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甲斐の構想
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甲斐の仕事量は多い。、新星会の若頭補佐をやりつつ、小さい世帯と言え独立したばかりの組の組長などやれば当然だが。
小さいからこそ、仕事量が多いのかもしれない。例えば
「組長、晩飯作りますが、何にしましょう?」
部屋住みの若いのに答えるのも仕事だったりする。
「俺は呑みに行くつもりだからいらん。姫乃に聞いて作れ。」
副組長の名前を出して指示する。
「ただ、7時にお握り持ってこい。2個な。」
「お握り2個、かしこまりました。」
そこに当の姫乃がやってきた。
「組長、先々代に関し報告が来ました。」
「何かあったか?」
「特には。ただ、顧問弁護士の事務所に行って結構長くいたと。」
「あのヤメ検の事務所か。いや待て、今日は土曜だから休みだろう。なんで開いてたんじゃ?」
「先々代と入れ替わりくらいに若いカップルが出てきたと言うことですから、そちら絡みかもしれません。」
「後は何かあるか?」
「いえ、姐さんと合流して特にはないですね。」
「尾行止めてええと伝えろ。後は何もないじゃろ。」
机の上の携帯が鳴った。
「李さん、こんにちは。はい、支払いの件ですか?15日には間違いなく。今までもきちんとお支払いしてきたじゃないですか。」
甲斐の視界の片隅で、部屋住みが姫乃に話しかけているのが見える。大方晩飯のことであろう。
「射撃場、はい、ソウルに2軒、プサンで1軒ですね。ちょっと不便な場所になる?やむをえませんね。おいくらぐらいに?はい、はい。」
メモ紙に数字を書き記す。
「こちらの準備はすすんでおります。お互いに利益になるようやっていきましょう。では失礼いたします。」
通話を終了させた。
「射撃場の件ですか?」
「そうじゃ、こっちの要望通りにやってくれる射撃場を李さんが探してくれた。本座も喜ぶじゃろ。」
「装薬が少なくてつまらんとぼやいてましたからね。」
韓国の射撃場では、発射用の火薬の量を減らしているのは有名である。
「マニア相手の商売じゃ。キチンと定量入れた薬莢で撃たせんとな。」
「準備も進んでいるとおっしゃってましたが。」
「おう、総合旅行業務取扱管理者の資格持ちを確保できた。そいつを社長に旅行代理店を開業する。合法な商売じゃから問題はない。ただ、九州、博多から出発の便を設定するとなると地元の士道会がうるさいじゃろうから、なんとかナシつけとかんといかん。」
福岡に根を張る暴力団の名前を、甲斐は口にした。
「先々代に頼りますか。」
「そうじゃ、新井組の外交官のあだ名は伊達じゃないけんの。士道会につないでもらうとすれば、あの人が一番頼りになる。じゃが、あの人俺の頼みを聞いてくれるか。」
甲斐はため息をついた。
「どうもあの人は俺を嫌っちょる。なんでじゃ。今回の跡目騒動も、俺は何にもしとらん。先々代が久島の兄さんを跡目にするなら俺はその下につくんじゃが。」
「無理ですよ。あなたがそうするつもりでも周りがほっておきません。先代の舎弟の方々の中には、あなたの意向関係なしにあなたに票を投じると公言する方もいます。本家でもあなたを組長に、という声があってそれが圧力にもなっている。若頭は悪い人じゃないですが、器量はあなたが上だ。」
「お前まで、俺に新星会を継げと。」
「上を目指してほしいだけです。新星会を継ぐ必要はありませんが、割る覚悟はして下さい。」
「先々代に嫌われる俺をそこまで慕うてくれるのはうれしいがの。」
「組長、正直になってください。先々代を監視するあたり、覚悟はできていると思ってますよ、自分は。」
「俺は、先々代が俺の蹴落としのために何か仕掛けるかもしれん、そう思ってるだけじゃ。かかる火の粉ははらう。それだけじゃ。そうせんとお前や本座たちにも迷惑がかかる。これがまぎれもない本音じゃ。」
「上は目指さないのですか?」
「目指すよ。ただ、今はそのための基盤つくりの時期と思うとる。」
「半グレの支配を推し進めることの方が重要だと。」
「あぁ、半グレどもを支配し序列化し最終的な頂点に俺らヤクザが君臨する体制をつくる。」
「そのために、チャカを渡す相手は選ぶのでしたね。」
「チャカを貰った奴は、その威力で勢力を拡大して行き、持ってない奴を支配する。そういうことができる奴かどうかを見て渡しているつもりだがな。」
そこに本座が入ってきた。
「親父、鳶井に銃の使い方教えておきました。」
「ご苦労。」
「嬉しそうな顔してましたよ。22LR弾で装薬減らしてるのに。」
「ふふ、そんなこと素人にはわからんからの。まぁ、あれで脅して勢力拡大していってもらおう。」
「脅しにしか使えん銃ですからね。」
「そんな銃でなきゃ誰が渡すか。こっちに向くかもしれんのに。」
「あなたもひどい人だ。下には威力の低い銃だけ渡して、自分は強力な銃を確保するのだから。」
姫乃が割り込んできた。
「褒めるなよ、被支配層に強力な武器は持たせない。基本だぜ。」
「まぁ、太閤さんも刀狩して武器取り上げてますからね。」
「向いたら向いたで俺の出番ですね。ちゃんと下の連中鍛えてますよ。」
「頼むぜ、韓国の射撃場も確保できた。サブマシンガンも置いてくれるよう交渉は進める。」
