おバカな超能力者だけれども…

久保 倫

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爆発

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「しまった。」
 黒江のキスと会話に気を取られ画鋲のコントロールがおろそかになってしまった。
 白野が気づいた時には、甲斐達は、廊下にまかれていた画鋲をあらかた踏み潰していた。
 慌てて、残っている画鋲を甲斐達から離れさせるが、5個くらいしか残らなかった。
「なんか意思があるみたいだ。」
「あって当然だろう。それより本座、体の調子は?何か変化無いか?」
「何もありません。指は痛いですが、ガマンできます。」
「そうか、毒を塗っているということはないな。」
 先日白野が農薬を使うと言っていたので、警戒したが薬物を用意していないようだ。
 だが、油断禁物。画鋲は事務所のを使っただけで、薬物を塗った針は、まだ持っているかもしれない。
「事務所に入る。警戒は怠るな。」
「はい。」
 忠はドアに近寄り、ドアノブに何も無いのを確認してから握り動かした。
「鍵がかかってます。」
「どけ。」
 Mー16の前に金属製のドアも大した役には立たなかった。
 ドアノブは弾丸を集束して受け、カギもろとも鉄屑に変わった。
 弾痕に指を引っかけドアを開ける。
 サブマシンガンを構え、忠から突入した。
「踏んだ画鋲ですべりそうです。」
「今更抜く暇はない。気をつけて歩け。」
 本座も甲斐も同じだが、そろそろ警察も来そうな時間だ。早く片付けたい。

 「Mark2eyeball」で甲斐達の行動は把握している。
 「いよいよかな。」
 ポケットから針を入れたケースを取り出す。
 針に農薬は塗っていない。合コンで理学部の3年生からホームセンターで販売されている農薬に針の一刺し程度でダメージを与える程の毒性が無いと聞かされたからだ。
 ただ、ハッタリとして使えるといいなと思うばかりだ。
 頭も何かぼんやりしてきているような。ハッタリかますようなことができるかな。

 甲斐は、本命と思っている隣の部屋へのドアノブに何もないことを確認してから回してみる。
 回らない。カギをかけて立て籠ったか。
「本座、忠、机の下とかはどうだ?」
 声を潜めて聞く。
「いません。」
「ロッカーの中も一応確認しましたがいません。」
 2人とも声を潜めて返答した。
 この部屋の中か。
 甲斐は、ドアから離れてサブマシンガンを机の上に置き、レッドホークを構えた。
 装薬を基準より多くこめた45ACPが轟音を放つ。
 弾丸はドアに大穴を開けた。

 ドアにもたれかかっている白野の頭上に破片が降り注いだ。
 轟音で、多少意識がしゃんとした。
 「Mark2eyeball」で甲斐がドアに向けて発砲するのは見ている。角度的に当たらないと思いじっとしていたのは正解だったようだ。
「ガキ、聞こえるか!」
 俺を名指しで読んでいる?何が言いたいんだ。
「甲斐、何だ!」
「時間がないんでな。今からその部屋に手りゅう弾を投げ込む。おまえの彼女も弁護士先生もまとめて片付けさせてもらう。」
「ちょっと待て、こんな部屋の中で手りゅう弾使ったらそっちまで影響があるだろ。」
 自殺願望はないはずだ。ドアのもろさはわかっただろうに、なんでそんなことをする?
「今から使うのはMK3という米軍の最新型だ。危害範囲2メートルという代物だからな。こっちに大した影響はねえ。」
 白野の脳裏に拳銃をしまい手りゅう弾を取り出す甲斐が見えた。
「手りゅう弾を防ぐ手段として有効なのは覆いかぶさることだ。あの嬢ちゃんを守りたきゃそうするといい。」
 甲斐は、目配せをした。残りの2人も手りゅう弾を取り出した。
 なるほど、1発目に俺が覆いかぶさったところで残りの二人が投げ込み室内の全員を抹殺するということか。
 逃げたことが甲斐に伝わっていないことを知って白野は嬉しくなった。これで黒江さんは助かった。
 さらに意識がしっかりする。元気が出てきた。これならいける。
 「ダブルフィンガー」を発動しつつ、前のめりに倒れる。
 左手にキャスター付きの椅子が触れる。左右に動かし、机にぶつけわざと物音を立てる。運よく他の椅子にぶつかり倒れる。いいぞ、派手に物音を立てられてる。
 そうしながら、机の下を腹ばいになって前進する。適当に足で机やいすを蹴り物音を立てる。
 離れれば離れるほど生存の確率は上がるはず。黒江さんとの約束は守らないと。

 あのガキ、慌ててやがる。
 物音を聞いて甲斐は笑った。俺が直々に殺すとは思わなかったな。
「それ行くぞ。ちゃんと覆いかぶさるんだぞ。」
 甲斐は安全ピンを抜くべく、リングに指を通そうとした。
 指は何も触れなかった。
 甲斐が手りゅう弾を見るとそこにあるべき安全ピンはなかった。 

 さよならだよ。
 白野は薄れゆく意識の中で最後の力を振り絞り、「ダブルフィンガー」で引き抜いた安全ピンを甲斐の目の前にぶら下げた。

 白野と甲斐の視界は同時に赤く染まった。 
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