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「本音を言えば死なせたくはねえ。」
望んだ返事が返ってきました。
「ならば、ギルベルト伯爵に不滅の幸せをお渡し下さい。」
「何?話が見えねえぞ?なんで渡さねばならねえ。」
「はい、ギルベルト伯爵は、昨年のクルス王子の侵略に対する賠償の一環として、伯爵領に亡命した者への追求は行わないことを承認されています。」
「待て、それはドラード軍の軍人を対象にしたものだ。」
そう。
ギルベルト伯爵は、ドラード軍を離脱したりした将兵を自軍に編入するため、賠償に追求しないことを入れさせたのです。
バルリオス将軍の警戒強化に反対しなかったのは、それを掻い潜れるだけの機知のある将兵が欲しいから、とも語ってました。
「いいじゃないですか、不滅の幸せのためですよ。」
「しかし、どうやって脱出させる?幼い娘もいるようだが。」
「日が落ちてから、私達が乗って来た馬車に乗せて、陣まで戻ります。その後は、夜の闇に紛れて伯爵の陣営に移動させますので、そこで匿って下さい。」
「上手くいくか?」
「馬車の窓にはカーテンがありますし、荷物用のスペースもあります。兵士も、いちいち私の馬車をあらためたりはしないでしょう。伯爵領へは、補給用の荷馬車に乗ってもらうしかありませんね。」
それくらいは我慢してもらいましょう。
「この不滅の幸せは場所をとるぞ。これを乗せ、その上で妻や愛人、娘を乗せられるか?彼女らの荷物もあるだろう。」
「いや、それは心配ねえ。小さき方舟に入れればスペースのことなんざ、考えなくていい。」
ドラード公は、乗り気のようです。
「あいつらの荷物も、全て入れられる。身一つでいいようなもんだから、いけるんじゃねえか。」
「むぅ。」
ドラード公が机の上に置いた握り拳大の小さき方舟を見て、ギルベルト伯爵はうなります。
「伯爵、これは取引です。伯爵はシド陛下にしてやれることを提示し、陛下は伯爵にアイテムで対価を払う。」
「わかったが、彼女らの生活費までは出せんぞ。」
「そこは気にするな。宝石や他のアイテムも持たせる。リリアナはタフな女だ。愛人達の面倒みながら生きていけるさ。」
「陛下、伯爵領に皆様が落ち着きましたら、化粧品を送ります。それは父とギルベルト伯爵が取引しておりますので、問題はありません。」
「後は支払いか。」
「先日申し上げたアイテム三つで結構です。」
「わかった。それは化粧品と引き換えだ。それは譲れん。他のアイテムと一緒に小さき方舟に入れておくから、後で受けとんな。」
そう言ってドラード公は、椅子から立ち上がりました。
「どちらへ?」
「女達に出発の準備をさせる。」
「待て、俺が裏切るかもしれんぞ。領に入った所で皆殺しにしてアイテムだけ奪うこともできるのだぞ。」
「ギルベルト伯爵、自分をそんな卑劣漢だと人に信じさせられる自信があるのか?」
「……。」
「そういうこった。伯爵はそんな人間じゃねえ。それは話していてわかった。だから託す。」
ドラード公は、そう言い残して台所に入って行きました。
扉が閉まると、何やら人の声が聞こえ出しました。
「こうなるとは思わなかったが、丸く治まるのか。」
「そうなるでしょう。ところで仲介手数料ですが。」
「仲介手数料!?」
「そうですよ、私のおかげで不滅の幸せを手に入れられたんですよ。あのままでは、話まとまらなかったでしょ。」
「そうかもしれんな。」
伯爵は、納得してくれたようです。
「考えておいて下さいね。」
「わかった。それにしても、話しかけるなら、こっちを向いたらどうだ?」
そう、私はギルベルト伯爵に背を向けて話しかけてます。
「自分の格好を考えて下さい!タオル一枚だけなんですよ。」
そんな格好、直視できません!。
「だから仕方ないだろう、さっきも言った通りだ。」
「それにですね、私、今化粧が落ちた状態でして。」
そばかすの顔見られたくないんですよ。
「それはわかる。そばかすを化粧で隠していたのだろう。」
「そうです。」
「 必要あるのか?あっても魅力的だと思うのだがな。」
えっ!?
