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翌々日、強行軍で迫ってきたドラード軍との間に戦端が開かれました。
私は、戦場に女性を滞在させられぬということで、戦場外の集落の空き家でじっとしているだけで、ほとんど情報は入って来ませんでした。
それに変化があったのは、日も落ちた頃でした。
ギルベルト伯爵の使者が、私のところにやってきたのです。
「ロザリンド様、ギルベルト伯爵よりのお知らせです。ドラードは、国王軍の布陣を突破して本営を強襲するも国王の捕捉殺害に至らず、逆に兵の大半を失って戦場を離脱しました。伯爵は、ドラードを追尾中です。」
ギルベルト伯爵の部隊は、まず敵が来ないであろう後方の警戒に従事していました。
これは、今更よそ者に手柄をたてさせたくないという幕僚たちの思惑と、下手に兵を損じたくない伯爵の思惑が一致した結果です。
「あの、今伯爵がどこに向かっているかわかりますか?よければ案内をお願いしたいのですが。」
「かしこまりました。ギルベルト伯爵より、頼まれれば案内するよう命じられております。」
そうして案内されたのは、周りを森に囲まれた小高い丘でした。
「あそこの丘にドラードの山荘がある。そこに逃げ込んだ。」
ギルベルト伯爵は、そう教えてくれました。
「攻めなかったのですか?」
「もう日も暮れた。無理に攻める必要も無い。」
兵を損じたくないんですね。
「奴も今日一日戦闘し続け、疲労困憊している。もう逃げられはしない。明日、あの丘に攻め入って終わりだ、と言いたいが。」
ギルベルト伯爵は、夜空を見上げました。
星はおろか、月も見えません。
厚い雲に遮られて。
「明日は雨だろうな。それも豪雨。」
ギルベルト伯爵の予測通り、深夜から豪雨となりました。
「ロザリンド、本気か?この豪雨の中ドラードの所に向かうのか?」
「はい、陛下も許可下さいました。」
あれから、鎮圧軍も追撃しドラード公の逃げ込んだ丘は、十重二十重に囲まれています。
ただ、深夜からの豪雨はすさまじく、日が昇ったというのに視界がいいとは言えない状況です。
地面もかなりぬかるんでおり、坂を上って攻めるのも大変ということで、雨が弱まってから戦闘再開と決まりました。
そこで再度、ドラード公への降伏勧告を申し出たところ、認められたのです。
「わかった。では行こうか。」
「行こうかってどちらへ?」
「何を今さら。ドラードのところへだろうが。」
「はぁ?伯爵もですか?」
「そうだ、ミサエル陛下には、断りを入れている。」
「なんで伯爵も?」
「攻守同盟の相手だ。敵と話し合う機会など、滅多にない。一度くらい会談する経験をしてもいい。」
「それってただの好奇心じゃ?」
会っても大した意味はないように思いますが。
「そうだ。ロザリンドの邪魔になることはしないことは誓う。」
ま、つべこべ言い合っても意味がありません。
ついて来られて追い返す権限もありませんし。
伯爵も一緒に、ドラードの立て籠る丘に向かいます。
「駄目だ、お嬢様。馬車は諦めて下さい。」
ぬかるみにはまった馬車を押していたアズナールが、外から言ってきました。
「諦めてってこの豪雨の中歩けと。」
「諦めろ、ロザリンド。このままでは時間の浪費だ。」
やはり一緒に押していたギルベルト伯爵も、同意見のようです。
「しょうがないなぁ。」
準備していた雨具を着用して外に出ましたが、豪雨のすごいこと。
瞬く間に、雨が雨具の中に入って来ます。
馬車を一緒に乗っていたイシドラやウルファと一緒に木陰に移動させ、歩いてドラード公のいるであろう山荘に向かいます。
その間も雨は容赦なく雨具の中に侵入して来ます。
すでに下着までぐっしょりで。
「あっ。」
イシドラがぬかるみに足をとられて転んで。
起き上がったら、顔が泥まみれ。
「笑うでない。」
「笑ってないって。イシドラ、大丈夫?」
「ふん、骨が折れたりはしておらん。顔の泥も、この雨ですぐに流れる。」
「よかったわね。」
「そうかあ?」
何よ?
