おバカな超能力者だけれども…

久保 倫

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甲斐史郎来襲

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「くそったれ。」
 哀れな受話器は、甲斐に投げられカーペットを転がっていった。
 甲斐は、鳶井らの逮捕を受け弁護士と対応を協議しようとしたが、断られた。
「私どもは新星会と顧問契約を結んでおりますが、甲斐組とは結んでおりません。甲斐さんが新星会の若頭補佐としての業務で依頼されるならば受けますが、甲斐組組長としての依頼はお受けいたしかねます。」
 無論、契約を結んだ上での協議を申し込んだが、婉曲に断られた。跡目争いに関わりたくないらしい。
普段、普通に接していただけにショックも大きい。
「あいつらが俺のことをゲロするとは思えないが、今回の件、何かおかしい。一人だけならまだしも3人とも、全滅だ。誰かがチクったとしか思えん。」
「どうします?今からヤクザ我々と顧問契約を結ぶ弁護士がいるでしょうか。」
「心当たりが一人いる。」

 かくして、甲斐史郎は吉良法律事務所の応接セットに座ることになったのであった。
 名刺交換を終え、吉良も応接セットに腰掛けた。
 じゃんけんに負けた黒江が二人にお茶を出す。
「さて、本日はどのようなご用件でお越し頂いたのでしょうか?」
「率直に申し上げます。私、甲斐史郎は、甲斐組と言う小さな暴力団の組長です。甲斐組には、顧問契約を結んだ弁護士がおりません。吉良先生に顧問弁護士になって頂こうと思い、足を運びました。」
 ズバリ切り込んで来た。
「どなたから私のことを?」
「先生は、新星会の創立者である江戸川氏の顧問をなさっていらっしゃいますね。私どもの組は、新星会の傘下で、私自身新星会では、若頭補佐の役を勤めております。」
「なるほど、江戸川氏からの紹介ですか。私には、何も連絡はありませんが。」
「紹介ではありません。江戸川氏には一言も相談しておりません。江戸川氏の顧問弁護士として名前を存じておりましたので、伺いました。」
「さようですか。」
 吉良は自身が、江戸川の顧問弁護士であることを隠してはいない。新星会の人間ならば知る可能性は、確かにある。
「ご足労頂いたのに恐縮ですが、お引き受けいたしかねます。私の知人の弁護士事務所を紹介しますので、そちらに依頼されて下さい。」
「……何故です?」
「失礼ながら、あなた方ヤクザの弁護は、大変難しい。万全を期すには、弁護団を結成してあたる必要があります。私どものような零細な事務所では不可能です。」
「江戸川氏は、引き受けられているではありませんか。」
「あの人との顧問契約は、引退してからです。現役ならば受けておりません。」
「……お引き受け頂けませんか。」
「はい、できないものをお引き受けしてご迷惑をおかけすることはできません。あなたは、自分がヤクザだと率直にお話しくださった。私も自分の能力のなさを話すことでしかお返しできません。」
 吉良は、後ろを振り返った。甲斐も吉良の視線の先を追う。
「この通り、職員一人、アルバイト2人の事務所です。しかもアルバイト二人は、入って1週間程度。とてもではありませんが、請け負いきれません。」
「……わかりました。」
「ご理解いただきありがとうございます。では、私の方から連絡を入れますのでしばし、お待ちください。」
「はい。」
 そう言って甲斐は、湯呑を口に運んだ。
 それを見ながら吉良は立ち上がり、電話を手にした。
「あぁ、すいません。お茶のおかわり頂けますか?」
「あ、はい。」
 視線のあった黒江は、慌ててお茶を煎れる。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
 受け取ったお茶を一口すすり甲斐は、口を開いた。
「お嬢さん、お名前は?」
「黒江文と言います。」
「文さんか、いいお名前だ。どうしてこちらでアルバイトを?」
「…いろいろとご縁がありまして。」
 急に話しかけられ、黒江はまごつきながらも返事をした。
「学生さんですか?」
「はい、今月入学したばかりです。」
「1年生ですか。地方から上京されたばかりですね。」
「はい、言葉とかどこかおかしいですか?」
「いいえ、言葉に問題はありません。ご両親の教育の賜物でしょう。ただ、東京にいる人間は大半が地方出身ですから、そう言えばかなりの確率で当たるのですよ。」
 甲斐はにこやかに笑った。
「地方から来たばかりだと、都心の地理にも不案内でしょう。一度、車でご案内いたしましょう。」
 白野の眼光には殺意じみたものが宿っていたかもしれない。蔵良も驚きの視線で甲斐を見つめる。
 黒江も固まってしまった。
「え、えっと。」
「すいません、甲斐さん。うちのバイトの子を口説くのは、ご容赦頂きたいですな。慣れていないから、戸惑ってしまってます。」
 電話を終えた吉良が、甲斐に声をかける。
「連絡はつきました。今日は終業時間が終わっておりますので、明日9時にお越し下さいとのことです。」
「ありがとうございます。明日の9時ですな。」
「はい、住所などはメモを差し上げますのでしばらくお待ちください。」
 吉良は、ロッカーから住所録を取り出し、メモを書いた。
「姉田法律事務所ですか。ありがとうございます。」
「女性です。年齢的にもあなたと釣り合いが取れるかもしれませんな。40代前半で、かなりの美人ですよ。」
「どうも。ですがそちらのお嬢さんは、かなり魅力的です。歳のことはこの際忘れたいですね。」
 黒江は、顔が真っ赤になってしまった。お盆で顔を半分隠してしまう。
「お嬢さん、私の連絡先です。お時間を一度頂けませんか?」
 そう言って甲斐は名刺を差し出してきた。断れず、黒江は受け取ってしまう。
「では、失礼します。」
 そう言って甲斐は、事務所から退出した。
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