160 / 349
第5章 最愛の女神!
第132歩目 ありのままのあなたを!女神ニケ⑤
しおりを挟む
前回までのあらすじ
最愛の女神ニケさんとついに恋人となった!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1/5 前話の次回告知を訂正しました。
本編『ニケの愛情弁当』! → 本編『ありのままを』!に変更。
大変申し訳ありません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ニケさんにどうしても隣を歩いて欲しい俺は順を追って仲良くなることを提案した。
その提案の手始めというのが.....。
「ニケさん。あなたが好きです」
告白することだった。
神界では恥ずかしさのあまり口にすることのできなかったこの想いも、俺とニケさんの間での認識の違いやニケさんと対等でのお付き合いをしたいという物理的な欲求が、俺に決断をさせ、そして恥ずかしさを上回ることとなった。
その結果.....。
「こんな俺ですが付き合って頂けますか?」
「はい!喜んで!」
ニケさんの美しい笑顔とともに添えられたラプソディー。
こうして、俺の年齢=彼女なしの26年間の人生にようやく終止符が打たれ、初めての春を迎えることになった。
(いいいいいよしゃあああああ!)
□□□□ ~隣を歩いて!~ □□□□
さて、ニケさんと念願の恋人になれた今ならきっと隣を歩いてくれるだろう。
早速、にまにまと口元が緩んで嬉しさを全開に表現しているニケさんにお願いをしてみる。
「隣を、ですか?」
「はい。お願いします」
「それは構いませんが.....。どうしてそこまでこだわられるのでしょうか?
歩様を立てることにデメリットなど無いように思われますが.....」
どうやら隣を歩いてはくれそうだが、納得はしていないようだ。
ニケさんの顔には『納得できるそれなりの説明をして欲しい』とハッキリと書かれている。
やはり問題は、雑誌の存在ということだろう。
下界の文化を学ぶという意味では、雑誌を参考にすること自体はとてもいいことだ。
ただ如何せん、ニケさんは規則バカであり、マニュアルバカでもある。
ゆえに、雑誌に書いてあることを忠実に守ってこようとしてくる。
別に、それ自体も悪いこととは思わない。
しかし、ニケさんの場合はなんと言うか、融通が利かない。応用が利かない。
だから、よほどのことがない限りは己の考えを改めようとはしないだろう。
特に参考にしているものが、ニケさんの共感を得られた場合などは説得など困難極まる。
だからこそ、それを少しでも打開すべくステップアップしていこうと提案した訳だ。
「不遜なのかもしれないですが、俺はニケさんと対等に付き合いたいと思って告白しました」
「はい。私も歩様と等しくお付き合いしたいと考えております」
「ありがとうございます。.....でも、だからこそ俺の隣を歩いて欲しいとも思っています」
「.....どういうことでしょう?」
訳がわからないといった表情をしているニケさんを手招きして隣に侍ってもらう。
この状況こそ、俺が待ち望んだものだ。
とは言え、欲を言えば、俺を引っ張っていってくれるぐらいが本当は望ましいのだが.....。
さすがにこれ以上は贅沢というものなので話を進める。
「ニケさんにはこれを感じてもらいたかったんです」
「これ.....とは?」
別に何かをしている訳ではない。
ニケさんとただ前方を見ているだけだ。
同じ位置で、同じ風を受けているだけだ。
「俺と同じ目線で、同じものを見て、同じことを感じてもらいたいな、と。
ニケさんが俺を立ててくれる、その気持ちはとても嬉しいです。
ですが、それよりもニケさんと同じ思いを共有できることのほうがもっと嬉しいです」
「歩様.....」
ニケさんの『三歩下がって』の行動は、俺の為にしてくれていることなので、きっちりとフォローをしておく。
無駄な行動、迷惑な行動だったなんて勘違いさせてしまったら、それこそニケさんに申し訳ない。
「それに.....」
「まだあるんですか?」
「このほうが見映え的にも対等に見える気がしませんか?」
「なるほど。確かに歩様の仰る通りですね」
