か弱い力を集めて

久保 倫

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「待て、何が金貨千枚の勝ちだ?」
「だって、私奇数に金貨千枚賭けてるもん。奇数だから、金貨二千枚もらえるよね。」
「そうだがよ、偶数にも賭けてるじゃねえか。」
「賭けてないわよ、それは重石だから、賭けに入れないでってお願いしたじゃない。」
「いや、この札が……。」

 ジャネスは、金貨をどかし札を手にして……。

「お嬢ちゃん、やってくれたな…。」
「何のこと?」

 しれっと言っちゃいます。

「あの金貨の山を崩した時、札をすり替えやがったなッ!!」

 強烈な怒声とともに、札と同じ大きさの白紙をつきつけてきます。

 そう、あの金貨の山を崩した時、札をすり替えました。

 同じ大きさの紙を3枚用意しておき、2枚を札作成用にカリスト君に渡し、1枚を私が隠し持っておく。
 それをタイミングを見てすり替える。
 そして、奇数が出るよう、2・4・6に賭ける。

 金貨30枚を懐に入れるべく、ジャネスは、出目を操作するから確実に目は奇数になります。

 その時、奇数に賭ければ確実に勝てる、と言うわけです。
 
「私は、ケンを止めるって言ったじゃん。だから、偶数に賭けるの止めたの。」
「それなら、重石ってのも無しにさせてもらうぜ。」
「別にいいわよ。それなら奇数に置いてる金貨も賭け金扱いするのが、筋だと思うけど。」
「やかましいっ!イカサマしやがって、この小娘が。」
「その小娘ごときに騙される程度ってことでしょ。」
「なっ……。」

 ここまでなめられた言葉が来る、と思ってなかったのでしょう。
 絶句して、震えるばかりです。

「ジャネス、卓の賭けの確認は、そちらの責任だ。それを怠ったお前の方が悪い。」
 ウーゴさんが、追い打ちをかけます。
「ウーゴ親分、イカサマを認めろと。」
「イカサマかどうかはさておき、賭け金の確認は賭場側の責任だ。お前さんがそれをしておけば、何の問題も無かった。」
「くっ……。」

 私には、怒鳴れてもウーゴさんには怒鳴れない。
 誤魔化そうにも、相手が同じヤクザである以上不可能。
 ヤクザとしてのルールを言われちゃ、ヤクザであるジャネスも反論できない。

 賭場の管理や博打の進行管理は、客ではなく、開帳する側の責任。
 この場合は、ジャネスがその責任を負うのです。

 客がイカサマしないよう、監視するのも、ジャネスの責任。

「んじゃ、金貨千枚、払って頂戴。」
「うるさいっ、小娘!お前は最後だ。待ってろ。」

 そう言ってディーラーに、他の客の支払いをするよう指示します。
 ディーラーも指示に従って、他の客の清算をします。
 奇数に賭けたウーゴさんに金貨2枚を差し出します。
「待て、なんだ、これは。」
「な、なんだとおっしゃられましても。銀貨10枚賭けられましたので……。」

 銀貨10枚で金貨1枚。
 奇数に賭けて倍になったから金貨2枚差し出したと。

「俺が賭けたのは銀貨だ。銀貨で払うのが筋だろ。」
「……それは……。」
 銀貨20枚も金貨2枚も等価です、とディーラーは言いたげですけど。
「さっさとしな。待たされちゃ、興が削がれちまう。」

 格上のウーゴさんの圧に負け、ディーラーは銀貨20枚をウーゴさんに差し出します。

 他の勝った人も銀貨や銅貨を受け取ってます。
 無論、アズナール達も。
 こちらは、ウーゴさんと違いもめずに受け取ってます。
 そりゃ、銀貨10枚になるほど賭けてないので。
 渡す時のディーラーの顔。

 焦りが見えます。

 ふふふ、金貨に目がくらむから。

 
 そうこうしてる間に私の清算になりました。
「ねぇ、金貨足りなくない?」
 積み上げられた金貨は、ざっと900枚くらい。
「すまねえが、貸しにしてくれねえか。」
「いや。キチンと支払って。」
 ジャネスの顔が苦虫を噛み潰したものになりました。
 実際に歯を噛みしめちゃって。
 ギリッ、と音が聞こえそう。
「申し訳ねえが、今この場に金貨はねえんだ。最後にきっちり清算するから。」
「金貨でなくったっていいのよ。代わりのものでも。」
「もの?バジリオとかいう小僧か?それはできねえ。」
「そうよね、できないわよねぇ、今もあの子働いているし。」
「まあな、理解してくれて嬉しいぜ。」
「それに”もの”と私は言ったのよ。人じゃないわ。」

 このクズがぁっ!!

 怒鳴りたいのをこらえ、ポーカーフェイスを保つのは、恐ろしいほど苦痛を伴うものです。

 でもやらないと。
 バジリオ君の苦痛は、こんなもんじゃない。

「この卓と付属するクロスをもらうわ。それで足りない分は手を打ったげる。」
 卓を叩きます。

 ちょっと痛い。

 この卓、クロスで隠されてますけど、大理石でできてます。
 厚みは40センチくらいで、脚も大理石製。
 幅は、2メートルくらいでディーラーは、その中央に位置しています。
 奥行きは、あんまりなくて1メートルくらい。

「大理石製でしょ、結構価値ありそうだし、これで手を打ったげる。」
「な、そんなことされちゃ……。」
「使わせてはあげる。ただし、所有権は私。」
「……あのなあ、嬢ちゃん。こいつは、先々代から使ってる一家にとっちゃ由緒ある品だが、嬢ちゃんにとっちゃあ、意味のねえ代物だ。証文を書く。それでいいだろう。」
「ふうん、金貨100枚を証文で済ませろと。」
「いいじゃねえか。イカサマで勝った金だろうが。」
「いいでしょ。その代わり、証文で賭けるけど、いい?」
「証文で賭ける?」
「そう、私が貸し手の証文を現金扱いして。今晩、そう朝日が昇るまでの間でいいわ。」
「わかった。その代わり、負けたら。」
「もちろん、その時は、取り上げて構わないわ。」
「いいだろう。その代わり今晩だけだぞ。」
「その言葉、俺も覚えた。逃げはできねえぞ、ジャネス。」

 ナイス援護、ウーゴさん。

「一言言っておくが、俺はお前の財産の総額を知っているんだからな。」
「オビエスから聞いたんですな。」
「あぁ、金貨4千枚相当だな。オビエスから取り上げたシマの分を含めて。それ以上の額面の証書、書いても意味があると思うな。」
「それは承知してますよ。なんだ、まるで俺がこの嬢ちゃんとシマを争ってるみてえだ。そう思わねえか。」

 私に振られてもねえ。

「私は縄張りとか興味ないの。興味あるのは、バジリオ君とそこのカリスト君。」
「オレ?」

 さすがに自分の名前が出ると思ってなかったカリスト君、抱えている箱を落としそうになります。
 チラッと見えた中身は、銅貨や銀貨。
 運転資金の準備、多分貧民街のお店などから持ってきたのでしょう。

 毒は順調に回っているわね。

「おやおや、うちのカリストを従えて、逆ハーレムでも作んのかい。」
 その自覚の無いジャネスが、いじってきます。
「そんなんじゃないわよ。ただ、賢い子に私の下で働いて欲しいだけ。」
「なんで、オレがブスの子分になるんだよ。」

 誰がブスじゃぁ!!

「こら、カリスト、客に失礼な口きくんじゃねえ!」
 ジャネスが叱責します。
 まだ、私のこと客だと思ってるんだ。
「イカサマすんのを客とみなすんですか?」
「それは俺が決める。とりあえず、今後はイカサマは許さねえようこっちも注意する。」
「ウーゴ親分や、部下達もですよね。」
「あいつらは、別にいい。賭けてんのは銀貨や銅貨の小銭だ。」

 ふふふ、そんなこといつまで言ってられるかな。 
 
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