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第5.5章 モリオン
第158歩目 vs.モリオン!モリオン⑩
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前回までのあらすじ
アテナが暗躍してた!
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25000字ほどあるので覚悟してお読みください。
分割しようかとも思ったのですが、前回も分割しているので.....。
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2/25 世界観の世界編!に一部追記をしました。
追記箇所は、『種族紹介』の黒死竜となります。
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□□□□ ~流行りの~系女子~ □□□□
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!』
『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!』
「.....」
いま俺達の目の前では、ドラゴンvsドラゴンによる大怪獣バトルが、苛烈に、熾烈に行われている。
当然、戦っているのは『モリオン』と『フォボス』である。
そして、この大怪獣バトルはあまりにも壮絶過ぎて、もはや俺達が、人間が、立ち入ることなど不可能な状況となってしまっている。
つまり、モリオンの無事を祈りつつ、ただただ成り行きを見守ることしかできないという訳だ。
どうしてこうなった!?
「モーちゃーん、すごーい!やれやれー!そこだよー!あーははははは( ´∀` )」
「.....」
ボクシング観戦してるんじゃねぇんだぞ!?
アテナは目の前で繰り広げられている大怪獣バトルを楽しそうに眺めつつ、まるで熱の入ったボクシング好き系女子のように手をシュッシュッと振っている。く、くそっ!かわいいな!!
改めて言うまでもないことだが、既に原因は分かっている。
このくそ駄女神のアドバイスが原因なのは、誰の目から見ても明らかだ。
(モリオン.....。勝っても負けてもいいから無事でいてくれよ。
あっ!負けたら無事では済まないか.....。なら絶対に勝って、俺のところに戻ってきてくれ)
時はアテナ達が戦場に到着した時まで遡る。
□□□□ ~モリオンはえらい?~ □□□□
「あー!歩、はっけーん( ´∀` )」
その言葉とともに、アテナとドールが戦場に到着した。
俺はこの瞬間をずっと待ちわびていただけに、歓喜に震えたことは言うまでもないだろう。とは言え、アテナが調子に乗るので喜んでいたのは内心でだが.....。
ただ、アテナ達が到着したのは素直に嬉しいのだが、気になることがある。
「あれ?モリオンはどうした?」
「トカゲは妾が置いてきたのじゃ。
付いてきてはいたが、ハッキリ言って、遅くて足手まといだったからの」
お前は天○飯かよ!?
しかし、厳しい中にも愛はあるようだ。
ドールの眼差しには、モリオンが必ずやってくると信じて疑わない、強くもどこか温かいものがあるように見受けられる。
「ドールは本当に厳しいよな?」
「ねー!妹にはもっとやさしくしないとダメだよー(。´・ω・)?」
「主も姉さまも甘いのじゃ。仲間ならいざ知らず、姉妹であるならば必要なことなのじゃ」
そんな悠長な会話を、キャベツさんに守られながらしていると.....。
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
perfect.....だと!?
いきなりどうした!?
「りゅりゅりゅりゅ、竜殺し君!
そ、そちらの美しい女性方はなんなんだい!?なんなんだい!?」
「.....」
キャベツさんの圧が鬱陶しい。と言うか、ウザい。
そして同時に、キャベツさんの正義?性癖?に呆れてものが言えない。
(はぁ.....。キャベツさんは本当にどうしようもないな.....。
アテナやドールのような美少女を常に側に置いておけば、もしかしたら防げない攻撃なんてないんじゃないのか?)
加護持ちのやる気次第で結果に影響を及ぼす可能性。
また1つ、加護について新たな情報が手に入った。まぁ、手に入った経緯はしょーもないことからだけど。
「.....ハァ。.....ハァ。.....や、やっと着いたのだ。.....つ、疲れたのだ」
そんなこんなでキャベツさんに呆れていると、ようやくモリオンが戦場に到着したようだ。
「お疲れ、モリオン」
「モーちゃん、頑張ったねー!いいこいいこー(〃ω〃)」
「遅い!.....じゃが、さすが妾の妹なのじゃ。諦めずに良く頑張ったの」
「おぉ!またかわいい子が僕の応援に!?
はっはははは!なんだかやる気が沸いてきたよ!今なら神様の攻撃すらも防げそうさ!!」
あんた、どんだけ調子がいいんだよ!?
ここまで調子がいいと、もはやキャベツさんの超ポジティブ思考に敬意を払いたい気分だ。
だが、もしも、これでフォボスの攻撃を本当に防げるようになったというのなら万々歳といったところだろうか。.....まぁ、現実はそこまで甘くはないんだろうなぁ。
そんな楽観的なことを考えていたら、まさかの事態が起こる。
本当にキャベツさんがフォボスの攻撃を防ぎ出した.....という訳ではなく、突如、敵であるフォボスの攻撃がピタリッと止んだ。
それだけでも不思議な上に、驚きの一言を言い放った。
『ひ、姫様!?お、お探し申しておりましたぞ!』
しかも、驚きの言葉だけではなく、まるで王族に対して臣下の礼をするかの如く、その場でかしづいてもいる。
ドラゴンがかしづくという世にも珍しい光景だが、とても様になっている。
「姫様!?」
「んー?ひめさまー(。´・ω・)?」
「姫様じゃと!?」
「お姫様だって!?」
当然、俺達は仰天した。
フォボスの言葉にも、行動にも、全てに驚かされた。
(戦場で、敵の目の前で、悠然と臣下の礼を取るなんて.....。
ふっ。俺達も随分とナメられたものだな。.....助かったぁー!)
一方、フォボスの臣下の礼の対象となっているモリオンはというと───。
「姫様なのだ?」
いやいやいや。
モリオンが「姫様なのだ?」と小首を傾げるのはおかしいから。かわいいけどさ。
ドラゴンであるフォボスが「姫様」だと言っている以上、同じドラゴンであるモリオンしか姫様に該当する人はいないだろう。
そもそも、この場にいる女性でモリオンを除くと、アテナは女神だし、ドールは奴隷だし。
「モリオンはお姫様なのか?」
「そうだったのだ!我はお姫様なのだ!」
忘れてたんか~い!
ただ、モリオンらしいと言えばモリオンらしい。
そんな無邪気なモリオンに、俺は思わず苦笑いしてしまった。
どうやらモリオンは竜族のお姫様だったらしい。
そして、なぜモリオンがおバカさんだったのかなんとなく分かってしまった。
(きっと、甘やかされて育ったんだろうな。
2世はおバカさん。これはもはや貴族間でのお約束だもんなぁ.....)
□□□□ ~俺の華麗なるまともな作戦~ □□□□
モリオンが竜族のお姫様であることが判明した。
そして、いまだに律儀に臣下の礼をとり続けているフォボス。モリオンからの下知待ちか?
ただ一時的とは言え、フォボスの攻撃が鳴りを潜めている今のこの状況はチャンスだ。
この絶好の機会を利用して、俺達はキャベツさんも交えて対フォボス攻略会議を開いたのだが.....。
「歩とキャベツじゃダメだねー。あのドラゴンちゃんは強すぎるよー」
会議早々に、アテナからのダメ出し(だと思っていた)を喰らってしまった。
フォボスのステータスから判断しても無理だろうとは思っていたが、頼みの綱であるアテナにまで勝てないと言われてしまったのでは、もはや勝算は0とみていいだろう。
(.....くっ!か、勝てないのというのなら.....)
後は負けない戦いをするのみ。
どうにかして、被害を出来るだけ最小限に抑えて、この場をやり過ごすのみ。
それを可能とする絶妙な作戦をアテナに期待していた訳なのだが.....。
俺は現状のモリオンやフォボスを鑑みて、アテナに頼ることなくある1つの作戦が思い浮かんだ。
「聞いてくれ。俺に考えがある」
みんなの視線が俺に集まる。
視線の先に見てとれるのは様々な感情だが、概ね俺の作戦に期待しているといったところか。
「単刀直入に言う。あのドラゴンに撤退を促そうと思う」
「(´・ω・`)」
「ほぅ。どういうことか詳しく話すのじゃ」
「撤退.....?どういうことなのだ?」
「撤退か.....。なるほど。それが実現したらどんなにいいことか」
まずは上々といった反応が返ってきた。
ただ気になるのはアテナの反応だ。
まるで俺の作戦に興味を失ったかのようなあからさまな態度や、まるで死んだ魚の目のような色を失った眼差しになったことが非常に気になる。
何はともあれ、時間も惜しいので持論を展開していく。
俺がこの作戦を思い立った要因はいくつかある。
まずその1は、モリオンが竜族のお姫様であり、フォボスというドラゴンが忠誠に厚いことだ。
敵前でもモリオンに臣下の礼をとるあたり、余程の忠義者とみて間違いないだろう。そんな忠義者ならば、主筋にあたるモリオンの言葉をすんなりと受け入れる可能性は非常に高い。
「(´-ε -`)」
「ふむ。可能性はありそうじゃ。忠義厚き者にとって、主筋の言葉とは絶対のものだからの」
「我はあいつを知らないのだ。それでもいいのだ?」
この場合、モリオンがフォボスを知っているかどうかは問題じゃないんだよなぁ。
現実問題、フォボスはモリオンに臣下の礼をとっていることだし。
モリオンにはまだ難しいことだから敢えて説明するまでもないだろうと思っていると、キャベツさんが俺の意見に警鐘を鳴らしてきた。
「納得はできる。しかし、本当に引き下がるだろうか?確か、君は僕にこう言ったはずだ。
あのドラゴンは心の中で血の涙を流していると。死んでいった息子達の死を本当に嘆き悲しんでいると」
当然、指摘されるだろうとは思っていた。
このフォボスが俺とキャベツさんの前に姿を現した時の咆哮.....いや、もはやあれは咆哮などというものではなく、心の悲鳴、嗚咽、嘆きと言ってもいいほど悲しみに暮れていたものだった。
家族を、子供を想う親の心というものが、ここまで俺の心を揺さぶってくるとは思いもしなかった。
だから俺は一気に戦意を失った。.....勝てないからという理由だけじゃないぞ!
この戦いの発端となったフォボスの息子が亡くなった本当の原因は分からないが、それでも罪悪感が凄かった。もしも逆の立場だったらと思うと.....。
そんな力が抜けた俺を見て、心配してきたキャベツさんに全てを話した。
だから、キャベツさんもフォボスの事情については知っているということだ。
「君の言葉を信じるなら、あのドラゴンの怨みは相当なものだ。
その怨みを、主君の娘の一言だけで、果たして納得して引き下がるものだろうか?」
さすがキャベツさん。
さすが正統勇者というべきか。
その疑問は当然のことながら有り得る。
だから、俺の持論のその2を展開していく。
「モリオン。実は父親から何かしろと言われていないか?
例えば、定期的に連絡をしろとかさ。それ以前に、父親とちゃんと連絡を取り合っているか?」
「そうなのだ!そう言えば、連絡しろって言ってたのだ!」
やはり.....。
フォボスがモリオンを見たときに、「お探し申しておりましたぞ!」と言っていたことから、そうなんじゃないかと思っていた。
ここから考えられることは、このフォボスの一団はモリオンの父親である王様から、娘であるモリオンを探すよう命令を受けている可能性が高いということだ。
「それがなんだというんだい?」
「俺はそこそこ忠実な社畜だったから分かるんです。
私的な事情よりも、受けた命令、所謂、請け負った仕事の完遂こそが最も優先されるべき案件なのだと」
フォボスが俺達人間に対して、怒り狂っているのは間違いないだろう。
しかし、それはあくまで私情に他ならない。
これが、家族旅行中に息子が殺されるという被害を受けたのなら、報復行動もやむなしだろう。
だが、実際は王命でモリオンを探しにきている。
そして、敵前においても王族に対して臣下の礼をとるあたり、このフォボスは相当な忠義者だ。
つまり、私情に駆られて命を落とす可能性のある(当のフォボスはこれっぽっちもそうは思っていないだろうが)無駄な戦いをして王命を完遂できない危険性をとるよりも、真の忠義者なら王様にモリオンのことを報告するという王命を優先するはずだ。
「なるほど。理にはかなっているね。
成否はともかく、試してみる価値がある。君はそう言いたいのか」
「その通りです。.....忠誠心に富んだドールはどう思う?」
「うむ。良いのではないか?
人にもよるじゃろうが、仇持ちであろうと主君の命令は絶対だからの。試す価値は大いにある」
忠誠バカのドールにお墨付きをもらえたので、俺の考えは大筋で間違ってはいないのだろう。
キャベツさんにも了承を得られたし、『フォボスの撤退を促す』という方針でいこうと思う。
「我はどうすればいいのだ?」
「『お前は帰れ』と一言、あのドラゴンに言ってくれればいいよ」
モリオンに難しい説明をしても理解できないだろう。
この一言だけでも、君臣の間柄なら十分だと思う。
「それだけでいいのだ?」
「あぁ、それだけで全てが大丈夫だ」
そう、全てが決まりかけたその時。
俺は今まで静かだったアテナに何気なく注意を払うことになった。
そして───。
「ま、まさか.....。か、勝てるのか?」
「よゆー!よゆー!私にまっかせなさーい(`・ω・´) シャキーン!!」
勝算があるなら早く言わんかいっ!
そう思わずツッコミたくなる言葉を聞かされたのだった。
□□□□ ~アテナの華麗なる卑劣な作戦~ □□□□
「.....と、まー、こーんな感じだよー!
ねぇー、すごいー?すごいでしょー!あーははははは( ´∀` )」
「.....」
「ほほぅ。それはとても妾好みなのじゃ」
「すごいのだ!よく分からないけど、お姉ちゃんはすごいのだ!」
「う、う~ん」
アテナの作戦を聞いたみんなの反応は様々だ。
妹連中は称賛を送り、俺とキャベツさんは難色を示している。
それと言うのも、アテナの口から発せられた作戦は、そのかわいらしい口とは対照的にとても卑劣なものだった。
アテナが自信満々に胸を張るあたり、確かに勝算はありそうだが、それでも.....。
「.....キャベツさんはどう思います?」
「.....う~ん。僕個人としてはあまり気分のいいものではないね」
「.....ですよね」
「それに確かに勝算はありそうだが.....。
戦わずに済む道があるのなら、敢えて危険を冒す必要はないと思うよ?」
結局、そこなんだと思う。
アテナの作戦なら勝てる可能性はあるのかもしれないが、敢えて危険を冒す必要はないと思う。
そもそも、嫌な気分になってまで戦う必要があるのだろうか。
もしかしたら、俺の作戦で戦わずに済む可能性があるというのに。
という訳で、色々協議した結果.....。
「不採用とします」
「なーんでよーヽ(`Д´#)ノ」
「なーんでよーヽ(`Д´#)ノじゃねぇんだよ!考えていることがいちいち汚いんだよ!」
「これが歩にとって最善なのにー!」
俺の最善を勝手に決めるなっ!
