28 / 31
終幕
しおりを挟む
クリンチ 艦長、今後に関してはいかがお考えですか?
ルックナー 基本はここを脱出する。クック諸島、もしくはフィジーまで航海し、航海した先で船を奪う。
ロイデマン 無茶苦茶な、何百マイルあると思っているんですか?
プライス そもそもどうやってこの島を脱出するのですか?「ゼーアドラー」を珊瑚礁から浮揚するには、機材が無い。
ルックナー 「ゼーアドラー」ではない。ボートを使う。
キルヒアイス ボート、漕いで航海するつもりですか?
ルックナー まさか、体力の限界で倒れてしまう。そんな馬鹿な真似はしない。
ロイデマン ボートで航海、という時点で十分馬鹿だと思いますがね。
ルックナー ボートに木材などで帆を張り、帆装する。
パーミェン ボートに帆を張ると言われても、大した帆は張れません。トップヘビーになって転覆しますよ。
ルックナー パーミェンの言う通り大した帆は張れない。従って速度も稼げないだろう。それでも一日60マイル(約96㎞)は航行できる。
ロイデマン それでもクック諸島まで2週間はかかる計算です。あそこまではだいたい800マイルですから。
ルックナー それでも行く。クック諸島まで行けば貨物船が寄港しているだろう。それを乗っ取り、このモペリア島に戻って全員を乗せて通商破壊戦を再開する。
シュミット しかし、ボートと言っても所詮救命用の小型のものしかないでしょう。
ルックナー そうだ。人数も武器や食料の積載を考慮すれば、6人乗るのが精一杯だろう。だが、それで十分と確信している。寄港していれば大半の船員は上陸しているだろうし、留守番の者も深夜の3時半ならば寝入っている。そこに奇襲をかけ、拘束すれば乗っ取りは可能だ。
プライス 拘束ですか?殺害ではなく?
ルックナー 我々は、今までも殺さずにやってきた。これからもそうするつもりだ。だが、万が一、抵抗し武器を構えたならば遠慮はいらん。発砲を許可する。
ロイデマン ここにいたっては、信念よりも乗っ取りを優先ですか。
ルックナー 仕方ない。我々は今「ゼーアドラー」という武器を失った非力な存在なのだ。それでも戦場に戻らねばならん、ドイツのため、皇帝陛下のために。
クリンチ 6人がせいぜいとおっしゃりました。自分も同意しますが、誰を連れていきますか?
ルックナー 副長はここに残留して残りの者と捕虜を監督して欲しい。
クリンチ 了解!魔王陛下の代理として、臣民たちを監督します。
ルックナー なんだそりゃ、魔王って?
クリンチ 捕虜が言ってますよ。ルックナー艦長は「南海の魔王」だって。
ロイデマン それはおもしれえ。
ルックナー 言わせておけ。それより6人だが、体力や技能などを考慮した上でもう決めている。
プライス 誰でしょうか?
ルックナー ロイデマン、キルヒアイス、クラウス、パーミェン、エルトマン、そして私だ。
クリンチ 航海士、砲術士、機関長、掌帆長、最後に下士官ですか。
ルックナー まずはクック諸島へ航海するのに、ロイデマンとパーミェンは最低限必要だし、船の乗っ取りにもキルヒアイスとエルトマンの射撃術は役に立つ。
プライス 射撃なら自分が。
ルックナー いや貴官は、拿捕隊の隊長として隊を取りまとめ、捕虜の管理などでクリンチを補佐してくれ。
プライス ……そういうことならやむを得ませんな。
ルックナー クラウスは、乗っ取る船が汽船であった場合、機関の運用に必要となる。
シュミット 自分じゃダメですか。
クラウス お前がもちっと早く仕事できれば、こうならなかったかもしれないんだ。
シュミット すいません……。
ルックナー そういうことを言うなクラウス。
クラウス はっ。
ルックナー 準備ができ次第、この島を出発する。
ビーチ ボートでクック諸島まで800マイルの航海か、冒険じゃのう。
ルックナー 博士は、残留して皆の体調管理をお願いする。
ビーチ そう言われては仕方ないが、実のところ島からの脱出希望者は多いぞ。全員と言っていい。ここは、船が通りかかるのを待ち、救助に来たところで乗っ取ってはどうだ?皆の士気も高いのじゃから。
ルックナー そうであるのは今だけだ。この南海ののんびりした雰囲気で過ごせば、そのような気持ちはいずれ消え失せる。今アクションを起こさねば、皆、安楽に流れてしまい、戦争も終わってしまう。
ロイデマン ドイツのために戦うことができないと。
ルックナー そうだ!劣勢の祖国のため、オレは戦う。そのために危険を冒すことを厭わない!
オレは、ドイツの樫のように強く立って、戦うだけだ!たとえ「ゼーアドラー」という翼を失ってもな!
幕は閉じる。
ルックナー 基本はここを脱出する。クック諸島、もしくはフィジーまで航海し、航海した先で船を奪う。
ロイデマン 無茶苦茶な、何百マイルあると思っているんですか?
プライス そもそもどうやってこの島を脱出するのですか?「ゼーアドラー」を珊瑚礁から浮揚するには、機材が無い。
ルックナー 「ゼーアドラー」ではない。ボートを使う。
キルヒアイス ボート、漕いで航海するつもりですか?
