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第4.5章 星空咲音

第113歩目 はじめての教育!モリオン①

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前回までのあらすじ

謎に包まれている少女モリオン登場!

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□□□□ ~秘密な少女~ □□□□

『モリオン』ことミステリアスな少女の謎は深まるばかりだが、旅は順調そのものと言える。
危険な少女であることは間違いないのだが、食べ物さえ与えておけば暴れる様子はないので安心だ。ちょろい。

とりあえず機嫌を損ねないように注意をすればいいだけだ。
こんなこと、以前アルテミス様で経験済みなのでなんてことはない。接待だ、接待すればいい!

「なぁ。お前って、そもそもなんの獣人なんだ?」

鑑定できない以上、俺のほうでも可能な限り情報収集に努めているのだが.....

「それは言えないのだ」
「なんで?」
「父様と約束したからなのだ」

と、まぁこんな感じではぐらかされてしまう。
素性に関しての質問は、全て「父様と.....」の一点張りだ。

そもそも全く意味がわからない。

なぜ秘密にする必要があるのか。
なぜ父様とやらは、このモリオンを奴隷にしたままなのだろうか。

(いや、奴隷にした件は、モリオンがあまりにもおバカすぎていらなくなったとかか?)

念のため奴隷商人にも確認してみたが、「獣人奴隷ですよ」の一点張り。
モリオンもいろいろと怪しいが、この奴隷商人もいろいろとおかしい。
殊更モリオンに関しては、お前はバカか?と思える程、態度がおかしくなる。


そんなこんなで結局、『モリオン』については何もわからず仕舞いだった。

ちなみに正直なところを言えば、モリオンから情報を引き出すのは簡単だと思う。
アテナ式で考えればいいだけだ。特にモリオンはおバカだからこそ非常に容易い。

どういうことかと言うと.....

要はモリオンについて訊ねるから「父様と.....」になる訳だ。
だったら、その父様の素性を訊ねてしまえば恐らくは全てが解決する。

モリオンはおバカだから、自分の素性は話さない約束はしても、父様の素性を話さない約束はしていないはずだ。

では、なぜそれをしないかと言うと.....

単純に怖いから。

後で「騙されたのだー!」となる可能性もある。
それに、モリオンが奴隷になっている謎もある。
更には、その父様からの復讐も十分考えられる。

『君子危うきに近寄らず』という言葉がある。

賢い人間は自ずと危険な行動は避けるものだ。
そもそも素性がわからなくとも、機嫌さえ損ねなければいいだけの話なので、敢えて危険な行動には出たくない。てか、それは勇者の役目!


だから俺は、ひたすら接待に徹することで自身の身の安全を図ることにした。


□□□□ ~驚きの少女~ □□□□

謎と言えば他にもある。

「疲れないのか?」
「何がなのだ?それよりも食べ物をよこすのだ」

このモリオンは俺に、というか食べ物をくれる俺に懐いて以降、一度も側から離れようとはしない。
つまり俺と一緒に、毎日歩いて旅を続けている。

これは経験ある人ならわかるだろうが、途中休憩を挟むにしても、10時間以上も歩くのは実際かなり疲れる。
付け加えるなら馬車の速度に合わせてもいる。競歩ほどではないが、それでもそれなりのペースだ。
普段体を動かしていない人なら、筋肉痛やあせもの症状が当たり前に出たりする運動量となる。

俺は趣味がウォーキングだし、体もレベルアップのおかげで強化されているからなんともないが.....。
三食昼寝放題と豪語する奴隷であり、しかもどう見ても少女にしか見えないモリオンではさすがにきついと思う。

しかし.....

「.....本当に大丈夫か?きついならおぶってやるぞ?遠慮するな」
「なんの話をしているのだ?それよりも足りないのだ。もっとたくさん食べ物をよこすのだー!」

のだー!とかわいく万歳しているモリオンは全く疲れた様子が見受けられない。
このことからも俺と同等、もしくはそれ以上のステータスを有している可能性が高いと予想される。

ただ.....

