古からの侵略者

久保 倫

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若き神

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 永倉は、突然現れた青年に見入ってしまった。

「あの恰好、なんだろう軍服みたい。」

 確かに美女が来ている巫女服めいた袴と異なり、近代的な洋装である。
 腰に軍刀を吊るしているところから、軍服だろうと永倉は、あたりをつけていた

「海軍っぽいですね。陸軍ならカーキ色でしょうから。」

 壬生は、テレビなどで見た印象だけで言った。

「どうでもいいわ。失せろ!」

 秋夢は、青年に襲い掛かる。
 青年は、軍刀を抜刀し、天に突き刺すかの様な勢いで右耳横に斜めに突き上げる。

「チェストーッ!!」

 腰を落としたかと思うと、貴公子は突進し、そのままの勢いで秋夢に斬りつける。

 たまらず、秋夢は転がってかわす。
 だが、青年の刀は止まらない。まるで機械の様に何度も刀を元に戻して斬りつけ続ける。
 秋夢の下が地面であることなど関係ない。まるで地面もろとも斬る!と言わんばかりの剣であった。

「今のって、示現流?」

 薩摩藩お留流の剣は、新選組経由で永倉も知っている。


「ちっ。」

 秋夢は転がりながら、青年の足を狙い蹴る。

 青年は、とっさに飛びずさった。
 
「これ、一刀両断にせぬか。」
「剣の修業より、学業に重きを置きましたもので。」

 あれで修行してないって言うの?

 結構修業しないと、あんなに構え直しては斬る、なんてできないと思うけど。

「侍であったろうに。」
「初陣の時、剣で戦うために西瓜売りに変装した奴までいる時代の人間ですから。」
「あれこれうるさい。男なれば四の五の言わず戦え。」
「ええい、小うるさい神どもが!」

 え、神?あの二人神様なの?

 二人ともかなり若く見えるけど。
 永倉は、男女二人を改めて観察する。
 戦士の方は、20代で間違いない。美人の方はもっと若く10代に見える。

「アキム、それ以上何もするな。罪を重ねるだけだ!」

 壬生が怒鳴るが、秋夢は止まらない。

「飛燕の術!」

 全身の筋肉を動員して跳ね、その勢いを利用して寝たまま飛翔する。
 空中で体勢を立て直し、そのまま飛び去ろうとする。

「わらわを敵に回して、移動がまともにできると思うでない。」

 突然、電線が切れた。
 切れた電線は、暴れまわり、秋夢の行く手を塞ぐ。
 秋夢は、電線をかわし損ね、切れた端と接触した。 
 不幸なことに、体勢が崩れ、他の電線とも接触してしまう。

「ぐわぁぁぁぁ!」

 秋夢は、ダメージを受け、術を維持できず、落下してしまう。

 同時に周辺の家や電灯の明かりが消える。
 秋夢の体を経由して電流が流れたせいで、電線がショートしてしまったのだ。

「まぁ、不幸な事故が起こる。交通の安全を守護するわらわに逆ろうて無事に移動できると思わぬことじゃ。」

 こわぁ。

 思わず、永倉は足が止まってしまった。

「これでは、私が来た意味がありませんな。」
「こうなると思わなんだからな。逃げずに立ち向かってくると思うたからの。」

 二人は、秋夢の方に歩み寄りながら会話する。


「おおい、二人とも無事かぁ!?」

 春吉の声が境内の方からした。

 月明りの下で、春吉は小倉に背負われている。
 後ろには、左右から平山と松野に支えられた大久保もいる。

「大丈夫です。アキムはもう動けないようです。」
「停電は、電線が切れたせいだ。工事が必要だろうけど復旧できると思う。」 
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