なるべくおどけた拍子で言うように努めた。
理由は上記と一緒だ。.....そ、そういうことにしておいて欲しい。
ぶっちゃけ、説得の内容が個人的にクサすぎたので、さっさと忘却の彼方に流してしまいたいという気持ちが無きにしもあらずだが.....。
「では、隣を歩いて頂けますね?」
「もちろんです!」
こうして、ようやく俺の隣を歩いてもらえることとなった。
なんてことない問題なのに、まさかこんなことで苦労するとは露にも思わなかったが.....。
□□□□ ~本当の願い~ □□□□
さて、当初の目的を果たすことができたので、ここからが本題だ。
そもそも、ニケさんに隣を歩いてもらうことが本当の願いではない。
俺がニケさんに告白してまで叶えたかった願いというものは別にある。それは.....。
「次はニケさんがどうぞ」
「次と言いますと?」
俺の唐突な言葉に首を傾げるニケさん。
確かにこれだけでは何のことかわからないだろう。
「対等なお付き合いなんですから、俺がわがままを言った以上、次はニケさんがわがままを言う番です」
「わがまま.....ですか」
「ニケさんのやりたい事、やって欲しい事を遠慮なく言ってください。可能な限り叶えようと思います」
「私のやりたい事.....」
ニケさんはチラチラッと俺の様子を窺いながらもどこか遠慮がちだ。
何かしらの要望は恐らくあるのだろうが、規則バカ、マニュアルバカゆえに言い出し辛いのだろう。
『もっと気軽に接して欲しい』
俺の本当の願いの1つ目はこれだ。
先程の隣を歩く件もそうだし、神界でのやりとりでもそうだったが、どこか態度が固い。
他人行儀と言う程ではないが、それに近い感じの印象を受ける。
なぜ、そう感じるのかと言うと.....。
俺も普段はそうだからだ。
だから、同類のことはよくわかる。
なら「お前が言うな!」とツッコまれそうだが、俺はいま可能な限りフレンドリーになろうと努めているので、そこは勘弁してもらいたい。
・・・。
話が逸れたが、戸惑っているニケさんのこの後の行動は、恐らくだが誰でもわかることだろう。
規則バカ、マニュアルバカなニケさんが困った場合、頼りにするものといったらあれしかない。
「ちょっ、ちょっとお待ちください。今、確認しますので.....」
「.....」
ニケさんはそう言うと、多分アイテムボックスだと思われる異次元から一つの雑誌を取り出した。
もはや想定内すぎて笑うどころか、アテナの言うところの(´・ω・`)←こんな顔になってしまった。
ニケさんにとっての雑誌とは、もはや参考書というレベルを軽く越えて、バイブルになりつつあるんだと思う。
つまり、デートにおいては雑誌に記載されていることが行動基準になるのだろう。
(.....おかしいだろっ!)
これではいつまで経っても、ありのままのニケさんとはデートができない。
まるで雑誌と付き合っているようで味気ないし、一向に二人の仲が深まることもない。
だから.....。
「雑誌は没収します!」
「あっ.....」
ニケさんから雑誌を素早く回収する。
すると、ニケさんがまるで「この世の終わりだ」とでも謂わんばかりの表情で不安そうに見つめてきた。
(そ、そんな絶望した表情をしないでくださいっ!胸が痛みます!!)
・・・。
回収した雑誌を俺のアイテムボックスにしまいつつ、俺の真意を伝える。
「ニケさん。雑誌を参考にするな!とは言いません。
むしろ、ニケさんのその向上心を好ましく思います」
「だ、だったら.....」
「ですが!」
「!?」
「ほら!雑誌は何も間違ってはいないじゃないですか!」みたいな表情をしていたニケさんを強く牽制する。
確かに雑誌は間違ってはいないだろう。
だが、正解こそが正しいとは限らない。
「別に俺は完璧なニケさんを求めている訳ではありません。失敗してもいいんです」
「.....」
「雑誌などには頼らず、ありのままのニケさんを見せてください」
「ありのままの私.....。し、しかし、それでは幻滅されてしまうかもしれませんよ?」
幻滅なんてしない!とは決して言わない。
そんな無責任かつ不誠実な言葉を気安く使いたくはない。ニケさんとは本当の恋だからこそ!
