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第6章 力を求めて -再臨ニケ編-
第192歩目 素晴らしき日本の文化!彼女ニケ①
しおりを挟む8/11 タイトルを変更しました。
(変更前)素晴らしき日本の文化!彼女ニケ⑪ → (変更後)素晴らしき日本の文化!彼女ニケ①
なお、本文の内容の変更はございません。
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前回までのあらすじ
ニケとモリオンが姉妹になった!
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サブタイトルを『彼女ニケ』に変更しました。
変更前 『女神ニケ』 → 変更後 『彼女ニケ』
以前のサブタイトルは変更しません。
また、今後はニケ以外にも変更になるキャラクターが登場します。
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□□□□ ~『黒い』と書いて『ニケ』と読むのです~ □□□□
ニケさんとモリオンが姉妹となった翌日、俺は現地勇者の屋敷にて目を覚ました。
「おはようございます。歩様」
「ん、んぅ.....。おはようございます。ニケさん」
目を開けて一番最初に飛び込んできたのは、清々しい朝に相応しい微笑みをたたえたニケさんの姿だ。
そして、いまだ眠気覚めやらぬながらも、頭にはっきりと感じることができる柔らかい感触。
「いかがでしょうか?」
俺の頭を優しくなでつつ、そう尋ねてきたニケさんに、俺は「最高です」と返事を返した。
朝起きたら、愛しい彼女の『膝枕&なでなで』のサービスが出迎えてくれるとか最高以外の何物でもない。仮に、文句の一つでも付けようものなら、それこそ罰が当たるってもんだ。女神様だけにな!
そもそも、どうしてこのような状況になっているかというと───。
昨日、ニケさんとモリオンの壮絶な戦闘が終わったあの後、俺達は現地勇者の言葉もあり、屋敷にて手厚い歓迎を受けることになった。
その時の話はいずれするとして、実は(歓迎を断って)そのまま元の世界に戻ることもできなくは無かった。
しかし.....。
「やっぱり、ニケさんでも影響があるんですか?」
「そうですね。神界にいる時とでは全く異なります。
今の私はちょっとばかり強い人間みたいなものです」
ちょ、ちょっとばかり.....?
それはさすがに無理があるのでは?
覚えている方もいるかもしれないが、降臨されている間の神々は力の制限を大きく受ける。
これはアルテミス様に教えてもらったことだが、例え最強の女神であるニケさんであっても例外ではないらしい。
それと言うのも、少し考えてみれば分かることだが、【異次元転移】は相当な力を使うみたいだ。
ニケさんはケロッとした態度をしていたので俺は全く気付けなかったのだが、現地勇者一行の美人なお姉さんがこっそりとその事実を教えてくれたので初めて知ることができた。
(くそっ! 彼女の体調を気遣えないとか彼氏失格だ!)
「疲れているでしょうから、今日は現地勇者の言葉に甘えようと思います」
「お気遣いありがとうございます。ですが、全く問題はございません」
「無理は良くないですよ? 【異次元転移】は相当な力を使うんですよね?」
「それはそうなのですが、『疲労に勝利』してしまえばなんてことはないです」
疲労に勝利って、なに!?
もう、何もかもが無茶苦茶である。
ちなみに『疲労に勝利』とは、所謂体に覚醒を促すようなものらしい。
どういうことかと言うと、モリオン戦でも見せた意識改変みたいなものなんだとか。
まず始めに、『疲れている』という意識を『疲れていない』と改変するようだ。
しかし、実際は疲労している訳で、そのままでは脳から送られてくる『疲れていない』という信号と相反してしまうことになる。
その結果、体が自然と整合性を保とうと働きかけ、その影響で自然治癒能力が爆発的に加速されるらしい。そして、ニケさんクラスにでもなると、その処理がほぼ一瞬で終わってしまうようだ。
これで、疲れているという事実が無かったことになる。
つまり、体力全快ということだ。
そして、次に『魔力が足りていない』という状態を『魔力で満たされている』という状態に改変するのだとか。
当然、その後の流れは体力と同様となる。
もちろん、意識改変後には例えニケさんであっても、モリオンと同じように何らかの支障は生じるらしい。
しかし、それはレベル6の治癒魔法で一発回復させるから問題無いとのこと。
「ですので、こちらの世界に来て早々、既に全快しておりましたよ」
「.....」
ワーカーホリック気味な日本人も真っ青な永久機関である。
まさに『最強の女神』を冠するだけのことはある。さすがはニケさん!.....で、いいのかな?
