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第6章 力を求めて -再臨ニケ編-

第188歩目 女神と竜姫!最強神vs最強種③

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前回までのあらすじ

いちゃいちゃって、いいよな!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

長くなりましたので、分割しました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

□□□□ ~信じてもいいの?~ □□□□

「我もアユムと一緒に行くのだ!」
「.....」

 にっこにこなかわいい笑顔でそう告げるモリオンを前にして、俺は非常に困っていた。
 いや、こうなる恐れは十分に感じていた。

 そもそも『恋人』という関係を、そういう知識が全くない人にどのように説明したら理解してもらえるのだろうか。

 例えば、「好きな人だよ」と教えれば、「我は好きじゃないのだ?」と返事がくることだろう。
 例えば、「特別な人だよ」と教えれば、「我は特別じゃないのだ?」と返事がくることだろう。
 例えば、「好きは好きでも意味が違うんだよ」と教えれば、「我はそれじゃないのだ?」と返事がくることだろう。

 基本的に、愛情というものは『好き』という概念と『愛』という概念で分かれている。
 そして、恋人であったり夫婦の場合は、『愛』という概念が『好き』という概念よりも上の愛情表現だということを多くの人が

 そう知っているからこそ、『恋人』だと紹介すれば、多くの人はある程度空気を読んでくれるものだ。

 しかし、モリオンの場合は全く異なる。
『恋人』どころか『恋愛』というものすら全く知らないのだ。と言うか.....。

 モリオンに恋愛はまだ早い!

(自称)教育親として、モリオンの恋愛はまだ認められない。
 仮に、モリオンに悪い虫でも付こうものなら、俺の全力を持って排除する予定だ。


 子供には子供らしい健全な子供ライフを送って欲しいものである。


 ・・・。


 ご、ごほん。
 話が逸れてしまった。

 つまり、モリオンにとっては『好き or 嫌い』または『特別 or 特別ではない』の区別しか、今のところないのである。

 故に、ニケさんの紹介を「こちらニケさん。俺の大事な人だ」と説明して、打ち切ったほどだ。
 色々と突っ込まられたら説明が大変だしな.....。

 そして、そのツケがいま返ってきたのである。

 俺はドールにちらっと視線を送る。
 困った時のドールさん頼りだ。おい! 嫌そうな顔すんなっ!

「トカゲ。妾達と一緒に行くのじゃ」
「なんでアユムは一緒じゃないのだ? ダンジョンなのだ?」
「いや、ダンジョンではないが.....。用があるのじゃ」
「なら我も一緒に行くのだ! お姉ちゃん達も一緒なのだ!」

 モリオンの場合、ダンジョンだと言えばすんなりと引いてくれる(俺に迷惑を掛けて嫌われるのを恐れている為)のだが、かと言って、モリオンに嘘を付きたくはない。

 そもそも、モリオンの為になる『必要な嘘』であるのならば、全然良い。
 しかし、今回は『ニケさんと二人きりでデートをしたい』という、俺の完全なわがままだ。

 だからこそ、純真無垢なモリオンに、俺のわがままで嘘を付くのは躊躇われる。
 第一、モリオンを預かっている(自称)教育親としての矜持が許さない。

「アユムは.....我と一緒は嫌なのだ?」

 今にも泣きそうな表情で、そう訴えてくるモリオン。うぅ、む、胸を締め付けられる。
 それに、このタイミングでお鉢が回ってきたのは非常にやばい。た、助けて! ドルえもん!!

「誰が、ドルえもんじゃ!
 もうこうなってしまったら妾には説得不可能。後は自分でなんとかせよ」

 そりゃないよ、ドルえもん.....。

 俺は某猫型ロボットに見放された眼鏡少年のように項垂れるしかなかった。
 と言うよりも、ここでモリオンを上手いこと説得できないと、今後のデートにも支障をきたす恐れがあるので本当に何とかする必要がある。

 さて、どうやってモリオンに説明したものか.....。

 そんな感じで途方に暮れていたら、一人の救世主?が現れた。
 そう、みんなご存知こと.....。

「歩様。お困りでしたら、私が代わりましょうか?」

 声を掛けてきたのは、アテナではなくニケさんだった。
 アテナはな"ーとじゃれ合っていてお散歩に行く気満々で、こちらには全く興味がないようである。お前の妹だろ! なんとかしろ!!

