おバカな超能力者だけれども…

久保 倫

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分析(3)

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「そもそも上納金を得ると言いますが、どうして払うんでしょう。」
「色々あるな。例として半グレの中には、ボッタクリバーを経営するものがある。」
「それは、安い値段で呼び込んでものすごいお金を払えというお店ですよね。」
 警察24時のような番組で見たことはある。
「そう、払ってもらえればいいが、払わず揉めた場合、ヤクザが出てくる。このために払うんだ。」
「他にもお客同士の喧嘩の仲裁もあるわよ。」
 蔵良が過去の経験を披露した。
「それくらい警察を呼べば。」
「警察呼んだら他のお客がシラケるし、見られたくないのもあるからさ。」
「見られたくないって?」
「未成年が働いていることもあるから。まだ20以下の飲酒は違法だよ。」
「18才とかいるってことですか。」
「昔の同僚の中には中学生からやってるってのもいたよ。普通にビール呑んでたって。」
「え~!」
 にわかに信じ難い話だった。
「地方から上京してきた子の話さ。」
「蔵良さんも?」
「あたしはしてない。そもそもキャバ自体が無いような田舎だったんだよ。」
 蔵良は、タバコに火を点けた。
「ま、世の中お嬢ちゃんには想像もつかないことがあるってこと。」
 紫煙をくゆらす蔵良を見て、黒江はこの数日で自分が垣間見た世界のことを考えた。自分のことを世間知らずと思ってはいたが、知らぬことが想像を越えていた。DV、犯罪、本で読んだことはあるが、目の前の人間から語られたことはない。せいぜい、親とニュースを見ながら話をする程度だった。
 超能力者と知り合いたい。そう思って上京してきたが、こういった世界を垣間見るとは思ってなかった。考えるだけで、なんというか、膨大な何かに圧倒されそうである。
 とりあえず、手を動かそう。というか動かすことでごまかそう。
 目の前のPCの設定に集中する。
 吉良も蔵良も目の前のPCを見つめている。
「先生、設定終わりました。」
「ありがとう、やっと君のパソコンを返せるね。」
 吉良は、黒江のPCを閉じ、SDカードを抜いてから黒江に返した。
「いいえ、お役に立ててよかったです。」
「今日は、この辺にしておこう。」
「もうやめるんですか?」
 時計を見ると3時半を過ぎたくらいだった。
「そんなに急がなくてもいいしね。それに本来今日は休日だ。年寄りにオーバーワークさせないでくれ。」
「そうでした、失礼しました。」
 ここしばらく休み同然だったので曜日の感覚が狂っているな、と黒江は思った。
「では、今日はもうお終いだ。根を詰めてもしょうがないからね。」

 5時過ぎ、吉良が事務所のカギを開けようとすると蔵良が階段を上がってきた。
「蔵良君。」
「先生、今日はもうお終いではなかったのですか。」
「いや、忘れ物をね。君は?」
「では、私も忘れ物を。」
 蔵良は笑いながら吉良に近寄った。
「先生は、分析をすすめるのでしょう。」
「あぁ、早いところカタをつけたい。」
「お手伝いします。あたしは、正職員ですから。アルバイトとは責任感が違いますよ。」
「事務所の財務状況としては、休日出勤は厳しいのだがね。」
「先生、お嬢ちゃんに世の中の裏側を見せたくないのでしょう。」
「君もかね?」
「あたしは、先生の意向に沿うだけです。お嬢ちゃんはどうでもいいですよ。せいぜい、あの坊やとひっつけばいいのにと思うくらいです。」
「私もそう思っているよ。悪い青年ではないのだから。」
「あの坊やが悪いです。やるべきことをしないのだから。その気はあるのに。」
「手厳しいね。」
 吉良はカギを開け、事務所に入った。電気をつける。
「さて、あんまり遅くならないようにしよう。」
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