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第6章 安らぎの時間と魔剣フォルキナ

~提案と覚悟~③ side-あかり-

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サーシャの世界

「俺は見世物じゃないんだがなぁ.....」

雄司君が苦笑をしながらも、かつて王都でしてくれたように見学セットを用意してくれた。
(※かつての話の詳細は第26話を見てね!)

なんだかんだ文句を言いながらも、ちゃんと気遣ってくれる雄司君は優しいよね。
素直じゃないところがちょっと可愛い。

「あかり。紅茶はいいんだよな?」
「うん。それは私が用意するよ!」

私は苦笑しながら答えた。

雄司君が用意すると、レモンティーだけになっちゃうからね。
相変わらず雄司君は紅茶に興味はないみたい。
リアさん、かわいそう.....

今、私とサーシャさん、セリーヌちゃん、エステルちゃんのお嫁さん組とクラスメートである、なっちゃん(黒川凪)、すーちゃん(赤石すみれ)、こまちゃん(青山こまち)、あっちゃん(翠川茜)はサーシャの世界で雄司君の鍛練の見学をしているところだよ。

たまちゃん(向井珠恵)はベッドで眠ってる。


どうしてこんなことになっているのか.....

それは少し前まで遡る。

□□□□

商都リブループ・ユウジ別荘リビング

雄司君が私の為に、なっちゃん達に滞在を促す提案をした時には本当に驚いたよ。
なっちゃん達も雄司君の話を聞いて真剣に考えているみたい。

雄司君の言う通り、命を大切にして欲しいな。

「そんな訳で話は以上だ。俺はこの後やることあるからもういくぞ?委員長達はゆっくりしていってくれ。あかりもせっかくの休みなんだし、委員長達とゆっくり話でもしてくつろいでくれ。エステルも自由にしてくれていいからな」

そう言うと雄司君は、話は終わりだとばかりに立ち上がった。

私はもともと、この後の予定は何もないから、なっちゃん達と一緒にいるつもりだったよ。

それはいいんだけど.....

エステルちゃんと一緒に行動しないなんて珍しいかも?
いつも雄司君とエステルちゃんは一緒にいるのに。

やることってなんだろ?


気になった私は雄司君に尋ねてみた。

「やることってなに?」

「ん?鍛練だな。昨日サボっちゃってさ。習慣ってさ、一度疎かにするとそのままズルズルいくような気がしないか?そのせいかそわそわして落ち着かないんだよ」

そう言うと、雄司君は恥ずかしそうに頭を掻いた。

雄司君は傲慢で我が儘なところが目立つけど、こういうところは意外と真面目だよね。
それに普段は大人びているのに、何気ない仕草に少年っぽさが出ててすごく可愛く感じる。

それにしても鍛練かぁ。
王都以来見ていないかも。

.....あれ?
そもそもいつ鍛練しているの?


私が疑問に思っていたら、思わぬ形でそれは解決したよ。

「鍛練?そう言えば.....お師匠様はいつ鍛練しておるのじゃ?妾は見たことないのじゃ」

いつも一緒にいるエステルちゃんですら見たことないみたい。

となると、王都の時みたいに深夜なのかな?
でも、なんで深夜に?今の雄司君はあの時とは違うし。


「みんなが寝た後に毎日してるぞ?」
あっ。やっぱりそうなんだ。でもなんで?

「なんで寝た後なのじゃ?普通に鍛練すればいいじゃろ」
そうそう。てか、エステルちゃんはズバズバ聞いていくなぁ。

「いいのか?」

そう言うと雄司君は、心底呆れたような表情で私やエステルちゃんを見渡した。

え?なんだろう?
私達が原因なの?


「仮に俺が日中に鍛練したとしよう。そうしたらその鍛練に費やした時間分、エステルにはなでなでできなくなるし、あかりとはいちゃいちゃできなくなるんだが?いいんだな?」

「ダメなのじゃ!」
「ダメだよ!」

私とエステルちゃんがシンクロしながら答えた。

「あんたたちね.....」

なっちゃんが呆れたような顔をしているけど.....

違うの!なっちゃん!
雄司君との時間は何よりも大切なんだよ!
ただでさえ競争相手が多くてなかなか時間取れないのに、更にそこから時間が減るとか無理だよ!


