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第6章 力を求めて -再臨ニケ編-
外伝 対姉妹最終兵器!姉と妹⑦
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前回までのあらすじ
モリオンは強いけど単純すぎた!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
□□□□ ~体がうずく~ □□□□
ヴェルナシュのダンジョンを制覇した翌日、俺達は再び海の上にいることになった。
目的地は『海産物の村コルリカ』。
アテナの強い要望で、現在はそこを目指している最中だ。
・・・。
正直、暇だ。
数日前まで船旅をしていて、やっと陸に上がれたと思ったら、再び船旅ときたもんだ。やることがない。
(毎日ごろごろするのもきついなぁ.....。なにか趣味でも見つけるか?)
立派な社畜精神と言えるだろう。
毎日ごろごろし放題だと言うのに、体が何故か働くことを求めてしまう。なんというか、こう誰かの下で働く安心感と言えばいいのか.....。
こんな社畜精神旺盛な俺を欲しがる企業さん!
ヘッドハンティングお待ちしてます!俺、めっちゃ働きますよ!!
と、まぁ、バカなことはともかく、今日も今日とておかずの為に釣りに勤しむことにしよう。
そう思いながら、アテナ達を誘ってみると.....。
「済まぬ。これからトカゲの戦闘訓練の時間なのじゃ」
「おぉ。早速か」
「1日も早く主の力になれるようしごく予定なのじゃ」
「おー!我は頑張るのだ!」
ドールとモリオンの鼻息は荒い。やる気に燃えているようだ。
そして、俺としても、ドール達がどういう訓練を行うのか非常に興味がある。
「見学しててもいいか?」
「構わぬ。.....いや、むしろ、そのほうが都合が良い」
「どういう意味だ?」
「見ていれば分かる。では、早速行くのじゃ」
こうして、俺は釣りをやめて戦闘訓練の見学に行くことになった。
(どうせ釣りをしたところでボウズだろうし、こっちのほうが面白そうだ!)
□□□□ ~まぶしい存在~ □□□□
早速、船のデッキへと移動して戦闘訓練が行われるようだ。
俺達が現在乗っている船は、漁船とは違ってフェリー並の大きさの船だ。
だから、デッキといってもそこそこの広さがある。多少、騒々しくなっても問題はないだろう。
「では、参る。良いな?トカゲ」
「いつでもいいのだ!」
モリオンの元気のいい返事を皮切りに、ドールが懐から数枚の符を取り出した。
どうやら、戦闘訓練は符を使って行われるらしい。
・・・。
「待て、待て、待て、待て、待て!」
「なんじゃ、いきなり?」
なんじゃ、じゃねぇ!
え?マジで符を使うの!?
「.....?当然であろう?実戦形式の訓練ではないと意味がないからの」
「いやいやいや。少しは常識を考えろよ.....」
心底、心外といった表情をしているドールに、俺はハッキリと物申したい。
他の客には迷惑になるだろうが、百歩譲って、デッキが騒がしくなることはいいとしよう。
この際、TPOよりも暇な時間の有効活用をしたと、唯一常識のある俺自身を納得させればいいだけなのだから。それでもごちゃごちゃ言われるようなら、大人の力で解決すればいい。
しかし、それでも、符だけはいただけない。
確か、ドールの扱う符術は『打撃』・『衝撃』・『爆撃』の3つだったはずだ。
どれもこれも船に損害を与えそうなものばかりなのでシャレにならない。
多少、騒がしい程度だったら船員及び他の客も大目に見てくれるだろうが、命に関わりそうな騒動となると話は別なはず。俺にしたって、それはご免被りたい。
しかし、そんな慌てる俺に対して、ドールはニヤリッと微笑んだ。
「安心せい。妾は姉さまとは違うのじゃ。そこまで非常識ではない」
「非常識だという認識があるなら直せよ.....」
そんな俺のツッコミを無視して、ドールが1枚の符を差し出してきた。
要は「触ってみろ」ということなのだろう。
(『打撃符』以外、耐性がないから痛くて嫌なんだよなぁ.....)
渋る俺に、ドールが「早うせいっ!」とせっついてくる。
このままでは仕方がないので、恐る恐る差し出された符に触れてみると.....。
───パチッ!
「おわっ!?」
指先に電気が走った。
まるで乾燥した冬の季節に、なにげなしにドアノブに触れた時のような衝撃だった。.....びっくりしたなぁ、もう!
これは.....所謂、静電気といったものに近い。
「くふふ。これならば大丈夫であろう?」
「ま、まぁ.....」
俺が驚く様を見て、くすくすとせせら笑うドール。
と言うか、俺に実体験させる必要はあったのだろうか。言ってくれれば分かるような.....。わざとかっ!?
