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ルックナー 若き日の自分を語る
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ナレーション かくして「ゼーアドラー」は南下する。
ルックナー クック諸島方面より無電だと?
クリンチ はい、通信室より報告が上がりました。
ルックナー 付近を航行している船からの無電ではないのか?
クリンチ 出力からして陸上のものである可能性が高いと。
ロイデマン 奈落より登場
ロイデマン 艦長、捕虜と話してみたんですが、クック諸島に最近無線局が開設されているらしいです。
ルックナー マジか?
ロイデマン 通信が取れるようになって便利だと言ってますから、間違いないでしょう。
ルックナー 行先を変更せねばならんな。どこか島は無いか?
クリンチ 早くしませんと、捕虜どもがうるさいです。下手をすると暴動です。
ロイデマン 俺が話した奴も、どこでもいい、無人島でいいから下ろしてくれ。これ以上海にいたくない、とうるさ
かったですね。
ルックナー ええい、クック諸島の近くに……ソシエテ諸島……ここだ!
ルックナー 海図を指差す
クリンチ リーワード諸島、モペリア島*1?
ルックナー ここならクック諸島から離れている。これはリーワード諸島の島々に言えることだが、海底火山の活動でできた島で、接岸するのが難しく、人が住まない無人島ばかりだ。そんなところに、手間暇かけて無線局を開設などすまい。
ロイデマン 詳しいですね。艦長、この辺を航海したことがおありで?
ルックナー いやない。
ロイデマン 無いんですか。てっきりこの辺はオレにとって庭みたいなもんだ、と豪語するものだと。
ルックナー まぁ話を聞いたくらいだ。オーストラリアで灯台守の下働きしてた時にな。
クリンチ カンガルーの大陸にもおられたんでしたな。
ルックナー ヒンズー教の秘術を学んだのもオーストラリアでの話だ。
ロイデマン 色々な話がありそうですな。
ルックナー ドイツのハンブルグから、帆船「ニオベ」号に乗り組んで来たのが、オーストラリアだ。救世軍の一員になって、そこで灯台守の下働きの仕事を紹介された。
クリンチ 安全そうな仕事なのに、どうして辞めたんですか?
ルックナー 海が俺を呼んでいたから、と言いたいが逃げ出しただけだ。
ロイデマン 何をやらかしたんです?
ルックナー 灯台守の娘に手を出した。
ロイデマン そんなことで。
ルックナー オレだって命は惜しい。あの時、灯台守がショットガンを置いている部屋に飛んで行ったからな。
クリンチ ……激しい父親ですな。
ルックナー オレの部屋の扉を叩いていたのは、ショットガンのストックで間違いない。財布と時計引っ掴んで窓から逃げなかったら、フリーマントル(オーストラリア西部の都市)の海で魚の餌だ。
ロイデマン 逃げてどうしたんです?
ルックナー 色々だな。製材所で働いたり、猟師やったり、ヒンズー教の高僧から秘術を授かったりしているうちに、ボクサーとしてスカウトされた。
ロイデマン 落ち着かない人生で。
ルックナー いやボクサーとして一人前になったら、サンフランシスコでデビューさせてやると言われてな。アメリカには行きたかったもんでな。
ロイデマン で、ボクサーになったんですか?
ルックナー いや月給45ドルでホノルル行きの帆船の船員に、と勧誘されて、さっさとホノルルに行ってそれから、アメリカ本土だ。
ロイデマン 定着しない人ですな。この時期何も積み上げなかったんですな。
ルックナー そんなことはない。貯金だけはちゃんとした。だから、ドイツに戻った時、自分の金で航海士の学校に行くこともできた。そして、こうやって海軍士官にもなれた*2。
クリンチ 放蕩者なのか堅実なのかわかりませんな、若い頃の艦長は。
*1マウハピア島、とも、モピア島とも表記される。
*2ルックナーは、航海士の資格を取得後、一年志願兵制度*3を利用して海軍大尉となっている。
*3ドイツ海軍が、戦争に備え予備役士官を確保するために設けた制度。一年の軍務と所定の学科の取得で、士官学校に行かずとも海軍大尉となれる。
ルックナー クック諸島方面より無電だと?
クリンチ はい、通信室より報告が上がりました。
ルックナー 付近を航行している船からの無電ではないのか?
クリンチ 出力からして陸上のものである可能性が高いと。
ロイデマン 奈落より登場
ロイデマン 艦長、捕虜と話してみたんですが、クック諸島に最近無線局が開設されているらしいです。
ルックナー マジか?
ロイデマン 通信が取れるようになって便利だと言ってますから、間違いないでしょう。
ルックナー 行先を変更せねばならんな。どこか島は無いか?
クリンチ 早くしませんと、捕虜どもがうるさいです。下手をすると暴動です。
ロイデマン 俺が話した奴も、どこでもいい、無人島でいいから下ろしてくれ。これ以上海にいたくない、とうるさ
かったですね。
ルックナー ええい、クック諸島の近くに……ソシエテ諸島……ここだ!
ルックナー 海図を指差す
クリンチ リーワード諸島、モペリア島*1?
ルックナー ここならクック諸島から離れている。これはリーワード諸島の島々に言えることだが、海底火山の活動でできた島で、接岸するのが難しく、人が住まない無人島ばかりだ。そんなところに、手間暇かけて無線局を開設などすまい。
ロイデマン 詳しいですね。艦長、この辺を航海したことがおありで?
ルックナー いやない。
ロイデマン 無いんですか。てっきりこの辺はオレにとって庭みたいなもんだ、と豪語するものだと。
ルックナー まぁ話を聞いたくらいだ。オーストラリアで灯台守の下働きしてた時にな。
クリンチ カンガルーの大陸にもおられたんでしたな。
ルックナー ヒンズー教の秘術を学んだのもオーストラリアでの話だ。
ロイデマン 色々な話がありそうですな。
ルックナー ドイツのハンブルグから、帆船「ニオベ」号に乗り組んで来たのが、オーストラリアだ。救世軍の一員になって、そこで灯台守の下働きの仕事を紹介された。
クリンチ 安全そうな仕事なのに、どうして辞めたんですか?
ルックナー 海が俺を呼んでいたから、と言いたいが逃げ出しただけだ。
ロイデマン 何をやらかしたんです?
ルックナー 灯台守の娘に手を出した。
ロイデマン そんなことで。
ルックナー オレだって命は惜しい。あの時、灯台守がショットガンを置いている部屋に飛んで行ったからな。
クリンチ ……激しい父親ですな。
ルックナー オレの部屋の扉を叩いていたのは、ショットガンのストックで間違いない。財布と時計引っ掴んで窓から逃げなかったら、フリーマントル(オーストラリア西部の都市)の海で魚の餌だ。
ロイデマン 逃げてどうしたんです?
ルックナー 色々だな。製材所で働いたり、猟師やったり、ヒンズー教の高僧から秘術を授かったりしているうちに、ボクサーとしてスカウトされた。
ロイデマン 落ち着かない人生で。
ルックナー いやボクサーとして一人前になったら、サンフランシスコでデビューさせてやると言われてな。アメリカには行きたかったもんでな。
ロイデマン で、ボクサーになったんですか?
ルックナー いや月給45ドルでホノルル行きの帆船の船員に、と勧誘されて、さっさとホノルルに行ってそれから、アメリカ本土だ。
ロイデマン 定着しない人ですな。この時期何も積み上げなかったんですな。
ルックナー そんなことはない。貯金だけはちゃんとした。だから、ドイツに戻った時、自分の金で航海士の学校に行くこともできた。そして、こうやって海軍士官にもなれた*2。
クリンチ 放蕩者なのか堅実なのかわかりませんな、若い頃の艦長は。
*1マウハピア島、とも、モピア島とも表記される。
*2ルックナーは、航海士の資格を取得後、一年志願兵制度*3を利用して海軍大尉となっている。
*3ドイツ海軍が、戦争に備え予備役士官を確保するために設けた制度。一年の軍務と所定の学科の取得で、士官学校に行かずとも海軍大尉となれる。
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