「お、おぅ。だから夜なんだよ」
そっか。私達の為なんだね。優しいな、雄司君。

「理由はわかったのじゃ。妾は暇じゃし、見学してよいかの?」
あっ!ずるい!絶対いちゃいちゃするつもりだ!

「雄司君。私も見学したいな。ダメ?」
「はぁ?別に構わないが.....面白くはないぞ?」

このやりとり、なんか懐かしいかも。

「せっかくだし、なっちゃん達もいこ?」
「え?私達も?」
「見学だけなんだし、そこでみんなでお茶にしよ!」

滞在の件とかいろいろ話したいしね!
久しぶりに雄司君の鍛練も見れて、しかもなっちゃん達とお茶もできる。

まさに一石二鳥だね!


でも、私のそんな提案に驚いたのは雄司君。

「はぁぁ!?委員長達もくるのか!?」
え?ダメなの?問題ないよね?

「雄司君.....ダメ?」
「うっ。べ、別にいいけどさ」
「ありがとう!雄司君!大好き!」

そう言って、そのまま私は雄司君の胸へと飛び込んだ。

抱き留めてくれた雄司君の腕はたくましくて、すごくドキドキしたよ。


こうして、サーシャの世界で鍛練していた、サーシャさんやセリーヌちゃんも交えて、雄司君の鍛練の見学会が始まったよ!


そして冒頭に戻る。

□□□□

サーシャの世界 

今私達の目の前で、雄司君は筋トレをしているよ。
どうやら鍛練内容は王都の時とあまり変わってないみたい。

「私も実はユウジ様の鍛練って見たことないんですよ」
「セリーヌもこちらの世界ではないですの!」
サーシャさんやセリーヌちゃんも見たことないんだね。

なんだかちょっと優越感。
みんなの知らない雄司君を私だけがたくさん知ってるってことだよね!

まぁ、その優越感も今回で終わりなんだけど.....


私がちょっと残念に思っていたら、私の膝上に座って見学していたエステルちゃんが疑問を呈してきた。

「にしても、地味な鍛練じゃの。お師匠様ほどの強者ならこんな地味な鍛練いらないのではないか?」

ふふ。本当に懐かしい。
私と同じことを言ってる。

.....仕方ないなぁ。

以前私が雄司君に教わったように、今度は私が教えてあげないとね!

「えっとね.....」

「基礎みたいなもんなんじゃないの?スポーツでもそうだけど、超一流の選手ほど基礎を疎かにしないものよ?基礎は全ての基本だしね」

・・・。

私の代わりになっちゃんが答えちゃった。

「ほほぅ!なるほどなのじゃ!委員長とか言ったかの?そなた、なかなかわかっておるのじゃ!」

・・・。

「さすが委員長だ。スポーツバカなだけあるな」
「誰がスポーツバカよ!あんたは真面目に鍛練しろ!」

・・・。

しかも、雄司君のお褒め付き.....

.....ぐすっ。
なっちゃん。ひどいよ.....

□□□□

その後も雄司君の筋トレは続いてる。
結構たっぷり時間かけるんだね。

「う~む。わからんのじゃ」

またエステルちゃんが疑問に思ってるみたい。

それにしても、よくいろいろ気がつくなぁ。
この頭の回転の早さを雄司君が気に入るのもわかる気がする。

「今度はどうしたの?」

「アカリは不思議に思わぬのか?お師匠様の掻いてる汗の量が尋常じゃないのじゃ。いくら基礎鍛練とは言え、あんなに汗をかくものじゃろうか?気になるのじゃ」

そういうものなんだ。
私はあまりしないからよくわからないけど。

エステルちゃんに言われて、改めて雄司君をじっくり観察してみる。

確かに滝のような汗をかいているかも?
王都の時はあんなに汗かいていなかったような.....

なんでだろう?
気になるけど、雄司君の鍛練の邪魔しちゃうのは悪いしなぁ

雄司君は私達が見守る中、黙々と鍛練を続けている。
ちょっと話し掛けられない雰囲気なんだよね。


でも、その問題を解決したのはやっぱりエステルちゃんだった。

「お師匠様!質問なのじゃ!」
ええ!?普通に話し掛けちゃうの!?