.....とは言え、嫌いになんてならないけどなっ!
「そういう一面も、また好きになれたら嬉しいです」
「!?」
ニケさんの美しい顔が驚きの色で覆い尽くされる。
そんなことを言われるとは微塵も思っていなかったと謂わんばかりに。
これまでのニケさんは常に完璧な仕事をこなしてきたに違いない。
そもそも完璧を求められていたかもしれないし、そうならざるを得ない環境だったのかもしれない。
そして、いつしかそれが当たり前となり、またニケさんもそう思うようになってしまったのかもしれない。
それがつまるところ、規則バカ、マニュアルバカに繋がってしまったのではないだろうか。
勝手な憶測だが.....。
ただ、それもニケさんの魅力の一つだと言われれば確かにそうだ。
デキるお姉さんの雰囲気を放つニケさんはカッコいいし、何よりも頼りたくなる。
だが.....。
(俺はありのままのニケさんを見てみたい!ありのままのニケさんと触れあいたい!!)
という訳で、不安そうにしているニケさんには悪いが、雑誌抜きでデートをしてもらおうと思う。
「不安ですか?」
「と、とても.....。歩様にご迷惑をかけないでしょうか?嫌われたりしないでしょうか?」
小動物のようにおろおろしているその姿は、女神として泰然としていた姿とは異なり、一人の女の子なんだなと感じさせるものがある。
ただ、このままではデートどころではない。
少なくとも、平常心を保つぐらいになってもらわないと俺が初デートのプレッシャーに押し潰されてしまう。
だから.....。
「では、こうしましょう」
「.....?」
「既に完璧なニケさんは好きになりました。
だから、次はありのままのニケさんを好きになってみたいです」
「!」
ニケさんの表情が一気に晴れ渡る。
さすがはニケさん。
俺の言いたいことを瞬時に理解してくれたようだ。
どういう事かと言うと、要はニケさんに保険をかけたのだ。
ニケさんは俺に嫌われることをひたすら恐れている。
だから、俺が嫌いにならない根拠を示して安心させてあげたという訳だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
図式としては以下となる。
完璧なニケさん → 好き
ありのままのニケさん → 好き
ニケさんの総評 → 好き
これが理想の形だが、仮にありのままのニケさんがダメとなっても.....。
完璧なニケさん → 好き
ありのままのニケさん → ダメ
ニケさんの総評 → 好き
「既に完璧なニケさんを好きになっているので、ありのままのニケさんが仮にダメでも嫌いになることはありませんよ」と暗に伝えたことになる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
よほど安心したのか、ニケさんの表情が柔らかい。
これはとてもいい傾向だろう。俺のプレッシャーも、少しだが和らいだような気がする。
なんやかんやあったが、ここにきて、ようやく初デートのスタート地点に立つことができた。
そして、俺の2つ目の願いも叶うこととなった。
『女神としてのニケさんではなく、ありのままのニケさんを見せて欲しい』という切なる願いが.....。
「では、ニケさんのわがままを聞かせてください」
「こ、恋人らしい事でもよろしいのでしょうか?」
「えぇ。俺に出来ることなら」
「でしたら.....」
ありのままのわがままを綴ったニケさんは嬉しそうに、でもどこか恥ずかしそうに頬を赤く染め、少女のようなあどけない笑顔ではにかんだ。美しい。
ちなみに、
「これでお願いしますっ!」
「ぶふぅぅぅぅぅううううう!?」
ニケさんのわがままは、初デートにしてはあまりにもハードルが高過ぎたので叶うことはなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
次回、 本編『ニケの愛情弁当』!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日のひとこま
~ありのままのあなたに~ side -ニケ-
「はぁ~~~~~」
「ど、どうされたんですか!?」
突如、歩様が吐かれた深い溜め息に驚いてしまいました。
いや、驚いた理由は溜め息だけではありません。
「ど、どこかお加減でも悪いんですか!?」
「落ち着いてください。体に異常はありませんから」
「そ、それならいいのですが.....」
「ご心配をかけてすみません」
病気ではないようなのでホッと一安心です。
ただ、歩様が端から見たら病気を疑われてもおかしくないレベルでぶるぶると震えておられるのは気になります。
「でしたら、なぜそんなに震えられているんですか?」
「理解してもらえるかは自信ありませんが.....、極度の緊張から解放された為ですかね」
「はぁ?緊張ですか?」
「緊張です」
「歩様がそこまでになられるなんて.....。何に緊張されておられたんですか?」
「つい今しがたのニケさんとのやりとりですよ」
「え!?私が原因ですか!?」
「それは違います!断じて違います!」
慌てふためいて否定されるところがとても怪しいです。
ですが、歩様の優しさに免じてわからない振りをしましょう。
「ニケさんに偉そうに語ってはいましたが、実は心臓バクバクものでした。
俺だってニケさんに偉そうに言える経験も何もないですからね」
「で、ですが.....。歩様が緊張していたなんて微塵も感じませんでしたよ?」
「火事場のバカ力ともでも言うんでしょうか?
