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第2.5章 ラピスラズリ
第42歩目 はじめてのラピスラズリ!雇用契約最終日
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前書き
前回までのあらすじ
俺とスカイさん、どっちを選ぶ?
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side -ラピスラズリ-
□□□□ ~あなたとともにいる幸せ~ □□□□
アユムさんとの雇用契約最終日の夜は、ささやかでしたが精一杯豪勢にふるまいました。
明日アユムさんは旅立ってしまいます。
私の決断次第ではこれが最後の夜になってしまうことも.....
本当はアユムさんに付いていきたいです。
アユムさんと一緒にいると、飾る必要のない素の私でいることができます。
またアユムさんも、素の私を受け入れてくれています。
私は何事にも全力を尽くす性格です。
ただそれが行き過ぎるせいか、お付き合いしていた男性とは上手くいかないことが多いです。
愛が重いと言われたときもあります。ショックです。
私はただあなたに尽くしたいだけなのに.....
また私はよく食べるほうです。
食べることは好きですし、食べている時は幸せです。冒険者の頃からそうでした。
はしたないと言われたときもあります。ショックです。
私はただあなたと一緒に幸せを感じていたいだけなのに.....
そんな私を受け入れてくれたのはアユムさんでした。
愛が重いと言われた私に、一生懸命なだけで好ましいと言ってくれました。
はしたないと言われた私に、一緒に食事をするのが幸せだと言ってくれました。
私の全てを受け入れてくれた男性は、アユムさんだけでした。
アユムさんと一緒にいると、私はとても幸せな気持ちになります。
アユムさんとこれからもずっと一緒にいたい.....
だから一度は決断しました。アユムさんに付いていく!
それは紛れもない本心でした。嘘偽りのない気持ちでした。
そしてきっと受け入れてもらえると思っていました。
私を受け入れてくれた時のように、少し幼く見えつつも頼りがいのある優しい笑顔とともに。
でもそれは叶いませんでした。
いえ、むしろアユムさんは私をよく見ていてくれました。
私の心の奥深くに潜む本心を.....
□□□□ ~お母さんへの想い~ □□□□
私は何不自由なく育てられました。
お父さんやお母さんにも愛されていました。
裕福な家庭ではありませんでしたが、それでもやりたいことを自由にやれるぐらいには余裕がありました。
私はお父さんに憧れていました。
小さい頃に聞かされた冒険譚にいつもわくわくしていました。
だから私は冒険者になりました。少しでも憧れのお父さんに近づきたくて。
.....でも私には才能がありませんでした。
そんな私にお父さんが薦めてくれたのが探索者です。
PTのために貢献できる冒険職。私にぴったりでした。
このころから私は、誰かのために貢献できる喜びを知りました。
当然、お母さんにも憧れていました。
いつもきれいで優しくて料理上手。怒っている姿なんてほとんど見たことがありません。
だから将来はお母さんみたいになりたいと思っていました。いつかお父さんみたいな人と結婚するんだと。
.....でも大好きなお父さんがいつからか帰ってこなくなりました。
死んでしまったと聞いたときは頭が真っ白になりました。そして泣き叫んだものです。
そんな悲しんでいた私をお母さんはいつも励ましてくれました。
お父さんが死んでしまって、一番悲しいのはお母さんのはずなのに。
このころから私は、お母さんの優しさと強さを知りました。
その後も女手一つで育ててくれたお母さんには感謝してもしきれないです。
私は本当に愛されて育てられました。
だからこそ、ふとした時に見せるお母さんの悲しそうな顔は忘れられません。
お父さんを失ったお母さんの悲しみは私には癒せません.....私はお父さんの代わりにはなれないから。
だから私がお母さんにできることは限られています。
お母さんに心配をかけないこと。
お母さんに喜んでもらうこと。
お母さんの笑顔を悲しみの色に変えないよう頑張ること。
そしてひそかに誓ったのです。
私がお母さんを支えていく!お母さんに二度と悲しい思いはさせない!
そして、ギルド職員ラピスラズリが誕生しました。
□□□□ ~変わらないやりとり~ □□□□
静かな夜にかわいい寝息だけが聞こえてきます。
「アテナさんはもう寝ちゃったみたいですね」
「こいつは寝ることと食べることに関しては天才ですからね」
アユムさんはそう文句を垂れつつも、どこか優しげにアテナさんを撫でています。
この二人の関係もよくわかりません。
兄妹と言っていましたが、絶対嘘。
アユムさんのアテナさんに対する接し方は、兄妹のそれとは明らかに違います。
かと言って、恋人のそれとも違う気がします。
なんなんだろう?この二人.....
