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第6章 力を求めて -再臨ニケ編-
第173歩目 はじめてのハグ!女神ニケ⑨
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前回までのあらすじ
婚姻届けは一旦保留でお願いします!
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□□□□ ~お互い様~ □□□□
ニケさんの新たな一面を知ることができた俺は、嬉しさ半分怖さ半分な気持ちのまま、決戦場となるダーツへとやってきた。
ちなみに、ここに来るまでの間、ずっとニケさんと手を繋いでいたことは改めて言うまでもないだろう。
ニケさんが見守る中、俺はダーツの前で心を静かに落ち着ける。
する必要は全くないのだが、それでも、一応精神統一の形だけはとる。そうしないと、なんだか様にならないしな!
「歩様。今回の希望を伺ってもよろしいでしょうか?」
「当然、前回と同じです!」
俺が狙うのはただ一つ、『自由』だけだ。
実際、『加護』とかも魅力はあるのだが、それよりもニケさんとのデートを優先したい。
「畏まりました。微力ながら、お手伝いさせて頂きます」
「ありがとうございます」
ニケさんはそう言うと、凛々しくもビシッとした完璧なお辞儀をぺこりっ。
どうやら少し前までのあどけない少女モードから、今はデキるお姉さんモードへとチェンジしているらしい。
「.....」
「あの.....?いかがなされました?」
はっ!?
そんなニケさんの姿を見て、俺は気を引き締められるとともに、ついつい見とれてしまっていた。
ニケさんの真紅に染まったきれいな灼眼の瞳が俺の心を捕らえて放さない。
あどけない少女モードのニケさんは、普段とのギャップも相まってすごくかわいい。
これは間違いない。
しかし、デキるお姉さんモードのニケさんも、あどけない少女モードに劣らずとても魅力的だ。
カッコいい上に頼りになりそうなところとか、俺のお姉さん好き属性を甘くくすぐってくる辺りが堪らなく良い。
つまり、何が言いたいかというと.....。
「ニケさんは最高かよっ!」
そういうことだ。
ちょっと引いてしまうような一面も垣間見えたことがあったが、それでも、俺の中での一番は相変わらずニケさんその人だ。
それに、少しずつだが、ニケさんのそういう部分も好きになっていけたらいいな、と今は思う。
「まぁ.....///
嬉しいです。ありがとうございます」
「ふぁ!?声に出てました!?」
ほんのりと桜色に頬を染め、デキるお姉さんモードで恥じらう姿も、これはこれでとても新鮮だ。
ニケさんが嫌でなければ、ぜひ写真に納めたいぐらいである。.....神界でカメラって使えるのかな?
「使えませんよ。歩様であろうとも、人間では神界に下界のものは持ち込めません」
「そう、、ですか。残念です」
と言うか、心を読まないでくださいよ.....。
「それに、写真を撮られるのであれば、下界で撮られれば良いのではないでしょうか?」
「あ、なるほど!」
ちょっと考えれば分かることだった。
何も、シャッターチャンスは今しかない!、という訳ではないのだから。
ニケさんもくすくすと笑っている。は、恥ずかしい。
しかし、だからこそ、俺は敢えて反論する。
いっぱしのカメラ小僧になりきって。とは言え、俺はカメラ初心者だが.....。
「あ、あの瞬間は、あの時だけのものですから!」
「ふふっ。そうですね。これは失礼しました。
どうかお許しください。私の考えが足りませんでした」
そして、ニケさんは再び凛々しくもビシッとした完璧なお辞儀をぺこりっ。
「.....」
な、なんだろう.....。
この完全な敗北感は.....。
俺の子供のような意地に、余裕綽々と大人の貫禄で対応してくるニケさん。
なんだか余計に恥ずかしくなってしまった。
しかし、それもまた快感というもの.....。
「.....え?」
「ちょっ!?へ、変な誤解しないでくださいね!?.....と言うか、心を読まないでください!!」
驚いた顔で俺を見つめてくるニケさんに慌てて訂正を入れる。
俺に『羞恥プレイを楽しむ』とかいった、そういう変な趣味はない。至って、ノーマルである。
俺が言いたいのは、まるで子供のようにあやされる、その感覚が好きだということだ。
とは言え、理解しづらい人もいるだろうから一言で表そう。
『お姉さん×ショタ』
これに尽きる。
こういう関係が、俺の理想だ。.....あっ。Hな意味ではなくてね?
「『お姉さんの掌の上で転がされているショタ』とか、最高じゃないですか!?」
「え、えぇ.....」
おや?
もしかして.....、引かれているのか?
気のせいか、まるでひきつったような顔で微笑むニケさん。
変な誤解をされると困るので、ちゃんと説明した結果がこれだ。
それに、例え説明しなくとも、ニケさんは俺の心をきっと読み取るだろうから、結局はバレてしまう。
そうなった後で、変な誤解をされるぐらいなら、と先手を打ったつもりだったのだが.....。
しかし、この行動が逆に悪化の一途をたどることになってしまった。
「そ、その.....。素晴らしい趣味.....?だと思います。
なにぶん初めての事なので上手くできるかどうか分かりませんが、よろしくお願いします」
「趣味じゃないですよ!?」
「では.....、せ、性癖ですか?///」
「ちょっ!ちょっと待ってください!!完全に誤解してますよね!?」
この日、ニケさんの中の俺に、『変わった趣味が好き』・『アブノーマルが好き』という、とんでもないカテゴライズが追加されたのだった。
「ご安心ください。私はどんな歩様も受け入れますので。.....(にこっ)」
にこっ。じゃなぁぁあああい!
それは完全に誤解ですからぁぁあああ!!
□□□□ ~ニケの提案~ □□□□
時間も惜しいので、早速ダーツに挑もうと思う。
ちなみに、ニケさんは先程からずっとにっこにこだ。
俺の新たな性癖(性癖じゃない!).....一面を知れて、きっと嬉しいのだろう。なんだかなぁ.....。
「では、矢を投げて頂く前に、ご判断を仰ぎたいことがございます」
「なんでしょうか?」
「今回、歩様は十連信仰を行った訳ですが.....」
十連信仰?
聞き慣れない言葉が出てきたが、話の流れで『十連ガチャ』のことだと直ぐに分かった。
そもそも、神様への祈りをガチャ扱いすること自体が畏れ多い。
正式名称があるのは当然の事だろう。
十連ガチャとか、所詮はアテナクオリティーに他ならない。
「複数回当たった場合は、
『まとめて権利を執行する』か『個別に権利を執行する』かを自由に選ぶことができます」
十連ガチャの性質上、当然と言えば当然の結果だろう。
そして、ニケさんがこれを尋ねてきたということは、つまりあれだ。
「なるほど。ちなみに、ニケさんは何回当たったのでしょうか?」
「7回です」
な、7回!?多くないか!?
いや、考えてみれば、確率通りなのか?
ニケさんが全体の6割を占めているとなると、アテナが言っていた通り、普通はほぼニケさんになってもおかしくはない。
むしろ、他の神様に3回も当たったということは運が良かったとも言える。まぁ、あくまで普通のガチャという観点から見ればだが。
そして、俺の答えは決まっている。
「まとめてお願いします」
「.....え?よろしいのですか?」
「あれ?俺、何か変なこと言いました?」
「あの.....。力を求めておられるんですよね?でしたら、個別のほうがよろしいのでは?」
あぁ、なるほど。
確かに、ニケさんの言うことは最もだ。
俺が求めている力は、ニケさんならば可能だと、アテナからそう教わっている。
そして、神界からずっと俺達の様子を見ていたのであれば、ニケさんがそのことを知っていても当然だ。
「私とのデートを望まれるお気持ちは嬉しいのですが、7回もチャンスがあるのです。
せめて、半分ぐらいはお力に当ててしまわれたほうが良いのではないでしょうか?」
実に効率的な、ニケさんらしい考え方だ。
そして、俺もそれを考えなかったと言えば嘘になる。こんな大チャンスは滅多にないのだから。
しかし.....。
「俺と7日間、一緒に居るのは嫌ですか?」
「そ、そんなことはありません!すごく嬉しいです!!」
「すいません。分かっています。冗談ですよ」
「むぅ!そういう意地悪な冗談は好きではありません!」
頬をぷぅと脹らませ、ちょっと拗ねてみせているニケさん。かわいい。
その姿からはどこかあどけなささえ窺い知れる。少女モード中なのかな?
「まとめてで構いませんよ」
「.....本当によろしいのですか?その、私は嬉しいのですが.....」
「はい。お願いします」
「歩様.....。ありがとうございます」
ニケさんは大袈裟だなぁ.....。
別に、感謝されるようなことではない。
俺がそうしたいと望んでいることなのだから。
確かに、正直言えば、惜しいという気持ちは多分にある。
例えば、ニケさんの言う半々程ではないにせよ、『デート6・加護1』や『デート5・加護2』という感じにすることもできたのだろうから。
いや、力を求めるなら、そうすべきだったのだろう。
だが、俺は敢えてそれを否定する。理由はちゃんとある。
「その理由とやらを伺ってもよろしいですか?」
「まずですね。今後は十連ガチャ.....十連信仰でしたっけ?それが基本になると思います」
「アテナ様が仰った『特典』とやらが目当てですか?」
「さすがニケさん。その通りです。アテナのことですし、どんな特典になるかは分からないですが.....。
もしかしたら、ニケさんに頼らずとも力を手に入れられる可能性があるんじゃないかと思っています」
もし仮にそうなった場合、ここでニケさんから力を貰う必要性は全くない。
それに、力を選んだこと自体が損となる。デートがその分、少なくなる訳だし。
「.....少し希望的観測過ぎませんか?」
「それは否定しません。
ですので、もしアテナの特典が期待外れだったその時には、改めてお願いするかもしれませんね」
「ふふっ。非効率的ではありますが、それが歩様の歩まれる世界なのですね。
でしたら、私も歩様とともに同じ早さで参ろうと思います」
非効率的だと分かった上で、それでも、俺に合わせてくれていることがとても嬉しい。
さすがニケさん。さすがデキるお姉さん。お姉さん系っていうのは、こういうのでいいんだよなぁ。
ただ一つ、言っておきたいことがある。
ニケさんは希望的観測だと言うけれど、実はアテナの『特典』には秘かに期待している俺がいる。
アテナはわがままでぐーたらで、食い意地の張ったどうしようもない駄女神である。
唯一女神らしいと言えば顔と体ぐらいで、それ以外は、むしろ人間以下と言ってもいいぐらいだ。
そんなしょうもない駄女神であるアテナであっても、俺が本当に困っている時や本当に求めている時は、なんだかんだ言って、期待以上の成果を見せてくれたりもする。
あいつは頼れないようで頼れる、そういう存在なのだ。だから、今回も.....。
「仲がよろしいようで何よりです」
「まぁ、その分、普段は酷いんですけどね.....」
「特典の件は分かりました。.....ただ、力はたくさんあっても損ではないと思いますが?」
「『過ぎたるは及ばざるが如し』ですよ、ニケさん。
普通な俺が、力を求め過ぎてはいけないんです。何事も程々が一番という言葉もありますしね」
力を求め過ぎて、一度失敗しているというのも大きい。(※第94歩目参照)
そもそも、俺よりも優れている勇者でさえ、魔勇者化している者がいると聞いたことがある。
理由は様々だろうが、中には俺と同じように力を求め過ぎた結果、魔勇者になってしまった者もいるに違いない。
勇者であってもこうなのだ。
だったら、勇者ではない俺は、尚更自分を、力を過信する訳にはいかない。
「それがお分かりになられているのであれば、大丈夫だと思いますが?」
「いえいえ。強すぎる力は認められた者だけにしか使えない。それがお約束というものです」
選ばれし者だけが持つ特権というやつだ。
仮に、皆等しくその力を享受できるのなら、世界は混沌ともしないし、貧富の差なんてものは絶対にできやしない。
そして、それはつまり、普通である俺には絶対に該当しないということにもなる。
一部の勇者や、それこそ、ニケさんのような特別な人にこそふさわしい。
「そうですか?歩様も十分に、その『選ばれし者』だと思いますよ?」
「え?俺がですか?確か、付き人の件もアテナの気紛れでしたよね?」
「あ、いえ。その事ではなくてですね」
「どういうことですか?」
「そ、その.....。私に、女神に、あ、あ、愛されている時点で特別だと思うんです.....///」
「あ、ありがとうございます.....」
た、確かに.....。
ちょっと意味は違うようにも思えるが、それでも特別なのは間違いない。
俺は自分を普通だと思い込んでいたが、どうやら特別な存在だったらしい。だったら、尚更謙虚でいないとな。
「それにですね?これが一番大切な理由なんですが、ニケさんとの時間を優先したいんです。
今後は十連が基本となると、恐らく、会えるペースが年単位になってしまうと思いますので」
クリアうんぬんは一旦置いとくとして、1都市平均2ダンジョンと考えると、最低でも5都市は回らないといけなくなる。
そして、1都市と1都市の間の旅期間が平均2ヶ月でも10ヶ月、3ヶ月ともなると15ヶ月は必要になる。
やはり、十連をベースに考えると年単位にならざるを得ないだろう。
「先程も言いましたが、ニケさんを知る為には、
ニケさんに胸を張って「愛しています!」と言う為には時間が必要となります。
そして、時間とは『どれだけ多くの時間を一緒に過ごせたか』ということになるんだと思います」
つまりは、デートに他ならない。
だから、ニケさんの場合は力を求めるよりもデートを優先したい。
それに、年単位でしか会えない訳なのだから一日でも長く一緒に居たい。寂しいしな。
そう思っていた。
そして、ニケさんもきっと俺と同じ思いだと思っていた。
「歩様の仰る通りです。私も歩様と一日でも長く一緒に居たいと思います。
それに、寂しい.....かもしれませんね」
「?」
しかし、どうにも違和感を感じる返事内容だった。
いや、大筋は俺とほぼ一緒なので、どこが、という程ではないのだが.....。気のせいかな?
・・・。
何はともあれ、そういうことなので、俺の答えは変わらない。
全ての期間をデートに費やす。これ一択だ。
「だから、まとめてでお願いします」
「畏まりました。では、こちらをお受け取りください」
そして、ニケさんから渡される一つの矢.....と思ったら───。
───ひょい!
「え?」
手渡される瞬間に、何故かニケさんが奇妙な行動に出た。
そして、まるで「これ、あげるよ。はい、あ~げた(笑)」をされたかのように、俺はお預けを喰らってしまった。
「あ、あの.....」
「ふふっ。歩様はこういうのがお好きなんですよね?上手くできたでしょうか?」
「.....」
ニケさんの誤解が甚だしい件について。
まぁ、こういうお茶目なニケさんも好きだけど!好きだけどさ!!
「失礼しました。では、どうぞ」
「いえいえ。ありがとうございま.....」
───ひょい!
またっ!?
「ふふっ。また引っ掛かりましたね?案外、こういうのも楽しいものですね」
「.....」
どうやら俺は、ニケさんの中に眠るS魂を起こしてしまったのかもしれない.....?
□□□□ ~ニケとの共同作業~ □□□□
その後もしばらくは、ニケさんとの「これ、あげるよ。はい、あ~げた(笑)」がほのぼのと続いた。
時間が惜しい気もしたが、これはこれで幸せな時間だったと思う。
それに、存分にニケさんの掌の上で転がされたような感じがするので、俺としては大満足だ。
狙うは『自由』ただ一つ。
しかし、ここで忘れてはならないのが、前回の一件だ。(※第129歩目参照)
ニケさんが手伝ってくれる以上、『自由』になるのは確定している。
ただ、それになるまでに、前回は30分ギリギリまで掛かってしまっている。そして、今は残り15分.....。
間に合わない.....とは決して思ってはいない。
恐らくだが、ニケさんが何とかしてくれるのだろう。だから、心配はしていない。
俺の分だけは。
そう、今回は前回と違って、ドールやモリオンの分まである。
故に、俺の分は問題ないとしても、そこに時間を掛けていたら、ドールやモリオンの分が間に合わなくなる。
そう考えると、残り15分のこの状況は割と絶望的なのではないだろうか。
「では、歩様。早速どうぞ」
「あの、一つ提案があるのですが、いいですか?」
だから、俺はある秘策を提案することにした。
これは、前回の経験を元にずっと考えていたものだ。
「なんでしょうか?」
「一緒に投げてもらえませんか?」
「それは規定に違反しますので認められません。申し訳ございません」
申し訳なさそうに、でも、毅然とした態度で、俺の提案を退けるニケさん。
超規則バカなニケさんのことだ。こういう結果になることは想定済みである。
故に、俺もここで諦めたりはしない。
「以前、俺が言ったことを覚えていますか?」
「私が歩様の仰られたことを忘れるはずがありません!
一言一句、何時何秒に仰られたかまで正確に覚えております!!」
「そ、そうですか.....」
ふんす!と鼻息荒く、胸を張って自信満々にそう語るニケさん。
若干、後退りしてしまったことは内緒である。
「話が早くて助かります。つまりは、そういうことなんです」
「どういうことですか?説明をお願いします」
俺が以前言ったこととはこれだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「俺と同じ目線で、同じものを見て、同じことを感じてもらいたいな、と。
ニケさんが俺を立ててくれる、その気持ちはとても嬉しいです。
ですが、それよりもニケさんと同じ思いを共有できることのほうがもっと嬉しいです」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いまこの瞬間こそ、同じ思いを共有できるチャンスだと思いませんか?」
「そ、それはそうなのかもしれませんが.....。しかし.....」
単なる拡大解釈に過ぎないが、それでも『一緒に投げる』という行為自体は、この趣旨から大きく外れている訳ではない。
とは言え、屁理屈と言われれば屁理屈にあたるが.....。
しかし、今はなりふり構っていられないのも、これまた事実。
故に、使えるものは何でも使う。
それが、例え卑怯なものであろうとも、例え鬼畜外道なものであろうとも.....。
それがアテナ流であり、俺がアテナに使うことを許可してもらった武器でもある。
「悩むことなんて何もないですよ?
俺とニケさんにとって、必要な共同作業だと思ってください」
「必要な共同作業、ですか?」
「はい。くどくなりますが、
ニケさんとの仲を深める為には『どれだけ多くの時間を一緒に過ごせたか』が重要となります」
「はい。それは理解しております」
「ありがとうございます。ならば、それはつまり、
『どれだけ多くの事を一緒に体験することができたか』とも言い換えることができると思いませんか?」
「!!」
超規則バカなニケさんを正攻法で説得することなど不可能に近い。
いずれ論破されてしまうのが目に見えている。
だったら、情に訴えかければいい。
だったら、愛に訴えかければいい。
営業の基本は、『相手の気持ちに、相手の事情に、どれだけ寄り添うことができるか』が重要となる。
とても良いことを言っているようにも見えるが、詰まるところ、『相手の隙に、相手の懐に、どこまで付け入ることができるか』ということに他ならない。
そして、ニケさんの最大の弱点(弱点と言うと失礼だと思われるだろうが許して欲しい)と言えば、『強烈過ぎる俺への愛』ということになる。まぁ、嬉しいけどね。
だから、ここに付け入らないで、どこに付け入るというのか。
いや、付け入らないはずがない。
と、言うことで、ガンガン攻めさせてもらおう。
「規則も大事ですが、俺とニケさんの今後の為には必要な作業ですよ?」
「うっ.....」
「いえ、ハッキリ言いましょう。
これをやらずして、俺とニケさんの将来が開けるとは到底思えません」
「!?」
「ニケさんが本気で俺の事を想っているのなら、何が優先事項なのか自ずと分かるはずです。
少なくとも、俺はニケさんを最優先に考えています。だから、一緒に、と提案した次第です」
「私の優先事項.....」
ここまで言っておけば、もう大丈夫だろう。
今までの歴史を紐解いても、「重要だ」、「破ってはいけない」などと言われるような重大な規則を破る最大の原因は『人の感情』に依るところが大半だ。
それは、例え神様であっても例外ではないと思う。
いや、『神思想』なる究極のわがままを有する神様だからこそ有り得ると言っても過言ではないのかもしれない。
そして、それは超規則バカなニケさんであっても、どうしようもできない真理となる。
「一緒に投げてもらえますね?」
この誘いを断れば、俺への愛を否定することになるのだから、ニケさんとしては当然否定などできないだろう。.....卑怯?卑怯で結構!
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「歩、きっちくー( ´∀` )」
「伊達にあの世は見てないからな。恐れるものは(たくさんあるけど)何もない」
「私流免許皆伝をあげるよー(`・ω・´) シャキーン!!」
「それはマジでいらんっ!」
「ぇぇえええ Σ(・ω・*ノ)ノ」
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失せろ!くそ駄女神が!!
俺をおいてけぼりにした恨みは忘れてないからな?
アテナの邪念を追い払って、ニケさんからの回答を待つ。
と言うか、ニケさんの性格や俺への愛を鑑みるに、答えは既に決まっている。
「.....畏まりました。それが必要とあらば、私からお願いしたいぐらいです」
「ありがとうございます。これでまた一歩、ニケさんへの愛が深まったような気がします」
「そ、そうですか!?ありがとうございます!!私、歩様の為にもっと頑張りますね!!」
おおぅ.....。
じゅ、純粋過ぎる.....。
ニケさんのまぶしい程の純粋な笑顔が、俺の心をザックリと抉っていく。
しかし、後悔は微塵もない。
この笑顔を見られただけでも、十分にお釣りがくるというものだ。
・・・。
ニケさんの協力を得て、早速ダーツに挑む。
最早、単なる作業に他ならないのだから、緊張感も何もない。
そう思っていたのだが、いざ投げようとしたその時に、それは起こった。
「歩様。これは『愛の共同作業』ということで間違いないですよね?」
「そうですね。その認識で間違いありません」
愛の共同作業とか.....。
ちょっと大袈裟過ぎるし、なんか照れる。
「でしたら、一つお願いがあります」
「なんでしょうか?」
「立ち位置を逆にして頂いてもよろしいでしょうか?」
「.....え?」
現状、俺達の立ち位置はこうなっている。
(ダーツ) ← (俺)(ニケさん)
それを、ニケさんはこうして欲しいとお願いしてきた。
(ダーツ) ← (ニケさん)(俺)
最初の立ち位置だと、ニケさんは俺の手に自分の手を添えるだけでも事足りる。
しかし、ニケさんのお願いを聞いた場合、俺がニケさんを包み込むようにして覆い被さる必要が出てくる。.....あっ!もしかして、そういうことなのか?
随分と回りくどいお願いだと苦笑しつつ、俺はニケさんのお願いを叶えてあげる。
「あ.....」
「気が利かなくてすいません」
目的はダーツに挑戦することなのだが、俺はそんなことなど関係なく、ニケさんを背後からソッと抱き締めた。
ニケさんの華奢な体が、心の鼓動が、俺の腕を通してハッキリと伝わってくる。
何気に、ニケさんとのハグは初めてとなる。
今までは手を繋ぐところでストップしていた訳だし。
そういう意味では、これは前進の大きな第一歩だと捉えてもいいだろう。
ただ、こういうことは、お願いされる前に男の俺からするべきだったな、とちょっと後悔。
「あ、あの、あのですね!?
こ、こ、これでは投げられないと言いますか.....。
い、いえ!わ、私としては、い、一生このままでもいいと言いますか.....。
あっ!そ、そ、そういうことを言いたいんじゃないですよ?あ、あの、えっと、えっと.....」
ナイトさんかな?
と言うか、本音が漏れていますよ?
ここで他の女性の事を考えるのはタブーな事ぐらい、恋愛経験値が10な俺でも理解している。
しかし、それでも、あわあわと慌てふためているニケさんがかわいくて仕方がない。今はあどけない少女モードとみた!
そして、ニケさんの言葉通り、俺もニケさんと同じ気持ちだ。
だから、今度こそ過ちを犯すことはしない。俺から行動あるのみだ。
「落ち着いてください、ニケさん」
「は、はい。失礼しました。.....え!?」
少し落ち着いたと思われるニケさんを、いま一度強く、それでも愛おしむように優しく抱き締めた。
「それと、もう少しこのままで居てもいいですよね?」
「お、お願いします.....///」
シュ~っと頭から煙を出して、顔をりんごのように真っ赤に染めながら恥ずかしがってるニケさん。
結局、ニケさんを落ち着かせるどころか、余計に慌てさせることになってしまった。.....でも、幸せ~。
その後、しばらくはこの幸せなひとときをニケさんとともに満喫するのだった。
それと、言うまでもないと思うが、当然一発で『自由』を当てたことをここに追記しておく。
さて、後はドールとモリオンの分を(ニケさんに協力してもらって)サクッっとやっちゃいますか!
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後書き
次回、本編『激怒の女神』!
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今日のひとこま
~その後のアテナは~
「パパー。ただいまー( ´∀` )」
「おぉ!アテナや、おかえり。今回はゆっくりしていけるのかい?」
「んー。ゆっくりしていけるよー」
「そうかい。そうかい。
じゃー、今日はパパと一緒にお風呂にでも入ろうか。ママには内緒でね」
「それはダメー!歩が嫌がるからー、いっしょには入らないよー!」
「.....」
「あー!歩でおもいだしたー!」
「ア、アテナや?そんなどこの馬の骨とも分からないような男のことなど忘れなさい」
「んー?それはむりー┐(´ー`)┌」
「無理!?な、なんでだい!?」
「だってー、歩とは結婚する約束したしー。
それにねー、歩は私のこと好き過ぎなんだよー!にへへー(*´∀`*)」
「パ、パパだって、アテナの事が好きだよ!?だから、パパと結婚しよう!」
「しなーい!歩がダメっていうもーん!
それにねー、よくわかんないけどー、好きが違うんだってー!」
「ど、どう違うんだい!?パパはアテナを愛しているよ!?」
「もー!パパうるさーい!私の話をきいてーヽ(`Д´#)ノ」
「.....はっ!ご、ごめんよ?それで話ってのはなんだい?」
「十連ガチャに特典ちょーだーい!歩がほしーんだってー( ´∀` )」
「.....それはダメだ。たかが人間如きのお願いなんて聞く必要はないからね。
それに、簡単には規定を変えることはできないんだよ?アテナにもそれはわかるよね?」
「じゃー、パパきらーい。ばいばーいヽ(o・`3・o)ノ」
「ちょっ、ちょっと待った!.....と、特典つけちゃおっかなー!」
「ありがとー!どーんとつけちゃってー( ´∀` )」
「い、いや、さすがにどーんとは難しい.....」
「はー。パパってケチだねー。歩だったらー、私のお願いきいてくれるのになー」
「ぐぅ!!.....パ、パパに任せなさい!どどーんとつけちゃうぞ!!」
「じゃー、よろしくねー!私はお姉ちゃんのとこにいってくるー(o゜ω゜o)」
「えぇ!?ゆっくりできるんじゃないのかい!?」
「だってー、話したいことないんだもーん(´-ε -`)」
「そ、そんな.....」
「パパ、ばいばーい!
あー!それとー!うそついたら怒るからねー!いっしょー口きいてあげないよー?」
「.....」
その後、十連ガチャには何やらどどーんと特典が付いたらしい。
婚姻届けは一旦保留でお願いします!
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□□□□ ~お互い様~ □□□□
ニケさんの新たな一面を知ることができた俺は、嬉しさ半分怖さ半分な気持ちのまま、決戦場となるダーツへとやってきた。
ちなみに、ここに来るまでの間、ずっとニケさんと手を繋いでいたことは改めて言うまでもないだろう。
ニケさんが見守る中、俺はダーツの前で心を静かに落ち着ける。
する必要は全くないのだが、それでも、一応精神統一の形だけはとる。そうしないと、なんだか様にならないしな!
「歩様。今回の希望を伺ってもよろしいでしょうか?」
「当然、前回と同じです!」
俺が狙うのはただ一つ、『自由』だけだ。
実際、『加護』とかも魅力はあるのだが、それよりもニケさんとのデートを優先したい。
「畏まりました。微力ながら、お手伝いさせて頂きます」
「ありがとうございます」
ニケさんはそう言うと、凛々しくもビシッとした完璧なお辞儀をぺこりっ。
どうやら少し前までのあどけない少女モードから、今はデキるお姉さんモードへとチェンジしているらしい。
「.....」
「あの.....?いかがなされました?」
はっ!?
そんなニケさんの姿を見て、俺は気を引き締められるとともに、ついつい見とれてしまっていた。
ニケさんの真紅に染まったきれいな灼眼の瞳が俺の心を捕らえて放さない。
あどけない少女モードのニケさんは、普段とのギャップも相まってすごくかわいい。
これは間違いない。
しかし、デキるお姉さんモードのニケさんも、あどけない少女モードに劣らずとても魅力的だ。
カッコいい上に頼りになりそうなところとか、俺のお姉さん好き属性を甘くくすぐってくる辺りが堪らなく良い。
つまり、何が言いたいかというと.....。
「ニケさんは最高かよっ!」
そういうことだ。
ちょっと引いてしまうような一面も垣間見えたことがあったが、それでも、俺の中での一番は相変わらずニケさんその人だ。
それに、少しずつだが、ニケさんのそういう部分も好きになっていけたらいいな、と今は思う。
「まぁ.....///
嬉しいです。ありがとうございます」
「ふぁ!?声に出てました!?」
ほんのりと桜色に頬を染め、デキるお姉さんモードで恥じらう姿も、これはこれでとても新鮮だ。
ニケさんが嫌でなければ、ぜひ写真に納めたいぐらいである。.....神界でカメラって使えるのかな?
「使えませんよ。歩様であろうとも、人間では神界に下界のものは持ち込めません」
「そう、、ですか。残念です」
と言うか、心を読まないでくださいよ.....。
「それに、写真を撮られるのであれば、下界で撮られれば良いのではないでしょうか?」
「あ、なるほど!」
ちょっと考えれば分かることだった。
何も、シャッターチャンスは今しかない!、という訳ではないのだから。
ニケさんもくすくすと笑っている。は、恥ずかしい。
しかし、だからこそ、俺は敢えて反論する。
いっぱしのカメラ小僧になりきって。とは言え、俺はカメラ初心者だが.....。
「あ、あの瞬間は、あの時だけのものですから!」
「ふふっ。そうですね。これは失礼しました。
どうかお許しください。私の考えが足りませんでした」
そして、ニケさんは再び凛々しくもビシッとした完璧なお辞儀をぺこりっ。
「.....」
な、なんだろう.....。
この完全な敗北感は.....。
俺の子供のような意地に、余裕綽々と大人の貫禄で対応してくるニケさん。
なんだか余計に恥ずかしくなってしまった。
しかし、それもまた快感というもの.....。
「.....え?」
「ちょっ!?へ、変な誤解しないでくださいね!?.....と言うか、心を読まないでください!!」
驚いた顔で俺を見つめてくるニケさんに慌てて訂正を入れる。
俺に『羞恥プレイを楽しむ』とかいった、そういう変な趣味はない。至って、ノーマルである。
俺が言いたいのは、まるで子供のようにあやされる、その感覚が好きだということだ。
とは言え、理解しづらい人もいるだろうから一言で表そう。
『お姉さん×ショタ』
これに尽きる。
こういう関係が、俺の理想だ。.....あっ。Hな意味ではなくてね?
「『お姉さんの掌の上で転がされているショタ』とか、最高じゃないですか!?」
「え、えぇ.....」
おや?
もしかして.....、引かれているのか?
気のせいか、まるでひきつったような顔で微笑むニケさん。
変な誤解をされると困るので、ちゃんと説明した結果がこれだ。
それに、例え説明しなくとも、ニケさんは俺の心をきっと読み取るだろうから、結局はバレてしまう。
そうなった後で、変な誤解をされるぐらいなら、と先手を打ったつもりだったのだが.....。
しかし、この行動が逆に悪化の一途をたどることになってしまった。
「そ、その.....。素晴らしい趣味.....?だと思います。
なにぶん初めての事なので上手くできるかどうか分かりませんが、よろしくお願いします」
「趣味じゃないですよ!?」
「では.....、せ、性癖ですか?///」
「ちょっ!ちょっと待ってください!!完全に誤解してますよね!?」
この日、ニケさんの中の俺に、『変わった趣味が好き』・『アブノーマルが好き』という、とんでもないカテゴライズが追加されたのだった。
「ご安心ください。私はどんな歩様も受け入れますので。.....(にこっ)」
にこっ。じゃなぁぁあああい!
それは完全に誤解ですからぁぁあああ!!
□□□□ ~ニケの提案~ □□□□
時間も惜しいので、早速ダーツに挑もうと思う。
ちなみに、ニケさんは先程からずっとにっこにこだ。
俺の新たな性癖(性癖じゃない!).....一面を知れて、きっと嬉しいのだろう。なんだかなぁ.....。
「では、矢を投げて頂く前に、ご判断を仰ぎたいことがございます」
「なんでしょうか?」
「今回、歩様は十連信仰を行った訳ですが.....」
十連信仰?
聞き慣れない言葉が出てきたが、話の流れで『十連ガチャ』のことだと直ぐに分かった。
そもそも、神様への祈りをガチャ扱いすること自体が畏れ多い。
正式名称があるのは当然の事だろう。
十連ガチャとか、所詮はアテナクオリティーに他ならない。
「複数回当たった場合は、
『まとめて権利を執行する』か『個別に権利を執行する』かを自由に選ぶことができます」
十連ガチャの性質上、当然と言えば当然の結果だろう。
そして、ニケさんがこれを尋ねてきたということは、つまりあれだ。
「なるほど。ちなみに、ニケさんは何回当たったのでしょうか?」
「7回です」
な、7回!?多くないか!?
いや、考えてみれば、確率通りなのか?
ニケさんが全体の6割を占めているとなると、アテナが言っていた通り、普通はほぼニケさんになってもおかしくはない。
むしろ、他の神様に3回も当たったということは運が良かったとも言える。まぁ、あくまで普通のガチャという観点から見ればだが。
そして、俺の答えは決まっている。
「まとめてお願いします」
「.....え?よろしいのですか?」
「あれ?俺、何か変なこと言いました?」
「あの.....。力を求めておられるんですよね?でしたら、個別のほうがよろしいのでは?」
あぁ、なるほど。
確かに、ニケさんの言うことは最もだ。
俺が求めている力は、ニケさんならば可能だと、アテナからそう教わっている。
そして、神界からずっと俺達の様子を見ていたのであれば、ニケさんがそのことを知っていても当然だ。
「私とのデートを望まれるお気持ちは嬉しいのですが、7回もチャンスがあるのです。
せめて、半分ぐらいはお力に当ててしまわれたほうが良いのではないでしょうか?」
実に効率的な、ニケさんらしい考え方だ。
そして、俺もそれを考えなかったと言えば嘘になる。こんな大チャンスは滅多にないのだから。
しかし.....。
「俺と7日間、一緒に居るのは嫌ですか?」
「そ、そんなことはありません!すごく嬉しいです!!」
「すいません。分かっています。冗談ですよ」
「むぅ!そういう意地悪な冗談は好きではありません!」
頬をぷぅと脹らませ、ちょっと拗ねてみせているニケさん。かわいい。
その姿からはどこかあどけなささえ窺い知れる。少女モード中なのかな?
「まとめてで構いませんよ」
「.....本当によろしいのですか?その、私は嬉しいのですが.....」
「はい。お願いします」
「歩様.....。ありがとうございます」
ニケさんは大袈裟だなぁ.....。
別に、感謝されるようなことではない。
俺がそうしたいと望んでいることなのだから。
確かに、正直言えば、惜しいという気持ちは多分にある。
例えば、ニケさんの言う半々程ではないにせよ、『デート6・加護1』や『デート5・加護2』という感じにすることもできたのだろうから。
いや、力を求めるなら、そうすべきだったのだろう。
だが、俺は敢えてそれを否定する。理由はちゃんとある。
「その理由とやらを伺ってもよろしいですか?」
「まずですね。今後は十連ガチャ.....十連信仰でしたっけ?それが基本になると思います」
「アテナ様が仰った『特典』とやらが目当てですか?」
「さすがニケさん。その通りです。アテナのことですし、どんな特典になるかは分からないですが.....。
もしかしたら、ニケさんに頼らずとも力を手に入れられる可能性があるんじゃないかと思っています」
もし仮にそうなった場合、ここでニケさんから力を貰う必要性は全くない。
それに、力を選んだこと自体が損となる。デートがその分、少なくなる訳だし。
「.....少し希望的観測過ぎませんか?」
「それは否定しません。
ですので、もしアテナの特典が期待外れだったその時には、改めてお願いするかもしれませんね」
「ふふっ。非効率的ではありますが、それが歩様の歩まれる世界なのですね。
でしたら、私も歩様とともに同じ早さで参ろうと思います」
非効率的だと分かった上で、それでも、俺に合わせてくれていることがとても嬉しい。
さすがニケさん。さすがデキるお姉さん。お姉さん系っていうのは、こういうのでいいんだよなぁ。
ただ一つ、言っておきたいことがある。
ニケさんは希望的観測だと言うけれど、実はアテナの『特典』には秘かに期待している俺がいる。
アテナはわがままでぐーたらで、食い意地の張ったどうしようもない駄女神である。
唯一女神らしいと言えば顔と体ぐらいで、それ以外は、むしろ人間以下と言ってもいいぐらいだ。
そんなしょうもない駄女神であるアテナであっても、俺が本当に困っている時や本当に求めている時は、なんだかんだ言って、期待以上の成果を見せてくれたりもする。
あいつは頼れないようで頼れる、そういう存在なのだ。だから、今回も.....。
「仲がよろしいようで何よりです」
「まぁ、その分、普段は酷いんですけどね.....」
「特典の件は分かりました。.....ただ、力はたくさんあっても損ではないと思いますが?」
「『過ぎたるは及ばざるが如し』ですよ、ニケさん。
普通な俺が、力を求め過ぎてはいけないんです。何事も程々が一番という言葉もありますしね」
力を求め過ぎて、一度失敗しているというのも大きい。(※第94歩目参照)
そもそも、俺よりも優れている勇者でさえ、魔勇者化している者がいると聞いたことがある。
理由は様々だろうが、中には俺と同じように力を求め過ぎた結果、魔勇者になってしまった者もいるに違いない。
勇者であってもこうなのだ。
だったら、勇者ではない俺は、尚更自分を、力を過信する訳にはいかない。
「それがお分かりになられているのであれば、大丈夫だと思いますが?」
「いえいえ。強すぎる力は認められた者だけにしか使えない。それがお約束というものです」
選ばれし者だけが持つ特権というやつだ。
仮に、皆等しくその力を享受できるのなら、世界は混沌ともしないし、貧富の差なんてものは絶対にできやしない。
そして、それはつまり、普通である俺には絶対に該当しないということにもなる。
一部の勇者や、それこそ、ニケさんのような特別な人にこそふさわしい。
「そうですか?歩様も十分に、その『選ばれし者』だと思いますよ?」
「え?俺がですか?確か、付き人の件もアテナの気紛れでしたよね?」
「あ、いえ。その事ではなくてですね」
「どういうことですか?」
「そ、その.....。私に、女神に、あ、あ、愛されている時点で特別だと思うんです.....///」
「あ、ありがとうございます.....」
た、確かに.....。
ちょっと意味は違うようにも思えるが、それでも特別なのは間違いない。
俺は自分を普通だと思い込んでいたが、どうやら特別な存在だったらしい。だったら、尚更謙虚でいないとな。
「それにですね?これが一番大切な理由なんですが、ニケさんとの時間を優先したいんです。
今後は十連が基本となると、恐らく、会えるペースが年単位になってしまうと思いますので」
クリアうんぬんは一旦置いとくとして、1都市平均2ダンジョンと考えると、最低でも5都市は回らないといけなくなる。
そして、1都市と1都市の間の旅期間が平均2ヶ月でも10ヶ月、3ヶ月ともなると15ヶ月は必要になる。
やはり、十連をベースに考えると年単位にならざるを得ないだろう。
「先程も言いましたが、ニケさんを知る為には、
ニケさんに胸を張って「愛しています!」と言う為には時間が必要となります。
そして、時間とは『どれだけ多くの時間を一緒に過ごせたか』ということになるんだと思います」
つまりは、デートに他ならない。
だから、ニケさんの場合は力を求めるよりもデートを優先したい。
それに、年単位でしか会えない訳なのだから一日でも長く一緒に居たい。寂しいしな。
そう思っていた。
そして、ニケさんもきっと俺と同じ思いだと思っていた。
「歩様の仰る通りです。私も歩様と一日でも長く一緒に居たいと思います。
それに、寂しい.....かもしれませんね」
「?」
しかし、どうにも違和感を感じる返事内容だった。
いや、大筋は俺とほぼ一緒なので、どこが、という程ではないのだが.....。気のせいかな?
・・・。
何はともあれ、そういうことなので、俺の答えは変わらない。
全ての期間をデートに費やす。これ一択だ。
「だから、まとめてでお願いします」
「畏まりました。では、こちらをお受け取りください」
そして、ニケさんから渡される一つの矢.....と思ったら───。
───ひょい!
「え?」
手渡される瞬間に、何故かニケさんが奇妙な行動に出た。
そして、まるで「これ、あげるよ。はい、あ~げた(笑)」をされたかのように、俺はお預けを喰らってしまった。
「あ、あの.....」
「ふふっ。歩様はこういうのがお好きなんですよね?上手くできたでしょうか?」
「.....」
ニケさんの誤解が甚だしい件について。
まぁ、こういうお茶目なニケさんも好きだけど!好きだけどさ!!
「失礼しました。では、どうぞ」
「いえいえ。ありがとうございま.....」
───ひょい!
またっ!?
「ふふっ。また引っ掛かりましたね?案外、こういうのも楽しいものですね」
「.....」
どうやら俺は、ニケさんの中に眠るS魂を起こしてしまったのかもしれない.....?
□□□□ ~ニケとの共同作業~ □□□□
その後もしばらくは、ニケさんとの「これ、あげるよ。はい、あ~げた(笑)」がほのぼのと続いた。
時間が惜しい気もしたが、これはこれで幸せな時間だったと思う。
それに、存分にニケさんの掌の上で転がされたような感じがするので、俺としては大満足だ。
狙うは『自由』ただ一つ。
しかし、ここで忘れてはならないのが、前回の一件だ。(※第129歩目参照)
ニケさんが手伝ってくれる以上、『自由』になるのは確定している。
ただ、それになるまでに、前回は30分ギリギリまで掛かってしまっている。そして、今は残り15分.....。
間に合わない.....とは決して思ってはいない。
恐らくだが、ニケさんが何とかしてくれるのだろう。だから、心配はしていない。
俺の分だけは。
そう、今回は前回と違って、ドールやモリオンの分まである。
故に、俺の分は問題ないとしても、そこに時間を掛けていたら、ドールやモリオンの分が間に合わなくなる。
そう考えると、残り15分のこの状況は割と絶望的なのではないだろうか。
「では、歩様。早速どうぞ」
「あの、一つ提案があるのですが、いいですか?」
だから、俺はある秘策を提案することにした。
これは、前回の経験を元にずっと考えていたものだ。
「なんでしょうか?」
「一緒に投げてもらえませんか?」
「それは規定に違反しますので認められません。申し訳ございません」
申し訳なさそうに、でも、毅然とした態度で、俺の提案を退けるニケさん。
超規則バカなニケさんのことだ。こういう結果になることは想定済みである。
故に、俺もここで諦めたりはしない。
「以前、俺が言ったことを覚えていますか?」
「私が歩様の仰られたことを忘れるはずがありません!
一言一句、何時何秒に仰られたかまで正確に覚えております!!」
「そ、そうですか.....」
ふんす!と鼻息荒く、胸を張って自信満々にそう語るニケさん。
若干、後退りしてしまったことは内緒である。
「話が早くて助かります。つまりは、そういうことなんです」
「どういうことですか?説明をお願いします」
俺が以前言ったこととはこれだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「俺と同じ目線で、同じものを見て、同じことを感じてもらいたいな、と。
ニケさんが俺を立ててくれる、その気持ちはとても嬉しいです。
ですが、それよりもニケさんと同じ思いを共有できることのほうがもっと嬉しいです」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いまこの瞬間こそ、同じ思いを共有できるチャンスだと思いませんか?」
「そ、それはそうなのかもしれませんが.....。しかし.....」
単なる拡大解釈に過ぎないが、それでも『一緒に投げる』という行為自体は、この趣旨から大きく外れている訳ではない。
とは言え、屁理屈と言われれば屁理屈にあたるが.....。
しかし、今はなりふり構っていられないのも、これまた事実。
故に、使えるものは何でも使う。
それが、例え卑怯なものであろうとも、例え鬼畜外道なものであろうとも.....。
それがアテナ流であり、俺がアテナに使うことを許可してもらった武器でもある。
「悩むことなんて何もないですよ?
俺とニケさんにとって、必要な共同作業だと思ってください」
「必要な共同作業、ですか?」
「はい。くどくなりますが、
ニケさんとの仲を深める為には『どれだけ多くの時間を一緒に過ごせたか』が重要となります」
「はい。それは理解しております」
「ありがとうございます。ならば、それはつまり、
『どれだけ多くの事を一緒に体験することができたか』とも言い換えることができると思いませんか?」
「!!」
超規則バカなニケさんを正攻法で説得することなど不可能に近い。
いずれ論破されてしまうのが目に見えている。
だったら、情に訴えかければいい。
だったら、愛に訴えかければいい。
営業の基本は、『相手の気持ちに、相手の事情に、どれだけ寄り添うことができるか』が重要となる。
とても良いことを言っているようにも見えるが、詰まるところ、『相手の隙に、相手の懐に、どこまで付け入ることができるか』ということに他ならない。
そして、ニケさんの最大の弱点(弱点と言うと失礼だと思われるだろうが許して欲しい)と言えば、『強烈過ぎる俺への愛』ということになる。まぁ、嬉しいけどね。
だから、ここに付け入らないで、どこに付け入るというのか。
いや、付け入らないはずがない。
と、言うことで、ガンガン攻めさせてもらおう。
「規則も大事ですが、俺とニケさんの今後の為には必要な作業ですよ?」
「うっ.....」
「いえ、ハッキリ言いましょう。
これをやらずして、俺とニケさんの将来が開けるとは到底思えません」
「!?」
「ニケさんが本気で俺の事を想っているのなら、何が優先事項なのか自ずと分かるはずです。
少なくとも、俺はニケさんを最優先に考えています。だから、一緒に、と提案した次第です」
「私の優先事項.....」
ここまで言っておけば、もう大丈夫だろう。
今までの歴史を紐解いても、「重要だ」、「破ってはいけない」などと言われるような重大な規則を破る最大の原因は『人の感情』に依るところが大半だ。
それは、例え神様であっても例外ではないと思う。
いや、『神思想』なる究極のわがままを有する神様だからこそ有り得ると言っても過言ではないのかもしれない。
そして、それは超規則バカなニケさんであっても、どうしようもできない真理となる。
「一緒に投げてもらえますね?」
この誘いを断れば、俺への愛を否定することになるのだから、ニケさんとしては当然否定などできないだろう。.....卑怯?卑怯で結構!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「歩、きっちくー( ´∀` )」
「伊達にあの世は見てないからな。恐れるものは(たくさんあるけど)何もない」
「私流免許皆伝をあげるよー(`・ω・´) シャキーン!!」
「それはマジでいらんっ!」
「ぇぇえええ Σ(・ω・*ノ)ノ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
失せろ!くそ駄女神が!!