よくわからないんですが、これだけはハッキリと言えます」
「なんでしょう?」
歩様が照れ臭そうに頬を掻いています。かわいい。
これはきっと期待できるお言葉をもらえるに違いありません!
私の脳内メモリーにて録音を開始します!
「あの時の俺はただひたすらニケさんのことを考えていました。
だから、ニケさんが俺に勇気をくれたんだと思います。ありがとうございます」
「!!!」
「.....って、ちょっとクサかったですかね?」
「そ、そんなことはありません!嬉しいです!」
お優しい歩様。
私はありのままのあなたに恋をしてとても幸せです!
最愛の女神ニケさんとついに恋人となった!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1/5 前話の次回告知を訂正しました。
本編『ニケの愛情弁当』! → 本編『ありのままを』!に変更。
大変申し訳ありません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ニケさんにどうしても隣を歩いて欲しい俺は順を追って仲良くなることを提案した。
その提案の手始めというのが.....。
「ニケさん。あなたが好きです」
告白することだった。
神界では恥ずかしさのあまり口にすることのできなかったこの想いも、俺とニケさんの間での認識の違いやニケさんと対等でのお付き合いをしたいという物理的な欲求が、俺に決断をさせ、そして恥ずかしさを上回ることとなった。
その結果.....。
「こんな俺ですが付き合って頂けますか?」
「はい!喜んで!」
ニケさんの美しい笑顔とともに添えられたラプソディー。
こうして、俺の年齢=彼女なしの26年間の人生にようやく終止符が打たれ、初めての春を迎えることになった。
(いいいいいよしゃあああああ!)
□□□□ ~隣を歩いて!~ □□□□
さて、ニケさんと念願の恋人になれた今ならきっと隣を歩いてくれるだろう。
早速、にまにまと口元が緩んで嬉しさを全開に表現しているニケさんにお願いをしてみる。
「隣を、ですか?」
「はい。お願いします」
「それは構いませんが.....。どうしてそこまでこだわられるのでしょうか?
歩様を立てることにデメリットなど無いように思われますが.....」
どうやら隣を歩いてはくれそうだが、納得はしていないようだ。
ニケさんの顔には『納得できるそれなりの説明をして欲しい』とハッキリと書かれている。
やはり問題は、雑誌の存在ということだろう。
下界の文化を学ぶという意味では、雑誌を参考にすること自体はとてもいいことだ。
ただ如何せん、ニケさんは規則バカであり、マニュアルバカでもある。
ゆえに、雑誌に書いてあることを忠実に守ってこようとしてくる。
別に、それ自体も悪いこととは思わない。
しかし、ニケさんの場合はなんと言うか、融通が利かない。応用が利かない。
だから、よほどのことがない限りは己の考えを改めようとはしないだろう。
特に参考にしているものが、ニケさんの共感を得られた場合などは説得など困難極まる。
だからこそ、それを少しでも打開すべくステップアップしていこうと提案した訳だ。
「不遜なのかもしれないですが、俺はニケさんと対等に付き合いたいと思って告白しました」
「はい。私も歩様と等しくお付き合いしたいと考えております」
「ありがとうございます。.....でも、だからこそ俺の隣を歩いて欲しいとも思っています」
「.....どういうことでしょう?」
訳がわからないといった表情をしているニケさんを手招きして隣に侍ってもらう。
この状況こそ、俺が待ち望んだものだ。
とは言え、欲を言えば、俺を引っ張っていってくれるぐらいが本当は望ましいのだが.....。
さすがにこれ以上は贅沢というものなので話を進める。
「ニケさんにはこれを感じてもらいたかったんです」
「これ.....とは?」
別に何かをしている訳ではない。
ニケさんとただ前方を見ているだけだ。
同じ位置で、同じ風を受けているだけだ。
「俺と同じ目線で、同じものを見て、同じことを感じてもらいたいな、と。
ニケさんが俺を立ててくれる、その気持ちはとても嬉しいです。
ですが、それよりもニケさんと同じ思いを共有できることのほうがもっと嬉しいです」
「歩様.....」
ニケさんの『三歩下がって』の行動は、俺の為にしてくれていることなので、きっちりとフォローをしておく。
無駄な行動、迷惑な行動だったなんて勘違いさせてしまったら、それこそニケさんに申し訳ない。
「それに.....」
「まだあるんですか?」
「このほうが見映え的にも対等に見える気がしませんか?」
「なるほど。確かに歩様の仰る通りですね」
なるべくおどけた拍子で言うように努めた。
理由は上記と一緒だ。.....そ、そういうことにしておいて欲しい。
ぶっちゃけ、説得の内容が個人的にクサすぎたので、さっさと忘却の彼方に流してしまいたいという気持ちが無きにしもあらずだが.....。
「では、隣を歩いて頂けますね?」
「もちろんです!」
こうして、ようやく俺の隣を歩いてもらえることとなった。
なんてことない問題なのに、まさかこんなことで苦労するとは露にも思わなかったが.....。
□□□□ ~本当の願い~ □□□□
さて、当初の目的を果たすことができたので、ここからが本題だ。
そもそも、ニケさんに隣を歩いてもらうことが本当の願いではない。
俺がニケさんに告白してまで叶えたかった願いというものは別にある。それは.....。
「次はニケさんがどうぞ」
「次と言いますと?」
俺の唐突な言葉に首を傾げるニケさん。
確かにこれだけでは何のことかわからないだろう。
「対等なお付き合いなんですから、俺がわがままを言った以上、次はニケさんがわがままを言う番です」
「わがまま.....ですか」
「ニケさんのやりたい事、やって欲しい事を遠慮なく言ってください。可能な限り叶えようと思います」
「私のやりたい事.....」
ニケさんはチラチラッと俺の様子を窺いながらもどこか遠慮がちだ。
何かしらの要望は恐らくあるのだろうが、規則バカ、マニュアルバカゆえに言い出し辛いのだろう。
『もっと気軽に接して欲しい』
俺の本当の願いの1つ目はこれだ。
先程の隣を歩く件もそうだし、神界でのやりとりでもそうだったが、どこか態度が固い。
他人行儀と言う程ではないが、それに近い感じの印象を受ける。
なぜ、そう感じるのかと言うと.....。
俺も普段はそうだからだ。
だから、同類のことはよくわかる。
なら「お前が言うな!」とツッコまれそうだが、俺はいま可能な限りフレンドリーになろうと努めているので、そこは勘弁してもらいたい。
・・・。
話が逸れたが、戸惑っているニケさんのこの後の行動は、恐らくだが誰でもわかることだろう。
規則バカ、マニュアルバカなニケさんが困った場合、頼りにするものといったらあれしかない。
「ちょっ、ちょっとお待ちください。今、確認しますので.....」
「.....」
ニケさんはそう言うと、多分アイテムボックスだと思われる異次元から一つの雑誌を取り出した。
もはや想定内すぎて笑うどころか、アテナの言うところの(´・ω・`)←こんな顔になってしまった。
ニケさんにとっての雑誌とは、もはや参考書というレベルを軽く越えて、バイブルになりつつあるんだと思う。
つまり、デートにおいては雑誌に記載されていることが行動基準になるのだろう。
(.....おかしいだろっ!)
