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植え込みががさがさと揺れて、姿を見せたのは。
「お姉ちゃん、こんばんわ。」
「失礼します。」
バジリオ君とカリスト君の二人。
「本当に忍び込むとは……。」
王国宰相であるコルネート公が絶句します。
ここは離宮の一画にある四阿。
ヤストルフ帝国のギルベルト伯爵を招いての昼食会の会場となっています。
そこに二人は忍び込んできたのです。
それなりに警備もしているのですけど……バジリオ君の冒険者としての潜入術、かなりのレベルみたい。
「大したものだな、本当に忍び込んでくるとは。」
破顔しているのは、ギルベルト伯爵。
「へへ、褒美を頂けると聞いたんで。」
「うむ、ロザリンドより頼まれた品だな。」
そう言ってギルベルト伯爵がバジリオ君に渡したのは、小さな方舟。
ポケットに入るような小さな方舟の模型にしか見えませんが、大量の物品を収納する魔法道具です。
「平凡な石と炎の獣は、この中に入れている。確認するといい。」
「うん。」
そう言ってバジリオ君は、二つのアイテムを取り出します。
平凡な石は、見た目はただの首飾りですが、かければ魔獣もかけた人間を害の無い石ころと認識するアイテム。
炎の獣は、短剣ですが柄の宝石にさわれば切っ先から炎の獣が敵を焼くアイテムで焼く
「すっげえ、こんなアイテムが使えるなんて。」
バジリオ君の顔が、輝くような笑顔になります。
「バジリオとやら、妹をかばって売られて、色々辛苦をなめたようだな。」
「姉ちゃんやカリストに助けてもらったけどね。」
「いや、オレにも姉がいる。幼い頃、暴力を振るう父から姉に助けられてばかりの身だったのでな。妹を実際に身をもってかばったと聞き一度会ってみたくなったので、この場を設けてもらった。」
本当はこの昼食会、クルス王子とギルベルト伯爵の間の和睦成立後の記念昼食会なのです。
ですが、一方の当事者であるクルス王子が、急病により欠席。
ただのサボリですけどね。自分を負かした相手に頭を下げるのが嫌なだけです。
とは言え、何も応対しない訳にはいかないので、未来の妻の私とコルネート公が代理人として出席と。
そうなると思っていたので、バジリオ君達を忍び込ませ、ギルベルト伯爵に引き合わせたのです。
「妹や母親にも会ったのだろう?」
「うん、ヒメネス伯爵領に引っ越したんで一度行ったよ。今度、また姉ちゃんが望む素材を取りに行く途中で会ってくる。」
そう、ヒメネス伯爵領は、バジリオ君が素材を取りに行く山奥への道中にあります。
「そうか、楽しみだな。」
そう言ってギルベルト伯爵は、もう一つの箱を渡しました。
「これは……。」
「俺の姉上の焼いたビスケットだ。日持ちするものだから、母や妹への土産とするといい。」
「ありがとうございます。」
「ふふ、妹を大事にしてやれ。」
姉に庇われてばかりで、何もできないままだったギルベルト伯爵にとって、バジリオ君は羨望の対象。
俺も姉上のために何かしたかった、とこぼした時の寂しげな表情は、結構ぐっとくるものがありました。
「隣の子がカリストか。」
カリスト君を見るギルベルト伯爵の目は、何故か冷たい。
「ロザリンドに使ってくれとせがんだそうだが。」
「はい、あの日金貨を使った派手な振る舞いでこちらの注意を引きつつ、銀貨や銅貨を集め、一瞬でも価値を逆転させたことに感動し、部下にしてもらいました。」
「その銀貨や銅貨、お前の母や友人の妹が己が身を担保に作った金だったそうだが。」
「ギルベルト伯爵のおっしゃる通り、あの日オラシオ達が賭けた銀貨や銅貨は、貧民街の女たちが我が身を担保に作った金です。ジャネスを破滅させるためなら、と彼女達も協力してくれたのです。」
そのお金を私に渡してくれたのは、アナちゃんとその友達たち。
「ジャネスをやっつけて、お兄ちゃんを助けて。」
と私に託したのです。
「弱く見える戦力でも運用などを工夫することで強力な戦力とするか。今後の参考としよう。」
軍に注力するギルベルト伯爵らしい言葉です。
「それより、イグナスの弟から聞いたが。」
オラシオのお兄さんの名を出したギルベルト伯爵の目が、さらに冷えます。
どうしたんだろう、一体?
「お前、見たそうだな。」
カリスト君、何を見たんだろう。
「見た?」
カリスト君も思案顔。
そうだよね、ギルベルト伯爵とは初対面だし、何を見たとギルベルト伯爵は言いたいんだろう?
「えっとイグナスの弟って、オラシオさんのことだよな。あの人から話を聞いて……あ。」
カリスト君、顔が赤くなった。
「貴様、思い出すんじゃない。」
「へえ、伯爵様、ひょっとして。」
カリスト君?あなた、ヤクザ時代のイジワルな顔になってるわよ。
「貴様、それ以上言うな。」
「あぁ、言わないでおくよ。」
「調子に乗るな、小僧、オレはずぶ濡れのロザリンドを見ているのだからな。」
それは、あのドラード公に降伏の使者という名目で赴いた時の話。
体の線がくっきり出て恥ずかしい思いをした件。
しかし二人は、何の話をしているの?
聡明なコルネート公も、訳が分からない、という顔になってます。
「それは、普通の外見でしょ。オレは、めったに見れない服の下。」
服の下?
……まさか。
オラシオが絡んだ服の下が見えるって、あの日の……パンチラ。
思わず、意味もなくスカートを抑えます。
何の話をしてるかと思ったら、この二人はッ!
人の恥ずかしいカッコの話かぁッ!
「殺す。」
ギルベルト伯爵の瞳の冷たさが増します。
本気で血が流れそうな雰囲気。
大丈夫だよね、昼食の場だけどカトラリーのナイフの先は丸めてあるし。
「フォークでも目などをえぐり、出血多量で死に至らしめることはできる。」
フォークがカリスト君の顔面を狙います。
カリスト君は、転がってかわします。
「バジリオ、さっきの短剣貸してくれ。」
「バカ言うな!やめろって、こんなとこでケンカできないことくらいオイラでもわかるぞ。」
バジリオ君がカリスト君をの腕を掴みます。
「気持ちはわかるけどよ、張りあうなって。」
「伯爵、ここでの乱闘はお止めを!」
側近のケスマンさんも、ギルベルト伯爵を羽交い絞めにします。
「何事ですか、二人とも。カタランヌの王宮で刃傷沙汰など。」
「許されよ、男には譲れぬものがある。この小僧の目を奪わねばならんのだ。」
「ギルベルト伯爵、何故お怒りかは、わかりませぬが、この場は落ち着かれて下さい。」
「しかしだな、ロザリンド。」
「年下の幼い子供のことです。許すのが年長者の振る舞い。私もそうしてますから。」
「年下の幼い子供、か。」
ギルベルト伯爵の顔に優越感が満ちるとともに、怒気が収まるのがわかります。
「ふふ、確かに幼い子供相手に大人げなかった。所詮幼い子供だ。」
「いつまでも子供だと思うなよ。」
「……ほぅ。」
「伯爵様だって弱小の勢力から成り上ってるんだ。オレだって。」
二人の視線が火花を散らすよう。
なんで、この二人争ってるの?
「争いの発端は、よくわかりませぬが、争いの趣旨は理解しました。」
コルネート公は理解してるみたい。
「なれど、ロザリンド嬢は、将来の王妃となる可能性のある方。」
可能性か。まぁ、陛下がこれから子をなす可能性はあるもんね。
「倫ならぬことは、ご遠慮願いたい。」
きっぱり言い切る貫禄は、さすが王国宰相。
その前に二人は、大人しくなったようです。
「そうだな、今は控えておくとしよう。」
「この先もです、ギルベルト伯爵。」
「この先のことなどどうなるか、神ならぬ者にはわからぬ。オレとの未来とてあろう。」
ギルベルト伯爵は、そう言ってフォークを戻します。
「伯爵様はいいことを言う。オレにだって、むしろオレにこそチャンスはある。」
何のチャンスよ、カリスト君。
「オレは消えるよ。バジリオ戻ろうぜ。」
二人は、一度だけ視線を合わせ、ふいっとそらします。
その一瞬で、すっごい火花が散ったように見えたのは、幻覚だよね……。
「ロザリンド嬢……シドだけでは、なかったのですな。」
「な、何がでしょう?」
何が何やら。
「シドといい、ギルベルト伯爵にカリストとかいう少年。見どころのある男に認めらるお人だ。」
はぁ。
コルネート公の言葉の意味が分からず、私は目を白黒させるだけでした。
「お姉ちゃん、こんばんわ。」
「失礼します。」
バジリオ君とカリスト君の二人。
「本当に忍び込むとは……。」
王国宰相であるコルネート公が絶句します。
ここは離宮の一画にある四阿。
ヤストルフ帝国のギルベルト伯爵を招いての昼食会の会場となっています。
そこに二人は忍び込んできたのです。
それなりに警備もしているのですけど……バジリオ君の冒険者としての潜入術、かなりのレベルみたい。
「大したものだな、本当に忍び込んでくるとは。」
破顔しているのは、ギルベルト伯爵。
「へへ、褒美を頂けると聞いたんで。」
「うむ、ロザリンドより頼まれた品だな。」
そう言ってギルベルト伯爵がバジリオ君に渡したのは、小さな方舟。
ポケットに入るような小さな方舟の模型にしか見えませんが、大量の物品を収納する魔法道具です。
「平凡な石と炎の獣は、この中に入れている。確認するといい。」
「うん。」
そう言ってバジリオ君は、二つのアイテムを取り出します。
平凡な石は、見た目はただの首飾りですが、かければ魔獣もかけた人間を害の無い石ころと認識するアイテム。
炎の獣は、短剣ですが柄の宝石にさわれば切っ先から炎の獣が敵を焼くアイテムで焼く
「すっげえ、こんなアイテムが使えるなんて。」
バジリオ君の顔が、輝くような笑顔になります。
「バジリオとやら、妹をかばって売られて、色々辛苦をなめたようだな。」
「姉ちゃんやカリストに助けてもらったけどね。」
「いや、オレにも姉がいる。幼い頃、暴力を振るう父から姉に助けられてばかりの身だったのでな。妹を実際に身をもってかばったと聞き一度会ってみたくなったので、この場を設けてもらった。」
本当はこの昼食会、クルス王子とギルベルト伯爵の間の和睦成立後の記念昼食会なのです。
ですが、一方の当事者であるクルス王子が、急病により欠席。
ただのサボリですけどね。自分を負かした相手に頭を下げるのが嫌なだけです。
とは言え、何も応対しない訳にはいかないので、未来の妻の私とコルネート公が代理人として出席と。
そうなると思っていたので、バジリオ君達を忍び込ませ、ギルベルト伯爵に引き合わせたのです。
「妹や母親にも会ったのだろう?」
「うん、ヒメネス伯爵領に引っ越したんで一度行ったよ。今度、また姉ちゃんが望む素材を取りに行く途中で会ってくる。」
そう、ヒメネス伯爵領は、バジリオ君が素材を取りに行く山奥への道中にあります。
「そうか、楽しみだな。」
そう言ってギルベルト伯爵は、もう一つの箱を渡しました。
「これは……。」
「俺の姉上の焼いたビスケットだ。日持ちするものだから、母や妹への土産とするといい。」
「ありがとうございます。」
「ふふ、妹を大事にしてやれ。」
姉に庇われてばかりで、何もできないままだったギルベルト伯爵にとって、バジリオ君は羨望の対象。
俺も姉上のために何かしたかった、とこぼした時の寂しげな表情は、結構ぐっとくるものがありました。
「隣の子がカリストか。」
カリスト君を見るギルベルト伯爵の目は、何故か冷たい。
「ロザリンドに使ってくれとせがんだそうだが。」
「はい、あの日金貨を使った派手な振る舞いでこちらの注意を引きつつ、銀貨や銅貨を集め、一瞬でも価値を逆転させたことに感動し、部下にしてもらいました。」
「その銀貨や銅貨、お前の母や友人の妹が己が身を担保に作った金だったそうだが。」
「ギルベルト伯爵のおっしゃる通り、あの日オラシオ達が賭けた銀貨や銅貨は、貧民街の女たちが我が身を担保に作った金です。ジャネスを破滅させるためなら、と彼女達も協力してくれたのです。」
そのお金を私に渡してくれたのは、アナちゃんとその友達たち。
「ジャネスをやっつけて、お兄ちゃんを助けて。」
と私に託したのです。
「弱く見える戦力でも運用などを工夫することで強力な戦力とするか。今後の参考としよう。」
軍に注力するギルベルト伯爵らしい言葉です。
「それより、イグナスの弟から聞いたが。」
オラシオのお兄さんの名を出したギルベルト伯爵の目が、さらに冷えます。
どうしたんだろう、一体?
「お前、見たそうだな。」
カリスト君、何を見たんだろう。
「見た?」
カリスト君も思案顔。
そうだよね、ギルベルト伯爵とは初対面だし、何を見たとギルベルト伯爵は言いたいんだろう?
「えっとイグナスの弟って、オラシオさんのことだよな。あの人から話を聞いて……あ。」
カリスト君、顔が赤くなった。
「貴様、思い出すんじゃない。」
「へえ、伯爵様、ひょっとして。」
カリスト君?あなた、ヤクザ時代のイジワルな顔になってるわよ。
「貴様、それ以上言うな。」
「あぁ、言わないでおくよ。」
「調子に乗るな、小僧、オレはずぶ濡れのロザリンドを見ているのだからな。」
それは、あのドラード公に降伏の使者という名目で赴いた時の話。
体の線がくっきり出て恥ずかしい思いをした件。
しかし二人は、何の話をしているの?
聡明なコルネート公も、訳が分からない、という顔になってます。
「それは、普通の外見でしょ。オレは、めったに見れない服の下。」
服の下?
……まさか。
オラシオが絡んだ服の下が見えるって、あの日の……パンチラ。
思わず、意味もなくスカートを抑えます。
何の話をしてるかと思ったら、この二人はッ!
人の恥ずかしいカッコの話かぁッ!
「殺す。」
ギルベルト伯爵の瞳の冷たさが増します。
本気で血が流れそうな雰囲気。
大丈夫だよね、昼食の場だけどカトラリーのナイフの先は丸めてあるし。
「フォークでも目などをえぐり、出血多量で死に至らしめることはできる。」
フォークがカリスト君の顔面を狙います。
カリスト君は、転がってかわします。
「バジリオ、さっきの短剣貸してくれ。」
「バカ言うな!やめろって、こんなとこでケンカできないことくらいオイラでもわかるぞ。」
バジリオ君がカリスト君をの腕を掴みます。
「気持ちはわかるけどよ、張りあうなって。」
「伯爵、ここでの乱闘はお止めを!」
側近のケスマンさんも、ギルベルト伯爵を羽交い絞めにします。
「何事ですか、二人とも。カタランヌの王宮で刃傷沙汰など。」
「許されよ、男には譲れぬものがある。この小僧の目を奪わねばならんのだ。」
「ギルベルト伯爵、何故お怒りかは、わかりませぬが、この場は落ち着かれて下さい。」
「しかしだな、ロザリンド。」
「年下の幼い子供のことです。許すのが年長者の振る舞い。私もそうしてますから。」
「年下の幼い子供、か。」
ギルベルト伯爵の顔に優越感が満ちるとともに、怒気が収まるのがわかります。
「ふふ、確かに幼い子供相手に大人げなかった。所詮幼い子供だ。」
「いつまでも子供だと思うなよ。」
「……ほぅ。」
「伯爵様だって弱小の勢力から成り上ってるんだ。オレだって。」
二人の視線が火花を散らすよう。
なんで、この二人争ってるの?
「争いの発端は、よくわかりませぬが、争いの趣旨は理解しました。」
コルネート公は理解してるみたい。
「なれど、ロザリンド嬢は、将来の王妃となる可能性のある方。」
可能性か。まぁ、陛下がこれから子をなす可能性はあるもんね。
「倫ならぬことは、ご遠慮願いたい。」
きっぱり言い切る貫禄は、さすが王国宰相。
その前に二人は、大人しくなったようです。
「そうだな、今は控えておくとしよう。」
「この先もです、ギルベルト伯爵。」
「この先のことなどどうなるか、神ならぬ者にはわからぬ。オレとの未来とてあろう。」
ギルベルト伯爵は、そう言ってフォークを戻します。
「伯爵様はいいことを言う。オレにだって、むしろオレにこそチャンスはある。」
何のチャンスよ、カリスト君。
「オレは消えるよ。バジリオ戻ろうぜ。」
二人は、一度だけ視線を合わせ、ふいっとそらします。
その一瞬で、すっごい火花が散ったように見えたのは、幻覚だよね……。
「ロザリンド嬢……シドだけでは、なかったのですな。」
「な、何がでしょう?」
何が何やら。
「シドといい、ギルベルト伯爵にカリストとかいう少年。見どころのある男に認めらるお人だ。」
はぁ。
コルネート公の言葉の意味が分からず、私は目を白黒させるだけでした。
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