おバカな超能力者だけれども…

久保 倫

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やくざについて

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 翌日白野は、約束通りの時間に黒江と合流した。
「こっちです。ここが昨日案内するはずだったお店です。」
「蕎麦屋さんか。」
「丼ものとかもありますから足りないと思ったらそちらをどうぞ。」
「わかった。」
 二人は暖簾をくぐった。
 白野はかつ丼の大盛、黒江はざるそばを頼んだ。
「昨日は、大丈夫でした?」
「この通り、寝たまま吐いて、なんてことはないよ。ぐっすり寝たさ。」
「朝ごはんは?」
「コンビニでパンを買った。」
「パンだけですか?」
「野菜食べろってお袋から言われてるけど、めんどくさい。」
「ダメですよ、ちゃんと食べなきゃ。」
「お待たせしました。」
 注文した品がきた。手を合わせてから食べ始める。
「まぁ、セットのみそ汁にわかめがあるんでそれで野菜食べましたってことで。」
「わかめは悪くないですけど。」
「黒江さんのざるそばにはネギしかないじゃないか。」
「私は、朝サラダをいただいてますし、晩御飯にもキチンと野菜が出ます。」
 黒江はそばをすすった。
「白野さんも寮に入った方がよかったんじゃないですか?」
「いや…男子寮はいっぱいでさ…。」
 白野はかつ丼と格闘を始めた。
 白野の雰囲気に釈然としないものを感じながら黒江もそばをすすった。

 二人が事務所に着いたのは約束の10分前だった。
「先生、失礼します。」
「来たかね、隣の会議室に来てくれ。」
 吉良に案内され、隣の会議室に入った。蔵良もついてくる。
 会議室と言っても大した広さではない。6人分の椅子と長机が2つあるだけの部屋だった。
「はは、会議室と言ったが実際は、色々多目的に使ってる。多いのは、離婚交渉で、妻の側を匿うことだな。」
 そう言いながら机の上にA4の紙を2枚置いた。
「まずは、こちらの労働契約書にサインを。」
 言われるままに白野は2部サインした。住所、氏名、生年月日。
「あ、3月10日生まれなんだ。」
「そうだよ、何かある?」
「私は10月13日生まれ。私の方がお姉さんだね。これからは黒江お姉さんと呼んでいいわよ。」
「あの黒江さん、たった5か月じゃないか。」
「5か月でも年上は年上。お姉さんが嫌なら、お姉さまでもいいわよ♪」
「お姉さまって、もう少し大人でスタイルがいい人ってイメージがぁぁぁ。」
 黒江に頬をつねられ、白野はうまくしゃべれなくなった。
「あら、何か言ったかしら。スタイル?巨乳がいいと言いたいのかしらぁあ、おバカさん。」
「いたひいたひ。」
「黒江ちゃん、白野君で遊ぶのはその辺にししたまえ。」
「遊んではいないのですが、先生がおっしゃるならこの辺で止めます。」
 黒江は、頬をつねるのを止めた。
「ぼうや、口は災いのもとだね、気をつけなきゃ。」
「えぇ、身にしみました。」 
「もういいかな。一部は君が持っていたまえ。大事に保管するんだよ。」
 吉良は契約書の一部を白野に渡した。
「はい、わかりました。」
 もらった封筒に入れ、バッグにしまう。
「さて、労働契約が成立したところで、何をやるのか説明しよう。」
 蔵良がお茶を4人分持って入ってきた。それぞれの前に置き、吉良の横に座る。

「こちらが、昨日私が破滅させると言ったヤクザだ。甲斐史郎かい しろう、広域暴力団新井組の3次団体新星会の若頭補佐にして4次団体甲斐組の組長でもある。」
 ニュースなどでもよく出る暴力団の名前を言いながら吉良は写真を机に置いた。
 年齢は30代後半くらい、メタルフレームの眼鏡をかけた鋭利な感じの男の写真だった。
「私が知る限りでは、主に拳銃の密売に手を染めている。渋谷の半グレなどに出回る拳銃の出所がこの男というわけだ。」
「すいません、私、ヤクザに詳しくないんですけど。3次団体とか4次団体とか、若頭とかどういったものなのか教えて下さい。」
「ではヤクザの組織について説明しようか。」
 吉良はホワイトボードに図を書き始めた。「組長(親分)」と書き下に線を伸ばし「組員(子分)」と書く。
「黒江ちゃんも新井組くらいは知っているな。新井組は組長を中心に組員が数十名いるが、その組員達も各々子分を持ちやはり○○組などと言った暴力団を組織している。この新井組組員の暴力団を2次団体という。」
「ひょっとして3次団体っていうのは、その2次団体の組員が作った暴力団ですか?」
「そうだ、そして4次団体は。」
「3次団体の組員が作る暴力団と。」
「正解だ。ちなみに新井組では5次団体まで確認されている。では次に若頭も説明しよう。」
 先の図で「組長(親分)」と「組員(子分)」をつなぐ線を枝分かれさせ、「組員(子分)」の数を増やす。
 そして最初に書いた「組員(子分)」の横に「若頭」と追記した。
「組長を親分、組員を子分と言うが、これはヤクザの組織が家族に擬したものであることに由来する。組長が親で組員が子供というわけだ。若頭とはその子の中で長男にあたる役職と考えていいだろう。他の組員を指揮指導することがあるからね。」
「若頭補佐というのは、次男ですか?」
「そういう理解でもいいだろう。長男たる若頭を助け、親である組長のために働く。ただ、若頭などの役職は年功序列ではなく、組長が実力で選ぶ。実力がないと下のものを抑えられないからね。」
「ついでに伺いたいんですけど、舎弟とか兄貴とか呼ぶのは、この子分間でのことなんですか?」
「2つあってな。一つは黒江ちゃんのいう同じ組で同じ釜の飯を食った子分仲間を兄弟というが、この場合は単に「兄弟」と呼称し合い、どちらが上ということはない。若頭などの役職に就くなどあれば別だろうが。もう1つは、どちらが兄でどちらが弟かを決めた上で兄弟となる儀式を行い、「兄貴」「舎弟」と呼び合うものだ。わかったかな。」
「複雑ですが、おおむね理解できました。」
「では、話を続けよう。白野君も大丈夫かな?」
「大丈夫です。」
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