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釈放
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ルックナー 拿捕した船の総トン数四万トンはいいが、やはり手狭になって来たな。
クリンチ もう収容能力は限界に近いです。次に拿捕すれば船の大きさによっては収容できない可能性があります。
ロイデマン 東洋艦隊の「エムデン」のように船団を組んで航行しますか?
ルックナー それは避けたい。帆船で船団を組めないわけではないが機動力が削がれる。
クリンチ それでは次に拿捕した船に捕虜を乗せて釈放ですか。
ルックナー それしかあるまい。20世紀になって、海賊よろしく板渡りをさせるわけにもいかん。
ロイデマン 板渡りって、舷側に板を張り出させて目隠しした捕虜を歩かせるあれ、でしょ。やったことあるんですか?
ルックナー あるか!馬鹿者!
クリンチ 艦長ってどこでなにやっていたのかわからんお人ですから。
ロイデマン カリブ海で海賊船に乗っていた、って言われても説得力がある。
ルックナー おいおい、お前ら、オレをなんだと思っているんだ。ルックナー伯爵家の長男で、海軍中佐だぞ。
クリンチ そうなんですが。
ロイデマン 艦長のポケットから何が飛び出すのやら、我らにはわかりませんので。
ルックナー それより捕虜のことだ。次に拿捕した船に乗せて釈放しようと思うが、問題は大きさだな。「パーシー」号みたいな船では話にならん。
クリンチ それはわかりますが、小型船は出会っても見逃しますか?
ルックナー やむを得まい。戦果も大事だが、捕虜の待遇もそれなりに気を配らねばな。特にご婦人には。
ロイデマン 艦長もフェミニストですな。
ルックナー 皇帝陛下の御稜威を高めるためだ。
ロイデマン 本音ですか?
ルックナー 本音だ。だが、それ以上に。
ロイデマン それ以上に?
ルックナー か弱い女性に負担をかけるわけにはいかん。戦時下だから、などと言うのは言い訳だ。騎士たる者、無力な存在には慈愛をもって接しねばならん。
ロイデマン 騎士道ですか。悪くはありませんが。
ルックナー 矜持は捨てたくない。オレの前半生は、それだけが支えだった。家を飛び出して、士官と名乗れるその日まで家には戻らぬと覚悟を決めた。予備士官時代、叔父のフリッツ・フォン・バウディッシン伯爵に会ったが、実家に知らせてくれるなと懇願したもんさ。
ロイデマン 艦長の全ては意地で積み上げたものですか。
ルックナー そうだ、そしてこれからも意地で積み上げる。
パーミェン 艦長!フランス国旗を掲げた大型帆船を発見!
ルックナー 大型帆船だと!?神の恵みだ!総員戦闘配置!
ナレーション 「ゼーアドラー」は無事に「カンブローヌ」号の拿捕に成功した。
プライス 艦長、「カンブローヌ」号船内を探索しました。収容能力に問題なさそうです。
ルックナー 水や食料は?速度を出さぬようマストを切断するが、それでも大丈夫か?ここの最寄の港、リオデジャネイロに向かわせるが。
プライス 十分です。
ルックナー いいだろう。「ピンモア」号のミューレン船長を呼んで来てくれ。
クリンチ ミューレン船長を連れて登場。
ルックナー ミューレン船長、本艦の収容能力は限界を迎えつつある。そこで本日拿捕した「カンブローヌ」号に全員を移乗させ、近くの港に向かってもらおうと考えております。その船の指揮をお願いしたい。
ミューレン 「カンブローヌ」号の船長に委ねないのですか。
ルックナー 拿捕した以上我々の船だ。船長を誰にするかは、こちらが決めることです。
ミューレン キツイ仕事ですな。フランス人達が騒ぐでしょう。彼らもベテランの船乗り。小さなミスでも気づいてあれこれ言ってくる。
ルックナー 貴方ならばそれを乗り越えられると見込んでのことです。
ミューレン 艦長も口がお上手だ。そう言われては断れない。いいでしょう、ドイツ船舶「カンブローヌ」号の指揮をお引き受けしましょう。ただ、一つ条件がありますが。
ルックナー なんでしょう?
ミューレン 艦長と不仲のラコックも連れていきます。
ルックナー それは……あいつは、艦前部の弾薬庫にのことを知っている。あいつだけは釈放する訳にはいかない。
ミューレン おや、あの日貴方もラコックも昼寝していたはずですが。
ルックナー 苦笑して沈黙
ミューレン あの男を近くにおいていては、貴方の精神衛生に差し障りますよ。今後のためにもあれを捨てるつもりで、私に委ねてほしい。
ルックナー わかりました。貴方なら、あれを御せるでしょう。釈放しますよ。
ナレーション かくして、捕虜達の釈放が決まった。
クリンチ もう収容能力は限界に近いです。次に拿捕すれば船の大きさによっては収容できない可能性があります。
ロイデマン 東洋艦隊の「エムデン」のように船団を組んで航行しますか?