これではいつまで経っても、ありのままのニケさんとはデートができない。
まるで雑誌と付き合っているようで味気ないし、一向に二人の仲が深まることもない。
だから.....。
「雑誌は没収します!」
「あっ.....」
ニケさんから雑誌を素早く回収する。
すると、ニケさんがまるで「この世の終わりだ」とでも謂わんばかりの表情で不安そうに見つめてきた。
(そ、そんな絶望した表情をしないでくださいっ!胸が痛みます!!)
・・・。
回収した雑誌を俺のアイテムボックスにしまいつつ、俺の真意を伝える。
「ニケさん。雑誌を参考にするな!とは言いません。
むしろ、ニケさんのその向上心を好ましく思います」
「だ、だったら.....」
「ですが!」
「!?」
「ほら!雑誌は何も間違ってはいないじゃないですか!」みたいな表情をしていたニケさんを強く牽制する。
確かに雑誌は間違ってはいないだろう。
だが、正解こそが正しいとは限らない。
「別に俺は完璧なニケさんを求めている訳ではありません。失敗してもいいんです」
「.....」
「雑誌などには頼らず、ありのままのニケさんを見せてください」
「ありのままの私.....。し、しかし、それでは幻滅されてしまうかもしれませんよ?」
幻滅なんてしない!とは決して言わない。
そんな無責任かつ不誠実な言葉を気安く使いたくはない。ニケさんとは本当の恋だからこそ!
.....とは言え、嫌いになんてならないけどなっ!
「そういう一面も、また好きになれたら嬉しいです」
「!?」
ニケさんの美しい顔が驚きの色で覆い尽くされる。
そんなことを言われるとは微塵も思っていなかったと謂わんばかりに。
これまでのニケさんは常に完璧な仕事をこなしてきたに違いない。
そもそも完璧を求められていたかもしれないし、そうならざるを得ない環境だったのかもしれない。
そして、いつしかそれが当たり前となり、またニケさんもそう思うようになってしまったのかもしれない。
それがつまるところ、規則バカ、マニュアルバカに繋がってしまったのではないだろうか。
勝手な憶測だが.....。
ただ、それもニケさんの魅力の一つだと言われれば確かにそうだ。
デキるお姉さんの雰囲気を放つニケさんはカッコいいし、何よりも頼りたくなる。
だが.....。
(俺はありのままのニケさんを見てみたい!ありのままのニケさんと触れあいたい!!)
という訳で、不安そうにしているニケさんには悪いが、雑誌抜きでデートをしてもらおうと思う。
「不安ですか?」
「と、とても.....。歩様にご迷惑をかけないでしょうか?嫌われたりしないでしょうか?」
小動物のようにおろおろしているその姿は、女神として泰然としていた姿とは異なり、一人の女の子なんだなと感じさせるものがある。
ただ、このままではデートどころではない。
少なくとも、平常心を保つぐらいになってもらわないと俺が初デートのプレッシャーに押し潰されてしまう。
だから.....。
「では、こうしましょう」
「.....?」
「既に完璧なニケさんは好きになりました。
だから、次はありのままのニケさんを好きになってみたいです」
「!」
ニケさんの表情が一気に晴れ渡る。
さすがはニケさん。
俺の言いたいことを瞬時に理解してくれたようだ。
どういう事かと言うと、要はニケさんに保険をかけたのだ。
ニケさんは俺に嫌われることをひたすら恐れている。
だから、俺が嫌いにならない根拠を示して安心させてあげたという訳だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
図式としては以下となる。
完璧なニケさん → 好き
ありのままのニケさん → 好き
ニケさんの総評 → 好き
これが理想の形だが、仮にありのままのニケさんがダメとなっても.....。
完璧なニケさん → 好き
ありのままのニケさん → ダメ
ニケさんの総評 → 好き
「既に完璧なニケさんを好きになっているので、ありのままのニケさんが仮にダメでも嫌いになることはありませんよ」と暗に伝えたことになる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
よほど安心したのか、ニケさんの表情が柔らかい。
これはとてもいい傾向だろう。俺のプレッシャーも、少しだが和らいだような気がする。
なんやかんやあったが、ここにきて、ようやく初デートのスタート地点に立つことができた。
そして、俺の2つ目の願いも叶うこととなった。
『女神としてのニケさんではなく、ありのままのニケさんを見せて欲しい』という切なる願いが.....。
「では、ニケさんのわがままを聞かせてください」
「こ、恋人らしい事でもよろしいのでしょうか?」
