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お説教(3)
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「どういう意味ですか?」
「『女心と秋の空』って言葉聞いたことある?」
「まぁ、一応は。」
「女心は変わりやすいからねぇ。お嬢ちゃんが、あんた以外にいい男を探そうと思ってもおかしくないね。」
「そ、そんなこと。」
渋谷での黒江を思い出す。超能力のことを語り笑う黒江、あの笑顔は俺以外の誰に出せるというのか。
「あんたなりに自信はあるのかもしれないけど、わからないよ。あんた、悪いけど、男としてダメだもの。あたしの元旦那の方がましだね。」
「なっ。」
そこまで言われると思わなかった。DV、浮気に浪費に無職と4拍子揃った男に劣る要素などさすがに無いはず。
「この場合の男ってのはね、女から見た恋愛相手のこと。」
「それぐらいわかります!」
「大きな声出しなさんな。あんたは、あんな最低男に劣るところなど何一つ無いと思っているかもしれないけど、恋愛の相手としてはダメ。一点において劣る。そしてその一点は、恋愛において極めて重要。」
「なんです?」
「あなた、言葉に出して『好きです』とかお嬢ちゃんに言った?」
「いいえ。」
「やっぱりね、それがダメなんだよ。ひょっとしてあんた、お嬢ちゃんが自分の気持ちを知っていると思ってないかい?」
「ある程度知っていると思う。」
「だから、言わなくてもいいと思ってないかい。態度でちゃんと示しているだろうって思ってないかい?」
「まぁ。」
「それがいけない。ちゃんと言葉にしな。元旦那は、それだけはキチンとしてた。『好きだよ』とか『愛してる』とか折に触れて言ったよ。今になっちゃあ、忌々しい思い出でしかないけどさ。」
「軽い言葉じゃないですよね。」
「そう、軽い言葉じゃない。あたしはキャバ嬢やってたからわかるんだけど、真面目な男ほど真剣になるとかえって
その言葉を口にしない傾向にあるね。あたしらには遊びだから大盤振る舞いしてくれるけど。」
ポケットから煙草を取り出し咥えた。
「で、その結果、他の男に取られることがある。大手一流企業の社員で収入や将来性十分とあたしの目から見てもいい男なんだけど、振られちゃう。」
「よくわかるんですね。」
「その男を慰めると言って、キャバに来る連中もいるからね。話してればわかるよ。」
紫煙を吐いた。
「で、あんたも一応真面目に属する部類の男だから言葉にしたがらない。でもそれじゃぁ、ダメ。合コンで他の男が『好きです』なんて言ったらお嬢ちゃんなびくかもしれないよ。」
「ま、まさか。」
「どうだろ、お嬢ちゃんあんたとの関係をどう思っているのか。」
ちゅーするような間柄じゃないでしょ、と頬を耳をつねられたことを思い出した。
「おんや、何やら自信が無くなったような。」
「そんな、馬鹿な。」
「体が赤いな。」
よ、余計なことを!
睨みつけるが、吉良はすました顔をしているだけだ。
「自信が薄くなっているようだねぇ。」
「うぐぐ。」
「何をすべきかは、わかっただろ。坊や。」
「告白しろと。」
「そう。まだ時間はある。なんならさっき先生がお願いした甲斐の通話履歴の調査、ホテルですればいいじゃない。事の前後でお嬢ちゃんに告白して、そのまま押し倒しちゃいな。」
「それも悪くないな。その場合は時間がいくら伸びても経費として認めよう。シャンパンも一本まではお祝いに認めようじゃないか。」
「大盤振る舞いですねぇ、先生。坊や、聞いたかい。」
「そうやって、俺で遊ばないで下さい。」
「遊んではおらん、若い二人の門出は祝福すべし。亡き妻の遺言だ。」
どこまで本気だ、この先生。
「もし、押し倒して、その先がわからないなら、おねーたまが手取り足取り教えたげようか?」
いつの間にか机の近くに移動していた蔵良が声をかけてきた。
「筆おろしの経験は初めてだけど、頑張るわよ。」
「結構です!浮気はできません!」
「浮気じゃなくてお勉強だよ。おねーたまもまだまだイケると思うんだけどなぁ。」
机に腰掛け、細い足首からの脚線美を誇示するように足を見せつける。
「結構です!」
OKしようもんなら何言われるか。いや待て。
「まさか、今の会話録音してないでしょうね。」
「あら、バレた。」
卓上から銀色の機器を取り上げた。
「一応、来客とのやり取りを録音できるよう、準備はしてるの。」
やっぱりぃぃぃ!
「『女心と秋の空』って言葉聞いたことある?」
「まぁ、一応は。」
「女心は変わりやすいからねぇ。お嬢ちゃんが、あんた以外にいい男を探そうと思ってもおかしくないね。」
「そ、そんなこと。」
渋谷での黒江を思い出す。超能力のことを語り笑う黒江、あの笑顔は俺以外の誰に出せるというのか。
「あんたなりに自信はあるのかもしれないけど、わからないよ。あんた、悪いけど、男としてダメだもの。あたしの元旦那の方がましだね。」
「なっ。」
そこまで言われると思わなかった。DV、浮気に浪費に無職と4拍子揃った男に劣る要素などさすがに無いはず。
「この場合の男ってのはね、女から見た恋愛相手のこと。」
「それぐらいわかります!」
「大きな声出しなさんな。あんたは、あんな最低男に劣るところなど何一つ無いと思っているかもしれないけど、恋愛の相手としてはダメ。一点において劣る。そしてその一点は、恋愛において極めて重要。」
「なんです?」
「あなた、言葉に出して『好きです』とかお嬢ちゃんに言った?」
「いいえ。」
「やっぱりね、それがダメなんだよ。ひょっとしてあんた、お嬢ちゃんが自分の気持ちを知っていると思ってないかい?」
「ある程度知っていると思う。」
「だから、言わなくてもいいと思ってないかい。態度でちゃんと示しているだろうって思ってないかい?」
「まぁ。」
「それがいけない。ちゃんと言葉にしな。元旦那は、それだけはキチンとしてた。『好きだよ』とか『愛してる』とか折に触れて言ったよ。今になっちゃあ、忌々しい思い出でしかないけどさ。」
「軽い言葉じゃないですよね。」
「そう、軽い言葉じゃない。あたしはキャバ嬢やってたからわかるんだけど、真面目な男ほど真剣になるとかえって
その言葉を口にしない傾向にあるね。あたしらには遊びだから大盤振る舞いしてくれるけど。」
ポケットから煙草を取り出し咥えた。
「で、その結果、他の男に取られることがある。大手一流企業の社員で収入や将来性十分とあたしの目から見てもいい男なんだけど、振られちゃう。」
「よくわかるんですね。」
「その男を慰めると言って、キャバに来る連中もいるからね。話してればわかるよ。」
紫煙を吐いた。
「で、あんたも一応真面目に属する部類の男だから言葉にしたがらない。でもそれじゃぁ、ダメ。合コンで他の男が『好きです』なんて言ったらお嬢ちゃんなびくかもしれないよ。」
「ま、まさか。」
「どうだろ、お嬢ちゃんあんたとの関係をどう思っているのか。」
ちゅーするような間柄じゃないでしょ、と頬を耳をつねられたことを思い出した。
「おんや、何やら自信が無くなったような。」
「そんな、馬鹿な。」
「体が赤いな。」
よ、余計なことを!
睨みつけるが、吉良はすました顔をしているだけだ。
「自信が薄くなっているようだねぇ。」
「うぐぐ。」
「何をすべきかは、わかっただろ。坊や。」
「告白しろと。」
「そう。まだ時間はある。なんならさっき先生がお願いした甲斐の通話履歴の調査、ホテルですればいいじゃない。事の前後でお嬢ちゃんに告白して、そのまま押し倒しちゃいな。」
「それも悪くないな。その場合は時間がいくら伸びても経費として認めよう。シャンパンも一本まではお祝いに認めようじゃないか。」
「大盤振る舞いですねぇ、先生。坊や、聞いたかい。」
「そうやって、俺で遊ばないで下さい。」
「遊んではおらん、若い二人の門出は祝福すべし。亡き妻の遺言だ。」
どこまで本気だ、この先生。
「もし、押し倒して、その先がわからないなら、おねーたまが手取り足取り教えたげようか?」
いつの間にか机の近くに移動していた蔵良が声をかけてきた。
「筆おろしの経験は初めてだけど、頑張るわよ。」
「結構です!浮気はできません!」
「浮気じゃなくてお勉強だよ。おねーたまもまだまだイケると思うんだけどなぁ。」
机に腰掛け、細い足首からの脚線美を誇示するように足を見せつける。
「結構です!」
OKしようもんなら何言われるか。いや待て。
「まさか、今の会話録音してないでしょうね。」
「あら、バレた。」
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「一応、来客とのやり取りを録音できるよう、準備はしてるの。」
やっぱりぃぃぃ!
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