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「やっぱりおまえだったか。」
アズナール、カリスト君と知り合いなの?
「兄貴、5年ぶりだね。一体どこで何やってたんだい?」
「色々あってな。今こちらのロザリンドお嬢様の護衛だ。」
「そうなの。アニキなら強いから驚かないけど。」
カリスト君は、外に出てきます。
ちょっと明るいところでカリスト君の顔を見ると、口の端が切れてたり、頬にあざができているのがわかりました。
昨日、傘を支えてくれた時には無かったのに。
「で、何の用?」
カリスト君の口調は、アズナールに対するのと違い、ぶっきらぼうです。
「昨日は、ごめんなさい。私と王妃様を助けるために折角のシチュー、ダメにさせちゃって。」
「いいよ、別に。」
「ごめんなさい。これはお詫びの品です。お納め下さい。」
そう言って、バスケットを差し出します。
「おおさめって、受けとれってこと?」
カリスト君が確認しながら受け取った時、奥からドタドタと足音がしました。
「アズナールだぁ?」
奥から出てきたのは、父親でしょう。
大柄な髭を生やした男性が、カリスト君の後ろから私達を眺めまわし、アズナールのところで視線を止めました。
「アズナールじゃねえか。今までどこにいたのか知らねえが……。」
「ジャネス親分とのことなら、ケリはついた。僕の負けでね。今更僕をどうしようが、あいつは何もくれないぞ。」
「チッ。」
何、アズナールって、あのジャネス親分から賞金でも掛けられていたの?
「ん、なんだ、カリスト、何持ってんだ?」
「これは……。」
「見せろ。」
そう言ってカリスト君からバスケットを取り上げ、中を見ました。
「こいつぁ。」
カリスト君のお父さんの顔が笑顔に輝きます。
「これなら、ジャネスさん、高く買ってくれるぜ。」
はぁ?
あの、せっかくの食材売っちゃうの?なんで食べないの?
笑顔は、美味いもんが手に入ったってわけじゃないの?
「おし、今夜のタネ銭ができたぜ。」
そう言って、カリスト君のお父さんは、バスケットをもって飛び出していきました。
タネ銭って?
カリスト君のお父さん、何がしたいの?
「ごめん、バスケット後で返す。」
「いや、バスケットも一緒に上げたものだから返してもらわなくていいんだけど。」
えぇ、バスケットごと差し上げるつもりだったのでそれは構いません。
それより気になるのは、カリスト君の表情。
全てを諦めきった顔は、なんなんでしょう。
「カリスト、すまないな。お前を連れ出すべきだったかもしれん。」
「いいよ、アズナールの兄貴。顔見たら俺、大声絶対出したからさ。そしたら親父が出てきてこうなったよ。それよりジャネス親分とのこと。」
「5年前、僕がいなくなった時点で、ジャネス親分は、あの家を取り壊しただろう。その時点で僕の負けだ。」
「そんな……。」
「いいんだ。」
アズナールは、カリスト君に背を向けました。
「お嬢様、帰りましょう。ここは、お嬢様が来るようなところではありませんよ。」
「ちょっちょっと、アズナール?」
「いや、帰りましょうや、お嬢様。」
「オラシオも、あんた、気にならないの?」
「気にならないことはないっすね。5年前の大男としちゃ。」
「えっ?」
オラシオは、何か知っているんだ。
「オラシオ、何知ってるの?」
「それをオレが、勝手に言うわけには……。」
「急いで下さい。ここは治安が悪い。余所者がじっとしていていい場所じゃないんです。」
アズナール、なんかイラついている?
「そうっすね、お嬢様、アズナールの言う通り、さっさと帰りましょう。」
「同感、周囲がうっとおしい。」
エルゼの視線の先で、さっと物陰に隠れる男が。
ひょっとして監視されてる?
「早く帰った方がよさそうじゃの。」
「ご馳走が待ってるしぃ。」
ここは、皆の言う通り、早くここから離れた方がよさそうです。
アズナールを先頭に、ウルファ、私、イシドラ、エルゼ、オラシオの順で狭い道を歩き始めました。
貧民街を抜け出るまでに数人の人とすれ違いましたが、アズナールの顔を見るなり、皆、道を譲ります。
怯えた顔をして。
どんな顔をしているのでしょう。
貧民街を出るまで、一度も振り返らなかったのでわかりません。
貧民街を出て、預けていた馬車で家に帰りました。
その時見たアズナールの顔は、いつも……を知っているほど付き合いは長くありませんが……普通だと思える顔と雰囲気でした。
「お帰り、みんな、ご飯準備できてるわよ。」
お母様が出迎えてくれます。
「すいません、ご馳走になります。」
「いっぱい作ってもらったから、頑張って食べてね。」
「りょうかいっす。」
「ふふ、オラシオ君は大きいから、いっぱい食べそうね。」
「アズナールも食うっすよ。」
「そうね、二人とも若い男の子だもんね、いっぱい食べられるわね。」
「男の子という歳でもないんですが。」
アズナールが苦笑しています。
もう普段通りなのかな、アズナール。
食堂にはお母様の言う通り、大量の料理が並んでいました。
とても女性だけで食べきれる量ではありません。
「さぁ、座って頂戴。お昼、ロザリンドが皆にご馳走したみたいだけど、母親として、これから娘のために働いてくれる人にご馳走させてもらうわ。」
お母様に促され、皆座ります。
「さぁ、ワインも用意してるからね。乾杯して、みんないっぱい食べて頂戴。」
そう言って、お母様はみなのグラスにワインを注ぎます。
無論、アズナールのグラスにも。
そのグラスを見たアズナールの瞳に決意の光が浮かびました。
「お嬢様、すいません、乾杯の前にお話をさせてもらっていいでしょうか?」
アズナール、カリスト君と知り合いなの?
「兄貴、5年ぶりだね。一体どこで何やってたんだい?」
「色々あってな。今こちらのロザリンドお嬢様の護衛だ。」
「そうなの。アニキなら強いから驚かないけど。」
カリスト君は、外に出てきます。
ちょっと明るいところでカリスト君の顔を見ると、口の端が切れてたり、頬にあざができているのがわかりました。
昨日、傘を支えてくれた時には無かったのに。
「で、何の用?」
カリスト君の口調は、アズナールに対するのと違い、ぶっきらぼうです。
「昨日は、ごめんなさい。私と王妃様を助けるために折角のシチュー、ダメにさせちゃって。」
「いいよ、別に。」
「ごめんなさい。これはお詫びの品です。お納め下さい。」
そう言って、バスケットを差し出します。
「おおさめって、受けとれってこと?」
カリスト君が確認しながら受け取った時、奥からドタドタと足音がしました。
「アズナールだぁ?」
奥から出てきたのは、父親でしょう。
大柄な髭を生やした男性が、カリスト君の後ろから私達を眺めまわし、アズナールのところで視線を止めました。
「アズナールじゃねえか。今までどこにいたのか知らねえが……。」
「ジャネス親分とのことなら、ケリはついた。僕の負けでね。今更僕をどうしようが、あいつは何もくれないぞ。」
「チッ。」
何、アズナールって、あのジャネス親分から賞金でも掛けられていたの?
「ん、なんだ、カリスト、何持ってんだ?」
「これは……。」
「見せろ。」
そう言ってカリスト君からバスケットを取り上げ、中を見ました。
「こいつぁ。」
カリスト君のお父さんの顔が笑顔に輝きます。
「これなら、ジャネスさん、高く買ってくれるぜ。」
はぁ?
あの、せっかくの食材売っちゃうの?なんで食べないの?
笑顔は、美味いもんが手に入ったってわけじゃないの?
「おし、今夜のタネ銭ができたぜ。」
そう言って、カリスト君のお父さんは、バスケットをもって飛び出していきました。
タネ銭って?
カリスト君のお父さん、何がしたいの?
「ごめん、バスケット後で返す。」
「いや、バスケットも一緒に上げたものだから返してもらわなくていいんだけど。」
えぇ、バスケットごと差し上げるつもりだったのでそれは構いません。
それより気になるのは、カリスト君の表情。
全てを諦めきった顔は、なんなんでしょう。
「カリスト、すまないな。お前を連れ出すべきだったかもしれん。」
「いいよ、アズナールの兄貴。顔見たら俺、大声絶対出したからさ。そしたら親父が出てきてこうなったよ。それよりジャネス親分とのこと。」
「5年前、僕がいなくなった時点で、ジャネス親分は、あの家を取り壊しただろう。その時点で僕の負けだ。」
「そんな……。」
「いいんだ。」
アズナールは、カリスト君に背を向けました。
「お嬢様、帰りましょう。ここは、お嬢様が来るようなところではありませんよ。」
「ちょっちょっと、アズナール?」
「いや、帰りましょうや、お嬢様。」
「オラシオも、あんた、気にならないの?」
「気にならないことはないっすね。5年前の大男としちゃ。」
「えっ?」
オラシオは、何か知っているんだ。
「オラシオ、何知ってるの?」
「それをオレが、勝手に言うわけには……。」
「急いで下さい。ここは治安が悪い。余所者がじっとしていていい場所じゃないんです。」
アズナール、なんかイラついている?
「そうっすね、お嬢様、アズナールの言う通り、さっさと帰りましょう。」
「同感、周囲がうっとおしい。」
エルゼの視線の先で、さっと物陰に隠れる男が。
ひょっとして監視されてる?
「早く帰った方がよさそうじゃの。」
「ご馳走が待ってるしぃ。」
ここは、皆の言う通り、早くここから離れた方がよさそうです。
アズナールを先頭に、ウルファ、私、イシドラ、エルゼ、オラシオの順で狭い道を歩き始めました。
貧民街を抜け出るまでに数人の人とすれ違いましたが、アズナールの顔を見るなり、皆、道を譲ります。
怯えた顔をして。
どんな顔をしているのでしょう。
貧民街を出るまで、一度も振り返らなかったのでわかりません。
貧民街を出て、預けていた馬車で家に帰りました。
その時見たアズナールの顔は、いつも……を知っているほど付き合いは長くありませんが……普通だと思える顔と雰囲気でした。
「お帰り、みんな、ご飯準備できてるわよ。」
お母様が出迎えてくれます。
「すいません、ご馳走になります。」
「いっぱい作ってもらったから、頑張って食べてね。」
「りょうかいっす。」
「ふふ、オラシオ君は大きいから、いっぱい食べそうね。」
「アズナールも食うっすよ。」
「そうね、二人とも若い男の子だもんね、いっぱい食べられるわね。」
「男の子という歳でもないんですが。」
アズナールが苦笑しています。
もう普段通りなのかな、アズナール。
食堂にはお母様の言う通り、大量の料理が並んでいました。
とても女性だけで食べきれる量ではありません。
「さぁ、座って頂戴。お昼、ロザリンドが皆にご馳走したみたいだけど、母親として、これから娘のために働いてくれる人にご馳走させてもらうわ。」
お母様に促され、皆座ります。
「さぁ、ワインも用意してるからね。乾杯して、みんないっぱい食べて頂戴。」
そう言って、お母様はみなのグラスにワインを注ぎます。
無論、アズナールのグラスにも。
そのグラスを見たアズナールの瞳に決意の光が浮かびました。
「お嬢様、すいません、乾杯の前にお話をさせてもらっていいでしょうか?」
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