他にもわからないことばかりです。
召喚された目的が、勇者業ではなく観光だったり。
アテナさんの、上手く言葉にできないぐらいなんとも言えない違和感のある存在感。
アユムさんの、勇者ではないのにありえないぐらいの不自然な強さと万能性。
なんで秘密?どうして打ち明けてくれないんだろう?
アユムさんのことだから何か理由があることはわかります。
だから私も深くは聞こうとしませんでした。
それでも.....どこか悲しさを感じる私がいます。
私が秘密をバラすとでも思っているんでしょうか?
二人の秘密を知ったら、私が二人に対して態度を変えるとでも思っているんでしょうか?
私はそんなに信用がないんでしょうか?
そう思うと、悲しみとともに怒りも沸いてきました。だから私は、
「いたたた!な、なんですか!?」
「アユムさんのバカ!」
「なんで!?」
おもいっきりお腹をつねりました。
鍛えられた腹筋にどきどきしたのは内緒です。
「なんで急に照れてるんです?」
「そ、その.....立派だなって///」
「なにが!?」
「え?腹筋ですが?」
「あ、腹筋ですか.....」
「なにと勘違いされ.....」
そこまで言ってようやく気づきました。
私だってそういうことには興味があります。
「あ、あの.....アユムさんは、り、立派なんですか?///」
「そういうこと普通は聞かないですよ!?」
「み、見てもいいですか?///」
「ダメに決まってんだろ!」
照れちゃってかわいいんですから♥
やっぱりアユムさんと一緒にいると楽しいです。離れたくないな.....
□□□□ ~私の最終決断~ □□□□
私のわがままでアユムさんに抱き締めてもらうことになりました。
最初は渋られましたが、私がどうしてもとお願いしました。
もしかしたらこれが最後になるかもしれないですし.....
アユムさんの体はガッチリしていてとても安心します。
年上とは思えないあどけなさが残りつつも、否が応にも男性なんだなと思い知らされました。
とても温かいです。
どこまでも安心する温かさです。
いつまでも感じていたい温かさです。
でも、この温かさを明日からは感じることができない.....
「.....アユムさん。寂しいです」
「.....もうどうするか決めたんですか?」
「・・・」
「後悔しない選択をしてください」
そんな選択ありません!どちらを選んでも後悔しますよ!
せめてアユムさんが、俺に付いてきてほしい!とさえ言ってくれたら、どれだけ楽になれるか.....
「.....アユムさんはどうしたらいいと思いますか?」
「個人的には、スカイさんを大切にしてあげる方がいいと思います。
俺よりもいい男なんてたくさんいますが、ラズリさんの母親はスカイさんただ一人ですから」
アユムさんの言っていることは頭では理解できます。
でも私は.....それでも私は.....付いてきてほしいと言って欲しかった!
「.....私はアユムさんが好きです。だから他の男性に興味はありません」
「ありがとうございます。ラズリさんの本当の気持ちを知れて嬉しいです」
どうしてもっと早く、この気持ちに気付かなかったんだろう.....
「.....私はアユムさんが好きです。だからアユムさんのお役に立ちたいです」
「ありがとうございます。ラズリさんには助けてもらってばっかりですね、すいません」
謝らなくていいんです!私がアユムさんのお役に立ちたいんですから!
「.....私は.....アユムさんが好きです。だから.....アユムさんにおいしい料理を作ってあげたいです」
「ありがとうございます。ラズリさんの料理はおいしい上に、一緒に食べるのが好きでした」
私も!私もアユムさんと一緒に食べるのが幸せでした!これからだってずっと一緒に.....
「.....わ、私は.....アユムさんが.....好きです.....だ、だから.....本当は.....ずっと一緒に.....いたいです」
「.....ありがとうございます。俺もラズリさんと一緒に入れたらいいな、とは思います」
やめて.....やめてよ!その気にさせるようなことを言わないでよ!私の心を乱さないでよ!
.....アユムさんと離れたくないよぉ。
「.....わ、私は.....私は.....」
「・・・」
むせび泣く私を、アユムさんはギュッと少し力強く抱き締めてくれました。
力強くはありますが、どこか遠慮した感のある力強さ。
本当はもっと力強く抱き締めてくれてもいいのですが、そこがなんともアユムさんらしいです。
アユムさんの優しさに触れる度、私の中のアユムさんがどんどん大きくなりました。
「.....好き.....です!.....本当に.....大好き.....です!」
「.....ありがとうございます。俺もラズリさんのこと好きですよ」
そんな嬉しいこと言わないで!どんどん離れたくなくなってきちゃうから.....