「おぶるってなんなのだ?」
「背負うってこと」

「我を背負ってどうするのだ?」
「運ぶ」

「運ぶ.....?それになんの意味があるのだ?」
「お前が楽できる」

「なるほどなのだ!じゃー、おぶるのだー!」
「はいはい、仰せのままに」

単なるおバカなだけで『疲れる』ということすらも知らない可能性がある。
異常にステータスが高いのか、それともおバカなだけなのか、もしくは両方なのか、今はまだはっきりとはわからない。

ただ一つだけわかったことがあるとすれば、それは.....

「(はむはむはむはむ)。確かに楽なのだ!」
「・・・」

(食べ物をこぼすんじゃねぇ!汚ねえな!)

これだけだ。


その後も俺の首筋や肩が、モリオンのよだれや食べ滓で見るも無惨な姿へと変貌していくのだった。


□□□□ ~何でも知りたい少女~ □□□□

夜。

異世界の夜は早い。
以前にも説明したが、この世界の人々は大体22時前には寝てしまう。(酒場戦士は除く)

当然それはこの旅でも当たり前で.....

「(うとうと).....お、、まえは、、いつ、、も、なに、、して、、るの、、だ?」

他の奴隷達同様、謎の少女モリオンも眠たそうにしている。
目をゴシゴシこすっている姿は見た目通りの少女らしさが出ていて愛嬌がある。

それにしても.....

いつもは誰よりも早くに寝てしまうのだが、今日に限っては何故か起きているらしい。珍しい。

「見張り。一応、雇われている身だからな。お前達の身の安全を守るのが俺の仕事だ」
「(うとうと)そ、、れは、、ウソ、、なのだ」

「嘘な訳あるか。.....と言うか、どうしてそう思う?」
「(うとうと)われ、、は、、ねて、、いても、、匂い、、で、、わかる、、のだ。
 お、まえ、、の、、匂い、、が、、と、ちゅう、、から、、し、、なく、、なる、、のだ」

「!?」
「(うとうと).....お、、まえは、、いつ、、も、なに、、して、、るの、、だ?」

正直驚いた。

確かに俺は風呂に入る為、一旦この場から離れる。大体1km程だけど。
どうやらモリオンはそれを匂いで感じ取っていたようだ。恐れ入る。.....と言うか、俺の匂いって臭くないかな?

つまり、モリオンが今起きている理由はそれを確認するためのものらしい。
別に隠す必要性はないので正直に打ち明ける。

「風呂に入っているんだ」
「(うとうと).....ふ、、ろ?ふ、、ろ??.....風呂ってなんなのだ?」

おぉ!

前々から思っていたが、このモリオンはどうやら好奇心が旺盛らしい。何でも知りたがる。
今も寝ぼけ眼だったそれが、あっという間にキラキラしたものに豹変してしまった。こういうところはかわいい。

(それにしても、風呂を知らないってことは貴族じゃないってことか?それとも入る習慣がない?)

謎は更に深まってしまったが、とりあえず.....

「風呂ってのは体を洗ったり、湯に浸かったりして、身を清め安らげるものだ」
「なんで湯に浸かる必要があるのだ?」

「気持ちいいから」
「なんで湯に浸かると気持ちいいのだ?」

「理屈じゃないんだよ。考える前に感じろ!.....と言うことで、入ってみるか?」
「なのだー!」

なのだー!とかわいく万歳しているモリオンは嬉しそうに微笑んだ。ギザギザ歯がちょっと怖い。

(ちゃんとしてれば実は愛嬌のある子なんだけどな~。子犬みたいに懐いてくるし)


こうして、モリオンと一緒にお風呂に入ることになった。


□□□□ ~衝撃の少女~ □□□□

どうも、もはや女のとなら一緒にお風呂に入ることには抵抗を感じなくなった俺です。

今更すぎて説明はいらないだろうが、アテナやドールで既に慣れてしまった。
モリオンみたいに小さい子程度なら、もはや親の心境になってお世話をすることが可能だ。

早速、モリオンの粗末な衣服を手慣れた感じで脱がしていく。

ふむ。見た目通りのぺったんこだ。ドールといい勝負だろう。
下もまだ妖精さんのままだ。今はまだエロさよりもかわいらしさが目立つといった感じ。

それはいい。それはいいのだが.....、

「これは.....鱗か?」
「鱗なのだ」

よく見ると、腕や背中は鱗で覆われている。
と言っても、よく見ないとわからない程度だが。

(鱗のある獣人.....?なんだ?爬虫類系.....ワニとか?あっ、でもワニに羽はないか.....)