とりあえず、ドールの性根の腐った悪戯の件は置いとくとして、腑に落ちないことがある。
それは、この謎の符についてだ。明らかに俺の知っている3つの符とは性質が異なる。
ドールさんと言えば、元の性質はアテナに割りと近いほうだ。
どういうことかと言うと、勝つ為ならばどんな汚い手段でも平然とした顔で当たり前のように行ったりする。
この世界では『相手の弱点をつくこと』は最大のタブーとされている。
つまり、それを行うことは卑怯者、臆病者扱いされ、多くの人々から後ろ指を指されてもおかしくない行為にあたってしまう。
なぜそうなってしまうかはよく分からないが、アテナが管理する世界はいい加減なことが多いので、そういうものだと理解して頂きたい。
ゆえに、正々堂々と真っ向勝負する人達がほとんどなのである。
こういう理由があるからこその『スキルレベル絶対主義』となっていて、ステータス差よりもスキルレベルが重要視されている一因ともなっている。
これがこの世界の常識なのだが、ドールはそれを全く気にもせず破ってくる。
そして、問答無用で相手の弱点をこれでもかっ!というほど攻め立ててくる。かつて俺も、ドールと模擬戦をした時は相当苦しめられたものだ。
つまり、戦いにおいては卑怯などというものは存在しないという『リアリスト』であるということだ。
だからこそ、今回の符については腑に落ちないし、少なからず驚かされた。
ドールの攻撃系の符の根本にあるのは『相手を倒す』ことにある。
『打撃符』・『衝撃符』・『爆撃符』、いずれも活用次第では相手を死に至らしめることが可能なものだ。ぶっちゃけ、相手を倒してしまえば卑怯もくそもないので合理的なものだと言えるだろう。
そこに今回の符.....仮に『電撃符』と名付けよう。
それが新しく加わってきた。
しかも、恐らくだが、活用方法は他の3つの符とは異なる目的で加えてきたと推測される。
当然、『電撃符』でも感電死ということで相手を葬り去ることはできるだろう。
しかし、俺が触れてみた感触からいうと、正解には『(静)電撃符』といったところで、相手を倒す目的よりも相手を麻痺させる目的に特化しているように思えてならない。
果たして、ドールにどんな心境の変化があったというのか.....。
「勇者様のお供をしていた奴隷達からヒントを得て新しく作ったのじゃ」
「ひと・える・いぬ子ちゃんから?」
説明するまでもないと思うが、ひと・える・いぬ子ちゃんとはサキの奴隷のことだ。
もともと、ドールとひと・える・いぬ子ちゃんはあまり仲良くはなかったのだが、フランジュからベルジュに向けての4ヶ月の船旅の間にどうやら和解したらしい。
今ではサキに関する事以外ならば、友達のように付き合いがあるのだとか。
「あやつらが使う不思議な魔道具がの、バチバチッ!となるだけで、人が面白いように倒れていくのじゃ」
「そんなもんまであるのかよっ!?」
ドールが言っている魔道具とは、恐らくスタンガン的な何かだろう。
サキはあんな性格であっても、アイドルというだけあって人気がある。
そして、サキのマネージャー的な存在で、いつも一緒に侍っているひと・える・いぬ子ちゃん達にも、サキ程ではないが人気があって、しかも、ファンまでもが存在しているらしい。
考えてみれば、当然なのかもしれない。
かわいい女の子が大好物なサキに認められたひと・える・いぬ子ちゃん達だ。当然、かわいくないはずがない。
特に俺のおすすめはいぬ子ちゃんだ。
獣人ということで圧倒的に人気はないが、猫派である俺をしてもかわいいと思わされてしまうそのキュートさに思わず脱帽してしまう。
例えるなら、犬種は違うが、チワワみたいなものだ。
保護欲を駆り立てられるというか、愛くるしくて仕方がないというか。それゆえに、いぬ子ちゃんに嫌われていることがとても悲しくなる.....。
大きく逸れてしまったので、話を戻そう。
サキだけではなく、ひと・える・いぬ子ちゃんにも人気がある。
そうなれば、自ずと自衛する手段が必要となってくるだろう。勇者であるサキとは違って、普通の(奴隷ではあるけど)女の子なのだから。
ドール曰く、そういう理由でスタンガン的なものを持たせているのだとか。
異世界でも、度を越した熱狂的なファンというものは一定数存在するらしい。.....ドルオタ恐ぇ。
「今後、主は勇者としての知名度を上げていかねばならぬからの。
妾も勇者の奴隷として、節度ある対応を求められる機会が増えるはずなのじゃ」
「まぁ、そうだな」
ただ、勇者の奴隷って部分はなんか気になる。
勇者として正しいことを行っていく上で、奴隷を従えているというのは倫理的にどうなのだろうか。
いや、奴隷制度が当たり前のこの世界では問題ないのかもしれない。
奴隷は人ではなく物扱いになっていることだし。
疑問に思ってしまうのは、地球式でモノを考えているからだろう。
今はパルテールにいるのだから、パルテール式で考えればいいだけだ。それに、俺が奴隷に酷いことさえしなければいいのだから.....。
「だから、それに見合った符を新たに作ったという訳なのじゃ。
憎き人間族など、みな殺してしまえばいい!、という訳にもいくまい?」
「なるほどね。.....え!?作ったの!?」
「そうじゃが.....。それがどうしたのじゃ?」
おいおいおいおいおい。
マジかよ!?作れちゃうものなのかよ!?
正直、羨ましい。
無から何かを作り出せる人は、それの内容うんぬんはともかく、尊敬に値する存在だと心から思える。
俺は地球にいた時から、既にあるものを必死に活用するぐらいしかできなかった。
ここ異世界に召喚されてからも、条件付きだが、既にあるものなら制限なく取得はできる。
だが、その一方で、新しく何かを生み出す力は皆無だ。
つまり、俺はこのままずっとパイオニアになることはできずに、社畜のままでいないといけないということになる。
そういう存在からすれば、一から『電撃符』を作り出したドールは、まさにまぶしい存在に見える。
「そ、それは誉めすぎなのじゃ」
「いやいや!お前は本当にすごいよ!」
「そ、そうか?.....くふふ。誉められて悪い気はせぬのぅ」
俺に誉められて気を良くしたのか、ドールの2本の尻尾がぶんぶんと激しく振られている。かわいい。
そして、それは当然やる気にも直結する訳で.....。
「さぁ!バシバシとしごいてやるのじゃ!トカゲ、覚悟するが良い!!」
「お、お姉ちゃんがなんか恐いのだ.....」
ドールの凄まじい熱量に、顔をひきつらせて圧倒されるモリオン。
どこか体が小刻みに震えているようにさえ見える。
それはまるで電撃符の恐怖を知っているかのような.....。
(モリオンにとっては逆効果だったか.....。
済まんっ!大変だろうが、これも将来の為だ。頑張ってくれ!!)