今回ばかりはアテナのお役はごめんとなりそうだ。
いくら勝つ為とはいえ、あまりにも手段を選らばな過ぎだ。
「勝手にひざまづいているんだからー、その顎を思いっきり蹴りあげてー」
「.....」
ドラゴンには『竜核』と呼ばれる心臓とは異なる生命線が顎にあるらしい。
そして同時に、顎には逆鱗に触れるでお馴染みの逆鱗ポイントもあるとのこと。
つまり、顎を狙って攻撃することは、相手の怒りを買いつつも理論にかなった方法といえる訳だ。
「倒れたところでー、1番やわらかいどてっぱらに風穴を開ける1発をお見舞いしてー」
「.....」
当然、弱点を蹴りあげられたら仰向けに倒れることだろう。
そこに1発お見舞いするのは、戦いの最中なのだから当たり前ではあるが、腹に風穴を開けるって点が妙にエグい。
「苦しんでいるところにー、目潰しをして視界を奪うことのー、なにが悪いのかぜーんぜんわかんなーい!」
「.....」
目潰しまでするんかいっ!
アテナは何か勘違いしているようだが、別に俺は悪いとは一言も言っていない。
むしろ、おバカさんなモリオンに、敵を倒すまでのプロセスを理解させやすい点は見事だと言える。
ただ、俺が気に食わないのは.....。
「ぶー(´-ε -`)
コンちゃんの支援術をもらったモーちゃんなら全部成功するのにー!」
「.....」
成功するかどうかが問題じゃない。
問題なのは、フォボスの『忠誠心を利用しての不意打ち』という点が気に食わないのだ。さすがにちょっと卑怯すぎないか?
「じゃー、法螺貝でも吹けばいいのー(。´・ω・)?」
「いや、さすがにそこまでしなくてもいいけどさ。.....と言うか、いつ時代の話だよ?」
「だってー、あのドラゴンちゃんが勝手に油断してるのが悪いんでしょー」
「そ、それはそうだけど.....」
相手の隙や弱点をつくことは卑怯なことじゃないと、アテナはそう言いたいのだろう。
全くその通りだ。むしろ、立派な戦略だと思う。
だがしかし、この場合はどうなのだろう.....。
「ドラゴンちゃんが勝手にやってることだよー?私達にはかんけーないでしょー。
これを油断と言わないでー、なにを油断というのー(。´・ω・)?」
「.....ぐっ!」
なんというか倫理的な問題?
いくらフォボスが勝手にやっていることとはいえ、さすがに不意打ちは卑怯だと感じてしまう。
「歩はバカだねー( ´∀` )
不意打ちだと思うからダメなんだよー!奇襲だよー、奇襲ー!奇襲はねー、有効な作戦なんだよー?」
「あぁ、なるほど。不意打ちじゃなくて奇襲かぁ.....」
いやいやいやいやいや。
言い方を変えただけで、結局は不意打ちじゃねぇか!
アテナと話していると押しきられてしまいそうだったので、強引に不採用とした。
だって、戦わずに済むという道があるのだから.....。
「これが歩にとって最善なのにー(´;ω;`)」
「.....」
ぐ、ぐぅ!
アテナの気持ちは嬉しいのだが、戦わずに済むという道があるのだから、へ、平和的にいこうじゃないか。
そんな紆余曲折を経て、『フォボスに撤退を促す』という和平交渉にモリオンを出向かせた訳だ。
これで全てが上手くいくはずだった。
このまま終戦へと向かうはずだった。
だから、俺は安心しきっていた。油断しきっていた。
しかし、現実は.....。
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!』
『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!』
目の前で、壮絶な大怪獣バトルが繰り広げられることとなってしまった。
全てはアテナによる扇動行為によって.....。くそっ!油断した!!
そして、冒頭に戻る。
□□□□ ~アテナの想い~ □□□□
───ドカァァアアアン!
───ドカァァアアアン!
戦場に鳴り響く豪快な破壊音。
まるでゴ○ラの映画でも鑑賞しているかのような、その迫力あるワンシーンは筆舌に尽くしがたい。
現在、モリオンとフォボスが交戦中である。
戦況としては、モリオンが圧倒的に優勢だ。俺がモリオンの無事を祈る必要がないほどに.....。
当然だろう。
モリオンはアテナの作戦をものの見事に完遂したのだから。
おまけに、フォボスの翼までもぎ取っているので、むしろ痛々しくさえ見える。
「ほらねー!私の言った通り楽勝でしょー!あーははははは( ´∀` )」
「.....」
「「「「「.....」」」」」
我が功を自慢するアテナ。
この駄女神は俺の、いや、俺だけではない。周囲の冷めた視線に気付いていないのだろうか。
確かにアテナの言う通り、戦況は楽勝なのだが.....。
───ドカァァアアアン!
───ドカァァアアアン!
『小娘がァァアアア!我ら竜族を裏切りおったなァァアアア!!
許さん!許さん!許さん!息子の仇ともども葬り去ってくれるわァァアアア!!』
モリオンの裏切り行為に大激怒しているフォボスが、視界を失いながらも大暴れしてしまっている。
さながら駄々っ子のように暴れまくるので、都市への被害は甚大だ。もともと壊滅的状況ではあったが、更に酷くなっている。
それだけでも唖然となってしまうのに.....。
───ドカァァアアアン!
───ドカァァアアアン!
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
なぜか優勢であるモリオンですらも、フォボスに負けないほど怒り狂っている。もはや人語を話せないほどにまで暴れ狂っている。
当然のことながら、都市への被害は輪をかけて酷くなった。
「あちゃーr(・ω・`;)」
「あちゃーr(・ω・`;)じゃねぇ!
お前はモリオンにどんなアドバイスをしたんだよ!?」
どうやら、この事態はアテナも予想外だったらしい。
「「「「「.....」」」」」
そして困惑しているのは、何もアテナだけではなく、成り行きを見守っている冒険者一同もだ。
モリオンが突如ドラゴンに変身しただけでも驚いていたのに、それでフォボスを倒すのかと思いきや、まさかフォボスと一緒に都市を破壊していくとは露にも思ってはいなかったのだろう。
状況を静観している冒険者一同の視線は実に冷ややかだ。
それに、モリオンのことを応援している者は誰もいない。
むしろ、白い目で見ている者が圧倒的多数だ。
(これはマズいな.....。このままだとモリオンが.....)
もう事態はしっちゃかめっちゃか過ぎて、どう収拾するのか全く見当も付かない様相となってしまった。
怒りが沸いてくる。
この事態を引き起こした張本人に無性に腹が立ってくる。
「.....これか?これがお前のいう最善だとでも言うのか?」
語気を荒げ責めるような口調で、こんな事態を引き起こした張本人に乱暴に言葉を投げつけた。
「そだねー。モーちゃんのは予想外だったけどー、これが最善だねー」
「.....」
しかし、当の本人は至って冷静に返事を返してくる。
少しも悪びれた様子はなく、これこそが最善なのだと信じて疑わない毅然とした態度で.....。
「お、お前は分かっているのか!?
この事態が、どれだけの人々に迷惑をかけているのかを!
例え、勝利したとしても.....。この後、モリオンがどんな目に遭うのかを!」
アテナの毅然とした態度に多少面喰らったものの、俺の怒りは更に増していく。
このくそ駄女神は何を持って、この事態を最善だとほざくのだろうか。誰も幸せになれない最悪の結果だというのに.....。
「私はねー、『歩にとって』最善だってちゃんと言ったよー?」
「これのどこが俺にとっての最善なんだよ!?最悪じゃねぇか!」
「最悪じゃないよー。最善だよー(。´・ω・)?
これで歩はー、あのドラゴンちゃんから命を狙われなくなったでしょー?」
「それはそうだが.....。
だからと言って、モリオンや他の人々に迷惑をかけてもいいことにはならないだろ!」
「んー?どうしてー?」
お、おいおい。
ま、まさか、冗談だろ?
アテナは本気で頭に疑問符をつけている。
俺の言っていることを本当に分からないといった表情をしている。
嫌な汗が頬を伝う。全身に寒気が襲う。
口の中が急激に乾燥していき、喉がカラカラとなっていく。こ、この凄く不快な感じは.....。
「あのねー、私にとっては歩のほうが大事なんだよー(・ω・´*)
その歩の為にしていることの何がダメなのー?いいことじゃないのー?」
「.....」
やはりか.....。
これは神特有の傲慢な思想。
全ては私の言うことが正しいという『神思想』だ。
この神思想の前では、理屈が一切通じないことはアルテミス様の件で既に学んでいる。
だから、理屈が通じないというのなら、アテナを説得する為には情で訴えかけるほか手段はない。
それと言うのも、今後もアテナに頼らざるを得ない場面は多く出てくるだろう。
その時に、(気持ちは嬉しいのだが)毎回神思想を持ち出されたのではたまったものではない。ここはなんとしてでも、アテナを説得する必要がある。
そして、アテナに友好的な手段といえば.....。
「モリオンはどうなる?モリオンは今もきっと苦しんでいるぞ?妹が苦しんでいてもいいのか?」
やはり、かわいがっている妹を出すのが1番だろう。
人々には悪いが、アテナに正義感はないと思う。だから、話題に出すだけ無駄だと判断した。
本当なら、最愛の妹であるドールが最も友好的な手段なのだろうが.....。
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
ただ、今の状態のモリオンならきっと大丈夫だろう。
人語すら忘れ、怒り狂って暴れているモリオンを見ていると悲しくなる。と言うか、見ていられない。
俺でさえこうなのだから、妹をかわいがっているアテナなら、きっと俺と同じ思いを抱くだろう。
「モーちゃんは好きだよー!でもねー、歩はもーっと好きー!」
そう思っていたのだが、アテナからは予想外な答えが返ってきた。
モリオンよりも俺のほうが好きだから、例え、かわいがっている妹が苦しんでいようとも俺を優先するらしい。
「そ、そう?」
「うんー!にへへー(*´∀`*)」
くそっ!かわいいじゃないか!
まぁ、そういう事情があるのなら、みんなが苦しんでもある意味仕方がないよね。
・・・。
(.....って、違ーう!いやいやいや。俺は何を納得しているんだよ!?
時と場所を考えろ!冷静になれ!アテナに惑わされてはいけないだろ!!)
アテナの絞りたて100%の純真無垢な想いが俺の心を惑わす。
さすがはアテナ。腐っても女神ということか。と言うか、こういうのを不意打ちというのだろう。
そして、気になることがあるので、ここは心を鬼にしてでも聞かなければならない。
「ちなみに、ドールだったらどうなる?」
俺を選ぶのか。
最愛の妹を選ぶのか。
非常に気になるところだ。
言葉は悪くなるが、比較対象としてはモリオンでは役者が違ったということだ。
「う、うーんr(・ω・`;)」
「.....」
悩んでる。悩んでる。
やはり、傲慢な神思想に対抗できるのは情に絡めた心理作戦らしい。
とは言え、ちょっと寂しいものもある。
ここで先程のモリオンの時のように、即答で「歩だよー(*´∀`*)」なんて言われた日には、神思想であろうと何十万人が死ぬような作戦であろうと「俺の為ならOK!」と許していたような気がする。
そして、悩んだ末にアテナが出した答えは.....。
「くらべられないよー。
どっちかが苦しむならー、ニケにお願いして歩もコンちゃんも助けてもらーう(´・ω・`)」
「ファ!?」
あれ!?
神は下界のことについては不干渉じゃないのか!?
