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第6章 力を求めて -再臨ニケ編-

第197歩目 死神と死姫の死絆!女神ヘカテー③

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前回までのあらすじ

ドールさんは頼れる相談役!

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更にいちゃいちゃの中休み回。
次話からは再びいちゃいちゃ回です。

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□□□□ ~魔女との再会~ □□□□

「ふぇぇえええん! 人間くーん! こわかったよー!」
「ヘカテー様!?」

 なんと【無限監獄死が2人を分かつまで】から出てきた大罪人は『冥界の女神』ことヘカテー様だった。
 しかも、【無限監獄死が2人を分かつまで】の中からはこちらの様子が見えていたのか、抜け出してくるなり一直線に俺の胸へと飛び込んできたので、その小さな体をしっかりと抱き止める。

「ふぇぇえええん! 暗いとこ怖かったよぉぉおおお!」

 どうやら、【無限監獄死が2人を分かつまで】の中は真っ暗らしい。
 仮に、そんなところに閉じ込められていたら、俺だって精神がやられそうだ。

 昔、人は暗闇に恐怖する生き物だと何かで知ったことがある。多分、TVだったかな?
 それと言うのも、人は暗闇の中には何かがいると勝手に想像してしまうものだかららしい。オバケとかが、その最たる例だろうか。豊か過ぎる想像力が、逆に仇となってしまうパターンである。

 そして、『考える力は人に大いなる奇跡を与えてきたが、一方でマイナスとなるべきものもあるのである』と、その何かは偉そうに締め括っていたような気がする。うん。間違いなく、TV。こんな偉そうな締め括りをするのはTVの他にはないと思う。(※主人公の個人的な感想です)

 とりあえず、俺の胸の中で泣きじゃくるヘカテー様を安心させる為にもそっと抱き締める。

「にへへー! 人間君、あったかーい☆」
「.....」

 かわいい。

 先程まではあんなに泣きじゃくっていたのに、今やアテナのお株を奪うかわいらしいにぱー☆を見せている。
 さすがにあまりにもな豹変ぶりに、思わず嘘泣きを疑ってしまう程だ。とは言っても、良い子のヘカテー様に限ってそれはないだろうが.....。子供の表情は、感情はよく変わるというが、ヘカテー様もきっとそれなのだろう。

 そもそも、ヘカテー様は暗闇を怖がっていたようだが、俺の記憶が正しければ冥界もそう大差はないように思われる。まぁ、【無限監獄死が2人を分かつまで】の中に入ったことがないから正確な比較はできないんだけどさ?

 だからと言って、「あれ? 冥界も真っ暗でしたよね?」というツッコミは、さすがに俺とヘカテー様の再会には無粋だろう。子供が泣いているのであればそっと慰める。これが大人ってもんだ!

「人間くーん。人間くーん」

 その後も、すりすりと甘えてくるヘカテー様が落ち着くまで、俺の胸を貸すことにした。


□□□□ ~死の匂いを撒き散らす女神。略して~ □□□□

───ピキッ!

 どこからともなく黒いオーラが漂ってくる。
 相当お怒りであるようだ。誰が?言わずとも知れたあの女神様ヒトである。

「ヘカテー様。そろそろよろしいでしょうか?.....それとも、『また』閉じ込められたいですか?」

「ひぃぃいいい!」
「「「.....」」」

 ニケさんの静かな、それでもどこか感情の冷めたもの言いに、ヘカテー様の体がビクッ!と跳ねる。

(こ、これはヘカテー様じゃなくてもビビるわ.....)

 実際、俺も背筋がぞわッ!としたし、(元からだけど)ドールやテディも毛という毛を逆立たせている。
 平気なのは、当然の如くアテナとな"ー、それにモリオンだ。.....って、あれ?

 モリオンの様子がどこかおかしい。
 俺やドールのようにビビっている訳ではなさそうだが、どこかもじもじしているというかそわそわしているというか、落ち着きがないようにも見受けられる。それに顔も少し赤い。

(.....風邪か? だけど朝は元気だったよな? まぁ、今のところは大丈夫そうだし、注意して見ておくか)

 それよりも、今はドールだ。

「あ、あるじ.....」

 きれいな黄色の双眸にめいっぱいの涙を溜め、全身が小刻みにぶるぶると震えている。
 その姿はニケさんと初めて会った時と同じ.....いや、それ以上な勢いで恐怖に駆られているようにも見える。
 それも、ヘカテー様の姿を見てからはより一層その恐怖の度合いを強めているようなので、このまま放置していては気を失ってしまう恐れすら有り得る。

(.....これはヤバイな。まずはドールをなんとかしないと。でも.....)