ルックナー それは避けたい。帆船で船団を組めないわけではないが機動力が削がれる。
クリンチ それでは次に拿捕した船に捕虜を乗せて釈放ですか。
ルックナー それしかあるまい。20世紀になって、海賊よろしく板渡りをさせるわけにもいかん。
ロイデマン 板渡りって、舷側に板を張り出させて目隠しした捕虜を歩かせるあれ、でしょ。やったことあるんですか?
ルックナー あるか!馬鹿者!
クリンチ 艦長ってどこでなにやっていたのかわからんお人ですから。
ロイデマン カリブ海で海賊船に乗っていた、って言われても説得力がある。
ルックナー おいおい、お前ら、オレをなんだと思っているんだ。ルックナー伯爵家の長男で、海軍中佐だぞ。
クリンチ そうなんですが。
ロイデマン 艦長のポケットから何が飛び出すのやら、我らにはわかりませんので。
ルックナー それより捕虜のことだ。次に拿捕した船に乗せて釈放しようと思うが、問題は大きさだな。「パーシー」号みたいな船では話にならん。
クリンチ それはわかりますが、小型船は出会っても見逃しますか?
ルックナー やむを得まい。戦果も大事だが、捕虜の待遇もそれなりに気を配らねばな。特にご婦人には。
ロイデマン 艦長もフェミニストですな。
ルックナー 皇帝陛下の御稜威を高めるためだ。
ロイデマン 本音ですか?
ルックナー 本音だ。だが、それ以上に。
ロイデマン それ以上に?
ルックナー か弱い女性に負担をかけるわけにはいかん。戦時下だから、などと言うのは言い訳だ。騎士たる者、無力な存在には慈愛をもって接しねばならん。
ロイデマン 騎士道ですか。悪くはありませんが。
ルックナー 矜持は捨てたくない。オレの前半生は、それだけが支えだった。家を飛び出して、士官と名乗れるその日まで家には戻らぬと覚悟を決めた。予備士官時代、叔父のフリッツ・フォン・バウディッシン伯爵に会ったが、実家に知らせてくれるなと懇願したもんさ。
ロイデマン 艦長の全ては意地で積み上げたものですか。
ルックナー そうだ、そしてこれからも意地で積み上げる。
パーミェン 艦長!フランス国旗を掲げた大型帆船を発見!
ルックナー 大型帆船だと!?神の恵みだ!総員戦闘配置!
ナレーション 「ゼーアドラー」は無事に「カンブローヌ」号の拿捕に成功した。
プライス 艦長、「カンブローヌ」号船内を探索しました。収容能力に問題なさそうです。
ルックナー 水や食料は?速度を出さぬようマストを切断するが、それでも大丈夫か?ここの最寄の港、リオデジャネイロに向かわせるが。
プライス 十分です。
ルックナー いいだろう。「ピンモア」号のミューレン船長を呼んで来てくれ。
クリンチ ミューレン船長を連れて登場。
ルックナー ミューレン船長、本艦の収容能力は限界を迎えつつある。そこで本日拿捕した「カンブローヌ」号に全員を移乗させ、近くの港に向かってもらおうと考えております。その船の指揮をお願いしたい。
ミューレン 「カンブローヌ」号の船長に委ねないのですか。
ルックナー 拿捕した以上我々の船だ。船長を誰にするかは、こちらが決めることです。
ミューレン キツイ仕事ですな。フランス人達が騒ぐでしょう。彼らもベテランの船乗り。小さなミスでも気づいてあれこれ言ってくる。
ルックナー 貴方ならばそれを乗り越えられると見込んでのことです。
ミューレン 艦長も口がお上手だ。そう言われては断れない。いいでしょう、ドイツ船舶「カンブローヌ」号の指揮をお引き受けしましょう。ただ、一つ条件がありますが。
ルックナー なんでしょう?
ミューレン 艦長と不仲のラコックも連れていきます。
ルックナー それは……あいつは、艦前部の弾薬庫にのことを知っている。あいつだけは釈放する訳にはいかない。
ミューレン おや、あの日貴方もラコックも昼寝していたはずですが。
ルックナー 苦笑して沈黙
ミューレン あの男を近くにおいていては、貴方の精神衛生に差し障りますよ。今後のためにもあれを捨てるつもりで、私に委ねてほしい。
ルックナー わかりました。貴方なら、あれを御せるでしょう。釈放しますよ。
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