おそるおそる伯爵の方を見ると、なんか伯爵も顔を紅くしているような。
これって。
「俺が決めたんだ!わかったな!」
突然のドラード公の大声で、思わず台所の方に視線を向けてしまいました。
台所の扉が開き、ドラード公が足音も荒く戻ってきます。
「女達も納得した。後は頼むぜ。」
「あ、はい。」
私としてはそう答えるしかありませんでした。
この後、乾いた服に着替えて、日が落ちてから出発しました。
馬車は、あらためられることもなく、陣営の中を移動し、私達は指定された天幕に入りました。
「ここからは、誰かとペアを組んでもらう。 気に食わないが、娼婦を買った兵を偽装する。」
オラシオやアズナールはもちろん、エルゼも兵士役です。
足りないので、イグナスさんやケスマンさんも呼び出しました。
イグナスさんは、驚いてましたが、頼み込んでやってもらいます。
「娼婦か懐かしいね。あの人とのことを思い出すよ。」
そう言ったのは、リリアナ様です。
「懐かしいって、どういう意味ですか?」
「あたしは、娼婦だったのさ。それをシドに見初められてね。あの人、周囲の反対を押しきってあたしを正妻にしてくれた。」
「それはすごい話しですね。」
「あの人が初めてあたしの客になった日、隣の客が女の子にひどい暴力を振るっていてね。気づいたあたしが部屋を飛び出して止めに入ったんだ。」
思い出す顔になってます。
「客をほったらかして飛び出したあたしを責めるどころか、『いい女だ』って気に入ってくれて。気がついたら妻になってたよ。」
「そんな馴れ初めだったんですね。」
大貴族らしくありませんが、ドラード公ならなんか納得できます。
「あの人はね、情で後先考えず、飛び出すようなのが好みなのさ。あんたみたいなのがね。」
「私、ですか?」
「あんたも、イルダだったか。婚約披露の場でドレスが破れた子。あんとき、クルス王子にケンカ売ってもかばったじゃないか。それをドラードは気に入ってたんだよ。マカリオにケンカ売ったのも合わせてね。」
「そうですか。」
意外な話に驚くしかありません。
「15年後に会ってみたかったって言ってたよ。」
そう言ってリリアナ様は、ギルベルト伯爵と腕を組んでしな垂れかかりました。
「おい。」
「文句言わないの。買われた娼婦はこれくらいするもんさ。」
そう言われては、ギルベルト伯爵も黙るしかありません。
「ほんとはエルゼがよかったんだけどさ。」
そう、エルゼが男役と知り、皆が組みたがりました。
クジでファビオラさんになった時、皆さん本気で残念がったものです。
「じゃあね、お嬢ちゃん。ドラードの期待に応えられるだけのいい女におなり。」
リリアナ様は、4歳の子の手を引きながら、ギルベルト伯爵とともに夜の闇に消えて行きました。
望んだ返事が返ってきました。
「ならば、ギルベルト伯爵に不滅の幸せをお渡し下さい。」
「何?話が見えねえぞ?なんで渡さねばならねえ。」
「はい、ギルベルト伯爵は、昨年のクルス王子の侵略に対する賠償の一環として、伯爵領に亡命した者への追求は行わないことを承認されています。」
「待て、それはドラード軍の軍人を対象にしたものだ。」
そう。
ギルベルト伯爵は、ドラード軍を離脱したりした将兵を自軍に編入するため、賠償に追求しないことを入れさせたのです。
バルリオス将軍の警戒強化に反対しなかったのは、それを掻い潜れるだけの機知のある将兵が欲しいから、とも語ってました。
「いいじゃないですか、不滅の幸せのためですよ。」
「しかし、どうやって脱出させる?幼い娘もいるようだが。」
「日が落ちてから、私達が乗って来た馬車に乗せて、陣まで戻ります。その後は、夜の闇に紛れて伯爵の陣営に移動させますので、そこで匿って下さい。」
「上手くいくか?」
「馬車の窓にはカーテンがありますし、荷物用のスペースもあります。兵士も、いちいち私の馬車をあらためたりはしないでしょう。伯爵領へは、補給用の荷馬車に乗ってもらうしかありませんね。」
それくらいは我慢してもらいましょう。
「この不滅の幸せは場所をとるぞ。これを乗せ、その上で妻や愛人、娘を乗せられるか?彼女らの荷物もあるだろう。」
「いや、それは心配ねえ。小さき方舟に入れればスペースのことなんざ、考えなくていい。」
ドラード公は、乗り気のようです。
「あいつらの荷物も、全て入れられる。身一つでいいようなもんだから、いけるんじゃねえか。」
「むぅ。」
ドラード公が机の上に置いた握り拳大の小さき方舟を見て、ギルベルト伯爵はうなります。
「伯爵、これは取引です。伯爵はシド陛下にしてやれることを提示し、陛下は伯爵にアイテムで対価を払う。」
「わかったが、彼女らの生活費までは出せんぞ。」
「そこは気にするな。宝石や他のアイテムも持たせる。リリアナはタフな女だ。愛人達の面倒みながら生きていけるさ。」
「陛下、伯爵領に皆様が落ち着きましたら、化粧品を送ります。それは父とギルベルト伯爵が取引しておりますので、問題はありません。」
「後は支払いか。」
「先日申し上げたアイテム三つで結構です。」
「わかった。それは化粧品と引き換えだ。それは譲れん。他のアイテムと一緒に小さき方舟に入れておくから、後で受けとんな。」
そう言ってドラード公は、椅子から立ち上がりました。
「どちらへ?」
「女達に出発の準備をさせる。」
「待て、俺が裏切るかもしれんぞ。領に入った所で皆殺しにしてアイテムだけ奪うこともできるのだぞ。」
「ギルベルト伯爵、自分をそんな卑劣漢だと人に信じさせられる自信があるのか?」
「……。」
「そういうこった。伯爵はそんな人間じゃねえ。それは話していてわかった。だから託す。」
ドラード公は、そう言い残して台所に入って行きました。
扉が閉まると、何やら人の声が聞こえ出しました。
「こうなるとは思わなかったが、丸く治まるのか。」
「そうなるでしょう。ところで仲介手数料ですが。」
「仲介手数料!?」
「そうですよ、私のおかげで不滅の幸せを手に入れられたんですよ。あのままでは、話まとまらなかったでしょ。」
「そうかもしれんな。」
伯爵は、納得してくれたようです。
「考えておいて下さいね。」
「わかった。それにしても、話しかけるなら、こっちを向いたらどうだ?」
そう、私はギルベルト伯爵に背を向けて話しかけてます。
「自分の格好を考えて下さい!タオル一枚だけなんですよ。」
そんな格好、直視できません!。
「だから仕方ないだろう、さっきも言った通りだ。」
「それにですね、私、今化粧が落ちた状態でして。」
そばかすの顔見られたくないんですよ。
「それはわかる。そばかすを化粧で隠していたのだろう。」
「そうです。」
「 必要あるのか?あっても魅力的だと思うのだがな。」
えっ!?
おそるおそる伯爵の方を見ると、なんか伯爵も顔を紅くしているような。
これって。
「俺が決めたんだ!わかったな!」
突然のドラード公の大声で、思わず台所の方に視線を向けてしまいました。
台所の扉が開き、ドラード公が足音も荒く戻ってきます。
「女達も納得した。後は頼むぜ。」
「あ、はい。」
私としてはそう答えるしかありませんでした。
この後、乾いた服に着替えて、日が落ちてから出発しました。
馬車は、あらためられることもなく、陣営の中を移動し、私達は指定された天幕に入りました。
「ここからは、誰かとペアを組んでもらう。 気に食わないが、娼婦を買った兵を偽装する。」
オラシオやアズナールはもちろん、エルゼも兵士役です。
足りないので、イグナスさんやケスマンさんも呼び出しました。
イグナスさんは、驚いてましたが、頼み込んでやってもらいます。
「娼婦か懐かしいね。あの人とのことを思い出すよ。」
そう言ったのは、リリアナ様です。
「懐かしいって、どういう意味ですか?」
「あたしは、娼婦だったのさ。それをシドに見初められてね。あの人、周囲の反対を押しきってあたしを正妻にしてくれた。」
「それはすごい話しですね。」
「あの人が初めてあたしの客になった日、隣の客が女の子にひどい暴力を振るっていてね。気づいたあたしが部屋を飛び出して止めに入ったんだ。」
思い出す顔になってます。
「客をほったらかして飛び出したあたしを責めるどころか、『いい女だ』って気に入ってくれて。気がついたら妻になってたよ。」
「そんな馴れ初めだったんですね。」
大貴族らしくありませんが、ドラード公ならなんか納得できます。
「あの人はね、情で後先考えず、飛び出すようなのが好みなのさ。あんたみたいなのがね。」
「私、ですか?」
「あんたも、イルダだったか。婚約披露の場でドレスが破れた子。あんとき、クルス王子にケンカ売ってもかばったじゃないか。それをドラードは気に入ってたんだよ。マカリオにケンカ売ったのも合わせてね。」
「そうですか。」
意外な話に驚くしかありません。
「15年後に会ってみたかったって言ってたよ。」
そう言ってリリアナ様は、ギルベルト伯爵と腕を組んでしな垂れかかりました。
「おい。」
「文句言わないの。買われた娼婦はこれくらいするもんさ。」
そう言われては、ギルベルト伯爵も黙るしかありません。
「ほんとはエルゼがよかったんだけどさ。」
そう、エルゼが男役と知り、皆が組みたがりました。
クジでファビオラさんになった時、皆さん本気で残念がったものです。
「じゃあね、お嬢ちゃん。ドラードの期待に応えられるだけのいい女におなり。」
リリアナ様は、4歳の子の手を引きながら、ギルベルト伯爵とともに夜の闇に消えて行きました。
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