謎はより深まる一方だが、『君子危うきに近寄らず』だ。
余計な詮索はしない。

「早速洗うぞ?大人しくしてろよ?」
「なのだ!」

───ゴシゴシ
───ゴシゴシ

「どうだ?」
「くすぐったいのだ」

「くすぐったい?」
「なのだ。くすぐられているような、優しくなでられているような感じなのだ」

どうにもピンッとこない表現だ。
ドールなんかは体をゴシゴシ洗うだけでも結構気持ち良さそうにしているのに.....。

そう思っていたら、ある一つの結論に辿り着いた。

(.....もしかしたら鱗が原因か?)

そこで、先程よりも強く体を洗ってみた。

───ゴシ!ゴシ!
───ゴシ!ゴシ!

すると.....

「.....(はわわ~)」

モリオンの表情が一気に蕩けた。
どうやら俺の考えは正しかったみたいだ。

そう、正しかったのだが.....

───ゲシッ!

「へぶっ!?」

余程気持ちよかったのか、モリオンの大きくて太い尻尾が勢いよく振られ、俺の顔を強烈になでていった。いてえ!

(.....ん?痛い、、だと!?俺は物理耐性レベル3持ちだぞ!?それで痛い!?)

謎が脅威へと変わっていったが、『君子.....』『君子.....』と言い聞かせた。
もはや現実逃避もいいところだが、やはり『君子.....』先生に従うのみだ。

とりあえず、モリオンの無自覚尻尾攻撃は避けられるので、避けながら体を洗ってあげることにした。
ちなみに一番強烈な攻撃だったのは、ぺったんこ部分ではなく、花園部分でもなく、羽を洗ってあげた時だった。

強烈な一撃によって思った以上に体力が削られてしまったが、それでもあわあわモリオンが完成した。
俺も素早く体を洗って湯に浸かろうとしたら.....。

「我もそれをやってみたいのだ!」

案の定、モリオンが興味を持ち出した。
何事も体験してみることはいいことなので、任せてみることにする。

早速、背中を洗ってもらったのだが.....

───ゴシゴシ!!
───ゴシゴシ!!

「どうなのだ?」
「痛い。力を入れすぎ」

───ゴシゴシ!
───ゴシゴシ!

「これでいいのだ?」
「まだ少し痛いな。もうちょっと力を抜け」

恐ろしく痛かった。

と言うよりも、「どんだけ馬鹿力やねん!?」ってぐらいに力が入りすぎていた。
ノーマル状態でこの馬鹿力となると.....。『君子.....』『君子.....』。

・・・。

───ゴシゴシ
───ゴシゴシ

「こうなのだ?」
「そうそう、いい感じ。うまいぞ?」

その後もモリオンの力調整に苦労したが、ようやく納得のいく形に仕上がった。

「なのだー!」
「えらい。えらい」

当のモリオンも誉められて嬉しいのか、なのだー!と万歳するかわいい仕草でとても喜んでいる。

子供と言うのは不思議なもので、一度覚えてしまえば、その後はもはやお手のものといった感じで背中をあっという間に洗い終わってしまった。

そして、引き続き前を洗ってもらおうとしたのだが.....

じ───。

モリオンの手が止まってしまった。

じ──────。

いや、止まっただけではない。

じ─────────。

ある一点に視線が注がれている。

「なんかぶら下がっているのだ」
「・・・」

予想の範囲内だ。
モリオンにはないものだから、きっと興味を持つに違いないと思っていた。

だから、ちゃんと答えを用意しておいた。

それは.....

