1916年帆装巡洋艦「ゼーアドラー」出撃す

待機

　舞台のセットは、「ゼーアドラー」と「アヴェンジャー」に変わっている。
　士官が乗ったカッターは「アヴェンジャー」に収容されている。

ロイデマン　艦長、艦内の連中に臨検が無事に終了したことを教えてやりましょう
ルックナー　そうだな、おい、開けろ！
プライス　バルブを開けろ！
ルックナー　は？プライス何を言っているんだ？ハッチを開けろ！

　プライス　奈落より登場

ルックナー　何をやっているんだ？
プライス　台本通り、自沈処置を行っております
ルックナー　馬鹿な、臨検は無事に終了した！
プライス　ですがエルトマンが「万事おわりだ」と
ルックナー　エルトマン！なんでそんなことを言った！？
エルトマン　だってあの士官、すぐに航行せず信号を待てと。
ルックナー　だから？
エルトマン　あの士官、船に戻って「イルマ」という船があるか、無線で問合せする間待てと言う意味に自分は解釈したんです。そうでなければ1時間ここで待機させる必要は無いと。
ルックナー　あっ。
クリンチ　我々も緊張していましたな。「アヴェンジャー」が無線を積んでいないはずがない。
ルックナー　問い合わせされたら「イルマ」なんて船が無いことはすぐにバレる。なんてこった、オレたち士官より、下士官のエルトマンが冷静だぞ。

　ルックナー　望遠鏡を「アヴェンジャー」に向ける

ルックナー　ここからじゃ、あの士官がどうしてるかなどわからん。
クリンチ　艦長、いかがしましょう。
ルックナー　じたばたしてもしょうがない。プライス、自沈処置は中断させろ。
プライス　了解しました。爆薬の導火線を切断し、注水バルブを閉止します。

　プライス　奈落に消える

ルックナー　チクショウ、なかなか動きが無い。待機しているだけというのもつらい。
クリンチ　いっそ砲がこちらを指向するとかしてくれれば覚悟も決まるのですが。
ルックナー　まったくだ。

　緊張感を煽る音楽だけが流れる

クリンチ　「アヴェンジャー」が動いた！
ルックナー　総員、戦闘配置！いや待て。

　「アヴェンジャー」艦上に旗流信号が上がる。

ルックナー　Ｔ－Ｘ－Ｂ、航海を継続せよ、だ！
クリンチ　やりましたな、艦長。

　「アヴェンジャー」のセットが下手側に引き込まれていく。

ルックナー　総員、戦闘配置解除。通常配置に戻れ

　その瞬間、「アヴェンジャー」のセットが再び「ゼーアドラー」に接近する

クリンチ　何事？
ルックナー　やはり「イルマ」なんて船は無いとバレたのか？

　「アヴェンジャー」に新しい旗流信号が上がる

ルックナー　「幸運な航海を祈る」か。
クリンチ　ただの挨拶か、驚かせる。
ルックナー　ジョンブル流のジョークか。「感謝する」と返信しろ。

　「ゼーアドラー」も旗流信号を上げる。
　「アヴェンジャー」のセット、今度こそ下手に消える。

ルックナー　総員、これより我が艦は南方を目指す。狩りを始める！
　が、その前に
総員　その前に？
ルックナー　今日は１２月２５日、クリスマス・パーティーだ！甲板の掃除急げ！終わり次第、オレのラムを振舞ってやるぞ！
総員　おぉぉぉぉ！！！！


　総員の叫びの中　暗転