ルックナー まさか、体力の限界で倒れてしまう。そんな馬鹿な真似はしない。
ロイデマン ボートで航海、という時点で十分馬鹿だと思いますがね。
ルックナー ボートに木材などで帆を張り、帆装する。
パーミェン ボートに帆を張ると言われても、大した帆は張れません。トップヘビーになって転覆しますよ。
ルックナー パーミェンの言う通り大した帆は張れない。従って速度も稼げないだろう。それでも一日60マイル(約96㎞)は航行できる。
ロイデマン それでもクック諸島まで2週間はかかる計算です。あそこまではだいたい800マイルですから。
ルックナー それでも行く。クック諸島まで行けば貨物船が寄港しているだろう。それを乗っ取り、このモペリア島に戻って全員を乗せて通商破壊戦を再開する。
シュミット しかし、ボートと言っても所詮救命用の小型のものしかないでしょう。
ルックナー そうだ。人数も武器や食料の積載を考慮すれば、6人乗るのが精一杯だろう。だが、それで十分と確信している。寄港していれば大半の船員は上陸しているだろうし、留守番の者も深夜の3時半ならば寝入っている。そこに奇襲をかけ、拘束すれば乗っ取りは可能だ。
プライス 拘束ですか?殺害ではなく?
ルックナー 我々は、今までも殺さずにやってきた。これからもそうするつもりだ。だが、万が一、抵抗し武器を構えたならば遠慮はいらん。発砲を許可する。
ロイデマン ここにいたっては、信念よりも乗っ取りを優先ですか。
ルックナー 仕方ない。我々は今「ゼーアドラー」という武器を失った非力な存在なのだ。それでも戦場に戻らねばならん、ドイツのため、皇帝陛下のために。
クリンチ 6人がせいぜいとおっしゃりました。自分も同意しますが、誰を連れていきますか?
ルックナー 副長はここに残留して残りの者と捕虜を監督して欲しい。
クリンチ 了解!魔王陛下の代理として、臣民たちを監督します。
ルックナー なんだそりゃ、魔王って?
クリンチ 捕虜が言ってますよ。ルックナー艦長は「南海の魔王」だって。
ロイデマン それはおもしれえ。
ルックナー 言わせておけ。それより6人だが、体力や技能などを考慮した上でもう決めている。
プライス 誰でしょうか?
ルックナー ロイデマン、キルヒアイス、クラウス、パーミェン、エルトマン、そして私だ。
クリンチ 航海士、砲術士、機関長、掌帆長、最後に下士官ですか。
ルックナー まずはクック諸島へ航海するのに、ロイデマンとパーミェンは最低限必要だし、船の乗っ取りにもキルヒアイスとエルトマンの射撃術は役に立つ。
プライス 射撃なら自分が。
ルックナー いや貴官は、拿捕隊の隊長として隊を取りまとめ、捕虜の管理などでクリンチを補佐してくれ。
プライス ……そういうことならやむを得ませんな。
ルックナー クラウスは、乗っ取る船が汽船であった場合、機関の運用に必要となる。
シュミット 自分じゃダメですか。
クラウス お前がもちっと早く仕事できれば、こうならなかったかもしれないんだ。
シュミット すいません……。
ルックナー そういうことを言うなクラウス。
クラウス はっ。
ルックナー 準備ができ次第、この島を出発する。
ビーチ ボートでクック諸島まで800マイルの航海か、冒険じゃのう。
ルックナー 博士は、残留して皆の体調管理をお願いする。
ビーチ そう言われては仕方ないが、実のところ島からの脱出希望者は多いぞ。全員と言っていい。ここは、船が通りかかるのを待ち、救助に来たところで乗っ取ってはどうだ?皆の士気も高いのじゃから。
ルックナー そうであるのは今だけだ。この南海ののんびりした雰囲気で過ごせば、そのような気持ちはいずれ消え失せる。今アクションを起こさねば、皆、安楽に流れてしまい、戦争も終わってしまう。
ロイデマン ドイツのために戦うことができないと。
ルックナー そうだ!劣勢の祖国のため、オレは戦う。そのために危険を冒すことを厭わない!
オレは、ドイツの樫のように強く立って、戦うだけだ!たとえ「ゼーアドラー」という翼を失ってもな!
幕は閉じる。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

女の首を所望いたす
陸 理明
歴史・時代
織田信長亡きあと、天下を狙う秀吉と家康の激突がついに始まろうとしていた。
その先兵となった鬼武蔵こと森長可は三河への中入りを目論み、大軍を率いて丹羽家の居城である岩崎城の傍を通り抜けようとしていた。
「敵の軍を素通りさせて武士といえるのか!」
若き城代・丹羽氏重は死を覚悟する!
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
鉄と草の血脈――天神編
藍染 迅
歴史・時代
日本史上最大の怨霊と恐れられた菅原道真。
何故それほどに恐れられ、天神として祀られたのか?
その活躍の陰には、「鉄と草」をアイデンティティとする一族の暗躍があった。
二人の酔っぱらいが安酒を呷りながら、歴史と伝説に隠された謎に迫る。
吞むほどに謎は深まる——。
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

新撰組のものがたり
琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。
ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。
近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。
町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。
近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。
最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。
主人公は土方歳三。
彼の恋と戦いの日々がメインとなります。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる