おバカな超能力者だけれども…

久保 倫

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新宿

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 携帯がLINEの着信を知らせてきた。
「タクシー乗りました。新宿駅東口に来てください。」
 白野は、渋谷駅に足を向けた。

 タクシーの中では蔵良は黙ったままだった。
 黒江も何か言おうと思ったが、言葉が見つからなかった。
 20分程でタクシーは止まった。
「お姉ちゃん、何があったか知らないけど、仲直りしなよ。」
「えぇ、あんたも下りなさい。」
 事情を知らない運転手の言葉に生返事を返しながら、蔵良は黒江に下りるよう促した。
 黒江に続き、蔵良も下りた。
「逃げやしないよ。それより付き合ってもらうよ。」
 そう言って蔵良は喫煙所に足を向けた。
「すいません、私吸わないんです。」
「吸うタイプには見えないね。でも男の子も来るだろ。入口のところで待ってな。」
 そう言って喫煙所に入った。サラリーマンにまじり、タバコに火をつける。
「ところで、あんた名前は?」
黒江文くろえあやです。」
「あたしゃ蔵良恵子くららけいこ。男の子の名前も聞いとこうか。」
白野寿々男しらのすずおです。」
 そう言っている間に白野が駅から出てきた。黒江が手を振ると近寄ってきた。黒江が喫煙所を指さしたので中にいると気が付いたようだ。
「初めまして、俺は…。」
「白野寿々男さんだろ、彼女さんから聞いたよ。蔵良恵子だ。あんたは吸わないのかい?」
「はい、親父や兄貴は吸うんですけどね。」
「そうかい、ちょっと待っとくれ。」
 そう言いながら蔵良は、スマホを取り出し操作し始めた。どこかに連絡をしているようだ。
 黒江に促され、白野は喫煙所の入り口から少し離れた。
「蔵良さん、タクシーの中でタバコに何も使わず、火をつけてました。」
「発火能力ってやつか、聞いたことはあるけど。」
「渋谷では火を使っているようには見えませんでしたけど。」
「他にも超能力があるんだろう。」
「どんな超能力でしょうね?」
「興味はあるけど、それよりあの人何をしていたのか、が気になるよ。」
「何をしていたか、ですか?」
「渋谷で追いかけていたの、多分ヤクザだよ。何をしてたんだろ。」
「ヤクザ、ですか?」
「ひょっとして、黒江さん、追いかけていた人見てないのか?」
「…うん、すぐに自販機に隠れちゃったから。」
「まぁ警察に追いかけられるよりはマシかもしれないね。」
 微妙な沈黙が二人の間に流れる。
「ひょっとしたら、お金を借りて逃げているだけ、とかかもしれないし。」
「それは、後でわかりやすく説明するよ。」
 いつの間にか蔵良が二人の後ろに回っていた。
 話に集中してたせい?それとも超能力?
「さて、行こうか?」
 蔵良は白野の右肩に手を回してきた。見ると左手を黒江の肩に回している。
「行こうかってどちらに。」
「心配しなさんな、取って食うわけじゃない。行くのは弁護士事務所だよ。」
「弁護士事務所?」
 思い切り意外な言葉が返ってきた。
「そう、弁護士事務所。ヤメ検のおじいちゃん弁護士センセイの事務所。」
 ヤメ検、白野は父親の読んでいる週刊誌の記事でその単語を知っていた。元検察官の弁護士。元の職場の後輩などとの人脈で裁判を有利にすることを期待されヤクザなどから弁護を依頼されることが多いタイプの弁護士。
 でも、この人ヤクザに追いかけられていたわけで。
「んで、その弁護士センセイも超能力者。」 
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