「ただ、管理外世界への転移は正当な理由以外では禁じられておりますので、一日の内に何度も使用することはなるべく避けたいというのも本音でございます。
と言っても、アテナ様の御名に泥を塗る怖れのある事実は全て揉み消しますが」
あっ。結局は揉み消すんですね。
どうやら、体は問題無くとも体裁には問題があるようだ。
ただ、ニケさんは揉み消すから問題は無いとは言いつつも、既にアルテミス様との一件で大罪を犯してしまっている。
いくら監視の目が無いとはいえ、ここはなるべく揉み消す作業を減らしてあげるのが大人の配慮というものだろう。
(アルテミス様のように謹慎中とかいうつまらない理由で、ニケさんとデートできなくなったらそれこそ悲惨だしな!)
結局、みんなと協議した結果、異次元世界にて一泊していく(=現地勇者の言葉に甘える)ことになった。
そして、現地勇者一行の手厚い歓迎を受けた後、俺達には屋敷の一室を宛がわれて今に至るということだ。
閑話休題。
ニケさんのなでる感触がとても心地好い。太股からは温もりを感じる。
俺を見つめるニケさんの眼差しはまるで母親のようだ。このままニケさんに包まれつつ、優雅に二度寝とシャレ込みたい。
ただ、幾つか気になることがある。
「.....アテナが俺以外のところで寝ていますね」
確か、昨夜は一つのベッドで.....。
【モリオン】 【ドール】 【俺 × アテナ】 【ニケさん】
上記のような形で寝ていたはずである。
しかし、今は.....。
【モリオン × ドール × アテナ】 【俺 × ニケさん】
このような勢力図となっている。
【モリオン × ドール】のゆるゆりな構図はいつものことなのでいいとしても、【モリオン × ドール × アテナ】の超お宝級な構図はなかなかに珍しい。思わず、記念に一枚撮りたくなる衝動に駆られる。
いや、ニケさんに膝枕されていなかったら、絶対に撮っていたことだろう。
それというのも、アテナは寝ていても無意識の内に俺の体の上によじ登ってくる習性がある。
どうやら、本気で俺を自分の枕だと思い込んでいるようだ。とは言え、俺も慣れたものなので、もはや気にもしていないが。
だから、俺が同じベッドにいる間は俺以外のところで寝ていることはあまりない。
例外があるとすれば、それは俺が日課であるウォーキングに行く時で、その場合は【モリオン × アテナ】となる。
以前はモリオンも俺の日課に付いてきていたのだが、今では睡眠を優先するようになった。と言うか、「子供は大人しく寝ていなさい!」と言い聞かせた。ドール?ドールは言わずもがな俺に付いてくる。
故に、【モリオン × ドール × アテナ】のこの構図は非常に珍しいものとなる。
だから、俺が興奮してしまうのも無理はない。
だって、人に罪はあっても芸術に罪はないのだから.....。
特に、俺がアテナと同じベッドであるというこの状況において、【モリオン × ドール × アテナ】という神展開は絶対に有り得ない。
それはつまり、人為的な何かがあったという訳だ。ちらっ。
「.....(にこにこ)」
ニケさんからの返事はない。
いや、女神の微笑みという返事だけがあった。
「.....」
「.....いけませんでしたか?」
意外とニケさんには黒い部分があるようだ。
主神であり主人でもあるアテナに対しても.....。
いや、別に、それに関して問い詰めるつもりは全く無いのだが、一応訳だけは聞いておこう。
「歩様と一緒に居られる間は少しでも独占しておきたいな、と思った次第です。
普段、アテナ様は歩様を独占されておりますので、こういう時ぐらいは.....と判断致しました」
つまりは嫉妬が原因であると?