「おぉ、やりますよ、親父。」
本座が手を打ち合わせた。
「渋谷でヤクザを頂点とする体制を作り、ゆくゆくは他の地域にも広げていく。でかい構想ですが、組長ならできると信じてます。」
小さいからこそ、仕事量が多いのかもしれない。例えば
「組長、晩飯作りますが、何にしましょう?」
部屋住みの若いのに答えるのも仕事だったりする。
「俺は呑みに行くつもりだからいらん。姫乃に聞いて作れ。」
副組長の名前を出して指示する。
「ただ、7時にお握り持ってこい。2個な。」
「お握り2個、かしこまりました。」
そこに当の姫乃がやってきた。
「組長、先々代に関し報告が来ました。」
「何かあったか?」
「特には。ただ、顧問弁護士の事務所に行って結構長くいたと。」
「あのヤメ検の事務所か。いや待て、今日は土曜だから休みだろう。なんで開いてたんじゃ?」
「先々代と入れ替わりくらいに若いカップルが出てきたと言うことですから、そちら絡みかもしれません。」
「後は何かあるか?」
「いえ、姐さんと合流して特にはないですね。」
「尾行止めてええと伝えろ。後は何もないじゃろ。」
机の上の携帯が鳴った。
「李さん、こんにちは。はい、支払いの件ですか?15日には間違いなく。今までもきちんとお支払いしてきたじゃないですか。」
甲斐の視界の片隅で、部屋住みが姫乃に話しかけているのが見える。大方晩飯のことであろう。
「射撃場、はい、ソウルに2軒、プサンで1軒ですね。ちょっと不便な場所になる?やむをえませんね。おいくらぐらいに?はい、はい。」
メモ紙に数字を書き記す。
「こちらの準備はすすんでおります。お互いに利益になるようやっていきましょう。では失礼いたします。」
通話を終了させた。
「射撃場の件ですか?」
「そうじゃ、こっちの要望通りにやってくれる射撃場を李さんが探してくれた。本座も喜ぶじゃろ。」
「装薬が少なくてつまらんとぼやいてましたからね。」
韓国の射撃場では、発射用の火薬の量を減らしているのは有名である。
「マニア相手の商売じゃ。キチンと定量入れた薬莢で撃たせんとな。」
「準備も進んでいるとおっしゃってましたが。」
「おう、総合旅行業務取扱管理者の資格持ちを確保できた。そいつを社長に旅行代理店を開業する。合法な商売じゃから問題はない。ただ、九州、博多から出発の便を設定するとなると地元の士道会がうるさいじゃろうから、なんとかナシつけとかんといかん。」
福岡に根を張る暴力団の名前を、甲斐は口にした。
「先々代に頼りますか。」
「そうじゃ、新井組の外交官のあだ名は伊達じゃないけんの。士道会につないでもらうとすれば、あの人が一番頼りになる。じゃが、あの人俺の頼みを聞いてくれるか。」
甲斐はため息をついた。
「どうもあの人は俺を嫌っちょる。なんでじゃ。今回の跡目騒動も、俺は何にもしとらん。先々代が久島の兄さんを跡目にするなら俺はその下につくんじゃが。」
「無理ですよ。あなたがそうするつもりでも周りがほっておきません。先代の舎弟の方々の中には、あなたの意向関係なしにあなたに票を投じると公言する方もいます。本家でもあなたを組長に、という声があってそれが圧力にもなっている。若頭は悪い人じゃないですが、器量はあなたが上だ。」
「お前まで、俺に新星会を継げと。」
「上を目指してほしいだけです。新星会を継ぐ必要はありませんが、割る覚悟はして下さい。」
「先々代に嫌われる俺をそこまで慕うてくれるのはうれしいがの。」
「組長、正直になってください。先々代を監視するあたり、覚悟はできていると思ってますよ、自分は。」
「俺は、先々代が俺の蹴落としのために何か仕掛けるかもしれん、そう思ってるだけじゃ。かかる火の粉ははらう。それだけじゃ。そうせんとお前や本座たちにも迷惑がかかる。これがまぎれもない本音じゃ。」
「上は目指さないのですか?」
「目指すよ。ただ、今はそのための基盤つくりの時期と思うとる。」
「半グレの支配を推し進めることの方が重要だと。」
「あぁ、半グレどもを支配し序列化し最終的な頂点に俺らヤクザが君臨する体制をつくる。」
「そのために、チャカを渡す相手は選ぶのでしたね。」
「チャカを貰った奴は、その威力で勢力を拡大して行き、持ってない奴を支配する。そういうことができる奴かどうかを見て渡しているつもりだがな。」
そこに本座が入ってきた。
「親父、鳶井に銃の使い方教えておきました。」
「ご苦労。」
「嬉しそうな顔してましたよ。22LR弾で装薬減らしてるのに。」
「ふふ、そんなこと素人にはわからんからの。まぁ、あれで脅して勢力拡大していってもらおう。」
「脅しにしか使えん銃ですからね。」
「そんな銃でなきゃ誰が渡すか。こっちに向くかもしれんのに。」
「あなたもひどい人だ。下には威力の低い銃だけ渡して、自分は強力な銃を確保するのだから。」
姫乃が割り込んできた。
「褒めるなよ、被支配層に強力な武器は持たせない。基本だぜ。」
「まぁ、太閤さんも刀狩して武器取り上げてますからね。」
「向いたら向いたで俺の出番ですね。ちゃんと下の連中鍛えてますよ。」
「頼むぜ、韓国の射撃場も確保できた。サブマシンガンも置いてくれるよう交渉は進める。」
「おぉ、やりますよ、親父。」
本座が手を打ち合わせた。
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