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対峙(2)
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甲斐は懐に手を入れながら話かけた。
「兄さん、俺のこと知ってるね。」
「はい。」
どうせ当たって砕けろなんだ。
白野は、甲斐に話しかけられた瞬間、腹をくくった。もし、自分が殺されれば警察は、それこそ全力で捜索する。甲斐達も逃走するしかなく、黒江さんの安全は確保されるだろう。
「甲斐さんを探していました。」
「お前、何者だ?」
言いながら甲斐は、男の顔を観察した。
敵意や害意があるようには見えない。
「どっかで会ったことあるか?」
「吉良法律事務所で。」
「あそこのバイトか!」
「はい。」
「何で、あそこのバイトが俺を捜す?何の用だ?」
「自首を勧めるためです。」
「自首!」
何を考えているのか、全く読めない。
「俺も暇じゃない。歩きながら話そうか。」
甲斐は、コンビニの方向に足を向けた。
「質問したいことは山ほどあるが、まずなんで自首を勧めに来たのか聞こうか。」
「これ以上の犯罪を犯して欲しくないからです。」
「えらく青臭い理由だな。お前さんの考えか、それとも弁護士先生か?」
「俺の考えです。先生は、普通に逮捕されればいいとお考えのようですが。」
「先生の方がまともだな。普通、危険なヤクザに接近して、しかも怒らせる可能性のあることは言わない。」
「自分でもバカだとは思ってますが。」
「自覚あんのかい!」
甲斐は苦笑してしまった。
「じゃあ、質問変えるぞ。先々代は知ってるな。」
「江戸川さんの事ですね。」
「そうだ、俺はお前の先生が江戸川さんの意を受けて俺を破門に追い込んだと思っている。どうだ。」
「先生もあなたの標的なのですか?」
「質問しているのは俺だ。」
「俺は、あなたが新星会を敵にしたくないと考えていると思っています。江戸川さん個人だけを相手にしたいとも考えているんのだと。だからこそここに来たんです。」
「……ほう、なんでそう思う。」
白野は、吉良に語ったことを甲斐に語った。
「お前さんの考えた通りだよ。よくわかったな。」
「……そうですか。」
「新星会に何故言わない。そうすれば、そうすれば、向こうだって先々代を放り出すかもしれん。俺達と抗争なんて得られるものが何もないことはしたくないだろうからな。」
「先生から、俺が言っても無駄だと。新星会は江戸川さんの言うことを聞くだろうと。」
「そりゃそうだ。そうでなくともあの人は弁が立つ。お前さんみたいなガキのかなう人じゃねえよ。」
「甲斐さん、新星会を敵に回してでも江戸川さんを殺したいんですか?」
「そうだ。」
簡潔な甲斐の言葉に白野は、強い意志を感じ取った。
「ちょいとコンビニで用を済ませてくる。待ってな。」
白野も甲斐についてコンビニに入った。甲斐はコピー機を操作している。
白野がお茶を買っている間に、甲斐は、イートインスペースでプリント用紙になにやら記入した。それを裏返して置いたまま封筒やカットバンなどを購入した。
買ったカットバンをすぐに開封し左の親指に巻いている。よく見ると左の親指は血だらけだった。お店の人もぎょっとしていたが、甲斐は気にすることなく支払いを済ませた。
白野も何を言っていいのかわからないまま見る中、甲斐はイートインスペースに置いたままのプリント用紙をたたんで封筒に入れ、封筒に何やら記入した。
「待たせたな。」
「いいえ、別に。」
二人は並んでコンビニを出た。
「甲斐さん、なんで江戸川さんを殺すんですか?殺しても何も変わりませんよ。」
「説教されなくてもわかってるさ。そんなうっとおしいことぬかすな。」
白野は、甲斐のいらだちに恐怖を感じながらも話を続けた。
「そもそも、殺して何の利益があるんです?そこがわからない。殺して仕返しができて、それで終わりじゃないですか?そこがわからない。後は刑務所ですよ。」
「なるほど、なら俺のこれからを話してやるさ。」
「これから?」
「そう。俺達はこの国最高の暴力組織を作る。殺人を含む暴力の代行を請け負い、遂行する。誰もどこのヤクザも俺達にかなわない。そんな組織を作り、この国の暗部に潜む。」
「無理ですよ。日本の警察は優秀ですよ。」
「無理じゃないさ、実際、今日日のヤクザは警察の取り締まりにおびえ委縮しているが、俺達は違う。場合によっては警察も敵に回す。というかすでに回しているようなものだがな。」
「なんだってそんなことを。」
「今更ヤクザなんて生き方してきて、それを変えられるか。」
「暴力に頼る生き方をしてきたと。」
「そうさ。」
「なんで、そんな生き方しかできないんですか。」
「さあな、育ちの問題か。お前、ごくまっとうな家庭に生まれ育ったみてえだが。」
「甲斐さんは?」
「母子家庭で生まれて、育ちは施設さ。」
「兄さん、俺のこと知ってるね。」
「はい。」
どうせ当たって砕けろなんだ。
白野は、甲斐に話しかけられた瞬間、腹をくくった。もし、自分が殺されれば警察は、それこそ全力で捜索する。甲斐達も逃走するしかなく、黒江さんの安全は確保されるだろう。
「甲斐さんを探していました。」
「お前、何者だ?」
言いながら甲斐は、男の顔を観察した。
敵意や害意があるようには見えない。
「どっかで会ったことあるか?」
「吉良法律事務所で。」
「あそこのバイトか!」
「はい。」
「何で、あそこのバイトが俺を捜す?何の用だ?」
「自首を勧めるためです。」
「自首!」
何を考えているのか、全く読めない。
「俺も暇じゃない。歩きながら話そうか。」
甲斐は、コンビニの方向に足を向けた。
「質問したいことは山ほどあるが、まずなんで自首を勧めに来たのか聞こうか。」
「これ以上の犯罪を犯して欲しくないからです。」
「えらく青臭い理由だな。お前さんの考えか、それとも弁護士先生か?」
「俺の考えです。先生は、普通に逮捕されればいいとお考えのようですが。」
「先生の方がまともだな。普通、危険なヤクザに接近して、しかも怒らせる可能性のあることは言わない。」
「自分でもバカだとは思ってますが。」
「自覚あんのかい!」
甲斐は苦笑してしまった。
「じゃあ、質問変えるぞ。先々代は知ってるな。」
「江戸川さんの事ですね。」
「そうだ、俺はお前の先生が江戸川さんの意を受けて俺を破門に追い込んだと思っている。どうだ。」
「先生もあなたの標的なのですか?」
「質問しているのは俺だ。」
「俺は、あなたが新星会を敵にしたくないと考えていると思っています。江戸川さん個人だけを相手にしたいとも考えているんのだと。だからこそここに来たんです。」
「……ほう、なんでそう思う。」
白野は、吉良に語ったことを甲斐に語った。
「お前さんの考えた通りだよ。よくわかったな。」
「……そうですか。」
「新星会に何故言わない。そうすれば、そうすれば、向こうだって先々代を放り出すかもしれん。俺達と抗争なんて得られるものが何もないことはしたくないだろうからな。」
「先生から、俺が言っても無駄だと。新星会は江戸川さんの言うことを聞くだろうと。」
「そりゃそうだ。そうでなくともあの人は弁が立つ。お前さんみたいなガキのかなう人じゃねえよ。」
「甲斐さん、新星会を敵に回してでも江戸川さんを殺したいんですか?」
「そうだ。」
簡潔な甲斐の言葉に白野は、強い意志を感じ取った。
「ちょいとコンビニで用を済ませてくる。待ってな。」
白野も甲斐についてコンビニに入った。甲斐はコピー機を操作している。
白野がお茶を買っている間に、甲斐は、イートインスペースでプリント用紙になにやら記入した。それを裏返して置いたまま封筒やカットバンなどを購入した。
買ったカットバンをすぐに開封し左の親指に巻いている。よく見ると左の親指は血だらけだった。お店の人もぎょっとしていたが、甲斐は気にすることなく支払いを済ませた。
白野も何を言っていいのかわからないまま見る中、甲斐はイートインスペースに置いたままのプリント用紙をたたんで封筒に入れ、封筒に何やら記入した。
「待たせたな。」
「いいえ、別に。」
二人は並んでコンビニを出た。
「甲斐さん、なんで江戸川さんを殺すんですか?殺しても何も変わりませんよ。」
「説教されなくてもわかってるさ。そんなうっとおしいことぬかすな。」
白野は、甲斐のいらだちに恐怖を感じながらも話を続けた。
「そもそも、殺して何の利益があるんです?そこがわからない。殺して仕返しができて、それで終わりじゃないですか?そこがわからない。後は刑務所ですよ。」
「なるほど、なら俺のこれからを話してやるさ。」
「これから?」
「そう。俺達はこの国最高の暴力組織を作る。殺人を含む暴力の代行を請け負い、遂行する。誰もどこのヤクザも俺達にかなわない。そんな組織を作り、この国の暗部に潜む。」
「無理ですよ。日本の警察は優秀ですよ。」
「無理じゃないさ、実際、今日日のヤクザは警察の取り締まりにおびえ委縮しているが、俺達は違う。場合によっては警察も敵に回す。というかすでに回しているようなものだがな。」
「なんだってそんなことを。」
「今更ヤクザなんて生き方してきて、それを変えられるか。」
「暴力に頼る生き方をしてきたと。」
「そうさ。」
「なんで、そんな生き方しかできないんですか。」
「さあな、育ちの問題か。お前、ごくまっとうな家庭に生まれ育ったみてえだが。」
「甲斐さんは?」
「母子家庭で生まれて、育ちは施設さ。」
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