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不幸、また不幸
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ナレーション 「ラ・ロシュフコー」号の拿捕撃沈に成功した「ゼーアドラー」は、船長ルコック以下の乗組員を捕虜とした二日後、南下し、「デュプクレス」号を捕捉、拿捕した。
「ゼーアドラー」のセット上、ルックナー、クリンチ、ともう一人並んでいる。
クリンチ 「デュプクレス」号沈みます!
舞台下手より、爆音と赤い閃光が発せられる。
ルックナー 貴殿には感謝するよ。おかげで、獲物にありつけたからな。
ルコック ふん、それを言いたくて甲板に呼びつけたのか。
ルックナー あぁ、貴殿が部下に、拿捕した前日、イギリス巡洋艦と接触していたことを、我々に教えぬよう指導してくれたおかげだ。もし教えてくれていたら、早目の海域移動になって、捕捉できなかっただろう。
ルコック 英国海軍の間抜けめ。船の数だけは多いくせに、肝心のところに配置しておらん。
それにしても、どうやって英国海軍の巡洋艦と「ラ・ロシュフコー」号が接触していたことを知った?
誰か密告したのか?
ルックナー 誰と言うこともない。オレの部下の中にも、国境出身でフランス語を理解する者は少なくない。貴殿の部下の会話を耳にした者が報告してくれた。
ルコック ふん、人の会話を盗み聞きか。まぁ、我々フランス人と違って精神に高貴さというものを持たぬドイツ人にふさわしい振る舞いだ。奪ったり盗んだりしかできぬ野蛮人なんだよ、ドイツ人なんて。
ルックナー その言葉そっくり返してやるよ。フランス人は、ドイツ人の物を奪い、恐ろしいことにそいつを世界で一番美しいと崇め、誇示している野蛮人なんだよ。
ラコック フランス人がそんなことすると思うか?第一ドイツ人の物なんてガラクタを奪うだけでもありえないのに、美しいと誇示するなどありえん!
ルックナー いや、誇示している。我がルックナー家から奪ったものをな。しかも国を挙げて世界に誇示しているのだ。
ルコック そんな馬鹿なことがあるか。
ルックナー あるさ。そして、フランス人はそれを愛してやまない。貴殿も例外ではない。
そこに拿捕隊が戻ってくる。
プライス 「デュプクレス」号船長を連れてきました。
ルックナー ご苦労。
「デュプクレス」号船長 なんて日だ、自分の船を失うなんて。人生最悪の日だ。これ以上不幸になれることなんてあるものか。
ルックナー 「デュプクレス」号船長殿ですな。本職は、ドイツ仮装巡洋艦「ゼーアドラー」艦長、フェリックス・フォン・ルックナーです。
「デュプクレス」号船長 その名前、一生忘れないよ。うぅ、風向きがよかったからイチかバチかで二人の船長を出し抜いて出航してみればこんなことに。
ラコック おい泣くのを辞めろよ。
「デュプクレス」号船長 あんたは、フランス人か…ってあぁ、ラコック!
ラコック イギリス海軍から情報収集しても無駄だったよ。あいつら、ほんと役に立たん。ここは、イギリス本土と違って霧が出るわけでもないのに、この船を見つけきれんのだからな。
ルックナー ひょっとして出し抜いた船長と言うのは?
ラコック オレとともう一人いる。
「デュプクレス」号船長 まさか、「アントナン」号も。
ルックナー クリンチ、すまないが。
クリンチ はい。
クリンチ 奈落に消え、すぐに「アントナン」船長とともに上がってくる。
「デュプクレス」号船長 あぁ、お前もか。
「アントナン」号船長 そうさ、わしはカメラまで取り上げられているんだ。
「デュプクレス」号船長 そうか、私より不幸になっているんだな。
「アントナン」号船長 いや、あんたの方が不幸になる。
「デュプクレス」号船長 なんだって!?船を失ってこれ以上不幸になれるものか。
ラコック この船の艦長殿は、厨房を我々捕虜に順番で任せるようにしたんだ、余計なことにな。
クリンチ 何を言う。長い航海、食べなれた味がいいだろうという艦長の配慮がわからんのか。うちの料理人に文句をつけていたくせに。
「アントナン」号船長 そういう訳で、一昨日はイタリアンで、美味かった。
ラコック 昨日は美しきフレンチのフルコース。芸術的な美味さだった。
「デュプクレス」号船長 いいじゃないか。
「アントナン」号船長 順番と言っただろう。ドイツを振り出しに、イタリア、フランス、ときて次の国は。
「デュプクレス」号船長 おい、まさか……やめろ、冗談だよな、な。
ラコック 今日は、イギリスの番だ。
「デュプクレス」号船長 崩れ落ちる。
「デュプクレス」号船長 あぁ、なんということだ!船を失った日のディナーがイギリス人の作ったディナー!?まだ、不幸になれるなんて。
「ゼーアドラー」のセット上、ルックナー、クリンチ、ともう一人並んでいる。
クリンチ 「デュプクレス」号沈みます!