アテナのあまりにも斜め上な答えにあっけらかんとしてしまった。
俺とドールの為ならば、神界規定とやらの禁則事項を破ってまで、己のわがままを通すらしい。
「とうぜーん!私は縛られない女だからねー!あーははははは( ´∀` )」
「それ、意味が違うだろ.....」
これぞ、究極の神思想というやつか.....。
こんなやつには何を言っても無駄でしかない。
そして、同時に分かったことがある。
俺にはもともと選択肢などはなかったのだと。
アテナに助けを求めた時点で、俺の選択肢は、最善は決まっていたのだと。
そう、俺の最善とは.....。
状況うんぬんの最善などではなく、アテナが俺の為にしてくれることそのものなのだ。
そこには善悪などの因果関係は一切存在せず、ただただアテナが俺を想って考えてくれたものなのである。
だから、都市がめちゃくちゃに破壊されようが、これが俺の最善。
多くの人々が傷付き、呆気にとられるような事態になっても、これが俺の最善。
かわいがっている妹が、自我を忘れるほど怒り狂うようになっても、これが俺の最善。
「そーそー。歩にとってはぜーんぶ最善のことなんだよー( ´∀` )」
「.....」
本気でそう思っているアテナにはもう言葉はいらないだろう。
もはや、説得するうんぬんのレベルの話ではない。
考え方の根本が、脳みその作りそのものが全く違うのだから分かりあえるはずがない。
例えるなら、犬派か猫派か、それを議論するようなものだ。
犬にも猫にも違った魅力があるのだから、どちらがよりいいのかを決めることなど不可能な話だ。
いつまで経っても平行線のまま。
今回はそれと同じようなものだ。アテナを説得することなど不可能に近い。
だから、俺は.....。
───ぽふっ。ぽんぽん
「ありがとな?」
「にへへー(*´∀`*)やっと分かってくれたー?」
考えることを放棄した。
もうなってしまったことはしょうがないと諦めた。
今の俺にできることは、傷付いたモリオンを守ってやることだけだ。
□□□□ ~モリオンの異変~ □□□□
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
勇ましい咆哮をあげるモリオン。
モリオンとフォボスによる壮絶な大怪獣バトルがようやく終わりを迎えた。
ただ、モリオンが終始圧倒的優勢だっただけに、その内容が本当に惜しまれる。
せめて自我を保って暴れ回りさえしなければ、完勝という名の美酒に酔えたのだが.....。
そして、それは危惧した通りの反応として、モリオンに返ってくることになる。
「アユムー!我は勝ったのだー!」
よほど力を使い果たしたのか、それとも思う存分暴れてスッキリしたのか。
フォボスが倒れると同時に自我を取り戻したモリオンは、あっという間に人間の姿に戻って、遥か遠くから嬉しそうに俺達の元へと駆けてくる。
その姿からはまだまだ元気なようにも見えるが、実際は埃まみれの全身ボロボロで、壮絶な戦いだったことが窺える。
そう、本来なら、ここでベルジュを救った英雄であるモリオンに、称賛の声や拍手が雨あられと降り注がれるのであろうが.....。
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
静まり返り、誰1人として、歓声のかの字ですらも声を上げるものがいない。
そればかりか微動だにせず、微妙な眼差しで、遠くからモリオンの様子を窺う者ばかりだ。
当然、その異様な光景にモリオンが気付かない訳がない。
「な、なんなんのだ?.....なんで我をそんな目で見るのだ?」
モリオンが、まるで恐怖に駆られたように震えながら後ずさる。
どうやら先程までの元気で無邪気な姿から、一瞬にして、不安と恐怖に恐れおののく姿に入れ代わってしまったようだ。
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
「な、なんなんのだ?.....こ、恐いのだ。その目は恐いのだ.....」
衆人環視に晒されるモリオン。
冒険者一同に悪意はないと思う。
しかし、それに近い感情の視線を向けられて、モリオンはすっかり錯乱してしまっている。
「あれは.....。少しマズいかもしれぬのぅ.....」
「.....」
急いでモリオンの元へと向かうも、まだ少し距離がある。
とにかく、急いでモリオンを保護しないと大変なことになりそうで怖い。
それと言うのも、まるでモリオンをとりまくように、怪しい煙、黒い煙みたいなのが出ているからだ。.....なんだよ、あれは!?
「.....い、嫌なのだ。.....わ、我は悪い子じゃないのだ。
.....そ、そんな目で我を見ないので欲しいのだ。我をいじめないで欲しいのだ」
モリオンがその場でへたりこんでしまった。
それに気のせいか、モリオンをとりまく黒い煙の密度が少し増したようにも思う。くそっ!これはなんなんだよ!?
この謎の黒い煙は予想外だったが、モリオンがこうなってしまう前兆は確かにあった。
フォボスを倒したのは間違いなくモリオンだ。
それはみんなが見ていたことなので、誰も異論を唱えることはしないだろう。称賛に値する行為だ。
だが、この美しいベルジュを破壊し尽くしていったのは、モリオンと同じ竜族なのである。
更に言うのなら、愛しい人を、親しい友人を殺していったのも、モリオンと同じ竜族なのである。
もっと言うのなら、もはや地形が変わるほど徹底的に景観を破壊し尽くしたのは、愛しい人や親しい友人の遺体を無惨な姿で晒してしまったのは、怒り狂って暴れ回ったモリオンとフォボスの竜族が原因なのである。
つまりモリオンは、ベルジュを救った英雄であると同時に、人々の恨みを買う対象となる竜族でもあるということだ。
だから、いくらベルジュを救った英雄だからと言っても、『竜族であってもモリオンだけは特別』とそう簡単に割り切れるものではないらしい。
冒険者一同もそれが分かっているからこそ、モリオンを微妙な眼差しで遠くから様子を窺うことしかできないという訳だ。
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
嫌悪や怨恨といった視線が全くないとは言わないが、多くは恐れや恐怖、とまどいが大半を占めている。
こんなこと、冷静になって冒険者一同を見れば誰でも分かりそうなものではある。とは言え、決して気持ちのいいものではないが.....。
「.....い、嫌なのだ。.....わ、我は悪い子じゃないのだ。
.....そ、そんな目で我を見ないので欲しいのだ。我をいじめないで欲しいのだ」
ただ、モリオンはドラゴン状態の時から精神が少し不安定だった。
ともすれば、冒険者一同を冷静に見ることなどできないのだろう。言ってみれば、疑心暗鬼になっているという訳だ。
と、その時───。
「主!トカゲの様子がおかしいのじゃ!!」
「!?」
「.....恐いのだ。.....もう1人ぼっちは嫌なのだ。.....辛いのだ。.....もう1人ぼっちは悲しいのだ。
.....そうなのだ。.....我はちっとも悪くないのだ。.....悪いのは我を誉めてくれない人間なのだ」
モリオンをとりまく黒い煙が、ぶわっと誰の目から見てもハッキリと分かるほどに一気に増え出した。
ここまで増えるとよく分かる。
あの黒い煙からは嫌な空気しか、不快な雰囲気しか感じ取ることができない。もし、あんなものにとりこまれでもしたら.....。
しかし、事態は更に混迷していく。
「.....人間が全部悪いのだ。.....人間が全部悪いのだ。.....人間が全部悪いのだ。
.....人間が全部悪いのだ。.....人間が全部悪いのだ。.....人間が全部悪いのだ」
モリオンが何かに取り憑かれたかのように、ぶつぶつと独り言を言い出した。
よく聞き取れはしないが、きっと良くないことだろう。
モリオンの瞳が昏く澱んでいることからも容易に想像がつく。
そう、それが確認できるところまで、俺達はモリオンの側に寄ることができたのだが、時既に遅し。
モリオンには俺達の呼び掛けなどまるで聞こえてはいないようだ。
「.....我をいじめるやつは敵なのだ。.....我を誉めてくれないやつは敵なのだ。
.....人間は我をいじめるのだ。.....人間は我を誉めてはくれないのだ」
それどころか、モリオンをとりまく黒い煙の勢いがどんどん増していく。
まるでモリオンの負の感情に呼応するかのように、勢力を拡大していく。
そして.....。
「.....人間は悪いやつなのだ。.....悪いやつは我の敵なのだ。.....人間は我の敵なのだ。
.....人間は我の敵なのだ。.....人間は我の敵なのだ。.....人間は我の敵なのだー!!」
モリオンの悲しみに満ちた叫びを皮切りに、溢れ出した黒い煙がモリオンの全身を包み込んでいく。
しばらくして、そこに出来上がったのは、黒蝶の繭みたいな不気味で穏やかならぬものだった。
この嫌なワンシーン。
漫画やアニメなどでよく見るお約束の展開すぎて渇いた笑いしか出てこない。HAHAHA。
「.....アテナ。どういうことか分かるか?」
「うーん。たぶんねー、モーちゃんの種族が原因なんじゃないかなーr(・ω・`;)」
「種族?」
「うんー。モーちゃんねー、今の状況になってからレベルが上がってるよー」
はぁ!?なんで!?
とりあえず、アテナの解説を要約すると以下だ。
①モリオンは黒死竜という珍しい種族の竜族であること。
②今までモリオンのレベルは1だったが、今はレベル2になっていること。と言うか、レベル1だったの!?
③あくまで推測だが、黒い煙の正体は自身や周囲の負の感情であること。(不安や恐怖、怒りや怨恨など)
④そして、これもあくまで推測だが、モリオンはそれを取り込むことでパワーアップできる種族なのではないかということ。(この状況でのレベルアップや今までレベル1であったことから推測)
「つ、つまり.....、どういうことだ?」
「えー?わかんないのー(。´・ω・)?」
いや、なんとなくは分かる。
分かるのだが、本能が理解するのを拒絶している。
だってこれ、そういうことやん.....。
しかし、現実は非情だ。
アテナから残酷な宣告が為される。
「新生モーちゃん(敵)がでてくるねー(`・ω・´) シャキーン!!」
うわぁぁあああ!
やっぱりそうだよなぁぁあああ!
一難去ってまた一難、俺達は再び新たな強敵と戦うこととなった。
□□□□ ~俺がいるから!~ □□□□
モリオンを包む黒い繭が少しずつ少しずつ剥がれ落ちていく。
まもなく黒蝶ならぬ黒死竜が生まれ出る瞬間ということだろう。
まさかのvs.モリオン戦ということで、みんなの気持ちが一気に引き締まる。
戦いの前準備としては上々だろう。すると問題は.....。
「あのフォボスを撃ち破ったモリオンだぞ?.....俺達で勝てるのか?」
「「.....(ごくっ)」」
誰しもが思う疑問をアテナにぶつけてみた。
ドールの、キャベツさんの、息を飲む音が鮮明に聞こえてくる。
普通に考えれば、勝ち目はないだろう。
だから、今回ばかりは卑怯な手だろうとアテナにすがる他ない。
「んー?よゆーだよー。私がいて負けるわけないでしょー( ´∀` )」
「マ、マジか.....」
「な、なんと!?.....さ、さすがは妾の姉じゃな」
「ふぅ.....。いやはや、女神様とはなんとも偉大だね。ますます欲しくなるよ」
キャベツさんはまだ諦めていないのかっ!?
なんとも頼もしいアテナの姿に一気に脱力してしまった。
これから戦いだというのにだ。恐らく、俺が脱力しても勝利は揺るぎないものなような気がする。
ただ1つだけ、どうしても確認しなければならないことがある。
「勝てるのは分かった。だけど、内容が問題だ。
モリオンは大丈夫なんだよな?助かるんだよな?
モリオンが俺達の元へと戻ってきて、初めて勝利と言えるんだぞ?」
ただ勝てばいいフォボスの時とは条件が違う。
どんな汚い手でも使う覚悟はあるが、それは全てモリオンを取り戻す為だ。モリオンの死亡という結末だけは絶対に防がなければならない。
「とうぜーん!私にまっかせなさーい(`・ω・´) シャキーン!!」
「ありがとう。恩に着る。後はお前の指示に全て従うよ」
「トカゲは大切な妹だからの。姉として、助けるのは当たり前のことなのじゃ」
「苦しんでいる女性は見過ごせないからね。正統勇者の名にかけてドラゴンのお嬢さんを救ってみせよう」
その後、アテナを中心にして作戦会議が開かれた。
作戦そのものは至ってシンプル。難しいことはなく、まともなものだった。
しばらくすると.....。
───パリンッ!
まるでガラスが割れた音のように、耳をつく激しい音が戦場に鳴り響いた。
そして、砕け散った黒い繭から姿を見せる1人の少女。
「のだあああああ!」
マジでアテナの言う通りかよっ!?
モリオンの「のだー!」とかわいく万歳している雄叫びを見て、思わずズッコケそうになってしまった。
俺としてはアテナの言うことに半信半疑だった為、モリオンがどんな凶悪な姿を現すのかとドキドキしていたのだが、見た目はなんら変わっていない。かわいい少女のままだった。
強いて変わった点をあげるなら.....。あるか?
いや、本当にないのかもしれない。あそこまで大袈裟な演出をした意味とは?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いいー?モーちゃんはなんにも変わらないよー(・ω・´*)」
「変わらない?どういうことだ?」
「ドラゴンになれないのー。力を使い果たしちゃってるからねー」
「まさか。あそこまで大掛かりな演出をやっておいてそれはないだろう」
「ほんとーだよー。私いったよねー?歩にとって最善の作戦だってー」
「ま、まさか.....。これを見越した作戦だったというのか!?」
「とうぜーん!私は智慧の女神だからねー(`・ω・´) シャキーン!!」
「さ、さすがはアテナ.....。なーんて思う訳ないだろ。アホか、くそ駄女神が!!」
「ふええええん(´;ω;`)」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後でアテナにちゃんと謝っておこう。
まさかアテナの言う通り、本当にモリオンが人間ver.で姿を現すとは思ってもいなかった。
そうなると、他の言葉も信憑性が増してくる。
「なるほど。確かに姉さまの言うた通りじゃな。それならば、姉さまを信じねばなるまい。
主!勇者様!今から支援を施すのじゃ!.....妾の大切で愚かな妹のこと、よろしく頼むのじゃ!!」
ドールの合図とともに、体全体に力がみなぎってくる。
モリオンとフォボスが戦っている間に、体を十分に休ませることができた結果だろう。
「任された!ありがとう、ドール!」
「これは.....。素晴らしい魔法だね。
はっはははは!力がみなぎってくる!今の僕は無敵さ!どんな攻撃も防いでみせよう!!」
意気揚がるキャベツさんが、その場で盾を構える。
これで防御態勢はバッチリだ。
後はキャベツさんに任せて、俺は俺の務めを果たすとしよう。
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「モーちゃんはねー、人間でもつよいよー。でもー、勝てない相手じゃないのー」
「それは人間ver.だったらって話だろ?ドラゴンだったら.....」
「なれないからいいのーヽ(`Д´#)ノ」
「分かった、分かった。話を進めてどうぞ」
「人間のモーちゃんならー、歩でも勝てるよー。支援付きだけどねー」
「ふーん。なら、ドール頼めるか?」
「任せよ。30分で、見事あのバカトカゲを取り戻してくるがよい」
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───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
「人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ」
「おい!モリオン!聞こえるか!?俺だ!俺のことが分かるか!?」
「人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ」
「.....ちっ!これもアテナの言った通りか.....」
既にモリオンによる激しい猛攻が繰り広げられている。
しかし、その全ての攻撃を、鉄壁の勇者キャベツさんが完全に防いでいてくれている。
「女神様の言う通り、普通の説得は困難らしいね」
「そうみたいですね。お手数かけます」
「いやいや。これしきなんてことはないよ。むしろ、あまりにも余裕過ぎて寝ちゃいそうなぐらいさ」
「ほ、本当に寝ないでくださいね?」
高笑いしているキャベツさんにどこか不安を抱いてしまった。
未明からずっと激戦続きだっただけに、本当に疲労からくる睡眠でパッタリなんてことも.....。
「それで?いつ行くかは決めたのかい?」
「はい。次の猛攻が途切れた瞬間を狙います。協力してください」
「分かった。君は何も心配することなく、全力でいきたまえ」
モリオンもずっと攻撃できる訳ではない。
ひとしきり攻撃をすると、ほんの少しだけインターバルを取るようだ。狙うならその時だろう。
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
モリオンのブレスや尻尾攻撃が襲ってくるも、キャベツさんの盾を貫くことはできず。
強化されている30分の間は、モリオンではキャベツさんに傷1つ付けることはできないだろう。この絶対的な安心感は癖になるものがある。
「はっはははは!ぬるい!ぬるいね!
そんな攻撃じゃあ、一生僕を抜くことはできないよ!」
「人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ」
「そうさ!僕は君の敵さ!
だったら、いつまでこんなぬるい攻撃を続けるつもりだい?さっさと本気を見せて欲しいものだね」
「人間は我の敵なのだ!!人間は我の敵なのだ!!人間は我の敵なのだ!!」
おぉ。簡単に煽られとる。
モリオンの無駄な攻撃が一層激しさを増す。
いくら闇落ちしたとはいえ、実はモリオンの根本自体はあまり変わらないのかもしれない。
つまり、モリオンはどこまでいってもおバカさんのままだということだ。
そんなモリオンにほっこりしていると.....。
「さぁ、いまだ!竜殺し君!
後は僕に任せて、君は君のできることをやりたまえ!!」
「ありがとうございます!」
モリオンがインターバルに入ったようだ。
俺は、キャベツさんの合図とともに、モリオンの元へと猛然と駆け出す。
モリオンを取り戻す為に.....。
モリオンと再び旅に出る為に.....。
モリオンを姉達の元へと返してあげる為に.....。
「うぉぉぉおおおおお!」
「人間は我の敵なのだ!!!人間は我の敵なのだ!!!人間は我の敵なのだ!!!」
近付く俺に、とても不快そうな声を上げるモリオン。
それだけでも悲しいというのに、モリオンの表情はずっと死んだままだ。
いつも頬っぺたに食べかすを付けて、にこにことしているあのかわいい笑顔は、今は昏く澱んでいて見るに堪えない。
だから、取り戻すんだ。
あのかわいらしい笑顔を。
いつも元気いっぱいなモリオンを。
「.....おっと。竜殺し君に手出しはさせないよ。『Ridicule』!」
「人間は我の敵なのだ!!!人間は我の敵なのだ!!!人間は我の敵なのだ!!!」
モリオンの殺意の籠った攻撃が、全てキャベツさんに流れていく。
いま、俺とモリオンの間に立ちはだかる壁は何もない。
ここだ!
「うぉぉぉおおおおお!この一撃に全てをかける!」
俺の渾身の一撃が、無防備な姿を晒しているモリオンを今まさに捉えようとしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それで?モリオンを取り戻すにはどうしたらいいんだ?」
「簡単だよー!モーちゃんはねー、いま正気をうしなってるだけなんだよー( ´∀` )」
「正気を失っているだけか.....」
「うんー!だからー、正気に戻せばいいだけだよー!」
「どうやって戻せばいいんだ?」
「そんなのー、昔から変わらないじゃなーい!バンバンバンだよー、バンバンバンー(o゜ω゜o)」
「えぇ.....。さすがに幼児虐待にならないか?」
「なるわけないでしょー!ここは日本じゃないのーヽ(`Д´#)ノ」
「いや、それでも.....」
「しかたないなー。じゃー、こんなのはどうー(。´・ω・)?」
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ありがとう、アテナ。
お前は最高の相棒だよ!!
「これでも喰らえ!モリオォォオオオン!!」
「人間は我の敵なのだ!!!人間は我の敵なのだ!!!人間は我の.....んむぅ!?」
俺の渾身の一撃が見事モリオンを捉えることに成功した。
アテナ考案の一撃だ。破壊力は抜群だろう。
「もっとだ!もっと喰らえ!!」
「.....うぅ!?.....んむぅ!?.....ぐぅ!?」
モリオンからの攻撃がピタッと止んだ。
俺の北斗百〇拳並みの連打に、さすがのモリオンも驚き慌てているようだ。
「どうした!こんなものか!?俺はまだまだやれるぞ!」
「.....ちょっ!?.....んむぅ!?.....ま、まつ!?.....ぐぅ!?」
何か聞こえたような気もしたが、俺は手を止めることなく、ひたすら渾身の一撃を放ち続ける。
モリオンが正気に戻るまでひたすらだ。
「まだか!?まだなのか!?.....くっ!仕方がない!ならば、もっと速度を上げてやる!!」
「!!!.....や、やめ!?.....ゲホッ!?.....ア、アユ!?.....んむぅ!?」
ここまでしても正気に戻らない.....だと!?
どれだけモリオンが傷付いたのか、その胸中は計り知れない。モリオンのことを思うと胸が張り裂けそうだ。
そんな悲劇のヒロイン気取りに浸っていたら.....。
「お、おい。竜殺し君?
そのドラゴンのお嬢さんは、もう正気に戻っているんじゃないのかい?」
「な、なんだってぇぇえええ!?」
キャベツさんより、衝撃の事実を伝えられた。
モリオンを見てみると、涙ぐんでいるものの、確かに瞳には色が戻り、表情には生気さえ窺える。
「ほ、本当に正気に戻ったのか!?俺のことが分かるか!?」
「はむはむはむだ!」
「食べながら話すなって何度も言っているだろ?」
「.....(ごくんっ).....分かったのだ!」
全然分かっていないだろ、全く.....。
しかし、いつものモリオンに戻っていることは確かだ。
さすがアテナ考案の活劇パンチ。対モリオン戦においては最強のパンチだと言えるだろう。
「アユムは詰め込みすぎなのだ!もう少しで喉に詰まるところだったのだ!」
「いやいや。あれほどたくさんのお菓子を口に詰め込んだのに、詰まっていないことのほうが凄いよ」
「でも、あんなにお菓子を食べても良かったのだ?我は怒られないのだ?」
「いいんだよ。モリオンを正気に戻す為にやったことなんだからさ」
「.....?正気?なんのことなのだ?」
どうやらこれもお約束展開らしく、闇落ちしていたことは覚えていないらしい。
ただ、闇落ちする前のことは覚えているようで.....。
「ほ、本当に怒られないのだ?我は悪い子にならないのだ?」
モリオンはすっかりと怯えきってしまっている。
怒られることや悪い子になることに対して、とても敏感になってしまっている。
「アユム?我は頑張ったのだ。いっぱい頑張ったのだ。.....でも、誰も誉めてくれないのだ。
それに、みんな我を恐い目で見るのだ。なんでなのだ?なんでみんなは我をいじめるのだ?」
更には、人間に対してマイナスのイメージさえ持ちつつあるように思える。
今回はなんとか解決できたものの、このままではいつか再び闇落ちしてしまうだろう。
だから、俺はモリオンとお勉強を始めることにした。
「ちょっと難しいお勉強をしようか、モリオン」
「難しいのだ?」
「そうだ。難しいお勉強だ。でも、大人になる為には必要なお勉強だ」
「大人.....なのだ?」
そこで俺が語ったのは現実の厳しさについてだ。
努力をしたからと言っても、必ず報われるとは限らないこと。
頑張ったからと言っても、必ず誉めてもらえるとは限らないこと、などだ。
「誉めてくれないなら、頑張る意味がないのだ。誉めてくれないなら、頑張りたくないのだ」
「モリオン、それは違うぞ」
「どういうことなのだ?」
「その時は誉めてもらえなくとも、いつかは誉めてもらえる日がくることもある」
「.....?」
モリオンが言葉だけでは理解できないのは想定済みだ。
ここは食べ物で例えてあげるほうが理解してもらいやすい。
「モリオン、覚えているか?モリオンが頑張った翌日はお菓子の量はどうなってた?」
「増えてたのだ!」
「そうだな。じゃあ、悪いことをした翌日はどうだった?」
「減ってたのだ.....」
モリオンが一喜一憂している姿は本当に癒される。
そして、お勉強を必死に頑張っている姿には感動すら覚える。アテナはモリオンを少し見習えっ!
「つまり、そういうことなんだよ。
モリオンが頑張っても、その時には誉めてもらえないかもしれない。
でも、もしかしたら、次の日に誉めてもらえるかもしれないということだ」
「じゃー、明日、我は誉めてもらえるのだ?」
「そうとは限らない。明後日かもしれないし、ずっと先かもしれない」
「いつ誉めてもらえるか分からないのだ?」
「そうだな」
ぷくーっと頬を膨らませて拗ねるモリオン。
明らかにご不満な様子だ。気持ちは分からなくもない。現実とは理不尽の塊だしな。
「我は誉めて欲しいのだ!頑張ったら、すぐに誉めて欲しいのだ!」
困った。
幸せの貯金という概念を教えるつもりだったのだが、モリオンは宵越しの金は持たぬ派だったらしい。
「我が頑張っても誉めてくれないなら、人間なんて嫌いなのだ!!」
「そうか.....。なんか悲しいな」
「なんでアユムが悲しくなるのだ?」
「俺は人間だぞ?モリオンに嫌われちゃったら悲しくもなるだろ」
「ア、アユムは特別なのだ!我はアユム以外の人間が嫌いなのだ!」
人間がモリオンに行った仕打ちを考えたら、モリオンが人間を嫌いになってしまうのは仕方がないのかもしれない。とは言え、こればっかりは人間だけを責める訳にはいかない。人間には人間の事情もあったことだし。
いい落としどころはないものだろうか.....。
「モリオン.....。人間を好きになれとは言わないが、嫌いにはならないでくれ」
「どうしてなのだ?人間は誰も誉めてくれないのだ。それに、我をいじめてくるのだ」
「そうは言っても、俺も人間だしな。
いくらモリオンに俺は特別だと言われても、人間が嫌いだと言われたらいい気はしない」
「.....」
モリオンが俯くも、納得しているとは思えない。
この様子では人間を好きになることなど到底不可能だろう。とすれば、せめて嫌いにならないところで妥協したいものだ。
「モリオン。人間ってどうしようもない程、弱くて自己中心的な生き物なんだよ。
モリオンがいなければ全滅やむなしだったというのに、同じ竜族だからと嫌悪したり。
もしかしたら、モリオンがまた暴れ出すんじゃないかと勝手に不安になっていたりするんだ」
「.....我が竜族だからいけないのだ?」
モリオンは関係ないことだが、実際はそうだったりする。
竜族というキーワードが全ての元凶になってしまっていると思う。
「1番頑張ったのはモリオンだ。みんな分かっている。
でも、都市をめちゃくちゃにしたのは竜族だ。それをみんな一緒にしちゃってるんだ」
「我は関係ないのだ!他の竜族が悪いのだ!我はいい子なのだ!」
「その通りだ。.....でも、人間は弱いからな。みんな竜族を恐がっているんだ」
「じゃー、人間は誰も我を誉めてはくれないのだ?いい子になっても誉めてはくれないのだ?」
モリオンから悲しい眼差しを向けられる。
その眼差しで心を抉られそうになるも、俺の言うべきことは決まっている。
「本当に誰もいなかったか?本当に誰も誉めてはくれなかったか?」
「.....?我は誰にも誉めてもらってないのだ」
「本当にそうか?誉めてくれる人なら、モリオンの目の前にいないか?俺だって人間なんだぞ?」
「!!!」
モリオンの表情が一気に晴れやかなものとなる。
モリオンの言う「人間は誰も誉めてくれない」という言葉がずっと気になっていた。
俺を人間と認識しているものの、なぜかその人間の括りに入っていなかったことにずっと疑問を抱いていた。俺はモリオンにとって、それほど特別な存在だということなのだろうか。.....ちょっと照れる。
「ありがとう、モリオン。助かったよ。モリオンは命の恩人だ」
───ぽふっ。ぽんぽん
「や、やっと.....、やっと誉めてもらえたのだ!」
「遅くなってすまん。本当にありがとな」
頭をぽんぽんされたモリオンは、なのだー!とかわいく万歳して嬉しそうに微笑んだ。
その顔は涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになっていたが、とてもかわいい笑顔だと思う。
「モリオン。もう1度言うな?
人間を好きになれとは言わない。でも、嫌いにはならないでくれ」
「アユムも人間だからなのだ?」
「そうだ。俺も人間だからだ」
「.....アユムがそう言うなら、分かったのだ」
落としどころとしてはこんなものだろう。
後はモリオンを不安にさせないようにフォローを入れるのみ。
「それと、もし人間の誰もが誉めてくれないと言うのなら、代わりに俺がたくさん誉めてやる。
モリオンがびっくりするぐらいたくさん誉めてやるぞ?」
「アユムが代わりに誉めてくれるのだ!?」
「あぁ、そうだ。.....それとも、モリオンは俺だけじゃ不満か?」
「全然不満じゃないのだ!ずーっとアユムに誉めてもらいたいのだ!」
「ずっと!?」
「ずーっとなのだ!」
不安にさせないどころか、むしろ最大級のご褒美をあげることになってしまったようだ。
しかし、それでも、(自称)教育親としては、娘から「ずっと一緒」だと言われて悪い気はしない。
───ぐ~るきゅるるるるる~
「お腹減ったのだ.....」
「そうだな。戻って飯にでもするか!」
「なのだ!」
・・・。
怒られることを、1人ぼっちになることを誰よりも恐れる竜族の少女。
まだまだ無知なことが多いけれど、それでも、周りに愛されていつもにこにこしている姿は愛嬌があってとてもいい。
「アユム!これからもずーっと我を誉めてもらいたいのだ!」
こうして、竜族との長い長い戦いの1日が無事終わりを告げることになった。
俺とモリオンのお勉強はこれからもずっと続いていく。
いつの日か、おバカなモリオンが1人立ちできるようになるまで、素敵なレディーになるまで、(自称)教育親としてしっかりと見守っていきたいと思う。
第四部 完
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後書き
これにて、『5.5章』が終了となります。
この後は定番の『キャラクター紹介』と『キャラクターステータス』を掲載して、『6章』に突入することになります。
『キャラクター紹介』と『キャラクターステータス』においては、本編では紹介できなかったことも記載してありますので、ご興味をお持ちの方はぜひ読んで頂ければと思います。
これからも『歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~』をよろしくお願いいたします。
アテナが暗躍してた!
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25000字ほどあるので覚悟してお読みください。
分割しようかとも思ったのですが、前回も分割しているので.....。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2/25 世界観の世界編!に一部追記をしました。
追記箇所は、『種族紹介』の黒死竜となります。
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□□□□ ~流行りの~系女子~ □□□□
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!』
『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!』
「.....」
いま俺達の目の前では、ドラゴンvsドラゴンによる大怪獣バトルが、苛烈に、熾烈に行われている。
当然、戦っているのは『モリオン』と『フォボス』である。
そして、この大怪獣バトルはあまりにも壮絶過ぎて、もはや俺達が、人間が、立ち入ることなど不可能な状況となってしまっている。
つまり、モリオンの無事を祈りつつ、ただただ成り行きを見守ることしかできないという訳だ。
どうしてこうなった!?
「モーちゃーん、すごーい!やれやれー!そこだよー!あーははははは( ´∀` )」
「.....」
ボクシング観戦してるんじゃねぇんだぞ!?
アテナは目の前で繰り広げられている大怪獣バトルを楽しそうに眺めつつ、まるで熱の入ったボクシング好き系女子のように手をシュッシュッと振っている。く、くそっ!かわいいな!!
改めて言うまでもないことだが、既に原因は分かっている。
このくそ駄女神のアドバイスが原因なのは、誰の目から見ても明らかだ。
(モリオン.....。勝っても負けてもいいから無事でいてくれよ。
あっ!負けたら無事では済まないか.....。なら絶対に勝って、俺のところに戻ってきてくれ)
時はアテナ達が戦場に到着した時まで遡る。
□□□□ ~モリオンはえらい?~ □□□□
「あー!歩、はっけーん( ´∀` )」
その言葉とともに、アテナとドールが戦場に到着した。
俺はこの瞬間をずっと待ちわびていただけに、歓喜に震えたことは言うまでもないだろう。とは言え、アテナが調子に乗るので喜んでいたのは内心でだが.....。
ただ、アテナ達が到着したのは素直に嬉しいのだが、気になることがある。
「あれ?モリオンはどうした?」
「トカゲは妾が置いてきたのじゃ。
付いてきてはいたが、ハッキリ言って、遅くて足手まといだったからの」
お前は天○飯かよ!?
しかし、厳しい中にも愛はあるようだ。
ドールの眼差しには、モリオンが必ずやってくると信じて疑わない、強くもどこか温かいものがあるように見受けられる。
「ドールは本当に厳しいよな?」
「ねー!妹にはもっとやさしくしないとダメだよー(。´・ω・)?」
「主も姉さまも甘いのじゃ。仲間ならいざ知らず、姉妹であるならば必要なことなのじゃ」
そんな悠長な会話を、キャベツさんに守られながらしていると.....。
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
perfect.....だと!?
いきなりどうした!?
「りゅりゅりゅりゅ、竜殺し君!
そ、そちらの美しい女性方はなんなんだい!?なんなんだい!?」
「.....」
キャベツさんの圧が鬱陶しい。と言うか、ウザい。
そして同時に、キャベツさんの正義?性癖?に呆れてものが言えない。
(はぁ.....。キャベツさんは本当にどうしようもないな.....。
アテナやドールのような美少女を常に側に置いておけば、もしかしたら防げない攻撃なんてないんじゃないのか?)
加護持ちのやる気次第で結果に影響を及ぼす可能性。
また1つ、加護について新たな情報が手に入った。まぁ、手に入った経緯はしょーもないことからだけど。
「.....ハァ。.....ハァ。.....や、やっと着いたのだ。.....つ、疲れたのだ」
そんなこんなでキャベツさんに呆れていると、ようやくモリオンが戦場に到着したようだ。
「お疲れ、モリオン」
「モーちゃん、頑張ったねー!いいこいいこー(〃ω〃)」
「遅い!.....じゃが、さすが妾の妹なのじゃ。諦めずに良く頑張ったの」
「おぉ!またかわいい子が僕の応援に!?
はっはははは!なんだかやる気が沸いてきたよ!今なら神様の攻撃すらも防げそうさ!!」
あんた、どんだけ調子がいいんだよ!?
ここまで調子がいいと、もはやキャベツさんの超ポジティブ思考に敬意を払いたい気分だ。
だが、もしも、これでフォボスの攻撃を本当に防げるようになったというのなら万々歳といったところだろうか。.....まぁ、現実はそこまで甘くはないんだろうなぁ。
そんな楽観的なことを考えていたら、まさかの事態が起こる。
本当にキャベツさんがフォボスの攻撃を防ぎ出した.....という訳ではなく、突如、敵であるフォボスの攻撃がピタリッと止んだ。
それだけでも不思議な上に、驚きの一言を言い放った。
『ひ、姫様!?お、お探し申しておりましたぞ!』
しかも、驚きの言葉だけではなく、まるで王族に対して臣下の礼をするかの如く、その場でかしづいてもいる。
ドラゴンがかしづくという世にも珍しい光景だが、とても様になっている。
「姫様!?」
「んー?ひめさまー(。´・ω・)?」
「姫様じゃと!?」
「お姫様だって!?」
当然、俺達は仰天した。
フォボスの言葉にも、行動にも、全てに驚かされた。
(戦場で、敵の目の前で、悠然と臣下の礼を取るなんて.....。
ふっ。俺達も随分とナメられたものだな。.....助かったぁー!)
一方、フォボスの臣下の礼の対象となっているモリオンはというと───。
「姫様なのだ?」
いやいやいや。
モリオンが「姫様なのだ?」と小首を傾げるのはおかしいから。かわいいけどさ。
ドラゴンであるフォボスが「姫様」だと言っている以上、同じドラゴンであるモリオンしか姫様に該当する人はいないだろう。
そもそも、この場にいる女性でモリオンを除くと、アテナは女神だし、ドールは奴隷だし。
「モリオンはお姫様なのか?」
「そうだったのだ!我はお姫様なのだ!」
忘れてたんか~い!
ただ、モリオンらしいと言えばモリオンらしい。
そんな無邪気なモリオンに、俺は思わず苦笑いしてしまった。
どうやらモリオンは竜族のお姫様だったらしい。
そして、なぜモリオンがおバカさんだったのかなんとなく分かってしまった。
(きっと、甘やかされて育ったんだろうな。
2世はおバカさん。これはもはや貴族間でのお約束だもんなぁ.....)
□□□□ ~俺の華麗なるまともな作戦~ □□□□
モリオンが竜族のお姫様であることが判明した。
そして、いまだに律儀に臣下の礼をとり続けているフォボス。モリオンからの下知待ちか?
ただ一時的とは言え、フォボスの攻撃が鳴りを潜めている今のこの状況はチャンスだ。
この絶好の機会を利用して、俺達はキャベツさんも交えて対フォボス攻略会議を開いたのだが.....。
「歩とキャベツじゃダメだねー。あのドラゴンちゃんは強すぎるよー」
会議早々に、アテナからのダメ出し(だと思っていた)を喰らってしまった。
フォボスのステータスから判断しても無理だろうとは思っていたが、頼みの綱であるアテナにまで勝てないと言われてしまったのでは、もはや勝算は0とみていいだろう。
(.....くっ!か、勝てないのというのなら.....)
後は負けない戦いをするのみ。
どうにかして、被害を出来るだけ最小限に抑えて、この場をやり過ごすのみ。
それを可能とする絶妙な作戦をアテナに期待していた訳なのだが.....。
俺は現状のモリオンやフォボスを鑑みて、アテナに頼ることなくある1つの作戦が思い浮かんだ。
「聞いてくれ。俺に考えがある」
みんなの視線が俺に集まる。
視線の先に見てとれるのは様々な感情だが、概ね俺の作戦に期待しているといったところか。
「単刀直入に言う。あのドラゴンに撤退を促そうと思う」
「(´・ω・`)」
「ほぅ。どういうことか詳しく話すのじゃ」
「撤退.....?どういうことなのだ?」
「撤退か.....。なるほど。それが実現したらどんなにいいことか」
まずは上々といった反応が返ってきた。
ただ気になるのはアテナの反応だ。
まるで俺の作戦に興味を失ったかのようなあからさまな態度や、まるで死んだ魚の目のような色を失った眼差しになったことが非常に気になる。
何はともあれ、時間も惜しいので持論を展開していく。
俺がこの作戦を思い立った要因はいくつかある。
まずその1は、モリオンが竜族のお姫様であり、フォボスというドラゴンが忠誠に厚いことだ。
敵前でもモリオンに臣下の礼をとるあたり、余程の忠義者とみて間違いないだろう。そんな忠義者ならば、主筋にあたるモリオンの言葉をすんなりと受け入れる可能性は非常に高い。
「(´-ε -`)」
「ふむ。可能性はありそうじゃ。忠義厚き者にとって、主筋の言葉とは絶対のものだからの」
「我はあいつを知らないのだ。それでもいいのだ?」
この場合、モリオンがフォボスを知っているかどうかは問題じゃないんだよなぁ。
現実問題、フォボスはモリオンに臣下の礼をとっていることだし。
モリオンにはまだ難しいことだから敢えて説明するまでもないだろうと思っていると、キャベツさんが俺の意見に警鐘を鳴らしてきた。
「納得はできる。しかし、本当に引き下がるだろうか?確か、君は僕にこう言ったはずだ。
あのドラゴンは心の中で血の涙を流していると。死んでいった息子達の死を本当に嘆き悲しんでいると」
当然、指摘されるだろうとは思っていた。
このフォボスが俺とキャベツさんの前に姿を現した時の咆哮.....いや、もはやあれは咆哮などというものではなく、心の悲鳴、嗚咽、嘆きと言ってもいいほど悲しみに暮れていたものだった。
家族を、子供を想う親の心というものが、ここまで俺の心を揺さぶってくるとは思いもしなかった。
だから俺は一気に戦意を失った。.....勝てないからという理由だけじゃないぞ!
この戦いの発端となったフォボスの息子が亡くなった本当の原因は分からないが、それでも罪悪感が凄かった。もしも逆の立場だったらと思うと.....。
そんな力が抜けた俺を見て、心配してきたキャベツさんに全てを話した。
だから、キャベツさんもフォボスの事情については知っているということだ。
「君の言葉を信じるなら、あのドラゴンの怨みは相当なものだ。
その怨みを、主君の娘の一言だけで、果たして納得して引き下がるものだろうか?」
さすがキャベツさん。
さすが正統勇者というべきか。
その疑問は当然のことながら有り得る。
だから、俺の持論のその2を展開していく。
「モリオン。実は父親から何かしろと言われていないか?
例えば、定期的に連絡をしろとかさ。それ以前に、父親とちゃんと連絡を取り合っているか?」
「そうなのだ!そう言えば、連絡しろって言ってたのだ!」
やはり.....。
フォボスがモリオンを見たときに、「お探し申しておりましたぞ!」と言っていたことから、そうなんじゃないかと思っていた。
ここから考えられることは、このフォボスの一団はモリオンの父親である王様から、娘であるモリオンを探すよう命令を受けている可能性が高いということだ。
「それがなんだというんだい?」
「俺はそこそこ忠実な社畜だったから分かるんです。
私的な事情よりも、受けた命令、所謂、請け負った仕事の完遂こそが最も優先されるべき案件なのだと」
フォボスが俺達人間に対して、怒り狂っているのは間違いないだろう。
しかし、それはあくまで私情に他ならない。
これが、家族旅行中に息子が殺されるという被害を受けたのなら、報復行動もやむなしだろう。
だが、実際は王命でモリオンを探しにきている。
そして、敵前においても王族に対して臣下の礼をとるあたり、このフォボスは相当な忠義者だ。
つまり、私情に駆られて命を落とす可能性のある(当のフォボスはこれっぽっちもそうは思っていないだろうが)無駄な戦いをして王命を完遂できない危険性をとるよりも、真の忠義者なら王様にモリオンのことを報告するという王命を優先するはずだ。
「なるほど。理にはかなっているね。
成否はともかく、試してみる価値がある。君はそう言いたいのか」
「その通りです。.....忠誠心に富んだドールはどう思う?」
「うむ。良いのではないか?
人にもよるじゃろうが、仇持ちであろうと主君の命令は絶対だからの。試す価値は大いにある」
忠誠バカのドールにお墨付きをもらえたので、俺の考えは大筋で間違ってはいないのだろう。
キャベツさんにも了承を得られたし、『フォボスの撤退を促す』という方針でいこうと思う。
「我はどうすればいいのだ?」
「『お前は帰れ』と一言、あのドラゴンに言ってくれればいいよ」
モリオンに難しい説明をしても理解できないだろう。
この一言だけでも、君臣の間柄なら十分だと思う。
「それだけでいいのだ?」
「あぁ、それだけで全てが大丈夫だ」
そう、全てが決まりかけたその時。
俺は今まで静かだったアテナに何気なく注意を払うことになった。
そして───。
「ま、まさか.....。か、勝てるのか?」
「よゆー!よゆー!私にまっかせなさーい(`・ω・´) シャキーン!!」
勝算があるなら早く言わんかいっ!
そう思わずツッコミたくなる言葉を聞かされたのだった。
□□□□ ~アテナの華麗なる卑劣な作戦~ □□□□
「.....と、まー、こーんな感じだよー!
ねぇー、すごいー?すごいでしょー!あーははははは( ´∀` )」
「.....」
「ほほぅ。それはとても妾好みなのじゃ」
「すごいのだ!よく分からないけど、お姉ちゃんはすごいのだ!」
「う、う~ん」
アテナの作戦を聞いたみんなの反応は様々だ。
妹連中は称賛を送り、俺とキャベツさんは難色を示している。
それと言うのも、アテナの口から発せられた作戦は、そのかわいらしい口とは対照的にとても卑劣なものだった。
アテナが自信満々に胸を張るあたり、確かに勝算はありそうだが、それでも.....。
「.....キャベツさんはどう思います?」
「.....う~ん。僕個人としてはあまり気分のいいものではないね」
「.....ですよね」
「それに確かに勝算はありそうだが.....。
戦わずに済む道があるのなら、敢えて危険を冒す必要はないと思うよ?」
結局、そこなんだと思う。
アテナの作戦なら勝てる可能性はあるのかもしれないが、敢えて危険を冒す必要はないと思う。
そもそも、嫌な気分になってまで戦う必要があるのだろうか。
もしかしたら、俺の作戦で戦わずに済む可能性があるというのに。
という訳で、色々協議した結果.....。
「不採用とします」
「なーんでよーヽ(`Д´#)ノ」
「なーんでよーヽ(`Д´#)ノじゃねぇんだよ!考えていることがいちいち汚いんだよ!」
「これが歩にとって最善なのにー!」
俺の最善を勝手に決めるなっ!
今回ばかりはアテナのお役はごめんとなりそうだ。
いくら勝つ為とはいえ、あまりにも手段を選らばな過ぎだ。
「勝手にひざまづいているんだからー、その顎を思いっきり蹴りあげてー」
「.....」
ドラゴンには『竜核』と呼ばれる心臓とは異なる生命線が顎にあるらしい。
そして同時に、顎には逆鱗に触れるでお馴染みの逆鱗ポイントもあるとのこと。
つまり、顎を狙って攻撃することは、相手の怒りを買いつつも理論にかなった方法といえる訳だ。
「倒れたところでー、1番やわらかいどてっぱらに風穴を開ける1発をお見舞いしてー」
「.....」
当然、弱点を蹴りあげられたら仰向けに倒れることだろう。
そこに1発お見舞いするのは、戦いの最中なのだから当たり前ではあるが、腹に風穴を開けるって点が妙にエグい。
「苦しんでいるところにー、目潰しをして視界を奪うことのー、なにが悪いのかぜーんぜんわかんなーい!」
「.....」
目潰しまでするんかいっ!
アテナは何か勘違いしているようだが、別に俺は悪いとは一言も言っていない。
むしろ、おバカさんなモリオンに、敵を倒すまでのプロセスを理解させやすい点は見事だと言える。
ただ、俺が気に食わないのは.....。
「ぶー(´-ε -`)
コンちゃんの支援術をもらったモーちゃんなら全部成功するのにー!」
「.....」
成功するかどうかが問題じゃない。
問題なのは、フォボスの『忠誠心を利用しての不意打ち』という点が気に食わないのだ。さすがにちょっと卑怯すぎないか?
「じゃー、法螺貝でも吹けばいいのー(。´・ω・)?」
「いや、さすがにそこまでしなくてもいいけどさ。.....と言うか、いつ時代の話だよ?」
「だってー、あのドラゴンちゃんが勝手に油断してるのが悪いんでしょー」
「そ、それはそうだけど.....」
相手の隙や弱点をつくことは卑怯なことじゃないと、アテナはそう言いたいのだろう。
全くその通りだ。むしろ、立派な戦略だと思う。
だがしかし、この場合はどうなのだろう.....。
「ドラゴンちゃんが勝手にやってることだよー?私達にはかんけーないでしょー。
これを油断と言わないでー、なにを油断というのー(。´・ω・)?」
「.....ぐっ!」
なんというか倫理的な問題?
いくらフォボスが勝手にやっていることとはいえ、さすがに不意打ちは卑怯だと感じてしまう。
「歩はバカだねー( ´∀` )
不意打ちだと思うからダメなんだよー!奇襲だよー、奇襲ー!奇襲はねー、有効な作戦なんだよー?」
「あぁ、なるほど。不意打ちじゃなくて奇襲かぁ.....」
いやいやいやいやいや。
言い方を変えただけで、結局は不意打ちじゃねぇか!
アテナと話していると押しきられてしまいそうだったので、強引に不採用とした。
だって、戦わずに済むという道があるのだから.....。
「これが歩にとって最善なのにー(´;ω;`)」
「.....」
ぐ、ぐぅ!
アテナの気持ちは嬉しいのだが、戦わずに済むという道があるのだから、へ、平和的にいこうじゃないか。
そんな紆余曲折を経て、『フォボスに撤退を促す』という和平交渉にモリオンを出向かせた訳だ。
これで全てが上手くいくはずだった。
このまま終戦へと向かうはずだった。
だから、俺は安心しきっていた。油断しきっていた。
しかし、現実は.....。
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!』
『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!』
目の前で、壮絶な大怪獣バトルが繰り広げられることとなってしまった。
全てはアテナによる扇動行為によって.....。くそっ!油断した!!
そして、冒頭に戻る。
□□□□ ~アテナの想い~ □□□□
───ドカァァアアアン!
───ドカァァアアアン!
戦場に鳴り響く豪快な破壊音。
まるでゴ○ラの映画でも鑑賞しているかのような、その迫力あるワンシーンは筆舌に尽くしがたい。
現在、モリオンとフォボスが交戦中である。
戦況としては、モリオンが圧倒的に優勢だ。俺がモリオンの無事を祈る必要がないほどに.....。
当然だろう。
モリオンはアテナの作戦をものの見事に完遂したのだから。
おまけに、フォボスの翼までもぎ取っているので、むしろ痛々しくさえ見える。
「ほらねー!私の言った通り楽勝でしょー!あーははははは( ´∀` )」
「.....」
「「「「「.....」」」」」
我が功を自慢するアテナ。
この駄女神は俺の、いや、俺だけではない。周囲の冷めた視線に気付いていないのだろうか。
確かにアテナの言う通り、戦況は楽勝なのだが.....。
───ドカァァアアアン!
───ドカァァアアアン!
『小娘がァァアアア!我ら竜族を裏切りおったなァァアアア!!
許さん!許さん!許さん!息子の仇ともども葬り去ってくれるわァァアアア!!』
モリオンの裏切り行為に大激怒しているフォボスが、視界を失いながらも大暴れしてしまっている。
さながら駄々っ子のように暴れまくるので、都市への被害は甚大だ。もともと壊滅的状況ではあったが、更に酷くなっている。
それだけでも唖然となってしまうのに.....。
───ドカァァアアアン!
───ドカァァアアアン!
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
なぜか優勢であるモリオンですらも、フォボスに負けないほど怒り狂っている。もはや人語を話せないほどにまで暴れ狂っている。
当然のことながら、都市への被害は輪をかけて酷くなった。
「あちゃーr(・ω・`;)」
「あちゃーr(・ω・`;)じゃねぇ!
お前はモリオンにどんなアドバイスをしたんだよ!?」
どうやら、この事態はアテナも予想外だったらしい。
「「「「「.....」」」」」
そして困惑しているのは、何もアテナだけではなく、成り行きを見守っている冒険者一同もだ。
モリオンが突如ドラゴンに変身しただけでも驚いていたのに、それでフォボスを倒すのかと思いきや、まさかフォボスと一緒に都市を破壊していくとは露にも思ってはいなかったのだろう。
状況を静観している冒険者一同の視線は実に冷ややかだ。
それに、モリオンのことを応援している者は誰もいない。
むしろ、白い目で見ている者が圧倒的多数だ。
(これはマズいな.....。このままだとモリオンが.....)
もう事態はしっちゃかめっちゃか過ぎて、どう収拾するのか全く見当も付かない様相となってしまった。
怒りが沸いてくる。
この事態を引き起こした張本人に無性に腹が立ってくる。
「.....これか?これがお前のいう最善だとでも言うのか?」
語気を荒げ責めるような口調で、こんな事態を引き起こした張本人に乱暴に言葉を投げつけた。
「そだねー。モーちゃんのは予想外だったけどー、これが最善だねー」
「.....」
しかし、当の本人は至って冷静に返事を返してくる。
少しも悪びれた様子はなく、これこそが最善なのだと信じて疑わない毅然とした態度で.....。
「お、お前は分かっているのか!?
この事態が、どれだけの人々に迷惑をかけているのかを!
例え、勝利したとしても.....。この後、モリオンがどんな目に遭うのかを!」
アテナの毅然とした態度に多少面喰らったものの、俺の怒りは更に増していく。
このくそ駄女神は何を持って、この事態を最善だとほざくのだろうか。誰も幸せになれない最悪の結果だというのに.....。
「私はねー、『歩にとって』最善だってちゃんと言ったよー?」
「これのどこが俺にとっての最善なんだよ!?最悪じゃねぇか!」
「最悪じゃないよー。最善だよー(。´・ω・)?
これで歩はー、あのドラゴンちゃんから命を狙われなくなったでしょー?」
「それはそうだが.....。
だからと言って、モリオンや他の人々に迷惑をかけてもいいことにはならないだろ!」
「んー?どうしてー?」
お、おいおい。
ま、まさか、冗談だろ?
アテナは本気で頭に疑問符をつけている。
俺の言っていることを本当に分からないといった表情をしている。
嫌な汗が頬を伝う。全身に寒気が襲う。
口の中が急激に乾燥していき、喉がカラカラとなっていく。こ、この凄く不快な感じは.....。
「あのねー、私にとっては歩のほうが大事なんだよー(・ω・´*)
その歩の為にしていることの何がダメなのー?いいことじゃないのー?」
「.....」
やはりか.....。
これは神特有の傲慢な思想。
全ては私の言うことが正しいという『神思想』だ。
この神思想の前では、理屈が一切通じないことはアルテミス様の件で既に学んでいる。
だから、理屈が通じないというのなら、アテナを説得する為には情で訴えかけるほか手段はない。
それと言うのも、今後もアテナに頼らざるを得ない場面は多く出てくるだろう。
その時に、(気持ちは嬉しいのだが)毎回神思想を持ち出されたのではたまったものではない。ここはなんとしてでも、アテナを説得する必要がある。
そして、アテナに友好的な手段といえば.....。
「モリオンはどうなる?モリオンは今もきっと苦しんでいるぞ?妹が苦しんでいてもいいのか?」
やはり、かわいがっている妹を出すのが1番だろう。
人々には悪いが、アテナに正義感はないと思う。だから、話題に出すだけ無駄だと判断した。
本当なら、最愛の妹であるドールが最も友好的な手段なのだろうが.....。
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
ただ、今の状態のモリオンならきっと大丈夫だろう。
人語すら忘れ、怒り狂って暴れているモリオンを見ていると悲しくなる。と言うか、見ていられない。
俺でさえこうなのだから、妹をかわいがっているアテナなら、きっと俺と同じ思いを抱くだろう。
「モーちゃんは好きだよー!でもねー、歩はもーっと好きー!」
そう思っていたのだが、アテナからは予想外な答えが返ってきた。
モリオンよりも俺のほうが好きだから、例え、かわいがっている妹が苦しんでいようとも俺を優先するらしい。
「そ、そう?」
「うんー!にへへー(*´∀`*)」
くそっ!かわいいじゃないか!
まぁ、そういう事情があるのなら、みんなが苦しんでもある意味仕方がないよね。
・・・。
(.....って、違ーう!いやいやいや。俺は何を納得しているんだよ!?
時と場所を考えろ!冷静になれ!アテナに惑わされてはいけないだろ!!)
アテナの絞りたて100%の純真無垢な想いが俺の心を惑わす。
さすがはアテナ。腐っても女神ということか。と言うか、こういうのを不意打ちというのだろう。
そして、気になることがあるので、ここは心を鬼にしてでも聞かなければならない。
「ちなみに、ドールだったらどうなる?」
俺を選ぶのか。
最愛の妹を選ぶのか。
非常に気になるところだ。
言葉は悪くなるが、比較対象としてはモリオンでは役者が違ったということだ。
「う、うーんr(・ω・`;)」
「.....」
悩んでる。悩んでる。
やはり、傲慢な神思想に対抗できるのは情に絡めた心理作戦らしい。
とは言え、ちょっと寂しいものもある。
ここで先程のモリオンの時のように、即答で「歩だよー(*´∀`*)」なんて言われた日には、神思想であろうと何十万人が死ぬような作戦であろうと「俺の為ならOK!」と許していたような気がする。
そして、悩んだ末にアテナが出した答えは.....。
「くらべられないよー。
どっちかが苦しむならー、ニケにお願いして歩もコンちゃんも助けてもらーう(´・ω・`)」
「ファ!?」
あれ!?
神は下界のことについては不干渉じゃないのか!?
アテナのあまりにも斜め上な答えにあっけらかんとしてしまった。
俺とドールの為ならば、神界規定とやらの禁則事項を破ってまで、己のわがままを通すらしい。
「とうぜーん!私は縛られない女だからねー!あーははははは( ´∀` )」
「それ、意味が違うだろ.....」
これぞ、究極の神思想というやつか.....。
こんなやつには何を言っても無駄でしかない。
そして、同時に分かったことがある。
俺にはもともと選択肢などはなかったのだと。
アテナに助けを求めた時点で、俺の選択肢は、最善は決まっていたのだと。
そう、俺の最善とは.....。
状況うんぬんの最善などではなく、アテナが俺の為にしてくれることそのものなのだ。
そこには善悪などの因果関係は一切存在せず、ただただアテナが俺を想って考えてくれたものなのである。
だから、都市がめちゃくちゃに破壊されようが、これが俺の最善。
多くの人々が傷付き、呆気にとられるような事態になっても、これが俺の最善。
かわいがっている妹が、自我を忘れるほど怒り狂うようになっても、これが俺の最善。
「そーそー。歩にとってはぜーんぶ最善のことなんだよー( ´∀` )」
「.....」
本気でそう思っているアテナにはもう言葉はいらないだろう。
もはや、説得するうんぬんのレベルの話ではない。
考え方の根本が、脳みその作りそのものが全く違うのだから分かりあえるはずがない。
例えるなら、犬派か猫派か、それを議論するようなものだ。
犬にも猫にも違った魅力があるのだから、どちらがよりいいのかを決めることなど不可能な話だ。
いつまで経っても平行線のまま。
今回はそれと同じようなものだ。アテナを説得することなど不可能に近い。
だから、俺は.....。
───ぽふっ。ぽんぽん
「ありがとな?」
「にへへー(*´∀`*)やっと分かってくれたー?」
考えることを放棄した。
もうなってしまったことはしょうがないと諦めた。
今の俺にできることは、傷付いたモリオンを守ってやることだけだ。
□□□□ ~モリオンの異変~ □□□□
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
勇ましい咆哮をあげるモリオン。
モリオンとフォボスによる壮絶な大怪獣バトルがようやく終わりを迎えた。
ただ、モリオンが終始圧倒的優勢だっただけに、その内容が本当に惜しまれる。
せめて自我を保って暴れ回りさえしなければ、完勝という名の美酒に酔えたのだが.....。
そして、それは危惧した通りの反応として、モリオンに返ってくることになる。
「アユムー!我は勝ったのだー!」
よほど力を使い果たしたのか、それとも思う存分暴れてスッキリしたのか。
フォボスが倒れると同時に自我を取り戻したモリオンは、あっという間に人間の姿に戻って、遥か遠くから嬉しそうに俺達の元へと駆けてくる。
その姿からはまだまだ元気なようにも見えるが、実際は埃まみれの全身ボロボロで、壮絶な戦いだったことが窺える。
そう、本来なら、ここでベルジュを救った英雄であるモリオンに、称賛の声や拍手が雨あられと降り注がれるのであろうが.....。
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
静まり返り、誰1人として、歓声のかの字ですらも声を上げるものがいない。
そればかりか微動だにせず、微妙な眼差しで、遠くからモリオンの様子を窺う者ばかりだ。
当然、その異様な光景にモリオンが気付かない訳がない。
「な、なんなんのだ?.....なんで我をそんな目で見るのだ?」
モリオンが、まるで恐怖に駆られたように震えながら後ずさる。
どうやら先程までの元気で無邪気な姿から、一瞬にして、不安と恐怖に恐れおののく姿に入れ代わってしまったようだ。
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
「な、なんなんのだ?.....こ、恐いのだ。その目は恐いのだ.....」
衆人環視に晒されるモリオン。
冒険者一同に悪意はないと思う。
しかし、それに近い感情の視線を向けられて、モリオンはすっかり錯乱してしまっている。
「あれは.....。少しマズいかもしれぬのぅ.....」
「.....」
急いでモリオンの元へと向かうも、まだ少し距離がある。
とにかく、急いでモリオンを保護しないと大変なことになりそうで怖い。
それと言うのも、まるでモリオンをとりまくように、怪しい煙、黒い煙みたいなのが出ているからだ。.....なんだよ、あれは!?
