か弱い力を集めて

久保 倫

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「カリスト、誘われているって、ジャネス親分か?」
「そうだよ、アズナールの兄貴。」
「どうして?」
「兄貴が計算を教えてくれたおかげで、俺の計算する能力は、高くなった。それを見込まれたんだ。」
「計算が何の役に立つの?」

 私は疑問をぶつけました。

「賭場で賭け金の計算に。」
 なるほど。

 じゃなくて!

「どうして、あなたが頭いいってジャネス知ったの?」
「店でさっさと計算して、子分に教えてるの見られた。」

 バカな子分もいたもんだわ、クルス王子といい勝負できそうなのっているのね。

「君、悪いことは言わん。その話は断りたまえ。」
「うっせえ。」
「君!」
「うっせえんだよ!」

 カリストは、立ち上がってファルケさんをにらみつけます。

「黙ってろよ、盆暗ボンクラ野郎が!」
「なんだと?」
「わわっ、カリスト君、そんなこと言っちゃだめだよ。」
「あんたは黙っててくれ。」
「そうだね、ロザリンドさん。生意気な子供に色々教えないといけない。」

 ファルケさん、立ち上がりました。

 二人、体格違いすぎます。
 腕の太さや体の厚みは、ファルケさんが圧倒してます。
 背の高さも、カリスト君の負け。

 殴り合ったら、間違いなくカリスト君ただじゃすまない。

「ねぇねぇ、カリスト君やめようよ。ケンカ売って何になるの?何の得も無いじゃない。」
 カリスト君の正面から抱き着いて止めにかかります。
 こうしてれば、ファルケさんも殴れないでしょうし。

「へっ、恵まれた人生を生きて、何も見えてねえ野郎を盆暗呼ばわりして何が悪い。」
「ダメだってばぁ!」

 なんで火に油注ぐようなこと言うのかな。

「何か言いたいようだな。言ってみろ。聞くだけは聞いてやる。」
「へえ、恥かくけどいいのかい?」
「言ってみろ!」
「じゃあ、確認するがよ、あんた『どこからも侵入者の届けは無い。ただ、気付かれぬよう潜入したその技』ってバジリオに言ったよな。」
「言ったな。」
「つまりだ、あんたバジリオが貴族のお屋敷に入り込み、痕跡を消して通り抜けたこと認めるんだな。」
「そうだ。何が言いたい、小僧。」
「おかしいと思わねえのか。なんでバジリオはそんな技を身に着けているんだ?」
「それは、遊びなどの中で身に着けたのだろう。冒険者志望なんだし。」
「それが間違いって気が付かねえから盆暗なんだよ。」
「何が間違いだと?」
「遊びの中で身に着けたぁ?そんなもん身につくかよ、どんな遊びだ。」
「それは……。」

 ファルケさん、バジリオ君に目をやります。

「子供にフォロー求めるなよ、盆暗。さぁ、どうやってバジリオは、痕跡を消すような技を身に着けたか言ってもらおうか。」
「君は、バジリオ君と同じ歳だ。一緒に遊んだ君なら知ってるのだろう。」
「一緒に遊んだけど知らね。無論、俺にはできね。訓練したことないから。」
「なら……。」

 ファルケさん、カリスト君に押されてます。

「ヒントはやったぜ。」
「ヒント?」

 ファルケさんは、考え込む顔になります。

「……訓練?……バジリオ君は冒険者ギルドでそういった技術を学んだ?」
「惜しい。冒険者に弟子入りして学んだ、だ。貧民街の俺らに冒険者ギルドで学ぶような金があるわけないだろ。」

 冒険者ギルドは、冒険者志望の人に戦闘術や魔術など、冒険に役立つ様々な技術を教えます。その中に魔獣などの追跡から逃れたりするため、自身の痕跡を消す技術も含まれています。

 ただ、それを学ぶには相応の対価が必要です。

 金がない人は、現役の冒険者に弟子入りして学ぶことができます。
 バジリオ君も、冒険者に弟子入りして、自身の痕跡を消す技などを学んだのでしょう。

「なら、バジリオ君は冒険者志望でなく、見習い?しかし……。」
「なんでそれを隠したのか、だろう。」
「もういいだろう、カリスト。やめてメシ食おうぜ。鳥の串焼うまいぜ。」

 バジリオ君が仲裁、いや自分が冒険者志望と言った理由をごまかそうとします。
 なんでごまかすのでしょう。別に恥ずかしいことでもなんでもありません。
 むしろ、自身の夢にまっすぐ生きている立派な生き方です。

 私だって商人になるという夢のために生きているから、バジリオ君を尊敬こそすれ、否定することなんてできません。
 なんでバジリオ君は、それを隠そうとするんだろう。
 その気持ちはわかりません。

 でも、隠そうという気持ちは尊重したい。

 バジリオ君が、私とカリスト君を引きはがします。  

「もういい。悪かった。自分がボンクラだったようだ。バジリオ君のこと見抜けなかったことも含めてな。」

 ファルケさんも同じ気持ちのようです。
 自分の負けでカリスト君を黙らせようとしてくれます。

「へっ、じゃあ、聞くがよ、俺がヤクザになるっていうのはどうする?」
「それはやめなさい。君は頭がいいようだ。他の生き方もある。そうだ、ロザリンドさん、カリスト君をメイア商会で雇うことはできませんか?」
「それはいい。カリストは5年前、ぼくが教えた時、優秀な生徒でした。計算が得意で、まず間違いませんでしたし読み書きもできます。結構役に立つ人材になると思います。」
 アズナールもファルケさんに同調します。
「そうですね、父に相談してみます。今のやり取りでカリスト君が頭いいのはわかりましたし。」

 色々と性格に問題はありそうですが、道理のわからない子ではないでしょうし。

「やめとけ。俺を雇うとろくなことにならねえぜ。」

 カリスト君が、椅子に座り斜に構えたセリフを吐きます。

「おい、カリスト!」
 見かねたのかバジリオ君が、カリスト君にくってかかります。
「事実だろう、バジリオ。お前も俺もろくな生き方はできないさ。だったらヤクザにでもなるのも悪くない。」
「いいから、黙ってメシ食え。」

 バジリオ君は、鳥の串焼をカリスト君に突き出します。

「わかってんだろ、お前もさ。弟子クビになってんだし。」
「やめろって。今ここで言うな。」

 バジリオ君、カリスト君につっかかりながら、アリアンナちゃんのこと気にしてる。
 アナちゃんも、お兄ちゃんのシャツの裾つかんで、不安そう。

「アリアンナちゃん、お姉ちゃんと遊ぼう。」
 エルゼがアリアンナちゃんに声をかけます。
「遊ぶって?」
「ちょっとお外で遊ぶ。」
「アリアンナちゃん、外で体動かすとお腹がすく。もっと食べられるぞ。」
 イシドラもアリアンナちゃんを連れ出そうとしてくれます。
「ねぇ、お姉ちゃんと遊ぼぉ。」
 ウルファもアリアンナちゃんの気を引こうとします。
「何して遊ぶの?」
「お人形作ろぉ。」
 さっとウルファが、裁縫道具と端切れなどを出します。
「お外でぇ、木の実とか拾ってアクセサリーにしてお人形作ろぉ。」
「うん。」

 3人と一緒にアリアンナちゃんは、店の外に出ていきました。

「カリスト、いい加減にしろよっ!」
「てめえこそ、現実見ろっ!バジリオ!ごまかしてんじゃねえっ!」 

 二人、仲良さそうなのに、何があったんだろう。
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