「い、いいんですか?」
「はい。言うことを聞かない者への制圧せっとくは慣れたものです」

 おや? 妙な違和感が.....。

 しかし、ニケさんが代わりに説得をしてくれるというのなら、お言葉に甘えようと思う。
 俺ではどうしようもなかったことだし、このままだとデートの時間すらも無くなってしまうのだから。

 今の今までハグされていた俺の胸の中から離れ、モリオンと向かい合うニケさん。

「お前、なんなのだ?」
「ふふっ。お前.....ですか」

 いやいや。ちゃんと紹介しただろ.....。

「バ、バカトカゲ! け、敬意を払わぬか!!」
「けいいとか知らないのだ!」

 ドールが慌て、怯える理由はよく分かる。
 先程のモリオンの「お前」発言で、この周囲の温度が一気に下がったのがハッキリと感じ取れた。

 当然、温度が下がった原因はニケさんである。

「お前、邪魔なのだ! 我はアユムと話してるのだ!」
「邪魔.....ですか」
「あ、あのですね? モリオンはまだ礼儀とかそういうものは.....」
「ご安心ください。所詮は「子供」の戯れ言。気にしてはおりません」

 なんで「子供」の部分を強調したの!?
 ねぇ、なんで!?

「我は子供じゃないのだ! モリオンなのだ!」
「「子供」の名など興味はありません。「子供」など「子供」で十分です」

 だから、なんで煽るの!?
 ねぇ、説得は!?

 ニケさんの謎の行動に困惑しつつ、俺はアテナをちらっと見やる。

 当然、アテナにこの場を任せたいという思いはある。
 しかし、それよりも、ニケさんのモリオンに対する扱いに憤慨してもらって、この謎のバトルをうやむやにして欲しいという思いのほうが多分にある。

 ほら。一応、俺がニケさんに説得を頼んだ訳だしさ?
 俺がニケさんに口出しするのは違うというか、気が引けるというか.....。

 そもそも、ドールの一件を「今後は名前で呼ばないと許さないからねー!」と憤慨したアテナのことだ。
 きっと、もう一人の妹であるモリオンの件についても憤慨するに違いない。

「な"ーちゃんはかわいいねー(*´∀`*)」
「な"ー.....(鬱陶しいなぁ.....)」

「.....」

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 アテナは、ニケさんとモリオンのやり取りなど微塵も気にはしていないようだ。
 眠たそうにしているな"ーを、全力でなでなでもふもふしている。

 ちなみに、な"ーが邪魔くさそうにしていることに全く気付いていないことから、アテナの好意の押し売りと言ったところだろう。
 
 と言うか、こういう結末を迎えることはなんとなくだが分かっていた。

 アテナはこういうやつなんだ、と。
 ドールは妹の枠を越えた特別な存在なのだ、と。

 普段の様子を見ていれば一目瞭然なのだが、アテナはドールのことが好きで好きで堪らないのだと思う。
 初めてできた妹にして、最愛のもふもふだ。その想いは格別なのだろう。

 だから、ニケさんがドールのことを名前で呼ばずにいたことが我慢できなかったんだと思う。


 一方、もう一人の妹であるモリオンのことも好きなのは間違いないはずだ。
 よく一緒にお菓子を食べているし、良くないことだが、悪戯も仲良く一緒にやっている。まぁ、良くないことだが。大事なことなので二回言いました。