「.....い、嫌なのだ。.....わ、我は悪い子じゃないのだ。
.....そ、そんな目で我を見ないので欲しいのだ。我をいじめないで欲しいのだ」
モリオンがその場でへたりこんでしまった。
それに気のせいか、モリオンをとりまく黒い煙の密度が少し増したようにも思う。くそっ!これはなんなんだよ!?
この謎の黒い煙は予想外だったが、モリオンがこうなってしまう前兆は確かにあった。
フォボスを倒したのは間違いなくモリオンだ。
それはみんなが見ていたことなので、誰も異論を唱えることはしないだろう。称賛に値する行為だ。
だが、この美しいベルジュを破壊し尽くしていったのは、モリオンと同じ竜族なのである。
更に言うのなら、愛しい人を、親しい友人を殺していったのも、モリオンと同じ竜族なのである。
もっと言うのなら、もはや地形が変わるほど徹底的に景観を破壊し尽くしたのは、愛しい人や親しい友人の遺体を無惨な姿で晒してしまったのは、怒り狂って暴れ回ったモリオンとフォボスの竜族が原因なのである。
つまりモリオンは、ベルジュを救った英雄であると同時に、人々の恨みを買う対象となる竜族でもあるということだ。
だから、いくらベルジュを救った英雄だからと言っても、『竜族であってもモリオンだけは特別』とそう簡単に割り切れるものではないらしい。
冒険者一同もそれが分かっているからこそ、モリオンを微妙な眼差しで遠くから様子を窺うことしかできないという訳だ。
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
「「「「「.....」」」」」
嫌悪や怨恨といった視線が全くないとは言わないが、多くは恐れや恐怖、とまどいが大半を占めている。
こんなこと、冷静になって冒険者一同を見れば誰でも分かりそうなものではある。とは言え、決して気持ちのいいものではないが.....。
「.....い、嫌なのだ。.....わ、我は悪い子じゃないのだ。
.....そ、そんな目で我を見ないので欲しいのだ。我をいじめないで欲しいのだ」
ただ、モリオンはドラゴン状態の時から精神が少し不安定だった。
ともすれば、冒険者一同を冷静に見ることなどできないのだろう。言ってみれば、疑心暗鬼になっているという訳だ。
と、その時───。
「主!トカゲの様子がおかしいのじゃ!!」
「!?」
「.....恐いのだ。.....もう1人ぼっちは嫌なのだ。.....辛いのだ。.....もう1人ぼっちは悲しいのだ。
.....そうなのだ。.....我はちっとも悪くないのだ。.....悪いのは我を誉めてくれない人間なのだ」
モリオンをとりまく黒い煙が、ぶわっと誰の目から見てもハッキリと分かるほどに一気に増え出した。
ここまで増えるとよく分かる。
あの黒い煙からは嫌な空気しか、不快な雰囲気しか感じ取ることができない。もし、あんなものにとりこまれでもしたら.....。
しかし、事態は更に混迷していく。
「.....人間が全部悪いのだ。.....人間が全部悪いのだ。.....人間が全部悪いのだ。
.....人間が全部悪いのだ。.....人間が全部悪いのだ。.....人間が全部悪いのだ」
モリオンが何かに取り憑かれたかのように、ぶつぶつと独り言を言い出した。
よく聞き取れはしないが、きっと良くないことだろう。
モリオンの瞳が昏く澱んでいることからも容易に想像がつく。
そう、それが確認できるところまで、俺達はモリオンの側に寄ることができたのだが、時既に遅し。
モリオンには俺達の呼び掛けなどまるで聞こえてはいないようだ。
「.....我をいじめるやつは敵なのだ。.....我を誉めてくれないやつは敵なのだ。
.....人間は我をいじめるのだ。.....人間は我を誉めてはくれないのだ」
それどころか、モリオンをとりまく黒い煙の勢いがどんどん増していく。
まるでモリオンの負の感情に呼応するかのように、勢力を拡大していく。
そして.....。
「.....人間は悪いやつなのだ。.....悪いやつは我の敵なのだ。.....人間は我の敵なのだ。
.....人間は我の敵なのだ。.....人間は我の敵なのだ。.....人間は我の敵なのだー!!」
モリオンの悲しみに満ちた叫びを皮切りに、溢れ出した黒い煙がモリオンの全身を包み込んでいく。
しばらくして、そこに出来上がったのは、黒蝶の繭みたいな不気味で穏やかならぬものだった。
この嫌なワンシーン。
漫画やアニメなどでよく見るお約束の展開すぎて渇いた笑いしか出てこない。HAHAHA。
「.....アテナ。どういうことか分かるか?」
「うーん。たぶんねー、モーちゃんの種族が原因なんじゃないかなーr(・ω・`;)」
「種族?」
「うんー。モーちゃんねー、今の状況になってからレベルが上がってるよー」
はぁ!?なんで!?
とりあえず、アテナの解説を要約すると以下だ。
①モリオンは黒死竜という珍しい種族の竜族であること。
②今までモリオンのレベルは1だったが、今はレベル2になっていること。と言うか、レベル1だったの!?
③あくまで推測だが、黒い煙の正体は自身や周囲の負の感情であること。(不安や恐怖、怒りや怨恨など)
④そして、これもあくまで推測だが、モリオンはそれを取り込むことでパワーアップできる種族なのではないかということ。(この状況でのレベルアップや今までレベル1であったことから推測)
「つ、つまり.....、どういうことだ?」
「えー?わかんないのー(。´・ω・)?」
いや、なんとなくは分かる。
分かるのだが、本能が理解するのを拒絶している。
だってこれ、そういうことやん.....。
しかし、現実は非情だ。
アテナから残酷な宣告が為される。
「新生モーちゃん(敵)がでてくるねー(`・ω・´) シャキーン!!」
うわぁぁあああ!
やっぱりそうだよなぁぁあああ!
一難去ってまた一難、俺達は再び新たな強敵と戦うこととなった。
□□□□ ~俺がいるから!~ □□□□
モリオンを包む黒い繭が少しずつ少しずつ剥がれ落ちていく。
まもなく黒蝶ならぬ黒死竜が生まれ出る瞬間ということだろう。
まさかのvs.モリオン戦ということで、みんなの気持ちが一気に引き締まる。
戦いの前準備としては上々だろう。すると問題は.....。
「あのフォボスを撃ち破ったモリオンだぞ?.....俺達で勝てるのか?」
「「.....(ごくっ)」」
誰しもが思う疑問をアテナにぶつけてみた。
ドールの、キャベツさんの、息を飲む音が鮮明に聞こえてくる。
普通に考えれば、勝ち目はないだろう。
だから、今回ばかりは卑怯な手だろうとアテナにすがる他ない。
「んー?よゆーだよー。私がいて負けるわけないでしょー( ´∀` )」
「マ、マジか.....」
「な、なんと!?.....さ、さすがは妾の姉じゃな」
「ふぅ.....。いやはや、女神様とはなんとも偉大だね。ますます欲しくなるよ」
キャベツさんはまだ諦めていないのかっ!?
なんとも頼もしいアテナの姿に一気に脱力してしまった。
これから戦いだというのにだ。恐らく、俺が脱力しても勝利は揺るぎないものなような気がする。
ただ1つだけ、どうしても確認しなければならないことがある。
「勝てるのは分かった。だけど、内容が問題だ。
モリオンは大丈夫なんだよな?助かるんだよな?
モリオンが俺達の元へと戻ってきて、初めて勝利と言えるんだぞ?」
ただ勝てばいいフォボスの時とは条件が違う。
どんな汚い手でも使う覚悟はあるが、それは全てモリオンを取り戻す為だ。モリオンの死亡という結末だけは絶対に防がなければならない。
「とうぜーん!私にまっかせなさーい(`・ω・´) シャキーン!!」
「ありがとう。恩に着る。後はお前の指示に全て従うよ」
「トカゲは大切な妹だからの。姉として、助けるのは当たり前のことなのじゃ」
「苦しんでいる女性は見過ごせないからね。正統勇者の名にかけてドラゴンのお嬢さんを救ってみせよう」
その後、アテナを中心にして作戦会議が開かれた。
作戦そのものは至ってシンプル。難しいことはなく、まともなものだった。
しばらくすると.....。
───パリンッ!
まるでガラスが割れた音のように、耳をつく激しい音が戦場に鳴り響いた。
そして、砕け散った黒い繭から姿を見せる1人の少女。
「のだあああああ!」
マジでアテナの言う通りかよっ!?
モリオンの「のだー!」とかわいく万歳している雄叫びを見て、思わずズッコケそうになってしまった。
俺としてはアテナの言うことに半信半疑だった為、モリオンがどんな凶悪な姿を現すのかとドキドキしていたのだが、見た目はなんら変わっていない。かわいい少女のままだった。
強いて変わった点をあげるなら.....。あるか?
いや、本当にないのかもしれない。あそこまで大袈裟な演出をした意味とは?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いいー?モーちゃんはなんにも変わらないよー(・ω・´*)」
「変わらない?どういうことだ?」
「ドラゴンになれないのー。力を使い果たしちゃってるからねー」
「まさか。あそこまで大掛かりな演出をやっておいてそれはないだろう」
「ほんとーだよー。私いったよねー?歩にとって最善の作戦だってー」
「ま、まさか.....。これを見越した作戦だったというのか!?」
「とうぜーん!私は智慧の女神だからねー(`・ω・´) シャキーン!!」
「さ、さすがはアテナ.....。なーんて思う訳ないだろ。アホか、くそ駄女神が!!」
「ふええええん(´;ω;`)」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後でアテナにちゃんと謝っておこう。
まさかアテナの言う通り、本当にモリオンが人間ver.で姿を現すとは思ってもいなかった。
そうなると、他の言葉も信憑性が増してくる。
「なるほど。確かに姉さまの言うた通りじゃな。それならば、姉さまを信じねばなるまい。
主!勇者様!今から支援を施すのじゃ!.....妾の大切で愚かな妹のこと、よろしく頼むのじゃ!!」
ドールの合図とともに、体全体に力がみなぎってくる。
モリオンとフォボスが戦っている間に、体を十分に休ませることができた結果だろう。
「任された!ありがとう、ドール!」
「これは.....。素晴らしい魔法だね。
はっはははは!力がみなぎってくる!今の僕は無敵さ!どんな攻撃も防いでみせよう!!」
意気揚がるキャベツさんが、その場で盾を構える。
これで防御態勢はバッチリだ。
後はキャベツさんに任せて、俺は俺の務めを果たすとしよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「モーちゃんはねー、人間でもつよいよー。でもー、勝てない相手じゃないのー」
「それは人間ver.だったらって話だろ?ドラゴンだったら.....」
「なれないからいいのーヽ(`Д´#)ノ」
「分かった、分かった。話を進めてどうぞ」
「人間のモーちゃんならー、歩でも勝てるよー。支援付きだけどねー」
「ふーん。なら、ドール頼めるか?」
「任せよ。30分で、見事あのバカトカゲを取り戻してくるがよい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
「人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ」
「おい!モリオン!聞こえるか!?俺だ!俺のことが分かるか!?」
「人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ」
「.....ちっ!これもアテナの言った通りか.....」
既にモリオンによる激しい猛攻が繰り広げられている。
しかし、その全ての攻撃を、鉄壁の勇者キャベツさんが完全に防いでいてくれている。
「女神様の言う通り、普通の説得は困難らしいね」
「そうみたいですね。お手数かけます」
「いやいや。これしきなんてことはないよ。むしろ、あまりにも余裕過ぎて寝ちゃいそうなぐらいさ」
「ほ、本当に寝ないでくださいね?」
高笑いしているキャベツさんにどこか不安を抱いてしまった。
未明からずっと激戦続きだっただけに、本当に疲労からくる睡眠でパッタリなんてことも.....。
「それで?いつ行くかは決めたのかい?」
「はい。次の猛攻が途切れた瞬間を狙います。協力してください」
「分かった。君は何も心配することなく、全力でいきたまえ」
モリオンもずっと攻撃できる訳ではない。
ひとしきり攻撃をすると、ほんの少しだけインターバルを取るようだ。狙うならその時だろう。
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
───ガキィィイイイン!