離れたくないです。離れたくはないですが.....私の答えは既に決まっていました。
でも、その言葉をなかなか言い出せずにいました。
言葉にしてしまうと、アユムさんとお別れしなくてはならないからです。
そう、私の答えは、町に残ること。お母さんと一緒にいること。
そして.....アユムさんとは一緒に居れないこと。
悲しい.....
悲しい.....
悲しい.....
悲しさを抑えきれませんでした。
「.....うわあああああああん。離れたくないよおおおおおおお」
だから私はおもいっきり泣きました。
見栄も外聞も全てかなぐり捨てておもいっきり泣きました。
大好きなアユムさんの胸の中で一晩中おもいっきり泣き続けました。
そんなみっともない私を、アユムさんは一晩中ずっと抱擁していてくれました。
アユムさん。ありがとうございます。あなたを好きになれて私は幸せでした。
□□□□ ~再会の約束~ □□□□
.....最悪です。こんなことがあっていいのでしょうか?
アユムさんの旅立ちという日にまさかの失態です。
「おはようございます。よく寝れました?」
「・・・」
いつも通り寝てしまっていました。
しかもだらしない顔で涎を垂らしながらのおまけ付き.....穴があったら入りたいです。
「余程疲れていたんですね。すぐ寝入ったのでびっくりしました」
「・・・」
私はあの後、一晩中泣くどころか、泣き疲れてすぐに寝てしまったらしいです。
どんだけ私の神経は図太いんでしょうか.....
アユムさんと一緒にいれる残りわずかな時間なのに、いつも通りに起きました。
.....最悪。こんなだらしない女、きっとアユムさんは失望したはず.....
私が自己嫌悪に陥っていたら、アユムさんが散歩に誘ってくれました。
しかもさりげなく手を繋いでくれました。顔を真っ赤にして.....かわいい♥
きっと気遣ってくれたに違いありません。そんなささやかな優しさがとても嬉しいです。
「落ち着きました?」
「ありがとうございます」
「急に散歩に誘ってすいません」
「いえ。少しでも長くアユムさんと一緒にいたいですから」
「俺も同じ気持ちです。だから誘いました」
「.....せっかく気持ちの整理ができたのに、また乱すつもりですか?」
アユムさんは申し訳なさそうにしていましたが、私の気持ちは既に固まっています。
「私はここに残ることにします.....寂しいですが、それでも大切なお母さんですから」
「はい。今までお世話になりました。ありがとうございます」
そこには私が愛した優しい笑顔がありました。
本当はいつまでも見ていたい笑顔ではありますが、それは叶いません。
いつまでも駄々をこねていてはアユムさんに迷惑をかけてしまいます。
だから私は笑って見送ることにしました。
「アユムさん。後悔しないでくださいね?」
「なにをです?」
「こんなにいい女、そうそういないですよ?誰かに取られても知らないですから!」
私の精一杯のギャグでした。
いつも押してばかりの私が、初めて引いてみたのです。
「お、驚きました。それにしても.....」
「なんですか?」
「確かにラズリさんの言う通りです。他の誰かに取られると思ったら、ちょっと悔しい気がします」
「あぅ.....///」
うれしい.....アユムさんの好意がすごく伝ってきました。
初めてアユムさんに一人の女性として見られた気がします。
本気でアユムさんのものになりたいとさえ思いました。
だから私は決意しました。
今しかそのチャンスはありません。
結局私は押し続けるしかないのかもしれません。
それでもきっとアユムさんなら、そんな私を受け入れてくれるはずです。
「アユムさんにお願いがあります」
「なんですか?」
「.....ラピス」
「え?」
「ラピス、と呼んでほしいです」
「えっと?どういうことですか?」
「この世界では、特別な名前を呼ぶことにとても大切な意味があります。
愛称とはまた違う、愛名と呼ばれる特別な名前です。
そして私の愛名はラピスです。
その愛名を呼んでいいのは、生涯この人と決めた人だけです。
だからアユムさんには、ぜひ私の愛名で呼んでほしいです」
愛名は親しい人でも、例え親子であっても呼ぶことは許されません。
それだけ特別な意味があります。
そしてそれはお互いの承認があって初めて成立します。
成立していない愛名は所詮愛称に過ぎません。
「愛名.....なるほど。それは結婚するとかそういうのとは違うんですか?」
「夫婦であろうとなかろうと、恋人であろうとなかろうと関係ありません」
「・・・」
「本当ですよ?なんでしたらお母さんに確認してもらっても構いません」
「.....わかりました。それは信じます」
「それはってなんですか!それはって!」
「ラズリさんは油断ならないですからね。
俺はラズリさんが思っているよりも、ずっとラズリさんを見ていますよ?」
うっ。うれしいけど.....今はその気持ちがうれしくないです!アユムさんは変に鋭いですしね.....
「それで?きっとなにかありますよね?」
「・・・(ぷいっ)」
「今、あからさまに顔を背けましたよね!?」
教えたらきっと困ると思うんです。それにアユムさんに拒絶されたらと思うと.....
「ダメ.....ですか?」
「はぁ.....別にいいですよ?」
「.....え?本当に?」
「むしろそんな大切な愛名を、俺なんかが呼んでいいんですか?」
「アユムさんがいいんです!アユムさんじゃなければ嫌なんです!」
うれしい!まさかなにも聞かずに受け入れてくれるなんて!アユムさんを好きになって本当に良かった!
早速儀式を済ませて、愛名を呼んでもらおう。
そう企んでいたら、まさかの待ったがかかりました。
「ただし条件があります」
「条件ですか!?」
「愛名を呼ぶのは次回会った時にします。これだけは譲れません」
「ど、どうしてですか?」
「愛名とは特別な名前なんですよね?
今はまだラズリさんの気持ちに応えられるかどうかわかりません。
そんな曖昧な気持ちのままで、大切な名前を呼ぶことに納得できません。
もう少し考えさせてほしいんです。すいません」
・・・。
アユムさんは本当に真面目です。
そのアユムさんが考えてくれるということは、それだけ私のことを真剣に想ってくれているということ。
愛名を呼ばれなかったのは残念ですが、とても幸せな気持ちになりました。
だからこそ私は確認したかった。
「次出会えた時、必ず愛名を呼んでくれますか?」
「約束します。それに俺もラズリさんに会いたいですしね」
アユムさんの純粋な好意がうれしい。それに比べ私ときたら.....
「私はアユムさんを待っていてもいいんですか?」
「.....?あ~。そういう意味なら、別にいい人がいたら待たなくても.....」
私言いましたよね?アユムさん以外の男性に興味ないって!
「.....間違えました。アユムさんを待たせてもらってもいいですか?」
「.....本当ブレないですね。気持ちに応えられるかどうかはわからないですよ?それでもいいなら」
「はい!ずっと待ってます!.....だから必ず会いに来てくださいね?約束ですよ?」
「約束します。必ずラズリさんに会いにきます」
清々しい朝に交わされた一つの約束。
別れるのは寂しいけれど、交わした約束を胸に抱き頑張ろうと思います。
次に出会った時、アユムさんの心を射止められるよう、さらに女に磨きをかけて。
「いってらっしゃい、アユムさん。お気をつけて」
こうして、私の好きなアユムさんは旅立って行きました。
ここで私とアユムさんの冒険は一旦終わりです。
次に出会えたときは、今よりもきっとステキな冒険になることでしょう。
第一部 完
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『アテナ』 レベル:3 危険度:極小
種族:女神
年齢:ーーー
性別:♀
職業:女神
称号:智慧の女神
体力:50
魔力:50
筋力:50
耐久:50
敏捷:50
女神ポイント:7200【↑1200】
【一言】ちょっとー!メインヒロインである私の出番が0ってどういうことー!?
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アユムの所持金:34000ルクア【↓500000】
冒険者のランク:A(クリア回数:3回)
このお話の歩数:約32000歩
ここまでの歩数:約1167900歩
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『アユム・マイニチ』 レベル:1527【↑21】
種族:人間
年齢:26
性別:♂
職業:凡人
称号:女神の付き人
体力:1537(+1527)【↑21】
魔力:1537(+1527)【↑21】
筋力:1532(+1527)【↑21】
耐久:1532(+1527)【↑21】
敏捷:1687(+1627)【↑21】
装備:疾風の剣(敏捷+100)
技能:言語理解/ステータス/詠唱省略
Lv.1:初級水魔法/初級風魔法/初級土魔法
初級光魔法/初級闇魔法
Lv.2:隠密/偽造/捜索/吸収/浄化魔法
治癒魔法/共有
Lv.3:鑑定/剣術/体術/索敵/感知
物理耐性/魔法耐性/状態異常耐性
初級火魔法
共有:アイテムボックスLv.3
パーティー編成Lv.1
固有:ウォーキングLv.1527 261/1528
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後書き
次回、閑話!
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これにて、第一部が終了となります。
閑話を掲載して後、第二部の旅路編に突入となります。
第二部からは、タイトルが「はじめての~」以外になることもあります。
これからも「歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~」をよろしくお願いします。
前回までのあらすじ
俺とスカイさん、どっちを選ぶ?