舞台下手より、爆音と赤い閃光が発せられる。
ルックナー 貴殿には感謝するよ。おかげで、獲物にありつけたからな。
ルコック ふん、それを言いたくて甲板に呼びつけたのか。
ルックナー あぁ、貴殿が部下に、拿捕した前日、イギリス巡洋艦と接触していたことを、我々に教えぬよう指導してくれたおかげだ。もし教えてくれていたら、早目の海域移動になって、捕捉できなかっただろう。
ルコック 英国海軍の間抜けめ。船の数だけは多いくせに、肝心のところに配置しておらん。
それにしても、どうやって英国海軍の巡洋艦と「ラ・ロシュフコー」号が接触していたことを知った?
誰か密告したのか?
ルックナー 誰と言うこともない。オレの部下の中にも、国境出身でフランス語を理解する者は少なくない。貴殿の部下の会話を耳にした者が報告してくれた。
ルコック ふん、人の会話を盗み聞きか。まぁ、我々フランス人と違って精神に高貴さというものを持たぬドイツ人にふさわしい振る舞いだ。奪ったり盗んだりしかできぬ野蛮人なんだよ、ドイツ人なんて。
ルックナー その言葉そっくり返してやるよ。フランス人は、ドイツ人の物を奪い、恐ろしいことにそいつを世界で一番美しいと崇め、誇示している野蛮人なんだよ。
ラコック フランス人がそんなことすると思うか?第一ドイツ人の物なんてガラクタを奪うだけでもありえないのに、美しいと誇示するなどありえん!
ルックナー いや、誇示している。我がルックナー家から奪ったものをな。しかも国を挙げて世界に誇示しているのだ。
ルコック そんな馬鹿なことがあるか。
ルックナー あるさ。そして、フランス人はそれを愛してやまない。貴殿も例外ではない。
そこに拿捕隊が戻ってくる。
プライス 「デュプクレス」号船長を連れてきました。
ルックナー ご苦労。
「デュプクレス」号船長 なんて日だ、自分の船を失うなんて。人生最悪の日だ。これ以上不幸になれることなんてあるものか。
ルックナー 「デュプクレス」号船長殿ですな。本職は、ドイツ仮装巡洋艦「ゼーアドラー」艦長、フェリックス・フォン・ルックナーです。
「デュプクレス」号船長 その名前、一生忘れないよ。うぅ、風向きがよかったからイチかバチかで二人の船長を出し抜いて出航してみればこんなことに。
ラコック おい泣くのを辞めろよ。
「デュプクレス」号船長 あんたは、フランス人か…ってあぁ、ラコック!
ラコック イギリス海軍から情報収集しても無駄だったよ。あいつら、ほんと役に立たん。ここは、イギリス本土と違って霧が出るわけでもないのに、この船を見つけきれんのだからな。
ルックナー ひょっとして出し抜いた船長と言うのは?
ラコック オレとともう一人いる。
「デュプクレス」号船長 まさか、「アントナン」号も。
ルックナー クリンチ、すまないが。
クリンチ はい。
クリンチ 奈落に消え、すぐに「アントナン」船長とともに上がってくる。
「デュプクレス」号船長 あぁ、お前もか。
「アントナン」号船長 そうさ、わしはカメラまで取り上げられているんだ。
「デュプクレス」号船長 そうか、私より不幸になっているんだな。
「アントナン」号船長 いや、あんたの方が不幸になる。
「デュプクレス」号船長 なんだって!?船を失ってこれ以上不幸になれるものか。
ラコック この船の艦長殿は、厨房を我々捕虜に順番で任せるようにしたんだ、余計なことにな。
クリンチ 何を言う。長い航海、食べなれた味がいいだろうという艦長の配慮がわからんのか。うちの料理人に文句をつけていたくせに。
「アントナン」号船長 そういう訳で、一昨日はイタリアンで、美味かった。
ラコック 昨日は美しきフレンチのフルコース。芸術的な美味さだった。
「デュプクレス」号船長 いいじゃないか。
「アントナン」号船長 順番と言っただろう。ドイツを振り出しに、イタリア、フランス、ときて次の国は。
「デュプクレス」号船長 おい、まさか……やめろ、冗談だよな、な。
ラコック 今日は、イギリスの番だ。
「デュプクレス」号船長 崩れ落ちる。
「デュプクレス」号船長 あぁ、なんということだ!船を失った日のディナーがイギリス人の作ったディナー!?まだ、不幸になれるなんて。
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