 ヘカテー様のほうも気になるといえば気にはなる。
 しかし、ニケさんが美しい、それはもうにっこりと美しい笑顔でヘカテー様を手招きして呼んでいるので、ここはニケさんと(保険として)アテナに任せることにしよう。さすがにもうおしおきはないと思うし。.....しないよね?

「耳と尻尾を触るぞ?」
「.....」

 ドールからの返事はない。
 しかし、かろうじてこくりっと首が動いたので、了承ということなのだろう。では、いただきます。

───もふもふ

「大丈夫だ。ヘカテー様に害意はない」
「.....(ぶるぶる)」

───もふもふ

「自惚れている訳じゃないんだが、これでもヘカテー様には懐かれているしな」
「.....」

 俺はできるだけ優しくドールの耳と尻尾をもふる。
 それに加えて、穏やかな口調で状況説明をゆっくりとしていく。

 賢いドールのことだ。
 安全さえ確認できれば、恐怖も自然と治まっていくに違いない。そう、ニケさんの時と同じように.....。

───もふもふ

「.....あ、あれは何者なのじゃ?.....(すりすり)」
「冥界の女神様。それと、アテナの友達らしい」
「め、冥界の女神様.....。や、やはりのぅ.....」

 幾分か落ち着いてきたのか、細々と語り出すドール。
 ここぞ!とばかりにちゃっかりと抱き付いてきたので、ヘカテー様の時と同様に胸を貸すことにする。普段、ドールには頼りっぱなしなので、こういう時に主人として何かできるのは案外嬉しいものだ。

 じ───ッ。
 じ──────ッ。
 じ─────────ッ。

「「うっ.....」」

 どこからか突き刺さるような視線を感じるも、きっと気のせいだろう。
 なぜか俺の胸の中でドールも冷や汗を掻いているが、きっと気のせいに違いない。うん。気のせい。と言うか、冷や汗を掻きつつも、マーキングするかのようにすりすりとしている辺りはさすがというか図太いというか.....。

(こ、これは必要な措置! 必要な措置なんです! そう、応急措置の一環なんです! 決して約束を破った訳ではないんですよ、ニケさん!!)

 先程、ニケさんとは「私の前で、私以外の女といちゃいちゃするのは禁止です!」という約束を交わしたばかりではある。
 しかし、今は別にドールといちゃいちゃしている訳ではないので、そう心の中で言い訳をしつつ話をドールへと戻していく。

「え、えっと.....。やはり、とはどういうことだ?」
「あ、主は何も感じぬのか?」
「感じる? 何を?」
「ぐぬぬ。主は鈍感なのか胆が座っておるのか、よく分からぬのじゃ! 妾は今でも震えが止まらぬのじゃぞ!」

 確かに、ドールの体はまだ少しばかり震えている。
 それでも、介抱する前に比べたら全然マシなレベルではある。と言うよりも、鈍感とは心外である。俺は「俺、また何かやっちゃいました?」みたいな無自覚系主人公ではないはずだ。

「何を今更.....」
「うるせぇやいッ! いいから早く教えろって!」

「まぁ、よかろう。.....ヘカテー様からはの、死の匂いが漂っておるのじゃ。それもかなり濃密な、の」
「死の匂い? 腐臭ってことか? そんな臭いは少しも.....」

「違う。実際の匂いではない。雰囲気というか、身に纏うおーらそのものなのじゃ」
「雰囲気.....」

 正直なところ、よく分からない。
 あぁ、でもヘカテー様は「私は冥界の番人なんだー☆」とか言っていたような気もするから、あながちドールの言う死の匂いがなんたらかんたらってのも間違ってはいないのかもしれない。

 それに、確かに冥界で初めてヘカテー様に出会った時には「お前は死神かよッ!?」と驚いたものだが、それは死神っぽい雰囲気を醸し出していた大きな鎌を持っていたからだ。
 しかし、今はそれを持ってはいない。そうなると、俺にはどこからどう見てもちっこいアテナにしか見えない訳なのだが.....。

「やはり主は鈍感.....」
「話をぶり返すな。それで? ヤバいのか?」
「ヤバいのぅ.....。主よ、ニケ様の時にも言うたが、決してヘカテー様を怒らすでないぞ?」
「そんなにか.....」

 ヘカテー様がなんとなく凄いのは知っていた。
 実際、その身を持って体感した上に、なんでもニケさんとタメを張れる数少ない女神様でもあるらしい。確か、他にニケさんとタメを張れる神様はゼウス様とポセイドン様ぐらいしかいないんだっけか?.....なるほど、これはヤバいわな。

