古からの侵略者

久保 倫

文字の大きさ
上 下
89 / 95

逃走

しおりを挟む
「蔵宇治!」

 また一人倒された。

 あの”だいじん”何をした?退魔の術に心得は無いようだが、それでも鷺慈御を倒し、今また蔵宇治を倒すのを手助けしている。

「秋夢様!」

 伊西の言葉にハッとした時には、壬生が目の前にいた。

 とっさに手にしたすこっぷを振り回し、壬生を迎撃する。
 壬生は、バックステップでスコップから逃れた。

「君、無駄な抵抗は止めたまえ。朗も、もう殴りかかるな。」

 大久保が対峙する壬生と秋夢に語り掛ける。

「うるせえ、”だいじん”とやら。俺達が朝廷からどんな扱いを受けたと思っているんだ!」

 そんな大久保に伊西が叫ぶ。

「弾圧でもされたか。それに関しては今の為政者の一人として詫びよう。」

 大久保は、そう言って深々と頭を下げた。
「すまなかった。」
「うるさい、殺してやる。」

 伊西が、大久保に襲い掛かる。

 大久保は、頭を上げ、殴りかかってきた拳をパリィではじく。

「貴様、詫びるつもりがあるなら殺されろ。」
「それはできん。生きて君達への償いなりを考えねばならんからな。」
「うるさい、この地を渡せ。住む者はことごとく奴婢にさせろ。」
「断る。そんなことは容認できん。」

 伊西のパンチをスイービングでかわし、素早いジャブを放つ。
 ジャブは、伊西の鼻っ柱にヒットした。

「くっ、何故殴れる?」
「投降すれば教えよう。」

 大久保は、砂に塗れた軍手をした手でジャブを放ち続ける。

 伊西も反撃しようとするが、大久保の方が若干リーチが長い。
 速射砲のようなジャブが、顔面にヒットし続ける。

「ちぃっ。」

 伊西は、一歩後退し、火球を放った。
 できるだけ法力は、使うなと言われているが、やむを得ないと判断した。

「できるか?」

 大久保はコートを脱いで、火球に叩きつけた。

 コートは燃えたが、火球は消えた。

「何?」

 放った火球の威力なら、あんな服くらい焼きながら、大久保に向かうはずなのに。

 一瞬、できた隙を見逃さず、大久保は全力で踏み込んで、渾身の右ストレートを伊西の心臓に放った。
「がっ……。」

 一瞬、伊西の動きが止まる。

 その一瞬で、大久保は、顎やこめかみにキレイなコンビネーションを決め、伊西をノックアウトしていた。

「伊西!」

 秋夢が叫んだ。

 ノックアウトした大久保も膝から崩れている。

「さすがに、もう歳だ……。」

 地面であることを無視して寝っ転がった。
 全力の無酸素運動の負荷は、相当に応えた。

「ざまぁねえな。」

 同じように地面に転がる春吉の言葉にも、答えたくない。今は、体力を回復させたい。

「おい、アキム。もう大久保に従って投降したらどうだ。勝ち目はないぞ。」
「くっ……。」

 秋夢も察していた。先ほどの轟音と閃光で動けなくなった者達が、復活しているのを。

「僕も詳しいことは知らないが、あの轟音と閃光は、一時的に人間を行動不能にするだけだ。皆、もう動けるようになっている。」
「そうかぁっ!」

 壬生は、秋夢が投げたスコップを辛うじてかわした。

 砂浜にいる永倉の目の前をスコップは飛翔し、結構離れた海にしぶきを上げて落ちた。

 かわした壬生が見たのは、小倉たちを突き飛ばして、境内に逃げる秋夢だった。

 壬生は、追いかけようとする。

「壬生さん、追いかけない方がいいんじゃない。危ないよ。」
「しかし、あのまま放置するのも危険です。永倉さんはここに残って下さい。」
「ダメ。壬生さんが行くなら行く。」

 永倉は、塀の上に手をかけ上る。

「壬生さん、秋夢が教えてくれたんだけど、私には他人の法力を一部自分に取り込み強化して、相手に返すスキルがあるんだって。」
「そうなんですか?」
「うん。それ聞いてから思ったけど、壬生さんって秋夢達と対決する時、私が近くにいたじゃない。だから強かったんだよ。」
「……言われてみれば。」

 確かに貝塚公園でも、ぜんざい広場でも、東署でも、近くに永倉さんはいた。

「だから追いかけるなら一緒に行く。」
「わかりました。でも気を付けて下さい。」 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

Weapons&Magic 〜彼はいずれ武器庫<アーセナル>と呼ばれる〜

ニートうさ@秘密結社らびっといあー
ファンタジー
魔法!努力!勝利!仲間と成長する王道ファンタジー! チート、ざまぁなし! 努力と頭脳を駆使して武器×魔法で最強を目指せ! 「こんなあっさり死んだら勿体ないじゃん?キミ、やり残したことあるでしょ?」 神様にやり直すチャンスを貰い、とある農村の子アルージェとして異世界に転生することなる。 鍛治をしたり、幼馴染のシェリーと修行をして平和に暮らしていたが、ある日を境に運命が動き出す。 道中に出会うモフモフ狼、男勝りなお姉さん、完璧メイドさんとの冒険譚! 他サイトにて累計ランキング50位以内獲得。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルピアにも掲載しております。 只今40話から70話辺りまで改修中の為、読みにくいと感じる箇所があるかもしれません。 一日最低1話は改修しております!

山下町は福楽日和

真山マロウ
キャラ文芸
〈ゆるやかに暮らす。大切な人たちと。〉 失業中の日和が赴いたのは横浜山下町。 そこで出会ったわけありイケメンたちに気に入られ、住みこみで職探しをすることに。 家賃光熱費いっさい不要。三食おやつ付き。まさかの棚ぼた展開だけれど……。 いまいち世の中になじめない人たちの、日常系ご当地ものです。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

麻雀少女激闘戦記【牌神話】

彼方
キャラ文芸
 この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。  麻雀を知っている、知らないは関係ありません。そのような事以前に必要となる『強さとは何か』『どうしたら強くなるか』を理解することができて、なおかつ読んでいくと強さが身に付くというストーリーなのです。  そういう力の魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も、そうでない人も全員読むことをおすすめします。  大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります! 私は麻雀界の魔術師。本物の魔法使いなので。  ──そう、これは『あなた自身』が力を手に入れる物語。 彼方 ◆◇◆◇ 〜麻雀少女激闘戦記【牌神話】〜  ──人はごく稀に神化するという。  ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。  そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。  この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。   ◆◇◆◇ もくじ 【メインストーリー】 一章 財前姉妹 二章 闇メン 三章 護りのミサト! 四章 スノウドロップ 伍章 ジンギ! 六章 あなた好みに切ってください 七章 コバヤシ君の日報 八章 カラスたちの戯れ 【サイドストーリー】 1.西団地のヒロイン 2.厳重注意! 3.約束 4.愛さん 5.相合傘 6.猫 7.木嶋秀樹の自慢話 【テーマソング】 戦場の足跡 【エンディングテーマ】 結果ロンhappy end イラストはしろねこ。さん

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、謂れのない罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
明琳は国を統べる最高位の巫女、炎巫の候補となりながらも謂れのない罪で処刑されてしまう。死の淵で「お前が本物の炎巫だ。このままだと国が乱れる」と謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女として四度人生をやり直すもののうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは後宮で巻き起こる怪事件と女性と見まごうばかりの美貌の宦官、誠羽で――今度の人生は、いつもと違う!?

処理中です...