いや、違う。彼女としての矜持、彼女として当然の行いか。
「やはり、いけません.....でしたか?」
不安げな表情で、許しを得たそうな表情で、そう訴えかけてくるニケさん。
かわいい。膝枕されていなかったら、その場で思わず抱き締めていたに違いない。
ニケさんが俺の答えを今かと今かと待つ。
と、その時。
「.....う、うーん。.....あ、ゆむー.....」
【モリオン × ドール × アテナ】の均衡が崩れ、アテナが俺の体の上によじ登ろうとしてきた。
「.....」
「.....」
本当にこのくそ駄女神は空気を読まない。
そして、今度はそんな駄女神を払いのけようとしないニケさん。俺の答えを、俺の気持ちを待っているのだと思われる。
だから、俺は.....。
───ゲシッ。
「.....」
「歩様!?」
そんなニケさんの想いに応えるべく、まるでゾンビのようにゆっくりと俺の体の上を這い上がってくるアテナを無言で払いのけることにした。
「ふぎゃ!?」
そして、俺に払いのけられたアテナは、某ゲームで撃たれたゾンビのように女の子が出しちゃいけない声をあげて、器用にも【モリオン × ドール × アテナ】の形にすっぽりと収まっていった。こいつ、寝てるのにすげぇな.....。
そんなバカはさておき、俺はニケさんに一言。
「もう少し、この状況を堪能させてもらってもいいですか?」
「はい! 喜んで! これからもそうさせて頂きますね!」
え?これからも?
ま、まぁ、別にいいか。
前言撤回。
ニケさんは相当黒かった。
□□□□ ~これって、いつ頃から始まったの?~ □□□□
さて、腹黒ニケさんの『膝枕&なでなで』を堪能しつつ、俺は他の気になることについても尋ねてみた。
それは、この『膝枕&なでなで』についてだ。
いくら寝ていたとはいえ、俺は(冒険者としての癖で)常に警戒の姿勢を崩してはいなかった。
それが、いつの間に.....。
「歩様が寝入った後しばらくしてです」
「.....」
どんだけ『膝枕&なでなで』してるんですか!?
俺が昨夜寝入ったのは、確か24時ちょい過ぎだったはず。
アテナ達はいつも通り22時には就寝したが、俺は現地勇者に晩酌を誘われた(本当は断ってもよかったのだが、専属メイドさんも一緒だというので快く応じた。でへへ)影響で少し遅くなってしまった。
そして、今は5時を少し過ぎたばかりだ。これはいつも通りの起床時間である。
通常はこの後日課であるウォーキングに勤しむ訳なのだが、さすがに今日は自粛しよう。他所様の土地に来てまで日課をこなそうとするのは些か非常識だと思う。
つまり、俺は約5時間近くもニケさんに『膝枕&なでなで』をされていた訳だ。
少しばかり頑張り過ぎではないだろうか。
そもそも、寝なくても大丈夫なのだろうか。ほら、この後デートだしさ?寝不足とか.....。
「ご心配には及びません。デートはデートできっちりと楽しませて頂きます!
それにですね、私達神に睡眠というものは必要ありませんので」
へ~。「24時間働けます!」ってか。
ますます神様という存在がワーカーホリック体質なように思えてきた。.....ん?
「あれ? アテナは寝ていますが.....」
「アテナ様はアテナ様ですから」
「そう.....ですね。それ以外無いですね」
「はい。仰る通りです」
俺とニケさんはどちらからともなく、お互いに笑い合ってしまった。
そう、アテナはアテナだから寝るのだ。
必要かどうかじゃない。アテナだからこそ眠るのである。
これ以上無い的確かつ至上なる答えだ。
これ以上の答えは、きっと『智慧の女神(笑)』と謳われたアテナですらも導き出せないだろう。
疑問が解消したところで、俺はスッキリとした気持ちで再びニケさんの『膝枕&なでなで』を堪能することに.....。
さすがに、5時間以上も『膝枕&なでなで』されているので申し訳無い気もしたのだが、「ぜひ、させてください!」とニケさんにお願いされたので甘えることにした。
本当に至福の時間だ。眠く.....な.....る。
「またお休みになられますか?」
「.....すいません。膝をお借りします。大変だったら、適当に止めてくださいね?」
「ふふっ。おやすみなさいませ」
「.....おやすみなさい」
そして、俺の意識は、ニケさんに見つめられながら再び落ちていくこととなった。
───30分後。
「おはようございます」
「ん、んぅ.....。おはようございます」
「思ったよりも、お早いお目覚めでしたね」
「.....」
くそっ!
習慣というものが恨めしい!
この時ほど、身に沁みた習慣というものを呪ったことはない。
どうしても深く寝付けないのだ。体が、本能が、そして、俺の平凡な性格が「もう起きろや!」と訴えかけてくるのである。
しかし、この時ばかりはそれが功を奏したようで.....。
「残念です。もう少し、歩様の寝顔を拝見させて頂きたかったのですが.....」
「.....え?」
「とてもかわいい寝顔でしたよ? いつまでも見ていたいようなとても幸せな時間でした」
「.....」
正直、恥ずかしいので止めて欲しいところだが、にこにこと嬉しそうに語るニケさんの姿を見てしまうとどうにも言い出すことができない。よ、涎とか垂らしていないよな?
とりあえず、寝顔を見せる代価として、もうしばらくニケさんの膝枕となでなでを堪能させてもらおう。
だが、ニケさんの熱烈なアタックはそれだけに留まることはなかった。
俺がもう寝る気配が無いと悟ったニケさんは顔を赤らめ、何かを決意したかのようにこう語り始めた。
「歩様」
「なんでしょう?」
「そ、その、私との約束を覚えていますか?」
「!!」
ニケさんとの約束を、俺が覚えていないはずがない。
ただ、ニケさんとは色々な約束をしてきたが、その中でも、今この瞬間に言い出してきたとなると.....。
俺は横目でアテナ達をちらりっと見遣る。
「.....(すやすや).....(すやすや).....(^-ω-^)」
「.....(すーすー).....(すーすー).....(すーすー)」
「.....(くーくー).....(くーくー).....(くーくー)」
いまだ3人はかわいい寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。
「.....(すーすー).....(ぴくぴく).....(すーすー)」
「.....」
いや、ドールだけは既に起きているようだ。
狸寝入りならぬ狐寝入りをしているつもりなのだろうが、耳がぴくぴくと動いているのでバレバレである。この、おませさんめ!
若干一名余計なのがいるが、状況的には条件を満たしていると言っても過言ではない。
となると、ニケさんの言う約束とは『あれ』をおいて他にはないはずだ。
「.....いかがでしょうか?」
「覚えていますよ。ただ、一つだけ教えてください」
不安そうな表情のニケさんに、俺は強くはっきりと頷いた。
ただ、約束した以上は必ず守るつもりなのだが、どうしてこのタイミングなのだろうか。
もっと良いタイミング、良いシチュエーションもありそうなものなのだが.....。
「歩様のいた世界では、『おはようのキス』・『おやすみのキス』・『いってらっしゃいのキス』・『おかえりなさいのキス』が.....。あっ! そ、それと『いただきますのキス』・『ごちそうさまのキス』という文化があると聞きました」
まてまてまてまてまて。
『いただきますのキス』・『ごちそうさまのキス』って、なに!?
ニケさんの言う通り、確かに『おはようのキス』という文化?はあるのだが、最後がどこかおかしい。
少なくとも、俺は『いただきますのキス』・『ごちそうさまのキス』というものの存在を聞いたことがない。
(あれ? 俺が聞いたことがないだけで普通にあったりするものなのか?)
俺は結婚の経験が無いので真相は分からない。
と言うか、結婚うんぬん以前に、まだ童貞だしな.....。HAHAHA。
だが、ニケさんが「あっ!」とか言っちゃっている辺り、明らかに「思い付いたので付け足しました!」感が出てしまっているので、やはり普通ではないのだろう。.....ねぇ、盛っちゃった?盛っちゃったの?
「し、知りません! .....バット。そう、バットが言っていたのです!」
この女神様、人に責任をなすりつけたぞ!?
「と、とりあえず!
私は彼女として、6つの時のキスを希望します! そして、今がその時です!」
「意地でも貫き通すんですね?」
「歩様が何を仰っているのか分かりません。
ですが、私は歩様の彼女として、歩様の世界の文化に則るのが一番だと思うのです」
貫き通した!?
ハート強いなぁ.....。
ただ、今この瞬間に、ニケさんがキスを求めてきた理由は大いに理解できた。
だが、いつの間にか、約束の内容が『求められたら必ず一回キスをして欲しい』というものから『特定の状況下の場合はキスをして欲しい』というものにすり替えられている点は納得できない。
(ちゃっかりしてるなぁ.....。いや、さすがはデキるお姉さんというべきか)
正直言えば、俺としても嫌ということは全く無い。
むしろ喜ばしいし、『ニケさんとキスができる』というチャンスを明確に示してくれた点は感謝をしたいぐらいだ。
それに、ニケさんは『人の目のあるところではキスを無理強いしない』という俺からの条件をきちんと守ってくれるようでもある。
まさに至れり尽くせりとはこの事だ。.....少し違うか?
とりあえず、彼女がここまで頑張ってくれているのである。
彼氏としても、多少の譲歩ぐらいは、これから二人の仲を深める為にも必要なことだろう。
・・・。
(よし! 俺の気持ちは固まった!)