俺をおいてけぼりにした恨みは忘れてないからな?
アテナの邪念を追い払って、ニケさんからの回答を待つ。
と言うか、ニケさんの性格や俺への愛を鑑みるに、答えは既に決まっている。
「.....畏まりました。それが必要とあらば、私からお願いしたいぐらいです」
「ありがとうございます。これでまた一歩、ニケさんへの愛が深まったような気がします」
「そ、そうですか!?ありがとうございます!!私、歩様の為にもっと頑張りますね!!」
おおぅ.....。
じゅ、純粋過ぎる.....。
ニケさんのまぶしい程の純粋な笑顔が、俺の心をザックリと抉っていく。
しかし、後悔は微塵もない。
この笑顔を見られただけでも、十分にお釣りがくるというものだ。
・・・。
ニケさんの協力を得て、早速ダーツに挑む。
最早、単なる作業に他ならないのだから、緊張感も何もない。
そう思っていたのだが、いざ投げようとしたその時に、それは起こった。
「歩様。これは『愛の共同作業』ということで間違いないですよね?」
「そうですね。その認識で間違いありません」
愛の共同作業とか.....。
ちょっと大袈裟過ぎるし、なんか照れる。
「でしたら、一つお願いがあります」
「なんでしょうか?」
「立ち位置を逆にして頂いてもよろしいでしょうか?」
「.....え?」
現状、俺達の立ち位置はこうなっている。
(ダーツ) ← (俺)(ニケさん)
それを、ニケさんはこうして欲しいとお願いしてきた。
(ダーツ) ← (ニケさん)(俺)
最初の立ち位置だと、ニケさんは俺の手に自分の手を添えるだけでも事足りる。
しかし、ニケさんのお願いを聞いた場合、俺がニケさんを包み込むようにして覆い被さる必要が出てくる。.....あっ!もしかして、そういうことなのか?
随分と回りくどいお願いだと苦笑しつつ、俺はニケさんのお願いを叶えてあげる。
「あ.....」
「気が利かなくてすいません」
目的はダーツに挑戦することなのだが、俺はそんなことなど関係なく、ニケさんを背後からソッと抱き締めた。
ニケさんの華奢な体が、心の鼓動が、俺の腕を通してハッキリと伝わってくる。
何気に、ニケさんとのハグは初めてとなる。
今までは手を繋ぐところでストップしていた訳だし。
そういう意味では、これは前進の大きな第一歩だと捉えてもいいだろう。
ただ、こういうことは、お願いされる前に男の俺からするべきだったな、とちょっと後悔。
「あ、あの、あのですね!?
こ、こ、これでは投げられないと言いますか.....。
い、いえ!わ、私としては、い、一生このままでもいいと言いますか.....。
あっ!そ、そ、そういうことを言いたいんじゃないですよ?あ、あの、えっと、えっと.....」
ナイトさんかな?
と言うか、本音が漏れていますよ?
ここで他の女性の事を考えるのはタブーな事ぐらい、恋愛経験値が10な俺でも理解している。
しかし、それでも、あわあわと慌てふためているニケさんがかわいくて仕方がない。今はあどけない少女モードとみた!
そして、ニケさんの言葉通り、俺もニケさんと同じ気持ちだ。
だから、今度こそ過ちを犯すことはしない。俺から行動あるのみだ。
「落ち着いてください、ニケさん」
「は、はい。失礼しました。.....え!?」
少し落ち着いたと思われるニケさんを、いま一度強く、それでも愛おしむように優しく抱き締めた。
「それと、もう少しこのままで居てもいいですよね?」
「お、お願いします.....///」
シュ~っと頭から煙を出して、顔をりんごのように真っ赤に染めながら恥ずかしがってるニケさん。
結局、ニケさんを落ち着かせるどころか、余計に慌てさせることになってしまった。.....でも、幸せ~。
その後、しばらくはこの幸せなひとときをニケさんとともに満喫するのだった。
それと、言うまでもないと思うが、当然一発で『自由』を当てたことをここに追記しておく。
さて、後はドールとモリオンの分を(ニケさんに協力してもらって)サクッっとやっちゃいますか!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
次回、本編『激怒の女神』!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日のひとこま
~その後のアテナは~
「パパー。ただいまー( ´∀` )」
「おぉ!アテナや、おかえり。今回はゆっくりしていけるのかい?」
「んー。ゆっくりしていけるよー」
「そうかい。そうかい。
じゃー、今日はパパと一緒にお風呂にでも入ろうか。ママには内緒でね」
「それはダメー!歩が嫌がるからー、いっしょには入らないよー!」
「.....」
「あー!歩でおもいだしたー!」
「ア、アテナや?そんなどこの馬の骨とも分からないような男のことなど忘れなさい」
「んー?それはむりー┐(´ー`)┌」
「無理!?な、なんでだい!?」
「だってー、歩とは結婚する約束したしー。
それにねー、歩は私のこと好き過ぎなんだよー!にへへー(*´∀`*)」
「パ、パパだって、アテナの事が好きだよ!?だから、パパと結婚しよう!」
「しなーい!歩がダメっていうもーん!
それにねー、よくわかんないけどー、好きが違うんだってー!」
「ど、どう違うんだい!?パパはアテナを愛しているよ!?」
「もー!パパうるさーい!私の話をきいてーヽ(`Д´#)ノ」
「.....はっ!ご、ごめんよ?それで話ってのはなんだい?」
「十連ガチャに特典ちょーだーい!歩がほしーんだってー( ´∀` )」
「.....それはダメだ。たかが人間如きのお願いなんて聞く必要はないからね。
それに、簡単には規定を変えることはできないんだよ?アテナにもそれはわかるよね?」
「じゃー、パパきらーい。ばいばーいヽ(o・`3・o)ノ」
「ちょっ、ちょっと待った!.....と、特典つけちゃおっかなー!」
「ありがとー!どーんとつけちゃってー( ´∀` )」
「い、いや、さすがにどーんとは難しい.....」
「はー。パパってケチだねー。歩だったらー、私のお願いきいてくれるのになー」
「ぐぅ!!.....パ、パパに任せなさい!どどーんとつけちゃうぞ!!」
「じゃー、よろしくねー!私はお姉ちゃんのとこにいってくるー(o゜ω゜o)」
「えぇ!?ゆっくりできるんじゃないのかい!?」
「だってー、話したいことないんだもーん(´-ε -`)」
「そ、そんな.....」
「パパ、ばいばーい!
あー!それとー!うそついたら怒るからねー!いっしょー口きいてあげないよー?」
「.....」
その後、十連ガチャには何やらどどーんと特典が付いたらしい。
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