【『perfect!』キャベツさんが完全防御に成功しました】
モリオンのブレスや尻尾攻撃が襲ってくるも、キャベツさんの盾を貫くことはできず。
強化されている30分の間は、モリオンではキャベツさんに傷1つ付けることはできないだろう。この絶対的な安心感は癖になるものがある。
「はっはははは!ぬるい!ぬるいね!
そんな攻撃じゃあ、一生僕を抜くことはできないよ!」
「人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ。人間は我の敵なのだ」
「そうさ!僕は君の敵さ!
だったら、いつまでこんなぬるい攻撃を続けるつもりだい?さっさと本気を見せて欲しいものだね」
「人間は我の敵なのだ!!人間は我の敵なのだ!!人間は我の敵なのだ!!」
おぉ。簡単に煽られとる。
モリオンの無駄な攻撃が一層激しさを増す。
いくら闇落ちしたとはいえ、実はモリオンの根本自体はあまり変わらないのかもしれない。
つまり、モリオンはどこまでいってもおバカさんのままだということだ。
そんなモリオンにほっこりしていると.....。
「さぁ、いまだ!竜殺し君!
後は僕に任せて、君は君のできることをやりたまえ!!」
「ありがとうございます!」
モリオンがインターバルに入ったようだ。
俺は、キャベツさんの合図とともに、モリオンの元へと猛然と駆け出す。
モリオンを取り戻す為に.....。
モリオンと再び旅に出る為に.....。
モリオンを姉達の元へと返してあげる為に.....。
「うぉぉぉおおおおお!」
「人間は我の敵なのだ!!!人間は我の敵なのだ!!!人間は我の敵なのだ!!!」
近付く俺に、とても不快そうな声を上げるモリオン。
それだけでも悲しいというのに、モリオンの表情はずっと死んだままだ。
いつも頬っぺたに食べかすを付けて、にこにことしているあのかわいい笑顔は、今は昏く澱んでいて見るに堪えない。
だから、取り戻すんだ。
あのかわいらしい笑顔を。
いつも元気いっぱいなモリオンを。
「.....おっと。竜殺し君に手出しはさせないよ。『Ridicule』!」
「人間は我の敵なのだ!!!人間は我の敵なのだ!!!人間は我の敵なのだ!!!」
モリオンの殺意の籠った攻撃が、全てキャベツさんに流れていく。
いま、俺とモリオンの間に立ちはだかる壁は何もない。
ここだ!
「うぉぉぉおおおおお!この一撃に全てをかける!」
俺の渾身の一撃が、無防備な姿を晒しているモリオンを今まさに捉えようとしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それで?モリオンを取り戻すにはどうしたらいいんだ?」
「簡単だよー!モーちゃんはねー、いま正気をうしなってるだけなんだよー( ´∀` )」
「正気を失っているだけか.....」
「うんー!だからー、正気に戻せばいいだけだよー!」
「どうやって戻せばいいんだ?」
「そんなのー、昔から変わらないじゃなーい!バンバンバンだよー、バンバンバンー(o゜ω゜o)」
「えぇ.....。さすがに幼児虐待にならないか?」
「なるわけないでしょー!ここは日本じゃないのーヽ(`Д´#)ノ」
「いや、それでも.....」
「しかたないなー。じゃー、こんなのはどうー(。´・ω・)?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ありがとう、アテナ。
お前は最高の相棒だよ!!
「これでも喰らえ!モリオォォオオオン!!」
「人間は我の敵なのだ!!!人間は我の敵なのだ!!!人間は我の.....んむぅ!?」
俺の渾身の一撃が見事モリオンを捉えることに成功した。
アテナ考案の一撃だ。破壊力は抜群だろう。
「もっとだ!もっと喰らえ!!」
「.....うぅ!?.....んむぅ!?.....ぐぅ!?」
モリオンからの攻撃がピタッと止んだ。
俺の北斗百〇拳並みの連打に、さすがのモリオンも驚き慌てているようだ。
「どうした!こんなものか!?俺はまだまだやれるぞ!」
「.....ちょっ!?.....んむぅ!?.....ま、まつ!?.....ぐぅ!?」
何か聞こえたような気もしたが、俺は手を止めることなく、ひたすら渾身の一撃を放ち続ける。
モリオンが正気に戻るまでひたすらだ。
「まだか!?まだなのか!?.....くっ!仕方がない!ならば、もっと速度を上げてやる!!」
「!!!.....や、やめ!?.....ゲホッ!?.....ア、アユ!?.....んむぅ!?」
ここまでしても正気に戻らない.....だと!?
どれだけモリオンが傷付いたのか、その胸中は計り知れない。モリオンのことを思うと胸が張り裂けそうだ。
そんな悲劇のヒロイン気取りに浸っていたら.....。
「お、おい。竜殺し君?
そのドラゴンのお嬢さんは、もう正気に戻っているんじゃないのかい?」
「な、なんだってぇぇえええ!?」
キャベツさんより、衝撃の事実を伝えられた。
モリオンを見てみると、涙ぐんでいるものの、確かに瞳には色が戻り、表情には生気さえ窺える。
「ほ、本当に正気に戻ったのか!?俺のことが分かるか!?」
「はむはむはむだ!」
「食べながら話すなって何度も言っているだろ?」
「.....(ごくんっ).....分かったのだ!」
全然分かっていないだろ、全く.....。
しかし、いつものモリオンに戻っていることは確かだ。
さすがアテナ考案の活劇パンチ。対モリオン戦においては最強のパンチだと言えるだろう。
「アユムは詰め込みすぎなのだ!もう少しで喉に詰まるところだったのだ!」
「いやいや。あれほどたくさんのお菓子を口に詰め込んだのに、詰まっていないことのほうが凄いよ」
「でも、あんなにお菓子を食べても良かったのだ?我は怒られないのだ?」
「いいんだよ。モリオンを正気に戻す為にやったことなんだからさ」
「.....?正気?なんのことなのだ?」
どうやらこれもお約束展開らしく、闇落ちしていたことは覚えていないらしい。
ただ、闇落ちする前のことは覚えているようで.....。
「ほ、本当に怒られないのだ?我は悪い子にならないのだ?」
モリオンはすっかりと怯えきってしまっている。
怒られることや悪い子になることに対して、とても敏感になってしまっている。
「アユム?我は頑張ったのだ。いっぱい頑張ったのだ。.....でも、誰も誉めてくれないのだ。
それに、みんな我を恐い目で見るのだ。なんでなのだ?なんでみんなは我をいじめるのだ?」
更には、人間に対してマイナスのイメージさえ持ちつつあるように思える。
今回はなんとか解決できたものの、このままではいつか再び闇落ちしてしまうだろう。
だから、俺はモリオンとお勉強を始めることにした。
「ちょっと難しいお勉強をしようか、モリオン」
「難しいのだ?」
「そうだ。難しいお勉強だ。でも、大人になる為には必要なお勉強だ」
「大人.....なのだ?」
そこで俺が語ったのは現実の厳しさについてだ。
努力をしたからと言っても、必ず報われるとは限らないこと。
頑張ったからと言っても、必ず誉めてもらえるとは限らないこと、などだ。
「誉めてくれないなら、頑張る意味がないのだ。誉めてくれないなら、頑張りたくないのだ」
「モリオン、それは違うぞ」
「どういうことなのだ?」
「その時は誉めてもらえなくとも、いつかは誉めてもらえる日がくることもある」
「.....?」
モリオンが言葉だけでは理解できないのは想定済みだ。
ここは食べ物で例えてあげるほうが理解してもらいやすい。
「モリオン、覚えているか?モリオンが頑張った翌日はお菓子の量はどうなってた?」
「増えてたのだ!」
「そうだな。じゃあ、悪いことをした翌日はどうだった?」
「減ってたのだ.....」
モリオンが一喜一憂している姿は本当に癒される。
そして、お勉強を必死に頑張っている姿には感動すら覚える。アテナはモリオンを少し見習えっ!
「つまり、そういうことなんだよ。
モリオンが頑張っても、その時には誉めてもらえないかもしれない。
でも、もしかしたら、次の日に誉めてもらえるかもしれないということだ」
「じゃー、明日、我は誉めてもらえるのだ?」
「そうとは限らない。明後日かもしれないし、ずっと先かもしれない」
「いつ誉めてもらえるか分からないのだ?」
「そうだな」
ぷくーっと頬を膨らませて拗ねるモリオン。
明らかにご不満な様子だ。気持ちは分からなくもない。現実とは理不尽の塊だしな。
「我は誉めて欲しいのだ!頑張ったら、すぐに誉めて欲しいのだ!」
困った。
幸せの貯金という概念を教えるつもりだったのだが、モリオンは宵越しの金は持たぬ派だったらしい。
「我が頑張っても誉めてくれないなら、人間なんて嫌いなのだ!!」
「そうか.....。なんか悲しいな」
「なんでアユムが悲しくなるのだ?」
「俺は人間だぞ?モリオンに嫌われちゃったら悲しくもなるだろ」
「ア、アユムは特別なのだ!我はアユム以外の人間が嫌いなのだ!」
人間がモリオンに行った仕打ちを考えたら、モリオンが人間を嫌いになってしまうのは仕方がないのかもしれない。とは言え、こればっかりは人間だけを責める訳にはいかない。人間には人間の事情もあったことだし。
いい落としどころはないものだろうか.....。
「モリオン.....。人間を好きになれとは言わないが、嫌いにはならないでくれ」
「どうしてなのだ?人間は誰も誉めてくれないのだ。それに、我をいじめてくるのだ」
「そうは言っても、俺も人間だしな。
いくらモリオンに俺は特別だと言われても、人間が嫌いだと言われたらいい気はしない」
「.....」
モリオンが俯くも、納得しているとは思えない。
この様子では人間を好きになることなど到底不可能だろう。とすれば、せめて嫌いにならないところで妥協したいものだ。
「モリオン。人間ってどうしようもない程、弱くて自己中心的な生き物なんだよ。
モリオンがいなければ全滅やむなしだったというのに、同じ竜族だからと嫌悪したり。
もしかしたら、モリオンがまた暴れ出すんじゃないかと勝手に不安になっていたりするんだ」
「.....我が竜族だからいけないのだ?」
モリオンは関係ないことだが、実際はそうだったりする。
竜族というキーワードが全ての元凶になってしまっていると思う。
「1番頑張ったのはモリオンだ。みんな分かっている。
でも、都市をめちゃくちゃにしたのは竜族だ。それをみんな一緒にしちゃってるんだ」
「我は関係ないのだ!他の竜族が悪いのだ!我はいい子なのだ!」
「その通りだ。.....でも、人間は弱いからな。みんな竜族を恐がっているんだ」
「じゃー、人間は誰も我を誉めてはくれないのだ?いい子になっても誉めてはくれないのだ?」
モリオンから悲しい眼差しを向けられる。
その眼差しで心を抉られそうになるも、俺の言うべきことは決まっている。
「本当に誰もいなかったか?本当に誰も誉めてはくれなかったか?」
「.....?我は誰にも誉めてもらってないのだ」
「本当にそうか?誉めてくれる人なら、モリオンの目の前にいないか?俺だって人間なんだぞ?」
「!!!」
モリオンの表情が一気に晴れやかなものとなる。
モリオンの言う「人間は誰も誉めてくれない」という言葉がずっと気になっていた。
俺を人間と認識しているものの、なぜかその人間の括りに入っていなかったことにずっと疑問を抱いていた。俺はモリオンにとって、それほど特別な存在だということなのだろうか。.....ちょっと照れる。
「ありがとう、モリオン。助かったよ。モリオンは命の恩人だ」
───ぽふっ。ぽんぽん
「や、やっと.....、やっと誉めてもらえたのだ!」
「遅くなってすまん。本当にありがとな」
頭をぽんぽんされたモリオンは、なのだー!とかわいく万歳して嬉しそうに微笑んだ。
その顔は涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになっていたが、とてもかわいい笑顔だと思う。
「モリオン。もう1度言うな?
人間を好きになれとは言わない。でも、嫌いにはならないでくれ」
「アユムも人間だからなのだ?」
「そうだ。俺も人間だからだ」
「.....アユムがそう言うなら、分かったのだ」
落としどころとしてはこんなものだろう。
後はモリオンを不安にさせないようにフォローを入れるのみ。
「それと、もし人間の誰もが誉めてくれないと言うのなら、代わりに俺がたくさん誉めてやる。
モリオンがびっくりするぐらいたくさん誉めてやるぞ?」
「アユムが代わりに誉めてくれるのだ!?」
「あぁ、そうだ。.....それとも、モリオンは俺だけじゃ不満か?」
「全然不満じゃないのだ!ずーっとアユムに誉めてもらいたいのだ!」
「ずっと!?」
「ずーっとなのだ!」
不安にさせないどころか、むしろ最大級のご褒美をあげることになってしまったようだ。
しかし、それでも、(自称)教育親としては、娘から「ずっと一緒」だと言われて悪い気はしない。
───ぐ~るきゅるるるるる~
「お腹減ったのだ.....」
「そうだな。戻って飯にでもするか!」
「なのだ!」
・・・。
怒られることを、1人ぼっちになることを誰よりも恐れる竜族の少女。
まだまだ無知なことが多いけれど、それでも、周りに愛されていつもにこにこしている姿は愛嬌があってとてもいい。
「アユム!これからもずーっと我を誉めてもらいたいのだ!」
こうして、竜族との長い長い戦いの1日が無事終わりを告げることになった。
俺とモリオンのお勉強はこれからもずっと続いていく。
いつの日か、おバカなモリオンが1人立ちできるようになるまで、素敵なレディーになるまで、(自称)教育親としてしっかりと見守っていきたいと思う。
第四部 完
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
これにて、『5.5章』が終了となります。
この後は定番の『キャラクター紹介』と『キャラクターステータス』を掲載して、『6章』に突入することになります。
『キャラクター紹介』と『キャラクターステータス』においては、本編では紹介できなかったことも記載してありますので、ご興味をお持ちの方はぜひ読んで頂ければと思います。
これからも『歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~』をよろしくお願いいたします。
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