「ヘカテー様は、ニケ様とはまた違ったべくとるの怖さなのじゃ」
「と言うと?」

「まずニケ様はの、圧倒的な強さなのじゃ。逆らうことそれ即ち、生に対する暴力というか、生きる権利に対する冒涜を感じるのじゃ」
「なにそれ!? やだッ! 怖いんですけど!?」

 そんな俺の姿を見て、ドールは「だから、「ニケ様を怒らすな!」と、妾は何度も言うておるのじゃ。命がいくつあっても全く足りぬ」と、そう締め括る。
 それにしても、『ニケさんに逆らうこと=生きている価値なし』とか無茶苦茶な価値観である。いや、やはりそこは神様らしいというべきか.....。なんだかんだ言っても、ニケさんも神様の1柱だしな。

「対してヘカテー様はの、死へと誘ってくるのじゃ。生に対する拒絶というか、生きる権利そのものを認めないといったものを感じるのじゃ」
「そ、そうか.....」

「ヘカテー様は冥界の番人といったかの? ならば、まさしくそれにふさわしい死神様なのじゃ」
「死神様って、お前.....」

 あれか?
 死の匂いを撒き散らす女神様。略して「死神様」ってか?

「お後がよろしいようで」
「やかましいわッ!」


□□□□ ~お前、お姉ちゃん決定!~ □□□□

 ドールの尻尾がふりふりとかわいく振られている。
 耳や尻尾ももっふもふになった以上、ドールはもう落ち着いたと判断してもいいだろう。

「ぬ? まだじゃ。妾はまだ怯えておるのじゃ.....(すりすり)」
「怯えている人が、自分で怯えているとか言いません」
「ぐ、ぐぬぬ。主はもう少し妾を構うべきなのじゃ!」

 はいはい。ドールかわいいよドール。

 さて、ドールはもう良しとして、次にフォローに向かうべきはヘカテー様なのだろうが、いまだニケさんによるお説教?お説教なのかな?は続いているようだ。アテナがつまらなさそうにしているのが、いい例である。となると、迂闊に近寄れないので、どうしたものか.....。

───くいくいっ。

 と、そんな時、俺の服を引っ張るドールの姿が見えた。

「どうした? もうさすがに構ってやれないぞ?」
「もっと構うのじゃ! と言いたいところじゃが、トカゲの様子がおかしいのじゃ」
「モリオンが?.....って、あぁ!」

 ドールに言われて、ようやく思い出した。
 そうだった。様子がおかしかったのは、何もドールだけではなくモリオンもだったのだ。そんな俺の気配を察したのか、何やらテディが「キュ、キュ、キュ! (ポキュもおかしかったよー!)」と言っているが、お前は知らんッ!

「どうした、モリオン?」
「.....うぁ?」

 うん。やっぱりおかしい。
 どこか上の空といった感じで、ポーッとしている。それにやっぱり顔が少し赤い。

「風邪.....かのぅ?」
「う~ん。確かめてみるか」

───ピトッ。

 おでことおでこを合わせてしあわせ。な~む~。じゃなくて、体温を確かめてみる。
 熱いといえば熱い。だが、これが平熱だと言われれば平熱なような気もする。と言うか、そもそも竜族の平熱がどれぐらいなのかが分からない以上、おでこを当てたところで確かめようがなかった。てへぺろっ☆

「てへぺろっ☆ではない。何をしておるのじゃ、主は.....」
「いや、熱を測る際の定番じゃん? おでことおでこのぴったんこはさ」

 ただ、モリオンの様子から、恐らく風邪ではないと思われる。かと言って、いまだ熱にうなされたようにポーッとしているのは変わらないのだが.....。さて、どうしたものか。

 そんな困り果てた状況で、何かを感じた。

 じ───ッ。
 じ──────ッ。
 じ─────────ッ。

「うっ.....」

 まただ。また鋭い視線を感じる。
 それも、先程よりもずっと強い視線を感じるのだ。

 それはそうだろう。だって.....。

「いかがなさいましたか? 歩様」

 俺達の異変に気付いたのか、ニケさんがこちらとやってきたのだから。それはもうにこにことした素晴らしい笑顔付きで.....。なんだか、ニケさんの背後におどろおどろしく般若の姿が見えるのは錯覚だと思いたい。ひ、ひぃぃ!