こうして、モリオンの地獄のような戦闘訓練が始まるのだった。
□□□□ ~恐怖!電撃符!!~ □□□□
「.....ア.....ユム。.....我は.....頑.....張った.....のだ?」
「あぁ。モリオンは頑張ったぞ」
「.....な.....ら、ご.....飯を.....いっぱ.....い.....に.....して.....欲しい.....のだ。.....(ガクッ)」
「モォォオオオリオォォオオオン!」
俺が見つめる中、息絶え絶えになりながらも、最後の言葉を必死に伝えようとしていたモリオンの言葉が遂に途切れた。俺はまだ何も伝えられていないというのに.....。ヒール!
「.....分かったよ。モリオン。お前の遺志は確かに受け取った」
「.....」
「今日のご飯はいっぱいにしてやるからな?」
「ほんとーなのだ!?.....わーい!やったのだー!」
「ほれ、いつまでも茶番をしとらんで夕食に行くのじゃ」
茶番言うなっ!
まぁ、茶番だけどさ?
ドールとモリオンの戦闘訓練は、それはもう壮絶.....ということはなく、普通の模擬戦だった。
成体に変化したドールとモリオンが普通に戦っていただけなのだが、内容は.....まぁ、うん。ドールの圧勝でした。
端から見ると、面白いようにドールの罠にかかっていくモリオンは、言葉は悪くなるが滑稽でしかない。
「いや、主も似たようなものだったのじゃ」
「HAHAHA」
「我はアユムと一緒だったのだ?」
「喜ぶところではないのじゃ。今日、教えたことを忘れるでないぞ?」
俺と一緒だったという事実に、嬉しそうににこにこしていたモリオンに釘を指すドール。
何も言えねぇ。何も言えねぇよ!
盛大なブーメランをかましちゃったじゃないか!!
とりあえず、このまま戦闘訓練を続けていけば、成果は見込めそうなので2人には頑張ってもらいたいところだ。
ただ、唯一問題があるとすれば.....。
「ぐぬぬ!やはり成体になると服が破けるのじゃ。お気に入りだったのにのぅ.....」
「お姉ちゃんからもらった服がぼろぼろなのだ。お姉ちゃん、ごめんなさい、なのだ.....」
着ている服が使い物にならなくなってしょんぼりする2人。
戦闘訓練を行う度に服が使い物にならなくなってしまうのは、さすがに死活問題だろう。
だからと言って、裸で訓練させる訳にもいかないし.....。俺が周りから白い目で見られるわっ!
(う~ん。モリオンの訓練も一朝一夕にどうにかなるものじゃないし.....。問題は山積みだなぁ)
・・・。
新たな問題に頭を悩ませながら夕食の席に着く。
今度はマナーの勉強の時間らしい。訓練生はアテナとモリオンだ。
「モリオンは今度もか。大変だなぁ.....」
「トカゲも姉さまに劣らずモノ知らずなのじゃ。これを機にしっかりとした躾をしていくのじゃ」
ドールの言う通り、モリオンのマナーは結構酷い。
特にテーブルマナーは壊滅的というか、原始的というか、あまりにも豪快だった。それこそ出会った当時は、全てのものを手掴みで食べていたぐらいだ。
「もう違うのだ!今はスプーンとフォークを使えるのだ!」
「そうだな。えらいぞ、モリオン」
胸を張ってそう語るモリオンを誉めつつ、俺のおかずをモリオンに分けてあげる。
先程の訓練を頑張ったご褒美だ。
「モーちゃーん、いーなー(´・ω・`)」
「お前も頑張ればいいだけだろ。この時間はお前も対象らしいし」
「ぶー!それじゃー、いまもらえないじゃーん(´-ε -`)」
「うるさいなぁ、もう.....」
俺の膝の上でぶー!ぶー!うるさいアテナにも、モリオン同様分けてあげた。
アテナを静かにさせたほうがゆっくりと食事を取れるし、足りなかったら料理は追加で注文すればいいだけだ。
すると、早速マナー講師から指摘が入る。
「前々から思っておったのじゃが.....。
マナー的に、食事中も姉さまが主の膝に座るのは良くないと思うのじゃ」
ごもっとも。
ドールの言うことは正しい。
しかし、これは.....。
「んー?もぐもぐもぐー?」
「食べながら話すでない。行儀悪いの。.....(サッ)」
「う、うぴゃぁぁあああ!?」
おぉ、バカがよく痺れとるなぁ。
ドールのいやらしい指摘に思わず苦笑い。
このタイミングで指摘を入れてくるあたり、狙っていたように思えてならない。
ちなみに、アテナのテーブルマナーは驚くほど普通だ。
ドールの地道な『姉さま補完計画』の賜物だと言えよう。
でも、それはそれで寂しいので、今でも訓練時以外は俺がアテナの餌付けをしてあげている。
「ふぇぇえええん。いたーいよー(´;ω;`)」
「はいはい。大声で騒いでいると、またドールに怒られるぞ?」
アテナの涙を拭きつつ、ご飯をアテナの口まで運んでいく。
この瞬間に、なぜか幸せを感じてしまうのは俺の悪い癖だ。
「それでどうなのじゃ?食事中はきちんと席に着くべきだと思うのじゃが?」
「俺は別にいいんだがな。もう慣れたし。.....アテナはどう思う?」
「もぐもぐもぐー!」
「はぁ.....。食べながら話すでないと何度も言うておろう?.....(サッ)」
「う、うぴゃぁぁあああ!?」
あっ!
