27 / 77
甲斐史郎
しおりを挟む
クラクションが鳴って甲斐史郎は、目を開けた。
「親父すいません、起こしましたか?すいません。」
「寝とらんわ。目を閉じて考えごとしとっただけじゃ。」
甲斐は、忌々しい先々代の狡猾げな顔を振り払った。
「そろそろ事務所じゃと思うたしの。」
「その通りです。」
車が止まり、運転席から運転手が飛び出し、後部座席のドアを開けた。甲斐はゆっくりと降りた。
「ご苦労。」
「へい、車停めてきます。」
甲斐は返事をせず、事務所の扉を開けた。
「今、帰った。」
甲斐が言うや否や何人かが飛び出して来る。
「親父、お帰りなさいませ。」
「おう、あいつはきとるか?」
「はい、応接室に待たせております。」
「ヨシ、本座来てくれ。」
「了解しました。」
「ヤだヤだ。」
暴れる黒江を引きずる白野の足が、壁に当たった。この辺りか。
「ごめん、黒江さん。今『Mark2eyeball』使ってるから前が見えない。悪いけど俺を部屋まで連れて行って欲しい。」
暴れるのをやめ、黒江は、白野の顔を見た。目を固く閉じている。
「なんで使ってるの?」
「甲斐が帰ってきたらパソコンを立ち上げる可能性は高い。今見ておけば、事は早く進む。」
「……しょうがないわねぇ。」
「多分、この壁部屋を表示してるパネルになっていると思う。どこでもいいから空いている部屋に連れて行って。甲斐は今玄関で組員達に指示してるみたい。」
「もぉ!」
黒江は、パネルに向きあった。点灯してる部屋としてない部屋があり、してない部屋は入っているようだ。大分暗い。
「なんなのよ、こんな昼間から。」
点灯している部屋を適当に選択した。部屋番号の書かれた紙が出てきた。近くの説明書きを見ると、紙を持っていくよう書いてある。部屋は自動で開いているらしい。
「201号室、2階ね。」
「待たせたな。」
言いながら灰皿をチェックし、きれいなことに甲斐は満足した。副組長の姫野が若い部屋住みをよく躾けてくれている証拠だ。
待たせている青年――鳶井 の対面に腰を降ろす。
「色々と忙しいじゃろうに来てもろうてすまんの。ケツは持っちゃるけど、事前に知っときたいけんの。」
ポケットから煙草を取り出し進める。甲斐も咥えると傍らの部屋住みが火を点けた。
「やるのか?」
「はい、これ以上『スカル』の連中ほっといたらオレら『レイブン』は、なめられます。なめられたら終いです。」
「いつやるんじゃ?」
「今日です。夜の10時に集合かけてます。」
「あっちの方が人数多いのと違うか?」
「喧嘩は数じゃありません。根性です。」
「えぇ返事や。」
甲斐は、タバコを灰皿に置き、懐からS&Wモデル22Aを取り出し突き付けた。
「ちょっと、片目だけ開けられないの?」
手を引きながら黒江は聞いた。
「駄目なんだ。『Mark2eyeball』は片目開けただけでも解除される。」
「不便ねぇ。あ、階段になるから気をつけて。」
手を引きながら階段を昇る。1基だけのエレベーターは4階だったので待つくらいならと、階段にした。
「あ~あ、一段ごとになんか自分が汚れていくような気がする。」
「黒江さん、ごめん。」
「しょうがないわよ。それより状況は?」
「今甲斐は、俺らより3つくらい年上の男と会ってる。」
「そう、まだパソコンは扱って無いんだ。」
二人は階段を上がり切った。
「201号室は……すぐそこね。」
階段を昇って、少し歩いた所に「201号室」と表示されたドアがあった。
「あっ、今甲斐が拳銃を突きつけた。」
「えっ?!」
ちょっと大変かも。急いで黒江は白野を引っ張り部屋に引き込んだ。
「白野さん、ここ靴脱ぐみたい。」
「わかった。」
黒江が先にパンプスを脱いで段差を上がる。
白野も靴を脱ごうとしたが、慌ててる上に目を閉じてるせいでうまくいかず、転倒してしまった。
「きゃぁぁぁっ!」
絶賛されるべきであろう。
黒江を押し倒すように倒れた時も、
素早く体を起こす時も、