「え、えっと、ですね。モリオンが.....」
「そう言えば、先程は何やらモリオンにキスをされようとしていましたよね? 詳しく説明をお願い致します」

「いやいやいや! それは誤解です! 俺はただ熱を測ろうとしただけで.....」
「熱を.....ですか。手でも十分ではないでしょうか? おでこである理由をお願い致します」

「うっ.....。い、いえ、相手が子供の場合の定番と言いますか.....」

 これは死んでも「ポーッとしていたモリオンがかわいらしかったから」とは、口に出せそうにない雰囲気だ。
 ここはニケさんの俺に対する愛に縋る他はない。キスは本当に誤解ですからね!俺はニケさん一筋なんですから!!

「では、それを証明して頂けますか?」
「証明と言うと.....あれですか?」
「はい。キス以外ありませんよね?」

 結局、場所をトイレに移して愛の証明キスをする羽目になってしまった。
 ドールからは「いちいちトイレに行かずとも、ここでしたらよかろう?」と言われ、それを聞いたニケさんが「そうですよ! 歩様もいい加減に腹を括ってください!」と便乗してきた。.....だが断る!

 ・・・。

 とりあえず、ニケさんのご機嫌が直ったところで本題に戻るとしよう。

「ニケさん。モリオンがこうなった原因が分かりますか?」
「そうですね。私には分かりかねます。ただ、病気ではないようですよ」

 やはり病気ではないようだ。一応、一安心といったところか。
 ただ、だとしたら、モリオンは一体どうしたというのだろうか。いまだにポーッとしていて上の空。それによく見ると、ある一点をじーッと見つめている.....?

「理由は分かりませんが、本人に聞いてみるのが一番手っ取り早いでしょう」
「え? それはどういう意味.....」

───パンッ!

「ちょっ!? ニケさん!?」

 俺の言葉を待たずして、手を叩いて小気味良い音を一つ立てるニケさん。
 いま明らかに『勝利』の神護を使いましたよね!?『意識に勝利した』とかなんとか無茶苦茶な理論で!

「ご明察です。さすがは歩様ですね」

「いやいやいや! 「さすがは歩様ですね」とかじゃなくて、ちょっと強引過ぎませんか!? 何が原因かも分からないのですから!」

「ですから、その原因を本人に聞くのが一番効率的なのではないでしょうか? 考えたところで、それは推測の域を出ないのですから。だったら、他者があれこれと考えるよりも、本人に直接原因を聞いてしまった方が手っ取り早いと思うのです」

 それはそうなんだろうが.....。いや、しかし、モリオンに何かあったらと思うと.....。
 まぁ、ニケさんはその心配がないと判断した上での行動なんだろうけどさ。.....あれ?そうだよね?

 そんな俺の疑惑の眼差しを華麗にスルーしたニケさんは、モリオンの体を揺さぶって意識を戻そうとしている。

───ガクガクガク!

「ほら。早く起きなさい、モリオン。早くしないと強制的に叩き起こしますよ?」
「止めてあげて!? せめて優しく起こしてあげてください!」

 どうやら、ニケさんの愛は姉妹になろうとも妹には向かないようだ。
 いや、多少意識している部分(名前で呼んでいるところとか)はあるのだろうが、アテナやドールのようにはいかないらしい。例えるなら、少し気になる人間といったところだろうか。

「当然です。私の愛は歩様ただお一人のものなのですから」
「ニケさん.....」

 ニケさんの愛は相変わらず激しい。
 それに、大真面目な顔でそんな嬉しいことを言われてしまったら、俺としてはそれを受け入れる他はない。

(頑張ェ! モリオン!! ニケさんに叩き起こされる前に何とかして起きるんだ!)

 ・・・。

───ガクガクガク!
───ガクガクガク!

 その後も、ニケさんによるらんぼう.....ごほん。愛のある揺さぶりは続いた。
 さすがにドールも「あ、あれでは逆に起きぬのではないか?」と心配しているようだが、俺としてはニケさんの愛をしっかりと受け止めた以上、モリオンがこれで起きてくれることを願う他はない。だ、大丈夫かな?

 しばらくすると、モリオンが意識を取り戻したようで.....。

「.....くぁー!」
「おはよう、モリオン。(ニケさんに乱暴に揺さぶられた)気分はどうだ?」
「おはようございます、なのだ! 気分はすごくいいのだ!」

 はい、おはようございます。

 どうやら、モリオンの気分は絶好調らしい。
 生気が並々と、元気が満ち満ちと溢れ出ているようだ。これでこそ、うちの元気印である。

 それはそうと、早速先程までのポーッとしていた理由を尋ねてみる。

「なんのことなのだ?」
「えぇ.....。またそのパターンかよ.....」

 最悪のシナリオだ。と言うか、いちいち記憶を飛ばしすぎだろ!
 モリオンは、まるで【黒死化】の時と同じように全く覚えていなかった。

 これでは何の意味もない。
 原因追求できないもの程、後味の悪いものはない。

 ただ、どうやら進展はあったようで.....。

「こいつはなんなのだ?」

 ニケさんに叱られて半べそをかいているヘカテー様を指差すモリオン。
 しかも、ニケさんの時とは違って、明確な敵意は感じ取れない。いや、むしろ凄く興味を持っているような.....?

「こちらはヘカテー様。冥界の女神様だ。そうだな。アテナとおな.....」

 と、そこまで言い掛けたところで、それは起こった。

「お前! 我のお姉ちゃんに決定なのだ!」

「は?」
「Σ(・ω・*ノ)ノ」
「え?」
「ぬ?」
「えー?」

 突然のことに、俺を始め、アテナやニケさん、ドール、それにヘカテー様ですら驚きの声をあげた。
 いまだ皆一様にして、ぽか~んと口を開けて呆けている状態だ。と言うか、モリオンは千○かよ!?

「い、いきなり、どうしたんだ?」
「お姉ちゃん(=ヘカテーのこと)はすごいのだ! 我と一緒なのだ!」
「一緒? 何が一緒なんだ?」
「一緒は一緒なのだ! 我とお姉ちゃんは仲良しなのだ!」
「な、なにー?.....って、人間君!? どうすればいいのー!?」

 うむ。さっぱり分からん。

 ただ、モリオンがヘカテー様のことをいたく気に入っているのは見ていれば分かる。
 モリオンは、闘牛士に突撃する猛牛のように、餌を目の前にした猛獣のように、まるで弾かれた玉の如くヘカテー様へと飛び込んでいったのだから。

 さて、「お姉ちゃん! 大好きなのだ!」と、ヘカテー様とゆりゆりしく戯れているモリオンはさておき、俺は智慧の女神(笑)であるアテナにどういうことか尋ねてみた。
 ちなみに、ニケさんが「むぅ! なぜ私に尋ねてくれないんですか!」と文句を言っているが、そもそもの話、ニケさんが「分かりません。本人に聞いてみましょう」とかなんとか言って強引に招いた事態であることをお忘れなく。

「しらなーい」
「.....。(こいつ、つっかえねぇ.....)」

「でもー!」
「なんだよ?」

「私が一番上のお姉ちゃんだからねー(`・ω・´)」
「どうでもいいわッ!」

 はい。お前、バカ決定!

 所詮、アテナはアテナだった。
 それにしても、頼れるのが限定的俺が困っている時のみというのが本当にもどかしい。もしかしたら、本当は知っているんじゃないかとさえ疑わしくもなる。

 とりあえず、アテナお姉ちゃんバカニケさん俺大好きバカは役に立たないと分かったので、ここはドールを頼るしかないと思ったのだが.....。

「ぐ、ぐぬぬ。今度こそトカゲを取られた気分なのじゃ!」
「.....」

 ダメだった。
 ドールも、もはや『妹大好きバカ』へと変貌する有り様。.....頼りになる連中が全滅するとはこれいかに!?

「キュ、キュ、キュ! (お前も大変だな。まぁ元気だせや!)」
「な"ー! な"ー! な"ー! (安心してー! 私はいつも味方だよー!)」
「テディ、な"ー.....」

 二人.....。いや、違う。二匹の優しさが心に沁みる。
 まぁ、何を言っているのかはさっぱり分からないが.....。HAHAHA。

 そんな淡い友情を築いている俺達の元に、手を繋ぎすっかりと仲良くなったヘカテー様とモリオンが訪れた。

「人間君! 人間君! みてみてー! 私にかわいい妹ができたよー!」
「良かったですね、ヘカテー様。仲良くしてやってください」
「お姉ちゃんはすごいのだ! いい匂いがするのだ!」
「いい匂い? いい匂いってなんだ?」

 ヘカテー様はそんなにいい匂いがするのだろうか。くんくんっ。
 う~ん。そこまでいい匂いとも言えないような.....。いや、いい匂いがしているのは確かなのだが、そこまで絶賛する程ではない。例えるなら.....そう!女の子特有の甘い匂いといった感じだ。

(それに、いい匂いというならニケさんのほうが.....)