「ハァハァ・・・エステル?なんだ?」

雄司君は苦笑しながらも、怒る気はないみたい。

エステルちゃんは本当にすごいな.....
ちょっと羨ましいかも。

「なんでそんなに疲れていたり、汗をかいておるのじゃ?」
「.....いい質問ですね~!」
池○彰さん!?雄司君、実はまだまだ余裕あるんじゃ.....

そんなエステルちゃんの質問に、雄司君がひとしきり考えて出した答えは、

「委員長なら、もしかしたらわかるんじゃないのか?」
「え?私?」

突然話を振られたなっちゃんは驚きつつも、考えてみるみたい。

それはいいんだけど.....

雄司君はなんかなっちゃんばかりに話し掛けてるよね?
私にも話し掛けてよ!

.....まぁ、話を振られても全然わからないんだけどね。

「う~ん.....あ!もしかしてリストバンドみたいなことをしているとか?」

「正確には違うが正解だ。さすが委員長だな。こういう分野だけは輝く」

むぅ。
また褒められてる。
なっちゃんいいなぁ.....

「あんた、さっきから喧嘩売ってんの?」
「冗談だよ、怒るなって」

しかも楽しそうに話してるし
.....なんか寂しいな

「お師匠様、どういうことなのじゃ?」
「簡単に言うと、重力魔法を身体にかけてるんだよ」
「なるほど。自ら負荷をかけておるのじゃな?」
「ユウ様!セリーヌもユウ様と同じ重力を体験してみたいですの!」

あっ。それ私もちょっと興味あるかも。
これなら話についていけない私でもなんとかなるしね!

セリーヌちゃんの言葉に私を始め、サーシャさん、エステルちゃん、そしてなっちゃんも申し出たよ。

そんな私達をぐるっと見渡した雄司君が一言。

「エステルと委員長はダメだな。身体が壊れるかもしれん」
.....え?なっちゃんはともかくエステルちゃんも!?

私達よりかはぐっとステータスが落ちるとは言え、そのエステルちゃんも危ないとか.....ちょっと不安かも。

.....でも、

不安なんだけど、ちょっと嬉しい半面もあるんだよね。
初めてなっちゃんに勝った気がして。


結局私とセリーヌちゃん、サーシャさんが体験することになったんだけど.....

雄司君に重力魔法をかけてもらった瞬間、

「ななななななに、これ!?う、動けないよ!?」
私はかろうじて立ってはいられたけど、全く動けなかったよ。

「くっ。。。」
サーシャさんはかなり辛そう。膝ついてるし。

「サーシャ姉も、アカリもだらしがないですの」
セリーヌちゃんはかなり余裕がありそう。なんともないの!?

そんな私達を見て、意地悪そうな微笑みを向ける雄司君。
こうなることを予想していたのかな?

「まぁ、セリーヌ以外は予想通りだな。基本的には筋力がものを言うトレーニングだしな」

そ、そうなんだ.....
と言うか、こんな状態でトレーニングしてるとかさすが雄司君だね!

「ちなみにどれぐらいの重さなのじゃ?」
「10トン程だな」
「「「「「「「10トン!?」」」」」」」

セリーヌちゃん以外のみんなが驚き呆れた瞬間だったよ

それって人間が堪えられる重さじゃないんじゃないの?
人の領域を軽く越えてるとか凄すぎるよ!


そんな感じで私が驚いていたら、

「それはすごいんですの?」
「う~ん?普通じゃね?」

・・・。

なんでもないかのように話すセリーヌちゃんと雄司君。

そんな光景を見ると、改めて雄司君だけではなく、そのお嫁さんであるセリーヌちゃんにも驚かされる。

雄司君のまわりはすごい人だらけだよね。
賢いエステルちゃんに、強いセリーヌちゃん。

.....なんか私だけ平凡な気がするよ。

□□□□

サーシャの世界

───ゴオオオン!
───ブオオオン!
───ゴオオオン!

「は、白兎はなにをしているの?」
「素振りじゃない?」

なっちゃんが尋ねてきたので答えたんだけど、

「いやいや!あんなすごい音をたてる素振りとか見たことないから!」

慌てて否定してきたよ。

でも、素振りだよね?あれ。
あまりスポーツを知らない私でも見たことあるしね。

「私はそういうことを言いたいんじゃないの。あかりは本当に天然だよね」

え?どういうこと?
雄司君がしてるのは素振りでしょ?

「まぁ、お師匠様のことじゃから、あの剣もなにかしらの工夫がしてあるのじゃろう」

エステルちゃんは相変わらず興味深そうに、雄司君の鍛練を眺めていた。

なるほどね。
なっちゃんが驚いていたことから、そう判断したんだ。
私なんて普通に雄司君の真剣な表情にみとれてただけだったよ。


「それにしても白兎ってあんな顔するんだ。ちょっと意外かも」
「でしょ!カッコイイよね!」

なっちゃんも雄司君の魅力に気付いたのかな?
でも雄司君は渡さないからね!私の雄司君なんだから!

「え?カッコイイとかじゃなくて.....学園にいた時は死んだ魚のような表情だったじゃない?それに比べたら生き生きしてるなって」

し、死んだ魚のような表情って.....
そんな表情してなかったような?

・・・。

.....あれ?

そう言えば、雄司君は普段どんな表情してたかな?
改めて言われると思い出せないかも.....

というか、私は思い出せないのに、なっちゃんが知ってるってどういうこと?

「.....意外となっちゃんって雄司君を見てるんだね」
「私はクラスの委員長だしね。いちお、よ?」
確かにそうかもしれないけど。

なっちゃんは責任感強いから言いたいことはわかるよ?
.....でもなにか気になる。

「本当にそれだけ?」
「え?どういう意味?.....あっ。あかり?もしかしてやきもち妬いてるの?」

なっちゃんはニヤニヤしながら、それはもうからかうような調子で聞いてきた。

「もう!なっちゃんのいじわる!」
「へ~。あのあかりがやきもちね~」

むぅ。
少し気になる言い方かも。
それにまだまだニヤニヤしてるし!

私はほんのちょっとなっちゃんに腹を立てながら、キッと睨んだ。
でもそんな私とは対称的に、なっちゃんの表情は柔らかいものだった。温かさえ伺えたよ。

「本当に白兎のこと好きなんだね」
「うん」
「安心して。私は白兎の事なんてなんとも思ってないから」
「なっちゃん.....ごめんね。やきもち妬いたりして.....」

なんで私はなっちゃんに対して、こんなにやきもち妬いたりしているんだろう?
サーシャさんやセリーヌちゃん、エステルちゃんにはそんな気持ちあまり沸かないのに.....

「.....まぁ、今の真剣な表情の白兎はちょっといいかな?って思うけど」
「なっちゃん!?」

「ふふふ、冗談よ。あかりは純粋すぎ!心配だわ~。ちゃんと白兎に守ってもらいなさいよ?」
「もう!なっちゃんのいじわる!嫌い!」

なっちゃんはこんなにも私のことを心配してくれているんだよね。

「あら、あかりに嫌われちゃった」

心配してくれてありがとう、なっちゃん。

「なっちゃんなんて嫌い.....でも!大好き!」

そう言い終わると私は、いつもそうしているように隣に座るなっちゃんに思いっきり抱き着いた。


私の親友なっちゃんはやっぱり大好きな親友なっちゃんだったよ。
本当にありがとう!大好き!


・・・。

「それにしても、まさか親友にやきもち妬かれるとは思わなかったわ。あかりの相手が白兎ってのが今だに信じられないけどさ」

雄司君だからいいんだよ?
わかってないなぁ、なっちゃんは。

「でも頑張ってね!応援してるから!」
ありがとう、なっちゃん。すごく嬉しいよ。

.....でもね?

応援してもらっておいてなんだけど、
私は既に雄司君と婚約しているんだよね。

・・・。

「あんた達複雑すぎ!私の純粋な気持ちを返しなさいよお!」

.....そ、そんなこと私に言われても困るよ。

□□□□

私となっちゃんが恋バナしている間も雄司君は淡々と鍛練に励んでいたみたい。

今は刀を2本持って、剣舞?みたいなものをしているよ。
かつて私が王都で見た、心から惹かれた鍛練だね。

でも、そもそもこれってなんなんだろう?


私が疑問に思ったように、どうやらエステルちゃんも疑問に思ったみたい。

「お師匠様はなにをしておるのじゃ?委員長はわかるかの?」
「さすがに私もわからないわね」

エステルちゃんはごく当たり前のように、なっちゃんに尋ねていたよ。

ふ~ん。
エステルちゃんもなっちゃんもわからないんだ。

というか、この二人仲良くなりすぎじゃない?

「でも、私はこの鍛練を見るの好きだよ。すごくきれい」

私は思ったことを素直に言葉にしてみた。

きっとなっちゃんやエステルちゃんもわかってくれるはず。

「きれい?アカリはなにを言っておるのじゃ?」
「ごめん、あかり。ちょっと何言ってるかわからないわ」

.....でも現実は非情だったみたい。

・・・。

わかってくれなくてもいいもん!

てか、二人とも仲良くなりすぎだよ!
そんな連携を私は望んでないよ!


私が心の中で拗ねていたら、当然のようにエステルちゃんが、

「お師匠様!なにをしておるのじゃ?」
あっ。やっぱり聞くんだ。本当に遠慮しないんだね。

優雅に(私だけにそう見えるらしい)舞っていた雄司君の動きが止まる。

こちらを見る雄司君は相変わらず苦笑気味だけど、ちゃんと答えてくれるみたい。

エステルちゃん、愛されてるなぁ。
王都の時、私は怒られたのに。
これがお嫁さんとそうじゃない時の差なのかな?
今の私ならエステルちゃんみたいに怒られないかな?

私は、エステルちゃんと違ってもしかしたら怒られるかもとの怖い気持ちと、お嫁さんになったんだから大丈夫かもとの期待する気持ちが入り混じった複雑な想いになった。


そんな私の想いを知らずに、雄司君はエステルちゃんの質問に答えていた。

「シャドーボクシングの剣術版だな。仮想の相手をイメージして戦ってるんだよ」

確かに言われて見れば、そんな感じに見えなくないかも。

「誰をイメージしてたのじゃ?」

あっ!そうか!
仮想の相手ってことは誰かをイメージしてるのか!
エステルちゃんは鋭いね!

誰をイメージしてたのか私も気になる!

「俺が今まで戦ってきた相手で最強のやつだな」
「ヘイネ様ですか?」

サーシャさんがすかさず雄司君に尋ねていた。

.....え?
雄司君ってヘイネさんと戦ったことあるの?
最愛なのに?

「違う。確かにヘイネは今まで戦ってきたどんな相手よりも強いのは間違いないんだが.....俺は手も足も出なったからなぁ。イメージの相手としては不適任すぎるな」

雄司君が手も足も出なかったって.....
やっぱりヘイネさんはすごいんだね。女神様だしね。

「ヘイネ様でないとなると、アカリさんですか?」

.....え?
ヘイネさんの次にくるのが私なの!?
確かに善戦はしたけど、さすがにないんじゃないかな。

「あかりでもないな」
そ、そうだよね。うん、わかってたよ。

「あかりやセリーヌは確かに強い。イメージの相手としても悪くはないんだが、勝てないと思ったことはないんだよ。このトレーニングで大事なのは、同格か格上の相手を想定することが重要なんだ。次の鍛練に活かす為のものだしな」

そうなんだ。
というか、セリーヌちゃんとも戦ったことあるんだ。
いつももふもふしてるイメージしかないんだけど。

「ユウ様!セリーヌ、わかりましたの!」
び、びっくりした!

セリーヌちゃんが突如、自信ありげに大声を出した。
セリーヌちゃんは元気良すぎ!

「ユウ様、マリー姉様ですの?」
「正解。俺の中では、ヘイネを除くとマリーこそが絶対強者だからな」

マリーさんって、確か雄司君の恋人の1人だっけ?
うろ覚えだけど、すごい嫉妬深いとか聞いたよ。

「わかりますの。マリー姉様は強すぎますの!美しすぎますの!セリーヌの憧れですの!」

あの優しいセリーヌちゃんが憧れる相手なんだ。
ちょっと興味あるかも。

「あかり、あかり。マリーって誰?」
あっ。そっか。なっちゃん達は知らないよね。

「雄司君のお嫁さんの1人だね。雄司君の師匠でもあるらしいよ」
「はぁ?白兎はまだ恋人いるの!?恋人何人いるのよ!全く!」

いやいや、なっちゃん。
雄司君はマリーさんだけでなく、リアさんもいるんだよ。
それにサリーちゃんやアイサさん、アマリリスちゃんにアオイちゃん、あとし~ちゃん(詩乃)もお嫁さん候補になるかもしれないしね。

雄司君の女性関係に憤慨しているなっちゃんをなだめながら、私は改めて雄司君に尋ねてみたよ。

「ねぇ、雄司君。改めてマリーさんってどんな人か教えて?」

私だけでなく、サーシャさんやエステルちゃんも興味津々みたい。

そうだよね。
なんかすごい人みたいだし、気になるよね!

「簡単に言うと、すごい美人な魔王でヤンデレ気質な天才かな」
「「「「魔王!?」」」」

なっちゃん達がギョッとした感じで驚いている。

あ~.....なっちゃん達にちゃんと説明するの忘れてたよ。


「雄司君の他の恋人なんだけどね。女神様に、魔王なんだよ」
「神様もいるの!?」
まぁ、普通は驚くよね。私もそうだったし。

「それだけじゃないよ?そもそもなっちゃんも紹介されたセリーヌちゃんは王女みたいだし、なっちゃんが今まで親しげに話してたエステルちゃんは公爵令嬢だよ?」

私の言葉に更に驚いたなっちゃんは、私の膝上でくつろいでいるエステルちゃんに恐る恐る尋ねていた。

「エ、エステルさんは貴族なの?」
「いかにも。妾は帝国エクスペインの皇族に連なるものじゃ」
「皇族に連なるって.....大貴族じゃない!」
いやいや。ちゃんと公爵令嬢って言ったよね?

「女神に、魔王に、王女に、大貴族・・・?ど、どうなってるの???」

なっちゃんはすごい錯乱してるみたい。
頭から煙りが出そうなぐらいオーバーヒート中なのかもしれない。
気持ちはわかるよ。すごいわかるんだけど.....

なっちゃん!

そこにメイドであるサーシャさんや幼なじみである私も含めてよ!
他のみんなと比較すると確かに身分差はあるけど、私達も雄司君のお嫁さんの一人なんだから!

「な、なんでそんなすごい人達が白兎のことを?」

そんななっちゃんの無意識の内に搾り出された言葉に私達は一斉に、

「ユウジ様だからですね❤」
「ユウ様だからですの❤」
「雄司君だからだよ❤」
「お師匠様だからなのじゃ❤」

みんな気持ちは一緒みたいだね。
きっと今この場にいない、ヘイネさんやマリーさん、リアさんも同じ気持ちなんだと思う。

「.....あぁ、そう。答えになっていないけどね?聞いた私がバカだったわ」

私達の答えを聞いたなっちゃんは、心底呆れたような、もはやどうでもいいことのような低い声でつぶやいた。

そんな!?
なっちゃん、ひどい!?

□□□□

なっちゃん達が落ち着いたところで、改めてマリーさんについて質問が飛びかったよ。

「そうだなぁ。俺の中での美人の代名詞はあかりなんだよ」
「わ、私!?えへへ」
「やったじゃない!あかり!」

まず最初に質問したのはサーシャさん。

すごい美人ってところに食いついたみたいだね。
サーシャさんは笑顔を愛されているから気になるのかも。

「ヘイネさんよりも?」
「ヘイネ.....と同じぐらいだな」
もう!またそれ!.....でも嬉しいな。

「でも、マリーはあかりやヘイネに負けないぐらい美人なんだ。まぁ、サキュバス種だから美人なのは当たり前なんだけどな」

「サキュバス.....ですか?」
「マリー姉様はお美しいですの!セリーヌもみとれましたの」
「サキュバスがなんで当たり前に美しいのじゃ?」
「ねぇ、なっちゃん。サキュバスってなに?」
「さぁ?私も知らないわね」

セリーヌちゃんは置いとくとして、なんだろう?
雄司君はサキュバスを知ってるのが当たり前な感じで話してるけど.....

「な、、んだと!?サキュバスを知らないだと!?」

雄司君すごい驚いてる。
やっぱり知っていないといけないことなのかな?

「いいか?お前ら。サキュバスってのは夢魔のことだよ!男性にエッチなことをするのがお仕事な美人な悪魔!サキュバスが目の前に現れたら、大抵の男は期待しちゃうぐらい男の欲望の化身!羨望の現れ!希望の女神なんだよ!」

「雄司君の女神はヘイネさんでしょ!?」

私のツッコミはいいとして、雄司君はすごい興奮して一気にまくしたてた。

ふ~ん。
要はエッチな人ってことでしょ?
雄司君も例に漏れなく好きなんだね。

そう結論付けている私の側からただならぬ雰囲気を感じたよ。

なんかこうヌメッとしたような、ドロッとしたようなあまり気分の良くない雰囲気。

私はこの気配を知っているよ?
あの雄司君も心底恐れる強烈なオーラ。

「.....ユウジ様?」
「.....お師匠様?」
「.....白兎?」

ひぃぃ!怖いよぉ!
なんかなっちゃんも加わってる!?

そう、サーシャさん達のおなじみの嫉妬という名の強烈なオーラ。

「ひぃ!な、なんで委員長もいるんだよ!?」
「あんたにはあかりがいるでしょ!本当最低ね!」
.....なっちゃん。ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいよ

「というか、なんであかりは怒らないわけ?」

雄司君に向いていた怒りの矛先がなぜか私に向いてきた。
なっちゃんは信じられないといった感じで詰め寄ってくる。

怖い、怖いよ!
怒りの矛先を私に向けないで!

「う~ん。私は雄司君の側にいられるだけでも幸せだからかな?」
「はぁ?さっき私にやきもち妬いてたじゃない」
「なっちゃんは親友だからかな?負けたくない!って思うよ」
「なによそれ。もう調子狂うわ。普通怒るところよ?」
そうなのかもしれないけど、私は幸せだよ?

雄司君がエッチな人なのは前々から知ってたしね。
それでも雄司君が私を愛してくれるなら、私はそこには不満はないよ!


結局サーシャさん達の嫉妬によって、雄司君は逃げるようにして鍛練を再開し始めたよ。
自然とマリーさんの質問会はお開きだね。

.....残念。
もうちょっとマリーさんについて聞きたかったかな。

「はぁ.....」

そんな時、なっちゃんから大きなため息が一つ。

「どうしたの?」
「白兎の非常識さがよくわかったわ」

それ今更だよ。なっちゃん。

「あかりが本当に白兎のことを好きみたいだから、白兎にあかりを任せようと思ったんだけど.....」
「だけど?」

なっちゃんが一息いれる。
その表情は全てのウミモノが取れた清々しい笑顔だったよ。

「白兎には安心してあかりを任せられないわ!だから私があかりを守ってあげる!」
「え?それってどういう意味?」

私を守る?
そう言えば、昔もそう言ってくれたよね。
でも今はあの時とは違う。この場合だと.....

.....え?も、もしかしてそういうこと!?

「白兎の好意ってのが癪だけど、しばらく滞在させてもらうことにするわ!あかり、改めてよろしくね!」
「なっちゃん!嬉しい!!」

私はあまりの嬉しさに、いつものようになっちゃんに抱き着いた。


こうして、なっちゃんとすーちゃん、こまちゃん、あっちゃん、たまちゃんが滞在していくことになったよ。


本当に嬉しい!
これからもよろしくね!なっちゃん!

□□□□

それから後、雄司君になっちゃん達が滞在していくことを伝えたんだけど、

「はぁ?まだ悩んでたのかよ?本当バカだな、委員長達は」
「誰がバカよ!あんたにあかりを任せられないわ!」

雄司君となっちゃんが言い争い始めたよ。

「何言ってんだよ。あかりは俺のものなんだよ」
「あんたのものでも、あかりは私の親友よ」
「ふふ。本当二人とも素直じゃないね」

本当素直じゃないよね。
お互い安心してるはずなのに。

「「はぁ!?あかりはなにいってんの!?」」

・・・。

.....本当に二人とも仲良いよね!

負けないからね!なっちゃん!
私の雄司君なんだから!


どうやらこの先も、やきもちとは長い付き合いになりそうかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

滞在理由の落としどころはこんな感じとなりました。
現実よりかは友情のほうが滞在理由にはいいんじゃないか、と考えた結果です。

いよいよこの、~提案と覚悟~編の覚悟パートに突入して終了となります。

引き続き、よろしくお願い致します。
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 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

クラス転移で神様に?

空見 大
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空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
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18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

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ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

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