黒江の怒り暴れた足が偶然ながらキレイにアゴに入った時も、
「やだぁ!」
黒江の平手打ちが炸裂した時も、
決して白野は、まぶたを開かなかった。
「甲斐さん、オレをきるんですか?」
「さぁ、どうしようかいのぉ~。」
憎々しげに甲斐をにらみつける鳶井と対称的に、甲斐は楽しげであった。
「怖いか?」
「まぁ。」
答えながら鳶井は、隙を伺った。頭を左右に動かすと、銃口も左右に動く。
「おいおい、変なこと考えるなよ。俺もいるんだし、もう一人いるんだからな。」
甲斐の後ろにいる本座が声をかけてきた。
さっきから灰皿の片づけに控えていた奴も後ろに回りやがった。俺が飛びかかろうとすれば、即座に押さえ掛かるだろう。
「なんで、オレはちゃんとアガリを払ってきた。これからだってそのつもりだ。」
「おい、鳶井の真後ろに立つな。鳶井をぶち抜いてお前に当たるかもしれんからの。」
無視かよ。
「近寄んないでよね、変なことしたらただじゃおかないから。」
黒江は、ベッドに座り掛け布団を体に巻き付け防御に徹している。
「ごめん、絶対何もしない。」
白野は、床に座り壁にもたれかかっている。
「見てないでしょうね?」
暴れた時足を激しく動かしたから……。
「何を言いたいのかわかんないけど、俺、目開けられないから何も見てない。」
「わかったわ。ところで状況は、どうなっているの?」
「やばいな、会話とかわかんないけど、緊迫した雰囲気はわかる。」
「先生に知らせておくね。」
黒江はスマホを取り出す。まだ江戸川という老人と話し中かもと思い、蔵良にlineを送った。
「甲斐が拳銃を若い男性に突きつけてます。」
返事はすぐに返ってきた。
「場所は?」
「事務所の中です。」と返信する。
「あんたは、『新参者同士仲良くしようや』と言うからケツ持ちも頼んだ。今更、なんでオレを殺そうとするんだ?」
「さぁな、あの世でゆっくり考えてくれや。」
甲斐は、引き金を引いた。
「親父すいません、起こしましたか?すいません。」
「寝とらんわ。目を閉じて考えごとしとっただけじゃ。」
甲斐は、忌々しい先々代の狡猾げな顔を振り払った。
「そろそろ事務所じゃと思うたしの。」
「その通りです。」
車が止まり、運転席から運転手が飛び出し、後部座席のドアを開けた。甲斐はゆっくりと降りた。
「ご苦労。」
「へい、車停めてきます。」
甲斐は返事をせず、事務所の扉を開けた。
「今、帰った。」
甲斐が言うや否や何人かが飛び出して来る。
「親父、お帰りなさいませ。」
「おう、あいつはきとるか?」
「はい、応接室に待たせております。」
「ヨシ、本座来てくれ。」
「了解しました。」
「ヤだヤだ。」
暴れる黒江を引きずる白野の足が、壁に当たった。この辺りか。
「ごめん、黒江さん。今『Mark2eyeball』使ってるから前が見えない。悪いけど俺を部屋まで連れて行って欲しい。」
暴れるのをやめ、黒江は、白野の顔を見た。目を固く閉じている。
「なんで使ってるの?」
「甲斐が帰ってきたらパソコンを立ち上げる可能性は高い。今見ておけば、事は早く進む。」
「……しょうがないわねぇ。」
「多分、この壁部屋を表示してるパネルになっていると思う。どこでもいいから空いている部屋に連れて行って。甲斐は今玄関で組員達に指示してるみたい。」
「もぉ!」
黒江は、パネルに向きあった。点灯してる部屋としてない部屋があり、してない部屋は入っているようだ。大分暗い。
「なんなのよ、こんな昼間から。」
点灯している部屋を適当に選択した。部屋番号の書かれた紙が出てきた。近くの説明書きを見ると、紙を持っていくよう書いてある。部屋は自動で開いているらしい。
「201号室、2階ね。」
「待たせたな。」
言いながら灰皿をチェックし、きれいなことに甲斐は満足した。副組長の姫野が若い部屋住みをよく躾けてくれている証拠だ。
待たせている青年――鳶井 の対面に腰を降ろす。