「うわー。ふつー、嗅ぐー?r(・ω・`;)」
「そ、そんないい匂いだなんて...../// あ、あの、誉めて頂けるのは嬉しいのですが、少し恥ずかしいです///」
「あ、主よ.....。いくらなんでも、堂々と女子おなごの匂いを嗅ぐとかさすがにないのじゃ。主は変態なのじゃな」
「アユムはへんたいなのだ? へんたいってなんなのだ?」
「やだー! 人間君嗅がないでよー! はずかしいでしょー!」

「ちょっ!? 待って!?」

 皆の、俺を見る目が一気に冷えたようなこの感覚。癖に.....したくない!
 確かに俺はいい匂いが好きなのかもしれない。とは言え、匂いフェチという程ではないが.....。と言うか、いい匂いなら大体の人が好きなのではないだろうか。

 それに、こうなった原因はモリオンの「いい匂いがするのだ!」の発言が発端になったと強く主張したい。

「でもー、ヘーちゃんの匂い嗅いだよねー(。´・ω・)?」
「えぇ。確かに嗅ぎましたね。私なら(恥ずかしいですが)いくら嗅いで頂いても構わないのですが、他の女の匂いを嗅ぐ行為は素直に誉められた行為とは到底言えません」
「どう言い繕っても、嗅いだ事実は消えぬ。観念することじゃな」
「我は嘘は言ってないのだ! お姉ちゃんはいい匂いがするのだ! 信じて欲しいのだ!」
「あのねー、別に嫌じゃないんだよー? 言ってくれればー、人間君ならいつでもいいんだー☆」

「か、勘弁してください.....」

 男一人に女多数では勝てる見込みが全くない。ここは非を認めるべきだろう。まぁ、実際嗅いだことは事実だしな。
 そして、項垂れつつも俺の非を認めた(ニケさんには後程謝罪のキス)後、モリオンにいい匂いとやらがどういうことなのかを詳しく伺った。何度も言うが、普通の匂いならアテナやニケさんのほうが断然良い。

「いい匂いはいい匂いなのだ!」
「それが分からないんだよ.....」
「んー。難しいのだ。お姉ちゃんと我は一緒だからなのだ!」
「一緒だからいい匂いがする.....?」

 ますます意味が分からん。ヘカテー様とモリオンの何が一緒だというのか.....。
 第一、似ているところと言えば、ともに120cm付近のちびっこということぐらいしかないような気がする。そもそも、容姿的なもので言うのなら、ヘカテー様はモリオンよりもアテナにそっくりだと思う。

「全然違うのだ! 匂いが一緒なのだ! だから我とお姉ちゃんは一緒なのだ!」
「匂いが一緒? さっきと言っていることが違くないか? いや、そうでもない.....?」

 ヘカテー様とモリオンの何かが一緒だから、ヘカテー様はいい匂いがする。それ即ち、モリオンもいい匂いがすると繋がる訳だ。
 つまり、ヘカテー様とモリオンは一緒だということになる。ややっこしいな!.....と言うか、その何かを知りたい訳なんだが?

「なんで分からないのだ?」
「と、言われてもなぁ.....」

 まぁ、ヘカテー様とモリオンが仲良くしているのなら、この際どうでもいいか。
 モリオンが、なぜヘカテー様と急に仲良しになったのか不思議に思っただけだし。

 そう思っていたら、意外なところから答えが返ってきた。

「ねーねー。人間くーん。この子モーちゃんはねー、私と一緒なんだよー!」
「一緒? ハァ.....。またですか。ちなみに、ヘカテー様は何が一緒なのか分かりますか?」
「うんー! 分かるよー! だってー、私と一緒なんだもーん☆」
「なん.....だと!?」

 マジか.....。もっと早くに尋ねてみるべきだった.....。
 どうしても見た目がアテナに酷似しているせいか、俺はヘカテー様を少し侮っていたようだ。すいませんっした!

「では、何が一緒なのか教えてもらってもいいですか?」
「そだねー。人間君に分かりやすくいうとねー。そこにいるー.....えっとー?」

 ヘカテー様の視線の先にいるのはドールだ。
「名前が分からないなら、鑑定すればいいのに.....」とは思ったが、しない理由はニケさんと同じなのだろう。いちいち人間ごときに使う必要性はないし、使う習慣も興味も、それこそ道理もないと.....。

 まぁ、ヘカテー様も神様の1柱な訳だし、そこらへんの事情は仕方がないだろう。

「ドールですか?」
「うんうんー。ドーちゃん」
「ドーちゃん.....じゃと!?」
「はいはい。ドールかわいいよドール。だから、少し黙っていような?」

 話がめんどくさくなるから黙っていてくれ、ドール!