・・・。
意を決した俺は、『膝枕&なでなで』から抜け出し、ニケさんと正面をきる。
一方、ニケさんはというと、静かに俺を見つめている。どこか不安そうに見えるのは、俺の出すと思われる答えについて、ニケさんなりにあれこれと思いを巡らせているからだろう。
「.....」
「.....」
ニケさんと静かに、それでも(心は)激しく見つめ合う。
もはや、言葉による答えは不要だ。
行動で、態度で答えを示せばいい。
きっと、ニケさんもそれを望んでいるはずだ。
俺はニケさんの細くしなやかな肩に優しく手を添えた。
一瞬、ニケさんの体が強張るも、次第に体の力が抜けていき.....。
「歩様.....」
その言葉を最後に、ニケさんは燃え盛るきれいな灼眼の眼を閉じ、まるで俺に己の体の全てを預けるかのように全身の力を抜いてきた。
ただ、ニケさんなりのキスへの拘りでもあるのか、いつか見た『顎をほんの少しだけ上げ、祈るかのように手を胸の前で組むポーズ』をビシッときれいに添えて。
どうやら、ニケさん側のキスの受け入れ態勢は整ったようだ。
後はキスをするのみ。
───どきどき
心が張り裂けそうだ。
きっと心拍数は要再検査という結果が出るほどに、かつてないほど高くなっていることだろう。
「ん.....」
ニケさんから甘い吐息が漏れる。
それと同時に、俺の視線はニケさんの潤った淡いピンク色の唇にロックオンされた。
ニケさんの唇はぷるぷるでとても美味しそうだ。
「.....(ごくっ)」
思わず、息を飲んだ。
今からそこにキスをするんだと思うと、緊張して体が震える。
・・・。
ふぅ~。あまり待たせるのは失礼にあたるだろう。
俺は深呼吸を2、3度して、逸る心を、猛る心を懸命に抑える。
そして.....。
───かちんっ!
「!?」
「!?」
遂に、ニケさんと唇を重ねることができた。
ただ、勢いを付け過ぎたせいで歯がぶつかってしまうという、まさかのお約束展開を発動させてしまった訳なのだが.....。
俺のファーストキスは、なんとも不器用で情けないものとなってしまった。とほほのほ。
「んぅ.....」
「!?」
それでも、ニケさんは放すまいと自分の唇を俺の唇に強くあててくる。
まるで俺の不器用で情けないキスなど少しも気にはしていないかのように.....。
(うぅ.....。ニケさん。ありがとうございます!)
結局、俺のファーストキスはイメージしていたものとは異なり残念な結果となってしまったが、それでも、ニケさんとの初めてのキスはとても幸せで甘く.....。甘く.....。甘く.....?
(うぇ!? あ、甘く.....ない!? え!? なんで!? と言うか、なんかしょっぱいんですけど!?)
別に、俺は「キスの味はレモン味」とか、そういうセンチメンタルなことを言いたいのではない。
幸せで、幸福感で満たされたから「甘い」と言いたいのだ。
事実、気持ちの上ではとても甘かった。
しかし、問題なのは現実的にしょっぱいということだ。
それこそ、本当に現実のキスはレモン味とでもいうのだろうか。
ニケさんからの貪るような求愛から解放された俺は急いでニケさんの様子を窺う。
すると───。
「.....うっ.....うぅ.....ひぐっ.....」
「!?」
そこには、ハラハラと涙を流して泣いているニケさんの姿があった。
(なっ!? どういうこと!?)
そして、俺が驚くのも無理はない。
だって、ニケさんの様子は、明らかに嬉し涙とかそういう類いのものではないのだから。
悲し涙.....いや、それとも少し違うような.....。
上手くは言えないが、悔し涙に近い.....ものなのかもしれない?
こうして、俺の一世一代のファーストキスは、ニケさんの涙という謎の事態を引き起こして終わりを迎えたのだった───!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
次回、本編『涙の理由』!
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基本的に主人公が現地勇者の誘いに消極的なのは、あまり信用していないせいです。
仲良くしたいという思いはありますが、だからと言って、オープンに信用できるものではないという思いがあるからです。
営業職ということもあって、人の言葉の裏を考えてしまう癖が出てしまっている証拠ですね。
特に、異次元世界ということも消極的にならざるを得ないポイントの一つです。
つまり、良く言えば慎重派、悪く言えば小心者ということです。
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