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side -ラピスラズリ-
□□□□ ~あなたとともにいる幸せ~ □□□□
アユムさんとの雇用契約最終日の夜は、ささやかでしたが精一杯豪勢にふるまいました。
明日アユムさんは旅立ってしまいます。
私の決断次第ではこれが最後の夜になってしまうことも.....
本当はアユムさんに付いていきたいです。
アユムさんと一緒にいると、飾る必要のない素の私でいることができます。
またアユムさんも、素の私を受け入れてくれています。
私は何事にも全力を尽くす性格です。
ただそれが行き過ぎるせいか、お付き合いしていた男性とは上手くいかないことが多いです。
愛が重いと言われたときもあります。ショックです。
私はただあなたに尽くしたいだけなのに.....
また私はよく食べるほうです。
食べることは好きですし、食べている時は幸せです。冒険者の頃からそうでした。
はしたないと言われたときもあります。ショックです。
私はただあなたと一緒に幸せを感じていたいだけなのに.....
そんな私を受け入れてくれたのはアユムさんでした。
愛が重いと言われた私に、一生懸命なだけで好ましいと言ってくれました。
はしたないと言われた私に、一緒に食事をするのが幸せだと言ってくれました。
私の全てを受け入れてくれた男性は、アユムさんだけでした。
アユムさんと一緒にいると、私はとても幸せな気持ちになります。
アユムさんとこれからもずっと一緒にいたい.....
だから一度は決断しました。アユムさんに付いていく!
それは紛れもない本心でした。嘘偽りのない気持ちでした。
そしてきっと受け入れてもらえると思っていました。
私を受け入れてくれた時のように、少し幼く見えつつも頼りがいのある優しい笑顔とともに。
でもそれは叶いませんでした。
いえ、むしろアユムさんは私をよく見ていてくれました。
私の心の奥深くに潜む本心を.....
□□□□ ~お母さんへの想い~ □□□□
私は何不自由なく育てられました。
お父さんやお母さんにも愛されていました。
裕福な家庭ではありませんでしたが、それでもやりたいことを自由にやれるぐらいには余裕がありました。
私はお父さんに憧れていました。
小さい頃に聞かされた冒険譚にいつもわくわくしていました。
だから私は冒険者になりました。少しでも憧れのお父さんに近づきたくて。
.....でも私には才能がありませんでした。
そんな私にお父さんが薦めてくれたのが探索者です。
PTのために貢献できる冒険職。私にぴったりでした。
このころから私は、誰かのために貢献できる喜びを知りました。
当然、お母さんにも憧れていました。
いつもきれいで優しくて料理上手。怒っている姿なんてほとんど見たことがありません。
だから将来はお母さんみたいになりたいと思っていました。いつかお父さんみたいな人と結婚するんだと。
.....でも大好きなお父さんがいつからか帰ってこなくなりました。
死んでしまったと聞いたときは頭が真っ白になりました。そして泣き叫んだものです。
そんな悲しんでいた私をお母さんはいつも励ましてくれました。
お父さんが死んでしまって、一番悲しいのはお母さんのはずなのに。
このころから私は、お母さんの優しさと強さを知りました。
その後も女手一つで育ててくれたお母さんには感謝してもしきれないです。
私は本当に愛されて育てられました。
だからこそ、ふとした時に見せるお母さんの悲しそうな顔は忘れられません。
お父さんを失ったお母さんの悲しみは私には癒せません.....私はお父さんの代わりにはなれないから。
だから私がお母さんにできることは限られています。
お母さんに心配をかけないこと。
お母さんに喜んでもらうこと。
お母さんの笑顔を悲しみの色に変えないよう頑張ること。
そしてひそかに誓ったのです。
私がお母さんを支えていく!お母さんに二度と悲しい思いはさせない!
そして、ギルド職員ラピスラズリが誕生しました。
□□□□ ~変わらないやりとり~ □□□□
静かな夜にかわいい寝息だけが聞こえてきます。
「アテナさんはもう寝ちゃったみたいですね」
「こいつは寝ることと食べることに関しては天才ですからね」
アユムさんはそう文句を垂れつつも、どこか優しげにアテナさんを撫でています。
この二人の関係もよくわかりません。
兄妹と言っていましたが、絶対嘘。
アユムさんのアテナさんに対する接し方は、兄妹のそれとは明らかに違います。
かと言って、恋人のそれとも違う気がします。
なんなんだろう?この二人.....
他にもわからないことばかりです。
召喚された目的が、勇者業ではなく観光だったり。
アテナさんの、上手く言葉にできないぐらいなんとも言えない違和感のある存在感。
アユムさんの、勇者ではないのにありえないぐらいの不自然な強さと万能性。
なんで秘密?どうして打ち明けてくれないんだろう?
アユムさんのことだから何か理由があることはわかります。
だから私も深くは聞こうとしませんでした。
それでも.....どこか悲しさを感じる私がいます。
私が秘密をバラすとでも思っているんでしょうか?
二人の秘密を知ったら、私が二人に対して態度を変えるとでも思っているんでしょうか?
私はそんなに信用がないんでしょうか?
そう思うと、悲しみとともに怒りも沸いてきました。だから私は、
「いたたた!な、なんですか!?」
「アユムさんのバカ!」
「なんで!?」
おもいっきりお腹をつねりました。
鍛えられた腹筋にどきどきしたのは内緒です。
「なんで急に照れてるんです?」
「そ、その.....立派だなって///」
「なにが!?」
「え?腹筋ですが?」
「あ、腹筋ですか.....」
「なにと勘違いされ.....」
そこまで言ってようやく気づきました。
私だってそういうことには興味があります。
「あ、あの.....アユムさんは、り、立派なんですか?///」
「そういうこと普通は聞かないですよ!?」
「み、見てもいいですか?///」
「ダメに決まってんだろ!」
照れちゃってかわいいんですから♥
やっぱりアユムさんと一緒にいると楽しいです。離れたくないな.....
□□□□ ~私の最終決断~ □□□□
私のわがままでアユムさんに抱き締めてもらうことになりました。
最初は渋られましたが、私がどうしてもとお願いしました。
もしかしたらこれが最後になるかもしれないですし.....
アユムさんの体はガッチリしていてとても安心します。
年上とは思えないあどけなさが残りつつも、否が応にも男性なんだなと思い知らされました。
とても温かいです。
どこまでも安心する温かさです。
いつまでも感じていたい温かさです。
でも、この温かさを明日からは感じることができない.....
「.....アユムさん。寂しいです」
「.....もうどうするか決めたんですか?」
「・・・」
「後悔しない選択をしてください」
そんな選択ありません!どちらを選んでも後悔しますよ!
せめてアユムさんが、俺に付いてきてほしい!とさえ言ってくれたら、どれだけ楽になれるか.....
「.....アユムさんはどうしたらいいと思いますか?」
「個人的には、スカイさんを大切にしてあげる方がいいと思います。
俺よりもいい男なんてたくさんいますが、ラズリさんの母親はスカイさんただ一人ですから」
アユムさんの言っていることは頭では理解できます。
でも私は.....それでも私は.....付いてきてほしいと言って欲しかった!
「.....私はアユムさんが好きです。だから他の男性に興味はありません」
「ありがとうございます。ラズリさんの本当の気持ちを知れて嬉しいです」
どうしてもっと早く、この気持ちに気付かなかったんだろう.....
「.....私はアユムさんが好きです。だからアユムさんのお役に立ちたいです」
「ありがとうございます。ラズリさんには助けてもらってばっかりですね、すいません」
謝らなくていいんです!私がアユムさんのお役に立ちたいんですから!
「.....私は.....アユムさんが好きです。だから.....アユムさんにおいしい料理を作ってあげたいです」
「ありがとうございます。ラズリさんの料理はおいしい上に、一緒に食べるのが好きでした」
私も!私もアユムさんと一緒に食べるのが幸せでした!これからだってずっと一緒に.....
「.....わ、私は.....アユムさんが.....好きです.....だ、だから.....本当は.....ずっと一緒に.....いたいです」
「.....ありがとうございます。俺もラズリさんと一緒に入れたらいいな、とは思います」
やめて.....やめてよ!その気にさせるようなことを言わないでよ!私の心を乱さないでよ!
.....アユムさんと離れたくないよぉ。
「.....わ、私は.....私は.....」
「・・・」
むせび泣く私を、アユムさんはギュッと少し力強く抱き締めてくれました。
力強くはありますが、どこか遠慮した感のある力強さ。
本当はもっと力強く抱き締めてくれてもいいのですが、そこがなんともアユムさんらしいです。
アユムさんの優しさに触れる度、私の中のアユムさんがどんどん大きくなりました。
「.....好き.....です!.....本当に.....大好き.....です!」
「.....ありがとうございます。俺もラズリさんのこと好きですよ」
そんな嬉しいこと言わないで!どんどん離れたくなくなってきちゃうから.....
離れたくないです。離れたくはないですが.....私の答えは既に決まっていました。
でも、その言葉をなかなか言い出せずにいました。
言葉にしてしまうと、アユムさんとお別れしなくてはならないからです。
そう、私の答えは、町に残ること。お母さんと一緒にいること。
そして.....アユムさんとは一緒に居れないこと。
悲しい.....
悲しい.....
悲しい.....
悲しさを抑えきれませんでした。
「.....うわあああああああん。離れたくないよおおおおおおお」
だから私はおもいっきり泣きました。
見栄も外聞も全てかなぐり捨てておもいっきり泣きました。
大好きなアユムさんの胸の中で一晩中おもいっきり泣き続けました。
そんなみっともない私を、アユムさんは一晩中ずっと抱擁していてくれました。
アユムさん。ありがとうございます。あなたを好きになれて私は幸せでした。
□□□□ ~再会の約束~ □□□□
.....最悪です。こんなことがあっていいのでしょうか?
アユムさんの旅立ちという日にまさかの失態です。
「おはようございます。よく寝れました?」
「・・・」
いつも通り寝てしまっていました。
しかもだらしない顔で涎を垂らしながらのおまけ付き.....穴があったら入りたいです。
「余程疲れていたんですね。すぐ寝入ったのでびっくりしました」
「・・・」
私はあの後、一晩中泣くどころか、泣き疲れてすぐに寝てしまったらしいです。
どんだけ私の神経は図太いんでしょうか.....
アユムさんと一緒にいれる残りわずかな時間なのに、いつも通りに起きました。
.....最悪。こんなだらしない女、きっとアユムさんは失望したはず.....
私が自己嫌悪に陥っていたら、アユムさんが散歩に誘ってくれました。
しかもさりげなく手を繋いでくれました。顔を真っ赤にして.....かわいい♥
きっと気遣ってくれたに違いありません。そんなささやかな優しさがとても嬉しいです。
「落ち着きました?」
「ありがとうございます」
「急に散歩に誘ってすいません」
「いえ。少しでも長くアユムさんと一緒にいたいですから」
「俺も同じ気持ちです。だから誘いました」
「.....せっかく気持ちの整理ができたのに、また乱すつもりですか?」
アユムさんは申し訳なさそうにしていましたが、私の気持ちは既に固まっています。
「私はここに残ることにします.....寂しいですが、それでも大切なお母さんですから」
「はい。今までお世話になりました。ありがとうございます」
そこには私が愛した優しい笑顔がありました。
本当はいつまでも見ていたい笑顔ではありますが、それは叶いません。
いつまでも駄々をこねていてはアユムさんに迷惑をかけてしまいます。
だから私は笑って見送ることにしました。
「アユムさん。後悔しないでくださいね?」
「なにをです?」
「こんなにいい女、そうそういないですよ?誰かに取られても知らないですから!」
私の精一杯のギャグでした。
いつも押してばかりの私が、初めて引いてみたのです。
「お、驚きました。それにしても.....」
「なんですか?」
「確かにラズリさんの言う通りです。他の誰かに取られると思ったら、ちょっと悔しい気がします」
「あぅ.....///」
うれしい.....アユムさんの好意がすごく伝ってきました。
初めてアユムさんに一人の女性として見られた気がします。
本気でアユムさんのものになりたいとさえ思いました。
だから私は決意しました。
今しかそのチャンスはありません。
結局私は押し続けるしかないのかもしれません。
それでもきっとアユムさんなら、そんな私を受け入れてくれるはずです。
「アユムさんにお願いがあります」
「なんですか?」
「.....ラピス」
「え?」
「ラピス、と呼んでほしいです」
「えっと?どういうことですか?」
「この世界では、特別な名前を呼ぶことにとても大切な意味があります。
愛称とはまた違う、愛名と呼ばれる特別な名前です。
そして私の愛名はラピスです。
その愛名を呼んでいいのは、生涯この人と決めた人だけです。
だからアユムさんには、ぜひ私の愛名で呼んでほしいです」
愛名は親しい人でも、例え親子であっても呼ぶことは許されません。
それだけ特別な意味があります。
そしてそれはお互いの承認があって初めて成立します。
成立していない愛名は所詮愛称に過ぎません。
「愛名.....なるほど。それは結婚するとかそういうのとは違うんですか?」
「夫婦であろうとなかろうと、恋人であろうとなかろうと関係ありません」
「・・・」
「本当ですよ?なんでしたらお母さんに確認してもらっても構いません」
「.....わかりました。それは信じます」
「それはってなんですか!それはって!」
「ラズリさんは油断ならないですからね。
俺はラズリさんが思っているよりも、ずっとラズリさんを見ていますよ?」
うっ。うれしいけど.....今はその気持ちがうれしくないです!アユムさんは変に鋭いですしね.....
「それで?きっとなにかありますよね?」
「・・・(ぷいっ)」
「今、あからさまに顔を背けましたよね!?」
教えたらきっと困ると思うんです。それにアユムさんに拒絶されたらと思うと.....
「ダメ.....ですか?」
「はぁ.....別にいいですよ?」
「.....え?本当に?」
「むしろそんな大切な愛名を、俺なんかが呼んでいいんですか?」
「アユムさんがいいんです!アユムさんじゃなければ嫌なんです!」
うれしい!まさかなにも聞かずに受け入れてくれるなんて!アユムさんを好きになって本当に良かった!
早速儀式を済ませて、愛名を呼んでもらおう。
そう企んでいたら、まさかの待ったがかかりました。
「ただし条件があります」
「条件ですか!?」
「愛名を呼ぶのは次回会った時にします。これだけは譲れません」
「ど、どうしてですか?」
「愛名とは特別な名前なんですよね?
今はまだラズリさんの気持ちに応えられるかどうかわかりません。
そんな曖昧な気持ちのままで、大切な名前を呼ぶことに納得できません。
もう少し考えさせてほしいんです。すいません」
・・・。
アユムさんは本当に真面目です。
そのアユムさんが考えてくれるということは、それだけ私のことを真剣に想ってくれているということ。
愛名を呼ばれなかったのは残念ですが、とても幸せな気持ちになりました。
だからこそ私は確認したかった。
「次出会えた時、必ず愛名を呼んでくれますか?」
「約束します。それに俺もラズリさんに会いたいですしね」
アユムさんの純粋な好意がうれしい。それに比べ私ときたら.....
「私はアユムさんを待っていてもいいんですか?」
「.....?あ~。そういう意味なら、別にいい人がいたら待たなくても.....」
私言いましたよね?アユムさん以外の男性に興味ないって!
「.....間違えました。アユムさんを待たせてもらってもいいですか?」
「.....本当ブレないですね。気持ちに応えられるかどうかはわからないですよ?それでもいいなら」
「はい!ずっと待ってます!.....だから必ず会いに来てくださいね?約束ですよ?」
「約束します。必ずラズリさんに会いにきます」
清々しい朝に交わされた一つの約束。
別れるのは寂しいけれど、交わした約束を胸に抱き頑張ろうと思います。
次に出会った時、アユムさんの心を射止められるよう、さらに女に磨きをかけて。
「いってらっしゃい、アユムさん。お気をつけて」
こうして、私の好きなアユムさんは旅立って行きました。
ここで私とアユムさんの冒険は一旦終わりです。
次に出会えたときは、今よりもきっとステキな冒険になることでしょう。
第一部 完
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『アテナ』 レベル:3 危険度:極小
種族:女神
年齢:ーーー
性別:♀
職業:女神
称号:智慧の女神
体力:50
魔力:50
筋力:50
耐久:50
敏捷:50
女神ポイント:7200【↑1200】
【一言】ちょっとー!メインヒロインである私の出番が0ってどういうことー!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アユムの所持金:34000ルクア【↓500000】
冒険者のランク:A(クリア回数:3回)
このお話の歩数:約32000歩
ここまでの歩数:約1167900歩
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『アユム・マイニチ』 レベル:1527【↑21】
種族:人間
年齢:26
性別:♂
職業:凡人
称号:女神の付き人
体力:1537(+1527)【↑21】
魔力:1537(+1527)【↑21】
筋力:1532(+1527)【↑21】
耐久:1532(+1527)【↑21】
敏捷:1687(+1627)【↑21】
装備:疾風の剣(敏捷+100)
技能:言語理解/ステータス/詠唱省略
Lv.1:初級水魔法/初級風魔法/初級土魔法
初級光魔法/初級闇魔法
Lv.2:隠密/偽造/捜索/吸収/浄化魔法
治癒魔法/共有
Lv.3:鑑定/剣術/体術/索敵/感知
物理耐性/魔法耐性/状態異常耐性
初級火魔法
共有:アイテムボックスLv.3
パーティー編成Lv.1
固有:ウォーキングLv.1527 261/1528
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
次回、閑話!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これにて、第一部が終了となります。
閑話を掲載して後、第二部の旅路編に突入となります。
第二部からは、タイトルが「はじめての~」以外になることもあります。
これからも「歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~」をよろしくお願いします。
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