「えぇ。俺に出来ることなら」
「でしたら.....」
ありのままのわがままを綴ったニケさんは嬉しそうに、でもどこか恥ずかしそうに頬を赤く染め、少女のようなあどけない笑顔ではにかんだ。美しい。
ちなみに、
「これでお願いしますっ!」
「ぶふぅぅぅぅぅううううう!?」
ニケさんのわがままは、初デートにしてはあまりにもハードルが高過ぎたので叶うことはなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
次回、 本編『ニケの愛情弁当』!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日のひとこま
~ありのままのあなたに~ side -ニケ-
「はぁ~~~~~」
「ど、どうされたんですか!?」
突如、歩様が吐かれた深い溜め息に驚いてしまいました。
いや、驚いた理由は溜め息だけではありません。
「ど、どこかお加減でも悪いんですか!?」
「落ち着いてください。体に異常はありませんから」
「そ、それならいいのですが.....」
「ご心配をかけてすみません」
病気ではないようなのでホッと一安心です。
ただ、歩様が端から見たら病気を疑われてもおかしくないレベルでぶるぶると震えておられるのは気になります。
「でしたら、なぜそんなに震えられているんですか?」
「理解してもらえるかは自信ありませんが.....、極度の緊張から解放された為ですかね」
「はぁ?緊張ですか?」
「緊張です」
「歩様がそこまでになられるなんて.....。何に緊張されておられたんですか?」
「つい今しがたのニケさんとのやりとりですよ」
「え!?私が原因ですか!?」
「それは違います!断じて違います!」
慌てふためいて否定されるところがとても怪しいです。
ですが、歩様の優しさに免じてわからない振りをしましょう。
「ニケさんに偉そうに語ってはいましたが、実は心臓バクバクものでした。
俺だってニケさんに偉そうに言える経験も何もないですからね」
「で、ですが.....。歩様が緊張していたなんて微塵も感じませんでしたよ?」
「火事場のバカ力ともでも言うんでしょうか?
よくわからないんですが、これだけはハッキリと言えます」
「なんでしょう?」
歩様が照れ臭そうに頬を掻いています。かわいい。
これはきっと期待できるお言葉をもらえるに違いありません!
私の脳内メモリーにて録音を開始します!
「あの時の俺はただひたすらニケさんのことを考えていました。
だから、ニケさんが俺に勇気をくれたんだと思います。ありがとうございます」
「!!!」
「.....って、ちょっとクサかったですかね?」
「そ、そんなことはありません!嬉しいです!」
お優しい歩様。
私はありのままのあなたに恋をしてとても幸せです!
0
お気に入りに追加
1,395
あなたにおすすめの小説
弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~
平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。
しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。
パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
キモオタ レベル0★世界最弱のオタク高校生の僕だけレベルアップ!美女に囲まれハーレム青春物語
さかいおさむ
ファンタジー
街中にダンジョンが現れた現代日本。
人々には戦士としてのレベルが与えられる。
主人公は世界最弱のレベル0。
レベルの低さに絶望していたある日、戦士のレベルの10倍の強さになるというボスが現れる。
世界で倒せるのレベル0の主人公だけ。
ダンジョンで戦うことは諦めていた主人公だが、その日から自分だけがレベルアップできることに。
最強戦士になって、美女の仲間たちとダンジョンの秘密を解き明かす。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました
雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。
女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。
強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。
くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる