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分析(2)
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黒江は、秋葉原に着いて、父親の携帯に電話した。
コール2回で父は出た。
「文、何かあったのか?大丈夫か?変な男につけ回されたりしてないか?」
変わらぬ父の心配性ぶりに苦笑してしまう。
「大丈夫、お父さん。ちょっと相談があるの。」
「なんだい?文の相談ならお父さんいつでものるぞ。」
男の子と知り合ったんだけど、ちょっとエッチなの。どうすればいい?
などと言った日には、錯乱したあげく連れ戻しに今日中に上京するだろうなぁ、と考えながら口を開いた。
「寮のお友達にパソコン何を買ったらいいか聞かれたの。どんなのがいいかな?」
「お友達のパソコン?」
「そう。長く社会人になっても使えるのがいいって。」
というか社会人が使うんだけど。
「仕事に使うとなるとパワーポイントが必須だな。」
「パワーポイント必須ね。」
「CPUはi7、妥協してもi5。メモリは8Gで将来のために増設の空きスロットは欲しいところだな。」
「はいはい。」
「SSDは、このクラスになれば120G以下は無いだろうから特にないな。後HDMI端子も必須だな。」
「HDMI端子必須だね。」
「簡単に言えばその位だろう。後は14インチ以下の機種にしなさい。女の子だと軽い方がいいだろう。」
「あんまり持ち運ばないから、大きさはそんなにこだわらないかな。」
「文、男が使うんじゃないだろうね?」
「違うよ。」
蔵良さん、女だもん。
「文、男がいっぱい文に群がってくるだろうけど、相手にしてはいけないよ。いいかい、文ぁ……いたぁ。」
「あんた!」
女性の声。お母さんだ。
「いや、文からかけて……うぐっ。」
正拳かな。みぞおちにでも入ったかな。
空手有段者の母の辞書に、情け容赦の文字はあるはずだが、今そのページは開いてないようだ。
「文、かけなくていいって言っておいたはずだけど。」
とうとうスマホを取り上げられたようだ。
「お母さん、今日は私からかけたの。パソコンのことで質問したくて。」
「そうなのかい。」
そう言っただろ、という声が聞こえる。
「変わろうか?」
「いや、スペックとか聞いたから大丈夫。」
「そう、お父さんも娘離れしないといけないから、電話しなくていいよ。そっちでいい男捕まえなさい。良さそうな子いた?」
白野さんは、悪くないけど、巨乳にフラフラするところとか、エッチな雑誌を読むとことか、改善点は多そうなんだよね。
「う~ん、まだ、かな。入学式は明日だから。」
候補がいるとか言うと長くなりそうなので誤魔化す。
「そう、お母さんたちは行かないけど、ちゃんと遅れないようにね。そして周りによさげな男の子がいないかチェックするんだよ。」
「文ぁ、お母さんの言うことなんか聞くんじゃないぞ!学校なんてやめていつでもこっちに帰ってきなさい!そうでなければ電話も毎日……。」
父親の絶叫は、途中で中断した。今度は前蹴りかな。お父さん大丈夫だろうか。
「文、元気でね。いい男がいれば離さないようにね。必要とあれば東京から帰ってこなくていいからね。」
「お母さんも、ほどほどにね。」
「手加減しておくよ、病院代も安くないからね。」
……お父さん、強く生きて下さい。東京の空の下から祈ってます。
「お父さんにも、優しくしてね。」
「はい、お父さんに伝えておくね。」
通話は切れた。
「お父さん、無事でね。」
一言つぶやいて歩き始める。ノートパソコンを買わなくてはならないのだ。
黒江が戻ったのは、午後になった。安くと頼まれなくても、そうそう高いものを買うわけにはいかない。秋葉原のお店を値段をチェックしながら一通り回ったのだ。
「先生、戻りました。」
「お嬢ちゃん、お疲れ。」
「はい、蔵良さん、残りのお金と領収書です。」
黒江は、蔵良に封筒を差し出した。
「重かっただろう。すまないね。」
「平気です。最近のノートパソコンは、軽いんですよ。」
買って来たノートパソコンを机の上に置き、開封し始める。
「安くということでしたけど、長い間使うものですからそれなりのものを買ってきました。」
「いいよ、あたしはわからないから。」
蔵良は立ち上がり、お茶を煎れた。
「お疲れ、のども乾いたろ。」
「ありがとうございます。」
黒江はお茶を一口飲んだ。
「ところで、何かわかりましたか?」
「面白いことがわかったよ。甲斐は借金王だな。」
「借金王?」
「そう、彼は組の立ち上げなどに際し、多額の借金をしている。」
「借金ですか?あの人、夜の街で人にものすごくおごったりしてるって。」
「そういう資金は全て借金だったわけだ。資金源の謎が解けただけでも前進だね。」
「そんな、借金があるのに、人におごるんですか?おかしくないですか?」
「普通の感覚ではそうだろう。だが、甲斐には経営者的な考えができるようだ。今は借金してもいい。後で儲けが出して返済すればいい、と考えるのだろう。」
「そういうものなんでしょうか?」
家のローンが、などという母親の愚痴を知っているだけに肯定できない。
「普通に企業で行われていることだよ。例えば大手スーパーが新しく出店するときは銀行からお金を借りる。スーパーは、新しく出店した店で儲け、その儲けから借金の返済を行う。」
「それは一応知ってますが、この場合借金してお金散財してるだけじゃないですか。」
「そうとも言えない。奢るにしても相手を選んでいる。例えば半グレの若者たちにおごることで好感を得て取り込み、最終的に上納金を得る。さっきのスーパーだって、開店セールで原価割れで物を売り、安い店だというイメージをお客に植え付け、また買い物に来させるのと似たようなものだな。」
「なんとなくわかったような…。」
黒江には、スーパーの話は理解できても、ヤクザの世界がよく理解できなかった。
コール2回で父は出た。
「文、何かあったのか?大丈夫か?変な男につけ回されたりしてないか?」
変わらぬ父の心配性ぶりに苦笑してしまう。
「大丈夫、お父さん。ちょっと相談があるの。」
「なんだい?文の相談ならお父さんいつでものるぞ。」
男の子と知り合ったんだけど、ちょっとエッチなの。どうすればいい?