 だが、所詮は『ただの妹』なのである。
 ねこみやねここなどといった、大勢いる大好きな妹の一人でしかないのだ。

 だから、ニケさんがモリオンのことを名前で呼ばずに「子供」と嘲っていても、特に何も注意はしないのだろう。いや、気にも留めてはいないのだろう。

『女神という存在に妹』と『女神という存在に妹』での愛情の格差は、かくのごとしということだ。

 つまり、この場でのアテナの助力は期待できないということになる。はぁ.....。使えねぇ.....。

「むっかぁぁあああ! 我は子供じゃないのだ! モリオンなのだ!」
「同じようなことしか言えないから「子供」なのですよ? .....(くすくす)」
「お前、なんなのだ! なんなのだ!! なんなのだ!!!」
「怒ることしかできないのですか? だから「子供」なのですよ? .....(くすくす)」

 嘲り続けるニケさんに、徐々に徐々にヒートアップしていくモリオン。
 ニケさんを睨むモリオンの眼差しが、どこか怨念一色に染まりつつあるようにも見える。

 更に、気のせいだと思いたいが、モリオンの周りにはどす黒い謎の煙が.....。

「げ、現実から目を背けるでない。で、出ておるのじゃ.....」
「だ、だよな.....」

 この謎の黒い煙にはどこか見覚えがある。
 以前、海都ベルジュで見たことのある不気味で不快な感じのする煙だ。(※第158歩目 参照)

 それが、少しずつ少しずつモリオンの周りを漂い始めた。
 さ、さすがにやばくないか、これ?

「ご安心ください。挑発せっとくは順調ですので」

「ド、ドール?」
「.....」

 こ、これが説得.....?

 どうやら、俺の知る説得とニケさんの知る説得は別物なようだ。
 まぁ、世界が異なるのだから、認識の齟齬が生まれるのは当然のことだろう。HAHAHA。.....んなわけあるかっ!

 いやいやいや。あまりにもおかし過ぎる。
 ニケさんが行っている行為は明らかに説得ではなく挑発だ。

 なぜ、挑発を.....?

 ニケさんの意図が全く分からない。
 敢えて、モリオンを挑発しているようにも見えるが.....。

「「子供」の分際で身をわきまえなさい。
 いくらわがままを言うのが「子供」の特権と言えど限度があります。
 そして、「大人わたし」の言うことを聞きなさい。それが「子供ドラゴン」の仕事ぎむですよ」

「たかが人間のくせに生意気なのだ!!」

 ニケさんの更なる上からの物言いに、地団駄踏んで怒りを表すモリオン。
 すっかり激オコぷんぷん丸になってしまっている。

 恐らく最強種である竜族の自分が、最弱種である人間族 (だと思っている)のニケさんに、ここまでバカにされたことがよほど我慢ならないのだろう。

 そもそも、竜族という種族は他の種族と比べてもあまりにも強すぎるせいか、プライドの高い者が多いのかもしれない。
 そして、それはモリオンでも例外ではないということだ。

 普段はそうでもないのだが、我を失うような無意識下では自然とそういう意識が出てきてしまうものなのかもしれない。隠された種族特性ってやつ? 
 あまりにも強大過ぎる存在は他者を見下しがちだよね。神様とか、神様とか、神様とか。

「それよりも、いい加減にしなさい。
 ドラゴンみたいな「子供」にはハッキリと言わないと分からないようですね」
「なんなのだ! 我が何を分からないというのだ!」

「ドラゴン、あなた邪魔なんですよ」
「! お、お前なんかに言われたくないのだ!」

「分からないのですか? 私だけではありません。
 歩様にとっても、アテナ様にとっても、ドラゴンは邪魔な存在なのです。いらない子なのですよ?」
「!! わ、我はいらない子、なのだ.....?」

 ニケさんの非情な宣告に、がっくりと項垂れるモリオン。
 その目には大粒の涙が.....。

 そして、モリオンの周りには先程よりも一層大きさを増した黒い煙が渦巻いている。

「えぇ。いらない子ですね。.....(くすくす)」
「う、ぁ、ぁあ」

 あんた、鬼か!

