か弱い力を集めて

久保 倫

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 ドラード公の反乱は、順調ではありませんでしたが、鎮圧されました。

 鎮圧には、私もちょっと関わって。
 そのおかげで、ヤストルフ帝国のギルベルト伯爵の知遇を得ました。
 今後、私が取引に出向けば、取引において優遇してくれるそうです。
 具体的なことは何も言いませんでしたが、ギルベルト伯爵は、嘘偽りやごまかしをする人ではないだけに、必ず優遇してくれます。

 どれだけ儲けが増えるか楽しみです。

 それに……。

「お嬢さん、何やらご機嫌ですね。」

 ジャネスの賭場でディーラーが話しかけてきます。

「うん、色々大変だったけど、万事うまくいったの。」

 ふふふ、笑いが止まりません。

「ほほう、それはよかった。ですが……。」

 ディーラーは、カップを開けます。

「1!1!4!6の偶数です!」

 私の賭けた銅貨が回収されます。

「サイコロの目は上手くいかないようで。」
「いってるわよ。」

 今度は、銅貨を1の3つゾロ目に賭けます。

「ゾロ目が出たんだもん。3つゾロ目も出る!」

 周囲から失笑が漏れるのがわかります。

 ここ最近、一度ゾロ目が出たらその目の3つゾロ目に賭け続けましたから。
 何度も。

 時間も変えてます。
 賭場が開いたばかりの頃や、閉まる前、半ばの頃とか。

 時間を変えてみたおかげで、色々見えてきたものもあります。


「止めなよ。」
「3つゾロ目の数字も当てるなんて無理だ。」
「せめて数字だけでも止めな。」
「180倍なんて出やしねえぜ。」

 なんて、おっさん客たちが言ってくれましたが、無視して賭け続けているうちに、何も言わなくなりました。

「まぁまぁ、3つゾロ目の数字まで当てたら、興奮して脱ぐかもしんねえぜ。」

 なんてぬかしてた手合いまでも、何も言わなくなりました。

「お嬢さん、何かの願掛けですかね?」
 ディーラーもあきれ顔で聞いてきます。
「願掛けってのと違うわ。」
「なら、なんでしょうか?」
「それはね、男の子へのメッセージ。」
「私にですか。」
「えーっ、男の子ですよ、さすがにディーラーさん、オジサンだから違います!」

 何が男の子じゃ、このおっさん。
 頭、ウジでもわいてるんじゃない。

「冗談ですよ、厳しいですねぇ。」
「もう、男の子って年じゃないでしょ、オジサン。」
「そうそう、オジサン連呼しないで下さいな。」

 そう言いながらもサイコロをカップに入れて振ります。

「どういうメッセージなのですか?」
「え~、それ女の子に聞く?恥ずかしいじゃない。」
「恥ずかしい?なるほど。」

 ディーラーは、カップを開きます。

「3!4!6!13の奇数です!」

 ディーラーは、私の賭けた銅貨を回収し、当てた人に回します。

「想いは伝わりましたか?」
「想いって、そんなんじゃないの。ちょっとした品が手に入ったってメッセージなの。勘違いしないでよ。」
「恋とかじゃないんですか?」
「恋とはちょっと違うわ。もちろんその子のこと大好きだけど。」
「へぇ、で、何が手に入ったんですか?」

 ディーラーの目が、ちょっと細くなる。

「うふふ、炎の野獣に、ありふれた石ころ、小さなお舟。」
「……なんです、そりゃ……。炎の野獣や小さい舟はともかく、ありふれた石ころって。」

 ディーラーさん、さすがに訳わからん、って顔になってます。
 わかんなくていいんです。

 バジリオ君にだけわかればいいんですから。

「それより、サイコロふんなくていいんですか?」
「おっと。」

 ディーラーは、サイコロを振ります。

「1!1!6!8の偶数です!」
「惜しい。」
「そんな簡単に3つゾロ目は出ませんよ。」

 銅貨が回収されます。

「ええい、これが今日最後の一枚。」
 1の3つゾロ目に賭けます。
「お願い、1の3つゾロ目にして。」
「お願いされてもね。サイコロの目は神の御意志ですよ。」
「そんなぁ~。お金なくなっちゃう。もう少し遊びたいのに。」
「なんなら貸すぜ。」

 ジャネスが突然、話に割り込んできました。

「え~、借りたら返さないといけないでしょ。」
「なに、勝ちゃあいいのさ。」

 そうやって人を泥沼に引き込むんだ。

「ほら、他の奴らも借りてるぜ。」

 見れば、お金を貸し出す男の前に2、3人の男が。

「借りても勝って返す。返すために真剣になるから勝てるようになるのさ。」
「ほんとう?」
「おう、嬢ちゃんも借りてみな。」
「う~~ん。」

 考えてみるふり。

「1!1!2!4の偶数です!」

 銅貨が回収されます。

「あ~~ん、お金なくなっちゃったあ。」
「惜しいなぁ、あともうちょっとで3つゾロ目じゃないか。」
「そだね。」
「借りてやってみなって。次こそ3つゾロ目かもしれないぜ。」
「う~~ん。」

 お金を貸す男を横目で見ます。
 男も気が付いたのか、愛想笑いらしき、肉食獣めいた笑みを浮かべてこっちに目を合わせてきます。
 
「でも……負けて返せなかったら……。」
「何、別の日に返せばいいのさ。銅貨100枚から貸すぜ。」
「銅貨100枚って、リンダ、そんなお金ないよ。」
「なに、3つゾロ目の数字あてで一挙に180枚だ。大丈夫だって。」
「う~~ん。」
「流れは来てる。大丈夫だって、この賭場で長年勝負を見てきた俺が言うんだから間違いねえって。借りてやってみな。」
「ほんとお?」
「よし、特別サービスだ。銅貨10枚だけ借りてみな。」
「えっ、さっき100枚からって。」
「嬢ちゃんカワイイから今回だけ特別だ。10枚からにしてやるよ。」
「えへへ。」

 愛想笑いして銅貨10枚借ります。

「じゃあ10枚。」
「一気に賭けるのか。」

 ジャネスの顔が、僅かに、注意して見なければわからないほど僅かにひきつりました。

 やっぱり。

「ディーラーさん、早くサイコロふって。」
 私にせかされたディーラーがサイコロを振ります。

 出た目は……。

「1!1!1!の3つゾロ目!おめでとうございます!」

 周囲からも、おぉ、という声がします。

「やったあぁっ!!」
    
 バンザイはしますが、今度は足を卓にのせるような真似はしません。
 そんなに興奮してませんから。

「嬢ちゃん、やったなぁ!」
「あんよ、見せねえのかい?」
「あんよだけなんて、セコイこと言わずにバーッといっちゃいな。」

 何をバーッといくのよ。

 などと言わずに、目の前に回されてきた銅貨の山から100枚分けます。

「ディーラーさん、これご祝儀。」
 分けた100枚をディーラーさんに差し出します。

「おぉ。」
「こっちにもくれよ。」
「応援してたんだぜ。」

 その言葉に。

「適当なこと言うんじゃありません。」

 などと言わず。

「はーい、皆さんもどーぞ!」

 適当につかんだ銅貨をばらまきます。

 何度も。

 派手な音を立ててばらまかれた銅貨を、いい年した男達が争って拾います。
 バジリオ君のお父さんもカリスト君のお父さんも。

「嬢ちゃん、気前がいいな。」
「ふふん、おっきな目を当てたらこうするんでしょ。」
「嬢ちゃんなら、脱いでもいいんだぜ。」
「そーそー。下着をバラまいたらどうだい。」
「縁起物としてとっとくぜ。」

 マスクで隠しきれないこの美貌って罪ね。
 メイクばっちりしたら違うわ。

「どーせなら、嬢ちゃんそのものがいい。」

 そんなことぬかしたのは、バジリオ君のお父さん。
 息子に聞かれるとか、思わないのかしら。

「あはは、オジサン、奥さんいるんじゃない?」
「古女房より、わけえ嬢ちゃんの方がいい。」

 立派な浮気ですよ。

「あぁ、おめえ、何言ってやがる。」
「嬢ちゃんとするのは俺だぜ。」
「いいや、オラだ。」

 勝手なこと言ってなさい、あんた達。

「ね、オジサマ。」
「俺かい?」
「うん、ここにバジリオ君って男の子がいるでしょ。」
「……嬢ちゃん。」
「これで美味しいもの食べさせて、お願い。」

 銅貨100枚をジャネスに押し付けます。

「お願いしたわよ、カワイイ女の子の頼みだもん。無下にしないよね。」
「……わかった。」

 残った10枚を金貸しの男に渡し、出口に向かいます。

「帰るのかい?流れはあんたに来てるぜ。」
「いいの。」

 もう目的は達しました。

「ジャネス親分、ありがとう。」
「……何が言いてえ?」

 警戒するまなざし。

 私をリンダ・メイでなく、ロザリンド・メイアとして相対してますね。
 何か仕掛けてくると思ってるみたい。
 間違いじゃないけど。

 ふふふ、心配しないで。
 あなたを潰すのは今日じゃない。
 まだ、もう少し準備が必要なの。

「今日は楽しかったわ。また、来るわ。楽しませてちょうだい。」
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