1916年帆装巡洋艦「ゼーアドラー」出撃す

久保 倫

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モペリア島

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パーミェン 前方に島が見えます。
ルックナー モペリア島だな。無電などの傍受はあるか?
クリンチ ありますが、遠方のクック諸島などからの物だけです。このリーワード諸島は艦長の読み通り無線局が無いと見ていいでしょう。
ルックナー よし、島に上陸する。環礁になっているようだが、どこか船が入りそうな水道はあるか?
パーミェン 残念ながらありませんね。水道は一箇所だけで、「ゼーアドラー」を入れるのは不可能です。
クリンチ ボートならどうだ?
パーミェン ボートなら問題ありません。
ルックナー 環礁内に停泊するのが理想だが、やむを得ん。「ゼーアドラー」は環礁外に停泊する。碇だけで無く、ワイヤーで艦を固定せよ。
クリンチ 了解しました。
ルックナー 捕虜の上陸も許可する。伝達しておいてくれ。
クリンチ 捕虜もですか?
ルックナー 彼らも揺れぬ地面を踏みたかろうよ。それに「ゼーアドラー」には最低限の要員しか残さんつもりだ。そうなると捕虜が暴動を起こす可能性がある。
クリンチ そのために連れていくと。
ルックナー だから武装は禁止する。猟をしたい、と言っても許可はしない。
クリンチ 捕虜を陸上で監視するのですね。
ルックナー 逃亡はこの際考慮しなくていいからな。下手に我々から離れ、置き去りにされて困るのは捕虜の方だ。困らんと言うならそれはそれで構わない。
クリンチ 面倒をみてやらないといけない手合いが減るだけですな。
ルックナー まぁ楽しませてうまくこき使ってやるさ。テントの設営に真水の取水、猟をやれずともいくらでもやることはあるんだからな。

 舞台 暗転する。

 明るくなったとき、幕が降りていた。



キルヒアイス よっしゃあ、野豚を仕留めた。
ルックナー うまいぞ、キルヒアイス。
エルトマン 艦長、ジャングルで涌き水を見つけました。
ルックナー でかした!これで水が補充できる。
プライス 海亀を捕らえました。
ルックナー 皆、久々のおかを楽しんでいるな。
ロイデマン 捕虜達もジャングルで鳥の巣見つけて、卵を確保したそうです。
ルックナー 新鮮な食料を手に入れるには運が必要だと思っていたが。
ロイデマン 船を拿捕できなかった分、こちらで埋め合わせできそうですな。
ルックナー 全くだ。今日の晩は、捕虜も一緒に盛り上がるとしよう。
プライス 幸い、拿捕した船からビールも大量に入手できました。それをこちらに持ってきています。
ルックナー 気が利くな、貴官は。


ナレーション かくしてルックナー達は、モペリア島で数日を過ごすこととなる。


ルックナー 今日もいい天気だ。
キルヒアイス 今日も狩りに行ってきます。
ルックナー 狩りすぎるなよ、燻製にするなどしているが、限度ってもんがある。
エルトマン ですが、海亀はのろまで簡単過ぎますし、卵はもうあらかた取り尽くしたって感じですね。

ルックナー そろそろ休息を止めるべきか。もう十分休息できただろう。


 轟音


ルックナー なんだ?今の音は、って。
ロイデマン 地面が一瞬、揺れた。
プライス まるで砲撃を受けたような。
ルックナー 「ゼーアドラー」に戻るぞ。敵襲とは思わんが。 


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