 もう十分打ちのめされているモリオンに対して、更なる追い撃ちをかけるニケさんに、俺は思わずそうツッコんでしまった。
 これではモリオンがあまりにもかわいそうだ。

 そして、ニケさんはどうしたというのか。
 俺の知っているニケさんはこんな女神様ではないはずだ。

 ニケさんも神様である以上、多少なりとも人間に対して高慢な部分がちらほらと見受けられるところは確かにあった。
 それでも、初期のアルテミス様やアレス様、エリス様みたいに、人間を駒や道具扱いするような不快な印象は一切なかったのも確かなのである。

 つまり、多少見下してはいたものの、人間を人間としてきちんと扱っていたのだ。
 もっと言うのなら、デキるお姉さんのニケさんならば、嫌になることや傷付くようなことを軽々しく口にしないはずなのである。.....少なくとも、俺はそう思っていた。

 特に、モリオンは嫌われることを極端に嫌う。
 誰かに、.....いや、俺やアテナ、ドールに必要とされないことを死ぬほど嫌う。

 それほど、俺やアテナ、ドールにべったりと依存している状態だ。

 そんな、べったりと依存している状態での「いらない子」宣告。
 モリオンにとって、これほど辛い宣告はない。

「.....わ、我はいらない子じゃないのだ。
 .....わ、我は良い子なのだ。.....い、いらない子じゃないのだ」

「いいえ。ドラゴンはいらない子です。悪い子です。悪い子は歩様に必要ありません」

 モリオンにとって、これほど悲しい言葉はない。
 モリオンにとって、これほど認めたくない事実はない。

 それを、ニケさんは神界から見ていて知っていたはずなのに、なぜ.....。

「大丈夫だ、モリオン! 俺はそんなこと少しも思っていないから!」
「そ、そうなのじゃ! トカゲは妾のかわいい妹なのじゃ!」

「.....い、嫌なのだ。.....ひ、一人は嫌なのだ。
 .....ア、アユムやお姉ちゃんに嫌われたくはないのだ。.....い、いい子にするのだ」

 く、くそっ!

 俺とドールの言葉は、もはやモリオンには届かない。
 怒り心頭で我を失ったモリオンの世界には、俺とドールはもう存在しないのだ。

「邪魔です。いらない子はどこへなりとも消えなさい。
 いい加減、目障りですよ?.....(くすくす)」

「.....あ。.....あ。.....あ」

 だが、ニケさんの言葉だけはすんなりと受け入れられてしまった。

 当然だ。

 そうなるように、ニケさんが仕向けていたのだから。
 そうなるように、ニケさんが異常にモリオンを挑発せっとくし続けていたのだから。

 一体全体、ニケさんはどうしたのいうのか.....。

 もはや、この状況をなんとかできるのはニケさんを置いて他にはいない。
 しかし、当のニケさんが挑発せっとくを止める気配もこれまたない。

 そして───。

「のだぁぁあああぁぁぁああぁぁあああぁぁぁああ.....!」

 モリオンがひとしきり悲しみの叫びをあげた直後、ぶわっと溢れ出した黒い煙がモリオンの全身を一気に包み込み始めた。
 そして、しばらくすると、そこにはかつて見たことのある黒蝶の繭のようなものが.....。

 それはまさに、新生モリオン(敵)の再来である。

「お待たせしました。これにて挑発せっとくは完了です。
 これより更なる制圧せっとくに移りたいと思います」

「.....」


 ニケさん.....。俺は本当にあなたを信じてもいいのでしょうか.....?


□□□□ ~もちろん、信じてください!~ □□□□

 いまだモリオンは黒蝶の繭みたいなものに閉じこめられたままだ。
 これから新生モリオン(敵)と相見えると思うと溜め息すら出る。

「何か考えがあるんですよね? そうなんですよね?」
「もちろんです」

 俺はいまだに、ニケさんの行動に納得できていない。
 いや、納得うんぬんよりも、信じられないというのが本音なのかもしれない。

 俺の中のニケさんは良識ある女神様なのである。
 強く、優しく、頼りになるお姉さんなのである。

 それが、なぜ、敢えてモリオンを傷付けるような真似をしたのか.....。

「目的は二つ.....いえ、三つあります」
「三つ.....ですか?」
「はい。一つは神に対する不敬罪ですね」
「不敬罪.....」

 確かに、モリオンは不敬だったと思う。

 いくらニケさんが「言葉遣いは気にしません」と言っていたとはいえ、かなり酷いものではあった。
 それに、「敬意は態度で示しなさい」と言われていた態度そのものも、かなり横柄であったのは間違いない。

 しかし、でもだ。モリオンはまだ子供だぞ?
 まぁ、子供と言っても600歳を超えているみたいだが.....HAHAHA。

「子供であろうと大人であろうと関係ありません。
 人類皆等しく、神には敬意を払うべきものなのです。
 それに、ちょうどいい機会ではないですか。教育の一環だと思えば」

 そう? そうなのかな?
 でも、いくらなんでもやりすぎでは?

「頭で理解できないというのなら、体に理解させる他ありません。
 徹底的に叩き潰して、頭と体にその愚かさを叩き込ませるのです。理解させるのです」

 つまりは、モリオンを叩き潰す為に、教育を行う為に、あのような行為に及んだらしい。

 どうやら、ニケさんはスパルタだったようだ。鬼教官だったようだ。
 
 なんというか、実にニケさんらしい容赦ない徹底ぶりである。
 何やらドールも、「うむ。さすがはニケ様なのじゃ」と満足げに頷いている。え!? ドールは共感できるの!?

「で、では、この後のことは本当にお任せしてもいいんですね?」
「はい。責任を持って制圧せっとく致します」

「一応、言っておきますが、酷いことや痛いこと、かわいそうなことは無しですよ?」

 当然、殺すのは論外だ。
 もし、そんなことをしたら、いくらニケさんでも本気で怒る。

 いや、もしかしたら、ニケさんのことを信じられなくなると思う。

「ご安心ください。アテナ様の妹なのですから手荒な真似は致しませんよ。
 少しばかり神に逆らう己の愚かさと、身の程を弁える必要がある力量差というやつを教えるだけです」

「分かりました。モリオンは俺の大切な仲間なのでよろしくお願いします」

 ニケさんは本気で教育の一環とするようだ。
 多少心配ではあるものの、ここはニケさんに任せるとしよう。

「それと、残り二つの目的を伺ってもいいですか?」

 確か、全部で三つの目的があると言っていた。
 不敬罪はともかく、一つ目の『教育を施す』という目的だけでも十分過ぎる理由な為、残りの二つが非常に気になる。

「二つ目の目的は、本当の意味で、アテナ様や歩様のお役に立てるようにする為ですね」
「アテナや俺の役に? どういうことですか?」

「ヘリオドールとは異なり、正直、あのドラゴンは居ても居なくても変わらない存在ですよね?」

 ちょっ!?
 ぶっちゃけ過ぎだから!

「そ、そんなことはないですよ?」
「そうですか? では、何の役に立っているのでしょうか?」

「か、かわいいですし、素直ですし、うちの元気印ですし、とても癒されています」

「癒し.....ですか? それって、歩様の世界で言うところの.....。
「対処します」、「検討します」などという曖昧な言葉と何ら変わりないのでは?」

 い、癒しは必要だから!
 俺はニケさんで癒されているから!

「まぁ。歩様ったら.....。嬉しいです。
 このニケ、歩様が少しでも癒されるよう粉骨砕身で努力致します!」

「あ、ありがとうございます」

 と言うか、そうじゃなくて!

 そもそも、ニケさんの考え方があまりにも極端過ぎる。
 さすがに、『役に立たないから居ても居なくても変わらない』というのはあまりにも暴論だ。

 仮に、役に立たなくとも側に居てもいいと思う。側に居てもいい権利はあるはずだ。
 あっ! べ、別に、モリオンが役に立っていないとは言っていないぞ? 本当だぞ!?

 そう思っていたのだが.....。

「認められません。
 仮にも、女神であるアテナ様や私が慕う歩様とともにあるのですから、
 ドラゴンには最低でも、ヘリオドール同様、ともにあるべき相応の力が求められます」

「で、ですが....」

 すると、いまだ納得できていない俺の肩を、ドールがぽんぽんと叩いてきた。
 そして、一言。

「精神論は不要。現実とは、この世界で生き抜くとは、そういうことなのじゃ」
「.....」

 どうやら、「甘いこと言ってんじゃねぇぞ?おぉん?」と言うことらしい。

 一応、女神であるアテナと一緒に旅をしている訳で、そのお供であるならば、それ相応の能力は必要だということだ。
 そもそも、甘い考えがもとで、万が一があったらシャレにならない訳だし.....。

「.....だから、敢えてモリオンを傷付けるような真似を?」
「はい。あのドラゴンのレベルアップには、今のところこうする他ないですしね」

 理には適っている。
 確かに、モリオンの強さを引き上げる方法は、これおいて他にはない。

 一応、ドールが戦闘訓練を施してはいるが、それが実を結ぶのはまだまだ先の話だ。
 それに、どちらかというと、戦闘訓練そのものは『強さを引き出す』というよりも『引き出しの多さを増やす』といった意味合いのほうが大きい。

 なので、元となる強さがある一定以上はないと引き出しも増やすことができないことを考えると、ニケさんの取った行動はあながち悪くはないものなのである。ただ.....。

 それでも、モリオンが少しかわいそうだ。
 仕方がないとは言っても、だ。

 なんたって、モリオンはまだまだ子供なんだし。

「そうですね。私も少し言い過ぎたかもしれません。
 ですが、あのドラゴンも不敬だったことは事実ですので、これでおあいこでしょう」

「モリオン側はまだ現在進行形で続いていますけどね?」
「そこはきっちりと制圧せっとくしますので、ご安心ください」

 な、なんで嬉しそうなんですか?

 ずっと気にはなっていた。
 ニケさんの口から「制圧せっとく」という言葉が出てくる度に、どこか嬉々とした感情が並々と伝わってくるのだ。

 そう、まるで楽しみにしているような、まるで待ちわびているような、そんな違和感を.....。


 そして、その違和感の原因は思いがけない形で判明することとなる。

「一つ目と二つ目の目的は分かりました。これだけでも十分なんですが、まだあるんですよね?」
「はい。三つ目なのですが.....単純に、私が戦いたかったからですね」
「.....はい? 戦いたかった?」
「はい。あそこまで露骨な敵愾心は久しぶりでして.....。思わず血が滾ってしまいました」

 血が滾るとか、どこの戦闘民族だよ!?
「私、わくわくします!」ってか!?

 斜め上過ぎる答えが返ってきたことで、思わず面食らってしまった。
 先程まで、デキるお姉さんモードでシリアスに語っていた内容全てが台無しである。

 どうやら、ニケさんは戦闘狂バトルジャンキーだったらしい。

「はい! すごくわくわくしています!
 勝敗が分かっていても、体を動かすのは楽しいものですよ!」

 か、かわいい。

 まるで「がんばるぞい!」とでも口に出しそうな勢いで、両手ガッツポーズを胸元で可愛く作るニケさん。
 そんな戦闘狂バトルジャンキーなニケさんでも、どこかかわいいと思ってしまうのだから、俺はなんてちょろいんだろうとは思う。

 ちなみに、「歩様もご一緒にどうですか?」と誘われたので、全力でお断りした。

「むぅ~! 半神である今の歩様ならば、血沸き肉躍るステキな戦いができますのに!」
「HAHAHA。か、勘弁してください」

 血沸き肉躍るステキな戦いって、なんだよ!?


 俺はニケさんと戦いたいんじゃない!
 ニケさんを愛でて、愛でて、その上でいちゃいちゃしたいんだ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

次回、本編『最強神vs最強種④』!
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