「色々と忙しいじゃろうに来てもろうてすまんの。ケツは持っちゃるけど、事前に知っときたいけんの。」
ポケットから煙草を取り出し進める。甲斐も咥えると傍らの部屋住みが火を点けた。
「やるのか?」
「はい、これ以上『スカル』の連中ほっといたらオレら『レイブン』は、なめられます。なめられたら終いです。」
「いつやるんじゃ?」
「今日です。夜の10時に集合かけてます。」
「あっちの方が人数多いのと違うか?」
「喧嘩は数じゃありません。根性です。」
「えぇ返事や。」
甲斐は、タバコを灰皿に置き、懐からS&Wモデル22Aを取り出し突き付けた。
「ちょっと、片目だけ開けられないの?」
手を引きながら黒江は聞いた。
「駄目なんだ。『Mark2eyeball』は片目開けただけでも解除される。」
「不便ねぇ。あ、階段になるから気をつけて。」
手を引きながら階段を昇る。1基だけのエレベーターは4階だったので待つくらいならと、階段にした。
「あ~あ、一段ごとになんか自分が汚れていくような気がする。」
「黒江さん、ごめん。」
「しょうがないわよ。それより状況は?」
「今甲斐は、俺らより3つくらい年上の男と会ってる。」
「そう、まだパソコンは扱って無いんだ。」
二人は階段を上がり切った。
「201号室は……すぐそこね。」
階段を昇って、少し歩いた所に「201号室」と表示されたドアがあった。
「あっ、今甲斐が拳銃を突きつけた。」
「えっ?!」
ちょっと大変かも。急いで黒江は白野を引っ張り部屋に引き込んだ。
「白野さん、ここ靴脱ぐみたい。」
「わかった。」
黒江が先にパンプスを脱いで段差を上がる。
白野も靴を脱ごうとしたが、慌ててる上に目を閉じてるせいでうまくいかず、転倒してしまった。
「きゃぁぁぁっ!」
絶賛されるべきであろう。
黒江を押し倒すように倒れた時も、
素早く体を起こす時も、
黒江の怒り暴れた足が偶然ながらキレイにアゴに入った時も、
「やだぁ!」
黒江の平手打ちが炸裂した時も、
決して白野は、まぶたを開かなかった。
「甲斐さん、オレをきるんですか?」
「さぁ、どうしようかいのぉ~。」
憎々しげに甲斐をにらみつける鳶井と対称的に、甲斐は楽しげであった。
「怖いか?」
「まぁ。」
答えながら鳶井は、隙を伺った。頭を左右に動かすと、銃口も左右に動く。
「おいおい、変なこと考えるなよ。俺もいるんだし、もう一人いるんだからな。」
甲斐の後ろにいる本座が声をかけてきた。
さっきから灰皿の片づけに控えていた奴も後ろに回りやがった。俺が飛びかかろうとすれば、即座に押さえ掛かるだろう。
「なんで、オレはちゃんとアガリを払ってきた。これからだってそのつもりだ。」
「おい、鳶井の真後ろに立つな。鳶井をぶち抜いてお前に当たるかもしれんからの。」
無視かよ。
「近寄んないでよね、変なことしたらただじゃおかないから。」
黒江は、ベッドに座り掛け布団を体に巻き付け防御に徹している。
「ごめん、絶対何もしない。」
白野は、床に座り壁にもたれかかっている。
「見てないでしょうね?」
暴れた時足を激しく動かしたから……。
「何を言いたいのかわかんないけど、俺、目開けられないから何も見てない。」
「わかったわ。ところで状況は、どうなっているの?」
「やばいな、会話とかわかんないけど、緊迫した雰囲気はわかる。」
「先生に知らせておくね。」
黒江はスマホを取り出す。まだ江戸川という老人と話し中かもと思い、蔵良にlineを送った。
「甲斐が拳銃を若い男性に突きつけてます。」
返事はすぐに返ってきた。
「場所は?」
「事務所の中です。」と返信する。
「あんたは、『新参者同士仲良くしようや』と言うからケツ持ちも頼んだ。今更、なんでオレを殺そうとするんだ?」
「さぁな、あの世でゆっくり考えてくれや。」
甲斐は、引き金を引いた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる