婚約破棄は結構ですけど

久保 倫

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中編

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「かしこまりました。」

 王太子に頭を下げながら私は、思考を巡らせていました。

 今の相場では、金貨1枚が銀貨10枚ですから、返済に金貨三千枚用意すればいい。
 それくらいなら、昼夜兼行で採掘させ精錬、鋳造すれば一月程度で揃えられるでしょう。
 それなら利息として銀貨5百枚程度が見込めます。

 悪いのは鉱脈を担保にお金をよそから借りる場合。
 一か所でなく複数の商会に依頼する手間を惜しまなければ、1日までに必要な金貨なり銀貨なりを揃えるのは不可能ではありません。
 この場合、メイア商会に利益はありません。


 さて、どうしましょうか。


「さぁ、用は終わった。ここは本来、お前のような身分賎しい者が立ち入れる場所では無い。とっとと失せろ!」

 王太子が居丈高に怒鳴り付けてきます。

 だから人を指差すのはやめましょう。

 全くこれですから、頭のパラメーターが(以下略)。


「あぁ、婚約破棄できてよかった。婚姻が成立すれば、賤しき血を入れた愚昧な王として名を残すところであった。」


 とっくに愚昧な王として歴史に名が残すことは確定してます。


 私が確定させますから。


「殿下、黄金の鉱脈が見つかったとなれば、今後、この国が発展することは必定。殿下の名は史書に黄金で刻まれましょう。」

 でも口に出したのは別の言葉。

「なんだ、まだ下がっていなかったのか。衛兵、つまみ出せ。」
「お待ち下さいませ、殿下。元とは言え婚約者だった身。申し上げたいことがございます。」


 言わせてよね。


「黙れ、お前のような賎しい身分の者を婚約者としていたなど恥辱の極みだ。」

 なんて言い草。
 そこまで言いますか。

「その声を聞くだけでも苦痛であった。この世のありとあるゆる責め苦の中でも最上のものであったわ。」

 へぇ~~。

 そこまで言いますか。

 カチンときましたわよ。


「殿下、期日は来月1日。もう3日しかございませぬ。」

 でも抑えて別のことを言う。

「さようであるが、なんとでもする。余を信じられぬか!」
「殿下を信じぬわけではありませぬが、いらぬ負担をかけさせたくはありませぬ。来週に戴冠式など控え、御多忙な身にいらぬ負担をかけるのは、望みでありませぬ。」
「ほう、殊勝なことを申す。」
「返済期日を延長させて下さいませ。無論、無利子で。」
「なんだと?」

 さすがに食いついてきました。

「これから、お忙しくなりましょう。重ねて申し上げますが、余計な負担をかけたくはございませぬ。」 
「ふむ。」
「返済は、来月の末でいかがでしょうか?」
「異存は無い。」


 即答ですか。ふふふ。

 延ばせるなら、面倒は後回しの王太子らしいですわ。
 事態が好転するかもしれないと考えているそうですが。
 そんな考えをして決断や行動を先延ばしにするから、半数の敵に負けるんですけど。


「陛下の同意が得られましたところで、もう一つ祝いを。今この場に貴腐ワインを一樽献上させて頂きます。これは、黄金に輝くこの国の未来への献上品とさせて頂きます。」
「「「「「おぉ。」」」」

 式典の場が先ほど以上にざわつきます。


 えぇ、父の財の源泉の一つ。
 産地を押さえた父しか販売できない高級ワインです。
 この国では王族でも滅多に口にすることはできません。それほどの高級ワインです。

「さぁ、商会に貴腐ワインを運ぶよう伝えて。」

 後ろに控える父から派遣されている侍女に命じます。
 侍女はさっと身を翻し、会場の外に出ました。

「皆様、貴腐ワインが届くまで、しばしお待ち下さいませ。」
「皆の者、ロザリンドのせっかくの申し出、待とうではないか。」

 殿下、今の言葉だけは感謝しますわ。


 墓穴になるんですけどね。

 
「縁戚にはなれませんでしたが、これからもメイア商会との取引はよろしくお願い申し上げます。」

 殿下に頭を下げます。

「あいわかった。父ニールスにも伝えよ。」
「では、これにて下がらせて頂きます。来月の末に銀貨3万枚必ずお支払い下さること信じております。」
「うむ、間違いなく支払おう。用はすんだな。早く私の前から消えろ!」

 はいはい、消えますよ。

 一礼して王子に背を向け退出します。


 さぁ、戦闘開始です!
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