「私とモーちゃんはねー、アル姉とドーちゃんみたいな関係だねー!」
「アルテミス様とドールのような関係?.....えっと、つまり?」
「モーちゃんは私の眷属ってことかなー☆」

 な~んだ。そういうことか。
 だから、一緒ということか。ようやく納得したよ。HAHAHA。

 ・・・。

「うぇええ!? 眷属ぅ!?」
「正確には違うんだけどねー。でもー、すごーく近い関係だよー☆」
「えぇ!? ど、どういうことですか?」

 ヘカテー様曰く。

 ヘカテー様は『冥界の番人』であり、『死者の案内人』でもあり、『死を司る女神』でもあるらしい。
 一方、モリオンは竜族の中でも稀有な種族である『黒死竜』であり、その本質は負のエネルギーが源となっている種族でもある。そして、『死』とは負のエネルギーの一種であり、その中でも最も強いエネルギーなんだとか。

「つまりあれですか? 『負』の大元締めがヘカテー様であると?」
「違うよー! 私は『負』じゃないのー! 『死』なのー! ただねー、『負』の中の一番強いエネルギーが『死』であってー、それが私ってだけなのー!」

 なんとなく、ヘカテー様の言いたいことが分かった。
 なぜかと言うと、俺には負の大元締めが誰なのかある程度予想がついているからだ。

(ハァ.....。モリオンはヘカテー様の眷属であると同時に、エリス様の眷属でもあるのか.....)

 そして、俺のこの考えはあながち大きく外れてはいないだろう。

 それと言うのも、ヘカテー様とエリス様の神界での序列の有無は正確には分からないが、恐らくエリス様のほうが格上なのは間違いないと思う。双子の兄であるアレス様がオリンポス12神の1柱であり、その妹であるエリス様はアレス様の付き神なのだから。

 そして、『争いと不和』とかいうあからさま負のエネルギーを司っているエリス様。うん。ほぼほぼエリス様が負の大元締めで間違いはなさそうだ。
 けれども、実質負のエネルギーの最強格である『死』を司っているのはヘカテー様であると。

「そーそー! さすが人間君だねー! かしこーい! でもねー、私はそのエリスってヒト知らないんだけどねー! あーははははは☆」
「.....」

 おいおいおい。
 それ、大丈夫なのか?

 う~ん。神界という場所は本当によく分からない。
 ヘカテー様に限らずニケさんにしてもそうなのだが、なぜ部下に強大な力を、それこそ主神を遥かに凌ぐ力をホイホイと気軽に与えるのだろうか.....。危機管理意識がなさすぎでは?

 ・・・。

 とりあえず、ヘカテー様とモリオンは『死』繋がりで仲良くなったらしい。
 それを、ヘカテー様は理屈で、モリオンは感覚というか本能で感じ取ったみたいである。

「お姉ちゃんの側にいると元気になるのだ!」
「ふっふーん。もー、アーちゃんはいらないんじゃなーい?」
「こらーヽ(`Д´#)ノ 私の妹奪うなー!」

 うるさいですね.....。

 そう結論付けると、モリオンの異変も納得できるというものだ。
 自分よりも遥かに大きく、強い『死』の存在であるヘカテー様が側にいるのである。それは熱にうなされたようにポーッとなるだろうし、「お前、我のお姉ちゃんに決定なのだ!」とか突然言いたくなる衝動に駆られる気持ちも十分に理解できる。

 モリオンにとってヘカテー様は一種の憧れに近い存在だと言えるのかもしれない。

「モーちゃーん。どっちのお姉ちゃんがすきー?(´・ω・`)」
「お姉ちゃん(=ヘカテー)なのだ! でも、お姉ちゃん(=アテナ)も嫌いじゃないのだ!」
「ねーねー。アーちゃん? 妹の支持を得られないお姉ちゃんとかー、長姉失格だよねー?」
「ふぇぇえええん(´;ω;`) あぁぁあああゆぅぅうううむぅぅううう」

「.....」

 本当にうるさいですね.....。
 チマメ隊でも送りこんで黙らせてやろうか!?


「モーちゃん。今後もよろしくねー☆」
「お姉ちゃん! よろしくお願いします、なのだ!」

 深い深い深淵に佇むような瞳をたたえつつにぱー☆と微笑むヘカテー様と、「のだー!」とかわいく万歳して嬉しそうに微笑むモリオン。


 こうして、死姫モリオン死神ヘカテー様という新しいお姉ちゃんができましたとさ。
 それはアテナ×ドールのような非常に強い姉妹仲.....。いや、死妹しまい仲であり、死の絆に繋がれたとてもつよ真っ黒きれいな関係なのだと思われる。

 実際、二人のつよ真っ黒きれいな関係を示すものがあったりする。それは.....。

「歩様。歩様」
「どうしました?」
「モリオンなのですが.....」
「はい」
「またレベルが上がったようですよ?」
「うぇぇえええ!? 【黒死化】になっていないのにですか!?」
「どうやら、ヘカテー様の強い『死』のエネルギーに触発されたようですね」


 おいおいおい!?
 二人はどんだけ相性バッチリやねんッ!?


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『モリオン』 レベル:4 危険度:極小

種族:竜族(黒死竜)
年齢:661
性別:♀

職業:ー
称号:竜族の姫

Lv.4(人間ver.)  Lv.4(竜ver.)     
体力:88000    体力:176000
魔力:92000    魔力:184000
筋力:96000    筋力:192000
耐久:96000    耐久:192000
敏捷:92000    敏捷:184000

装備:なし

技能:ステータス

Lv.1:状態異常耐性

Lv.2:魔法耐性

Lv.3:索敵/感知/物理耐性

Lv.4:鑑定/偽造

加護:『捕食』Lv.4 4/4
   『魅了』Lv.4 4/4

絶技:『黒死化』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ヘカテー』 レベル:  危険度:極小

種族:女神
年齢:ーーー
性別:♀

職業:女神
称号:冥界の魔女

体力:
魔力:
筋力:
耐久:
敏捷:

装備:???の大鎌

Lv.5:

Lv.6:

神護:『魔術』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

次回、本編『魔女の神髄』!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今日のひとこま

~お姉ちゃんがいっぱいの弊害~ 

「お姉ちゃんがいっぱいできて良かったな」
「嬉しいのだ! お姉ちゃんいっぱいなのだ!」
「やっぱり一番好きなのはヘカテー様なのか?」
「お姉ちゃんなのだ!」

「ドールは?」
「お姉ちゃんも好きなのだ!」
「ふーん。俺はてっきりドールかアテナだと思っていたんだがな」
「お姉ちゃんは好きなのだ! でも、お姉ちゃんはもーっと好きなのだ!」

「でも、ヘカテー様が一番なんだろ?」
「そうなのだ! お姉ちゃんがナンバーワンなのだ!」
「ナンバーワン.....。ニケさんは?」
「お姉ちゃんは怖いのだ.....。でも、かっこいいお姉ちゃんなのだ!」

「ねこみやねここは?」
「誰なのだ?」
「うぅん。聞かなかったことにしよう。じゃあ、モリオンにとっての一番のお姉ちゃんはヘカテー様なんだな」
「それは違うのだ」

「どういうことだ?」
「一番好きなのはお姉ちゃんで、一番かっこいいのはお姉ちゃんで、一番優しいのはお姉ちゃんで、一番楽しいのはお姉ちゃんなのだ」
「お、おう。そうか.....。と言うかな、モリオン?」
「なんなのだ?」

「モリオンはちゃんとみんなの名前を覚えているのか? お姉ちゃん、お姉ちゃんとしか言っていないよな?」
「アユムはアユムなのだ!」
「ねぇ!? 俺の話聞いてた!? 誰も俺の名前を聞いてはいないんだっての!」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんなのだ。間違ってるのだ?」

「いや、間違ってはいないけどさ? 実は覚えていないとかないよな?」
「な、なにを言ってるのだ? 覚えていないはずがないのだ!」
「ほーん。じゃあ、試してみるか。.....おーい! 『アテナ』、こっち来い」
「なにー(。´・ω・)?」

「じゃあ、モリオン。このお姉ちゃんの名前を言ってみろ」
「なにいってるのー! 歩はー! モーちゃんが私の名前を分からないはずないでしょー( ´∀` )」
「.....」
「え.....r(・ω・`;)」

「お、お、お姉ちゃんなのだ!」
「(´・ω・`)」
「はい。アテナ、アウトー!」
「ふぇぇえええん(´;ω;`) 歩のバカぁぁあああ!」

「なんで俺なんだよ!?」
「ア、アユム.....」
「ハァ.....。嘘付いたな? モリオンはみんなの名前を覚えるまではおかわりなし」
「のだぁぁぁぁぁあああああ!」


モリオンだけじゃかわいそうなので、(自称)教育親の俺としても監督不行届ということで、俺もおかわりなしとしておくか。まぁ、元々俺はおかわりしないんだけどね。
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