「これは象さんだ」
「象さん.....?象さんとはなんなのだ?」

マジか!?

どうやらこの世界には象さんはいないらしい。
いや、モリオンが単に知らないだけという可能性も.....。

俺としては、モリオンに「キリンさんが好きです、でもゾウさんのほうがもっと好きです」と言ってもらいたかっただけにショックが大きかった。.....ちょっと古いか?

「象さんとは動物.....、いや、獣のことだ」
「獣.....なのだ?襲うのだ?」

「そうだなぁ。別の意味でおそ.....」

そこまで言って、ようやくモリオンの異常に気付くことができた。

「・・・」
「・・・」

明らかに俺の象さんに対して警戒している。

本来なら、幼女が男性器に警戒しているというシュールなシーンに思わず噴き出してしまうところなのだが、モリオンの様子がただ事ではないので俺も焦った。
狼さんに警戒しているというよりかは、命を狙う敵に対するそれだ。所謂、厳戒態勢に近い。

「.....襲うのだ?」
「・・・」

これは答えを間違ってはいけない系だと思う。
間違えた瞬間、俺は象さんとともに絶命してしまう恐れがある。

だから.....

「ぞ、象さんは優しい獣だから襲わないんだ。あ、安心しろ」
「そうなのだ?」

「そ、そうなんだ。それと!象さんはとても臆病だから優しくしてあげるんだぞ?力入れちゃダメ!絶対!」
「わかったのだー!」

こう言っておかないと、モリオンの好奇心という名の馬鹿力で潰されてしまう恐れがある。
それに、まだ一度も使っていない内に潰されてしまってはご先祖様に対して申し開きもできない。

俺が生まれたばかりの仔鹿みたいにぷるぷる震えながら緊張していたら、

───さわさわ
───さわさわ

モリオンは俺の言い付け通りに優しく洗い出した。
と言うよりも、優しい手付き過ぎてちょっとこそばゆい。

「これでいいのだ?」
「あ、あぁ.....」

───さわさわ
───さわさわ

と言うよりも、優しい手付き過ぎてちょっと気持ちいい。

ともすれば、男性の生理現象 (ここ重要!えっちぃ理由じゃない)として、

───パオーン!

と、なってしまうのは仕方がないことだ。
人が生きる為には息をするのと何ら変わりない、至って普通の自然現象だ。

「ど、どうしたのだ!?」

当然なにも知らないモリオンは、象さんのあまりの変貌した姿に衝撃を受けていた。
俺としても、幼女の純真な瞳に見つめられるとちょっと恥ずかしい。いや~ん、まいっちんぐ☆

「これは象さんが喜んでいる状態だ。モリオンが優しくしてくれたから、象さんも嬉しいんだってさ」
「我のおかげなのだ?」

「そうだぞ。モリオンはいい子だな」
「やったのだー!」

おおぅ.....。

のだー!とかわいく万歳しているモリオンはとても嬉しそうに喜んでいる。.....罪悪感が半端ない。
俺としては為っていない親の代わりに、モリオンに保健体育を教えたつもりでいたのだが、どうにも純真さに付け込んだような気がしてならない。

母親というものの偉大さを改めて感じた一幕だった。

・・・。

その後はえっちぃことをする訳でもなく(当然だ!)、モリオンと一緒に湯船に使ってお風呂を堪能した。
ミステリアスな少女ですら、お風呂の魅力にハマってしまったらしく、それ以降は毎日一緒に入るようになった。

(ふむ、やはり風呂は素晴らしい。この素晴らしさをもっとこの世界の人々に知ってもらいたいものだ。
 .....そうだ!いっそのこと、大衆浴場ならぬ銭湯でも営んでみたら面白いかもしれないな)

