないか? デートなんてまだ片手にも足りない数しかしていないぞ? さすがに早すぎるよな? でも、どうしよう.....)

 ニケさんに手が早い、ヤリチンだと思われたら最悪だ。

「......歩様?」

 一向に、狼さんになってこようとしない俺に疑惑の目を向ける赤ずきんニケさん
 ニケさんがそれを望んでいる以上、手が早い、ヤリチンだとは思われないのだろうが.....。

 それでも、俺はもう少しプラトニックな純愛いちゃいちゃを楽しみたいと思っている。
 初めての彼女なのだから、いきなりえっちぃことをするのではなく、恋人気分というやつを味わっていたいというのが本音なのである。

「あっ.....。申し訳ありません。私の考えが足りませんでした」
「.....ん?」
「歩様は自分で脱がす派ではなく、私が脱ぐのを見ていたい派でございましたか。.....分かりました。は、恥ずかしいですが、頑張らせて頂きますね?」

───しゅるり。
───しゅるり。

「うわぁぁあああ! 脱がなくていい! 脱がなくていいですからぁぁぁああ!」

 このあと滅茶苦茶キスさせられた。


 悪いな! このままニケさんといちゃいちゃしたいから、今日はここまで───。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

次回、特別編!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次話は記念すべき『200歩目』となりますので、本編はお休みさせて頂いて特別編とさせて頂きます。
また、特別編後には、ご要望頂いていた異世界編もUPしようと思います。

よろしくお願いします。
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