「お嬢様の化粧もとっくに流れきっておる。ギルベルト伯爵が見たらどう思うかの。」
思わず、顔に手をやってしまいます。
確かに顔もずぶ濡れ。
とっくに流れきって、ソバカスが見えてるんだろうな。
そう思うとちょっと、山荘に着くのが怖くなります。
ギルベルト伯爵が、スッピン見たらどう思うんだろう。
でも行かない訳にはいきません。
ぬかるみと格闘しながら歩き、山荘らしき建物が見えてきます。
「何者だ?」
兵士に誰何されました。
「国王よりの使者、ロザリンド・メイアです。ドラード公にお取り次ぎ願います。」
「覇王にだと?」
さすがにここまでドラード公に従っている兵士。
自称している「覇王」でドラード公を呼んでます。
「しばし待たれよ。」
そう言って兵士の一人が中に入って行きました。
「うぅ、寒い。」
秋ですけど、こうもぐっしょり濡れては当然寒いです。
「中に入れてもらったら、着替えを貸して欲しい。」
「無理だな。」
ギルベルト伯爵は、私の細やかな願いを一蹴しました。
「こんな所に女性用の服などあるものか。」
「そんなこと言わないでいいじゃないですか。男性用でもこの際、我慢します。」
そんな会話をしていると、中からどたばたと足音がして
「嬢ちゃん、まさかこんなところに来るたぁなあ。」
なんとドラード公、自ら出迎えてくれました。
私は、戦場に女性を滞在させられぬということで、戦場外の集落の空き家でじっとしているだけで、ほとんど情報は入って来ませんでした。
それに変化があったのは、日も落ちた頃でした。
ギルベルト伯爵の使者が、私のところにやってきたのです。
「ロザリンド様、ギルベルト伯爵よりのお知らせです。ドラードは、国王軍の布陣を突破して本営を強襲するも国王の捕捉殺害に至らず、逆に兵の大半を失って戦場を離脱しました。伯爵は、ドラードを追尾中です。」
ギルベルト伯爵の部隊は、まず敵が来ないであろう後方の警戒に従事していました。
これは、今更よそ者に手柄をたてさせたくないという幕僚たちの思惑と、下手に兵を損じたくない伯爵の思惑が一致した結果です。
「あの、今伯爵がどこに向かっているかわかりますか?よければ案内をお願いしたいのですが。」
「かしこまりました。ギルベルト伯爵より、頼まれれば案内するよう命じられております。」
そうして案内されたのは、周りを森に囲まれた小高い丘でした。
「あそこの丘にドラードの山荘がある。そこに逃げ込んだ。」
ギルベルト伯爵は、そう教えてくれました。
「攻めなかったのですか?」
「もう日も暮れた。無理に攻める必要も無い。」
兵を損じたくないんですね。
「奴も今日一日戦闘し続け、疲労困憊している。もう逃げられはしない。明日、あの丘に攻め入って終わりだ、と言いたいが。」
ギルベルト伯爵は、夜空を見上げました。
星はおろか、月も見えません。
厚い雲に遮られて。
「明日は雨だろうな。それも豪雨。」
ギルベルト伯爵の予測通り、深夜から豪雨となりました。
「ロザリンド、本気か?この豪雨の中ドラードの所に向かうのか?」
「はい、陛下も許可下さいました。」
あれから、鎮圧軍も追撃しドラード公の逃げ込んだ丘は、十重二十重に囲まれています。
ただ、深夜からの豪雨はすさまじく、日が昇ったというのに視界がいいとは言えない状況です。
地面もかなりぬかるんでおり、坂を上って攻めるのも大変ということで、雨が弱まってから戦闘再開と決まりました。
そこで再度、ドラード公への降伏勧告を申し出たところ、認められたのです。
「わかった。では行こうか。」
「行こうかってどちらへ?」
「何を今さら。ドラードのところへだろうが。」
「はぁ?伯爵もですか?」
「そうだ、ミサエル陛下には、断りを入れている。」
「なんで伯爵も?」
「攻守同盟の相手だ。敵と話し合う機会など、滅多にない。一度くらい会談する経験をしてもいい。」
「それってただの好奇心じゃ?」
会っても大した意味はないように思いますが。
「そうだ。ロザリンドの邪魔になることはしないことは誓う。」
ま、つべこべ言い合っても意味がありません。
ついて来られて追い返す権限もありませんし。
伯爵も一緒に、ドラードの立て籠る丘に向かいます。
「駄目だ、お嬢様。馬車は諦めて下さい。」
ぬかるみにはまった馬車を押していたアズナールが、外から言ってきました。
「諦めてってこの豪雨の中歩けと。」
「諦めろ、ロザリンド。このままでは時間の浪費だ。」
やはり一緒に押していたギルベルト伯爵も、同意見のようです。
「しょうがないなぁ。」
準備していた雨具を着用して外に出ましたが、豪雨のすごいこと。
瞬く間に、雨が雨具の中に入って来ます。
馬車を一緒に乗っていたイシドラやウルファと一緒に木陰に移動させ、歩いてドラード公のいるであろう山荘に向かいます。
その間も雨は容赦なく雨具の中に侵入して来ます。
すでに下着までぐっしょりで。
「あっ。」
イシドラがぬかるみに足をとられて転んで。
起き上がったら、顔が泥まみれ。
「笑うでない。」
「笑ってないって。イシドラ、大丈夫?」
「ふん、骨が折れたりはしておらん。顔の泥も、この雨ですぐに流れる。」
「よかったわね。」
「そうかあ?」
何よ?
「お嬢様の化粧もとっくに流れきっておる。ギルベルト伯爵が見たらどう思うかの。」
思わず、顔に手をやってしまいます。
確かに顔もずぶ濡れ。
とっくに流れきって、ソバカスが見えてるんだろうな。
そう思うとちょっと、山荘に着くのが怖くなります。
ギルベルト伯爵が、スッピン見たらどう思うんだろう。
でも行かない訳にはいきません。
ぬかるみと格闘しながら歩き、山荘らしき建物が見えてきます。
「何者だ?」
兵士に誰何されました。
「国王よりの使者、ロザリンド・メイアです。ドラード公にお取り次ぎ願います。」
「覇王にだと?」
さすがにここまでドラード公に従っている兵士。
自称している「覇王」でドラード公を呼んでます。
「しばし待たれよ。」
そう言って兵士の一人が中に入って行きました。
「うぅ、寒い。」
秋ですけど、こうもぐっしょり濡れては当然寒いです。
「中に入れてもらったら、着替えを貸して欲しい。」
「無理だな。」
ギルベルト伯爵は、私の細やかな願いを一蹴しました。
「こんな所に女性用の服などあるものか。」
「そんなこと言わないでいいじゃないですか。男性用でもこの際、我慢します。」
そんな会話をしていると、中からどたばたと足音がして
「嬢ちゃん、まさかこんなところに来るたぁなあ。」
なんとドラード公、自ら出迎えてくれました。
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