「どうだ?大きいお風呂で、みんなと一緒に入ってみたくはないか?」
「面白そうなのだー!」

モリオンも賛成らしい。
どうやら一考の余地はありそうだ。


□□□□ ~お別れの少女~ □□□□

朝。

「(はむはむ).....すやすや」
「・・・」

心地好いとは決して言えない痛みとともに目が覚めた。

腕を見ると、それはもうよだれがベッタリな上に、くっきりと表れている噛んだ後。
と言うよりも、現在進行形で噛まれていたりする。すごく痛い。

「.....ほら、起きろ。もう朝だぞ」
「.....(はむはむ)」

体を揺さぶってみるも、噛んでいる主は一向に起きる様子がない。
これは毎度のことなので、もはや諦めている。

だから、秘策を出すことにする。

「.....ご飯だぞ?なくなっても知らないぞ?」
「.....うにゅ?ご、、はん?」

「そうだ。ご飯だ。早く起きないとみんな食べちゃうぞ?」
「ご飯なのだー!早くよこすのだー!」

ガバッ!と寝起き早々、元気100%。わ、若い.....。
そう、噛んでいた主は、みんなご存じのモリオンだった。

俺に懐いて以降、四六時中ベッタリしているのにも飽きたらず、いつの間にか俺のテントに潜り込んできては一緒に寝るようになってしまった。
そして、大概は寝ぼけて噛み付いてくる始末。痛いのなんの.....、アテナよりもタチが悪い。

本当なら追い出したいのはやまやまなのだが、機嫌を損ねられては困る。『君子.....』『君子.....』。
それになんだかんだ言って、俺も結構助かっていたりもする。.....痛いけど。

どういうことかと言うと、

アテナで慣れてしまったせいか、朝起きた時に人の温もりがないとどうにも落ち着かない性分になってしまった。
それ故に、ここ数ヶ月は寂しい思いをしていたのだが、どうやらその寂しさをモリオンが埋めてくれたみたいだ。.....本当に痛いけど。

こうなってくると、もはや24時間ともに過ごしていると言っても過言ではなくなってくる。

当たり前のように一緒にいて、当たり前のようにともに過ごす。
もはや、このままずっとこうなんじゃないか?、と思わず錯覚してしまいそうになる。

恐らくモリオンもそう感じているに違いない。
その証拠に、日増しに笑顔が増えてきているように思えてならない。.....親の欲目か?

しかし.....





永遠なんてものは存在しない。





フルールを出発して2ヶ月。
ついに目的地である王都フランジュに戻ってきた。

そしてそれは.....

「バイバイなのだ?」
「.....そうだな。バイバイだ」

俺とモリオンのお別れを意味するものでもある。

モリオンとはこの2ヶ月ですごく仲良くはなったが、さすがに購入する気までは起きない。
謎に満ちているというのも理由の一つだが、なによりも人の人生を軽々しく背負えるほど、俺には度胸と覚悟、そして自信がない。ドールだけでも不安なぐらいだ。ましてやモリオンも、となると.....。

「一緒にいられないのだ?」
「お前は奴隷だからなぁ.....。無理だ」

「我は奴隷などではないのだ」
「そうだったな。お前は奴隷じゃない。.....いい人に買われるといいな」

「我は奴隷などではないのだー!」
「お前は奴隷じゃない、うん、奴隷じゃない。.....頑張って生きろ!」

このネタをいつまで引っ張るのかわからないが、とりあえず話を合わせておくに限る。
最後まで騒々しい子だったけど、決して悪い子じゃなかったと思う。単純におバカな子だっただけだ。

「わかったのだ。我はまた三食昼寝放題の生活に戻るのだ。ご苦労だったのだ」

どうやら「ご苦労」という言葉は知っているようだ。
使い方は間違ってはいないが、使うシーンを間違えている。この場に、その言葉はふさわしくない

だから.....

