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オルコット領への帰路、アシュリーは、合間を見ては、婚約者だった頃にブラッドから聞かされたり、人から聞かされた戦歴などを紙にまとめ始めた。
アーネストが言った、ブラッドの戦いなどについて調べるためである。
無論、王国の記録官にブラッドの戦歴などの写しを寄こすよう申請するなど、他にも情報収集を怠ってはいない。
そうやってまとめた資料を、領内の屋敷に帰り着き、夕食をすませてから広げて読んでみた。
10歳でアカデミーに入学。
同じ年にアシュリーも入学しており、二人は同級生である。
ブラッドは、5歳で教師役の騎士を気絶させた剣技で、上級生たちをことごとく打ち負かす。
腹を立てた上級生に生涯初となるデュエルを挑まれる。
デュエルを挑んだ上級生は、素行不良でならした男で、王都のゴロツキを百名ほど集め、ブラッドを包囲して屈服させようとする。
「いや、この時は参ったよ。デュエルのことは知っていたけど、アカデミー内では代理人がせいぜいと聞いていたから。持って行った武器も模擬刀だったし。」
どうやってその窮地を脱したのかと聞くと
「いや、無我夢中でよく覚えていない。とにかく武器を、と考えていたのは覚えている。近くにいたゴロツキを殴って武器を奪った。幸いなことにそれが剣でね、後は上級生を目指して剣を振るった。返り血が目に入ってよく見えなくなるし。」
そんな状態のブラッドは、10名を死亡させ、13名を負傷させる戦いぶりで、逆に上級生を降伏に追い込んでいる。
「俺は、無我夢中で剣を横に振るったんだが、空振りしたんだ。どこだと思って、見回すけど見つからなくて、気が焦ったのを覚えてる。余裕があれば、上級生が土下座して降伏しているのに気が付けたんだろうけど、何分初めての命のやり取りでね、余裕が無かった。」
ちなみにゴロツキはどうしたのかというと
「上級生の土下座を見たからか、ゴロツキどもは逃げ散ってくれた。まだ70名近く残っていたのだから、かかってくるものとその時は思ったけど、逃げたんでかえって呆然としたのを覚えてる。」
以後、ブラッドに、デュエルはおろか、喧嘩を吹っ掛ける者が出なかったのは言うまでもない。
これから11歳まで、アカデミーの生徒の間でデュエルが起こる度、代理人と望まれるが、多くは断っている。
「父から下手に関わるなと釘を刺されていたんだ。中立を保て、がブラウニング家の家訓だと言い渡されていたからね。母にも最初のデュエルで随分と心配をかけてしまっていたから、大人しくしていた。」
なんでも最初のデュエルで、血まみれになって帰宅したブラッドにすがりついて大泣きされ、以後、危ないことをしないと誓わされたのだとか。
なら戦場に行けないのでは?と聞いてみたら、父の許可があればいいらしい。
嫁いだら、義母より義父に気を使わなければならないのだろうな、と思ったものだ。
12歳で父の護衛の一員として初陣。
この時、混戦となり、前線を突破した騎馬民族の部隊が、本営に乱入。
主将たる父の危機にあたり奮戦。父に襲い掛かる敵を撃退しただけでなく、父の身の安全を確保するや、敵の副将に一騎打ちを挑み、一刀のもとに切り捨て、逆撃のチャンスを作っている。
「父からは、護衛としてそばを離れるなと厳命されていたからね。命に従って父から離れずに戦っていただけだ。それでも敵が来たから戦った。」
「そして敵将と一騎打ちをしたんでしょう。」
「いや、あれは実は一騎打ちじゃない。一騎打ちするには、双方が名乗り合わないといけないんだけど、俺も初陣の悲しさ、緊張したせいで名乗りもせずに切りかかってしまって。」
そう言った時のブラッドは、恥ずかしそうでした。
この人でも初めてのことは、うまくいかないんだ、と思ったのが印象に残っています。
13歳で兵を委ねられ後衛に配備される。
この時も、背後に回って夜襲しようとした部隊を発見。本隊に急を告げるとともに交戦し、見事に戦線を支えています。
「いや、やはり父は偉大だと思ったよ。ほら、父は騎馬民族と交易していただろう。それで彼らの行動様式などに詳しい。どう奴らが兵を動かすかを折に触れ父から聞かされていたので、その辺を念頭において警戒していたら、見事敵襲を発見できたんだ。」
その辺、アシュリーも父から聞いたことはあった。
アントニーが武勲をたてられるのは、騎馬民族のことを知って兵を動かすからだ、と。
交易商人でしかなかったアントニーは、無論アカデミーに通っていないし、独自に軍事学を学ぶことも無かった。
だが、それだからこそ、前例などに囚われず柔軟に騎馬民族と戦うことができるのだという。
「アントニー卿は、騎馬民族との戦いに特化された将軍かもしれないね。」
そうベネディクトは、話を締めくくった。
ちなみにこの年、シンシアは、その聖女としての才能を見出されアカデミーに通うようになる。
軍で治癒を担当する聖女として従軍するシンシアとブラッドとの接点の始まりかもしれない。
14歳で、後の黒駒隊につながる千人の騎兵隊、ブラウニング家のほぼ半数の戦力を、父から託される。
この頃から、ブラッドはアカデミーにほとんど登校しなくなりました。
「いや、初めて独立して動けるだけの戦力を父から預けられてね、嬉しくて色々やっているうちに、ついアカデミーをサボってしまった。当時学長だった宰相閣下からも、叱られたけどね。」
そうやって預かった兵を率いて騎馬民族の劫掠に立ち向かう。
騎馬民族は、部族がそのまま一つの独立した部隊となり、王国を荒らすのですが、その一つと交戦し、部族長を討ち取る武勲をたてます。
「俺を若年と侮ったのもあるんだろうけど、部下が俺が望むことをある程度察して動いてくれたのも大きかった。意思疎通を普段から、訓練を通じて図っていたからだろう。」
そう言うブラッドは、非常に嬉しそうでした。
アーネストが言った、ブラッドの戦いなどについて調べるためである。
無論、王国の記録官にブラッドの戦歴などの写しを寄こすよう申請するなど、他にも情報収集を怠ってはいない。
そうやってまとめた資料を、領内の屋敷に帰り着き、夕食をすませてから広げて読んでみた。
10歳でアカデミーに入学。
同じ年にアシュリーも入学しており、二人は同級生である。
ブラッドは、5歳で教師役の騎士を気絶させた剣技で、上級生たちをことごとく打ち負かす。
腹を立てた上級生に生涯初となるデュエルを挑まれる。
デュエルを挑んだ上級生は、素行不良でならした男で、王都のゴロツキを百名ほど集め、ブラッドを包囲して屈服させようとする。
「いや、この時は参ったよ。デュエルのことは知っていたけど、アカデミー内では代理人がせいぜいと聞いていたから。持って行った武器も模擬刀だったし。」
どうやってその窮地を脱したのかと聞くと
「いや、無我夢中でよく覚えていない。とにかく武器を、と考えていたのは覚えている。近くにいたゴロツキを殴って武器を奪った。幸いなことにそれが剣でね、後は上級生を目指して剣を振るった。返り血が目に入ってよく見えなくなるし。」
そんな状態のブラッドは、10名を死亡させ、13名を負傷させる戦いぶりで、逆に上級生を降伏に追い込んでいる。
「俺は、無我夢中で剣を横に振るったんだが、空振りしたんだ。どこだと思って、見回すけど見つからなくて、気が焦ったのを覚えてる。余裕があれば、上級生が土下座して降伏しているのに気が付けたんだろうけど、何分初めての命のやり取りでね、余裕が無かった。」
ちなみにゴロツキはどうしたのかというと
「上級生の土下座を見たからか、ゴロツキどもは逃げ散ってくれた。まだ70名近く残っていたのだから、かかってくるものとその時は思ったけど、逃げたんでかえって呆然としたのを覚えてる。」
以後、ブラッドに、デュエルはおろか、喧嘩を吹っ掛ける者が出なかったのは言うまでもない。
これから11歳まで、アカデミーの生徒の間でデュエルが起こる度、代理人と望まれるが、多くは断っている。
「父から下手に関わるなと釘を刺されていたんだ。中立を保て、がブラウニング家の家訓だと言い渡されていたからね。母にも最初のデュエルで随分と心配をかけてしまっていたから、大人しくしていた。」
なんでも最初のデュエルで、血まみれになって帰宅したブラッドにすがりついて大泣きされ、以後、危ないことをしないと誓わされたのだとか。
なら戦場に行けないのでは?と聞いてみたら、父の許可があればいいらしい。
嫁いだら、義母より義父に気を使わなければならないのだろうな、と思ったものだ。
12歳で父の護衛の一員として初陣。
この時、混戦となり、前線を突破した騎馬民族の部隊が、本営に乱入。
主将たる父の危機にあたり奮戦。父に襲い掛かる敵を撃退しただけでなく、父の身の安全を確保するや、敵の副将に一騎打ちを挑み、一刀のもとに切り捨て、逆撃のチャンスを作っている。
「父からは、護衛としてそばを離れるなと厳命されていたからね。命に従って父から離れずに戦っていただけだ。それでも敵が来たから戦った。」
「そして敵将と一騎打ちをしたんでしょう。」
「いや、あれは実は一騎打ちじゃない。一騎打ちするには、双方が名乗り合わないといけないんだけど、俺も初陣の悲しさ、緊張したせいで名乗りもせずに切りかかってしまって。」
そう言った時のブラッドは、恥ずかしそうでした。
この人でも初めてのことは、うまくいかないんだ、と思ったのが印象に残っています。
13歳で兵を委ねられ後衛に配備される。
この時も、背後に回って夜襲しようとした部隊を発見。本隊に急を告げるとともに交戦し、見事に戦線を支えています。
「いや、やはり父は偉大だと思ったよ。ほら、父は騎馬民族と交易していただろう。それで彼らの行動様式などに詳しい。どう奴らが兵を動かすかを折に触れ父から聞かされていたので、その辺を念頭において警戒していたら、見事敵襲を発見できたんだ。」
その辺、アシュリーも父から聞いたことはあった。
アントニーが武勲をたてられるのは、騎馬民族のことを知って兵を動かすからだ、と。
交易商人でしかなかったアントニーは、無論アカデミーに通っていないし、独自に軍事学を学ぶことも無かった。
だが、それだからこそ、前例などに囚われず柔軟に騎馬民族と戦うことができるのだという。
「アントニー卿は、騎馬民族との戦いに特化された将軍かもしれないね。」
そうベネディクトは、話を締めくくった。
ちなみにこの年、シンシアは、その聖女としての才能を見出されアカデミーに通うようになる。
軍で治癒を担当する聖女として従軍するシンシアとブラッドとの接点の始まりかもしれない。
14歳で、後の黒駒隊につながる千人の騎兵隊、ブラウニング家のほぼ半数の戦力を、父から託される。
この頃から、ブラッドはアカデミーにほとんど登校しなくなりました。
「いや、初めて独立して動けるだけの戦力を父から預けられてね、嬉しくて色々やっているうちに、ついアカデミーをサボってしまった。当時学長だった宰相閣下からも、叱られたけどね。」
そうやって預かった兵を率いて騎馬民族の劫掠に立ち向かう。
騎馬民族は、部族がそのまま一つの独立した部隊となり、王国を荒らすのですが、その一つと交戦し、部族長を討ち取る武勲をたてます。
「俺を若年と侮ったのもあるんだろうけど、部下が俺が望むことをある程度察して動いてくれたのも大きかった。意思疎通を普段から、訓練を通じて図っていたからだろう。」
そう言うブラッドは、非常に嬉しそうでした。
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