などと言った日には、錯乱したあげく連れ戻しに今日中に上京するだろうなぁ、と考えながら口を開いた。
「寮のお友達にパソコン何を買ったらいいか聞かれたの。どんなのがいいかな?」
「お友達のパソコン?」
「そう。長く社会人になっても使えるのがいいって。」
というか社会人が使うんだけど。
「仕事に使うとなるとパワーポイントが必須だな。」
「パワーポイント必須ね。」
「CPUはi7、妥協してもi5。メモリは8Gで将来のために増設の空きスロットは欲しいところだな。」
「はいはい。」
「SSDは、このクラスになれば120G以下は無いだろうから特にないな。後HDMI端子も必須だな。」
「HDMI端子必須だね。」
「簡単に言えばその位だろう。後は14インチ以下の機種にしなさい。女の子だと軽い方がいいだろう。」
「あんまり持ち運ばないから、大きさはそんなにこだわらないかな。」
「文、男が使うんじゃないだろうね?」
「違うよ。」
蔵良さん、女だもん。
「文、男がいっぱい文に群がってくるだろうけど、相手にしてはいけないよ。いいかい、文ぁ……いたぁ。」
「あんた!」
女性の声。お母さんだ。
「いや、文からかけて……うぐっ。」
正拳かな。みぞおちにでも入ったかな。
空手有段者の母の辞書に、情け容赦の文字はあるはずだが、今そのページは開いてないようだ。
「文、かけなくていいって言っておいたはずだけど。」
とうとうスマホを取り上げられたようだ。
「お母さん、今日は私からかけたの。パソコンのことで質問したくて。」
「そうなのかい。」
そう言っただろ、という声が聞こえる。
「変わろうか?」
「いや、スペックとか聞いたから大丈夫。」
「そう、お父さんも娘離れしないといけないから、電話しなくていいよ。そっちでいい男捕まえなさい。良さそうな子いた?」
白野さんは、悪くないけど、巨乳にフラフラするところとか、エッチな雑誌を読むとことか、改善点は多そうなんだよね。
「う~ん、まだ、かな。入学式は明日だから。」
候補がいるとか言うと長くなりそうなので誤魔化す。
「そう、お母さんたちは行かないけど、ちゃんと遅れないようにね。そして周りによさげな男の子がいないかチェックするんだよ。」
「文ぁ、お母さんの言うことなんか聞くんじゃないぞ!学校なんてやめていつでもこっちに帰ってきなさい!そうでなければ電話も毎日……。」
父親の絶叫は、途中で中断した。今度は前蹴りかな。お父さん大丈夫だろうか。
「文、元気でね。いい男がいれば離さないようにね。必要とあれば東京から帰ってこなくていいからね。」
「お母さんも、ほどほどにね。」
「手加減しておくよ、病院代も安くないからね。」
……お父さん、強く生きて下さい。東京の空の下から祈ってます。
「お父さんにも、優しくしてね。」
「はい、お父さんに伝えておくね。」
通話は切れた。
「お父さん、無事でね。」
一言つぶやいて歩き始める。ノートパソコンを買わなくてはならないのだ。
黒江が戻ったのは、午後になった。安くと頼まれなくても、そうそう高いものを買うわけにはいかない。秋葉原のお店を値段をチェックしながら一通り回ったのだ。
「先生、戻りました。」
「お嬢ちゃん、お疲れ。」
「はい、蔵良さん、残りのお金と領収書です。」
黒江は、蔵良に封筒を差し出した。
「重かっただろう。すまないね。」
「平気です。最近のノートパソコンは、軽いんですよ。」
買って来たノートパソコンを机の上に置き、開封し始める。
「安くということでしたけど、長い間使うものですからそれなりのものを買ってきました。」
「いいよ、あたしはわからないから。」
蔵良は立ち上がり、お茶を煎れた。
「お疲れ、のども乾いたろ。」
「ありがとうございます。」
黒江はお茶を一口飲んだ。
「ところで、何かわかりましたか?」
「面白いことがわかったよ。甲斐は借金王だな。」
「借金王?」
「そう、彼は組の立ち上げなどに際し、多額の借金をしている。」
「借金ですか?あの人、夜の街で人にものすごくおごったりしてるって。」
「そういう資金は全て借金だったわけだ。資金源の謎が解けただけでも前進だね。」
「そんな、借金があるのに、人におごるんですか?おかしくないですか?」
「普通の感覚ではそうだろう。だが、甲斐には経営者的な考えができるようだ。今は借金してもいい。後で儲けが出して返済すればいい、と考えるのだろう。」
「そういうものなんでしょうか?」
家のローンが、などという母親の愚痴を知っているだけに肯定できない。
「普通に企業で行われていることだよ。例えば大手スーパーが新しく出店するときは銀行からお金を借りる。スーパーは、新しく出店した店で儲け、その儲けから借金の返済を行う。」
「それは一応知ってますが、この場合借金してお金散財してるだけじゃないですか。」
「そうとも言えない。奢るにしても相手を選んでいる。例えば半グレの若者たちにおごることで好感を得て取り込み、最終的に上納金を得る。さっきのスーパーだって、開店セールで原価割れで物を売り、安い店だというイメージをお客に植え付け、また買い物に来させるのと似たようなものだな。」
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