育ての親?教育の親?として、最後の教育を施そうと思う。

「違う。『ご苦労』じゃない。この場合は『ありがとう』だ」
「『ありがとう』.....なのだ?」

「そう、『ありがとう』。相手に感謝するのと同時に、相手を喜ばせる魔法の言葉だ」
「すごいのだー!」

モリオンは本当に感心したかのようにキラキラした眼差しで、のだー!とかわいく万歳をしている。

「だろ?だから.....(ごくっ)、モリオンありがとう」
「我の名前なのだー!」

やはり大丈夫だった。

最初に鑑定した時から、名前を呼んでも大丈夫なんじゃないか?、との確信は薄々あった。
名付ける前のドールの場合は種族名が表示されていたのに対して、モリオンは初めから既に名前が表示されていた。
これは既に名付けが済んでいるか、もしくは.....。

ともあれ、俺もモリオンに世話になった以上、感謝するのに『お前』や名前を呼ばないのは失礼にあたる。
だから意を決して名前を呼んでみた。多分、大丈夫だろうと確信していたから。

さて、モリオンはどうかな、と思っていたら、

「わーいなのだー!」

名前を呼ばれたことが余程嬉しかったのか、のだー!のだー!言いながら、俺の回りをくるくると回っている。
ミステリアスな少女ではあるが、こういう何気ない子供らしい行動は見た目通りなのでどこか安心する。

.....そう、俺は安心しきっていた。

「アユムもありがとうなのだ!バイバイなのだー!」
「モリオンもありがとな。じゃあな!」

そう言うと、モリオンは元気よく手を振って俺から離れていった。


こうして、ミステリアスな少女モリオンとの旅はおわ.....


(.....あれ?なんでモリオンは俺の名前を知っているんだ!?教えた覚えはないぞ!?)


ミステリアスな少女モリオンの謎は更に混沌と深まるばかりだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

次回、四度神界!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『モリオン』編はここで一旦終了となります。
そして『勇者トキオ』編もここで終了となります。

次話からは、この章のメイン人物となる『星空咲音』編へと突入します。

余談ですが、ヘリオドールが気になっていた匂いの原因は、たまちゃんとちゅん、それにモリオンとなります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今日のひとこま

~教育~

「いいか?食べる前には、ちゃんと『いただきます』と言うんだぞ?」
「『いただきます』.....なのだ?」
「そうだ。食材や作ってくれた人に感謝する言葉だ。お前も食べ物がない時に困っただろ?
 だから食べ物はいつでも当たり前にあると思うな。感謝しながら食べるのが俺達、人の義務だ」
「腹減って困ったのだ。いただきますなのだー!」

「いいか?相手になにか頼む時は、ちゃんと『お願いします』と言うんだぞ?」
「『お願いします』.....なのだ?」
「そうだ。なんでも一人でできる訳じゃない。お前だって、今まで人に色々としてもらってきただろ?
 それがいきなり全部なくなってしまったらどうだ?困るだろ?だから何かをしてくれる人には感謝しろ。
 感謝した上で、何かをしてもらいたいならお願いをするんだ。そうしたら喜んでやってくれるさ」
「食べ物たくさんほしいのだ。お願いなのだー!」

「いいか?悪いことをしたら、ちゃんと『ごめんなさい』と言うんだぞ?」
「『ごめんなさい』.....なのだ?」
「そうだ。この言葉は不思議な言葉で、大人になればなるほど、何故か言いづらくなる言葉なんだ。
 見栄、虚勢、意地、誇り、様々な要因が邪魔をする。大人ってのはしがらみに.....いや、悪い子なんだ。
 お前は決して悪い大人になるなよ?いい子は大人になっても、ちゃんとごめんなさいができるんだ」
「我はいい子なのだ。ごめんなさいするのだー!」

「いいか?お別れするときは、ちゃんと『バイバイ』と言うんだぞ?」
「『バイバイ』.....なのだ?」
「そうだ。例えば、俺と別れたとしよう。お前はもう二度と俺には会いたくないと思うか?.....思わないよね?
 もう一度会いたいと思う人に向けて、元気でね!また会いましょう!、との意味を込める挨拶が『バイバイ』だ」
「もう一度会いたいのだ。バイバイなのだー!」

「そうそう。いい感じ。.....てか、まだバイバイしなくていいから!」
「ずっと一緒なのだ?」
「ずっとじゃない。もうちょっとだ」
「じゃー、バイバイはバイバイなのだー!」

バイバイはバイバイとか、かわいい.....。
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