悪い、アテナ(笑)
アテナは全てのダメージを1で抑えると分かっているので、どうしてもこういった悪戯をついついしてしまう。
ドールもドールでそれが分かっているので、一切の手加減をしないあたりは恐ろしい子である。
「ふぇぇえええん。ドS歩とドSコンちゃん、いやぁぁあああ(´;ω;`)」
その後、アテナが許してくれるまで、デザートを追加注文していったことは言うまでもないだろう。
・・・。
アテナがぷんすかと怒りつつデザートをやけ食いしている一方、もう一人の訓練生はというと.....。
「グーでスプーンを持つなと言っておるのじゃ」
「う、うーん.....。難しいのだ.....」
姉より厳しいテーブルマナーの指導を受けていた。
モリオンはスプーンやフォークを使えるようになったと言ってもまだ日が浅い。
持ちやすいだからだと思うが、依然として、グーで持ってしまう癖がある。
「姉さまを見てみよ。あの姉さまでさえ出来ておるのじゃ。トカゲもやればできるはずなのじゃ」
「もぐもぐもぐー!.....(ごくんっ).....モーちゃん、頑張ってー( ´∀` )」
「.....(サッ)」
「う、うぴゃぁぁあああ!?」
少しは学習しろよ.....。
痺れるアテナを見て、恐怖の色を覗かせるモリオン。
恐怖政治も真っ青な厳しいマナー講座である。
なんと言っても恐ろしいのは、ドールが生み出した『電撃符』だ。
俺はてっきり、相手を麻痺させる目的の元に生み出したものだと思っていたが、実は対姉妹用に生み出されたものなのではないか、と次第に思うようになってきた。
それと言うのも、アテナやモリオンに対しては相当効き目があるからだ。
俺のように状態異常耐性がレベル3及びステータスがドールを越えている場合だと、『(静)電撃符』レベルで済む話なのだが、アテナやモリオンでは少し勝手が異なってくる。
例えば、アテナの場合は、俺と同じ状態異常耐性がレベル3ではあるが、くそ雑魚ステータスのせいで全くそれが機能していない。
ゆえに『(静)電撃符』とはならずに、しかも、女神のワンピースを着ているせいで、一切の手加減をされずに全力で『電撃符』を撃たれてしまう。
一方、モリオンの場合は、ステータスにおいてはドールを遥かに凌駕しているものの、『(静)電撃符』とはなっていない。
つまり、ドールの符術がレベル2であることから察するに、モリオンの状態異常耐性はレベル1かないものだと予想できる。
それでも、ドールが成体時ならば『電撃符』は有効であろうが、幼体時となるとステータス的にも『(静)電撃符』で済む話となる。
しかし、おバカなモリオンにはそこまで考える余裕は今はない。
だから、幼体時であっても『電撃符』をちらつかせるだけで効果は十分にあるということだ。
「だから、違うと言うておるのじゃ!.....(サッ)」
「う、うぴゃぁぁあああ!?」
「.....(ビクッ!).....あれ?痛くないのだ?」
「二人とも頑張れェ」
恐ろしきは対姉妹用最終兵器『電撃符』。
この後も『電撃符』が、アテナとモリオンを襲ったことは言うまでもないだろう。
そして、そんな慌ただしい日々を過ごしつつ、俺達は『海産物の村コルリカ』へと到着したのだった。
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後書き
次回、本編『村ならではの問題』!
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今日のひとこま
~なんとしてでも力は必要だ!~
「そう言えば、ドールの『電撃符』を見て思ったんだが.....」
「んー?なにー?」
「ファンタジーではお馴染みの『雷魔法』とか『氷魔法』ってないのか?」
「あるけどー(。´・ω・)?」
「あるのかよ!?.....あれ?でも、今は取得できないよな?」
「できないねー」
「中級魔法とかってことか?」
「ううんー。中級魔法ではないねー(・ω・´*)」
ちっ!
違うのか、残念。
「じゃあ、なんなんだ?どうやったら手に入る?」
「雷・氷・空間の3つはねー、『天上魔法』っていう特殊な魔法なんだよー」
「て、『天上魔法』!?なに、そのあからさまに特別感出しちゃってる魔法は!?」
「そりゃー、特別でしょー!だってー、神が使える魔法だもーん( ´∀` )」
「神が使う魔法.....。となると、入手は不可能か?」
「ううんー。『加護』で近いものならあるよー。現にこの世界でも氷とか転移の技術はあるでしょー?」
「なるほど。.....話に出なかったが、雷はないのか?」
「雷はないかなー。雷は人間が扱っていいものじゃないからねー(・ω・´*)」
『加護』か.....。
ますます力を求める理由ができたな。
「と言うと?」
「だってー、弱点がないんだもーん。最強の中の最強な魔法だよー?
初級雷魔法レベル1ですら、上級魔法のレベル3に匹敵するんだからー( ´∀` )」
「ちょっ!?なにそれ!?スキルレベルの概念をぶっ壊してるじゃねぇか!」
「だから言ったじゃーん。最強の中の最強な魔法だってー!
雷ってねー、古来より神の如く崇め奉られるものなんだよー?格が違うのー、格がー!」
「おぉぅ.....。(あ、あれか?雷魔法とは神の如し、ということか?)」
「そういう魔法だからねー、神の中でも使える神様は多くはないんだよー( ´∀` )」
「そうなのか?確か、正式な降臨時に雷をバリバリバリッ!って、させるんだよな?」
「あー。あれは別だねー。あれはボタンポチーでできるよー!」
「雜っ!?神界のシステムは雜過ぎないか!?」
「ただの見映えだしねー!あーははははは( ´∀` )」
「見映えって.....。じゃあ、誰が使えるんだ?」
「パパだねー。それにー、ニケでしょー。ポセイドンお兄ちゃんでしょー.....」
「さすがはニケさん。『勝利の女神』は伊達じゃないってことか」
「あとねー、私もつかえるよー(`・ω・´) シャキーン!!」
「.....冗談だろ?なんでアテナごときが、そんな凄い魔法を使えるんだよ?」
「ごときってなにー!?ヽ(`Д´#)ノ」
「じゃあ、軽くでいいからやってみろよ」
「ふっふーん!腰抜かしたってしらないんだからねー!」
「.....(あぁ、これはあれですわ。なんとなくオチが読めてしまいますわ.....)」
「智慧の女神アテナがめーずるー。
私の呼び掛けに応えー、かの地にいかずちの雨をふりそそげー!サンダーレイン!!」
まさかの詠唱付きかよ!?
思ったよりもヤバいやつだったか!?
・・・。
「.....」
「.....」
「おい、なんにも起こらないが?」
「あー.....。【魔力が足りません】だってー。あーははははは( ´∀` )」
やっぱりかよ!
お前は本当に期待を裏切らないな!!
モリオンは強いけど単純すぎた!
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□□□□ ~体がうずく~ □□□□
ヴェルナシュのダンジョンを制覇した翌日、俺達は再び海の上にいることになった。
目的地は『海産物の村コルリカ』。
アテナの強い要望で、現在はそこを目指している最中だ。
・・・。
正直、暇だ。
数日前まで船旅をしていて、やっと陸に上がれたと思ったら、再び船旅ときたもんだ。やることがない。
(毎日ごろごろするのもきついなぁ.....。なにか趣味でも見つけるか?)
立派な社畜精神と言えるだろう。
毎日ごろごろし放題だと言うのに、体が何故か働くことを求めてしまう。なんというか、こう誰かの下で働く安心感と言えばいいのか.....。
こんな社畜精神旺盛な俺を欲しがる企業さん!
ヘッドハンティングお待ちしてます!俺、めっちゃ働きますよ!!
と、まぁ、バカなことはともかく、今日も今日とておかずの為に釣りに勤しむことにしよう。
そう思いながら、アテナ達を誘ってみると.....。
「済まぬ。これからトカゲの戦闘訓練の時間なのじゃ」
「おぉ。早速か」
「1日も早く主の力になれるようしごく予定なのじゃ」
「おー!我は頑張るのだ!」
ドールとモリオンの鼻息は荒い。やる気に燃えているようだ。
そして、俺としても、ドール達がどういう訓練を行うのか非常に興味がある。
「見学しててもいいか?」
「構わぬ。.....いや、むしろ、そのほうが都合が良い」
「どういう意味だ?」
「見ていれば分かる。では、早速行くのじゃ」
こうして、俺は釣りをやめて戦闘訓練の見学に行くことになった。
(どうせ釣りをしたところでボウズだろうし、こっちのほうが面白そうだ!)
□□□□ ~まぶしい存在~ □□□□
早速、船のデッキへと移動して戦闘訓練が行われるようだ。
俺達が現在乗っている船は、漁船とは違ってフェリー並の大きさの船だ。
だから、デッキといってもそこそこの広さがある。多少、騒々しくなっても問題はないだろう。
「では、参る。良いな?トカゲ」
「いつでもいいのだ!」
モリオンの元気のいい返事を皮切りに、ドールが懐から数枚の符を取り出した。
どうやら、戦闘訓練は符を使って行われるらしい。
・・・。
「待て、待て、待て、待て、待て!」
「なんじゃ、いきなり?」
なんじゃ、じゃねぇ!
え?マジで符を使うの!?
「.....?当然であろう?実戦形式の訓練ではないと意味がないからの」
「いやいやいや。少しは常識を考えろよ.....」
心底、心外といった表情をしているドールに、俺はハッキリと物申したい。
他の客には迷惑になるだろうが、百歩譲って、デッキが騒がしくなることはいいとしよう。
この際、TPOよりも暇な時間の有効活用をしたと、唯一常識のある俺自身を納得させればいいだけなのだから。それでもごちゃごちゃ言われるようなら、大人の力で解決すればいい。
しかし、それでも、符だけはいただけない。
確か、ドールの扱う符術は『打撃』・『衝撃』・『爆撃』の3つだったはずだ。
どれもこれも船に損害を与えそうなものばかりなのでシャレにならない。
多少、騒がしい程度だったら船員及び他の客も大目に見てくれるだろうが、命に関わりそうな騒動となると話は別なはず。俺にしたって、それはご免被りたい。
しかし、そんな慌てる俺に対して、ドールはニヤリッと微笑んだ。
「安心せい。妾は姉さまとは違うのじゃ。そこまで非常識ではない」
「非常識だという認識があるなら直せよ.....」
そんな俺のツッコミを無視して、ドールが1枚の符を差し出してきた。
要は「触ってみろ」ということなのだろう。
(『打撃符』以外、耐性がないから痛くて嫌なんだよなぁ.....)
渋る俺に、ドールが「早うせいっ!」とせっついてくる。
このままでは仕方がないので、恐る恐る差し出された符に触れてみると.....。
───パチッ!
「おわっ!?」
指先に電気が走った。
まるで乾燥した冬の季節に、なにげなしにドアノブに触れた時のような衝撃だった。.....びっくりしたなぁ、もう!
これは.....所謂、静電気といったものに近い。
「くふふ。これならば大丈夫であろう?」
「ま、まぁ.....」
俺が驚く様を見て、くすくすとせせら笑うドール。
と言うか、俺に実体験させる必要はあったのだろうか。言ってくれれば分かるような.....。わざとかっ!?
