おバカな超能力者だけれども…

久保 倫

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新星会(2)

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「副組長、手こずってますね。」
「本座か、4階は制圧したが、3階にバリケード築かれた。」
「あのくらいM-16で抜けます。」
「組長は殺すな、と言っている。隠れて見えないのがやっかいなんだ。当てて死なれるとな。」
「しょうがないですね、非常手段です。」
 本座達は5階に戻った。
 ほどなくして戻って来た時は1人増えていた。後ろ手に拘束された久島と一緒だ。
「おい、まさか。」
「俺らはヤクザです。正々堂々なんて不要ですよ。」
 そう言って本座は階下に呼びかけた。
「こちらには、新星会の新組長、久島氏がゲストとしていらっしゃる。バリケードより退去願いたい。」
 久島のこめかみにグロッグ19を突きつけ、久島の背中に隠れて階段をゆっくりと降り始めた。
 バリケードの向こうから銃弾は飛んでこない。さすがに味方を殺すようなことはできないようだ。
 久島も死の恐怖と組長としてのプライドの狭間で悩み、何も言えないでいる。「俺に構わずこいつらを殺せ」くらい言えれば格好いいのだろうが、実際に撃たれるのはやはり人間嫌なのだ。
「裕、やれ。」
「はい。」
 本座の横に裕は位置し、バリケードの上をサブマシンガンを狙い撃つ。
「次はもう少し下を撃ちます。容赦する気はない。」
 バリケードの隙間から人が動くのが見えた。どうやらバリケードから離れてくれたようだ。
「裕、ちょっと預かってろ。隆平、M-16持って降りてこい。」
 そう言って久島を横の裕に預けると階段を一挙に飛び降りバリケードに張り付く。
 サブマシンガンをグロック19に持ち変えるとバリケードの脇から天井に向けて一発撃つ。
「さぁ、皆さん会議室に入って下さい。入らないと撃ちます。」
「じゃかあしい!」
 返事は返ってきたが、銃弾が飛んでくるわけではない。人質は効いてはいるようだ。
 隆平がM-16を持って降りてきた。
「隆平、撃て。あいつらを会議室に追い込むんだ。」
「了解!」
 隆平のM-16が火を噴く。バリケードとなっていた机をぶち抜いて壁に穴を開ける。
 M-16の威力に男たちに動揺が走る。
「さぁ、お早く会議室に。銃口がどこを向くかわかりませんよ。」
 人質を取られうかつに撃てず、一方的に撃たれる状況に男たちは会議室にしぶしぶ入る。
「貴様ら、汚いとか思わないのか。」
「全然、こっちは少人数なもんで。」
 久島の言葉に軽く返してバリケードから出る。
 姫乃たちも階段を降りてきた。
「さて、こちらには手りゅう弾がございます。グレネードランチャーもありますので、会議室のドアはお閉めになられた方がよろしいですよ。」
 右手に手りゅう弾をかかげ威圧する。さすがに投げ込まれてはかなわないとドアは閉められた。
「やっぱりこういった戦闘では貴様の方が強いな。」
「状況によりますよ。隆平、戻って工具箱からネイルガン持ってこい。ドアに板打ち付けて固定するぞ。」
「本座、ここは任せた。俺は3階の残りを調べて2階に向かう。うまくいけば組長と挟み撃ちにできるかもしれん。」
「俺も早めに追いかけます。」

 その頃甲斐は見通しの甘さを痛感していた。
 サブマシンガンで追い返した連中も、銃を装備して戻ってきたのだ。単純に素手ではどうしようもならない、というだけのことだったらしい。
「甲斐、貴様何をやっているのかわかっているのか。」
 更に江戸川を直接ガードしている護衛も銃撃戦に参加してきた。サブマシンガンの火力でかろうじて押しとどめているが、ここを抜かれると面倒である。上の階を姫乃や本座たちが早く制圧してくれることを願うばかりである。
「言いたいことはそれだけですか、先々代。」
「貴様は、俺が思っていた以上に危険な男だった。こんなことをしでかすとは。」
「これくらいやれないと誰も恐怖してくれないもんですよ。」 
 空になったマガジンを交換する。
 早く来てくれよ、さすがに他所からの応援がそろそろ来るぞ。
    江戸川を射殺して弁護士事務所に向かいたいが、甲斐の腕では無理な距離だった。周りの護衛も撃てるなら構わないが、江戸川だけを狙うのは不可能だ。
「組長。」
 インカムから声がした。
「姫乃か、そちらはどうだ?」
「3階まで制圧しました。」
「こっちは2階に上がる階段だ。先々代の護衛連中と交戦中。人数がいるだけにチトきつい。」
「わかりました。挟み撃ちにしましょう。」
「頼む。」
 通信は切れた。
 甲斐は1階に後退し、弾切れを装うことにした。

 姫乃は、手すりの陰に身を隠しながら江戸川を観察した。
 当人は気が急いているのか前しか見ていないが、護衛の一人がこちらに気を配っている。後方からの襲撃を警戒しているのだろう。
「副組長、2階の状況は?」
 本座が階段を下りて来た。
「護衛の一人が優秀だな。後ろへの警戒を怠らん。」
「どれどれ。」
 本座も姫乃同様に手すりの陰から伺った。 
 最後尾の男と目があった。
「めんどい奴がいますね。」
「どうする?」
「とっときを。副組長、後はよろしく。」
 本座はスタングレネードを取り出して、江戸川の方に投げた。
 轟音と閃光が2階を支配する。
 その直後に姫乃は突撃した。
 最後尾の男の金的を蹴り上げ、止まることなく、江戸川の前にいた連中を階段へ蹴り飛ばす。
 蹴り飛ばされた者は、悲鳴を上げながら階段を転がり落ちる。骨を折るかもしれないが、殺されるよりマシだろう、と姫乃は勝手なことを考えていた。
「姫乃!」
「組長、先々代を抑えました。」
 うつ伏せになって気絶している江戸川の背中を踏みつけながら答える。
 甲斐が階段を上がって来た。
 本座達もやって来る。久島を引きずる裕、M-16を手にした隆平、工具箱を運ぶ彰と忠もいる。
「よくやってくれた。本座、すまんが座布団をそこの和室から2枚頼む。」
「はい。」

 
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