とりあえず、ドールの性根の腐った悪戯の件は置いとくとして、腑に落ちないことがある。
それは、この謎の符についてだ。明らかに俺の知っている3つの符とは性質が異なる。
ドールさんと言えば、元の性質はアテナに割りと近いほうだ。
どういうことかと言うと、勝つ為ならばどんな汚い手段でも平然とした顔で当たり前のように行ったりする。
この世界では『相手の弱点をつくこと』は最大のタブーとされている。
つまり、それを行うことは卑怯者、臆病者扱いされ、多くの人々から後ろ指を指されてもおかしくない行為にあたってしまう。
なぜそうなってしまうかはよく分からないが、アテナが管理する世界はいい加減なことが多いので、そういうものだと理解して頂きたい。
ゆえに、正々堂々と真っ向勝負する人達がほとんどなのである。
こういう理由があるからこその『スキルレベル絶対主義』となっていて、ステータス差よりもスキルレベルが重要視されている一因ともなっている。
これがこの世界の常識なのだが、ドールはそれを全く気にもせず破ってくる。
そして、問答無用で相手の弱点をこれでもかっ!というほど攻め立ててくる。かつて俺も、ドールと模擬戦をした時は相当苦しめられたものだ。
つまり、戦いにおいては卑怯などというものは存在しないという『リアリスト』であるということだ。
だからこそ、今回の符については腑に落ちないし、少なからず驚かされた。
ドールの攻撃系の符の根本にあるのは『相手を倒す』ことにある。
『打撃符』・『衝撃符』・『爆撃符』、いずれも活用次第では相手を死に至らしめることが可能なものだ。ぶっちゃけ、相手を倒してしまえば卑怯もくそもないので合理的なものだと言えるだろう。
そこに今回の符.....仮に『電撃符』と名付けよう。
それが新しく加わってきた。
しかも、恐らくだが、活用方法は他の3つの符とは異なる目的で加えてきたと推測される。
当然、『電撃符』でも感電死ということで相手を葬り去ることはできるだろう。
しかし、俺が触れてみた感触からいうと、正解には『(静)電撃符』といったところで、相手を倒す目的よりも相手を麻痺させる目的に特化しているように思えてならない。
果たして、ドールにどんな心境の変化があったというのか.....。
「勇者様のお供をしていた奴隷達からヒントを得て新しく作ったのじゃ」
「ひと・える・いぬ子ちゃんから?」
説明するまでもないと思うが、ひと・える・いぬ子ちゃんとはサキの奴隷のことだ。
もともと、ドールとひと・える・いぬ子ちゃんはあまり仲良くはなかったのだが、フランジュからベルジュに向けての4ヶ月の船旅の間にどうやら和解したらしい。
今ではサキに関する事以外ならば、友達のように付き合いがあるのだとか。
「あやつらが使う不思議な魔道具がの、バチバチッ!となるだけで、人が面白いように倒れていくのじゃ」
「そんなもんまであるのかよっ!?」
ドールが言っている魔道具とは、恐らくスタンガン的な何かだろう。
サキはあんな性格であっても、アイドルというだけあって人気がある。
そして、サキのマネージャー的な存在で、いつも一緒に侍っているひと・える・いぬ子ちゃん達にも、サキ程ではないが人気があって、しかも、ファンまでもが存在しているらしい。
考えてみれば、当然なのかもしれない。
かわいい女の子が大好物なサキに認められたひと・える・いぬ子ちゃん達だ。当然、かわいくないはずがない。
特に俺のおすすめはいぬ子ちゃんだ。
獣人ということで圧倒的に人気はないが、猫派である俺をしてもかわいいと思わされてしまうそのキュートさに思わず脱帽してしまう。
例えるなら、犬種は違うが、チワワみたいなものだ。
保護欲を駆り立てられるというか、愛くるしくて仕方がないというか。それゆえに、いぬ子ちゃんに嫌われていることがとても悲しくなる.....。
大きく逸れてしまったので、話を戻そう。
サキだけではなく、ひと・える・いぬ子ちゃんにも人気がある。
そうなれば、自ずと自衛する手段が必要となってくるだろう。勇者であるサキとは違って、普通の(奴隷ではあるけど)女の子なのだから。
ドール曰く、そういう理由でスタンガン的なものを持たせているのだとか。
異世界でも、度を越した熱狂的なファンというものは一定数存在するらしい。.....ドルオタ恐ぇ。
「今後、主は勇者としての知名度を上げていかねばならぬからの。
妾も勇者の奴隷として、節度ある対応を求められる機会が増えるはずなのじゃ」
「まぁ、そうだな」
ただ、勇者の奴隷って部分はなんか気になる。
勇者として正しいことを行っていく上で、奴隷を従えているというのは倫理的にどうなのだろうか。
いや、奴隷制度が当たり前のこの世界では問題ないのかもしれない。
奴隷は人ではなく物扱いになっていることだし。
疑問に思ってしまうのは、地球式でモノを考えているからだろう。
今はパルテールにいるのだから、パルテール式で考えればいいだけだ。それに、俺が奴隷に酷いことさえしなければいいのだから.....。
「だから、それに見合った符を新たに作ったという訳なのじゃ。
憎き人間族など、みな殺してしまえばいい!、という訳にもいくまい?」
「なるほどね。.....え!?作ったの!?」
「そうじゃが.....。それがどうしたのじゃ?」
おいおいおいおいおい。
マジかよ!?作れちゃうものなのかよ!?
正直、羨ましい。
無から何かを作り出せる人は、それの内容うんぬんはともかく、尊敬に値する存在だと心から思える。
俺は地球にいた時から、既にあるものを必死に活用するぐらいしかできなかった。
ここ異世界に召喚されてからも、条件付きだが、既にあるものなら制限なく取得はできる。
だが、その一方で、新しく何かを生み出す力は皆無だ。
つまり、俺はこのままずっとパイオニアになることはできずに、社畜のままでいないといけないということになる。
そういう存在からすれば、一から『電撃符』を作り出したドールは、まさにまぶしい存在に見える。
「そ、それは誉めすぎなのじゃ」
「いやいや!お前は本当にすごいよ!」
「そ、そうか?.....くふふ。誉められて悪い気はせぬのぅ」
俺に誉められて気を良くしたのか、ドールの2本の尻尾がぶんぶんと激しく振られている。かわいい。
そして、それは当然やる気にも直結する訳で.....。
「さぁ!バシバシとしごいてやるのじゃ!トカゲ、覚悟するが良い!!」
「お、お姉ちゃんがなんか恐いのだ.....」
ドールの凄まじい熱量に、顔をひきつらせて圧倒されるモリオン。
どこか体が小刻みに震えているようにさえ見える。
それはまるで電撃符の恐怖を知っているかのような.....。
(モリオンにとっては逆効果だったか.....。
済まんっ!大変だろうが、これも将来の為だ。頑張ってくれ!!)
こうして、モリオンの地獄のような戦闘訓練が始まるのだった。
□□□□ ~恐怖!電撃符!!~ □□□□
「.....ア.....ユム。.....我は.....頑.....張った.....のだ?」
「あぁ。モリオンは頑張ったぞ」
「.....な.....ら、ご.....飯を.....いっぱ.....い.....に.....して.....欲しい.....のだ。.....(ガクッ)」
「モォォオオオリオォォオオオン!」
俺が見つめる中、息絶え絶えになりながらも、最後の言葉を必死に伝えようとしていたモリオンの言葉が遂に途切れた。俺はまだ何も伝えられていないというのに.....。ヒール!
「.....分かったよ。モリオン。お前の遺志は確かに受け取った」
「.....」
「今日のご飯はいっぱいにしてやるからな?」
「ほんとーなのだ!?.....わーい!やったのだー!」
「ほれ、いつまでも茶番をしとらんで夕食に行くのじゃ」
茶番言うなっ!
まぁ、茶番だけどさ?
ドールとモリオンの戦闘訓練は、それはもう壮絶.....ということはなく、普通の模擬戦だった。
成体に変化したドールとモリオンが普通に戦っていただけなのだが、内容は.....まぁ、うん。ドールの圧勝でした。
端から見ると、面白いようにドールの罠にかかっていくモリオンは、言葉は悪くなるが滑稽でしかない。
「いや、主も似たようなものだったのじゃ」
「HAHAHA」
「我はアユムと一緒だったのだ?」
「喜ぶところではないのじゃ。今日、教えたことを忘れるでないぞ?」
俺と一緒だったという事実に、嬉しそうににこにこしていたモリオンに釘を指すドール。
何も言えねぇ。何も言えねぇよ!
盛大なブーメランをかましちゃったじゃないか!!
とりあえず、このまま戦闘訓練を続けていけば、成果は見込めそうなので2人には頑張ってもらいたいところだ。
ただ、唯一問題があるとすれば.....。
「ぐぬぬ!やはり成体になると服が破けるのじゃ。お気に入りだったのにのぅ.....」
「お姉ちゃんからもらった服がぼろぼろなのだ。お姉ちゃん、ごめんなさい、なのだ.....」
着ている服が使い物にならなくなってしょんぼりする2人。
戦闘訓練を行う度に服が使い物にならなくなってしまうのは、さすがに死活問題だろう。
だからと言って、裸で訓練させる訳にもいかないし.....。俺が周りから白い目で見られるわっ!
(う~ん。モリオンの訓練も一朝一夕にどうにかなるものじゃないし.....。問題は山積みだなぁ)
・・・。
新たな問題に頭を悩ませながら夕食の席に着く。
今度はマナーの勉強の時間らしい。訓練生はアテナとモリオンだ。
「モリオンは今度もか。大変だなぁ.....」
「トカゲも姉さまに劣らずモノ知らずなのじゃ。これを機にしっかりとした躾をしていくのじゃ」
ドールの言う通り、モリオンのマナーは結構酷い。
特にテーブルマナーは壊滅的というか、原始的というか、あまりにも豪快だった。それこそ出会った当時は、全てのものを手掴みで食べていたぐらいだ。
「もう違うのだ!今はスプーンとフォークを使えるのだ!」
「そうだな。えらいぞ、モリオン」
胸を張ってそう語るモリオンを誉めつつ、俺のおかずをモリオンに分けてあげる。
先程の訓練を頑張ったご褒美だ。
「モーちゃーん、いーなー(´・ω・`)」
「お前も頑張ればいいだけだろ。この時間はお前も対象らしいし」
「ぶー!それじゃー、いまもらえないじゃーん(´-ε -`)」
「うるさいなぁ、もう.....」
俺の膝の上でぶー!ぶー!うるさいアテナにも、モリオン同様分けてあげた。
アテナを静かにさせたほうがゆっくりと食事を取れるし、足りなかったら料理は追加で注文すればいいだけだ。
すると、早速マナー講師から指摘が入る。
「前々から思っておったのじゃが.....。
マナー的に、食事中も姉さまが主の膝に座るのは良くないと思うのじゃ」
ごもっとも。
ドールの言うことは正しい。
しかし、これは.....。
「んー?もぐもぐもぐー?」
「食べながら話すでない。行儀悪いの。.....(サッ)」
「う、うぴゃぁぁあああ!?」
おぉ、バカがよく痺れとるなぁ。
ドールのいやらしい指摘に思わず苦笑い。
このタイミングで指摘を入れてくるあたり、狙っていたように思えてならない。
ちなみに、アテナのテーブルマナーは驚くほど普通だ。
ドールの地道な『姉さま補完計画』の賜物だと言えよう。
でも、それはそれで寂しいので、今でも訓練時以外は俺がアテナの餌付けをしてあげている。
「ふぇぇえええん。いたーいよー(´;ω;`)」
「はいはい。大声で騒いでいると、またドールに怒られるぞ?」
アテナの涙を拭きつつ、ご飯をアテナの口まで運んでいく。
この瞬間に、なぜか幸せを感じてしまうのは俺の悪い癖だ。
「それでどうなのじゃ?食事中はきちんと席に着くべきだと思うのじゃが?」
「俺は別にいいんだがな。もう慣れたし。.....アテナはどう思う?」
「もぐもぐもぐー!」
「はぁ.....。食べながら話すでないと何度も言うておろう?.....(サッ)」
「う、うぴゃぁぁあああ!?」
あっ!
悪い、アテナ(笑)
アテナは全てのダメージを1で抑えると分かっているので、どうしてもこういった悪戯をついついしてしまう。
ドールもドールでそれが分かっているので、一切の手加減をしないあたりは恐ろしい子である。
「ふぇぇえええん。ドS歩とドSコンちゃん、いやぁぁあああ(´;ω;`)」
その後、アテナが許してくれるまで、デザートを追加注文していったことは言うまでもないだろう。
・・・。
アテナがぷんすかと怒りつつデザートをやけ食いしている一方、もう一人の訓練生はというと.....。
「グーでスプーンを持つなと言っておるのじゃ」
「う、うーん.....。難しいのだ.....」
姉より厳しいテーブルマナーの指導を受けていた。
モリオンはスプーンやフォークを使えるようになったと言ってもまだ日が浅い。
持ちやすいだからだと思うが、依然として、グーで持ってしまう癖がある。
「姉さまを見てみよ。あの姉さまでさえ出来ておるのじゃ。トカゲもやればできるはずなのじゃ」
「もぐもぐもぐー!.....(ごくんっ).....モーちゃん、頑張ってー( ´∀` )」
「.....(サッ)」
「う、うぴゃぁぁあああ!?」
少しは学習しろよ.....。
痺れるアテナを見て、恐怖の色を覗かせるモリオン。
恐怖政治も真っ青な厳しいマナー講座である。
なんと言っても恐ろしいのは、ドールが生み出した『電撃符』だ。
俺はてっきり、相手を麻痺させる目的の元に生み出したものだと思っていたが、実は対姉妹用に生み出されたものなのではないか、と次第に思うようになってきた。
それと言うのも、アテナやモリオンに対しては相当効き目があるからだ。
俺のように状態異常耐性がレベル3及びステータスがドールを越えている場合だと、『(静)電撃符』レベルで済む話なのだが、アテナやモリオンでは少し勝手が異なってくる。
例えば、アテナの場合は、俺と同じ状態異常耐性がレベル3ではあるが、くそ雑魚ステータスのせいで全くそれが機能していない。
ゆえに『(静)電撃符』とはならずに、しかも、女神のワンピースを着ているせいで、一切の手加減をされずに全力で『電撃符』を撃たれてしまう。
一方、モリオンの場合は、ステータスにおいてはドールを遥かに凌駕しているものの、『(静)電撃符』とはなっていない。
つまり、ドールの符術がレベル2であることから察するに、モリオンの状態異常耐性はレベル1かないものだと予想できる。
それでも、ドールが成体時ならば『電撃符』は有効であろうが、幼体時となるとステータス的にも『(静)電撃符』で済む話となる。
しかし、おバカなモリオンにはそこまで考える余裕は今はない。
だから、幼体時であっても『電撃符』をちらつかせるだけで効果は十分にあるということだ。
「だから、違うと言うておるのじゃ!.....(サッ)」
「う、うぴゃぁぁあああ!?」
「.....(ビクッ!).....あれ?痛くないのだ?」
「二人とも頑張れェ」
恐ろしきは対姉妹用最終兵器『電撃符』。
この後も『電撃符』が、アテナとモリオンを襲ったことは言うまでもないだろう。
そして、そんな慌ただしい日々を過ごしつつ、俺達は『海産物の村コルリカ』へと到着したのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
次回、本編『村ならではの問題』!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日のひとこま
~なんとしてでも力は必要だ!~
「そう言えば、ドールの『電撃符』を見て思ったんだが.....」
「んー?なにー?」
「ファンタジーではお馴染みの『雷魔法』とか『氷魔法』ってないのか?」
「あるけどー(。´・ω・)?」
「あるのかよ!?.....あれ?でも、今は取得できないよな?」
「できないねー」
「中級魔法とかってことか?」
「ううんー。中級魔法ではないねー(・ω・´*)」
ちっ!
違うのか、残念。
「じゃあ、なんなんだ?どうやったら手に入る?」
「雷・氷・空間の3つはねー、『天上魔法』っていう特殊な魔法なんだよー」
「て、『天上魔法』!?なに、そのあからさまに特別感出しちゃってる魔法は!?」
「そりゃー、特別でしょー!だってー、神が使える魔法だもーん( ´∀` )」
「神が使う魔法.....。となると、入手は不可能か?」
「ううんー。『加護』で近いものならあるよー。現にこの世界でも氷とか転移の技術はあるでしょー?」
「なるほど。.....話に出なかったが、雷はないのか?」
「雷はないかなー。雷は人間が扱っていいものじゃないからねー(・ω・´*)」
『加護』か.....。
ますます力を求める理由ができたな。
「と言うと?」
「だってー、弱点がないんだもーん。最強の中の最強な魔法だよー?
初級雷魔法レベル1ですら、上級魔法のレベル3に匹敵するんだからー( ´∀` )」
「ちょっ!?なにそれ!?スキルレベルの概念をぶっ壊してるじゃねぇか!」
「だから言ったじゃーん。最強の中の最強な魔法だってー!
雷ってねー、古来より神の如く崇め奉られるものなんだよー?格が違うのー、格がー!」
「おぉぅ.....。(あ、あれか?雷魔法とは神の如し、ということか?)」
「そういう魔法だからねー、神の中でも使える神様は多くはないんだよー( ´∀` )」
「そうなのか?確か、正式な降臨時に雷をバリバリバリッ!って、させるんだよな?」
「あー。あれは別だねー。あれはボタンポチーでできるよー!」
「雜っ!?神界のシステムは雜過ぎないか!?」
「ただの見映えだしねー!あーははははは( ´∀` )」
「見映えって.....。じゃあ、誰が使えるんだ?」
「パパだねー。それにー、ニケでしょー。ポセイドンお兄ちゃんでしょー.....」
「さすがはニケさん。『勝利の女神』は伊達じゃないってことか」
「あとねー、私もつかえるよー(`・ω・´) シャキーン!!」
「.....冗談だろ?なんでアテナごときが、そんな凄い魔法を使えるんだよ?」
「ごときってなにー!?ヽ(`Д´#)ノ」
「じゃあ、軽くでいいからやってみろよ」
「ふっふーん!腰抜かしたってしらないんだからねー!」
「.....(あぁ、これはあれですわ。なんとなくオチが読めてしまいますわ.....)」
「智慧の女神アテナがめーずるー。
私の呼び掛けに応えー、かの地にいかずちの雨をふりそそげー!サンダーレイン!!」
まさかの詠唱付きかよ!?
思ったよりもヤバいやつだったか!?
・・・。
「.....」
「.....」
「おい、なんにも起こらないが?」
「あー.....。【魔力が足りません】だってー。あーははははは( ´∀` )」
やっぱりかよ!
お前は本当に期待を裏切らないな!!
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